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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
9章 王都ハーメルト 〜明かされた異世界人の歩みと道化師達の歩み〜
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27 異世界への扉

 

「な、なら魔法陣は? どうやって異世界に行くつもりなの?」


 アイシアの疑問は尤もとするところ。


 俺を嵌めるつもりなら、アジトへ誘き出す作戦を取るべきだと考えられる。


 やはり所詮はドクターがクルシアを模した作戦というだけあってか、穴があったのではないかと安堵したいところだったが、


「安心しなよ。もう準備は整うってさ」


 他人任せな発言でバザガジールを見ると、何かを確認しているように会話をしている。


「バザガジール! 誰と話していた!?」


「……クルシア、準備が整ったようだ」


「そっか」


 ハイドラスの問いには答えず、作戦が決行できると話すと――。


 ゴゴゴゴ……。


 何やら魔力が地表に上がってくる気配を感じた。


「こ、これは……?」


 何事かと動揺していると、


「――逃げましょう! リリアさん!」


 嫌な予感がするとシドニエは俺の手を強引に掴み、この場から離れようとする。


「無駄だよ」


「無駄なもんか! リリアさんを魔法陣に陥れるつもりなら、この展望広場になにかしらの細工がされているんだろう? でも今のところまだ魔法陣は形成されていない。少しでも離れられれば……」


