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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
10章 王都ハーメルト 〜帰ってきた世界と新たなる勇者〜
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15 二つの世界のために

 

「では次はクルシア達について。メルトア殿。アジトがどのような様子だったか、説明をお願いできますか?」


 先ずはアジトの話から。


 今回の件で仕掛けても受けてもダメならば、仕掛ける方を優先に考えたいとのことから出た質問に答える。


「そうですね。どこかの地下神殿のような作りとなっており、かつての(トラップ)も無数にありましたが、活用はされていない。ただドクターという男が地族性の魔術師ということもあり、石壁を自在に操ったり、ゴーレムを召喚するなど、二度目の潜入は困難なものと考えます」


 それに付け加えたいとヴィが挙手して答えた。


「そのアジトなんですけど、古代兵器であることは間違いないみたいね。結構派手に使った感知魔法で大きさを把握したけど、とんでもない大きさだったわ。後、人型ではなく、四足歩行の魔物みたいな形をしてた」


「四足歩行の古代兵器ゴーレムか……」


 するとフィンが顕現。


「おい、そのあたりは俺達が大精霊様に聞いてみてやってもいい。確か人精(じんせい)戦争の遺物だろ? あの当時の戦争を経験してる大精霊様なら知ってるはずだ」


「それは嬉しい申し出だが、話してくれるのか?」


 大精霊は人と関わることを極端に嫌っていることから、精霊達を大量に虐殺したであろう兵器の話はしたくないはず。


「言ったろ? 聞いてみてやってもいいって。ダメ元ってことだ。察しろ」


「期待はするなということか。……すまない、わかった。頼むよ」


 そう返答するとフィンは姿を消した。


「その古代兵器、場所はわかるか?」


 潜入した一同は首を横に振った。


 地下遺跡のようになっていたということから、外の景色など無いに等しかった。


 だが強いて言えばと、ナタルが意見。


「おそらくですが、北ではないでしょうか?」


「北大陸か……」


「はい。北大陸は地底都市がありますが、まだ未開発地区もありますし、遺跡部分の地下も未開拓だということから、クルシアのような連中が根城にする場所としては可能性は高いかと……」


「それはあるかもね。私もしばらく北にいたことがあるけど、あそこは地脈の魔力の気配もまちまちで、何が埋まってても不思議じゃない」


 この話なら意見できると、ジード達と北大陸であったフェルサが語る。


 そのジード達はそんなことなど考える余裕はなかったと当時を振り返るように苦笑いをしている。


「ありがとう、二人とも。しかし、明確な証拠がないうちは、場所については下手な推測は立てるべきではないか……」


 それで的を外し、甚大な被害が出たのではお話にならない。


 どちらにしてもよっぽとのことがない限り、もう潜入という危険を犯そうとは考えていないためか、アジトの話はここまでとした。


「次は戦力……」


 とは言うものの、ここにいる関係者はほとんど知っている。


 クルシア――三属性(ドライ・エレメント)、半魔物化、悪魔の召喚魔を使役、勇者の武器でリアンから奪った風花を装備、幻覚魔法まで使える、魔法、近接戦闘、何でもござれのオールラウンダー。


 挙句、人の神経を逆撫でするような軽薄な喋り方をし、非常に狡猾な性格から、話術も得意とする。


 バザガジール――最強最悪の殺人鬼として名が通っていることを証明するように、他の追随を許さない圧倒的な戦闘能力を誇る。


 魔法は一切使わず、身体に魔力を纏うだけというシンプルな戦い方だが、その魔力練度は凄まじく、魔力を帯びた刃物の武器すら、粉砕できるほどであり、精霊の剣とですら互角の強度を持つ。


 更には闇属性でも不遇のはずの耐性型は、魔力練度が高い彼にとってはとても相性が良く、状態異常系の魔法は一切効かない。


 ハイドラス達が確認した戦闘経歴も恐ろしく、ラバではギルドマスターやバークなどはあっさりと払い除け、原初の魔人の一角である龍神王を殺害し、同じく原初の魔人である獣神王を瀕死状態まで追い込むほどであり、精霊を使いこなすアルビオとは何度戦うが、実力差を見せつけられている。


