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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
10章 王都ハーメルト 〜帰ってきた世界と新たなる勇者〜
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03 こちらのリリア事情 そのニ

 

「――取り乱してしまい、申し訳ありませんでした……」


「いや、構わないって……」


 リリアが取り乱していたのは、最初からだからと内心考えた隆成だが、自分についていなかったものが突然生えていると考えれば困惑もする。


 洗濯機を回し、着替えも終え、勝平への自宅にも連絡した隆成達。


 とりあえず今の状態で、そのまま家に帰すわけにもいかなかった。


 何せ中身は『リリア』と名乗っており、男性器に驚き、こちらの常識を知らないときた。


 隆成達は先ず、勝平の家族への対応から話し合いを始めたいが、情報が必要だと判断した。


「さて、詳しい話を訊こうか?」


「は、はい……」


 リリアは語る。


 自殺用の魔法陣を描いていた最中に意識が遠のき、気付いたらここにいて、勝平になっていたと話す。


 正直、これだけでも隆成達は信じ難い話ではあったと驚愕するが、リリアは続けて、自分達の世界について語った。


 それは隆成達が聞いた、見た覚えのあるアニメ、漫画、小説のような世界が語られた。


 剣と魔法の世界、魔物や悪い魔法使いに勇者、亜人種といった人種まで存在し、ギルドというコミュニティまであると。


 隆成は圧倒される一方だったが、大介と慎一郎はそういう話が好きだっただけに、興奮した様子で真剣に聞き入っていた。


 それを踏まえた上で、


「――つまりはその魔法の失敗で、かっちゃんの身体にのりうつっちゃったわけ?」


「お、恐らく……」


 自信を持って肯定できないのはリリア自身、この結果を想定していなかったためであった。


「ほ、本当に申し訳ありませんっ!!」


「俺達に謝られてもなぁ……」


 隆成は困ったように頭をかく一方で、勝平のことなどそっちのけで二人は質問攻めをする。


「なあ! なあ! やっぱりドラゴンとか居んの? 他にはどんな魔法が使えるわけ? やっぱり無詠唱魔法でチートとかやんのかな?」


「ぼ、ぼぼ、僕も興味あります! 向こうの服装や時代背景なんかも世界観には重要ですからね。擬人化する女性とかも居られるのでしょうか?」


「ひい!?」


 リリアは急に迫って来た二人に動揺し、後ずさると隆成にしがみついた。


 ふるふると震えて、顔を背中に隠している。


「おいおい、やめとけって。だいぶ人間不信なところがあるみたいなんだ。頼むから、もう少し抑えてくんね?」


「わ、悪い……」


「それに仮に彼女のいうことが本当なら、本物のかっちゃんはどこ行っちまったんだよ。先ずはそこだろ?」


「ご、ごめんなさい……」


 二人はしゅんと反省の態度を見せる。


 隆成は突拍子もない話でありながらも、現実的に勝平の人格が変わっていることから、本当のことだと認知していた。


 だからなのかもしれないが、隆成は嫌に冷静だ。


「なあリリア。かっちゃん……今のお前の身体の持ち主はどこに行ったかわかるか? それともお前の中で眠ってんのか?」


 隆成はゲームの趣味はあったが、二人のようなオタク脳ではなかった。


 しかし最近勧められて読んでいる本には、二重人格とかもあったりして、入れ替わることが可能だったりするものがあった。


「ご、ごめんなさい。えっとかっちゃんさんは今の私の中にはいません」


「……本気(マジ)かよ」


「そ、それとあくまで予想ですが、私が作った魔法陣は魂を魔力に変換するものでしたが、それの誤作動というのであり、私がこのかっちゃんさんの身体にいるということは、私のその……身体にいる可能が高いと考えられます」


 隆成は勿論だが、二人も薄々はそうかもという予想はあった。


 一つの身体(うつわ)に二つの魂がいるなんてことは、二重人格説からあり得るとは考えられるが、急に魂がその身体(うつわ)に入り込んできた場合、元の魂は弾き出されるのではないかと予想が立てられたのだ。


