08 外道を追い詰めろ
「――ザーディアス!!」
メルトアは、次元の穴に引きずり込んだザーディアスに斬りかかる。
「おっと。危ない、危ない」
「貴様……あの二人をどこへやった?」
次元の穴から多少の景色を見ていたメルトアは、先程のリンスとは違う景色だったことを記憶している。
二人が入ってしまった次元の穴の景色は明らかに外の景色だったからだ。
それに先程の会話を聞く限り、クルシアの指示があったものだと判断。
メルトアは歯を食いしばって悔やむ。
「さあ。俺はクー坊の言う通りにしただけだが、行き先はまあ……検討はついてるがね」
「――その場所を教えなさいって言ってんのよ!」
「そうよ!」
タバコを軽く吹かすザーディアスを、ネイとヴィは険しい表情で迎える。
「おそらくは異世界、銀髪嬢ちゃんの中身がいた世界だ」
「「!?」」
「異世界……? 何の話だ?」
事情をよく知らないメルトアは首を傾げるだけだったが、二人はそのことについては知っている。
「ま、まさか……勇者が元いた世界……?」
「は、はは……冗談、だよね? ――ねえっ!!」
必死に訴えるヴィに、タバコ片手にザーディアスは答える。
「罠の話は説明しただろ? 向こうにも同じ細工がしてあってな。扉が開いたことは――」
耳に入れていた小型の魔石をつつく。
「確認してるから、そこに勇者の血を受け継いだデュークとシモンを投げ込んでみたのよ。結果は……」
耳を澄ませるように魔石の入った耳に首を傾ける。
「……勇者様が嘆いてるあたり、成功したみたいだぜ? もうこの世界にはいない」
「……っ!?」
「そ、そんな……」
絶望して崩れる二人を見下ろすと、メルトアは再び剣を構えて尋ねる。
「わかるように説明しろ!! ザーディアス!!」
「お嬢ちゃんが知る必要はねえことだ。それより……」
別の場所で激しい戦闘音が鳴り響いている。
メルトアは暗殺部隊の方で何かあったのかと、軽く視線を向けると、
「!」
ザーディアスから何かを投げられた。
敵意を向けられていなかったことから、軽くパシッと受け取る。
「魔石?」
「そ。俺の次元魔法を感知する魔石だ。何かの役に立つかもって、ちょっと前にドクターに作ってもらったもんだ」
こんな物を渡す理由がまったく浮かばなかったメルトアだったが、
「撤退しな。クー坊の思い通りにされたくないんだろ?」
「「「!?」」」
更にわからなくなり、絶望に伏せていたネイとヴィも思わず顔を上げる。
「何のつもりだ?」
「このアジトのドクターの監視の死角になってる場所に脱出用の次元の穴を開けといた。……十分まで開けといてやる。逃げな」
「だから! 何のつもりだと訊いている!?」
優位性は圧倒的にクルシアサイドであるザーディアスであるこの状況に、この矛盾した行動には苛立ちすら覚えるメルトア。
ネイとヴィも怖い顔をして睨むが、
「まあ一方的過ぎるのもどうかなと思っただけさ。ここはゴーレムの中、つまりはドクターの胃袋の中みたいなもんよ。今、向こうでの爆発音はおそらく、暗殺部隊側が追われてんだろ? 無事に逃げ出す方法は用意してたのか?」
「そ、それは……」
各部隊に一つずつ、向こうの転移魔法陣と繋がる転移石を用意しているが、向こうの状況がわからないことには、こちらだけで逃げるわけにいかないメルトア達。
「それにドクターは、お前さんらを捕まえる気満々みたいだからな。厄介なのに追いかけられてるはずだ、さっさと行ってやりな」
「……デューク達のことの償いのつもり?」
「ん? まあそれはあわよくばだな」
真意は他にあると含む言い方をするが、受け流し体制な態度のザーディアスがこれ以上を語ることはない。
すると、
『おい、ザーディアス。そちらはどうなってる?』
