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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
10章 王都ハーメルト 〜帰ってきた世界と新たなる勇者〜
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29 想い繋ぐ決戦

 

「馬鹿な……! バザガジールが、死んだ?」


 正直、俺達も信じられない。


 だけど魔力を読んだ感じ、倒したのはアルビオだ。アイツならやれなくはない。


 だが実際、その魔力も弱々しい。安否が気になるところ。


「みてぇだな。まあクー坊同様、俺達も驚いてるさ。あの殺人鬼様が負けるなんてなぁ。ま、お前さんの影響があるだろうぜ」


「なに?」


「あの殺人鬼さんが昔のまんまだったら手がつけられなかっただろうが、お前さんがアイツに心ってもんを教えるきっかけを与えた。その結果だろ?」


 要するには獣のような感性で拳を奮っていただろうバザガジールは、人の感性を取り戻すことで、隙が生じたってあたりだろうか。


 まあクルシアみたいな狡猾性を身に付けられると、それはそれでとも思うがバザガジールの性格上、クルシアほどの悪質性はないだろうな。


 クルシアは人生観察なんてもんを趣味にしてるくらいだ、バザガジールとの付き合いの中で、爪を丸くしていたのだろう。


 クルシア自体はそう性格が変わっていないところをみると、中々皮肉な話である。


 だが自覚があるのか、


「……なるほどね」


 ポツリとそう呟いた。


 ザーディアスですら切り捨てたクルシアとしては、かなり意外な反応だった。


 いや、バザガジールとは重なる部分があるのか、同族意識があったのだろうか、少し背中が寂しげではある。


「つーわけだからさ、クー坊。もう諦めねえか?」


「そ、そうです。異世界の扉ももう開きません」


「それは本当か!?」


 メルトアの問いに、本当ですよと俺が手を上げる。


「異世界を繋ぐ俺がここにいるから、もう開かない」


「な、なるほど……」


「だったら尚更だ、クー坊。諦めな。この戦力さとこのラッキースケベ君がいる限り、もうお前さんに流れは無い」


「――ラッキースケベ言うな!!」


 定着しそうだろ!


