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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
10章 王都ハーメルト 〜帰ってきた世界と新たなる勇者〜
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23 デス・フェンリル

 

 ――遠ざかるアルビオとバザガジールを見送りながら、ドラゴン達は飛空する。


 砕かれた瓦礫と凍りついた足が、デス・フェンリルの動きを封じたままだった。


 だが、デス・フェンリルに刻まれたルーンは青白く光り、術式が発動している。


「あ、あの……アイシアさん」


「何?」


「速度をもっと上げて下さい。少しでも早く潜入すれば、魔力の吸収が抑えられます」


「了解! みんな! 速度上げるよ!」


 レオン含めたドゥムトゥスの龍操士(ドラゴン・ライダー)達も気を引き締める思いで手綱を握ると、デス・フェンリルの口から何かが出てきた。


「おい。あれ……」


「ん? ――ひゃあ!?」


 するとヒュンっとアイシアの横を通り過ぎた。


「アイシア!」


「見ろ!」


 レオンの後ろに乗るハイドラスが、通り過ぎたものを指差す。


 それは毒々しい赤紫色の羽根が特徴的な鳥型の魔物だった。


「魔鳥の群れだ! 気をつけろ!」


 その毒々しい派手な色合いの魔鳥達は次々とデス・フェンリルの口から出てくる。


 すると、


「あぐぅ……」


「どうし――うっ!?」


 一同、全員が急に苦しみ始める。


「こ、これって……」


「ああ、生贄(サクリファイス)だろう。――総員! 気をしっかり持て! 魔力が尽きかけたら、常備しているマジックポーションを!」


 一同はポーション片手に魔鳥達を(かわ)しながら、デス・フェンリルへと向かう。


 この生贄(サクリファイス)だが、同乗しているリリア達より龍操士(ドラゴン・ライダー)達にはかなり(こた)える。


 召喚しているドラゴン達への魔力供給に加え、自分の魔力も枯渇させるわけにはいかない。


 更には正確な騎乗を行わなければ、飛行することもままならず、挙句に大量の鳥型の魔物の軍勢である。


 デス・フェンリルにたどり着くだけでも極めて困難な中、


「リア、しっかり掴まっててよ!」


 ポチの手綱をパチンと激しく叩き、迫り来る魔鳥の群れを凄いスピードでかい潜っていく。


 乗っているリリアはさながらジェットコースターの安全バーが無いバージョンを堪能させられている。


 いくら速度を上げた方が良いと助言したとはいえ、アイシアの騎乗能力の高さを予想より遥かに超えていた。


「――ひぃやああああーっ!?」


 それを後ろから追いかけるレオンは、あまりの凄さに驚きを通り越して呆れている。


「ア、アイツは相変わらずだな。魔力の分配もどうなってるんだ?」


「彼女は龍の神子という肩書き通り、ドラゴンに対する魔力関係は緩和されていると聞く。召喚時の魔力などもないと聞くしな」


 レオンを含める龍操士(ドラゴン・ライダー)が苦悶の表情を浮かべ、何とか魔鳥の群れの中を飛ぶ中で、一人、異常な速度で飛び去るのは、相変わらず心折られる光景。


 そんな中でも食らい付いていくレオンと相乗りしているハイドラスは、


「将来的に、本当に彼女を王宮魔術師の龍操士(ドラゴン・ライダー)として迎え入れたいと考えているのだが、後継の教育ができるタイプに見えるか?」


「はあ……」


 そう尋ねられてアイシアを見るが、感覚型の性格のアイシアにそれができるとは思えない。


「無理じゃないですか? 抽象的な説明しかできなさそうです」


「私もそう思う……。だから気にするな」


 少しばかり力んでいるところから、読み解かれてしまったのか、軽く励ましをもらうと、


