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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
10章 王都ハーメルト 〜帰ってきた世界と新たなる勇者〜
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25 リリアの駆け引き

 

 リリア達は長い通路をひたすら飛んでいく。


 行き着く先は、クルシアのいる場所だとわかっていても、中々不安になる景色が続く。


 だが三人共、不安を口にすることはなかった。


 ヴィとネイは先を進むリリアを信じるしかなかった。


 デュークとシモンの帰還は、正直賭けの領域ではあるが、異世界の扉を開けるならば今しかない。


 リリアもそのことについてはわかっているからこそ、ウィンティスの話に乗り、ひた進んでいる。


 そして――三人は開けた、祭壇のような空間にたどり着く。


「ここは……」


「あっ!」


 ヴィが指差したのは、祭壇にちょこんと座っている見覚えのある男の姿だった。


 その男の前に三人はふわりと着地する。


「ようこそ! 待ってたよ、リリアちゃん」


 すたっと軽く下りて歓迎すると、


「あと、その他おまけちゃんもね」


 ヴィ達にはウインクで答えた。


 クルシアはかなり上機嫌に迎え入れる。


 その理由としては、やはり異世界の扉を開けるにはリリア自身が必要だからであると推測できた。


「クルシア! あんたのことは絶対許さないから!」


「そんなに怒らないでおくれよ〜。まさか、こんなところまで来て文句を並べに来たのかい?」


「随分な歓迎をしておいてよく言うわ。人の神経を逆撫でしておいて……」


 ウィンティスやドクターに迎撃させてる時点でと語り、戦う気満々の様子で構えるが、リリアが二人の前に立ち塞がる。


「クルシアさん。貴方のやっていることは……無駄です」


「おやおや、いきなりだねぇ。まあ確かに、ドクターが思ったより抵抗したのが痛手だったし、思いの外、魔力の収集率も悪いのも事実だ。効率は悪かったかもしれないけど、無駄というのはねぇ」


 デス・フェンリルをあくまで身勝手な暴走だと語るクルシアには、苛立ちを覚える二人。


「ふざけんじゃないわよ! このゴーレムのせいで、町が吹っ飛んだんのよ!」


「それに、このまま行けばドゥムトゥスや近隣の村、貴方のことだから王都まで向かうつもりなのでしょう? それを効率が悪いという理由だけで、命を踏み躙るつもり!?」


「アッハハハハ! その通りさ! 異世界に行くなんて偉業のためさ……それだけの犠牲で済むなら安いもんだろ?」


 ケタケタと悪びれもなく笑うクルシアの声が木霊する。


 こんな男のためにデュークやシモンも利用されて、見知らぬ土地に投げられたのだと思うと、冷静ではいられなかった。


「クルシアぁっ!!」


 だがリリアは前を譲らない。


「リリアさん、どいて! この男だけは……」


「わ、私に任せて下さい」


 こっちのリリアの性格は理解しているヴィとネイにとっては、意外な反応だった。


 かなり臆病で、こんな修羅場みたいな展開になれば、震え上がると思っていたのだが、リリアの様子は至って落ち着いた様子だった。


 それを見てか、二人は多少冷静さを取り戻す。


「クルシアさん、そんなに異世界へ行きたいですか?」


「勿論さ! 自分の知らない世界、未知への探求、進化の可能性、あの異世界にはそれが詰まっている! ボクの勘が囁いてるんだよ!」


「あ、あの世界は確かに革新的ではありました。魔法が使えない代わりに、色んな技術が発展していました。今尚、その技術の進歩があります」


「そうだろ? だったら……」


「でもっ!」


 クルシアの言いたいことはわかっていたリリア。


 魔法使いとして新たな魔法を開発したり、新しい術式などが構築でき、それが立証され、認められることは嬉しい。


 新たな探求、進化、発展は人として望むことだと理解している。


「それを世界の理を超えてまで行なっていいことではありません。その世界にはその世界のルールがあります。向こうの技術の進歩も、その人達の元で築かれたもの。私達が介入していい余地などないんです」