 シドニエは魔力の気配はするものの、この辺りにはまだ魔法陣は展開していない、この広場に魔力が集約し、魔法陣が形成されると判断したようだ。


「ならばファルニ! 少しでも遠くへ!」


「は、はい!」


 転移石は持っていない。逃げ出すならば走るしかないと思っていたが、


「――召喚(サモン)! ポチ!」


 アイシアはドラゴンに乗って逃げればいいと判断し、ポチを召喚。


「へ……?」


 できなかった。


「――召喚(サモン)! ――召喚(サモン)、ポチ! ホワイトちゃん! エメラルドちゃん! ノワール君!」


 何度呼びかけてもドラゴン達は召喚されない。


 この現象にリュッカは感づいた。


「こ、これって……テテュラちゃんの時と……同じ!?」


「ええっ!?」


 あの時はアイシアはポチをあらかじめ召喚していたから起用できたが、今回は召喚されていない。


「お前……」


「そう。これも作戦の内さ。以前、テテュラちゃんの召喚魔法陣の件は知っているね?」


 あの時召喚されなかった理由としては、大量の召喚魔法が行使されており、干渉し合っての召喚阻害。


 しかし今回の場合は、何も大量に召喚されてはいない。


「あれね、実は細工がしてあったの」


「なに? だがあれはオルヴェール達が破壊したはず……」


 実際、ポチに乗った俺達と冒険者達で破壊し尽くした。


「地脈に魔力が流れているのは知ってるよね?」


「常識だからな」


「その地脈に魔法陣に流れていた魔力が流れ、術式の準備工程が出来上がってたとすればどうなる?」


「な、なんだと……?」


 地脈の影響が受けるという話はある場所が生成されることで有名だ。


 それは迷宮(ダンジョン)である。


 迷宮(ダンジョン)は地脈の乱れ、つまりは魔力の乱れと負の念が入り混じったり、魔物の影響が地脈に現れたりすると形成される。


 つまりはその地脈が影響を与える原理を利用したと考えられる。


「地脈に術式を流し込んでいたとでも言うのか?」


「そうじゃないと説明つかないだろ? つまりはさ、テテュラちゃんの召喚魔法陣が設置されてた時点で、地脈に干渉できるように準備していたのさ」


「召喚魔法の阻害術が行使されてるってこと?」


「そ。元々はハーメルトをぶっ壊すための魔力回路術式だったわけなんだけどね」


 どんな魔法でも地脈の流れで発動できるように準備していたと語る。


「こんなかたちで役に立つとはね……」


「待て! こんな地脈こそ――」


「ドクターの得意分野だろぉ?」


「!!」


 ドクターは地族性の魔術師で、魔石の回路などを読み解き、人工魔石の生成に長けている。


 契約魔法以前に準備されていたものだとはいえ、これはドクターの策だと考えられる。


「ドクターはこれを踏まえた上で、ボクが考えつくであろう作戦で、リリアちゃんを魔法陣に落とし込もうと考えたわけだ。そして……」


 建国祭最終日のような光景が広がる。


 あの時のようにトーチゴーストではなく、ハーメルト城下町全体が光輝く。


「――ううっ!?」


「リリアさん? ――リリアさん!?」


 俺はシドニエの手を繋いだまま、もたれかかるように縋り付く。


「どうしたの!? リリィ!」


「どうしたもこうしたも、あいつに訊けばわかることだ! そうだな!? クルシア!」


「ハハハハッ!! 見ればわかるだろ? 魔法陣が発動したのさ。異世界の扉を開けたであろう本物のリリアちゃんが誤って作った魔法陣がね!」


 俺は心臓の鼓動と共に、身体がふわついているのがわかる。


 まるで身体と精神が分かれそうになる感覚。


 この感覚……覚えがある!!


 ハイドラスは展望広場から町を眺めると、所々に光の柱が昇っているのを確認すると、


「お前、いつの間にこんな大掛かりな仕掛けを……!」


「やーん! そんな怖い顔で睨まないでえ〜。ちゃんと説明するってば!」


 俺がシドニエにもたれかかり悶絶する中、ふざけた声が聞こえてくる。


「く、くそが……」


「口が悪いなぁ、リリアちゃん。君だって知りたいだろ? 説明してあげるって……。そもそもの話をしよう。魔法陣にはある程度の法則性を持って術式が描かれている」


 たとえばファイアボールを発動する際に出現する魔法陣は、自分の血や鉛筆などの書くもので描いても同じ魔法が発動できるのだが、その際に描かれている術式は同じであるということ。


 なので魔法陣を描く際に発動する魔法は、儀式的な大掛かりな魔法を発動するためにしか行使されないのだ。


 そして描かれている魔法陣の術式にある法則性というのは、簡単に言えば火属性の魔法ならこの配列で、水属性ならこの配列でと描かれ方に決まりがあるのだ。


「つまりはハーメルト全体を魔法陣にする際、どんな属性でも組めるように、テテュラの魔法陣をその術式が点を線で結べるようにしていたわけか?」


「そゆことぉ〜」


 そんなことはどうでもいいと、アイシアとリュッカはリリアの下へ駆け出す。


「リリィ!」

「リリアちゃん!」


「アイシア……リュッカ……ふぐっ!?」


 苦しそうに耐えている俺を見て、何かできないかとリュッカに相談する。


「リュッカ、なんとかならない?」


「今、リリアちゃんに影響を与えているのは、この魔法陣による魔法。それを消せればいいけど……」


 展望広場から見えるハーメルトを見ると、とてもじゃないが直ぐに何とかできる状況ではない。


「シア。地脈を線として、魔法陣のあった場所を点とすることで、どんな魔法陣でも必ず発動できるようにしてたの。そして、それが発動してる」


「召喚封じだけじゃないの?」


「うん。だから地脈を乱すことができれば、或いは……」


「そうだね。それがこの魔法陣の弱点でもある」


 リュッカの話に聞き耳を立てていたのか、クルシアが割って入る。


「この魔法陣の形成は特殊なやり方だ。安定の維持ができなければ魔法は効力を失うだろう」


 描いた魔法陣が誤作動を起こす原理と同じであると説明。


 そのおかげで鬼塚はリリアの身体に移ったわけだが。


「――ハーディス! どこかに別の術者がいるはずだ。これだけ大規模のものなら尚更な! 探せ!」


「無駄ですよ」


「なに!?」


「先程、私が連絡していたのは、この魔法陣を形成、魔法を発動させる人物達。その方々とは音信不通になりました。……意味、わかります?」


 珍しくバザガジールが話に割って入ってくると、通信用の魔石をチラつかせる。


 そしてハイドラスが思い付いたのは、儀式型の魔法陣。


「ま、まさか……!」


「そうですとも。この魔法陣は本物のリリア・オルヴェールの魔法陣を儀式型に改良し、急ピッチで異世界への扉を開ける術式を組み込んだ魔法なのですから。今頃、術者達は本来の魔法の効力通り、魔力の塵となっている頃でしょう。……合ってます?」