「エヴォルド! 頼むぞ!」


 アイシアの後ろをしっかりとついていくよう、速度を上げる。


 その後続では、


「何なの!? この魔物の軍勢は!?」


「侵入者対策でしょ? おそらくクルシアの……」


 するとヴィは、進路を妨げる魔鳥の群れ目掛けて杖をかざす。


「あんっ! もうっ! 邪魔なのよ!」


 するとヴィを乗せている龍操士(ドラゴン・ライダー)が待ったをかける。


「おい、よせ! こんな魔力吸収を受けている中で、魔法なんか撃ったら、お前の魔力が枯渇して気絶するぞ」


「だったらどうすれ――ばあっ!?」


 その龍操士(ドラゴン・ライダー)は、襲い来る魔鳥の群れを高度を変えたり、左右に展開するなど、あらゆる角度で交わしていく。


「俺達の飛行技術を侮るなよ!」


 確かに前線を飛び、ポチの龍の息吹(ドラゴン・ブレス)で魔鳥共を焼き鳥にしているアイシアと比べると、レオン達、後続の龍操士(ドラゴン・ライダー)は見劣りするかもしれないが、これでもドゥムトゥスの先鋭である。


 見事な飛行技術、ドラゴン達との連携を見事に披露する。


「ははっ! やるわね!」


 そう言って後ろを見たヴィは、護衛としてついてきているはずの龍操士(ドラゴン・ライダー)達の異変に気付く。


「ちょっ、ちょっと……!」


「何だ? 気が散る」


「後ろの護衛部隊がついて来れなくなってる」


「何だと!?」


 バッとヴィを乗せた龍操士(ドラゴン・ライダー)は振り向くと、自分よりベテランの先輩達が高度を落とし、魔鳥達をなんとか回避している姿が見えた。


「せ、先生!」


 龍操士(ドラゴン・ライダー)ではない、リリア、ハイドラス、ヴィ、ネイを乗せている四人は、技術力も高く、比較的魔力量も多い人選がされている。


 ドゥムトゥスの龍操士(ドラゴン・ライダー)の任務は、この四人を無事にデス・フェンリルまで送り届けること。


 こうなることはある程度、予想はできたことだが、それでも自分の尊敬している先生がピンチに陥る光景は見たくないものであった。


 だが、


「君達は行け! わ、私達は、少しでもこの魔物共を引きつけよう」


「ヤキン先生!」


 そう言うと、先輩の維持とばかりに、後続の部隊は魔物を引きつけるように魔法を乱発し始める。


 その光景を見たレオンも引き返そうとするが、


「後ろはヤキン殿達に任せろ! 私達は先を急ぐぞ!」


「しかしっ!」


「あの古代兵器が動きを止めているのは、今、一時的なものだ! 我々が止められなければ、ヤキン殿達のように、多くの生物が魔力ぎれを起こし、最悪の事態となるぞ!」


「……っ」


「助けたい気持ちは痛いほどわかるが、お前のやるべきことを押してくれているヤキン殿達に応えてみせろ!」


 説得されたレオンは歯を食いしばると、手綱を強く叩いた。


「エヴォルドぉっ!!」


 その悔しさがエヴォルドにも伝わったのか、先程よりも更に速度が上がる。


「おおっ!?」


「しっかり掴まっていろ! 殿下!」


 魔鳥達の群れを物凄いスピードで飛んでいく。


 時には回転しながら回避することもあり、乗っているハイドラスは、魔力が吸われている影響を忘れるほどであった。


「――邪魔だっ!! この焼き鳥共ぉ!!」


 そんな中で、一足先にデス・フェンリルの口元、入り口に到達したアイシア達。


「よし! リア、侵入しよう」


「は、はい!」


「あっ……」


 何か思い立ったのか、急に止まるアイシア。


「ど、どうかされました?」


「いや……」


 ふとアイシアはルーンが多く刻まれているデス・フェンリルの岩壁を見上げる。


「これって破壊すれば、止められるんだよね?」


「は、はい。……ですが、これだけの大きさの物を破壊するには、最上級魔法でなければなりませんし、そもそもそれだけの魔力量をこの古代兵器ゴーレムの前で用意させてもらえませんので……」