 バザガジールに関しては唯一の救いとして、邪魔さえしなければ、弱者を殺さないという彼なりのポリシーがある。


 その影響もあってか、龍神王、獣神王以外は殺すような素振りは見受けられない。


「――この二人だけでも厄介よね、ホント」


「今、思えばよく無事でしたよ。俺ら」


 自分が相手をしていた人物達の詳細を聞いたリリアは、リュッカの椅子にしがみつき、ガクガク震えている。


「リ、リリアちゃん! こ、怖い怖い!」


 リュッカは椅子を激しく動かされて困惑する。


「落ち着け、オルヴェール。今回に関してはお前のおかげでこの二人を退けたのだ。そんなに怯えることはない」


「お、お心遣い感謝致しますが、ハーメルト殿下! わ、私なんて術式を改変し、都合の良い魔法を開発することしかできない無能魔法使いですよ! そ、そんな化け物みたいな人に怖がるななんて無茶苦茶、お、仰らないで下さい!」


「……いや、それが出来るならあんたもその化け物と同格よ」


 サニラが呆れて、そう呟くのも無理はない。


 魔法を発動する際にはイメージで発動するが、あくまで魔導書に書かれた魔法とイメージを合わせたかたちで発動するのが基本。


 わかりやすく説明するなら、ファイア・ボールという魔法の術式公式を一度見て覚えれば、脳が勝手に術式を思い出し、ファイア・ボールのイメージをすれば発動できるようになる。


 無詠唱で発動できるのが中級までが限界とされるところはそこにある。


 複雑になればなるほど、イメージが難しくなり、発動ができなくなる。


 だから上級以降はそのイメージを膨らませるために詠唱を口にしたり、文字詠唱などを行うわけだが、その昔の偉人達が開発した魔法術式を改変し、発動を促すというのは、鬼塚リリアがやってきたオリジナルを作ることより困難。


 誰もが正しいと思っている公式を改変し、別角度から同じ魔法に能力を加えるなど、偉業とも呼べることであった。


 あのシャドー・ストーカーは正にそれだったりする。


「わ、私、化け物……?」


 被害妄想が激しくなりがちなリリアには、その言葉は重く受け止めた。


「ち、違うよ、リリアちゃん。リリアちゃんがやったことは、それだけ凄いことってだけで、本当にそうだって思ってないから。ね?」


 リュッカが優しく説得するが、


「……この子は比喩って言葉を知らないの?」


 サニラが厳しく指摘すると、リリアは非常にサニラのことを怖がる。


「あー! 悪かったわよ! ごめんなさいね!」


「こほん。話を戻すぞ。……今回の襲撃でドクターの詳細な戦力もわかったはず。実際、()り合ってどうだった?」


 ドクターの名が出た瞬間、潜入した一同はすんっと瞳の温度が冷め、ナタルが淡々と説明を始める。


「先程も説明しましたが、優秀な地族性魔術師なので、環境によっては苦戦を強いる実力かと……」


「ああ、岩壁がどうとか言ってたな」


「私も似たようなことができるけど、環境でどうこうできるのは相当ね……」


「それよりお前の南大陸(あれ)の時の魔法の方が怖かったよ」


 そのバークのセリフにフェルサとジードは――ジャイアント・プレス(あれのことか)と苦笑いをする。


「はあ!? あれはアンタのせいでしょうが!!」


 察したサニラが文句を言い、


「はあ!? 何で俺のせいなんだよ!?」


 その原因を追求され、疑問をぶつけるバーク。


「そ、それは……アンタのせいなのよ!! アンタがあんな胸に騙されるのが悪いんでしょ!!」


「いや、わけわかんねえよ!!」


 赤面しながら誤魔化すあたり、バークとサニラの関係をあまり知らない者達も簡単に察することができた。


「おい、痴話喧嘩なら他所でやれよ」


「「痴話喧嘩じゃない!!」」


 恋愛などに鈍そうなリンスですら、呆れた様子で物申す。


「すまないが、そのような揉め事は後にしてくれないか? こちらの話を済ませても良いかな?」


「「……す、すみません」」


 バークとサニラがしゅんと落ち着くと、話を戻す。


「えっと、ドクターはいくつもの種類のゴーレムも使いこなすようで、対応力もあると思います。そのゴーレムの中に人体魔石化したもの、人体魔石(ホムンクルス)と呼ばれた個体もいましたわ」