 珍しく説明したものだからと、クルシアに確認を取ると、満面の笑みで頷いた。


 クルシア達はあの魔法陣について、分析していたのだろう。


 どんな魔法が発動される予定だったのかを。


 魔法陣の途中で血が擦り切れていたことを考慮すれば、リリアが異世界人だと名乗った時点で、クルシアやドクターの頭の中では、あの不完全な状態が異世界に繋がる鍵だと知る。


 あの魔法陣の分析、考察だけなら、契約魔法にも違反はしない。


 クルシア達のこういう時の熱量や分析速度は異常であっただろう。


 簡単に仕上げてこれたからこそ、リリアは現在も苦しんでいる。


「だが……魔法使いは、どう……やって……」


 魔力の塵にするということは、生命すらエネルギーに変えてしまったのだろう。証拠隠滅も兼ねて。


 これだけの規模での魔法陣展開はさすがに人数がいる。


 テテュラのように半魔物でもないはずだろう。


「リリィ、喋らなくていいよ!」


「ボクらは財力はあるからね」


「!!」


「ドクターの人工魔石の取引先には、金で動く魔法使いはごまんといる。いやぁ、贔屓にしておくものだね。ま、君が当初の計画通り、ボクらのアジトに乗り込んで来てくれれば、向こうに張ってた魔法陣が火を吹いていたわけなんだけど……」


「二重(トラップ)……」


 つまり今回の計画は、俺がどんな風な行動を取ったとしても、魔法陣の用意はされていたということ。


 こちらはクルシアに魔法陣の情報が漏れていない状態での対策しか行なっていなかった。


 そもそも後手に回っていたのだ。


「ハハハハッ! どう? これだけの計画にも関わらず、契約魔法には干渉されない。ボクは前準備と丸投げでここまでやってみせたよ! あっははははははっ!!」


 イカれてる。


 性格も価値観も行動も考えてることも、全てイカれてる。


 出し抜ける気が全くしない。


「――ああっ!?」


「リリィ!!」

「リリアちゃん!!」

「リリアさん!!」


 三人が側で安否を確認するが、俺は離れようとする何かを抑えるように(うずくま)ることしかできなかった。


「さあっ! リリアちゃん。ここまでお膳立てしてあげたんだ……。触媒らしく、異世界の(ゲート)を開けてもらおう!」


「う、うう……うああああっ!!」


 異世界人の魂を持つ自分が触媒、鍵となることはわかっていた。


 だからこそクルシアに攫われないよう、手出しされないようと考えた契約魔法策も逆手に取られた。


 俺を中心に魔法陣が展開。


 ハーメルトの町から昇る光の柱から柱へ、円と魔法陣が町中を描いていく。


 膨大な魔力が中心部である俺の下へと集まる。


「――ああああああああああっ!!!!」


「「――きゃあっ!!」」


 側にいたアイシア達も吹き飛ばされてしまう。


「――アッハハハハハハっ!!!! さあ、開け! 異界の扉っ!」


「リリィ! リリィ!!」


「リリアちゃん!!」


 そして――、


「な、なんだ……あれは……?」


 ハイドラスが指差すところには次元の穴が開く。


 だがザーディアスがよく開ける次元の穴ではない。そこからはハイドラス達には見たこともない光景が広がる。


「おっ……おおっ!!」


 その光景を目にしたクルシアは今までにないほどの輝いた瞳でその景色を堪能する。


「凄いっ! 凄いよっ!! なに? あの建物? 鉄の箱が走ってる!? 次々と映像が変わるアレは何だい!? ハハッ! 凄いじゃないかぁ!! アッハハハハハハッ!!!!」