「あー、そうじゃなくて……」


 ちらっとまだ追いついていないレオン達を見る。


「少しでも壁画を傷つければ、どうかなって……」


「き、気休め程度にもなりません。中にいるであろう、古代兵器ゴーレムの核を壊した方が早いです」


 そんな話をしているうちに、入り口のデス・フェンリルの口からまだまだ魔物が湧き出てくる。


「――わひゃあ!?」


 その場でポチを旋回させながら、龍の息吹(ドラゴン・ブレス)で応戦。


 すると、


「何をボサッとしている!? さっさと侵入しろ!」


 後続のレオンが怒鳴りながら遅れて到着。


「ご、ごめんなさい。他の人達は……?」


 更にヴィとネイを乗せた龍操士(ドラゴン・ライダー)も到着。


「ヤキン殿達は、魔物を引きつけてくれている。そうでなければドゥムトゥスは戦場になるしな」


「あっ! そっか。コイツら倒さないと……」


「マルキス! お前は余計な心配はするな! そのための仲間で、そのためにファミア達を置いて来たのだ。信じろ」


 遠くからでも凄まじい戦闘を繰り広げているのがわかるアルビオとバザガジールを見て、その通りだと確信を得る。


 今頃はファミア達も魔物の軍勢の対策に乗り出していることだろう。


「わかった! 行こう!」


 そして一向は、生贄(サクリファイス)の影響をこれ以上受けないために、中へと侵入した――。


 その侵入したデス・フェンリルの中身に特に驚愕したのは、侵入経験のあるはずのヴィとネイだった。


「ちょっと! 何よこれ!?」


「どうした?」


「殿下。前に来た時と地形が変わってます」


「なに?」


 以前、クルシアの暗殺で侵入した際は、地下神殿のような所であり、辺りには滝が流れていたりもした。


 今回は湖から出てきたということもあり、水が引いていることには納得がいくのだが、そもそも人が通れる足場がほとんどなく、デス・フェンリルの中身がほぼ空洞状態となっていた。


 だがこのデス・フェンリルのかたちを維持するように石柱などは立っている模様。


 そして、その空洞の中を先程から襲撃してきていた鳥型の魔物達が飛び回っている。


「殿下! どこに行けばいいの?」


「とにかく、我々の目的は二つ。この古代兵器を止めることと、クルシアとドクターを倒すことだ」


 バザガジールは今現在も、アルビオと激闘を繰り広げていることは明白なので、そこは省かれている。


 すると、


主人(マスター)の邪魔立ては許しませんよ!」


 鳥型の魔物の中心部に一人、人型の魔物が存在していた。


 初対面の者達は驚く中で、ハイドラスやアイシアはその正体にギッと睨む。


「貴方は……!」


「ウィンティスか!」


「お久しぶりですなぁ、人間共。ワタクシを覚えてくれて嬉しいぞっ!」


 すると魔鳥達は、ウィンティスの妨げにならないよう、指示を煽ぐようにその場でホバリング。


「そうか。この魔鳥共はお前の眷属か!」


「如何にも! ワタクシは風属性が故に、テキトーな飛べる魔物を見繕ったのですよ」


 鳥型の魔物が多い理由としては、魔力が安価なことがあげられるのだろうが、


「でも悪魔の眷属なら、もう少し羽根の生えてる悪魔型の魔物とかいるでしょうに……」


「いや、おそらくは物量で押すことに意味があったんだ。不思議に思わなかったか? ドラゴン達も魔力が吸われているにも関わらず、襲ってきた魔鳥共はその影響を受けていない様子だった」


 それは一同も納得の疑問だった。


 実際、アイシア以外の龍操士(ドラゴン・ライダー)は酷く消耗した様子を見せている原因として、ドラゴン達への魔力供給がある。


 それはドラゴンも魔力を吸われているという証明。


 しかし、どう考えても魔力量的に劣っている魔鳥達が、ドラゴン以上に空を飛び、襲ってくる姿には異常性しか感じない。


 だが理由は割と簡単だった。


「これはおそらくだが、この古代兵器の生贄(サクリファイス)は、通常の生贄(サクリファイス)とは違い、下位版だと考えられる。だから闇属性を持つウィンティスが、この安価な魔鳥共に生贄(サクリファイス)に抵抗できる付与魔法が施されていれば解決する」


