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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
10章 王都ハーメルト 〜帰ってきた世界と新たなる勇者〜
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27 異世界人としての答え

 

「……」


 いつものクルシアなら、ひょうきんに軽薄に答えてくれそうな自己紹介も、黙ってこちらを睨むだけだった。


 リリア曰く諦めさせることが目的だったらしいから、あの表情を見るに、それは達成されたように思う。


 あの憎悪を含んだあの瞳はその証拠だろう。


「おい」


「ん? 何だよ、レオン?」


 レオンは俺がリリアだったとわかってるんだろうか? だが話の中心人物だとわかってはいるんだろう、クルシアを警戒しながら呟く。


「一番、場違いな俺が言うのもあれだが、下手な挑発はしない方がいいんじゃないか? クルシア(あれ)、ヤバいだろ……」


 まあ確かに、今にも全員殺してやるってあの殺気立った視線は危険だろうな。


 俺もリリアとして、こっちの経験が無ければ臆していただろうけど、


「お前もそんな顔ができるんだな。道化(ピエロ)の仮面が剥がれた感じか?」


「お、おい!」


「仮面? ああ……そうだね。こんな気持ち、初めてだよ……」


 顔を上げたクルシアの表情は、俺達が今まで見てきたことのないほどに歪んでいる。


「こんなに苛立ったのは初めてさあっ!!!!」


 俺が言った通り、完全に道化の仮面(ポーカーフェイス)は剥がれていた。


 飄々とした美少年の顔は消えている。


「ボクのぉ……ボクの邪魔を……ボクの、ボクの――楽しみを奪いやがってえっ!!」


 今までも邪魔してきたが、今回のはかなり(こた)えたようだ。


「黙れ、クルシア。貴様も散々奪ってきただろ? たかだか一度くらい――」


「黙れぇ!! クソ王子がぁ!! 異世界という本来たどり着くことのできない境地と、玩具(おもちゃ)共の命を一緒にするな!!」


「貴様ぁ……!」


 クルシアは優秀だ。それは俺達が散々理解してきたこと。


 だからこそ、この失態はクルシアにとって、計り知れないほどの絶望を感じたことだろう。


 すると虚な瞳で、縋るような視線をリリアに向けた。


「ねえ、リリアちゃん。もう一度、もう一度あの世界に繋げておくれよ。オニヅカだって、本当は向こうの世界の方がいいだろぉ!!」


 リリアは無言で首を横に振り、


「確かに俺の家族や親友共のいる世界、今まで過ごしてきた世界の方がいいのは事実だ」


「そうだろ? だったら……」


「だが、俺がここでリリアとして過ごした時間、そこから得られたこの気持ちもかけがえのないものだ!! それこそ天秤になんてかけられない。それが人生ってもんだ!! 人生観察なんてもんを趣味にするような奴が、そんなこともわかんねえのか!!」