 そして弾かれ先は、リリアが元々いたところ――つまりはリリアの身体に向かったと予想がつく。


「待て。てことは何だ? かっちゃんの奴、今、女の子になってやがるのか!?」


「な、なな、なんて羨ま……じゃなくて破廉恥な!」


「うーん……」


 二人は羨ましそうな反応をしているが、隆成はむしろ災難なように考えていた。


 魔法がある異世界に一人飛ばされることは勿論だが、そんな状態で性別まで変えられては、そこを楽しむ余裕なんてないと考えていた。


 だがそれはリリア自身もだがと考えた隆成は、


「とりあえずはかっちゃんは無事だと信じるとして、リリアちゃんはどうするの?」


「そ、それは……」


 リリア自身、予想もしていなかったことに、全く当てが無い。


 自殺しようと考えていた人間が、この先のことなんて考えているわけもなく、隆成の目の前で俯くだけだった。


「ちなみに聞くんだけどさ、魔力はあるの?」


 魔法が使える世界から来たということから出た質問。


「……ありません。この身体は勿論ですが、大気からも魔力の気配を一切感じません。……というより、魔力があってもこのかっちゃんさんの身体では感知できないということも考えられます」


「つまり魔法は使えないと?」


「はい。そうなると、元に戻る方法はあっち任せになってしまうので……」


「なるほど……」


 こちらにも霊媒師や神隠しなんてものがある。一概にも魔法が使えないとは言い切れないが、どうしても一般常識から外れている。


 こちらの人間である隆成達は勿論、来たばかりのリリアの判断も考えれば、こちらから元に戻るのは絶望的と言えるだろう。


「じゃあ割り切るしかないな。リリアちゃんはこれからかっちゃんとして生きるしかないな」


「ぴえっ!? そ、そんな……」


「あのなぁ、元々はリリアちゃんが作った魔法陣のせいなんだろ? キツく当たるようだけど、自業自得だよ」


「……」


 リリアは再び俯いた。


 頭の回転の早いリリアには、隆成の言うことはすぐに理解できた。


「そう……ですね。一番迷惑してるのは……かっちゃんさんですよね……」


「……わかってるならいい。それに俺から言わせてもらえば、これは自殺なんて考えたリリアちゃんへの報いなのかもしれないんだ」


「報い……?」


「そうだ。どんな理由があるかは聞かないけどさ、自殺は一番自分も周りも不幸にすることだ。一番やっちゃいけない。だから神様って奴は、他人の……かっちゃんの身体、つまりは他人の命をお前に渡したんだ」


