01 鬼塚家
「――ああああああああああっ!!!!」
膨大な魔力が俺に集まると、ピタリと辺りが制止した。
これは覚えがある! 俺が異世界転移に襲われた時の状況そっくりだ!
止まる景色、無音の世界、近くにいたアイシアやシドニエは鋼のように硬く、体温も感じない。
全部、あの時と同じ――、
「ぐうあっ!?」
するとあの時と全く同じ頭が激しく揺れ、立っていられないほどの酷い目眩に襲われる。
「嘘……でしょ?」
ただあの時と違うのは、異世界の穴が開いていくのが目視できているということ。
「お、おおっ!?」
その穴に吸い込まれるように、意識が引っ剥がされそうになる。
「ま、待って……。今……今、元の世界に……帰るわけ……には……」
クルシアがこれからどんな行動に出るのか、想像するのは難しくない。
それにこの現象に覚えがある自分としては、これからどこへ向かうのかもわかったと同時に、リリア本人がどこへ行ったのかも理解できた。
やはり自分とリリアは入れ替わっていたのだと気付く。
ならばこのまま入れ替われば、リリア本人は訳もわからない状況で、戦場に放り出されることになる。
しかもアイシア達も酷く混乱させることになるだろう。
戻るわけにはいかないと、抵抗しようと考えるが、抵抗できるはずもなく、
「あ、ああ……」
そしてこれもあの時と同様、意識が遠のいていった――。
***
急に意識が覚醒した。
目の前に広がっている光景は不思議と見覚えはない。
「こ、ここは……?」
三つのパソコンモニター、キーボード、マウス、本体はモニターを並べてある机の下に、綺麗に設置してあった。
俺は座り心地の良いゲーミングチェアの上でマウスを握りながら目覚めたのだ。
すると目の前の画面にはゲームオーバーと表示されたまま放置されていた。
「ちょっ、ちょっと待て」
とりあえずポケットの中にある懐かしい感触の物を手にする。
スマホだ。
しかもこれは見覚えがあった。俺が元々所持していたスマホだ。
そこに薄っすらと写る自分の姿を見ると、
「ほ、本当に戻って来ちゃったんだな」
自分の顔の確認ともう一つ大事な確認がある。
バッと自分のズボンを引っ張り、股間を確認した。
「つ、ついてる! 私の息子っ!」
思わず私と言ったことに口を紡ぐが、それ以上に驚いたのは、自分の部屋と思しき場所が魔改造されていることである。
俺はどちらかと言えばゲームはパソコンではやらない。家庭用ゲーム機で楽しむ派の人間である。
というよりは日本人は、外国ほどパソコンでゲームをやることが主流となっていないため、ほとんどがそうだろう。
ゲームの王様を作った会社が日本にあるというのに、普及率は圧倒的に外国というのは如何なものかと思う。
外国の方がそのあたりのプロの認知度や競技性の評価や実力は圧倒的。
嘆かわしいことである。
それをまるで普及したかのような自室には驚きを隠せない。
元々あったはずのパソコンも部屋の隅にあるのだが、まるでネトゲ廃人の鏡みたいな部屋を用意するために、わざわざどかしたように見える。
あの野郎、割と楽しんでやがったな。
コンコン。軽くノックされた。
「リリアちゃ〜ん。ご飯、置いておいたから食べてね〜」
懐かしいとろーい喋り方が部屋の外から聞こえた。
俺の実の母親、鬼塚 春美。
思わず全身が小刻みに震えた。
本当に帰って来たんだ……って!
感動に身を震わせたのも一瞬。リリアの名前が出たことに驚いた俺は扉を思いっきり開けた。
「――ママっ!!」
リリアの時の呼び方が移っていることも気にすることなく、呼び止めると、相変わらずのとろい驚き方をする。
「まあまあまあ……」
するとギュッと抱きしめる。
「私はあなたのママじゃないけど、そう言ってもらえて嬉しいわ。いーっぱい甘えていいのよ〜」
「ちょっ!? ま、待て待て待て!」
実の母親に抱きしめられるなんて、幼い頃以来で酷く動揺していると、
「大丈夫よ〜。私はあなたの味方ですからね〜」
「だから……待てつってんだよ! 母さん!」
「!」
今の言動で気付いたか?