「後は私達があの鳥達と戯れていれば、こちらが勝手に消耗していくってこと?」


 その答えにウィンティスが愉快だと手を大きく広げる。


「その通り! あなた方のような脆弱な存在であれば、これだけの物量とデス・フェンリルの生贄(サクリファイス)があれば、ゴリ押せると思ったのですが、四匹も侵入を許してしまった。実に不愉快です!」


「デス……フェンリル?」


「ああ、この古代兵器の名前ですよ。フェンリルとは、精霊の使い魔とまで言われた魔物ですが、この兵器はその精霊を殺すための兵器。フッ! フフフ……実に愉快な名前だ」


 そんなことを楽しそうに、嫌味ったらしく喋るウィンティスに構えていると、


「――アアアアアアッ!!!!」


 デス・フェンリルの岩壁から、長四角の石柱が素早く生えて押し潰そうとしてくる。


「おおっ!?」


 龍操士(ドラゴン・ライダー)達は一斉に、散開して回避する。


「おい! ドクター! 主人(マスター)の計画に支障をきたすつもりですかぁ!? ふざけてんじゃねえよ! 虫けらが!」


 そう言って薙ぎ払う仕草で風の刃が発生し、その先にはデス・フェンリルの核と思われる巨大な魔石と一体化しているドクターの姿があった。


 天井に宙ぶらりんにネットで引っかかったような岩のオブジェに守られるようにドクターはいた。


 しかし、そのドクターは完全に理性が飛んでいるようで、身体は魔石化していた。


「何よ、あれ……!?」


「貴様らにも覚えがあるだろう? 魔石化というヤツだ。最初こそ抵抗していたが、龍神王の魔石と共に魔力の膨大な本流に流されて理性が吹き飛んだ、今ではただのデス・フェンリルの心臓さぁ!」