「……!」


「命はそんな簡単に投げ捨てていいもんじゃないってな。まあ、こう考えれば辻褄が合わないか? この状況……」


 リリアは実際、母リンナを始めとする色んな人達に迷惑をかけてきたことに気付く。


 色んなことに怯え、周りの怖いところだけを見て、逃げ続けてきた。そして自殺という行動を取ることで、自分は弱いのだと証明し続けてきたのだ。


 それがどれだけ周りの人達の心労になっているかも知らず。


 そしてそれは形となって現れてしまった。


 誰とも知らない人を巻き込み、自分すらも右も左もわからない世界に飛ばされてしまった。


 このマンションまで歩いてきた景色は全く違う建造物、人口も違う。不安を覚えた。


 だけどたまたま良い人に助け、宥められて、ここにいる。


 隆成の説教は当然のことだと考える。


 何せ、巻き込まれた勝平も自分と同じ状況だからである。


 しかも自分とは違い、どんな経緯でリリアの身体になったのかも不明という状況。


 想像したリリアは、申し訳なさのあまり、涙がボロボロと零れ続ける。


「えっ!?」


「ご、ごべんなさい……ごめんばさい……」


 自分のやった浅はかな行動に、謝罪の言葉を口にし、反省することしかできなかった。


 本来であれば、直ぐにでも巻き込まれた勝平を元に戻さなければならない立場だというのにと、涙しか出せないことに情けなさを感じるリリア。


 さすがにボロ泣きさせるつもりはなかった隆成は、言い過ぎたかと動揺しているところを大介がフォローする。


「だ、大丈夫だって! かっちゃんはファンタジー世界大好きだし、女の子にもなれたんだ、存外楽しんでるかもしれないぞ」


「そ、そうそう、そうですよ! ぼ、僕だったら、嬉しいかな?」


「……ぐす」


 リリアは本当に運が良かったと、慰めてくれる二人と、説教してくれた隆成を見た。


「……本当にご迷惑を掛けて、申し訳ありませんでした」


「お、俺も言い過ぎたよ。悪かった……」


 リリアはふるふると首を振った。


「い、いえ。八葉さんの言う通りだと思います。私……自分のことばかりで、周りのことなんて……まったく見えてなかった。ほ、本当に……ご、ごめんなさい……」


 感極まり、再び涙が出てくる。


「そう思ってくれるなら、もう自殺とかするなよ。もし辛かったら、ちゃんと相談に乗るからよ」


「俺達もな」


「あ、ありがとうございます……」


 途中で説教が入ってしまい、本題から逸れてしまったので、話を戻すこととなった。


「とりあえずこちらからは何もできないから、かっちゃんが戻ってくる方法を見つけない限りは元には戻れない。……なあ? かっちゃん、元に戻る気あると思うか?」


 隆成は不安を口にする。


 何せ勝平はファンタジーモノが大好きだった。


 今頃はもしかしたら、ファイア・ボールなんかを撃って、大興奮し、ぴょんぴょんと跳ね回っているかもしれない。


 勝平の性格や趣味なんかを知る幼馴染の二人も唸って考えると、


「テンプレ展開として、元の世界に帰る手段は模索しつつも、女の子の生活、そして異世界転生ライフを楽しんでいるに違いない」


 大介キメ顔。


「先ずは序盤の展開を考えて、親友ポジションになる女の子を助けて、フラグを立てているに違いない」


 慎一郎キメ顔。


「……お前らは何の話をしてんだ?」


「……て、てんぷれ? ふらぐ?」


 隆成は首を傾げつつも、二人の言いたかったことを推察することができた。


 要するには向こうの世界を満喫している可能性が高く、居心地が良くなり、戻ろうと考えないかもしれないと言いたいのだと考える。


 リリアは聞き慣れない言葉に、目元を真っ赤にしながら首を傾げていた。


「まあ何にせよ、待ちってわけね。なんだったら、リリアちゃんはこの世界で生きること、そして男として生きる覚悟をしておいた方がいいね」


「そ、そう……ですね」


 不安が漏れ出た、覇気の無い返事。


 隆成は当然だろうとリリアを見ながらも、自業自得とはいえ、見過ごせもしなかった。


「まあ、男も楽しいよ。つか、人生やめようとしてたんだ。生まれ変わったと思って楽しんでみなよ」


 暗い気分にさせていた分、少しでも楽観的に考えられれば、気分も晴れるかと言葉を選んだつもりだったが、


「わ、私にかっちゃんさんを演じられるでひょうか?」


 どうも責任を強く感じさせ過ぎたようで、隆成の狙った考えには至ってくれないようだ。


「いや、無理にかっちゃんにならなくていいから。というかかっちゃんさんは変だ。それ、愛称(ニックネーム)だからかっちゃんでいいよ」


「そ、そんな! わ、私みたいな人間が馴れ馴れしい!」


 どうも悲観的な考え方も一朝一夕では変わらないようで、とりあえずは一個ずつ片付けていこうと考える。