 俺にとってここも守りたいほどに、見捨てられないほどに大切な居場所。


 鬼塚勝平としては初めて降り立つが、きっと受け入れてくれると信じてる。


「そうだね。私もそのリリィの気持ち、わかるよ」


「お、おい。リリィはやめてくれ。もうリリアじゃないんだ」


「わかってるけど……なんとなく!」


 それもまた絆と呼べるものなんだろうな。


 たかだか呼び名だが、そう呼ばれた過去の出来事が、俺達との信頼関係を結び続ける言葉になったんだろう。


「まあとりあえず、鬼塚君で頼むよ。アイシア」


「でも向こうの人はかっちゃんって……?」


「そ、それは恥ずかしい!」


「ええーーっ!?」


 アイシアみたいな美少女に、名前呼びは気まずいし、恥ずかしい。


 ヘタレチキン野郎は健在なのだ。勘弁してほしい。


「その信頼……希望……奪いたいなぁ。ハッ! ハハハハ……」


 俺の言ったことなど、まったく気にも止めていないようだ。


 ゆらりと不気味な雰囲気を放ちながら、スラーっと剣を抜く。


「もういい。全部壊して、圧倒して、蹂躙して……全部晴らしてやる。ハッハハハハハハッ!!」


「や、やらせませんよ」


「リリアちゃん! 君は安心してもいい。ボクはまだ諦めちゃいない。君とオニヅカ、後は念のための異世界人の血を継ぐそこの玩具(おもちゃ)共は殺さないよ」


 背筋に悪寒が走る。


 殺さないとはいっているが、無事では済ます気がない様相を見せる。


「殺すのはそこの玩具(おもちゃ)共だけさ。君らは異世界の扉を開けるために、ズタズタのバラバラに解剖してでも、手掛かりを見つけてみせるよ」


 有言実行の本気の目だ。本当にこんなクルシアは初めて見る。


「そんな物騒なことさせるかよ」


「フフ。オニヅカ君が相手でも容赦なくバラバラにするから……ね!」


 だから物騒なこと言うなよ。


「お前ともあろう奴が俺がどんな存在なのか、わかってないわけでもないだろ?」


「どういうことだ? オニヅカ?」


「殿下? 俺も……こぉれ」


 俺は髪の毛をつまんで引っ張る。


「! く、黒髪!?」


「今、気付く?」


 クルシアのプレッシャーに圧倒されて、気が回らないのはわからんでもない。


「そう。やっぱ調整される説は当たってたみたいだぜ!」


 それを証明するように魔力を放つ。


「……!」


「なっ!?」


 放たれた魔力は突風でも吹き荒れたかのように、辺りを重圧する。


「俺もケースケ・タナカと同じ恩恵を受けたなら、アルビオの上位版だってことを理解しな!」


「くっ……オニヅカぁ!!」


「と、まあ言いたいところだが、そう上手くはいかないんだよな」


「「「「「へ?」」」」」


 期待に溢れていたところ悪いが、そう事が上手く運ぶわけじゃない。


「し、しかし、オニヅカ。この魔力は……」


「確かに魔力とか、基礎スペックはおそらくケースケ・タナカと同様だと思うが、俺はケースケ・タナカみたいにスポーツ万能ってわけじゃないんだ」


「な、なに?」


 魔力タイプや属性等はケースケ・タナカと同様だと予測はできる。


 俺だって伊達にリリアをやってたわけじゃない。体感で魔力タイプや属性等は把握できる。


 だがだからこそ、ケースケ・タナカが急に勇者らしいことができたのにも納得がいった。


 向こうで調べていた際、ケースケ・タナカはかなり運動神経の良かった人物であることは調べがついてる。


 おそらくだが、そのハイスペックさを利用して、アンノウンという魔力タイプを上手く使っていたように思う。


 その反面、俺は運動神経はそこそこのゲームオタク。


 クルシアとやり合う戦闘能力などあるはずがない。


「ケースケ・タナカは向こうじゃ、色んなスポーツをやってたらしくてね。その経験を活かして活躍してたみたいなんだ」


「向こうで調べたの?」


「あ、ああ。鬼塚達とな」


 デューク達も自分の先祖の情報には関心が向くところ。


 元の世界に帰るためにも、中々必死に集めたものだ。


「それじゃあ何? ケースケ・タナカと同じ出身のくせに、それ同等の活躍はできないってことかな?」


 そう言われてしまうとその通りなのだが、


「ははっ! それはいい。一番の実験体(モルモット)になりそうなのが、それだと助か――」


「――ファイア・ボール」


 俺はかざした手のひらから、最速の火の玉を撃ち込む。


 ビッとクルシアの顔面を横切る。


「確かに、ケースケ・タナカみたいな脳筋じゃないが、俺がリリア・オルヴェールだったことを忘れてんなよ。……黒炎の魔術師の異名は俺の語り名だ」


 正直、この場だからそう名乗るが、普段なら殺してくれと悶絶するところ。


 クルシアも俺のスペックには理解をしたようで、歯軋りを立てる。


「大丈夫なのか、オニヅカ?」


「ああ。魔法を使う感覚はリリアだった時に覚えてる。近接は相変わらずだが、魔法使いとしてはそれなりにやれると思うぜ」


「リアもクルシアとバザガジールを圧倒してたし、こっちが有利だね!」


 は? あの二人を圧倒?