 ビル、車、電光掲示板、そして行きゆく人達の多さとその服装はこちらの世界とはあまりに異質な光景だった。


 思わずハイドラス達もその現実世界の建造物や人波を見る中で、シドニエはリリアの元へ。


「リリアさんっ! リリアさんっ!!」


 目を閉じたまま、全く反応がない。


「シドニエ君! リリィの様子は?」


「そ、それが……目を覚さないんです」


「リリアちゃん、しっかりして!」


 すると先程まで現実世界を見て大興奮だったクルシアが、リリアを労う。


「いやぁー、ホントに感謝してるよ。こうして異世界への扉が開いた。これも――」


 スッと見せる契約魔法の証があった手の甲を見せる。


「「「!?」」」


「リリアちゃんの犠牲の賜物かにゃ?」


「……ぎ……せい?」


 目を覚さないリリア。消えた契約魔法の証。アイシアでも容易に想像が付いた。


「リリィ……? 目を覚ましてよ!! お願いっ!!」


「リリアさん……リリアさんっ!!!!」


「いやあ……そんなの……」


 契約魔法は魂と魂の契約。


 つまりは片方が居なくなれば、契約は切れるということ。


 それはつまりリリア・オルヴェール、鬼塚勝平の死を意味するものだと考えた。


 そんなリリアを涙ながらに見ながら、ふつふつと湧き出す感情を、原因に剥き出しにする。


「――許さないっ!!」


「アイシアちゃんにそんな怖ーい顔は似合わないよ」


「黙れえっ!! ……リリィを、リリィを返してよっ!!」


 アイシアが怒りの矛先を向ける中、シドニエとリュッカは泣き崩れていた。


「リリアちゃん……リリアちゃん!」


「ぼ、僕……守るって……言ったばかりなのに……」


 悔しさと悲しさでぐちゃぐちゃに掻き乱されていく。


 心も顔も。


 だがそんな心境をクルシアは簡単に踏み躙る。


「まあ必要な犠牲ってやつだよ。許せとは言わないけどさ、別にいいでしょ? どうせボクはこれから異世界旅行なんだからさ」


 そう言って現実世界が映る次元の穴へと歩き出す。


 すると、


『おい、クルシア。わかっているだろうな?』


 ドクターから連絡が入った。


「わかってるって。ボクが現地調査してくるから、そのリリアちゃんの亡骸使って、行き来できるようにしといてね」


『まったく。仕事ばかり増やしやがって……』


「そっちはどうなの?」


 クルシアはアジトに潜入したナタル達の様子を尋ねると、フンと鼻を鳴らした。


『少し面倒なことになった。追いかけているところだ』


 ナタル達はドクターから罠の情報を聞いた後、何とか包囲網を掻い潜り、絶賛逃走中だと説明。


『まあ人体魔石(ホムンクルス)の稼動実験としてはよいことだが、やはり俺も異世界に……』


「ダメダメ。どんな危険があるか、わからないからさ、ボクが先行――」


 クルシアがその次元の穴に手を出そうとした時、全員が止めようと動く。


 勿論、バザガジールは邪魔立てしようと動く全員を相手取るように威圧する。


 だがアイシアだけはその威圧に負けず、クルシアへと杖を向けた瞬間だった。


 ぶしゅっ!!


