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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
10章 王都ハーメルト 〜帰ってきた世界と新たなる勇者〜
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18 リリアの心中

 

 それからリリアは学校に通うようになった。


 以前のリリアとは全くの別人になっており、周りは驚くばかりの反応だったが、一応入れ替わていたと説明すると、なあなあで納得していた。


 当人はやはり久しぶりの学校。


 向こうでは鬼塚勝平の身体だったということもあり、学校は休学していた。


 リリアのような極度の人見知りが行ける環境ではないと、判断されてのことだった。


 そのためか、最初こそ周りの様子をビクビクと見渡し、アイシアかリュッカの隣や後ろにバッと避難することが続く。


 その反応を見てか、周りも別人説を少しずつ信じていくわけだが、それが確信へと変わっていくことに、あまり時間はかからなかった。


 魔法科の実技授業の際、術式の改変、魔法の魔力運用の効率化、魔法のイメージ力の増長、既存の魔法の強化など、本来、魔法学の研究者が数十年がかりでなし得そうな事柄を次々と授業でしてみせたことで、入れ替りがクラスメート達や先生達との間で確立化していた。


 その天才的な魔法の才覚には、教える側のはずの先生方が教わるほどとなり、それを耳にしたハイドラスが魔法学の研究者に学ばせるよう、指示するくらいであった。


 学園内どころか王都中にあったリリアファンクラブでは、今までの活発で勇敢かつ、可憐なリリアも素敵だったが、守ってあげたくなるようなか弱い視線でありながらも、天才的な魔法技術を持ってみせる知的かつ、そろっと顔を覗かせる小動物チックなリリアも素敵だと、ファンクラブ会員は何でもありだったりする。


 そんな中、リリアには心境の変化が芽生え始める。


 アイシアやリュッカ、フェルサなどの前では、クスッと笑うようになり、近況報告などもするようになった。


 厳しめのナタルやサニラ、マーディなどの人達には、相変わらず苦手意識は強いが、少しずつだが人間関係も形成しつつある。


 それともう一つは、魔法の技術、知識能力が高い影響があってか、そちらの関係者とも話せるようになっていった。


 元々、魔導書を読み漁って幼少を過ごしていたリリア。


 闇属性に関しての西大陸でのことは怖かったが、元々魔法自体は嫌いではなかったリリア。


 同じような魔法研究を行う人達とは、話が合うようで、アイシアやリュッカほどではないが、話が出来るようになっていく。


 これはリリアにとっては大きな一歩であった。


 今まで誰かに認められていたという感触を味わったことのないリリアにとって、褒められることはとても嬉しかった。


 周りから見てもそれは自信へと繋がる一歩ではないかと、微笑む光景であった。


 一方で、そのリリアの故郷であるミリア村は崩壊。


 リンナはその村人達が近くの村などに移り住んでいることを確認。


 その中にはガルヴァもおり、合流したと同時に、さすがに事情を話しておこうと、リリアが入れ替わっていた件を話すと、ガルヴァは娘がそんなことになっていたことを微塵も気付かなかったことに、意気消沈したのは言うまでもなかった。


 その後、大号泣してリリアの元へ訪れたガルヴァだったが――パパの嘘つきという一言で、まるで塵のように消え去ったガルヴァは、しばらく王都に用意された仮住まいで引きこもっていたという。