本物のリリアならこんな乱暴な口の利き方はしないからな。
するとぼーっとこちらを眺めると、にっこりと微笑んだ。
「あら懐かしい。母さんなんて呼ばれ方、勝平ちゃん以来よ。そんな気を遣わなくてもいいのに……」
どうやら気付いていないようで、少し嬉しそうに顔を紅潮させながら微笑んだ。
気付くわけないか。母さんの天然と鈍臭さは家族の俺が一番良く知ってる。
そう呆れ果てるが、内心、変わってなくて安心したと安堵もするが、このままというわけにはいかない。
それにリリアのことを知っていることも聞かねばならない。
「違うんだよ、母さん。わた……じゃなかった。俺だよ俺」
「やぁね。オレオレ詐欺は電話越しじゃないと意味ないわよ」
「――そんなことわかってるよ! 目の前でするオレオレ詐欺があってたまるか!」
変装の達人がする新手詐欺か!?
するにしても、わざわざわかんない人間に変装するか! そもそも家族かどうか事前調査して会いに行くつもりなら、名前くらい知ってるだろ!?
オレオレ詐欺は息子や娘がいるかわかんない状態から探りを入れるからするんだろうが!!
というかリリアはオレオレ詐欺なんて知らないだろ。
「じゃあなんで?」
「……あ、あのねぇ、俺って言ったら勝平だろ? 母さんの息子の……」
すると再びぼーっとこちらを見て考え込む。
さ、さすがに気付いただろ。
「そりゃそうよ。私の息子は勝平ちゃんよ。あなたが言ったんでしょ? 息子さんはもしかしたら自分の身体に行ったのかもしれないって……」
「……」
どうも話が進まないので、俺だとわかるようにプロフィールを語る。
「母さんの名前は鬼塚春美。年齢は三十七。好きな食べ物は海鮮系で特に海老が好き。肉は食べれないほど苦手で、よく父さんと時代劇ものを観るのが趣味」
「あらあら、良く知ってるわね。……もしかして!」
おっ? やっと気付いてくれたか? さすがにこれだけ言えば……、
「君彦さんからいつ聞いたの? やぁね、聞きたければ教えたのに……」
俺は思わず盛大にその場でひっくり返った。
遺書からのリリアや今、朝ご飯が置かれているところを見ると、社交的に会話できるとは到底思えない。
「――リリアが父さんから聞けるわけないだろおっ!! こんなご飯の出し方されてて、母さんの好き嫌いがわかるかあっ!!」
「じゃあなんで知ってるの?」
もう言うのも面倒くさくなってきた。
「だから俺は、リリアじゃなくて勝平なの!」
今度で三度目。ぼーっとこちらを眺めながら思考を巡らせる。
すると、
「えっ? 勝平ちゃんなの?」
やっと気付いたのか、首を傾げて尋ねる。
「そうだよ。母さんが腹痛めて産んだ息子の勝平だよ」
「あらあら……」
あらあらと言いながら再びハグ。
「戻って来たのね、勝平ちゃん! もう勝平ちゃんなら勝平ちゃんって言ってくれればいいのに……」
「――さっきから散々言ってたよ!」
母さんのおかげで、女としてついた言葉遣いが簡単に戻りそうだと確信を得た。
ど天然を相手にすると簡単に素に戻れる。
そう呆れながらも、まったく変わらない母親の抱擁がちょっと嬉しかったりした。
実際、ホームシックになってたこともあっただけに、再開は素直に嬉しい。
まあ天然のおかげで、感動は置き去りになってしまったが。
「これは直ぐにでも君彦さんに連絡しなくっちゃ」
「えっ!?」
時刻は午前十時と五分前。
普通のサラリーマンの父、鬼塚 君彦は現在、仕事中だろう。
「ちょっ、ちょっと……」
俺が止めようとする頃には、もうスマホを耳に当てていた。
いつもはトロくさいくせに、こういう時の行動は早い。
「あっ! もしもし、君彦さんのお電話でしょうか?」
スマホの電話帳から検索かけて電話してるなら、間違いないだろというツッコミはもうしないと、俺は心に誓っている。
「あっ! 君彦さん? あのね、勝平ちゃんが帰って来たの! それでね――」
相変わらずの仲良し夫婦っぷりを見せつけられる一人息子。
将来的には両親のような家庭を築きたいと思わなくはないが、一つ言いたいことがある。
天然の嫁さんをもらうのはやめよう。
飽きることない人生を送れそうだが、それ以上に疲れそうだ。
きゃぴきゃぴと軽く飛び跳ねながら父と会話を続ける母は、くるりとこちらを向いた。
「君彦さん、帰ってくるそうよ」
「――今すぐ会社に引き返させろ! 別に逃げたりしないから!」
行方不明になった息子を素直に心配してくれるのは有り難いが、家庭の大黒柱として、社会人として全うするべきところはして欲しい。
「いいじゃない。臨時有給取りますって」
「……もう好きにして」
俺は大体、こんな感じで両親に振り回されることがあったりする。
こんな家族と一緒にいて、リリアに少しでも心境の変化はあったのだろうか?
