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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
10章 王都ハーメルト 〜帰ってきた世界と新たなる勇者〜
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14 親子の再会

 

 ――パァン。


 力強くはたかれた平手打ちの音が響く。


 涙目でボロボロと涙を零す娘リリアと物凄い形相で睨む母リンナ。


 この事件に関わったアイシア達やハイドラス達、西大陸のメルトア達や冒険者であるジード達などは、その張り詰めた空気にシンと黙り込む。


 母親の逆鱗の形相は、どんなものよりも恐ろしいものである。


 先程まで絶望感を纏っていたはずのアルビオでさえ、そのことを忘れてしまうように、空気が支配されていた。


 そんな恐ろしい静寂の中、声を発したのは平手打ちを食らったリリアだった。


「ご、ごめんな……さい。ママぁ……」


 怖くて怖くて、震える涙声で謝るリリア。


「――謝って済む問題じゃない!! どれだけの人に迷惑をかけたか、わかっているのか!!」


 バザガジール戦で怪我を負っていた様子など微塵も消えたかのように、親の役割を真っ当する。


 ひっく、ひっくと零れる涙は抑えられるはずもなく、リリアは震え続ける。


「あ、あの――」


 見ていられないと止めようとしたアイシアに、リュッカが肩を掴み、ダメだと首を横に振った。


 親子の間に下手に他人が関わっていい問題ではない。


 この場の誰もがそれをわかっている。


 たとえリリアが物凄く泣いていて可哀想だとしても、それを止めに入る権利は、王族であるハイドラスですら無い。


「リリア、ここにいる皆さんのお陰で、被害は最小限に済んだかもしれない。だけどね! (さら)われた人もいるのよ!! 怪我だってしてるのよ!! これも全部、あんたのせいなのよ!! わかってる!?」


「は、はい!! ほ、本当に、本当にごめんなさい!!」


「私に謝ってんじゃないわよ!! 謝るのは皆さんにでしょうがっ!!」


 ビクッと身体を震わせると、くるりと素早く跪いたまま、ハイドラス達の方を向いた。


「ほ、本当にご迷惑をお掛けしました!!」


「い、いやぁ……」


 この状況で謝られると戸惑いを隠せない一同は苦笑いで返答。


「リリアぁ!!」


「は、はい!!」


 怒鳴り声に反応し、すくっと立ち上がり、ビシッと気をつけをするリリアは目を閉じた。


 まだ怒られる。また叩かれると怖がる。


 でも仕方がないことだとも理解しているリリアは、待ち構えていると、



「……無事で、無事で……良かったよ。リリア……」



 そっと抱きしめられ、涙声になっているリンナの声を耳元で聞いた。


「マ、ママ……?」


「この馬鹿娘。どれだけ……どれだけ心配したと思ってんのさ」


 普段から怒鳴られてばかりのリリアからすれば、初めて見る母の姿だった。


 その顔は優しく微笑み、嬉し涙を流す姿だった。


「あんたには振り回されるばっかりで、親なのにあんたの気持ちなんてわかってなくて……。あんたのせいだって言ったけど、本当は私達のせいなんだよな。……あんたをしっかり育ててやれなかった私達の責任なんだよな」