「そうかなぁ? だったらケースケ・タナカはどう説明するんだい? 彼は向こうの技術を少なからず投入したはずだ。それは君の言っていることに定着するんじゃないかい?」


「あの人の日記を見ました」


 リリアは日本で過ごしたこともあり、アルビオの家に陳列されていた日記を読み解くことができた。


 そこに書かれていたことは、こちらの世界で起きた他愛無いことから、重要な歴史のことまで書かれていた。


「そこには異世界の知識については何も書かれてはいなかった」


「そんな気はなかったとでも言いたいの?」


「いえ。あの日記からは新たに迷い込んでしまうかもしれない、同郷に宛てた日記に思えました。ケースケ・タナカはあくまでこちらのルールの元、順応していってほしいと願ったに違いありません」


「詭弁だなぁ」


「どうとでも言って下さい。わ、私は貴方のしていることを無謀だと言うだけです」


 あのひらがなでわざとらしく書いてあったことがその証明だと、リリアは確信を持って言えるが、そんなことはクルシアを説得する材料としてはどうでもよかった。


 とにかくリリアは否定を続けるだけ。


「そういうけどさ、君みたいな偶然を引けるほど運も強くないんだ。無理やりにでも発動するしかないだろ?」


「そこまでしても異世界に行きたいのですか?」


「くどいよ。ボクは行くと決めたら行く。ルールがどうとか言ってたけど、ルールってのは破った先に新たな発見があるものだよ?」


「それこそ詭弁です」


 するとリリアはやはり話し合いではどうにもならないと、小さくため息を吐く。


「……わかりました。なら、異世界へ案内致します」


「「「!?」」」


 そう諦めたかのように、おもむろにマジックロールを引き出す。


「ちょっ、ちょっとリリアさん? クルシアに異世界へ行かせないために来たんじゃないの?」


 するとリリアはふるふると首を横に振った。


「いえ。説得しに来たんですが、無駄でした。だ、だから大人しく望み通りに異世界にでも行ってもらおうかと……」


「ちょっとダメよ! こんな奴の望みなんて叶えちゃ。それに何とかするからここにいるんでしょ?」


 話が違うと二人はリリアに掛け合うが、リリアは一向に取り合う気は無い。


「ならお二人と私だけで止められますか? い、今、アイシアさん達がこの古代兵器を止められたとしても、多分……次の手を打ってきますよ。そしたらまた止めますか? それを繰り返しますか?」


「「……」」


「だったら、大人しく言うことを聞く方がいいって、私は考えたんです。だから……」


「――ふはははははははっ! いやぁ……あんな説得するから何かと思えば、引き際がわかってるじゃない」


「あ、貴方が折れてくれれば一番、良かったのですけど……」


「悪いけど、それはない。ボクの好奇心が疼き続ける限り、満たされない限り、諦めることはない!」


 リリアは長い巻物のマジックロールを床に広げた。


 そこにはびっちりと魔術術式が描き込まれている。


「それは異世界の扉の魔法かな?」


「……貴方のために用意したものだよ」


 その一言にクルシアとヴィ達は察した。


 異世界の扉の魔法は繋がっているであろうリリアと鬼塚勝平、異世界の血を継ぐケースケ・タナカの子孫のみが通行可能だということは、王都ハーメルトで実証済み。


 クルシアに至っては修復できたとはいえ、腕を吹き飛ばしている。


 あれから一週間前後。


 並の魔法使いなら改変に数年、下手すればもっとかかるかもしれないが、リリアの天才ぶりを知る三人は、クルシアが通ることができるようにするくらいなら、十分な時間ではないだろうかと察したのだ。


