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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
10章 王都ハーメルト 〜帰ってきた世界と新たなる勇者〜
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30 魔神ベリアル

 

 魔神ベリアルの降臨に、味方であるはずのみんなも動揺を隠せない。


 怯えて震える者、息を呑んで佇む者、その力の差に呆れて笑ってしまう者まで。


「そんな心配しなくていいよ。ベリアルはこっちの味方だから。ね?」


「勿論です。我が主人(マスター)の友人、知人に手をかけるようなことはしません」


 それにしても、とんでもない魔力量と循環率だ。


 まるで源泉から湧き出てくるが如く、まったく魔力が枯渇する気配がない。


 まあかく言う俺も量だけみれば、ケタ違いなのだが、元々魔物であるベリアルは、その比ではない。


 精霊の代わりに魔力の循環役をやらされているだけに、ベリアルの魔力、質、循環率は想像以上のものだった。


 それはクルシアもわかっているようで、さすがに部が悪すぎると歯軋りを立てる。


「とんでもない化け物を作ってしまったね、オニヅカ。最悪だよ。……世界征服でもするつもりかい?」


「まさか」


 お前じゃあるまいし。


「言ったよな? 俺はお前を倒すためともう一つ、この世界のために転生させると……」


「大精霊の代わりとか言ってたやつか?」


「そうだよ、殿下。実際、原初の魔人が死んだことで、西大陸の影響が酷くなったように、かなり不安定な状況だからね。その管理をベリアルに任せたい」


 まあこう言ってしまうとクルシアの言う通り、色んな意味では世界征服にもなるのだろうな。


「で? 出来そうなの?」


 首を傾げて尋ねるアイシアに、ベリアルは優しく対応する。


「問題ない。今の我ならば滞りなく、魔力の循環、供給が可能だ」


 契約した当初から性格もだいぶ丸くなってきていたインフェル改めベリアルさんだが、それでも転生前は俺のみに心許していたように見受けられていた。


 実際、リリアのことを不満そうに言ってたし。


 でも、この紳士的な応対を見る限り、以前のインフェルとはまったく違うようだ。


 本当の意味で転生したのかと思うくらいだ。


 いや、したのか?


「だがその前に……こっちのケリをつけないとな。ベリアル、殺さない程度に無力化してくれ」


「は!」


 そう命じたのも束の間というより、一瞬の出来事だった。


「……なぁ……っ!?」


 戦闘など行われることもなく、クルシアの胸辺りをベリアルの腕が貫通している。


「「「「「!?」」」」」


 火属性と闇属性のベリアルだが、移動速度というより、その移動した瞬間すらわからなかったレベルに驚愕する中、


「ちょっ、おおいっ!? ベリアルさん!?」


 殺さない程度ってのを聞いておりましたか!? その辺りは心臓のはずですよ!? わかってます!?


 命じたこととは真逆の行動に思わず焦ってツッコんだ。


「ご心配には及びません、主人(マスター)。この男はこの程度ではくたばりません」


「いや、まあ……」


 半魔物化する化け物だし、わからんでもないが、心臓部を貫かれる光景を見せられれば不安にもなる。


「むん!」


「――ごはぁっ!?」


 するとベリアルは更に腕を引き抜くと、クルシアの穴の開いた胸と口からもドバッと血が溢れ出る。


「――って、ベリアルさーん!!」


「何です? 主人(マスター)


「だから! こっちが不安になる行動はやめて! もっと穏便に……」


 インフェルの時より、別の意味で残酷になってる気がする。


 淡々とクルシアを無力化するあたりが、かえって怖い。


 するとそのクルシアのヘソあたりに紅い魔法陣が発動する。


「こ、これは……?」


「貴様の命はこれから我のものとなった」


 そう言っているベリアルの貫いた右手には、魔石が光っている。


 おそらくは人工魔石。


 俺はサァーっと血の気が引いた。


「お、おい! ベリアル!?」


「何でしょう? 主人(マスター)