「な、なに?」


「そ、それって……」


 心当たりのあるアイシア達は驚愕する。


「はい。人間を完全に魔石化したものと対峙しましたわ」


「外道め……」


「ですがその個体はナタルさんの起点により、我々で破壊しました。確か、個体数は確保できていないとか、言ってましたよね?」


 メルトアの意見にこくりと頷くと、補足を入れる。


「ですが、あの男ならまた作りそうなので、いないと考えない方がいいと思いますわ」


「……その根拠は?」


 あまりにハッキリと答えるナタルに首を傾げて尋ねたハイドラス。


 確かに研究者という人種は行きすぎる傾向にあることは、なんとなくわかる。


 アミダエルの件も考えれば、同じ人種であるドクターが非人道的行為の元、人体魔石化に及ぶことは想像に難しくない。


 だがナタルの言葉だけ聞くならば、あくまで予想の範囲を出ないのも事実。


 先程のアジトの件と同じく、事実確認が無い状態を示唆するのは早計な判断だと考える。


 最悪を想定するという意味では良いのだろうが。


 だが、潜入した女性陣が揃って口にした。


「アイツは男として、人として最低のクズだ!」

「アイツは男として、人として最低のクズですわ」

「アイツは男として、人として最低のクズよ!」

「「アイツは男として、人として最低のクズ」」

「「アイツは男として、人として最低のクズです」」


「「「「「……」」」」」


 その威圧感にも似た物言い、不快感を隠しもしない表情にこれ以上聞くのは野暮であった。


「ですので、どんな非道な手段も想定しておくべきかと……」


「そ、そうか……」


「で、でしたらドクターに関してはアジトを拠点とした戦いに精通し、最悪、古代兵器のゴーレムすら使う可能性があるということですかね? 殿下」


「かもな」


「ただそれでもクルシアやバザガジールには遠く及ばないと思います」


 それは誰もが予想していた通りだった。


 魔法使い、しかも研究者なのにクルシア達と同格とは考えにくい。


 だが一番の問題点は、


「やはりザーディアス殿か……」


 そのハイドラスの言葉にイラッとしたヴィは、ガタッと乱暴に立ち上がる。


「殿ってどういうことですか? アイツは敵ですよね?」


「う、うむ。そうではあるのだが……」


「ザーディアスさんは以前から仲良くしてて……」


 アイシアの発言にも苛立ちを覚えたヴィは噛み付いてくる。


「仲良く? ふざけないで! アイツがそもそもデューク達を異世界に飛ばしたのよ? いい加減なこと言わないで!!」


「で、でも……」


「――でもじゃない!!」


 興奮していくヴィの気持ちはわかるネイも、不信感を抱きつつあった。


 しかし、そこにヒューイが長剣の長さを活かし、ヴィとアイシアの間に鞘を前にかざして止める。


「落ち着いて」


「「……」」


 ヴィが話が聞けるようになったのを確認すると、ハイドラスから事情が説明される。


「彼にはいくらか情報を提供してもらっていたのだ。彼自身、中立と語っていたからな」


「そのザーディアスってのを私達が何とかしようと思った矢先に、この事件だもの。困ったものだわ」


 ジード達がザーディアスをとりあえず捕らえるという話だったことを説明する。


 次元魔法を使え、のらりくらりとしたハッキリしない態度と行動を繰り返していたザーディアスを精査したかったのだ。


 その中立と聞いて、ザーディアスと対峙したメルトアは納得していた。


「確かに。あの男は他の三人とは違う雰囲気でした。敵意が無いというか、何というか……」


「実力もSランクの冒険者ということだけで、本来の実力を見れていないのも、問題となっており、態度からも敵か味方かハッキリしないのです」


 だがメルトアは、クルシアに対する何かしらの狙いがあるのだけは、会話から聞いていた。


「ただ……クルシアに対し思い入れがあるようで、少なくともクルシアを裏切る可能性は低いかと考えます」


「思い入れ?」


「はい。私達は彼の次元魔法でこちらへ戻ってこれました。その時、私は少し彼と話す時間がありまして、その時に……」


 逃がされたことも相まって、ハイドラス達の頭を悩ます理由にも納得がいくメルトア。


 ザーディアスの真意のほどを理解してはいないが、側面だけを見れば、そう判断がついた。


「じゃあクルシアを裏切らない、敵として認識するとして実力は? 対峙したんでしょ?」


「ええ。あれほどの大鎌を振り回し、我々三人をあしらえる実力。しかも隙をみて、(さら)えるほどの技量。十分警戒すべき実力者だと認識すべきですね」