「ダメよ! リリアさん! 諦めてはダメ!」


 ネイがやめさせようと近付こうとすると、


「おっと」


「!」


 クルシアは一瞬でネイの首元に刃を突きつける。


「邪魔しちゃ、めっ! だぞ?」


「くっ……!」


 ヴィも杖をぎゅっと握り締めるが、対抗できないのがわかってか、睨みつけるだけだった。


「さあ! リリアちゃん!」


 リリアはこくりと頷き、魔力を流し――ぼそっと唱える。


「――レギュレーション・フィールド……」


 唱えたリリアを中心に、地面を白い輪っかのようなものが走る。


 まるでこの区域になにかしらの効果を与えるように。


「……こ、これは?」


「リリアちゃん?」


「何か勘違いされてるみたいですが、今発動したのは、異世界の扉の魔法ではありません」


「えっ?」


 するとクルシアはやれやれという仕草を取る。


「上手く騙されたよ、リリアちゃん。そのためにこの二人を連れて来たのかにゃ?」


「「えっ?」」


 棚に上げられた二人は、何のことやらと不思議そうにリリアを見つめると、リリアはぺこぺこと謝る。


「ご、ごめんなさい! ク、クルシアさんを欺くためには仕方なかったことなんです……」


「ど、どういうこと?」


「そのマジックロールを異世界の扉の魔法だと印象付けるためさ」


「「!」」


「だよね?」


「は、はい……」


 そう言われてみると、リリアは確かに一言も『このマジックロールは異世界の扉の魔法』だとは言っていなかった。


 どうして勘違いしたのかを思い返してみる二人。


 リリアはまるで諦めたかのように、クルシアの要求を呑んでいるかのように見えた。


 それはこちらの言い分に対し、的確な返しがあったからであるが、それだけではなかった気がする。


「見事なもんだよ。ボクでさえ、マジックロール(それ)は例の魔法だと思ったもん。そんか意味深に床に広げられて、それだけの術式が書き込まれていた挙句、ボクのために用意されたなんて言われればねぇ……」


「「!」」


 クルシアの言う通りだと、二人も納得した。


 クルシアを止めるための熱弁。諦めたかのようにクルシアの要求を呑み、広げられた意味深なマジックロール。


 そして二人がそれを勘違いして止めに入れば、クルシアは否応にでも誤解してくれる、これが異世界の扉の魔法だと。


 それに信憑性を与えるためのマジックロールの術式の多さや長さはその説得力に繋がる。


「さ、策士ですね。リリアさん」


「すごーい……」


「それで? そこまでの不意打ちをした魔法にしては、あまり効果がないようだけど?」


 こんな不意打ちをかけるなら、もっと強力な拘束魔法や攻撃魔法、状態異常魔法をかけた方が効率的ではないのかと問いかける。


「そ、それは条件が整ってないからです」


「条件?」


「この魔法は、ある規定を破ると効果を発揮する結界。……この意味、わかりますよね?」


 クルシアはなるほどと納得した表情を浮かべるが、魔法使いでないネイには疑問を抱くばかりである。


「規定って?」


「わからないなら教えてあげるよ。リリアちゃんは、この結界内……おそらくはこのデス・フェンリルを対象区域とし、規定を設けた」


 クルシアはスッと、床に広げられたマジックロールを指差す。


「そこの術式に暗号化して記載されているのが、おそらくリリアちゃんがボクのために用意した規定。それを破ると強力な拘束か、もしくは致命的なダメージを負わせる効果でも付与されてるんじゃないかな?」


 それならば普通に拘束した方が良いのではとネイは、首を傾げるが、


「なるほど。それを敢えて教えることで術式の効果向上を狙ったんだね」


「教えることで向上……?」


「うん。制限効果ってやつ。条件が厳しくなればなるほど、効力が上がるの。今回の場合は、リリアちゃんが定めた規定があること、目に見える範囲内でないと破る場合に発動、暗号化されているとはいえ、マジックロールで答えすら見せてる」


 ヴィに説明されて見ると、マジックロールは広げられたまま。


 条件や効果などは暗号がわかれば、答えは丸出しである。


 だが魔法の発動の査定上、暗号が解けずとも答えを晒していることは認められることになるため、規定を破った際の魔法効果は上がる。


「更に言えば、リリアちゃんの作った規定は、ボクに関与するものと限定もされている。魔法発動の査定はこれだけ答えが晒されていれば、むしろ発動されないことが普通と判断されているはず……」


