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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
9章 王都ハーメルト 〜明かされた異世界人の歩みと道化師達の歩み〜
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19 無謀な死闘

 

 説得も虚しく、というよりは時間稼ぎも虚しく、ガイツの作戦は徒労に終わった。


 正確には更に状況が悪化する情報を得た。


 バザガジールは状態異常の攻撃などの付与魔法、次元系の魔法も効かない耐性持ちであることがわかった。


 だが、真正面から対峙せねばならないとわかれば、やることも簡単に見えてくる。


「倒すしかねえのな!」


 リンナは冒険者時代の愛刀で斬りかかる。


「ふふ。お相手しますよ」


 リンナはターゲットだからと、バザガジールは上機嫌で相手取り、ニヤっと笑みが零れた。


「!」


 敵意を感じたリンナは、少し目を見開く。


 ヒュンと高速の拳がリンナの顔の横を過ぎ去る。


「あっぶな――かあっ!?」


「フ……」


 顔面を狙った拳は(かわ)したのも束の間、打ち出された拳は一発ではなかった。


 リンナの腹は拳ほどの大きさの凹みが浮かび上がる。


「――がああああっ!!」


 その凹みは回転がかかっており、スクリュー状に打ち出された。


 リンナは回転しながら、自宅の玄関へと放り込まれる。


 三人は思わず飛ばされてきたリンナを(かわ)す。


 家具などを巻き込んで転がるリンナは、家の壁も突き抜けると、外へ倒れ込む。


「……ぐっ、くっ……くそがぁ……!」


「そのような言葉遣いはよろしくありませんよ」


 勢いよく飛ばされたリンナの着地点に既に構えていたバザガジールをギルヴァ達は視認する。


「くそがっ!」


「――リンナさんっ!!」


 ガイツは無詠唱魔法を、ギルヴァは瞬時に次元の剣を作り、助けに向かうが、バザガジールの拳は起き上がろうとしているリンナに振り下ろされる。


「――がぁああああっ!?」


 その拳はリンナを殴りつけ、その衝撃で地面は大きく凹み、その衝撃による風圧が斬りかかろうとしたギルヴァを吹き飛ばし、家の中にいた二人も激しく吹き飛ばされそうになる。