 リリアの家族はクルシアの件が片付くまで、王都へと拠点を置くこととなった。


 そんなリリアの環境が変わっていく中で彼女自身も、変わらなければならない、向こうでのことを忘れずに頑張ろうと気概を持っているように見せる。


 そして――一週間ほどの時が流れた。


 特にクルシア達の動向はなく、リリアが元の生活にも少しずつ慣れ始めていた。


「――いや、オルヴェール。本当に感謝しているよ」


「い、いえ。お役に立てて光栄です……」


 ハイドラスが絶賛しているのは、魔法学について。


 王宮魔術師やその研究機関の者達が大絶賛。新しい魔法の開発や今までの魔法の練度の向上などに努めたことで、評価されていた。


「こちらに戻って来て、そろそろ一週間ほどか。どうだ? 感覚は戻ってきたか?」


「は、はい……」


「殿下。あれほどの魔法を使えるのですから……」


「それはわかっているが、私は元の身体という意味で尋ねたのだ」


 するとリリアは顔を真っ赤にし、もじもじしている。


「殿下……」


「いや、困らせる意味で言ったわけではないのだ。男性と女性では身体の骨格等も違うし、魔力のある無しでは感覚も違うだろう。どうだ?」


「だ、大丈夫、です。お気遣い感謝致します」


 両方の性別を体験できる人間などほとんどいないのが普通。


 ハイドラスは、自分達では気付かない不自由があるのではと懸念したのだ。


 ならば良かったと語ると、


「将来的にはマルキス同様、是非、王宮魔術師になってもらいたいものだ」


「!? お、おおお、王宮魔術師だなんて……」


「そんなに謙遜するな。お前のおかげで、魔法の幅が広がったというもの。是非その手腕をもっと奮って欲しいものだ。それともこの機にというのも不謹慎かもしれんが、お前の母リンナ殿はアンバーガーデンの出身なのだろう? 北大陸での研究者という未来もあるか? そうなれば個人的にはまあ残念ではあるな」


「あわわわわ……」


 良い人材を確保したいと望むことはごく自然のことであり、将来この国を治めるハイドラスとしては、龍の神子アイシアや天才魔術師であるリリアという人材は喉から手が出るほど欲しい。


 ハイドラスは人当たりの良い明るい接し方から、本心からなのだろうと、リリアからでも捉えられるほどであった。


 将来に関しても案じてくれるあたり、本当に心が広い方だと、リリアは認識した。


「……」


「どうした?」


 不安げに俯いたリリアに首を傾げて尋ねたハイドラス。


 リリアはその身に余ることに怯える本心とは裏腹に、不安を抱えているような素振りだったからだ。


「い、いえ……」


「何か心配事があるなら聞くぞ? クルシアのこともあるしな」


「だ、大丈夫です。それより、クルシアって人は……」


「ああ。あれから動向が全く無い。奴らの能力や行動力を考えると、早期にでも動いてくると思ったがな」


「まあこちらも体勢を整えられるという意味では助かりますが……」


 ハーディスが呟いたことには、まったく同意見であった。


 西大陸からはメルトア達、北大陸からはアライス達、南大陸からはレイチェル達、東大陸はグラビイス達がアジトの捜索をしてもらっているが、特に進展するような連絡は無い。


 その間にリリアの異世界の魔法陣はおおよそ完成を迎えていた。


 今回はその報告も兼ねて王城へリリアが来ていた。


「オルヴェール。お前はこの動きのないクルシア達の動向をどう見る?」


「は、はい。普通に考えるなら、準備期間かと……。ただその準備がどんなものなのかは不明ですが、おそらくは異世界の扉の魔法の改良か、以前話したように、膨大な魔力で無理やりこじ開けるための準備か……」