ザーディアスの元にドクターから連絡が入った。
「あ? どうもこうもない。デューク達を送った隙を狙われて、ちょっと不利な状況になってやがる」
『不利? 貴様がか? 冗談ぬかせ。貴様が遅れをとるなんてことがあるのか?』
「おーおー、こりゃあ過剰な評価を賜り光栄だね」
『そちらに三つほど魔力反応があるのはわかっている。捕獲しろ』
ドクターは精神型。感知魔法の精度も高い。
するとザーディアスは、しっしっとさっさと行くように仕草を取った。
「「「……」」」
三人は顔を見合わすと、その場を後にした。
「あっ! 逃げられた」
『なに? さっさと追いかけろ! こちらに西大陸の女神騎士とやらが二人ほど確認している。そちらに一人、異様な魔力を放つ奴を確認してる。三属性だろ? あれは欲しい』
「へー。ああいう娘が趣味なのか?」
ドクターが女の趣味の話をしていないのはわかりきっていながらの返答に、
『馬鹿ぬかせ。あれは実験体としてはかなり貴重だ。自然体の三属性なんて、そうそう取得できるものではない。前から目は付けてたんだ……』
「異世界はどうなったのよ?」
ドクターの興味が薄れているのかを確認する。
『異世界の件か。それも勿論、興味は尽きぬが、行けない可能性も出てきている』
ザーディアスも通信用の魔石からクルシアの情報は入ってきている。
クルシアやエメラルドの腕が吹き飛んだこと。
『ならば自分の実験を続行するためにも、異世界の技術を応用するためにも、実験体はいくらあっても足りん。私が目指すところは人体における魔石の可能性だからな』
ザーディアスは呆れてものが言えなくなっている。
発想が穢れていると否定したアミダエルと同じことを口にしていることに。
だがそんなことを言おうものなら、それこそ面倒。
『まあ異世界に関しては、どちらにしてもクルシアと応相談だ。対応もその時だろう。わかったら、さっさと追いかけろ。奴ら……私の失敗作程度には遅れを取らんようだからな』
するとザーディアスは二本目のタバコを取り出す。
「わかったわかった。ただ……この一本を……吸った後でな」
タバコを味わい、吸う音が聞こえてきたドクターは、
『お前な、こっちは高い金払って雇ってるんだ。給料分は働くのが筋じゃないのか?』
「馬鹿言え、ちゃんと働いただろ? 異世界人の血を継いだ人間なら、異世界の門を通れるって……」
『……』
「それに、俺はお前に雇われてるわけじゃねえ。あくまでクー坊に雇われてんだ。お前さんにそこまでとやかく言われたくない」
『ぐっ……貴様っ』
「まあそう文句言うなよ。一本吸わせてくれって言っただけで、追いかけねえとは言ってねえだろ? そう急かすな」
『ならさっさと吸って、回収してこい! いいな!?』
そう吐き捨てると、ぶつんと切れた。
「やれやれ……」
ザーディアスはゆっくりと味わいながら黄昏れる。
「さて、どうしたもんかねえ……」
***
一方で、暗殺部隊の方はドクターの話を聞き終え、失敗作をある程度蹴散らし、道を開けると、陽動部隊との合流を目指す。
「完全にしてやられた」
「ええ。リリアさん達、ご無事だと良いのですが……」
「他人の心配は後。今は自分の心配」
そう言ったフェルサは向かい来る人体魔石を迎え討つ。
実際フェルサの言う通り、ここは敵の本拠地。しかも罠だと嵌められた後を追われている状態。
かなり無理がある状況に、他人を気遣う余裕はない。
現在、複数のドクター制作の狼型のゴーレムと、二体の人体魔石が、ナタル達を追いかける。
しかもこの二体の人体魔石は戦えば戦うほど、厄介さが身に染みて理解を深めていく。