「――くそおっ!」


「――きゃああっ!!」


「さて……」


 バザガジールはリンナの髪を鷲掴みにし、生死の確認を行なう。


 何せお腹をえぐるように拳を入れ、隙だらけのところに追い討ちをかけたのだ。任務は彼女の回収、もしくはメモの回収が目的。


 彼女の回収は勿論だが、死んでしまってはメモの在処がわからなくなる。


 それは異世界人に興味があるバザガジールには困る話。


 バザガジールはリンナの気を失っている表情、辛うじて息をしていることから生存を確認すると、お姫様抱っこをして抱えた。


「これで任務完了ですかね」


「やらせるかよ! ――フレア・ボム!」


「逃すわけには……」


 無詠唱の魔法とギルヴァによる剣撃が襲うが、


「ながっ!?」


 フレア・ボムは簡単に相殺され、空中から襲っていたギルヴァもパァンと激しく当たった音が響き、バランスを崩される。


「ば、馬鹿な……」


 ギルヴァは攻撃されたことに驚く。


 正直、クルシアには遅れをとったが、近接戦には多少の自信はあるギルヴァ。


 次元系の魔法を組み合わせた剣撃や移動術、残像など時間軸のズレを引き起こし、フェイントなどでの駆け引きも得意とする。


 今回のバザガジールへの攻撃もそのあたりのズレは作り、斬りかかっていた。


 空中ならばひと突きであれば、残像も関係ないと思われがちだが、拳の感触のズレからくる違和感による威力の喪失。


 それを狙って剣撃を合わせたつもりだったが、


「遅いですね。まだ寝てらっしゃるのですか?」


 どれだけ次元のズレを作ろうともバザガジールにとっては止まっているように見えている。


 戦争経験の豊富なバザガジールが達人級なのは言うまでもなく、攻撃であれば培われた洞察眼で簡単に見抜かれてしまう。


 そして、


「――があぁああっ!?」


 空中で攻撃を止められてしまったギルヴァに、リンナを抱えているにも関わらずひと蹴り入る。


 まるで巨人の棍棒で殴られたかのような威力が、その全身で感じた。


 ギルヴァはまるで大砲の玉。


 そのままリンナの自宅の壁を突き破り、その方向にはガイツがいた。


「しまっ――」


 気付いた時にはギルヴァと激突。そのまま二人まとめて勢いよくオルヴェール邸に転がった。


「あ、ああ……」


「うっ、ぐうっ……」


 ほんの数十秒の出来事。


 リンナは気を失った状態でバザガジールの腕に抱かれ、ギルヴァとガイツは簡単にあしらわれている。


 しかもこちらのダメージはかなり大きいのに対し、バザガジールはかすり傷一つ無しである。


 改めて戦慄する――この男に勝てるのかと。


「ガイツさん! 増援に来ました!」


「!」


 そう叫んでいるのは、騎士と魔術師団だった。


 転移魔法が発動したのにも関わらず、連絡がなかったことを気にかけて、増援に来たのだ。


 するとガイツは必死に叫んで命令する。


「――ありったけの魔法をぶち込めっ!」


 ガバッとガイツも鬼気たる表情で睨みつけながら、杖を向ける。


「は! ――がっ!?」


「な、何っ……!?」


 するとガイツを含めた魔術師団、騎士達は何かに殴られたように吹き飛ばされる。


 アリアは何が起きているのかわからず、酷く動揺している。


「はっ、はっ、はっ……」


「まったく……鬱陶(うっとう)しい蝿虫(はえむし)ですねぇ」


 バザガジールはリンナを抱えたまま、こちらに向かって歩いているようにしか見えなかった。


 だが外から現れたハーメルトの人達もガイツもあっさりと倒されている。


 そんな何をやっているのかもわからず、しかし、圧倒的な強さを見せつけるバザガジールに恐怖心が湧き出る。


 こちらへ一歩一歩、近付かれるごとに、心臓の鼓動と共に目の前が揺らぐ。


「――アリアっ! 離れろぉ!」


「ギ、ギル!?」


「――おおおおっ!!」


 無数の次元の剣が宙を飛び、一斉にバザガジールに襲いかかるが、


「――がっ!?」


「ギル!!」


 そちらを見向きもせずに、全てを相殺し、ギルヴァすら吹き飛ばすと、ため息を漏らす。


「はあ……元々勝ち目のない勝負だとわかっていたから、転移魔法(あんなもの)に頼ったのでしょう? 諦めていただけませんか? こちらとしてはプンプンと鬱陶しい限りなのです」


「そ、そんなわけに……いくか」


「ギル……!」


 ギルヴァはよろめきながらも立ち上がる。


 その様子にバザガジールはデジャヴを感じ、口元が緩んだ。


「お前はクルシアの仲間だろ? あいつには借りがある。俺達の人生を狂わせた大きな借りがなっ! それにアリアのことだって……あいつには償わせなければならないことが山ほどあるんだ! 諦めるわけにはいかない」