 俺は思わずそろっとリリアを見ると、もじもじと気恥ずかしそうにしている。


 遺書の時から読み取ったリリアの性格とはやはり違うようだ。隆成達からも聞いてはいたが、リリア自身もやはり成長してたんだな。


「もしかして俺、出しゃばらなくてもよかった?」


「何を言っている。オニヅカがこちらへ来てくれなければ、クルシアの対応が出来ずに暴れられていたところだ。リリアを失い、私達だけでは部が悪い」


 デューク達も戻ったばかりで勘も鈍っているだろうし、ヴィ達も消耗が激しいだろう。


 クルシアとやり合うのは非常に困難といえる。


「そう言ってもらえると嬉しいね。戻ってきた甲斐があるよ」


「ボクは非常に不快だけどねえっ!!」


「わかったよ。そんなお前に異世界転移者の実力を見せてやるよ」


「はっ! 確かに魔力量やタイプ、属性にはかなりの恩恵を受けてるみたいだが、ボクの敵じゃない!」


 こういう天才型は計画が狂うと、どうもヤケ気味になるようだ。


 アミダエルもそうだったが、常識が欠落している人間の考えは理解ができん。


「そうだな。俺は俺の戦い方をするだけさ」


 俺の戦い方。


 一般的な男子高校生が、まずクルシアのような魔法剣士とやり合うなんて論外。


 ケースケ・タナカのように身体能力が高ければ、もしかしたらとも思うが、時代の背景も違うことから、俺とは明らかに育ちが違う。


 そんな軟弱な俺にも打ち込んできたことがある。


 それはファンタジーゲームだ。


 あの世界観にのめり込むように、片っ端から幻想的な世界観に触れてきた。


 そこから派生するように、色んなゲームにも手を付けたが、やはり俺はファンタジー世界に浸かっている方がしっくりくる。


 そしてその世界観に浸かっていたせいか、中二病臭いところも拭い切れてはいない。


 俺の武器は――創造力。


「――召喚(サモン)! インフェル!」


 俺の声に応えるように、かつてないほどに上機嫌に登場してきた。


主人(マスター)!! お久しぶりでございます」


「よ! 久しぶり!」


 その光景には一同も唖然。


「ま、待て。何故オニヅカが悪魔殿を……?」


「ふん! たわけたことを。我は確かにそこの娘、リリア・オルヴェールと契約したわけだが、それはあくまで器。我が本当に契約したのは、そこにおられる真の主人(マスター)である」