ドクターの説明があった通り、ほぼ無尽蔵に戦うことが可能。強度や攻撃力は言わずもがな強力であり、ゴーレムであるため、戦うことへの恐怖心も無し。
挙句大量の魔力を循環させているせいか、移動速度も速く、四足歩行であり、速さを追求した狼型のゴーレムさえもあっさりと抜き去って襲ってくる始末。
更に言えば、人間の時だった属性も付与されているせいか、そのあたりの魔法を無詠唱で発動してくるなど、
「――このクソゴーレム……っ!」
元が人間だけに胸糞悪いと顔面を蹴るフェルサだが、
「……っ!?」
ガシッと掴まれて、そのまま投げ飛ばされた。
「くっ……!」
「――フォロー・ウィンド!」
フェルサが受け身を取れるようにナタルがカバー。
「ありがと」
「構いませんが……逃げ切れる気がしませんわね」
ヒューイも女性型人体魔石を相手取るが、こちらも苦戦を強いている。
「……」
むすっとした表情で、ジトリと見る先には凍りついている女性型人体魔石だが、バキバキと簡単に壊して襲ってくる。
ヒューイは何とか有利な距離を保とうと、長剣のリーチを活かし、女性型人体魔石の拳を捌くと、
「こなくそおっ!!」
そこにリンスが参戦。
「リンス……」
「この裸のマネキンをぶっ壊せばいいんだろ? ――おっ!?」
リンスの大剣の奇襲にもゴーレムである女性型人体魔石が怯むはずもなく、殴りかかった。
「邪魔」
ヒューイはひゅんっと一凪すると、女性型人体魔石を吹き飛ばし、ついでにそばにいたリンスも飛ばした。
「てめっ……ヒューイ!!」
「こっちのペース、乱さな――」
女性型人体魔石は、すぐに体勢を立て直していたのか、もうヒューイの側まで来ていた。
「!?」
そしてヒューイの小さな身体を抉るように、スクリューナックル。
「――あがぁあっ!?」
「――ヒューイっ!?」
口数が少なく、大人しいヒューイからは聞いたことがない痛みに苦しむ悲痛の叫び。
そのまま殴り飛ばされたヒューイは力無く地面に転がると、
「がほっ! ごほっ!」
苦しそうに咳き込み倒れ込んだ。
そんな隙を逃すわけもない女性型人体魔石と狼型のゴーレムは襲いかかる。
「――ざっけんなぁああっ!!」
リンスの大剣から、ゴオオオっと轟音を鳴らしながら、激しい炎がヒューイを守る。
「このクソゴーレム共! てめぇらの相手はこのアタシだ!」
ヒューイの怪我の責任を取るためか、庇うように前へ。
「リンス……」
「へっ、今度は邪魔とは言わせねえぜ。……悪かったな」
するとその健闘っぷりに拍手が送られる。
「いやはや素晴らしい。さすがは私が作ったゴーレム達だ。これだけの戦闘能力があるとわかっただけでも十分な成果だ」
「ドクター……」
「追いついたぞ。さて、せっかく来てくれたのだ、是非、私の実験に付き合ってもらいたい」
「さっきから散々付き合ってんでしょうが!!」
するとドクターは何食わぬ顔をして、不思議なことを言うと首を傾げる。
「ここに入り込んだ時点で、君らの未来は決定している。私の実験体になるか、我らの世話係をするかの二択だ」
「ふざけるんじゃありませんわ。そんなの死んでもごめんですわ」
「そうか? なら死んでくれて結構。お前の代わりなどいくらでもいる」
相変わらず他人に無関心な態度を取るドクターの前に、陽動部隊が姿を見せた。
「リンス! ヒューイ!」
「メルか!?」
「メル……」
倒れているヒューイに駆け寄るメルトア達は、ドクター率いるゴーレム達に対し、戦闘態勢を取る。
「おやおや、これは三属性。初めて見るな」
ドクターはメルトアを物を品定めをするような視線を向ける。
「気味が悪い男だ。何者だ?」
「ドクターっていうイカれ野郎」
「……そうか」
ヒューイから珍しく暴言を聞いたと、少し目を丸くして驚くが、この後、それについて納得することとなる。