 その最初の抵抗というのが、ラージフェルシアを襲った光線だったと気付く。


 ドクターのプライドの高い性格から考えれば、利用されていたことに気付けば、一矢報いろうと考えるだろう。


 そのための魔力放出の光線だったのだと気付く。


「あの男には……仲間を想う気持ちはないのか!」


「フフフ……我が主人(マスター)にそんな気持ちはないさ! だからこそ素晴らしいっ!!」


 そんなクルシアの素晴らしさの余韻に少し浸ると、ウィンティスはビッと指差す。


「そんな主人(マスター)の計画には、どうしても貴様が必要なのだ。リリア・オルヴェール……」


「!」


「事態は聞いているよぉ。あのインフェルを従えていた方ではないと……」


 リリア本人はインフェルについては詳しく知らず、首を傾げる他なかった。


主人(マスター)より、貴様の通行だけは認められている」


 そう言って、天井に手を差し出すと、ドクターとは別の天井に枠組みされている穴が空いている。


 どこかに繋がる入り口のようだが、ウィンティスが手招くあたりはクルシアのところへの直通だろう。


「ワタクシが風魔法を付与致しましょう。ささっ、主人(マスター)がお待ちかねです」


 するとふわりとリリアの身体が宙に浮かんだ。


「わわっ!?」


「リアっ!?」


 思わずハシッとリリアの手を掴むアイシアに、


「貴様はお呼びではないよ、龍の神子。貴様はここで殺す」


 ウィンティスは自分がここにいる目的を口にした。


 一同もそれなりに予想はしていたこと。


 これだけの魔物の軍勢に、ウィンティスと暴走ドクターだ。明らかにこちらの戦力を落とすことが目的だろう。


 ハイドラス達としても、リリアだけに行かせるのは流石に危険であると同時に、こちらは生贄(サクリファイス)の影響により、酷く消耗している。


 そんな中で、魔鳥達はともかくとしても、ウィンティスと暴走ドクターの相手は非常に厳しい。


 いくらデス・フェンリル内は生贄(サクリファイス)の影響は無いとはいえ、リリアという戦力を奪われることも避けたいところ。


「ウィンティス! ここで貴様らを仕留めた後に向かってやるから、大人しくやられていろ!」


「黙れ、ハイドラス(虫けら)。そもそも貴様らはお呼びではない!」


「――あ、あのっ!」


 バッと呼び止める声の先を見ると、既にアイシアの手が離れているリリアの姿があった。


「マルキス!? 手放したのか?」


「だ、だって……」


「ウィンティスさんというんですか? と、取引です」


「取引ぃ?」


 首をくにゃんと曲げて傾げる。


「あ、貴方は厄介視しているア、アイシアさんやハーメルト殿下を仕留められればよいのですよね? な、ならそこの二人も連れて行かせることが条件です」


 そう言ってリリアが指差したのは、ヴィとネイだった。


「リリアさん……」


「ダメだ。貴様以外は認められない」


「な、なら……」


 リリアは舌を出す。


「ダ、ダメなら……舌を噛みちぎります」


「――っ!」


 ウィンティスにとってクルシアの命令は絶対。


 あっさりと死んでみせるといったリリアに驚きつつも、それは困ると表情が歪む。


 そしてその条件となる二人を見た。


 ウィンティスが感知したところによると、二人とも魔力の消耗が激しく、とてもじゃないが戦闘は難しい。


 対してリリアは魔力は豊富にある。


 おそらくは生贄(サクリファイス)を緩和する付与魔法を自身にのみ、施していたと考えられる。


 実際、アイシア達の魔力も相当減っている。


 クルシアの計画のためにも、リリアに下手な消耗は与えられないと考えるウィンティスは、リリアの条件を呑む他なかった。


「いいだろう。虫けらが二人加わったくらい、問題ないだろう」


 するとヴィとネイも浮遊する。


「おおっ!?」

「きゃっ!」


「あの通路の先にワタクシの主人(マスター)、クルシア様が居られる。必ず主人(マスター)の望みを叶えるのだぞ」


 三人は慣れない浮遊の中、お礼を言う。


「ありがとう! 貴方達のおかげでここまで来れた。後は任せて!」


「ドゥムトゥスの龍操士(ドラゴン・ライダー)の実力、凄かったです」


 ヴィとネイを乗せてきた二人は、少し赤面して照れる。


「オルヴェール!」


「で、殿下。後は任せて下さい。何とかしますから……」


「ああ。お前なら何とかできると信じている。我々も後で追いかける。だから、先に行っていろ」


「リア」


 浮遊しているリリアに、ポチと一緒に近付いたアイシア。


「あ、あの……」


「わかってるよ。ここは任せて。直ぐに追いつくから……」


 リリアは少し気の毒そうな表情を浮かべる。


「リア?」


「ア、アイシアさん。その……ごめ――」


 くりっとした純粋な瞳でこちらを見るアイシアに、これ以上何も言えなかった。