「それはテテュラの時の二の舞になるやつだろ!?」


「「「「「!?」」」」」


 魔物化できる人工魔石を無理やり引き剥がすと魔石化が進行し、それを軸にした魔物化が進行するはず。


 その影響でテテュラやアリアが酷い状況になっているはず。


 それを意図も簡単に。


 魔物としての残虐性が残っているのか。それとも理性と知性がはっきりし過ぎて、神のように人を簡単に切り捨てられるようになってしまったのか。


 正直、その辺の懸念はあった。


 大精霊の代わりというのは、それだけ生物性を失うということ。


 それはより残酷な選択も平然と出来てしまうのではないかということ。


 だが、


「あの娘の二の舞にはなりません。主人(マスター)


「!」


「確かにこの男の魔物の細胞の心臓である、この魔石を剥がしましたが、その際にこの男の魔物細胞の管理を我と従魔契約を施すことで代用しております」


「従魔契約だと!?」


 あの魔法陣はそれか。


「テテュラという娘に宿っていた際に、そのあたりの操作は熟知しております。今は主人(マスター)により魔神となった我に、当時のような不甲斐ない結果を残すようなことはありません。この男から人工魔石(これ)を奪ったとしても、暴走するようなことはありません」


 ということは……。


「待って、ベリアルさん。つーことはテテュラやアリアを元に戻すことも可能……だったり?」


 するとベリアルは目をスッと閉じ、何かを感じ取るような仕草を取る。


「テテュラという娘は、何やら精霊に近い状態なので難しいですが、マンドラゴラのような気配を感じる娘の方なら、元に戻すことも可能でしょう」


 テテュラとアリアの気配を探ったようだ。


「ほ、本当か……?」


 その言葉に耳を疑ったメルトアが尋ねる。


 クルシアの被害に遭った幼馴染のアリアが、元の姿に戻れるというのは、願ってもないこと。


「あの娘は魔物化の侵攻の方が強い。我の干渉域にある分には、問題あるまい」


 それを聞いたメルトアはその場で泣き崩れた。


 アリアとは幼い頃以来、あまり話す機会もなく、疎遠な関係にはなっていたが、それでもクルシアを追う自分が巻き込んでしまったという背景は否めないと考えていたのだろう。


 それを治ると言われれば嬉しくもなって泣き崩れるわな。


 するとリンス達が側に寄り添う。


「良かったな!」


「うん」


「失わずに済んで良かったですね」


「……ありがとう」


「それはそれとして、従魔契約というのはどういうことだ? ベリアル殿」


 悪魔殿からベリアル殿に呼び名が変わった。


 それは俺も気になっていたところ。従魔契約ってのは召喚魔の契約と同じものだ。


 今のベリアルの言い分をそのまま魔に受けると、素直にクルシアを召喚魔にしたみたいな話に聞こえるのだが。


「言った通りの意味だ、人間の王子よ。このクルシアというこの男を我が配下とし、管理するものとしたのだ。主人(マスター)より、無力化せよとの(めい)だったからな」


「ボ、ボクを……強制的に配下にしたってこと、か」


 ゴホっと血溜まりを吐き捨てながら尋ねると、その通りだと頷いた。


 ベリアルほどの力があれば、確かに人間を従魔扱いしての契約はできそうだが、後々のことを考えると末恐ろしいことを言っている。


「つ、つまりは魔物の細胞の暴走を契約とベリアル殿の管理によって抑え込みつつ、人間の細胞を守り、今の状態をキープ。しかも従魔契約を行うことで、余計なことをさせないように無力化したということか?」


「その通りだ」


 じゃあ、あの胸を貫いた行動は、それを円滑に行うためのものだったのね。


 クルシアに下手に抵抗されないよう、致命傷に近いダメージを負わせて追い討ちをかけたのか。


「ついでに話しておくと、この男を従魔契約できたのは、この男が我との相性が良いからである。この男は三属性(ドライ・エレメント)だ。そのうちの火と闇は我と類似する。その結果のものだ」


 あー、なるほどね。


 二つも属性が合っていれば、一つの属性だけが合っているより、自分の術が通りやすいってことなんだろう。


 正直、生物性を失い、命を奪うことにも躊躇が無くなったというのは、俺の勘違いで済みそうだ。


 ここまで配慮してくれたのは、俺のしたいことがわかってのことだろう。


「これでよろしかったですか? 主人(マスター)