「ザーディアスはどうした? 倒したか?」
「わざとか? 貴様と会話をしていただろ?」
「そうだったな」
ドクターは陽動部隊の服装を見る。
その汚れ具合から、どんな戦闘を行なってきたのかを推測する。
メルトア達は、走ってきたせいもあって軽く息切れしているが、目立った損傷や服の汚れが目立たないことから、軽くあしらっていたことに気付く。
「チッ。適当に仕事しやがって……まあいい」
ザーディアスが真面目に仕事をやることなど、最初から期待していなかったとぼやくと、
「よく来たな、三属性。歓迎するよ」
「さっきから失礼ね。人のことをまるで物みたいに扱って」
三属性という言い方が、そもそも礼儀がなってないと不快感を募らせるメルトアだが、その不快感は更に増していく。
「そうだが? 何か問題でも?」
「イカれてるでしょ?」
「そのようね」
メルトアは半透明の裸の男女のゴーレムを見る。
狼型のゴーレムも物珍しいが、それ以上にとてつもない魔力を放つ二体のゴーレムには、酷く警戒する。
人体魔石達もドクターの指示があるまで動かないようだ。
「まあ貴様のような自然体の三属性はかなり希少なのだ。わかるだろ?」
魔物であれば、複数の属性を持つことは珍しくないが、人種の複数の属性持ちは稀である。
しかもドクターのように魔物化を促し、属性を付与したものではない、自然体は更に貴重である。
更には、
「しかも貴様は女だ。さぞかし質の良い実験体を産んでくれることだろう」
狂った研究者の中には、女性を孕み袋として扱うという外道も存在する。
このドクターがそれかと問われると、その限りではなかった。
「産むって貴方……!!」
「何だ? 何か間違っているか? 女という生き物は本当に素晴らしい。感受性が非常に豊かで、痛みにも強く、内包する魔力も男性より非常になだらかである。加えて生命まで生み出してくれる……これほど貴重な実験体があるか?」
ドクターにとっての女性という評価は、あくまで実験を優位に進められる被験体。
感受性が豊かというのは、実験とされた時の反応などが男性よりわかりやすいこと。
痛みに強いことも実験での生存率が男性より高いこと。
内包する魔力についてと、子供を産むことに関してはもはや説明不要だろう。
そんな頭のイカれっぷりに、ナタル達は軽蔑の視線を向ける。
「……貴方、下品な挙句、最低ですわね」
「下品? 私がか? 私は人類の可能性、そして魔石による文明の進化を追求するために、より効率的な手段を取っているに過ぎない。そして……異世界の技術も手にすることができれば、更なる文明の進化を――」
「黙れ。そのために、無下に命を捨てろというのか?」
メルトアは人体魔石を見た。
人を人と思わず、女性侵害とも取れる発言をするドクターから判断するのであれば、明らかに人間を使った物だと判断できる。
「別に捨てろとは言ってない。人類の、文明の進化のために協力しろと言っているだけだ」
「そのために私達を捕まえて、実験体を産む製造機にでもするのかしら?」
先程の発言を考えれば、そんな最低なことしか思い浮かばない。
すると当然だろと鼻で笑った。
「ああ。お前達だって喜ばしいだろ? 女として子を産み、その子供らは人類の進化のために使われる。これ以上の幸せはないだろ?」
「お話にならないわよっ!! この腐れ外道野郎っ!!」
ヴィは苛立ちを吐き捨てるように、氷の石柱を空気中に一瞬で作ると、そのままドクター目掛けて突き飛ばす。
だが、男性型人体魔石がその石柱を真正面から殴って粉砕。
「なっ!?」
するとヒュッと全員を抜き去り、一番後ろにいたヴィに、女性陣人体魔石が殴りかかる。
「あー……お前のような換えのきく女は要らん。逆らうなら殺すだけだ」