 どちらにせよ、あまり芳しく無い予想ばかりが頭に浮かぶ。


 クルシアの件については、向こうが自首でもしない限りは平和的解決は望めない。


「異世界の扉の魔法についての改良だが、クルシア達は可能性だと考えるか?」


「早期には無理かと。以前も話した通り、私が考案したものの改良でも、かなりの時間を有すると思われますので、あれを改良となると……」


 ノウハウがあっても厳しいと指摘。


「だから後者の準備が進められていると考えるべきです」


「だろうな」


 一週間前にクルシアが行なった儀式型の異世界魔法陣は、膨大な魔力を必要としていた。


 雇った冒険者の魔法使いまで塵芥(ちりあくた)にするほどの魔力量となると、相当な準備が必要となる。


 だが改良よりはかからないだろう。


 クルシアならばその大陸全土の地脈の魔力を使ってでも扉を開けて、本来通れないだろう自分達も押し通りそうに考えられる。


「それでその完成した魔法陣だが、まだ発動させる時ではないと?」


「は、はい」


 ハイドラスは事前にリリアから異世界の扉の魔法は、使うタイミングがあると聞かされている。


 一つ目の理由としては、デューク達が鬼塚勝平と接触する時間稼ぎ。


 リリアは向こうの世界にも行って戻ってきたことで、時間の差は理解している。


 完成してすぐ使った場合、鬼塚勝平の側に出現するであろう異世界の扉にデューク達がいない可能性がある。


 そのため、多少なりとも時間が経過してからの方が、デューク達の救出率が上がるためである。


 そしてもう一つ目は――、


「クルシアに異世界を諦めさせる、か……」


「は、はい」


「そんなこと可能なのかい? リリアちゃん」


 ハイドラス達が苦悶の表情を浮かべるのは仕方のないことだった。


 あの欲望に忠実で、異世界を目の前にして野心に燃えるクルシアを諦めされるのは、想像しづらかった。


 だがリリアは不安げな顔をしながらも、こくりと頷いた。


 リリアがハイドラス同等、もしくはそれ以上の切れ者と考えるハイドラス達には何かしら根拠のある方法を思い付いたに違いないと考えた。


「どんな方法だ? 教えてくれないか?」


 そう尋ねるが、リリアは俯いたまま首を横に振った。


「情報漏洩を恐れてのことですか? 確かに、我々も完璧ではありませんが、口は堅いです。それでもいけませんか?」


「そうだぜ、リリアちゃん。それに協力すれば成功率だって上がるかもしれない」


 ハーディスやウィルクも説得するが、断固として話そうとしない。


「我々を信頼していない……わけでもないのだろう?」


「――! そ、それは勿論! た、大変お世話になってますし、みんな……優しいし……」


 故郷近くまで通っていた学校では、苦い思い出と被害妄想に苛まれる人生であったが、ここでの生活には嘘のように幸せな人生を送れていると確信を得られるほどだった。


 信頼し、頼れる友人や知人に恵まれることが、こんなにも人生を充実させられるものとは思ってもいなかった。


「で、でもハーディスさんのご指摘もそうですが、この案は、その……絶対反対されると思うので……」


「反対だと……?」


 ハイドラスの表情の雲行きが怪しくなった。


「それはどういうことだ?」


「ひっ……」


 ハイドラスは威嚇するように言葉を発した。


「そ、それは……その……」


 ハイドラスはひと息、ため息を吐く。


「お前、反対されるようなことをするのか?」


「は、はい」


「私達が容認しないことだから黙っているということだな?」


「は、はい」


「……そう怯えるな。私はお前のことを心配して、少し怒っているのだ。確かにクルシアを止めるならば、我々が反対しそうなこともやらねばならないかもしれない。お前自身が招いたことでもあるから、責任を取らねばならないとも思っているかもしれない。……けれどな、頼られぬことはこちらとしても寂しいぞ。もっと頼ってくれていい」