 そう言うと、再び抱きしめる。


「ごめんな、リリア」


 リリアはやっと気付いた。


 母は母なりに、自分のことを考えてくれたことに。


 いつも怒鳴り散らしては、ああすればいい、こうすればいいと自分に出来ないことばかりを押し付けてくる、嫌な母親だと思っていた。


 けれどそれは母なりの優しさであり、自分のことを考えての発言と行動だったのたと、優しい母親の表情を見て理解した。


「ううん、私こそ、ごめんなさい!! 本当に……本当にごめんなさいっ!!」


 自分はそんな母をわかろうとしなかった。


 恐ろしくて、怖くて、目の前のことしか見えていなかった。目に見える優しさだけを欲しさに自殺未遂を繰り返していた。


 そのことを浅はかだったと強く反省する。


 二人は色んな想いが交錯する中で抱き合いながら、再会を暖かい涙で分かち合う。


 その光景には一同も悪い結果だけではなかったと安堵する――。


 ひとしきり泣いた二人。リンナは目を赤くしながらも、深く頭を下げた。


「皆さん、この度は本当にこの馬鹿娘が申し訳ありませんでした」


 リンナはリリアの頭も思いっきり下げさせている。


「謝って許されるものだと思っていません。ですがケジメの一つとして謝らせて下さい。本当に申し訳ありませんでした」


 リリアもリンナに続くように謝ろうとするも、


「も、申し訳……」


「――声が小さい!!」


「ひいっ!? も、申し訳ありませんでした!!」


 気の小ささを指摘されるように怒鳴られる。


「いや、もう大丈夫だ。そんなに謝られても困る。なあ?」


 ハイドラスは一同に同意を求めるとみんな、こくりと頷いた。


「ありがとうございます」


「あ、ありがとう、ございます」


 ――これは異世界の扉が開いた事件の後始末をある程度まで終えて、これからの対策を練るために集まった場での最初の出来事。


 良かれと思ってハーディスが事後処理の最中に報告したところ、談話室にてリンナが待ち伏せていたのだった。


 かの事件の情報は新手の魔術師によるテロ事件だと、とりあえず民衆には説明された。


 実際、雇われた冒険者が魔法を行使していたため、間違った説明はされていない。


 その冒険者のことはジード達が調べることとなり、事後処理中にハセンとも話がつけられたが、クルシア達の根回しがどこまであったのか突き止めることは、彼らのやり口から難しいと判断された。