 そう。


 インフェルとの契約は、魂の契約。俺は元の世界に戻ってしまったが、別にインフェルとの契約が切れたわけではない。


 正直、賭けな部分もあったが、当たりだったようだ。


「それで? そんな雑魚悪魔一匹呼び出した程度で、どうしようと?」


「雑魚だと? 言ってくれる……」


 雑魚は言い過ぎだと思うが、今のインフェルが勝てると楽観視できるほど、俺はお気楽ではない。


「まあ、そう焦るなよ。俺には俺の考えがある……そう言ったろ?」


「ボクがそれに付き合う理由があると?」


「興味はあるだろ? 異世界人の能力に……」


 むしろ興味を持ってもらわないと困るし、これだけ固執してたんだ、悪いが準備が終わるまで黙っててもらうぜ。


「インフェル。悪いが今のお前じゃあ、いくら俺の魔力を注いでも、クルシアには勝てん」


「むむっ」


「だが勝てるようにすることはできる。そこでインフェル、お前に質問がある」


「何でしょう? 何なりと……」


 形から入るタイプではあったが、かなり忠実になってくれているようだ。


 リリアの火と闇の魔力だけでも素晴らしいと豪語していたほどだ、俺の六属性の魔力とその量、質は尊敬に値するものなのだろう。


 正直、棚ぼただから背徳感があるが、これからのことを考えると有難い。


「お前――神になる気はあるか?」


「は?」

「「「「「!?」」」」」


 俺の言葉に更に一同は唖然。


 そりゃそうだ。この言い方だとまるで――、


「オニヅカ! 神とはどういうことだ!? 悪魔殿を神にでも仕立て上げるとでも言うのか!?」


 と、思いますよね。


 まあ、その通りなんだけど。


 尋ねられた本人も、さすがに困惑を隠し切れない。


「マ、主人(マスター)。仰ってる意味が……」


「まあ正確に神様になるってわけじゃない。もっと言えば大精霊と同等の立場になってみないかってこと」


「だ、大精霊だと!?」


 前々から思っていたことだ。


 何故大精霊が魔物を魔力を管理する存在に移行したのか。


 人間に任せられないのはわかってるが、所縁のあるエルフや他の種族にでもその権限は与えられてもおかしくない話。


 まあクルシアみたいな襲撃者が出る可能性を考慮すれば、それも選択肢にはなかったと考えられると、消去法で魔物になった可能性もある。


 だが意味もなく、そんなことをするだろうか?


「殿下。大精霊が魔物に世界の魔力が管理できる体勢を作らせたのは何故だと思う?」


「そ、それは……人間は戦争していたほどだ、先ず無いと考え、同様に他種族も人間に襲われることを想定すると省かれた……」


 はは。俺と同じ考えだ。


「ならば人間に対応できる魔物を選んだ……? いや、ほとんどの魔物は人間でも対処が可能だ。ドラゴンや悪魔殿といった特殊な例でもない限り、それも……」


「そ、それ何か関係あるの?」


「あ、あります。私、わかりました」


 おっ、リリアが何か閃いたか?


「魔物には心臓となる魔石があります。そして、人間の負の感情により、強固な存在となります。別例もありますが……」


 原初の魔人のことだろう。


「ですがその成長度合いによっては、人間を凌駕し、自我を持つ存在になれる可能性のある魔物は、大精霊にとって都合が良かったのではないでしょうか? 原初の魔人が格大陸で魔力の循環を正確に行えていたように……」