 その本心からの言葉に感謝の念に絶えないリリアだったが、それでも話すつもりはないようで、俯いたままだった。


 だからか、ハイドラスは確認を取る。


「ならばこれだけは教えてくれ。お前の命に関わらない方法か?」


「は、はい」


「……ならばとりあえずはこれ以上の言及はよしておこう」


「あ、ありがとうございます」


 最低限のラインは守ってくれると確約をもらい、王族であるハイドラスにも関わらず話さないというのは、それなりの覚悟を持って望むのだろうという姿勢を垣間見た。


 今はそれを信じようとハイドラスは妥協した。


「だが諦めさせるということは、その魔法はクルシアの前で発動させるということですか?」


「は、はい。効果的かつ我々が目の前で確認できるという観点から、異世界の扉の魔法はそこで使うのがベストかと……」


「ならば尚更のこと、クルシア達のアジトの場所を明確化しするためにもとも思うが……」


 それを問いただそうとすると、リリアはダンマリを決め込まれてしまう。


「……ならば発動のタイミングはお前に任せよう。頼むぞ」


「は、はい」


「なら殿下。やはりクルシアのアジトは見つけておきたいですね」


「だな」


 リリアが方法を教えてくれない以上、できる限りクルシアの側にいなければ、デューク達の救出も難しい。


 それに予想外の対処も難しくなる。


 すると、誰も邪魔するなと釘を刺しておいたにも関わらず、ノックされる。


「殿下。少々よろしいでしょうか?」


 ノックの主はオリヴァーンだった。


 彼ならば、邪魔をしてはいけないことくらい理解していると考え、特に言及することなく、要件を聞いた。


「どうした?」


「殿下へ、緊急の客人が来ております」


「客人?」


 ふと思い浮かんだのはファミアだったが、いけら婚約者とはいえ、クルシアとの作戦会議を邪魔するほどではないと悟る。


「ファミアならばしばらくは会えないと……」


「いえ。それが――ザーディアス殿と旅路を共にされていた三人方からなのですが……」


「なに……?」


 アソル、ラッセ、クリルの三人が浮かんだ。


 以前、ザーディアスのことを探りを入れた時に、ラージフェルシア王国でハーディスが接触していた人物。


 名前を尋ねると、その三人の名前を口にしたので、至急こちらへ来るよう、オリヴァーンに指示を出した。


「――え、えっと……」


 アソルは思わぬところに呼び出されたと面食らう。


 確かにハイドラスに用件を伝えに来たのは事実だが、それでもハーディスとの話し合いくらいだと思っていたアソル達。


 するとラッセが指を差す。


「げっ!? お、お前が何でここに!?」


「ひえっ!? わ、私ですか?」


「馬鹿っ! ラッセ! ハーメルト殿下の前だぞ! 失礼はよせ!」


 そのラッセの行動に驚いてか、ウィルクの影に隠れた。


「おっ? 嬉しいね、リリアちゃん」


「リュッカさんの代用ですよ」


「ハッキリ言うな! クソキノコ」


 ハイドラスの後ろに隠れるわけにもいかず、ハーディスはまだ少し怖かったため、妥協として一番自分に優しくしてくれるウィルクの後ろに隠れたのだ。


 すると以前とは表と裏ほど違う性格の差に、指摘したアソルでさえ驚いていると、


「それで? 緊急の用件とは何かな? 冒険者諸君」


 そこを掘り下げられたくないと、ハイドラスが割って入ると、アソル達は頭を下げた。


「は、はい! こ、これを渡してほしいと……」


 そうアソルが手渡した物は人工魔石だった。


「これは……?」


「な、中身は確認しておりませんが、おそらく記憶石かと。以前、クルシアって子供にその……の、覗きに便利だと勧められた物に似ておりましたので……」


 リュッカ達がゴブリンの魔石と交換した時の話をした。


 その時にリリアに軽く見破られて、注意された。


「これは誰から?」


「お、おっさん……じゃなかった。ザーディアスさん、です!」


「! ザーディアス殿だと?」


「は、はい。日課の荷物の整理をしていた時に、見覚えのない魔石がありましたので、おそらくは……」


 その意味には首を傾げたハイドラス達。


 荷物に魔石が紛れ込んでいたことがザーディアスの物だという認識はおかしい。


 その質問をしようかと考えた矢先、


「以前、言われたことがあったんです。自分が不在の際に何かしらの魔石が混じってたら、ハーメルトの殿下か、銀髪の娘リリアさんに渡せと……」


 アソルが事の経緯を話してくれた。


 冒険者の心得として、依頼や町の移動、朝起きてからなど、持ち物はチェックするよう、教えられていたアソル達。


 自分達の手持ちを把握しておくこと、状況に合わせて道具を取り揃えておくことは、冒険者として当然のことだと教えられたのだ。


 それを行なう際のある時に、それを言われたそうだ。


「昨日のことだったのですが、ザーディアスさんがそう言い残していたことだったので、急いで取り繋いでもらったのです」


「そうか。感謝する」


 ハイドラスは嫌な予感をこの魔石から感じた。


 アソル達に任せたのはクルシア達に悟られず、こちらに情報を流すためだろう。


 しかし、ザーディアスの性格を考えれば、贔屓にしていた冒険者を危険に遭わせる可能性は低いと考えると、この手段はあまりにも強引にも捉えられる。