 アルヴィの王都内に張り巡らせた木の根は、地脈に巡らされていた術式を解くと同時に、魔力も正常化された。


 木の根もそのあとは魔力へと還元され、塵と消えた。


 事件関係者以外の怪我人はほぼおらず、落ちて来た木片にぶつかったくらいの軽傷者はちらほらいたようだ。


 そして関係者の被害は、全員怪我を負ったが、応急処置が良かったのか、すぐに回復している。


 アイシアのドラゴン達も治癒能力は早く、現在は万全というわけではないが、近々全快するとのこと。


 ただシドニエだけは右腕を切断されたため、この場にはいない。


 怪我の具合は幸い、クルシアの腕が良かった影響もあり、綺麗に切断された腕は見事に再生魔法による治療で回復した。


 しかし出血量が酷く、今は王城内の救護室にて看病を受けている。


 そこにはシドニエのご両親は勿論、幼馴染であるミルアとユニファーニも駆けつけた。


 ハイドラスは事の真相は極力話さずに説明した。


 クルシアと接触歴のあるミルアとユニファーニはともかく、シドニエの両親にそんな話はできなかった。


 そして――、


「さて、では……これからの対策について話し合おうと思う」


 進行は基本ハイドラスが行い、長い話になりそうだと大きめな談話室を借り、全員着席するかたちとなった。


 さすがに子供のオウラとエミリには話に参加させるわけにはいかず、アネリスと留守番というかたちでギルドへと戻っている。


 そして異世界の話を知らないメルトア達にも話が通りやすいようにと、そのあたりの話を他言無用を条件に話した。


 すると三人はまるで夢物語でも語っているかのようだと、目を丸くして聞いていたが、一応納得した上で飲み込んでくれた。


「――優先して話したいことは、やはり飛ばされたデュークとシモンについてだろう。ナチュタルの時のような迷宮(ダンジョン)とは訳が違う。別世界という話だからな」


「その節はご迷惑をお掛けしました」


「「「……」」」


 すると視線を向けられる対象は自然とリリアの方へと向く。


 注目される度にビクッと反応するリリアには、イライラする人もいるようで、


「いちいちビクビクしない!」


「は、はい! ママ!」


「それで? リリアから異世界のことを聞かないとなのよね?」


 そうジトッと視線を向けたサニラに対し、オドオドとリンナの後ろに隠れる。


「何でそんな怖いものを見るような目で見るのよ! 私、何もしてないでしょうが!」


「ひいっ!? ご、ごめんなさい!」


 ハイドラス達は、リリアの苦手なタイプの人間が理解できた。


 リンナやサニラのような強気な女性とは相性が悪いことを。


「ま、仕方ねえって。お前みたいなガサツ女を怖がるのは仕方な――いぎっ!!」


「誰がガサツですってぇ!!」


 デリカシーゼロ男(バーク)は火に油を注ぐことが好きなようで、相変わらずのやり取りを見せると、リリアは余計にサニラに怯える。


「痛い、痛い」


 盾にされているリンナは、ギュッと肩を握られており、一向に止める気配がないので、


「痛いっつってんだろがっ!!」


「ひいっ!!」


 リリアはピューっと逃げ出し、一番優しそうなリュッカの背後に避難。


「あっ! てめえ、リュッカちゃんの後ろに隠れてんじゃねえ!」


「ま、まあまあ……」


「あー……おほん。話を続けていいかな?」


 収拾がつかないとハイドラスがその場を(いさ)める。


「オルヴェールはまだこちらに戻ってきたばかりであり、彼女の性格も考えれば、我々との接し方にも課題はあるものだ、大目に見てやってほしい」


「は、はい」


「リンナ殿も。娘の教育方針について我々が口を出すお話でないことは承知しておりますが、そのような事情がありますし、何より優先されるのは今後の対策です。娘さんは再び狙われることでしょうし、デュークやシモンの件もあります。今、この場では彼女のペースに委ねては頂けませんか?」


「か、重ね重ね申し訳ありません、殿下」


 さすがはハイドラス殿下だと感心が深まると、そのハイドラスが改めて対策の場の舵取りを行う。


「さて、改めてデュークとシモンについてだが……オルヴェール」


「は、はい」


「異世界に関することは、もうお前に頼る他ない。率直な意見を頼むぞ」


「は、はい……」


 ある程度は鬼塚リリアから聞いてはいるが、理解の領域には達していない。


 だから判断基準を出すにもリリアから得た情報のみに頼るしかない。


「単刀直入に訊くが、あちらから戻ってくることは難しいか?」


 リリアはチラチラと二人の関係者の表情を窺っている。


 その窺われているアルビオ達は、不安を与えないよう微笑んだが、無理がある笑みであったことは、リリアにもわかった。


 すると、


「オルヴェール。この場合、答えを濁される方が後で当人達に堪える。ハッキリ言い切ってくれ。出来れば具体的な理由もつけてくれると有り難い」


 言われてみればとリリアは少し俯くと、ゆっくり口を開いた。


「……そ、その、無理、ですね」


「「「……」」」


 一同は落胆するが、特に落ち込んだのはやはりアルビオ、ヴィ、ネイの三人だが、一応希望は無いのか、鬼塚リリアの話からハイドラスは推察する。


「本当に無理なのか? 向こうの世界ではかなり文明が進んでいると聞いている。世界の人間と情報を共有できるとか、北大陸の汽車よりも早く動く汽車だとか、電気で色んな便利な道具を使えるとか、色々聞いたが……」