 実際、胸に風穴が開いてもクルシアが無事なのは、魔物化の恩恵によるものだろう。


 まあいつまでもというわけにはいかないだろうが、


「うん! 上出来! ベリアル」


「は!」


 だがそのクルシアを生かしておくことに勿論、不満を垂れる人達がいた。


「なあ? ラッキースケベ」


「鬼塚だ!! その呼び名はやめろ!!」


 おっさんの呼び方が定着しそうだ!


「この野郎はリアンをあんなかたちで殺させたんだ。コイツを生かすことに、アタシは反対だ!」


 リンスの意見にヒューイもこくりと頷き、ミナールも頷きはしなかったが、不満がある表情をしている。


 メルトアも涙を拭いて、俺の元へと近付き、説得しに来た。


「その魔神ベリアルは貴方が使役している以上、この男の処遇の権利は貴方にあることもわかる。だが、それでも無慈悲に奪われた命を私はたくさん見た。この目で……」


 おそらくは血染めの噴水事件のことだろう。


 あの時に家族を失い、町も地獄絵図と化したと聞いてもいる。


 その時の悲惨な光景を俺は想像でしか理解し得ない。


 生でそれを見て、人生を変えられてしまったメルトアの言葉には、ずっしりとした重みがある。


「何より……私自身が殺してしまったとはいえ、リアンを手にかけるように仕向けたあの男を……」


 キッとクルシアを睨む。


「私は許すことができない!!」


 そのメルトアを見て、クルシアは笑った。


「はは。騙される方が悪いんだよ」


「黙れっ!! 貴様さえ……貴様さえ、居なければ……」


 するとメルトアは深く頭を下げた。


「頼む、オニヅカ殿! この男の処刑を私どもでやらせてほしい。このとおりだ!」


 リンス、ヒューイ、ミナールも揃って頭を下げた。


「お、おい……」


 するとそれを後押しするように、デューク達からも説得が入る。


「鬼塚。オレもその意見に賛同したい」


「デューク!?」


「この男の危険性はお前ならば理解できているだろう? 元リリア・オルヴェールであり、向こうに戻っても尚、クルシアの危険性を危惧していたお前なら……」


 魔人マンドラゴラ事件、ハーメルト王族暗殺事件、ファニピオン奴隷商事件、南大陸での戦争、異世界の扉を巡った今回の事件まで、危険性を理解できないなどとはまったく言えるはずもない。


「魔神ベリアルの力も、お前の力もクルシアに匹敵しているのも重々理解しているが、この男の狡猾性を考えると、どうしても生かしておいていいことがないように思える」


 まあ出し抜かれてしまうかもという点に関しても、理解できないわけじゃない。


 今までだって出し抜かれたことは多々ある。


「それに俺達は運が良かったからこうして戻って来れたが、お前や隆成達と出逢うことなく、あの世界に彷徨っていたらと考えると、この男の取った行動は許せん」


「そ、それにこのゴーレムのこともある」


「! レオン……」


 話に割って入ってすまないと、申し訳なさそうに話してきた。


「このゴーレムは、アイシアや殿下がドクターとウィンティスという悪魔を倒したから止まっているし、その元凶をお前が止めてくれた。だが、もしものことを考えると俺達の国だけじゃない、もっと被害が出ていたことを考えると、この男の取った行動はやはり許せない」


 ドクターもウィンティスも、既に倒されてたのね。


 どーしよ。ドクターはともかく、ウィンティスがやられているのはちょっと計画がズレるかも。


 そして、多数決だけで見るなら圧倒的にクルシアを生かしておくことに不安と不満があるようだ。


 気持ちは凄くわかる。


 するとクルシアが笑った。


「は、はは……」


「何がおかしい?」


「おかしいさ。だって結局キミらは、異世界の勇者に頼ることしかできない無能ってことだろ? その掃き溜めにボクが使われるんだ。笑いたくもなるだろ?」


「貴様ぁ……」


 今までの焦った様子は消えて、もうどうにもならない状況とわかっているクルシアは、開き直ったようにいつもの調子を取り戻した。


「さあ! 新しい勇者オニヅカ。この無能どもの望み通り、ボクを殺すといいさ。さすがにボクもここまでされちゃあ、抵抗もしないよ。ただ……タダでは死なない! せめてこの世界の人間が無能であったという証明を、ボクの命をもって証明しようじゃないか!! ――アッハハハハハハハハッ!!!!」