「つ、つまり、破れば普通の魔法よりも桁違いの効果を発揮するってこと?」


「は、はい……」


 クルシアとしてはかなり困った状況にさせられている。


 正直なところ、答えはある程度わかっている。


 それは自分(クルシア)がリリア達に危害を加える、もしくはリリアがやろうとしていることの阻害が考えられる。


 だが自分にかなりの損害を与えるつもりなら、制限効果をフルに発揮するために、規定条件は一つに絞られているはず。


 つまりは抜け道があるはずなのだ。


 だが広げられているマジックロールの暗号を読み解くことは現状不可能。


 つまり駆け引きをさせられているのだ。


 だから思わずネイの言葉を借りる。


「策士だねぇ、リリアちゃん」


 より強い効果を発揮するため、おそらくはリリア自身にも強い制限を行なっているものとも考えている。


 術者がとある行動を起こさないなどが条件とされていたりすること。


 それはクルシアに不利益になる行動であればあるほど、効果を発揮する。


 そのことからクルシアは、リリアがこちらに危害を加えることもないと考える反面、この規定が破られれば、その条件も解除されることとなる。


 それはクルシアにとって、終わりとも捉えられる状況にまで陥る可能性が十分にあった。


 だがこれはクルシア自身、考え過ぎという可能性も捨てられずにいた。


 結局、この場ではリリアが完全に支配権があるとされる状況。


 意味がわかるかとの問いもまた、クルシアが長考させるきっかけとなる。


 クルシアは賢いが故に、リリアの膨大とも取れる可能性の中、雁字搦(がんじがら)め状態となっているのだ。


 現に動けずにいるクルシアを、ヴィとネイは驚いている。


 それを隙と捉えたネイは、クルシアに構えてみせるが、


「待って! ネイ!」


「!」


 ヴィがバッと止める。


「この魔法は多分、規定を破った人間に効果が発動されるもの。しかも多分一度きり。私達がその地雷を踏んだら、リリアちゃんの作戦が水の泡になる。下手に動かないで!」


 それを何故、本人が口にしないのかとネイは視線を向けると、リリアは眉を顰めて微笑んだ。


 それを見て察したことは、味方にそれを教えることは制限効果を緩和することになるからだろう。


「どんな規定があるかもわからない地雷の中で、唯一動けるリリアちゃんは、何をしでかすつもりかにゃ?」


 するとリリアはすくっと立ち上がり、おもむろに祭壇に魔法陣を描き始める。


「それは勿論、異世界の扉の魔法を発動させます」


「「!?」」


「そ、それって、クルシアの望みを結局、叶えるってこと?」


 クルシアは一瞬愉快そうに笑うが、リリアは首を横に振った。


「いいえ。私はその魔法を改変していない。つまりは貴方が改造したあの魔法と同じ、条件の整ってない人間は通ることのできないままです」


 カリカリと魔法陣を描きながら語るリリアに、


「なら何で異世界の扉を開ける?」


「目的は二つ。一つは、デュークさんとシモンさんの救出」


「「!」」


 ヴィ達は自分達が連れて来られたもう一つの理由に、思わず表情が和らぐも、


「しかし、これは賭けが強いです。向こうの世界とこちらの世界の時間軸はそこまでの差異はないと思われますが、ケースケ・タナカさんのみはその時間軸が不明だと考えられます」


 勇者の日記からそう読み取ったリリア。


 日記を付けた日付等から推理してわかったこと。


「あのハーメルトの事件からまだ一週間弱。鬼塚さんとの合流の可能性も考えると、非常に可能性は低いと考えられます」


「そ、そんな……」


「最悪、救えない可能性もありますが、二つ目を叶えるためには必要な犠牲です」


 リリアから希望を奪うような一言に気を落とす二人だが、それでもしなければならない目的の二つ目を聞く。


「二つ目って?」


「それは――クルシアさんに異世界を諦めてもらうこと、もしくは……そうですね、絶望してもらうことです」


「「!」」


「へえ……」


 そんなことは絶対にないと余裕の笑みを見せるクルシア。


「なるほど。今、異世界の扉の魔法を使おうとしているのはそれか。確かに今現時点では異世界を渡ることはできないかもしれないが、前例がある以上、諦めることはない」


 リリアは今尚、異世界の扉の魔法を描き続け、クルシア、ヴィ、ネイを中心に魔法陣を描いていく。


「その前例、ちゃんと理屈は通ってるんですか?」


「勿論! 君がその証人じゃないか……」


「私と鬼塚さんが繋がってることですか?」


「そう!」


「ならケースケ・タナカは?」


「彼のことはさっぱり。確かにボクが異世界へ行くなら、ケースケ・タナカの情報があった方がいいだろうけど、ほとんど情報が無い現状、君達がその理屈の証人だ。そのためにその子孫であるデューク達の情報を得たんだから……」