「確か……月に行くことができたって、リリィ言ってたよね?」


「うん」


 そこまでのことができるならと、期待を持てるはずだが、リリアの表情は一向に変わることはない。


「た、確かに月に行くことも、インターネットなどで世界中の方と交流も可能ですが、い、異世界に行く技術は、さすがに発展していません」


「月には行けるのに異世界には行けないなんて、変な話ね」


「え、えっとですね。つ、月は行く目的があったから、行くための技術者などが集まったのです」


「目的?」


「は、はい。宇宙開発が主ですかね……」


 聞き慣れない単語がちらほらと出てきて、バークやフェルサといった考えることが苦手なタイプの人達は、眉間にしわを寄せ始めた。


 その宇宙開発の話もリリアはネットで調べた情報を話すも、なんとか理解に近づけたのはハイドラスやジードくらいで、他の人達はお手上げの様子。


「チキュウ? カセイ? エイセイ? ああああっ!! 訳わかない!!」


「リリア、あんたは理解したの?」


「う、うん。まあ……面白い話だなぁって」


「……あんたもいつの間にか、染まったねぇ」


 リリアが色んな意味で向こうに順応していたようで安心した反面、わけのわからない単語を口にするようになったことには不安を覚えたリンナであった。


「つまりは宇宙開発は、より地球という環境を調査することや、地球が無くなった場合の移住目的として、進められている計画ではあるが、異世界などという不特定なものには技術費用が落ちないという話か?」


「は、はい。そんな感じです」


「殿下、よくわかりましたね……」


「いや、私も話半分くらいしか理解できていないが、要するには我々だって魔物などを討伐する際に必要な魔法技術は開発するが、異世界などという世界があるとは知らなかったから、そんな次元魔法を開発しようとは思わなかったということだ」