――しばらくして、
「――ただいま! 勝平が帰ってきたというのは、本当か?」
「おかえり、君彦さん。そうなの! 勝平ちゃんが帰って来たの!」
うきうき気分の母に案内された父はリビングへ。
「勝平?」
「そうだよ。父さん」
「お、おお……」
母とは違い、あっさりと俺だとわかると涙ながらに抱きついてきた。
「そうか! よく、よく戻ってきたな! 勝平……」
「……心配かけて悪かったよ、父さん」
すると横に首を振った。
「いや、事情は大体リリアちゃんから聞いてるよ。お前は巻き込まれただけだって……」
やはり父もリリアのことを知っているようで、
「なあ父さん、母さん。なんでリリアのことを知ってる? 詳しく聞かせてくれないか?」
そう尋ねると椅子に腰掛けた父が語り出す。
――なんでも様子が変わった俺を、一緒に帰っていた友人達に連れられ、事情を聞いたという。
そういえば俺が異世界への移動が行われたであろうあの時、側には確かに友人達がいた。
そこで入れ替わりがされていたならば、友人達が事情を聞き出し、連れて来ることは容易に想像できる。
その後、リリアは俺として現代社会で生きることは難しいのではと判断。
自宅警備員としての就職が叶い、ネトゲ廃人となっていたようだ。
「――って、ネトゲ廃人にするなよ!」
「そのネトゲ廃人ってのはよくわからないけど、こっちの世界のゲームをやるのは魔法の想像力を高めるのにいいって言っていてね」
まあ確かに向こうの魔法は想像力が一番鍵となるのは事実だが、リリアはあの魔法陣から見るに、理屈派の人間ではないだろうか。
あっ、だからこそか。
「まあいいじゃない。これが正しいからしなさいとか、これは間違ってるからダメだとか、世間や大人の常識、固定概念を押し付けるのはよくないわ」
「!」
「リリアちゃんにはリリアちゃんのペースでの生き方ややり方があるはずだもの。私達は基本、見守ってあげようって決めたの。それでもし、助けが欲しいなら助けてあげる。……そう決めたの」
俺の両親は基本大らかで、かなりマイペースなところがある。
側から見ればのんびり屋さんだとか、警戒心が緩いとか思われてるみたいだ。
だが今思えば、自分のペースを崩すことなく、受け入れることなんて、本来は難しいことだ。
だがこんな両親だからこそ、簡単にリリアを受け入れ、そう芯の通った考えを貫けるのだと感じた。
マイペースに生きていても、人生経験は豊富ってことだろうな。
「でもリリアちゃん、凄いのよ。私がちんぷんかんぷんのパソコンをシュタターってやってしまえるのよ。お母さんびっくり!」
「そうなんだよ。リリアちゃん、とっても優秀でね。父さんも企画書づくり、手伝ってもらっちゃった!」
「「ははははははっ!」」
異世界人のリリアに簡単に追いつかれてんなよ! 仕事を手伝わせるな!