「つまり何です? 私を倒してアジトへ向かおうということですか?」


「いや、あんたって戦力を削いだ上で、あいつの首を取る!」


 ハイドラスは暗殺には反対意見だったが、それは道化の王冠(クラウン・クラウン)の戦力が、少人数にも関わらず絶望的に強いことにある。


 だがここで少しでも戦力を削げれば、クルシアの首まで届く。


 バザガジールという戦力は、奴らにとっては最大の戦力。それをここで止められればグッと目的に近付く。


「フッ。フ、フフフ……本気で言っているのですか? そんな体たらくで……」


「本気だ。クルシアの首を狙うなら、今しかない」


 ギルヴァはそのために護衛を引き受けたと言ってもいい。


 戦力を削ぎ、少しでもクルシアを狙える確率を増やせるならばいいと考えた。


 さすがにバザガジールが出てくるのは想定外だったが、


「お前ほどの奴を差し違えてでも仕留められれば、あの殿下達が汲み取ってくれる。俺の意志を……」


「ギ、ギル……?」


 まるで命に代えてもと言っているようにしか聞こえないと、アリアは動揺の顔色を見せる。


 それを優しく微笑んで返すギルヴァ。


 本当なら命を賭けない方が良かったのだが、バザガジール相手ではその考えは甘過ぎる。


 せめてアリアだけでも無事に返し、自分の意志を汲み、王城に置いてくれたハイドラス達に任せたいと考えた。


「アリア、すまない。俺達のためにも、お前のためにも、俺はこの選択をする」


 すると再び次元の剣を無数に展開する。


 二本を手に取り、構える。他は援護用。


「いくぞ! バザガジール! 貴様をここで殺す!」


「フフフ……ハハハハハハハハ……」


 抱えていたリンナを下ろすと、不気味なほどの愉悦な笑みを浮かべた。


「私は本当にクルシアと会えてよかった。昔ならそんな遠吠えに耳も貸さなかったのですが、それが本領を発揮することだと私も最近知りました」


 ギルヴァの覚悟を秘めた瞳にはいくつかの覚えがあった。


 バークの本気で尊敬する者のためを想う真剣な瞳。


 アルビオが友を傷つけられ、その悲しみを友と分かち合い、自分に立ち向かってきた覚悟の瞳。


 その意味を教えてくれたのは、奇しくもクルシアだった。


 クルシアの側で意見や行動の意味を知れば知るほどに、自分にもその実がなっているのがわかる。


 クルシアのいう人の面白さ。


 感情的かつ理性的故にその心境の変化により、変わる強さと気迫。


 胸が高鳴る。


 自分をどう追い詰めていくつもりなのだろうかと、まだ最強と呼ばれる前の自分の気持ちを奮い立たせるようである。


 実際、今のギルヴァの気迫は先程、焦ってリンナを助けに入ったような反射的感情ではない。


 どっしりと腰を据えた真っ直ぐで揺るぎない瞳。


 そそる。


 クルシアから助言を受けて、アルビオの力に合わせたあの時の状況と同じである。


「いいですよ。貴方の覚悟を見せてみなさい。私の拳が応えましょう」


 睨み合う二人に割って入る者など居るはずもなく、


「――いくぞっ!」


「――楽しませて下さいね!」


 二人とも前へ駆け出し、拳と次元の剣がぶつかり合う。


 ギインと金属が弾いた音が死闘の合図となった。


 少しばかり距離が空くと、それを埋めるように次元の剣が宙を飛び、バザガジールに何度も襲いかかる。


「フッ」


 今度は敢えて相殺しないバザガジールは、向かってくる次元の剣をかい潜り、素早くギルヴァの元へ。


 顔面目掛けて右ストレートが素早く打ち出される。


 だが先程からの高速拳撃に比べると、圧倒的に見える速度の拳。


 ギルヴァは紙一重で(かわ)すと乱戦に持ち込む。


 次々とバザガジールに向かい(かわ)される次元の剣を掴んでは斬撃の猛襲。


 勿論、バザガジールも反撃を忘れることはない。


 戦闘を盛り上げるためか、ギルヴァに合わせて攻撃を繰り返す。


 明らかに手加減されている。


 だがそれは興味が自分に向いた証拠でもあった。


 先程までのバザガジールは、あくまで異世界人にしか興味がなく、その目的を果たすためのリンナにしか興味がなかったが故のあしらい方だった。


 だがギルヴァの意志を汲み込んだのか、その覚悟の力に俄然興味が向いたのだ。


 そして手加減をし、クルシアを仕留められるという希望を持たせ、少しでも状況を楽しむつもりのようだ。


 舐めてくれるのは好機(チャンス)だ。


 たとえそれがこの男の娯楽だとしても、ギルヴァにとってこれほどの好機(チャンス)はない。


「随分と加減してくれてるじゃないか」


「お気に障りましたか?」


「いいや!」


 再び距離を取ると、ザザッと残像が入った無数の分身と次元の剣が現れる。


「ほう。質より量派でしたか……」


「どっちもだよ!」


 残像の分身も割り込んで、更に戦闘は激化。


 密度を高めた分身による渾身の攻撃を畳み掛けるが、複数人との戦闘はお手の物だと、簡単に退ける。


 だが攻め手を緩めることなど許されるはずもない。


 隙間を埋めていくように、休む隙を与えない。


 だが、


(くそっ! 全然消耗してる気配がない!)