「「「「「な、なるほど……」」」」」


 そう説明されれば納得できると、一同呆然。


 不特定なものに研究をしようと考える人間はいなくもないが、やはり成果が目に見えないと気力が持たないのも事実だろう。


 異世界なんてものは特にその代表格的な存在であろう。


 現代世界(むこう)からすれば作り話。こちらからすればもはや未知の領域。


 金や労力をかけてまでやる事業ではない。


「あ、後は、向こうの世界には魔力がありません。……というより、魔力を感じない? ですかね? とにかく魔法が使用できません」


「それはオニヅカからも聞いていたが……そうか」


「つまりはそんな技術は無いし、魔法も使えないから、向こうからは無理ってこと……であってる?」


 そう言うとリュッカは後ろにひょこっと顔を出しているリリアに尋ねると、ぶんぶんと頭を縦に振った。


「となるとやはり、リリアさんが誤って作られた魔法陣による魔法でなければ、異世界への門を開けるのは実質不可能ということですかね?」


「後はクルシアが無理やり作った魔法な」


「なら直ぐにでもそれを使って、兄さん達を……」


「まあ待て、アルビオ」


 不特定な世界へ飛ばされることには、大きな不安がのしかかっていくアルビオ。


 その不安や焦りはネイやヴィにも伝染するように、表情は沈んでいく。


「どうだ、オルヴェール? 異世界の扉の魔法、完成させられるか?」


「た、多分大丈夫です。い、一週間ほど時間を下されば……」


「そうか、一週間ほどか……」


「「「「「一週間!?」」」」」


 人差し指同士をつんつんしながら、自信が無さそうに答えるリリアに皆は驚愕する。


 その驚きにリリアはリュッカの後ろで怯えて顔を隠す。


「ごめんなさいごめんなさい。一週間はかかり過ぎですよね? 本当にごめんなさい。役立たずでごめんなさい」


「ち、違いますわ。異世界への魔法を一週間だけで修正できることに驚いたのですわ」


「そ、そんな……! わ、私なんてそんなことしかできないし……」


 そのできることが異常な割にオドオドと卑屈な彼女のことを知りたいと、ハイドラスは視線を母親に向けた。


「リリアは昔から本を読み漁ったり、魔法を研究するのとか、やってたからね。私は友達(ダチ)作れって散々言ってたんだがな」


 正直それだけで成せるものでもないだろうがと、ハイドラスはリリアの才能に目をかける。


 思えばシャドー・ストーカーのオリジナル化やシャドー・ナイトメア・ドールの使い方、クルシア達を追い込む際の瞬時に立てた計画性と分析能力。


 かなりの才覚だけでなく、頭の回転も速いことから、意見を煽ぐ。


「オルヴェール、これを見て欲しい」


 そう言って見せたのは記憶石。


 そこに映っていた映像は、鬼塚リリアの近くに異世界の穴が開いた瞬間だった。


 そしてハイドラスはその穴の部分に注目して欲しいと言う。


「ここの景色だが、見覚えはあるか?」


「……は、はい。あります。お、鬼塚さんの国の建物、ですね」


「そうか。ではオルヴェール。この近くに鬼塚はいると思うか?」


 一同は質問の意味を理解しかねるが、リリアはその質問の意図を理解していた。


「い、いいえ。鬼塚さんだった私は、家に引きこもって、ました。こんな人の多い場所には行きません」


「やはりか……」


 何かに納得したハイドラスに、わかるよう説明して欲しいと尋ねられると、リリアが答えた。


「ハ、ハーメルト殿下が仰りたいことは、デュークさんとシモンさんという方が、鬼塚さんの近くに飛ばされていない可能性を示唆されたことかと……」


「それって何かマズいの?」


「よく考えてみろ、マルキス。おそらくオルヴェールの魔法は、オニヅカとオルヴェールを繋ぐかたちで発動されると考えられる。そうだな?」


 リリアはこくり。


「となればデューク達が帰還する条件として、向こうに戻っているだろうオニヅカとの合流が必須条件になる。だが……」


「――そうか! 兄さん達が飛ばされたところに、オニヅカさんが確認されてない」


「接触してない可能性が高く、戻ってこれる確率は低い……」


 これから開発されるであろうリリアの魔法は、魂の入れ替えの件を考えても、異世界の穴が出来るのはリリアと鬼塚の側である可能性が高い。


 だからデューク達には鬼塚と接触し、合流していることが帰還条件となるのだが、ハイドラス達がそれを知る術はない。


「じゃ、じゃあデューク達の側に開けられるよう、改良すれば……」


「無茶を言うなぁ。……どうだ?」


 ハイドラスは一応、その無茶振りも尋ねてみるが、リリアは激しく首を横に振った。


「そ、それは非常に難しいです。向こうにいるデュークさん達の情報が無いと……。そ、それにそんな条件を加えると、魔法の開発にどれだけの時間がかかるか、わかりません」


 リリアはあくまで鬼塚との座標があり、魂の連結が成立しているからできる魔法。


 最低限、デューク達の異世界での座標がわからなければ発動は困難だと語る。


「で、でもクルシアって奴は出来たじゃない!?」


「ネイ殿。それこそ無茶だ。クルシアはオルヴェールを鍵とし、雇われた冒険者を供物とし、地脈を無理やり干渉させてやっと発動させたものだ。しかも先程の映像の通り、不特定の場所に開くようだ。媒介としていたのがオルヴェールであったから、オニヅカの国に開いただろうが、オニヅカの国がどれだけ広いのか、どのような場所に行き着くのか、我々には検討もつかないことなのだ」


「……!」


 ヴィとネイは二人の説得を受け、悔しそうに視線を落とした。


「なら一番考えうる最善の方法は、異世界の扉を開け、鬼塚さんに捜索をお願いすることでしょうか?」


「それが理想だが……」


「そ、そうですが、異世界の扉もあまり開け過ぎるのも、何回も開けるのもリスクが高くなるように、思い、ます。ほ、本来なら繋がるはずのない世界同士を繋いでいるのです。何が起こるか……」


 わざわざ別世界として分けられているところを繋いでいるのだ、世界同士の干渉は、あまりにもリスクが大きいと考えるのは自然なことだった。


 最悪、互いの世界の崩壊まであり得ると考えられていた。


「それを考えれば、開けても一度だけ。しかもできる限り手短に、となると……」


「は、はい。デュークさん達が鬼塚さんと合流、その場にいることは、ハーメルト殿下様の仰る通り、必須条件、です」


 かなり絶望的な条件に、デューク達を特に心配する三人は言葉を失った。


 デューク達は向こうの情報は全く知らない状態で飛ばされている。


 鬼塚のように異世界モノを読んでいた予備知識があるわけでもない。リリアのように鬼塚の友人が側にいたわけでもない。


 言葉は通じるのか? 食料の調達は? 広い世界の中で鬼塚という一人の人間を探し出せるか? 未知の世界で順応していけるのか?