「えっ?」


 その次元の間に何かあったのだろうか、手を出したクルシアの腕が弾かれるように飛ばされ、千切れたのだ。


 ボタっと生々しくモニュメントの近くまで飛ばされた腕を、思わず全員が視線で追いかけた。


「ありゃー……これはこれは」


 だが当人は特に痛がることもなく、千切れ飛んだ腕を仕方がなさそうに眺めて感心する。


「クルシア?」


『何が起きた?』


「おそらくダメだね。拒否されたみたい」


『なに?』


 クルシアは吹き飛んだ腕を拾うと、自分の腕にはめる。


 するとメキメキという音を立てながら、再生するのがわかった。


 ハイドラスは――そういえばクルシアも半魔物化できるんだったか。再生力は並ではないかと考える。


 ハイドラスがこの状況を何とかすることを考える最中、クルシア達もまた現実世界へと行けない理由を考察する。


「異世界への穴は開いた。けどどうやら入れる人間に制限があるみたい……」


『お前は拒否されて腕がもげたと?』


「そう。残念だけどね……」


 そんな考察している中、アイシアは杖を取り出した。


「シア、何を……?」


「そんなの決まってる! 地脈が利用されてるから、こんなのが発動したんなら――」


 その魔法陣の中心となっているこの場所に杖を突き刺す。


「こんなのを止めるまでだよ!!」


 アイシアは杖から大量の魔力を魔法陣に注ぎ始めた。


「ま、待て、マルキス! 何が起きるか……」


「そんなこと言ってられないよ! もうこれ以上思い通りになんかさせない!!」


 止める言葉も聞かず魔法陣に干渉していくアイシアを、クルシア達が止めないはずもない。


「どう? 体調は戻ったかな?」


「ええ。おかげさまで」


 クルシアは契約魔法が切れたとわかった途端、治癒魔法を行使し、バザガジールを本調子に戻すと、アイシアを襲う。


「申し訳ありませんが――邪魔立てはさせません!」


 リュッカとシドニエも素早く対応したが、既に通り過ぎた後だった。


「――シア!!」


「――くっ……」


 バザガジールが勢いよく殴りかかろうとしたその時、


「――はああああああっ!!」


 上からアルビオが斬りかかる。


「バザガジールっ!!」


「フフ。貴方ですか、アルビオ!」


 勿論というべきか、簡単に躱されると距離を置く。


「殿下! これは何事ですか!?」


「来てくれたのか、アルビオ」


 家に着いた途端、地面が光り、展望広場に魔力が集まっているのを見つけたらしい。


 そんなやり取りをしている間にアイシアは佳境に入ったようで、


「壊れろおおおおっ!!」


 この魔法陣の弱点である地脈の乱れを起こせそうなのか、注ぐ魔力にも力が入る。


「おやぁ……これはマズイねぇ」


 侮っていたとクルシアは、少し表情を歪ませる。


 アイシアは龍の神子の血を継ぎ、その杖や首飾りは龍神王の恩恵を受けたもの。


 地脈への干渉を容易なものとした。


 すると――バリィンというガラス細工の置物が壊れた音が響く。


「あの娘……!」


「はあ、はあ……やってやったよ」


 すると現実世界が映っている穴が少しずつ小さくなっていく。


「クルシア!」


「わかってるよ。さて、どうしたものか……」


 異世界への穴は開いたが、検証する前に妨害されてしまい、一本取られたと考える。


 まだ異世界への穴は閉じていない。つまりまだ干渉できるということ。


 正直、拒否された理由の検討はある程度ついている。


 自分が向こうの世界の人間ではないことが要因ではないかと推測できる。


 でなければ入るなと言わんばかりに、腕が千切れるわけがない。


 だとすれば、


「バザガジール、アルビオを穴に放ってくれるかな?」


「なに?」


「……試したいことがある」


 その悪巧みを思い付いたクルシアの表情とアルビオと言われ、ハイドラスも気付いた。


「アルビオ! 来てくれて早々悪いが、全力で逃げろ!」


「な、何故です?」


「クルシアの奴、向こうの世界の血が通ったお前なら、あの異世界に行けるのではないかと踏んだんだろう」