 メルトア達どころか、デューク達がいた状態でも余裕を見せていたザーディアスの実力を疑うことはなかった。


 次元魔法を使われ、ペースを作らせてもらえなかったことも考えると、かなりの策士、やり手であった。


「ホント、闇属性持ちって嫌んなっちまうよ……」


 そうぼやいたリンスの言葉に、リリアが青ざめる。


「こ、殺される……」


「は?」


「――わ、私! 闇属性持ちだから殺されるっ!!」


「はあっ!? 殺さねえよ! 落ち着けって」


 ビクビクと怯えるリリアは、リュッカとアイシアに任せ、話は続く。


「ザーディアス殿の性格を考えれば、こちら側にもなってくれそうだが、やはり裏切らないと考えるか?」


「はい」


 そのクルシアの件の話を聞いたのはメルトアのみのため、どうにも判断材料としては苦しいが、クルシア側のアジトにいるのだからと、とりあえず敵と扱うこととした。


「奴らと対峙する場合だが、現段階でとりあえず言えるのは……」


 ハイドラスは申し訳なさそうに視線を送る。


「バザガジールの相手だけはアルビオに任せたい。頼めるか?」


 それを聞いたアルビオが物怖じすることはなく、むしろ望むところだった。


「勿論です。僕に任せて下さい」


 何とも勇ましい物言いに、勇者が板についてきた様子。


 ここにいるみんなが信頼を寄せられるほどであった。


 そして残りの三人に関しては、臨機応変にとなった。


 ドクター、ザーディアスはともかく、クルシアには皆が因縁を持っている。


 クルシアと決着を望む者は多いが、全員でクルシアにかかるわけにもいかないための、とりあえずの妥協案となった。


 そして他に戦力が無いかを尋ねると、感知魔法で奴隷を認識していたヴィが、それを報告。


 ヴィの報告からその奴隷達は戦力として投入されてないと断定された。


 そしてここからが本題となる。


「さて、これで奴らはどう行動を起こすか。目的はリリアを奪うことに変わりないと思うか?」


 リリアはビクンと反応。


 一同は、リリアの事情も知っていることから、否定意見は出なかった。


 異世界に一番精通している人物の確保は、向こうからしても望むところ。


 リリア自身に扉を開けてもらうにせよ、扉を開ける魔法を開発するにせよ、リリアの協力は必須だろう。


 その上で、ハイドラスはもう一つの可能性について、異世界の扉を開けたリリアに尋ねる。


「オルヴェール」


「は、はい」


「クルシアは異世界の扉を開けようとするだろうが、仮にお前を(もち)いない場合、どうやって開けると思う?」


 クルシアがリリアを使わずに異世界の扉を開けようとする可能性を提言する。


 どんな手段でも行うクルシアのことだと、その意見は自然と出てくるものだった。


「や、やはり無理やり開けるだろうと考えます。先の件での通りに行う可能性はあるかと……」


「お前がいない状態でもか?」


 クルシアは儀式型の魔法にして、リリアを媒体とし、魔力と生け贄を捧げることで発動した。


 リリアの媒体をどう確保するのか尋ねると、


「お、おそらく膨大な魔石、もしくは魂を使う可能性があります」


「魂?」


「は、はい。あの魔法陣は元々人を魔力の塵、つまりはエネルギー体にするものでした。私と鬼塚さんが魂を入れ替えたように、魂を魔力にすることで、異世界への橋にするという推測が立てられます」


「待て。ということは、奴らが古代兵器ゴーレムを使う可能性が浮上してくるな」


 ゴーレムの核は魔石。


 人がアジトにできるほどのゴーレムとなると、動かしている核たる魔石も膨大かつ巨大なものだろう。


 媒体にするものとしては十分な代物だろう。


「ですが殿下。そのゴーレムは起動していないのですよね? (トラップ)が動いていないのがその証拠では?」


 アルビオのいうことにも一理あるが、クルシアの場合は、何がなんでも起動させる気がしてならない。


 そう発言したはずのアルビオですら、自信の無い言い方をしていた。


「最悪の方向を見据えておこう。……オルヴェール。他に手段として考えられそうなことはないか? 他の者達もどうだ?」


 するとリュッカが挙手。


「後は原初の魔人でしょうか?」


「……あり得なくは無いが、現在の原初の魔人は獣神王のみ。彼女を利用しようと考えるかは微妙なところだな。ただ崩壊した妖精王はともかく、龍神王の頭と魔石は未だに彼らが持っている。それを使われる可能性はあるか……?」