 するとデス・フェンリルから魔力の気配が弱まった。


「おや?」


「これは……?」


 クルシアは護衛をさせていたウィンティスと連絡を取ろうとするも、応答はない。


 するとクルシアは、仕方なさそうにリリアを見て話を続ける。


「どうやらボクの計画もこれからといったところみたいだ……」


「リリアさん!」


「……はい。アイシアさん達が勝ったみたいですね」


「「……!」」


 第一の目的である、デス・フェンリルの停止が叶ったとなると、自分の役割を改めて認識するリリア。


 魔法陣を描く速度も早くなる。


「随分と他人頼りな計画ですね」


「最初はそんなつもりはなかったよ。……君さえ来てくれれば問題はなかったんだから」


 王都ハーメルトで、確かに上手くいくはずだった。


 リリアは怯えすくみ、ハイドラス達も絶対絶命かと思ったあの状況。


「でも失敗した。その時点でもっと見直すべきでした。……何を焦っているのです?」


「焦ってる? ……確かに異世界を見せられて、興奮気味ではあったから、周りが見えづらくなっていたかもしれないけど――」


「違いますよね? もっと別に理由がありますよね?」


 ガリっと地面を削る音が木霊した。


 まるで触れてはいけないことに触れたと思わせるほどの静寂が広がった。


 そんなクルシアとリリアのやり取りに息を呑む二人。


 攻めるのはリリアだった。


「……貴方のことは聞きました。……血染めの噴水。闇属性持ちの恐ろしさを印象付ける、近年みる最悪の事件……」


 リリアも闇属性持ちが偏見を受けるのではないかと恐れた事件。


「あれを起こす背景には、貴方の心情がしっかりと映し出されていたのではないですか?」


「……」


 血染めの噴水。


 ヴィ達も噂には聞いていた事件、そしてその犯人がクルシアだと聞くと、更に緊迫感は増していく。


 不思議と憎きクルシアの表情も恐ろしく見えてきた。


「はは。まあ……そうだね。ボクなりに思うことがあってやったことは間違いないよ。後悔もしてない。むしろ感謝してる」


「感謝?」


「そうさ! 人間がどれだけ面白いのか、どれだけ醜いのか、どれだけ妬ましいのか、どれだけ自分勝手なのか、どれだけ弱いのか……そしてどれだけ強いのか」


 強い。


 その一言には違和感を覚えた。


 クルシアはその広場で圧倒的な実力を示し、恐怖を植えつけたはず。


 なのにクルシアが人の強さを知るということには違和感がある。


「お陰で人が好きになったよ。軟禁されて、世間知らずのボクが世渡りできたのも、あの事件で死んでくれた連中のおかげさ。……だけど、世界は嫌いだったかもね……」


「だから世界を壊し、別の世界に逃げ込むんですか? それが正しいことなのですか?」


「それ……君が言うことかい?」


「……」


 自殺未遂を繰り返してきたリリアが言うセリフでは、確かになかった。


 だがクルシアは肯定した。


「まあそうだね。でも、そうなる。ボクはこの世界を見限ったのさ。だから新しい世界が目の前にあるなら、飛びつきたい。ダメかい?」


 逃げようとしたリリアだから、クルシアの気持ちもわからないではない。


 だけど、


「ダメです。私は教えられました。逃げるだけではダメなんだって。めちゃくちゃをすればいいわけではないって……」


 リリアが自殺未遂を繰り返し、自分の弱さをアピールしていたことが正しくないように、クルシアの暴挙も正しいはずがないと否定する。


「貴方は自分の心と罪に向き合うべき人です。そのための扉は私が開く!」


 杖を魔法陣に突き立てる。


「――開け! 異世界の扉!」


 すると強い風が吹き荒れ、魔法陣が強く光る。


「「――きゃああああっ!!」」

「んっ……!!」


 リリアのすぐそばに次元の穴が開いていく。


 その穴から見える景色は、現代世界のリビングの光景だった。


「なっ……!? リ、リリア?」


「鬼塚さん……!」

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