「……嫌だね」


 どうやらザーディアスの説得も虚しく、クルシアは否定を強めるように魔力を高める。


「ボクは諦めないさ、ザーちゃん。オニヅカさえ何とかすれば……」


 ドラゴンの羽をばっと広げた。


「あとはどうとでもなるね!!」


 そう言うと、俺達の視界から消えた。


「なっ!? ど、どこに……」


 するとガィンと鋼がぶつかった音が真横から聞こえた。


「おーおー、怖い怖い」


「ザーディアスっ!!」


 ザーディアスがクルシアの攻撃を防いでくれた。


「いくぞっ!」


 それが戦闘開始の合図となったのか、メルトア達もクルシアに向かって戦う。


 ハイドラス達は俺を守るように壁になる中、


「おい、ラッキースケベ。お前さん、これから何をしでかすつもりだ?」


「それ本当にやめろ、おっさん! インフェルを転生させる」


「転生?」


「そうだ。インフェルが転生すれば、クルシアは敵じゃない。一瞬でケリがつけられる」


 リリアとして魔力を持った経験があるからわかることだが、俺の魔力量、質、循環効率など、この世界の住人とはケタ違いだ。


 ケースケ・タナカがどうして大精霊と共に戦い抜いたのかわかるほどである。


 個人の能力も勿論あるだろうが、確かにこれだけの魔力を持っているなら、世界の一つや二つくらい救えるだろう。


 だが俺には欠点がある。


 それは戦闘経験だ。性格には鬼塚勝平の身体での経験値が皆無ということ。


 俺自身が経験があっても、身体がついてこないというやつだ。


 魔法使いとして戦えはすると思うが、それでもクルシアとの経験差は歴然。


 力が経験を圧倒するというのは、それこそ神にでもならなきゃ埋められない。


 残念ながら俺は神じゃないし、この力も神様から貰ったチートではない。


 あくまでこの世界に来た異世界人を調整した結果のバグとして、これだけの魔力と魔力タイプを用意されたに過ぎない。


 チート能力(スキル)でも与えられたわけでもないからね。


 だから俺はこの魔力を使って、チートを与える側になったってだけの話。


 そして俺も神様ではないので、


「だから時間を稼いでほしい。インフェルを転生させるのに時間がかかる」


「あいよ。じゃあシアちゃん、援護頼むぜ」


「う、うん!」


 久しぶりの共闘だと、二人とも嬉しそうだ。


 状況的に見れば不謹慎かもしれんが、まあいいだろう。


 俺から事情を聞いている間、メルトア達、西大陸組がクルシアと交戦中。


「おやぁ? どうしたの? その腕……」


 ウィンティスに食われたはずの腕に、明らかに作り物の腕をつけているメルトア。


「なに、片腕だけではやはり不都合でな。これからのことも踏まえて、作ってもらっていた物だっ!」


 ナジルスタの技術部の方で作られた義手なのだろう。クルシアと速い剣撃に合わせられるところを見ると、可動域など、しっかり作り込まれているようだ。


 だがやはり本物の腕よりは劣るようで、


「ぐっ!」


「付け根でも痛むかい!?」


 その一瞬の隙を斬り込む。


「させるかよ!」


「抜刀」


 クルシアの剣撃は、攻撃範囲だとヒューイが弾き、メルトアから距離を取らせようとリンスが思いっきり大剣を振り下ろす。


 その攻撃をバックステップで回避したクルシアは、そのまま、三人目掛けて火を吹く。


「――龍の息吹(ドラゴン・ブレス)!」


 すると三人の前に次元の穴が盾になるように出現すると、炎は呑み込まれる。


 クルシアはザーディアスのものだと瞬時に感づくと、辺りの気配を察知。


 吸い込んだ炎をそのままにしておくとは考えにくかったからである。


 だが、


「――エクスプロード・プロミネンス!」


 詠唱を終えていたアイシアが、最上級魔法を放つ。


「なに!? ――ぐうああっ!!」


 ザーディアスを警戒し過ぎたクルシアの一帯は爆撃される。


 防御が間に合わず、そのまま吹き飛ばされ、地面を滑る。


「ちぃっ! ――!」


 するとその地面を素早く這いずる黒い影が追って襲う。


「――シャドー・ストーカー」


 リリアのシャドー・ストーカーの厄介性を理解しているクルシアは、ある程度、剣で捌くと、


「ええい! 洒落臭い!」


 パチィンと指を鳴らし、シャドー・ストーカーを押し払うように真空波で地面を抉りながら吹き飛ばす。


 いくら姿形が自在の影でも、魔法で作られた攻撃魔法。大きく歪まされては原型は保てない。


「――アース・グラビティ!!」