 更にはそれをクリアできたとしても、こちらが異世界の扉を開けるタイミングでデューク達がいる確率はどれほどのものだろうか。


 デューク達が与えられた状況を想像するのに、これだけでも足りないほどの絶望があった。


 そんな酷く落ち込む三人に、朗報をとばかりにリリアはある可能性を提示する。


「あ、あの……でも、合流できる可能性もちゃんとあります」


「「「!!」」」


「ほ、本当ですか!?」


 アルビオはテーブルを強く叩いて是非を問うが、その音に驚いたリリアはリュッカの後ろに引っ込んだ。


「アルビオ……」


「す、すみません、殿下」


 怯えたリリアに大丈夫だからと諭すと、その内容を話してくれた。


「え、えっと……向こうでデュークさん達が犯罪者になれば、見つけてもらえる可能性が、あります」


「……は?」


 さすがに一同は、何を言っているのかと疑心の眼差しを向ける。


 それを機敏に受け取ったリリアが怯えないはずもなく、リュッカの後ろで酷く震える。


「おい! リリア! ふざけたこと言ってんじゃねえ!! お前のせいでデュークさん達は異世界に飛ばされたってのに、犯罪者になれってどういうことだ!! 隠れてないで出てこい!!」


「――いやぁーっ!!」


 その光景は入学試験の時に見たことがあると、アイシア達は、あーっと納得した。


 そんなリンナの暴走をハイドラスが抑えると、その真意を尋ねる。


「具体的に説明してくれ」


「は、はい。その、向こうではテレビやインターネットで沢山の方が情報を共有できます」


「言ってたわね」


「はい。なので犯罪者の情報も流れるんです。名前付きで……」


「なるほど。つまりはオニヅカがそれを確認すれば、その捕まえた機関に面会を求めれば、合流も可能になるかもしれないと?」


「それは少し難しいかもしれませんが、向こうでは監視カメラなど、あらゆる場所の情報が撮影できています。その報道が速報で流れれば、鬼塚さんが警察より先に見つけて、保護される可能性があります」


「かんしかめら?」


 リリアは先程の記憶石を指さした。


 これと同じ機能なのかと尋ねると、大体そんな感じだと説明。


「でも兄さん達が犯罪を犯すかどうか……。かなり慎重に動いているはずですから、早々には……」


「お、鬼塚さんの国では武器の所持が禁止されており、銃刀法違反となり、犯罪者として扱われます。お、お二人は武器の携帯は?」


「冒険者なんだし、戦ってる最中に飛ばされたんだから、持ってるに決まってるわよ」


「な、なら、デュークさん達の姿を向こうの人が確認しただけで、犯罪者として扱われます」


「「「「「……」」」」」


 それは良いことなのか、悪いことなのか、一同は複雑な心境に陥る。


「な、中々理不尽ですわね。魔物とか盗賊とか、どのように対処する世界なのです?」


「忘れたか? 彼らの世界には魔物は出ない」


「あ……」


「は、はい。そして犯罪者の対処は警察という機関が行います。なので、住民が武器を所持しなくても生活できるのです」


「ほえー……そんな世界もあるんだな」


 リンスは信じられねえと、椅子にもたれながら呟いた。


「でもとりあえずそのおかげで鬼塚さんは兄さん達を見つける可能性はありますが……」


「姿を見せるだけで犯罪者扱いなら、向こうでオニヅカ以外の接触は自殺行為だな」


「「「「「……」」」」」


 あまり絶望的な状況を解決できているとは考えられなかったが、


「ま、まあオニヅカさんが接触できる可能性があるとわかっただけでも良しとしませんか? ねえ、殿下」


「そ、そうだな。どちらにしてもこちらからは何ともできん。向こうに賭けるしかない」


「は、はい……」


 向こうの状況がわからない以上は、これ以上の話し合いは不毛だと、この話はここまでとなった。

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