「――ヴィっ!!」
しかし、その拳にメルトアが反応した。
「――はああっ!!」
振りかぶっていた腕をそのまま切り落としたのだ。
腕が無くなったことを瞬時に理解した女性陣人体魔石は、バシッと取れた腕を掴むと、後退していく。
「逃すか!!」
メルトアはあれを放っておくわけにはいかないと追撃。
すると男性型人体魔石と狼型のゴーレムが一斉にかかる。
「お前達。逆らう女共は半殺しにしろ。三属性はできる限り、傷物にするな」
再び乱戦になるが、メルトアはこんなクズ野郎相手なら、全力でやっても構わんだろうとほくそ笑む。
「リンス、ヒューイ、いける?」
「アタシはバッチリ!」
「まあ、大丈夫」
「それならいこう! 女神騎士と呼ばれた実力、そして女の強さというものを、あの眼鏡にわからせる」
「おう!」
「ん」
すると三人とも付与魔法を施すと、女性型人体魔石に向かって走り出す。
「そちらの人型ゴーレムは任せます!」
そう言われたネイ、ヴィ、ナタル、フェルサは男性型人体魔石を見た。
「任されましたわ!」
「行く!」
フェルサは翔歩で一気に距離を詰めると、渾身の蹴りをお見舞いする。
「んっ!!」
だが相変わらず反応速度が早く、簡単に防がれてしまうが、
「こちらはどうです!」
同じ近接型のネイが拳を打ち込む。
さすがに同時には受けられず、少し後退するように飛ばされるが、反応が鈍っていないところを見ると、あまり効いていないと判断できる。
「硬いですね」
「獣人である私の攻撃でもびくともしない。挙句、反応速度は早いし、予測能力もある」
フェルサが指摘しているのは、人体魔石のサーチ能力。
フェルサがいくら撹乱するように周りを飛び回っても、簡単に仕掛けるの方向を読まれ、防がれ続けている。
そのサーチ能力の原因を見つけない限りは正気は無いと考える。
フェルサとネイは果敢に男性型人体魔石に何度も攻撃するも、防がれ、躱されを繰り返している。
そんな戦闘を観察する二人は、その弱点を見破ろうと意見を言い合う。
「あの胸糞悪いむっつり眼鏡のあのスカした顔をぶん殴ってやりたい」
「それを行なうためには、あの人体魔石をどうにかせねばなりません。やはり見たところ、弱点らしい弱点は見当たりませんわね」
ナタルはヴィよりも人体魔石の相手をし、観察していてが、残念ながら見つけられていない。
フェルサとネイとの戦いをフォローしつつ、何かないかと探す中で、ヴィが疑問を口にする。
「ねえ? あの人体魔石だっけ? アイツらはどうやってこっちを判断してるの?」
その質問がされる理由には納得がいったナタル。
どちらの人体魔石も半透明の石像。
視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚を利用し、人間のみならず生物はあらゆるものを認識する。
つまりは五感能力が無いのだ。
ならば人体魔石はどうやってこちらを正確に探知するのか。
答えは簡単に見つかった。
「おそらく魔力ですわ。私達を魔力の塊と感知して、行動を起こしているのですわ」
人体魔石は九割が魔力で出来ているとドクターは話していた。
つまり細かな魔力の感知も朝飯前だと気付く。
それならば瞬時な対応を求められる戦闘であっても遅れはとらない。
「つまりは感知魔法?」
「ええ。それもかなり高度なヤツ……」
押され気味になってきたフェルサとネイを見て居ると、その正確さに頷ける。
するとナタルが閃いた。
「そうですわ……! ヴィさん!」
「な、なに?」
「感知魔法は使えますわよね?」
「当たり前でしょ? 基本中の基本」
「ならいいですわ。二人同時に感知魔法を発動しますわ」
「はあ? な、何で……」