 次に畳み掛けてきたのはミナール。


 シャドー・ストーカーの対処している瞬間を狙い、地面に貼り付けるように重力が発生。


 だがこんな拘束魔法くらいなら、力づくでどうとでもなるクルシアはあっさりと脱出するも、


「まあまあ、せっかくお嬢さん達がお相手してくれてんだぜ? もっと楽しもうや」


 瞬時に出てきた次元の穴から、ザーディアスの大鎌によって吹き飛ばされる。


「黙れ! ザーディアス!」


「なあ? もう諦めたらどうだ? 多勢に無勢に加えて、あのラッキースケベ君は異世界人、ケースケ・タナカとおんなじなんだろ? だったら――」


「嫌だって言ってるだろ!!」


 ザーディアスの説得を振り切るように襲いかかるも、今のクルシアの状態なら対処できると、真正面から受けた。


「どした? いつものお前さんらしくもない」


「黙れって言ってるだろ? ボクはね、行くんだ……新世界に。ボクの知らない新しい世界に!」


 それを聞いたザーディアスはふと最近のクルシアの様子を思い返してみる。


 異世界の話を聞いてから、ヤケに興奮したり、高揚感を隠しきれない様子が、いつもより頻繁だったように感じていた。


 最初こそ、別世界の存在に溢れ出す興奮を抑えられないものだと感じているが、今の様子を窺うあたりは違うようだとも感じる。


 勿論、上手くいっていない影響の苛立ちとも考えられるが、クルシアは今までもその失敗を楽しむ節はあった。


 しかし、今回に限っては焦りが見受けられる。


 どんなに大らかな人間であっても、逆鱗のスイッチがあるように、クルシアからもそういった人間性を感じた瞬間でもあった。


 クルシアはバッと距離を取ると、横なぎに炎を吐くとザーディアスの視界を奪う。


 すると再び指が鳴らされる。


「――吹き飛べ! ――デス・ツイスター!!」


 視界を一瞬でも奪うことで、判断を遅らせることが目的。


 ザーディアスの次元魔法はサポート能力が高いことは、わかっているクルシア。


 上級魔法の中でも速度の速い追撃型の風魔法でザーディアスを打つことに。


「はああああっ!!」


「なに!?」


 だがメルトアが光の柱のような剣撃で受け止める。


「この泣き虫娘があっ!!」


「今までの私だと思うなあっ!!」


 真正面からの激突かと思いきや、そのデス・ツイスターの横をクルシアは一瞬で通り抜ける。


「なに!?」


「馬鹿正直なんだ、よっ!?」


 不意をついたかと思ったが、目の前に次元の穴が出現。


 勢いづいたクルシアがブレーキをかけれるはずもなく、そのまま吸い込まれると、


「お前さんの性格は理解してるつもりだぜ?」


 目の前には迎撃しようとしていたザーディアスがいた。


 その構えは既に大鎌を振りかぶっている。


「――ちぃっ!!」


 クルシアはブレーキをかけるようにその場で回転し、大鎌の攻撃は空振りした。


「およ?」


「残念」


 スタッと降りたクルシアの凶刃が、ザーディアスの喉元まで迫る。


 すると、


「――やらせるものか!!」


 クルシアの剣を逸らすように、横やりが入る。


「この……!」


「もう貴様の好きにはさせん!」


 ハイドラスも伊達にオリヴァーンから稽古を受けていたわけではない。


 だがクルシアの剣速、パワーには劣るためか、横から弾いて剣撃を逸らす程度しかできなかった。


 だからかザーディアスの顔を掠めるが、


「ナイスだ、王子様!」


「――ぐおっ!?」


 隙が生じたクルシアの腹に足蹴りが入った。


「くそっ!」


 いくらクルシアといえど、さすがにこの人数相手はキツい様子。


 特に厄介なのはやはりザーディアス。


 変幻自在に空間を作り、予測の難しい状況を簡単に作り出してしまう攻撃、サポートは攻略が難しい。


 それに加えて五星教の連携。昔からの信頼関係もあるが、なにより彼女らはリアンの仇という共通の目的もある。


 その強さは個々は自分より低くとも、侮れない。


 そして――後衛主体のリリアとアイシア。


「「――火の精霊よ、我らが呼びかけに応えよ!」」


 リリアとアイシアは同時に詠唱を始めた。


「これは……」


共鳴詠唱(シンフォニック)……!」


 クルシアはテテュラの時に使ったものだと、ギッと歯を食いしばると、瞬足で二人に迫る。


「させないよ!!」


 共鳴詠唱(シンフォニック)は高い信頼性がなければ発動が難しいとされている。