「?」


「な、何でも……ありません。わ、私、ちゃんと責任、取ってきますから!」


「うん、わかった! あんまり無茶はしないでね」


「――おい! 早くしろ!」


 モタモタ話していたのが気に入らなかったのか、ドクターを押さえ込むのに苦労しているのか、苛立った様子のウィンティス。


 リリア達はアイシア達に見送られながら、その場を後にした。


 すると、ウィンティスがその入り口に手をかざす。


「――ドクター!」


 その指示を受けてか、リリア達が入っていった入り口が塞がった。


「なっ!?」


「追いかけるとか言っていたが、正気ですかぁ? お前らはここで死ぬんだよぉ」


 魔鳥達が一斉に威嚇するように鳴き、ドクターも叫ぶ。


 そしてその司令塔となっているウィンティスも魔力による威圧で圧倒する。


「おい、殿下。どうするつもりだ? 正直、俺達は限界だぞ?」


 ハイドラスもそれはわかっている。


 後ろに控えているヴィとネイを送ってくれた若き龍操士(ドラゴン・ライダー)も疲労困憊状態。


 とてもじゃないがこの軍勢をたった五人、しかもほぼ魔力が無い状態では逃げることも難しい。


 しかも光属性のハイドラスは、この中でもかなり消耗が激しく、マジックポーションも持っていない。


 それは龍操士(ドラゴン・ライダー)であるレオン達も同様であった。


「わかっている! わかっているが……」


 デス・フェンリルを止めるための核は目の前にある。


 ドクターを破壊することができれば、止められる。


「やるしかないだろ! お前達も死ぬつもりはないだろう!?」


「……当たり前だ!」


「で、でもよ、どうするつもりだ?」


「多勢に無勢過ぎるよ……」


 ハイドラスが何とか突破口を築こうと、疲労感に襲われる頭の中で考えを巡らせていると、


「大丈夫!」


 バッとアイシアが目の前に現れる。


 その自信満々の表情をウィンティスは鼻で笑う。


「はっ! 確かに貴様は主人(マスター)からも危険視されているが、それほどに弱った状態で、どう対抗するつもりだぁ?」


 アイシアはブチっとアクセサリーを引き千切る。


「こうするつもり!」


 するとアイシアから膨大な魔力が溢れてくる。


「な、何ぃっ!?」


 それには背後にいるハイドラス達も驚いた。


「お、お前……一体?」


「実はね、これ、リアの提案なの」


 そう言って見せたのは、髑髏(どくろ)のアクセサリーだった。


「殿下言ってたでしょ? 生贄(サクリファイス)に抵抗できる付与魔法があるって。それをリアも気付いてて、私にだけだったけど、これをくれたの」


「それに抵抗できる付与魔法が施されていたと?」


「うん!」


 つまりアイシアだけは生贄(サクリファイス)の影響を受けていなかったのだ。


 それを知ったハイドラス達が文句を言わないはずもない。


「そんなものがあるなら、最初から私達の分も用意しておいてくれよ」


「まったくだ……」


「それもリアの考えなんだけど、生贄(サクリファイス)の古代兵器ゴーレムだけで進撃してくることはないと思ってたみたいで、生贄(サクリファイス)の対策をした召喚魔が防衛するかなって考えてたらしくて、私達までその対策をしていたら、次の手を打たれるんじゃないかって……」


「つまり用心のため、一番戦力になるお前だけにしたというわけか」


「うん。それに殿下はそもそも光属性だから、このアクセサリーは付けられないよ」


「ぐっ!?」


 リリアの抵抗付与魔法はおそらく闇属性。


 光属性であるハイドラスには、それ自体を無効にする可能性を考えると、どうしてもアイシアだけの分となる。


「ハハハハハハッ!! だがなぁ! 女ぁ! お前一人が戦えても、これだけの軍勢、地形を自在に変えられるドクター(虫けら)、そして――ワタクシを相手にできるとでもぉ!?」


 するとアイシアは、スッと手を天井に伸ばす。


「クルシアが私のことを危険視してた理由、見せてあげるよ!」


 アイシアの後ろから大量の召喚陣が展開。


「――召喚(サモン)っ!!」


 その召喚陣から大量のドラゴン達が召喚され、ハイドラス達も驚く。


「なっ!?」


 するとホワイト、ノワール、エメラルドが、ドラゴンの姿で空中で(かしず)く。


「アイシア様。我々にご命令を……」


「お願い! みんなのためにこのゴーレムを止める。目の前の敵を私と共に倒して!」


「「「はっ!」」」


 召喚されたのは、西大陸でアイシアが召喚契約を結んだドラゴン達。


 その光景には、さすがのウィンティスも顔を顰める。


「こ、小娘ぇ……」


「ウィンティス! 倒されるのは私達じゃない……貴方よ!!」

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