 するとザーディアスが呟く。


「もうやめようぜ、クー坊」


「あん?」


「もうそうやって世界を嫌い続けるのはやめないか?」


 クルシアは鼻で笑いながら返答する。


「はっ! やめないね。ボクはこの世界が大っ嫌いだ!! ボクの思い通りにならない世界なんて――」


「そ、それは貴方自身のせいだって、まだ気付かないんですか?」


 そのリリアの発言にも鼻で笑った。


「はっ! ボクのせいだって? ボクはいつだってみんなの思う通りにしてきた。あの噴水事件だってそうさ……ボクを悪魔だの、悪者だのと望んだから、奪ってやったのに……。どうしてボクが非難されることがある? ボクはキミらの望んだ通りの人間を演じて来たよ? 正義を作るには悪がいる。その悪を引き受けてあげたのにさあ。どうしてボクの望みは通らないのさ」


 そんな歪んだ価値観を話されても、この|クルシアの恨みを持つメンツを前に言われても、火に油を注ぐだけだろうに。


 正にその通りなようで、険しい顔でメルトアが迫る。


「そんなふざけた屁理屈で許されるとでも思っているのか! 貴様ぁ!!」


「言ってるだろ? 許す許されるの問題じゃないんだ。これは必要悪だよ。今までも、これからも!」


「貴様ぁ!!」


「そこまでだ」


 メルトアが剣を振りかぶった時、ベリアルが止めた。


「我が主人(マスター)の意向は、この男を生かすことにある。いくら主人(マスター)の知人とはいえ、それこそ勝手は許さん」


 ベリアルは下手な威圧は与えていないが、メルトアは冷静さを取り戻し、武器を収めた。


「まあメルトア達の気持ちも痛いほどわかるよ。現にリアンが殺されたところを俺は見てたし、デュークやレオンの不安もわかる」


「なら……」


「それでも俺はクルシアは生かす」


「な、何故!?」


 俺は納得のいかない一同に、俺の考えを伝える。


「簡単な話だ。殺してしまえば、コイツは反省することなくこの世から逃げてしまう。コイツのやったことを考えると、ただ殺してお終いってわけにはいかないってことだよ」


「「「「「!!」」」」」


「然るべき罰を与えることと、コイツに反省させる時間をじっくりと与える必要があると、俺は思ったからコイツを生かすことにした」


 その意見に賛同してくれたのは、


「なるほど。死すればその罪の深さを知ることもなく、亡くなった者達やその被害に遭った者達に報いることはないということですかな? 主人(マスター)