 本来であればまだ出逢って一週間弱のリリアとアイシアがそんなものができるはずがないと断定するところだろう。


 だが今の二人の様子を見るに、クルシアはそんな理屈で選択肢を切り捨てられるほど甘くは見られなかった。


「――真炎に染まる誠の心……」


「――示したるは信念の証……」


 そんな様子を見ていた五星教一行。


「はっ! 共鳴詠唱(シンフォニック)とはなぁ!」


「守るぞ! 邪魔させるな!」


 クルシアを迎え討つ。


「――業火に染まる悲しき導べに……」


「――我が勇気を持って、語り聞かそう!」


 今、思い思いにクルシアとの決着を望む。


 五星教の面々はリアンの仇。特にメルトアは過去、家族を殺され、未来を変えられてしまうほどの絶望も味わった。


 友達をも傷付ける未来を描いてしまった。


 自分の弱さ故の過ちとはいえ、そのきっかけとなったクルシアを打倒するのは、メルトアにとっての悲願。


「クルシアっ!!!!」


「邪魔すんじゃねえよ! 泣き虫がぁ!!」


「――歌い、踊りて舞い上がれ!」


「――我が情熱、魂を持って応えよう!」


 そのメルトア達の戦いを哀愁漂わせながら眺めるザーディアスもまた、クルシアとの決着に想いを馳せる。


 クルシアとの出逢いは他愛のないものだった。


 それこそ冒険者と依頼主という関係。


 だが、関わりあっていくうちに、自分と通ずるものがあるのだと気付いた。


 同じ闇属性でも厄介払いを受けたという共通点があった。


 ザーディアスは次元でありながらも、肉体型であるが故に上手く使えるわけではなかった。


 今はこの大鎌に宿している魔術式で使えるが、これを手放せば、ギルヴァ同様、大した次元魔法は使えない。


 だが当時の環境は、魔力タイプなど気にすることなく、非難を浴びることは多々あった。


 次元魔法がどんなに矮小でも使えるというだけで、恐れられた。


 だからザーディアスは、そんなことなど気にする余裕の無い戦場を歩き回ることにした。


 半ば諦めるように。


 冒険者でランクが飛躍的に上がったりしたのは、そんな人間関係から距離を置いていたことがきっかけであった。


 そして実力がついて、もう誰からも何も言われなくなった頃には、大人になり過ぎた。


 幼い頃より、人間の醜悪さを目の当たりにし、暗殺業などにも手をつけていたザーディアスが人より達観することは明白であり、周りのような暖かい関係を作るという気概はあまり湧かなくなっていた。


 だからか、飄々としたどこか適当な性格になっていた。


 そんなある時にクルシアと出逢った。


 見た瞬間に思った。こいつは俺と同じだと。


 幼い容姿で、常にニコニコとしているように見えたが、ザーディアスはこの男に深い闇があることに気付いていた。


 そしてそれは自分よりも恐ろしく、悲しいものだということにも気付いた。


 だから実体験もあるせいか、再び諦めた。


 だがせめて見守ることはしようと考えた。


 そして――その見守った先の未来が開こうとしている。


「クー坊……お前さんも変わる時だ」


 今がその現状だろうと、メルトア達の戦いを見守る。


 現に実力だけ見ればクルシアの方が強いはずなのに、メルトア達はクルシアと渡り合えている。


 これはクルシアの心に変化があったのか、それともメルトア達自身の覚悟の現れか、はたまた両方か。


 どちらにしても、変化の時なのだろうと感じるわけで、


「ほい」


 トンと大鎌をコツンと地面を叩き、メルトアをサポートした。


「ザーディアスっ!!」


「往生際が悪いぜ、クー坊」


 ふとバザガジールの言葉が頭に浮かんだ。


『――貴方が言ってやっては如何ですか?』


「……フ。柄じゃねえよ」


 ――クルシアの焦燥感は手に取るようにわかる。


 リリア達の詠唱、そして俺の転生準備。


 確実に退くべきタイミングだと思うが、クルシアが引くに引けない理由があるのだとすれば、もう意地だろう。


 バザガジールは死に、ザーディアスはこちら側についた。


 ドクターはどうなったか知らんが、ウィンティスを呼ばないことにも何かしらの理由があるのだろう。


 もう味方はいない。退いたところでといったところなんだろう。


「「――燃えよ! 美しき旋律の業火、その叫びを聞けぇ!」」


 俺と行なった共鳴詠唱(シンフォニック)もこの二人には上手くハマっているようで、ちょっと嫉妬すら感じるが、是非ともぶちかましてほしい。


 こちらもそろそろだからな!