後、なんだかんだ上手くやれてたのがちょっとムカつく。
というかリリアの順応率の高さに驚くが、
「そ、そういえばリリアがここに来てからどれくらい経ったの?」
「えっと……そろそろ一年になるかしら」
ちらっとカレンダーを見た母に釣られて、俺も見てみると、確かに一年経っているようだ。
向こうとの時間軸とのズレはほぼ無いらしい。
そして、
「あれ? そういえばネトゲ廃人になってるってことは、学校は?」
「勿論、休学にしてある。それに今丁度……」
今度は父とカレンダーをちらり。現在、七月のカレンダーが捲られており、スマホを見ると、丁度夏休みに入ったところのようだ。
本当に転移して丸々一年経ったところのようだ。
「まあ夏休みの間に感を取り戻して、一年遅れだが学校へ――」
「待った」
「どうしたの?」
両親からすれば俺が戻ってきてくれたことは嬉しいことだろうし、俺のことを考えてくれることは本当に嬉しいことだ。
だがこちらの事情も話さねばならない。
リリアのことを知っているなら話は通じるはずだ。
「実は俺が戻ってきたのって、事故みたいなもんなんだ」
「お前が魔法陣とやらを完成させたんじゃないのか?」
リリアは魔法陣の誤作動についても明かしているようだ。
「いや。完成……ではないかもしれないが、俺を異世界の扉にする魔法が開発されててね。それに巻き込まれるかたちでこっちに戻って来たんだ」
「つまり望んで戻って来たわけではないと?」
「う、うん……」
戻りたい気持ちがなかったわけではないが、ほとんど諦めていたことだけに、俺自身も中々整理がついていない。
「えっと、リリアちゃんはどこへ行ったのかしら?」
「多分、元の身体に戻ったと思う。少なくとも俺の中にはいない」
俺が元の身体に戻ったことから、高確率で戻ったと考えるべきだろう。
「そのリリアが危険かもしれないんだ。その魔法を使ったのが悪い奴らで、俺はその危険人物の目の前にいた。いきなり元に戻った先に危険な状況ってなれば、リリアを心配にもなるし、俺自身、奴らとケリをつけてない」
「ふむ。つまり勝平は自分のやり残し、しかもかなり危険な状況に落とし込んでいることを後悔してるから、向こうに戻りたいと?」
「うん……」
こうして話をしているうちにも、向こうではクルシア達とアイシア達が激突しているところだろう。
時間が進むにつれて状況が悪化しているのではないかと不安が過る。
「アテはあるのか?」
「えっ?」
「だからアテが……」
「いやいや、父さん。いいの?」
正直、俺としてもほとんどアテがない。
だけどその質問から向こうに戻ってもいいという言い方には驚いた。
俺のそんな表情を見た父は、
「可愛い子には旅をさせよって言うだろ? 正直、心配してたんだぞ。将来とかやりたいこととか、そんな相談、されたことなかったから……」
ここでの俺は特に将来のことなんか考えることなく、気ままに生きていたと思う。
それが普通だと思ってたし、周りもそうだろうって。
「だからこそ向こうに行って、やり残したことがあるとか、危険人物とのケリだとか、やりたいことや責任感をしっかり身につけることができたことに、嬉しく思っているぞ」
父に言われて初めて気付いた。
俺は知らず知らずに、身につけるべきことを身につけていたのだと。
実感がないのが正直なところだが、自分の親が言うのだから、あながち間違いでもないのだろう。
俺自身、親にちゃんと見られて心配かけさせてたんだなとそこの実感は感じた。
「勿論、またいなくなるかもしれないと思うのは寂しいが、俺は息子の味方のつもりだ。やりたいこと、ケジメをつけたいことがあるなら、親として、同じ男として、背中を押すだけさ」
「父さん……」
「そうね。私も君彦さんの意見に賛成よ。男の子だもの、しっかり女の子を守ってあげなくちゃね」
「母さん……」
二人の背中を押す言葉に、じんと来ていたのだが、
「まあでもリリアちゃんによると、こっちからの干渉は難しいって言ってたよ」
「そうね。それに流れる時間は一緒くらいなんでしょ? 案外勝平ちゃん抜きでも解決できてるんじゃないかしら?」
それを言われると元も子もないと、図星を突かれる。
更に、