 バザガジールは依然として、笑みを浮かべるほどの余裕を見せて対処し続ける。


 さながら戦闘を楽しんでいるようだ。


「お辛そうですねぇ。余裕のない方は大変だ」


「黙れ!」


 だが事実、こちらの消耗との利があっていない。


 こちらは出し惜しみない物量と質量での攻め手。決して雑に力を奮っているわけではなく、今までで一番しっかりとした攻撃ができているように感じる。


 しかしバザガジールは実戦経験の差とばかりに、温存した戦いを見せる。


 元々手加減して戦っている時点で、余力はいくらでもあるバザガジール。


 元々のキャパシティと実力の差を見せつける。


 少しでも希望の兆しが見たいギルヴァは、手堅く手広い攻めを繰り返すが、


「おや?」


 全ての分身体と本体にあった次元のブレによる防御。


 それによって攻撃の回避も行なっていたのだが一体、不自然にも次元のブレが消えた。


「しまっ――」


 バザガジールはそのブレの消えた本体と思われるギルヴァの懐に、拳を打ち込む姿勢で現れた。


「隙あり」


「――があっ、はあっ!!」


 バザガジールの右ストレートがしっかりと打ち込まれ、ギルヴァは激しく飛ばされ、地面に勢いよく転がされていく。


「――ギルっ!!!!」


 分身体も次元の剣も全て同時に消えた。


「フフ。良いのが入りました……」


 それを証明するようにギルヴァはその場で動けず、血反吐を吐き、俯いてみせる。


「があっ。ゲホっ! ばはあっ!」


 加減されていなければ身体が千切れ飛んでいる可能性を考えれば、これでも良かった方なのだろうが、それでも苦しさを滲ませる。


「ギル……ギル……」


 アリアは苦しみに伏せているギルヴァを眺め、不安と恐怖に苛まれていく。


「いやぁ、実に素晴らしい攻めでしたよ。並の相手ならば十分仕留めることが可能だったでしょう。しかし……」


「があっ!?」


 ギルヴァの髪を引っ張り、顔を見合わせる。


「相手が悪かった。とても残念です」


「くっ……」


 側から見ればトドメを刺しに行く光景に、


「やめてぇえ!! ギルを奪わないでっ!!」


「!」


 アリアは叫ぶ。


 その悲痛の表情を見たギルヴァは、まだ諦めてはいけないと、右手に次元の剣を作る。


「――あぁあああっ!!」


 それで顔面目掛けて斬りかかるが、ガシッとそれも防がれる。


「く、くそぉおっ!!」


「何を勘違いされているか知りませんが、私は弱者を殺す趣味はありません」


 元として強者と謳われていた人間ならば、失望したのち殺すことはあっても、元々弱者だとわかっている人間を殺すポリシーはないバザガジール。


 だがアルビオやバークのデジャヴを感じた彼の取った行動は、


「な、何を……!」


 掴んでいる右手を本来曲がらない方向へとゆっくりと曲げていく。


「や、止めろ! 止めろぉ!」


「フッフフフ……」


 メシメシメシと生々しい音が右関節部分から聞こえてくる。


 耳が近く、痛みも徐々に強くなっていくせいか、堪らず恐怖の様相へと変わっていく。


「あっ!? ああああああっ!!」


 髪を掴まれ、宙ぶらりんのギルヴァはせめてもの抵抗に足蹴りを繰り返すが、一向に止める気配はない。


 そして、


「ああああああああっ!!」


 曲げられている右腕の音もメキメキという折れていく音へと変わっていく。


「止めてえっ!! 止めて……」


 アリアも顔を覆い、膝が崩れ落ちる。


「大丈夫ですよ。腕を一本、引き千切られるくらいでは、人は死にません」


「――がああああああっ!!!!」


 片腕でグリッと関節部分を捻り、強引に右腕を引き千切れ、バザガジールはギルヴァを離した。


「あっ!? あぁああ……ぐ、ぐううっ!」


 ギルヴァはその場で(うずくま)り、血が溢れて、痛みが酷い右腕を懸命に押さえる。


 息は荒く、あまりの痛みに視界が霞んでいる。


 そんなギルヴァに話しかけるように屈むと、


「貴方はこの敗北から何を学びますか? この右腕を失った貴方はどのような手段でクルシアに挑むのですかねぇ。フッ、フフフ……アッハハハハ!!」


 期待に胸を高鳴らせると、上機嫌に語った。


 以前の自分であれば、簡単に吐き捨てたであろう弱者。


 しかし、劇的な展開というクルシアの推奨する彼らの人生はバザガジール自身の人生も彩っていくのだと知る。


「これが優越感というヤツですね。クルシアが愛してやまない、他人の人生を踏み躙る強者の権利。そして敗北という苦汁を飲ませることで、私に対する憎悪を燃やしてくれるでしょう。ねえっ!」