「クルシアぁ!」


「!」


 魔法を唱える前にアイシアが叫ぶ。


 本来なら共鳴がしづらくなるため、こんな横やりはご法度だが、クルシアに物申したいことがリリアにもわかっているのか、維持し続ける。


「貴方が異世界に行って、手にしたいものが何かは知らないけど、私は手に入らないと思う!」


「なに!?」


「貴方の心の溝を埋める大切なものは、そこには無い!」


「!」


 アイシアはどこかで気付いていたようだ。


 クルシアが簡単に人を切り捨てたり、やたらに貶めたり、品定めする理由を。


 そして――バザガジールの死を感じた時に見せた表情で察しがついたのだろう。


 クルシアが欲しかったものを。


「――居場所が欲しいのなら、もっと人を信じるべきだったよ! クルシアぁ!」


 リリアと目配せをする。


「「――届けぇ!! シンフォニック・ブレイズっ!!」」


 メルトア達に阻まれていたクルシアの周りに円形の炎が無数に出現し、囲んでいく。


「くそぉっ!」


「――おわあっ!?」


 そのメルトア達はザーディアスの次元の穴に吸い込まれるように避難。円形の炎は一気にクルシアを包み、ドーム状へと姿を変える。


「――がぁああああーーっ!!」


 中で燃えたぎる業火で苦しむクルシアの姿があるが、


「この……玩具(おもちゃ)共がああああっ!!」


 無理やり脱出をして、アイシアに迫る。


 火属性も持つクルシアならば、テテュラと違い、致命傷ほどのダメージを負うことはなかったようだ。


「ア、アイシアさん!!」


 だからか面食らったアイシアを庇うようにリリアが前に出る。


「リアっ!?」


 しまったとクルシアもリリアが庇い立てするのを予想していなかった。


 術後硬直により、動けないものとばかり思っていたからだろう。


 だが――、


「!?」


 辺りが脈動する。


 その場にいる全ての人間が震撼するほどの脈動。


 するとそれに怯んだこともあり、攻撃の勢いが死んだクルシアは、思わずバッと距離を取った。


 そして全員はその脈動の先を見る。


「待たせたな、クルシア」


 インフェルの周りには魔法術式が円形状に浮遊しており、赤く発光している。


「準備が整ったのか? オニヅカ」


「ああ!」


 終わりにしよう。


「――我、鬼塚勝平は、契約者インフェルに新たな名を与え、新たなる契りを結ぼう」


 とんでもない魔力量に一同もその重圧に、一歩も動けないでいる。


「お、おいおい……」


「こんな……」


 この戦いを見守っていただけのレオン達はあまりの場違いぶりに身を寄せ合い、


「こ、これがあんた達の先祖の力なの?」


「た、多分な」


 同じ異世界人の血を継ぐとは思えないと、デューク達もその重圧に圧倒されるばかり。


 それはこのデス・フェンリルより遠くにいるはずのリュッカ達にも響いているようで――。


 ***


「な、なんじゃ!? この異様な魔力は!?」


「さっきから凄い魔力の持ち主が現れたと思っていましたけど……」


 すると精霊達が酷く動揺する。


「お、同じだとよ」


「何がなの? フィン」


「大精霊様が今、緊急で連絡しに来てるんだが、ケースケ・タナカと同じ奴がいる!」


「「「!?」」」


「そしてそいつが、何かしでかしてるみたいだ」


「大精霊様はそれを容認してるの?」


「あ、ああ。これからの道を見定めるってよ」


 そう言ってアルビオ達も、デス・フェンリルを眺めながら結末を待つ――。


 ***


「――新たな力と姿を我が前に見せ、降臨せよ! ――転生! 魔神ベリアル!!」


 俺がそう叫ぶと、インフェルは灼熱の炎に包まれ、わるで炎の繭が生まれる。


 更に脈動は辺りに響く。


 全員が身動きが取れないほどに、強力な脈を打つ。


 大丈夫なのかと、後ろにいるハイドラス達から視線を浴びるが、不思議と失敗するという感情は湧かない。


 感じるのは、インフェルとの強固な繋がり。


 魔力の循環も想像を絶するほど自然でなだらかでありながらも、凄まじい力を感じる。


 そして――炎の繭に亀裂が入る。


「――おおおおおおっ!!!!」


 とてつもない爆発と共に繭が粉砕される。


 お願いだから、味方にも傷つくかもしれない登場はやめてほしい。


 そう思いながら、俺は一瞬でクルシア以外に魔法障壁を展開した。


 異世界人ボーナス様々である。


「こ、これが……魔神?」


 俺達の前に姿を見せた元はインフェルと呼ばれていた悪魔は、まったく別物の姿を見せる。


 というよりは完全に人間と同じ姿をしていた。


 赤みがかった金髪、紅蓮の如く燃える瞳、それらを際立たせるような白い肌を持ち、赤黒く焦げた服装で現れたのだ。


 魔神というより魔王にも見える。


 まあ魔物の神という意味では、魔王に見える容姿には納得がいくわけだ。


 そのほぼ人と同じ姿となったインフェル改め魔神ベリアルだが、さほど驚いた様子を見せなかった。


主人(マスター)。このわたくし、インフェル改めベリアル。転生、完了致しました」


「おう」


 転生の意味する通り、本当に生まれ変わったように達観した性格に変わった。


 以前ならば――凄まじい力だっ! とでも言いそう。


 そして俺もこのベリアルの主人に相応しくあるように、動揺してはいけない。


 威風堂々であらねば。


「さて、決着だ!」

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