「いいから早く!」
ヴィは言われた通りに地面に杖を突き立て、感知魔法を発動。
するとナタルも感知魔法を発動。
「これ……何の意味が……」
「いいから、感知魔法を乱発して!」
「ああん! もう!」
訳がわからないと叫ぶヴィと何か狙いがあるナタルは、感知魔法を発動しては消して、発動しては消しての繰り返しを行なっていた。
すると人体魔石に異常が発生する。
「ん!!」
「はあっ!!」
フェルサとネイの攻撃が当たったのだ。
今まで手応えらしい手応えがなく、周りを飛び回るだけだった二人は、ここぞとばかりに攻めまくる。
その様子を異常だと捉えたのはドクター。
「馬鹿な……っ」
今まで無双の勢いまであったはずの人体魔石の挙動がおかしい。
まるで急にポンコツになったのだ。
ドクターはその原因を、人体魔石化の方から紐解いていくが、そのよく回る頭が逆に妨げになっていた。
すると、
「――セイクリッド・セイヴァーっ!!」
光の一撃が動きの鈍った人体魔石に直撃すると、粉々に粉砕されていく。
「「はああああっ!!」」
フェルサとネイの渾身の一撃もしっかりと的中し、お腹を貫き粉砕した。
その様子をイラついた様子でナタル達を見る。
「貴様らぁ……! 何をした?」
「あら? ドクターという名を与えられて居るから、てっきり気付いているものかと……」
するとナタルは、はんっと鼻で笑った。
「とんだ無能ですわね」
「何だと……!!」
残った狼型のゴーレムにもメルトア達が奮起する中、ナタルはご丁寧にわざとらしくドクターに説明する。
「貴方ご自慢のゴーレムがどう我々を判断しているか、その答えさえわかれば、脅威でもなんでもありませんでしたわ」
「どういうこと?」
横では協力させられながらも、まだよくわかっていないヴィも聞き入る。
「当然ではありますが、ゴーレムには五感がありません。ならば攻撃対象者をどう判断されているのかを考えましたの。すると答えは一つ、魔力の感知ですわ」
「!?」
これを聞いた時点でドクターはナタルのしたことに気付いた。
「貴様……私の人体魔石に偽の情報を送り付けたな!」
正確には違うのだが、
「まあその通りですわね」
そう肯定した。
しかし隣のヴィが納得いっていない。
自分はあくまで感知魔法を発動と消すを繰り返していただけ。
納得がいかないと、ジッとナタルを見つめると、観念したナタルが説明する。
「簡単ですわ。同じように感知魔法を連発し、人体魔石が発動している魔力感知に干渉したのですわ」
「それでどうして動きが鈍るのよ?」
「つまりはですね、人体魔石は生物機能を持っておりません。そのため、魔力の感知に頼らざるを得ないのです。その魔力感知を妨害されてはどうなります?」
「困るね」
「そういうことですわ」
つまりはナタルは人体魔石が発動している魔力感知に、自分達の感知魔法を乱発することで、感知魔法は自分が発動しているものだと誤認させ、エラーを起こさせていたのだ。
波紋のように連続する感知魔法は、常に情報をアップデートさせられ、判断能力を鈍らせたのだ。
それを聞いていたドクターは、悔しそうに眉間にシワを寄せる。
「お、おのれ……」
「文明の進化でしたか? 随分とお笑い話ですわね。この程度なら……」
ナタルは馬鹿にしたようにドクターを見下した視線を送った後、キリッと真剣な目付きへと変わる。
「ふざけるのも大概になさい!! 人の権利も自由も踏み躙る貴方に、人類の進化? 文明開花? そんなことを口にする資格などありませんわ!!」
すると狼型のゴーレムを全て倒したメルトア達もドクターの前に立ちはだかる。
「人の命を弄び、人体魔石を作り嗤う貴方など――一から人生やり直しなさいなっ!!」