 それを聞いたアルビオは異世界の景色が映った穴を見る。


「こ、これ――」


「――アルっ!!」


 ヒュッとバザガジールが目の前に現れた。


「そうですね。せっかく開いた異世界の穴に、ただ景色を眺めただけでは格好もつきませんからね!」


「しまっ――」


 腕を掴まれ、投げ飛ばされる。


「ぐあっ!!」


「アルビオ!!」


「させない!!」


 シドニエが穴の前に立ち塞がり、木刀を振り下ろす構えをしていた。


「アルビオさん、ごめんなさい!」


 そう言って振り下ろすと、アルビオを地面に叩きつけた。


 渾身の一撃をまさか味方に振るとは考えていなかった。


 でもこれだけの力を込めなければ、止められないとも考えた。


「助かっ――!?」


 受け身を取ると同時に穴から離れたアルビオの視界には、シドニエに襲いかかるクルシアの姿があった。


「ボクは腕だけで済んだけど――君を押したらどうなるかにゃあ?」


 立ち塞がったシドニエを穴に突き出そうと胸を押す。


 シドニエは現代世界との繋がりは一切無いことから、クルシアのように拒絶されることが予想される。


 一同の予想は一致している。


 シドニエは粉々の肉片に変わることを。


「――ファルニっ!!!!」


「――エクスプロード!!」


 シドニエの後ろから強い爆発が発生。


「なに!?」


「――うわああああっ!!」


 強い爆発と爆風でシドニエとクルシアは吹き飛ばされた。


 だが二人の受け身の取り方は段違いの差を見せている。


「ひっどいなぁ、アイシアちゃん。シドニエ君まで攻撃するなんてさ」


「そんな心配、必要ないから!」


「!」


「い、いたた……」


 シドニエは軽く擦りむいただけのような軽い反応を見せる。


 エクスプロードは確かにシドニエの真後ろで発生した。


 あれだけの威力をほぼゼロ距離で受けていたにしては、ダメージ量が少な過ぎる。


「私、言ったよね――許さないって!」


「……こりゃあ目覚めさせちゃいけないのを起こしたかにゃ?」


 シドニエも何故、自分がここまでダメージがなかったのか、キョロキョロと自分の身体を確かめる。


「ファルニ! 無事か?」


「は、はい殿下。僕は大丈夫です……」


 するとアイシアは杖をクルシアに向ける。


「私、貴方を許さない。そして……何もできなかった自分も許せない! だからっ!!」


「シア……」


「もう貴方の望み通りになんかさせない!!」


 大粒の涙を零しながらも、しっかりと宣言をし、行動も示した。


 あのエクスプロードでシドニエに被害が無かったのは、無詠唱での魔法障壁を展開していたのだ。


 ただシドニエが吹き飛ばされるくらいの薄く、しかしダメージを負わせないという絶妙な張り具合。


 エクスプロードの威力もクルシアも阻害できるように調整した。


 火属性の精神型はどうしても、攻撃力を上げがちになるところだが、アイシアは天性の才能を発揮するかたちとなったのだ。


「事態はまだ上手く飲み込めていませんが、とにかく奴らを倒せば終わりですよね?」


「うん!」


 やる気満々の二人に待ったをかける。


「待て、マルキス! アルビオ!」


「殿下、止めないで! 私は……」


「お前の気持ちはわかるが、今だけは条件が違うことを理解しろ! クルシアの今の狙いは異世界の穴をアルビオが通れるかと、異世界への鍵となったリリア・オルヴェールの回収だ。それらを死守すればいい」


 余計なことをとクルシアは、軽く舌打ち。


 冷静でないアイシアと状況が飲み込めていないアルビオ相手の方がやりやすかったのにと。


「つまりはその穴が閉じれば、本気で仕留めて構わん! それまでは絶対にアルビオとリリア・オルヴェールを守れ!」


「わかった!」

「わかりました!」


 するとクルシアは、嬉しそうに不敵な笑みを零す。


「まったく……楽しくなってきたじゃないかっ!!」

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