 しかもこの手段は、ザーディアスが危機的状況であることも示唆されているのではと予想がついた。


「……どうした? 用件は受け取った。下がっていいぞ」


 そう冷たく突き放す言い方をするハイドラスだが、アソル達は俯いたまま、立っている。


「お、お言葉ですが、その内容を私達にも見せていただけませんか?」


「ダメだ。これは最重要機密だ。届けてくれたことには感謝しているが、これ以上は関わらない方が身のためだ。オリヴァーン、下がらせろ」


「は!」


 オリヴァーンと控えていた騎士達がアソル達を連れ出そうとするが、


「ま、待ってくれよ! あのおっさんがそんな意味深なもん残されちゃ、俺達も黙ってられねえよ!」


「そ、そうです! ぼ、僕らはザーディアスさんにどれだけのことを教わったか……」


「お願いです! ぼ、僕らにも何か……」


 だがハイドラスの態度が変わることはなかった。


「オリヴァーン、早く下がらせろ」


「は!」


 アソル達がオリヴァーン達に力で勝てるはずもなく、抵抗しながらも連れて行かれる。


「殿下。何もあそこまで冷たくされなくても……」


 ハーディスがらしくないと話すと、


「おそらくザーディアス殿に何かあったに違いない。でなければこんな情報の渡し方があるか。……ザーディアス殿に恩義を感じている彼らに、酷な情報は渡せん」


 ザーディアスは、アソル達に知られることは望んでいないと考えての判断だったと話す。


「あのメルトアちゃんも認める実力者のあの人に何かあるとは考えにくいですがねぇ」


「馬鹿を言うな。クルシアにはバザガジールがいる。あの男相手ならば、さすがのザーディアス殿もタダで済むとは思えん」


「ま、まさか……!」


 憶測だと補足は入れるも、その可能性は大いにあり得る状況。


 ウィルクに改めて情報漏洩の魔法を施してもらい、その記憶石を起動させた。


『あ、あー……映ってるな? 聞こえてるか?』


 そこにはザーディアスが映った。


 だがかなり焦っているのか、投影された部分から身体がはみ出ていた。


 そして――ザーディアスからの情報を受け取る。


『正直、奴の勘が働く可能性が高いから、手短に話すぞ。……クルシアの奴はアジトのゴーレムを起動させるつもりだ』


「「「「!?」」」」


 ハイドラスかリリアに渡すよう指示されていたことから、挨拶を省き、いきなり用件を語った。


『銀髪嬢ちゃんの魔法は相変わらず難解でな。それが無理なもんだから、王都で起動させた魔法陣を使うらしい。だけど自分達を通れるようにするために、魔力を纏って盾に使うことを決めた』


 おおよそリリアの予測通りだっただけに、そこにも驚くが、それを実行に移そうと考えたクルシアにも驚いた。


 あの男は結構入念に準備を入れるタイプだと思っていたため、一週間音沙汰が無かったとはいえ、予想外だった。


『……クー坊は、結構興奮してるみたいでな。異世界を目にしたことの高揚感と、本物の銀髪嬢ちゃんに追い詰められたことへの焦りとで、作戦を強行するようだ。……悪いが俺じゃ止められねえ』


 ザーディアスの走った言い方に、緊迫感が伝わってくる。


『いいか? ゴーレムの起動にはおそらくドクターが核となるはずだ。そのあたりは詳しくない。だが、周囲の人間を殺し、エネルギー源にするって話はしてた。軽くゴーレムの性能を聞いたが、生贄(サクリファイス)の術式が組み込まれてるらしい』


 アルビオの話によると、大精霊からは結局、古代兵器ゴーレムの話してはもらえなかった。


 だが精霊達に対抗していたとなると、魔力を吸い上げる術式は組み込まれていることには想像がついた。


『場所だが――』


 ガタタンと映像が揺れ、真っ暗になった。


「ど、どうしました!?」


「おいおい! 一番、肝心なところで止まった?」


 しばらく真っ暗な映像が続くと、


『――あれ? こんな魔石、あったかな? ラッセ、クリル、知ってる?』


『『さあ?』』


 その後の映像は魔力が切れるまで、アソル、ラッセ、クリルがこの魔石について語っている映像が映っていた。


「殿下……」


「わかっている……!」


 ザーディアスが裏切ったことをクルシア達に悟られたのだと、わかる光景だった。


 アソル達を返したことは正解だったと思う反面、ザーディアスの情報による強行作戦ならば、直ぐにでも作戦が行われてもおかしくないと危惧する。


「ハーディス! ウィルク! 至急、協力者の皆に連絡! アイシア達もここへ呼んで来い!」


「「は!」」


「あ、あの……」


「オルヴェールは私とここで皆を待つ」


「は、はい」


 するとハーディス達と入れ違いに、騎士が焦った様子で部屋へと訪ねてきた。


「し、失礼します! 殿下!」


「何だ? ここへは許可無く来るなと――」


「申し訳ありません! しかし、陛下より緊急とのことで伝えて来いとのこと」


「父……陛下からだと?」


 今度は何事かと驚愕していると、絶望的な話が舞い込んできた。


「そ、それが…… ラージフェルシア王国が半壊したと……」


「な……何だと!!!!」

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