「あ、ああ……」


 以外にもベリアルだった。


 本当に転生して、別人になったような感じではあるが、主人(マスター)と慕うあたりは、元のインフェルだったのだと安堵する。


 この理解力にはちょっとまだ不安があるな。心臓に悪い。


「クルシア。お前の本心がどんなかたちだったのかは知らんし、理解してやる気も無い。だが少なくともあの軟禁生活には同情する」


 クルシアの性格や価値観が歪んだ大きなきっかけは、やはり闇属性と言われ、家族や使用人達より軟禁を受けたことが影響されているのだろう。


 執事長を務めているハイディルが後悔しているほどに、あの軟禁生活はクルシアの人間性を狂わせたに違いない。


 周りからは忌み子と言われる闇属性。優しい両親からの優しい軟禁。不信感を秘めた瞳で見る使用人。


 その歪んだ環境が、賢く、物分かりの良かったクルシアがどんなことを思ったのか。


 ただ悪戯に忌み子と訴える民衆達に嫌悪感や失望に苛まれたか。


 中途半端に子を守ろうとする両親を哀れんだか、それともいっそ殺してくれと憎んだか。


 不信感を抱き、恐怖の対象として見る使用人達を侮蔑したか、それとも嘆いたのか。


 それらの感情が入り混じる中で、クルシアは少しずつ知識と共に狂っていったのではないだろうか。


 本に書かれている人間、その性質や愚かな歴史を学び、どんなことを思ったのか。


 そして――育むべき人と人との関わりを絶った軟禁に、一人抱え込む絶望感はどんなものだっただろうか。


 想像しようと思えば、いくらでも想像できる。


 クルシアはそれを吐き出すかのように、人々を苦しめ、殺し、奪ってきた。


「だがな! それはお前の価値観を肯定することにはならない。それはお前が勝手に世界を見限り、固定概念に囚われていただけだ。だから悪戯に人の人生を奪っていい理由にはならない」


 リリアの言いたかったことは正にそういうことだろう。


 勝手に世界を見定めたと思って、クルシアは破壊を選択し、リリアは自殺を選んだ。


 そしてリリアは知った。


 本に書いてあることや親が言うことだけが正しいわけではない。


 自分で見て知って、そこから学び得るものなのだと。


 だがクルシアはその選択を間違えた。


「だからお前はその罪の重さを重々に知るべきだ。悪役を買って出るというならば、そのケジメのつけ方に文句はねえよな? 道化師!」


「フ、フフフ……アッハハハハハハハハッ!!」


 気持ちがいいくらいに大きく笑うと、今度は諦めたかのように脱力し、そっぽを向いた。


「……好きにすればいいさ」


 クルシアのことを理解することは難しいだろうし、正直、理解したくはない。


 だがザーディアスが求めていた答えには、少しはたどり着けたようで、


「悪いな、ラッキースケベ」


「だ・ま・れ!」


 嫌味混じりにお礼を言われた。


「みんなもこれで納得してほしい。クルシアは俺とベリアルが責任を持って、投獄する」


「終身刑か」


 まあクルシアのしてきたことをどう考慮したってそうなるだろう。


 俺はこくりと頷く。


「従魔契約と俺とベリアルの厳重な結界。更には魔封石による拘束具をつけて、ハーメルトが管理する監獄塔にでもぶち込めば、文句もないだろ?」


 言ってて、中々罪悪感を感じるが、何度も言うがクルシアのしてきたことを考えれば、ここが妥協案だろう。


 すると反論のあったメルトア達も、納得がいったようで、


「……わかった。そういうことなら、任せるとしよう」


「ありがとな。……さて」


 俺は不貞腐れているクルシアに物申す。


「お前はこれから暗い牢獄の中で、その命尽きるまで反省してもらう」


 今まで(もてあそ)んできた人達のためにも、それを思い詰める時間は必要だ。


「お前の言う楽しい時間はもう終わりだ。いい加減、舞台から降りてもらうぞ、この殺人ピエロ」


「……フ。最後の最後で異世界勇者様に引導を渡してくれるなら本望さ」


「本当に減らず口の減らねえ、野郎だ」




 ――こうして、古代兵器デス・フェンリルを起用した、クルシアの最後の計画は終演を迎えた。


 バザガジール、ドクターはその命を散らし、クルシアは終身刑となった。


 ちなみにザーディアスは加担するどころか、こちらの味方になったのと、一応、協力もしていたので不問とされた。


 ただ表向きは、首謀者は全員死亡ということにした。


 こんな事件を起こした人物が生きているとなると、それを信仰する人物が現れ兼ねないとの懸念から、そういう配慮を施すこととした。


 これからのクルシアの人生は過酷なものとなるだろう。


 半魔物化ということもあり、人間の寿命を超えている。その中を俺とベリアルとで完全に身動きの取れない状態で、監禁するのだ。


 想像しただけでも絶句だが、みんなの想いを考えれば、これだけしなければ納得もしなかっただろう。


 クルシアのような存在を生み出さないようには、出来なかったのだろうか。


 それだけが心残りだが、今は無事に解決に迎えたこと、そして――これから先のことを見据えることとした。

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