「なあ? クルシアの目的を潰せないのか?」


 それはそれとして、バークは根本の解決には繋がらないのかと尋ねる。


「あのねぇ。できるなら苦労しないわよ。異世界の扉の開け方を向こうは一応知ってる。そうそう諦めないわよ」


「まああのクルシアの性格ですものね」


 確かに異世界の扉が二度と開かなくする方法があれば、クルシアを大人しくさせられる手段にはなると考えるが、そんな都合の良い手段が思いつかない。


「我々はあくまで阻止しつつ、クルシア達を捕まえる、最悪は殺害も視野に作戦行動に移すだけだ」


「ですね……」


 そして話をまとめることとなった。


「オルヴェール、君はとにかく自分の身の安全の確保と異世界への魔法の完成を急いでほしい」


「は、はい!」


「マルキス達はオルヴェールのことは任せるぞ」


「はい!」


「西大陸の皆様や冒険者各位には、奴らのアジトと思しき場所の調査をお願いしたい」


 そう言われた一同は、一切に返事をした。


「そしてアルビオ。お前もオルヴェールほどではないだろうが、警戒は怠るなよ。オルヴェール同様、できる限り一人は避けろ。いいな?」


「大丈夫ですよ。僕、一人でいることの方が珍しいので……」


 精霊達が常に側にいるアルビオは、確かに一人でいる機会は少ないだろう。


「それと精霊様……」


「わあってるよ。大精霊様に訊いてみる」


「ありがとうございます」


 そして最後に――、


「リンナ殿」


「はい。なんだか本当に申し訳ない。馬鹿娘がそんな厄介なもんを開けなきゃ……」


「いえ。オニヅカが娘さんの身体にいなければ、より酷い状況になっていたかもしれません」


 ハイドラスが初めて鬼塚リリアに接触したのは、アルビオの件だった。


 もし、あれがリリアであったなら、そもそもアイシア達と会っていること自体がなく、アルビオは今でも殻に閉じこもったままだったかもしれない。


「勿論、娘さんが行った自殺(行為)が正しいというわけではありませんが、オニヅカが王都へ赴き、我々を導いてくれたことは事実です。……まあ色々無茶苦茶な奴でしたが……」


「ええ。娘の身体で好き放題やってやがったからな。ったく……」


 その言い方では語弊があるのではと、ハイドラスは苦笑い。


「だがまあ、アイツのおかげでリリアの奴も少しは変わってくれたみたいだし、良かったのかな?」


「マ、ママ……」


「心残りなのは、オニヅカに何も礼を言えることもなく、別れてしまったことか……」


「殿下。デューク達を回収する時にでも言いましょうよ。ね? リリアちゃん」


 ウィルクがウインクをしてリリアに尋ねると、こくこくと一生懸命、首を縦に振った。


 リリアにとっては鬼塚は恩人ではあるが、相対したことはない。


 おそらく機会はそこだけだろう。


「それに俺も言いたいことがあります……」


 なんとなくウィルクが言いたいことには検討がつくハイドラスだが、一応尋ねてみた。


「な、なんだ?」


「リリアちゃんみたいな絶世の美少女になったことの感想などを詳し――ぐぶっ!!」


 ハーディスが腹パン。


「はいはい。そんなくだらないことを聞く時間はないですからねー」


 蹲るウィルクが退けられると、ハイドラスはキリッとした真剣な眼差しで語る。


「我々は彼に……彼らに恩返しせねばならない。この世界は勿論だが、クルシアは向こうの、オニヅカと勇者ケースケ・タナカの故郷すら手にかけようとしている。我々は異世界人である二人に助けられた。今度は我々の番だ!」


 この場の全員が身を引き締める思いだった。


 鬼塚は勿論のことだが、この国や他大陸の紛争を鎮圧することに大きく貢献したケースケ・タナカも然りだった。


 それに報いなければならないと、ハイドラスの想いを受け止める。


「あるべき世界はあるべきままに。いるべき人々はいるべき世界に。デュークとシモンを必ずやこちらの世界へと帰還させ、オニヅカの故郷と縁を断つ! これが正しい道と信じ、皆、行動してもらいたい」


「「「「「はい!!」」」」」


 王都ハーメルトの王族としてもハイドラスは、勇者ケースケ・タナカに恩を返す絶好の機会だと考えた。


 この国の考え方を改めさせ、世界に平和を調律してくれた人物。


 その故郷を侵略させないことはもはや義務とも思えた。


 そしてリリアも――、


「……ママ」


「なんだ?」


「……話があるの」


 リリアもまた鬼塚の恩返しのために、ある決断を母リンナに語るのだった。

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