「な、なるほど。つまりオニヅカは悪魔殿を魔人化させるつもりか?」


「言ったろ? 神にするって……」


 俺は異世界転移者のファンタジーオタク。


 こういうゲームにはお決まりがある。


「インフェルに俺の魔力と転生術を施し、別の存在へと転生させる」


「!?」


「俺は異世界転移者だぞ? その膨大な魔力と異世界で培ってきた創造力を舐めんな」


 ラスボスとかイベントの重要なキャラクターなどが第二段階だの別の存在となって、世界を救うなんてテンプレ展開はいくらでも見てきた。


 まさか自分でやる日が来るとは思っていなかったが。


「た、確かに、鬼塚さんが持っていたゲームでは色んな……まさか!?」


「そのまさかだよ、リリア」


 リリアも向こうにいたから、わかるだろう。


 日本人はアニメや漫画といった創造性は頭ひとつ抜けている。


 でなければ海外からの商売資本にはならないはずだ。


 何せ、日本のアニメ文化を経済的に支えているのは、何故か海外だからな。


「インフェルに別の名前と姿を想像し、創造する。それが俺にできる、ケースケ・タナカに代わる異世界勇者のやり方だ」


 ふとクルシアの方を向く。


「どうだ? お前だって興味あるだろ? 異世界勇者様の力ってやつをさ」


「はは! 興味はあるが、その攻撃対象がボクじゃあ困るねぇ」


「お前はやり過ぎたからな。ケジメはつけてもらう」


 今度は質問したインフェルに向き直し、俺の思惑を話した。


「インフェル。俺は何もクルシアを仕留めるためだけにお前を転生させるわけじゃない。これから、大精霊に代わる管理者として、この世界を安定させてほしい」


 実際、クルシアの策略によって死んだ龍神王と妖精王の影響はやはり出ている。


 魔物での魔力管理もまだ欠陥だらけなのだ。


「そのためにはインフェル。お前の今までの常識が消えると思って欲しいし、生き方も変わってくる」


 魔物として力の限り暴れるという、粗暴な存在ではなくなる。


 勿論、インフェル自身はどちらかといえば良識のある魔物だと思うが、本能的な部分として、殺害欲が無くなることはない。


 しかし、俺が考える転生を行えば、そのあたりが全て改められることとなるだろう。


 それは生まれ変わりに他ならない。


 だから――、


「これはこれからのお前と世界の未来のため。俺の命令ではなく、自身で答えを出してほしい」


 異世界転移者ケースケ・タナカが運命的に呼び出されたとしてその理由は、大精霊との仲の取り合いが目的とされていたならばどうだろう?


 ケースケ・タナカは人間ではあるが、この世界との理を外れた人間でもある。


 大精霊が何かしらの可能性と人間に対する認識を改めるきっかけになったとするならば、俺にも意味があるものと考えられる。


 それは人間が別の存在、しかも異形との存在と生存共通ができるかどうかを測るためではないだろうか?


 精霊も人間からすれば異形の存在。


 それを先ず魔物からという段階的なことを考えてのことではないだろうかと考えられる。


 何せ精霊はかつての人間にこっ酷くやられている。


 永遠とも思える寿命を持つ精霊からすれば、昨日の出来事だと言われても納得せざるを得ないだろう。


 だからこそ魔物を自分達に近しい存在に仕立て上げようとするなら、俺はそれを魔物サイドからも応えなければならない。


 だからインフェルの意思を尊重する。


主人(マスター)。我の答えは決まっている」


 そう言うと俺の前で跪いた。


「我はその申し出をお受け致します」


「いいのか? 魔人ではなく、魔神になるんだ。お前が目指していたものになることじゃないんだぞ」


 魔物の境地である魔人になることは、インフェルにとっても悲願だったはず。


 現にケースケ・タナカに阻まれ、今の実力に収まっている。


「魔人じゃなくて、魔神?」


 言葉の違いがわからないと首を傾げたのは、何故か尋ねられている本人ではなく、アイシアだった。


 同じ『まじん』だもんね。


「えっと……と、とにかく違うんだよ」


 日本語では違いの説明ができるが、こっちは日本語ではない。


 俺自身が説明できん!


「えっと……鬼塚さんの言う魔神というのは、向こうの世界では魔の神と書いて魔神と呼び習わすんです。ちなみに魔物の最終段階の魔人は魔の人と書きます。実際、人化してるのでわかりますよね?」


 リリアさん! フォローありがと!