 尋ねられても、まともに答えることもできない。


 痛みと目の前にある自分の無惨に引き千切られた腕が転がっている。


 まともな判断も考えも起きるはずもなく、ただただ絶望と混乱の最中にいる。


 このままではリンナは(さら)われ、自分は腕を失うという現実が待っている。


 なんとか打開策やせめて立ちあがろうと考えはするが、ズキズキと痛む右肩部分が集中力を削いでいく。


 救わなくてはいけない人もいるのだと、霞む瞳でその人物を見ると、


「ギル……ギルっ!」


 大粒の涙を流し、悲痛な表情を浮かべている。


 あんな顔をさせるために、一緒にいるわけではないと後悔の念にも苛まれていく。


 だがその様相は変わっていく。


「ギルっ!? ギル、ギルぅっ!!」


「ア、アリア?」


 魔力がどんどん膨らんでいくのがわかる。


 再びリンナを担ごうとしたバザガジールも、アリアの異常に気付く。


「奪ワせなイ……ワタシノ大切ナヒト達ヲぉ……」


 凶々しい魔力へと変貌し、アリアの声もノイズが入ったような声へと変わっていく。


「アリア!! お、落ち着――つうっ!?」


 暴走状態になりそうなアリアに叫ぼうとするが、やはり痛みの部分が邪魔をした。


「――アアアアアアッ!!!!」


 色が純潔の血のような紅色の瞳をギンっと見開く。


「ギルをウバわせない!! シネぇええええっ!」


 その叫び声は音波による衝撃波へと変わり、リンナが近くにいるにも関わらず、バザガジールを襲う。


 だがそんな不意打ちにも対応する。


 その衝撃波に合わせて、拳撃からでる風圧で押し返した。


「――キャアアアアっ!?」


「アリア!! くそおっ!!」


 アリアはそのまま木に激突。


 すると感情が抑えられなくなってきたのか、魔物の感性が呼びかけてくる。


「コ、コロセ。コロス! ワタシの大切なモノを奪う敵は、コロセ!」


「……なるほど。貴女、適合者でしたか……」


 バザガジールは思い出したと、クルシアに聞かされていた、アリアの情報を確認する。


「クルシアから女性だとは聞いていましたが、こんなところでお会いできるとは……」


 原初の魔人ほどではないが、やや期待値が上がる。


「コロス……はダメ。マモルの。マモルのぉおおおお!!」


 魔物の意志に反するように、殺すことは後回しにと、無数の触手が地面から盛り上がってくると、


「〜♪」


 アリアは歌を歌い始める。


 その歌はまるで木の根の触手が操られているようで、傷付いて動けないでいるギルヴァへと向かう。


「な、何を!? アリア!? アリ――」


 するとその木の根はギルヴァを囲うように閉じ込めた。


 中に閉じ込められたギルヴァは、痛みに耐えながらも叫ぶ。


「開けろ! 開けてくれ! アリア!」


 だが厚みのある木の根の壁は音も衝撃も吸収されてしまう。


 いくら叫ぼうともアリアに届くはずもなかった。そして本人も、


「〜♪」


 頭の中で、音楽が流れているのかララーっと歌い続ける。


 周りから大量の木の根がボコボコと浮き出てきては、ミリア村はどんどん侵食されていく。


 そして、


「来ますか?」


 その触手達が攻撃を開始した。


 アリアを中心にし、守るように木の根は動く。


 だがバザガジールが(かわ)せないわけがないと、反撃に出た瞬間だった――。


「!?」


 ギルヴァの左腕の筋肉部分に触手が突き刺さったのだ。

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