「それに向こうに戻るってのは、リリアちゃんになって戻りたいのかい? それとも勝平が向こうに行きたいのかい? もし前者なら、下心があるよね? それは良くないな」
「あれ? 勝平ちゃんは向こうでは女の子だったのよね? だったら男の子として守ってあげる……じゃなくて、女の子として……? あ、あれ?」
余計な一言をあれやこれやと。
特に母。天然もかます。
「一応リリアになる気はないよ。女の子が如何に大変かわかったしね。男の方が気楽だよ。ただ向こうに戻る場合、やっぱりリリアの身体に戻る可能性は高いかなとは思ってる」
クルシアは俺のことを鍵と呼んでいた。
俺とリリアはその呼び名通り、異世界の扉の開閉を行える鍵そのもの。
俺とリリアが向こうと現実世界を繋ぐパイプになっていることも間違いないだろう。
だからこそリリアが危険なのだ。
奴らからすれば俺達抜きで異世界転移できる方法を探そうとするはず。
魔法陣の情報は持ってるんだ、繋がっている人間を調べる方が手っ取り早い。
「とりあえずこの夏休み中は、唯一の手掛かりを探して、何とか向こうに行ける手段を探すよ」
「唯一の手掛かり?」
「そ。もう一人いたんだよ。向こうに行ってた奴」
ケースケ・タナカ。
本名はおそらく『たなか けいすけ』だろう。こんなありきたりな名前の行方不明者を探そうというわけ。
現実世界でも神隠しだの、心霊スポットだの、この世ならざる力があるんだろうし、それに巻き込まれるかたちで向こうに行ったのだとすると、調べる価値はある。
……心霊スポットだったら、内心めちゃくちゃ嫌だが。
「そっか。わかった。だが、見つからなかったらどうする?」
「その時はすっぱり諦めるよ。リリアはこっちからは干渉はほぼ無理って言ってたんだよね?」
「ああ。魔力の気配を感じないからだとか……」
それに関しては同意見だった。
俺もリリアだったから魔力がある感覚はわかる。
だがここには当たり前だが、そんな気配は一向にしない。
単純に魔力がないのか、もしくは現代世界の人間自体が魔力を感じない性質なのか、どちらにしても魔法を行使することはできない。
「行けないなら、もうどうしようもないからね。せめて無事でいることを祈りながら、こっちの人生を謳歌するさ」
「そっか。わかった」
「でも〜、一番いいのは向こうともこちらとも渡れるのが一番よね?」
「あのね、母さん。そんなことになれば、向こうもこっちも大パニックになるし、世界のバランスが崩れると思うけど?」
「あら残念。本当のリリアちゃんにも会いたかったのに……」
単純思考のご意見に呆れるが、確かにそれなら両親の元へ帰って来れることになる。
俺だって本当なら両親を心配かけたくないし、親孝行という意味でも結婚して子供作って、孫の顔でも見せてやりたいさ。
だけどあそこまでクルシアを助長させておきながら、無理矢理とはいえ、離れてしまったことは心残りだ。
可能性がほぼゼロとはいえ、戻れる可能性があるなら戻って、やったことの責任はとりたい。
「でも魔力の気配ねぇ……」
「?」
「やっぱりお前、リリアちゃん……女の子になってたんだな」
「――ブフッ!?」
すると母は嬉しそうに色々尋ねてくる。
「まあまあまあまあそうだったわね。私としても娘も欲しかったし、女の子だった時の向こうのお話、聞きたいわ」
「い、嫌だって! そ、それにそれはリリアのプライバシー……」
「いいじゃない! どんなお友達ができたの? どんなおしゃれしたの? 好きな子できたのかしら?」
「いや、あの……」
すると父が肩を叩いた。
「まあどちらにしても、向こうの話は聞かせてもらうぞ。俺も気になる」
「父さんまでっ!」
「それに……変な階段の登り方をしたんじゃないか?」
「!?」
それは男なのに急に他人の女の身体になったことを指しているのだろう。
「……ドンマイ」
「――ドンマイじゃない!!」
「あら? 階段といえば……」
「へ?」
「リリアちゃんも登ったわね。階段」
「!?」
俺は自分の息子を押さえると、両親二人して、
「「ドンマイ」」
「――ドンマイじゃなぁいっ!!!!」
リリアがこちらで一年も過ごしていて、俺の息子を拝むことがないはずもなく、俺同様、変なかたちでの大人の階段を登ってしまったのだろう。
この後、午前中は両親からの向こうでの生活についての質問攻めにあったのだった。
 