 と言ってもこちらの(つづ)りとしては理解できないと、みんな頭を悩ませている。


「まあつまりは同じ呼び方だが、意味は違うということか」


「はい! その通りです!」


 話が脱線したが、


「と、とにかくインフェル。俺は――」


「何を言われようとも答えは同じです。我も高みを目指す身。ならば主人(マスター)の力の恩恵を賜り、それに応えようとすることの何がいけませんか」


 俺よりよっぽど立派な考えを持っていたようだ。


 押し付けがましいと考えていた自分がアホらしくなってきた。


「よし、わかった。それじゃあ転生させるぞ」


「あのさ……」


 クルシアが魔力を放ち、威嚇する。


「させるとでも?」


「おいおい。異世界人に興味深々じゃねえのかよ」


「違うね。ボクが興味あるのは、異世界そのものだ。君だけじゃ、物足りないね!」


 もう少し大人しくしてればいいもんを。


「悪いんだけど、時間を稼いでくれるか? インフェルの転生には色々準備がある」


 魔力を高めることやインフェルの転生時の魔法、その姿の想像、名前などやることは多い。


 一朝一夕にできるものではない。


「わかった! 時間を稼ぐよ。いける? リア」


「は、はい」


「私もたまには役に立たないとな」


 俺を守るようにここにいるみんなが前に出てくれた。


「邪魔するな! この玩具(おもちゃ)――」


 突然、次元の穴が開いた。覚えのある黒い穴。


 すると――、


「どうやら、クライマックスに間に合ったようだな」


「ザ、ザーディアス殿!?」


 そこからいつもの軽い感じで乗り込んできた。


 正直、ザーディアスは味方かどうかわからんと思っていたのだが、各々の反応が違う。


 面識の無いレオン達は誰? 面識のあるデューク達は、少し驚いた表情を見せるも警戒心は薄い。


 アイシアは相変わらず信用しているようで、ちょっと嬉しそうだ。


 そして気になる反応をしたのが、ハイドラスとクルシア。


 まるで死人にでもあったかのような反応。


 特にクルシアの表情はかなり印象的で、本当に驚いている。


 更にザーディアスの後ろから、数人の付き人がいるようで、


「来たぜ! クルシアぁ!」


「お、お前達は……」


 一緒に連れて来たのはメルトア達、五星教の面々だった。


「何でメルトア達が……?」


 俺がメルトア達とザーディアスが一緒なことに驚いていると、メルトア達も首を傾げた。


「おめぇ、誰だ?」


「面識はありませんでしたよね?」


「あっ、いや……」


 リリアの時に面識があったとは、女の子には言えん。


「ん? 黒髪? ……ってことは、お前さんが銀髪嬢ちゃんの中身だった奴か?」


「んなっ!?」


 このおっさん! あっさり暴露しやがった。


 どういうことだとわかってない奴らもいるが、


「今までの黒炎の魔術師は別人だった。しかも異世界人……男性でしたか……」


「なぁ? ラッキースケベだよな?」


「黙れ! おっさん!」


「おっさん言うな。おじさんと呼べ」


 ちょっと五星教の面々は引き気味だし、バラすにも順序ってもんがあるんだよ!


 あとザーディアスはどうやら今回は味方になってくれてるらしい。


 最初、無理とか言ってたくせに。


 するとそのザーディアスが、驚くクルシアと話し始めた。


「よう、クー坊。まさかお前のそんな顔が見られる日が来るとはなぁ」


 ザーディアスでもクルシアの焦り、驚く表情は初めてのようだ。


「ザーディアス……!」


 確か、『ザーちゃん』と愛称で呼んでいたと思っていたが、苛立ってる影響もあるんだろうか、普通に名前で呼んでいる。


「何故、生きてる!?」


 その発言にはハイドラス以外が驚いている。


 今の発言はまるで殺したはずだと言っているようなものだからな。


「生きてるって、どういう……?」


 他と反応が違うハイドラスに視線を向けると、


「私も確かに死んだと思っていたぞ。アソル殿達からあの魔石を預かったからな」


「おっ? アイツら、ちゃんと届けてくれたんだな。ま、そのおかげでここにいるのか……」


「ザーディアス!!」


 かなり興奮した叫び声が辺りに響く。


「らしくないな。何だ?」


「何故生きてるかって聞いてるんだ。ボクは確かに――」


「バザガジールに殺すよう、指示したってか?」


「「「「「!?」」」」」


 指示!?


 ということはザーディアスは裏切ったのか。クルシアを。


「まあ確かに、殺されかけはしたさ。あの化け物相手に俺だって逃げられはしない」


「だったら……」


「あのバザガジールにも人間性はあったってことさ。ちょっと世間話をしたら、見逃してくれたよ」


 予想外の返答にわなわなと震えるクルシア。


 俺もバザガジールが裏切っているとは考えていない。現在もこの場所から離れた場所での激しい衝突を感じる。


 おそらくはバザガジールとアルビオだろう。


 裏切っているならば、クルシアの味方として戦っていることはないだろう。


「そんな話、バザガジールからは聞いてない!」


「そうなのか? なら、本人に――」


「「「「「!?」」」」」


 大きな反応のうち、一つの反応が消えた感覚があった。


「決着がついたみてぇだな」


 まるで命の灯火が消えたかのように。

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