「演じる……ではないけど、かっちゃんの両親にどう説明するかだよな?」


「あー……そうだな」


 それを聞いたリリアはビクッと反応すると、再び震え出し、涙が覗き込んで来る。


「これから夏休みだから最悪、うちに夏休みの間、泊まらせることは可能だと思うが……」


 勝平の両親には会ったことのある隆成。


 かなりマイペースで、基本放任主義の子育て法なせいも相まって、夏休み中ずっと遊びたいと入り浸ることを説明しても、オッケーを出してくれそうだと想像できる。


「これじゃあ、ねぇ……」


 あまりにも勝平とかけ離れた性格に、隠し切ることら非常に困難であると本人以外、誰でも想像できた。


 隠し通すにしてもリリアは人見知りが激しく、勝平はこんな挙動不審ではない。


 先程のコンビニ前では、生まれたばかりの小鹿のような状態。


 とてもじゃないが、勝平と言い張るのは無理だ。


 何より両親に真実を告げないのはマズイ。


 巻き込まれた側ならまだしも、元凶が正体を隠して暮らすのは頂けない。


「まあ今後の話も検討しなくちゃいけないから、包み隠さず話した方が、後腐れないだろ?」


「ハ、ハイ……」


 泣き止んだと見てみれば、今度はロボットのようにガチガチに緊張し、青ざめている。


「そんな緊張してもしょうがない。なるようになるさ。気楽に行こうぜ」


 どうしたって責められはするだろうから、せめてとフォローするも、


「ハ、ハイ……」


 隆成達はどうもリリアは気を抜くという言葉を知らないのだと認知する。


 するとこれ以上は堂々巡りをするだけだと、気晴らしついでに遊ぶことを大介は提案する。


「よし、ゲームでもするか」


「だな。これ以上は考えても埒があかないし……」


「そうですね。異世界の話を聞くにしても、酷でしょうし……」


 頭のリセットも兼ねてと、大介と慎一郎は家庭用のゲーム機の設置を開始。


 大画面のテレビに映像が映る。


『――の天気は曇り。時々激しい雨に見舞われるでしょう』


 丁度夕方のニュースの最後あたりの天気予報がついた。


「ひいっ!? ご、ごめんなさい!」


 リリアは急に現れた天気予報士に謝った。


「ど、どした?」


「い、いえ。突然、この方が現れたので……」


 そろっと指を指す天気予報士は更に隣に現れた人と会話しており、目の前に現れたわけではないことに気付く。


「あー……魔法の世界だもんな。テレビは無いか」


「テ、テレビ?」


 リリアの緊張をほぐすためと、こちらで生活する以上は知識をつけなければならないと考えた隆成は、少しジッとリリアを見ると、


「二人で適当にやっててくれ。俺はこの質問攻めしてきそうなリリアちゃんの相手するわ」


「ほーい」


「な、なに!? リリアちゃんの相手!? そ、それは僕が……」


 女の子の相手をしてみたいと発言するも、


「しんちゃんがするのか?」


「……」


 冷静に考えると中身が女の子で、態度や性格がか弱くても外見は勝平なのだ。


「うん。任せました」


「……しんちゃんよぉ。お前、現金な挙句、むっつりすぎないか?」


 すんっと興味が冷めた慎一郎にツッコまざるを得なかった。


「あ、あの……」


 リリアは勝平の身体で上目遣いをしてくる。


 隆成も慎一郎の気持ちはわからないでもない。


 接し方の態度や怯え方などは、どうにも女の子の影がチラつくも、見た目は完全に勝平なのだ。


 萎えては来る。


「わかってる、わかってる。テレビだろ?」


 これは必要なことであると割り切ろうと考えた隆成は、異世界人(リリア)でもわかるように――、


「いいか? あの箱の中には人間の姿そっくりの妖精さんが数千と生きていて、ああやって娯楽や情報の提供なんかをしてくれるんだ」


「――ぶふっ!!」


 説明する前に、嘘を言って揶揄(からか)ってみる。


 横から聞こえていた大介も思わず吹き出す。


 するとリリアは真剣な眼差しでテレビを見つめる。


「なるほど! こんな薄い箱の中に妖精が……。どんな術式が組み込まれているのです? やはり召喚魔法でしょうか?」


「いやいや、自分で魔力が無いって言ってなかった? この世界には魔法は無いよ」


「あっ……。ではどうやって……」


 魔法が使えないはずなのに、映像に映る人達は次々と変わっていく。


 こんな瞬時に妖精が変わるなんてと思っているリリアに、もう隆成は我慢できなかった。


「――ははははははっ!! 悪い、悪い。嘘だよ、嘘」


「へえ?」


「それ、本物の人なの」


「えっ……? ええっ!?」


 バッとリリアは再びテレビに近付く。


「おおっと……」


「ご、ごめんなさい。で、でもこの中に人を閉じ込めるだなんて……」


 可哀想にと、涙を流し始めた。


「おぉ、おいおい。何故泣く?」


「だ、だって、こんな箱に閉じ込められているってことは奴隷なんですよね?」


「は?」


「私がこれだけ近付いても、まるで私が居ないかのように話し続けているのも、そのように奴隷術をかけられたからなんですよね? か、可哀想……」


 なんだか軽く冗談で揶揄うつもりが、罪悪感に苛まれてきた隆成は、ちゃんと説明する。


「違う違う。それ、映像なの?」


「映、像?」


「別の場所で撮ったものを電波……はわかる?」


「でんぱ?」


「わかんないか。とにかく、別の場所での出来事を投影してるんだよ」


「記憶石のような人口魔石のことでしょうか?」


「……そ、そうなんじゃない?」


 その用語はこっちがわからんとツッコんでやりたいが、意地悪したこともあり、リリアの納得するところで落ち着かせることにした。


「す、凄いですね……。一つだけでなく、色んなところの記憶映像を映すことが出来るのですね」


 チャンネルを切り替えていたのだ、リリアはその技術に感心する。


 隆成は、自分達にとって生活の必需品なだけに、深く考えたことはなかったが、こうしてテレビを認識してみると、確かに凄い物だと改めて認識できる。


「テレビだけじゃないぞ。さっき服を放り込んだ箱は洗濯機。勝手に洗濯してくれる機械だ」


「そ、そうなのです!? そ、それに機械って……?」


 そうだなとソファから立ち上がると、リリアと一緒に脱衣所へ。


 隆成の家の洗濯機はドラム式洗濯機。勿論、乾燥機能付き。


 中身が見える影響もあって説明もしやすい。


「ほら、回ってるだろ?」


「は、はい。グルグル回ってます」


「これは電気で動くように作られた道具って言った方が伝わりやすいだろう。ここから電気が流れてきて、その電力で動く仕組みになってる。そのグルグル回ってたり、中で泡立ってるのもその機能の一つだ」


「ほえー……」


 テレビならば電気の仕組みは説明しづらいが、動いている機械を目の当たりにすれば、わかりやすいだろうと判断した隆成。


「つまり魔法と同じですね」


「あー……そうかも」


 隆成のイメージでは、魔法の詠唱を魔力の溜めだと考え、機械の動作を魔法の発動なのだと考えた。


「魔法を詠唱し、体内魔力の魔力回路に魔力を伝達し、魔法の発動を促す……といった感じでしょうか?」


「え、えっと……」


 体内魔力とか魔力回路とか、よくわからない単語に困惑を隠せない。


 するとリリアは、


「ご、ごめんなさい! わ、わからないんでしたよね……」


「いや、俺こそごめんな。わかんないのに意地悪してさ」


「い、いえ! 緊張を解すために言って、くれたことなんですよね? あ、ありがとう……ございます」


 自殺を望むほどに卑屈な性格だと考えていたが、どうにも頭が良いようで、まだおどおどしたところはあるものの、心の距離が近付いてきたように感じた隆成。


「まあ頑張って生きてこうぜ」


「は、はい! が、頑張り、ます!」


 説教がちゃんと効いているようで、素直な()なんだと、隆成は少し希望の光が差したように見えた。


「さて、じゃあついでに風呂でも沸かすか」


「ふ、風呂……?」


「ああ。いっぱい汗かいて、気持ち悪いだろ? サッパリした方がいいって」


 するとリリアがゆでだこになっていく。


「ど、どした?」


 隆成のマンションは高級が付くほど、機能も便利。


 各部屋、過ごしやすい温度になるように冷暖房機能は勿論、そのような材質の壁である。


 湯気を出すほどの温度ではないはずだが、リリアの体温上昇により、隆成自身も熱く感じる。


「だ、だだだ、男性のは、は、裸……」


「あ……」


 その理由は至極単純であったことに気付いた。


 すると隆成は軽く肩を叩いた。


「俺から言えるのはこれだけだ――慣れるしかねえ。……ドンマイ」


「そ、そんな……!」


 すると変に意識したせいか、リリアはもじもじした態度をとる。


「あ、あの……」


「トイレ? この風呂場の前の扉が――」


「そ、そうなんですけど! そ、そのぉ……」


 恥ずかしくて無理だと表情が訴えている。


 しかし隆成の出る言葉はこれしかない。


「慣れろ。ドンマイ」


「ひっ!?」


 さすがに面倒見のいい隆成でも、友人の股間を指差しながら小便の仕方を説明するのは無理だ。


 とりあえずは向こうのトイレの要領と同じようにしてみろとしか説明したくなかった。


 そして――、


「う、ううっ……」


 トイレから泣きながら出てきたリリアを見て、隆成はこう思ったという。


 ――前途多難だな。


 希望の光が差し込んだのは気のせいだなと、隆成は呆れた表情をしていた。

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