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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
9章 王都ハーメルト 〜明かされた異世界人の歩みと道化師達の歩み〜
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18 天然殺人鬼

 

 リンナ達の前に現れたのは、朱餡しゅあんのオールバックロングの髪と狐目男、バザガジールであった。


「血と死の気配……ですか。ふむ、死はともかく血の匂いはしないはずですが……」


 紳士的な喋り方をしながら、自分の服の匂いをすんすんと嗅いでいる。


 リンナの後ろから三人も確認する。


「チッ。よりにもよって一番最悪の奴が来たな」


「あいつが例の殺人鬼か……?」


 リンナも噂なら耳にしたことがあり、その容姿も聞き及んでいる。


 だがバザガジールの顔を知っているのは以前、襲撃された際にラバの町での戦場を記録した記憶石を確認しているガイツだけ。


 確認を取るリンナに頷くと、ガイツの手のひらから小さく魔法陣が展開する。


「それは?」


「外の部下連中への連絡だ。バザガジールが現れた場合は、村の人間の避難させ、戦闘は避ける」


 その魔法を発動するだけで、指示として飛ばすようにしてある。


「なに!?」


 護衛をする気がないのかと、ギルヴァが驚きの声を上げる。


「あいつがどれだけ相手にしちゃダメなのか、俺達が把握してる。ここにいる連中が束になったって、かすり傷がやっとのレベルだ。だからあいつ専用の別作戦を用意してある」


「作戦?」


 元々道化の王冠(クラウン・クラウン)のメンバーをある程度は把握していたのだ、そのメンバーに対し、作戦を用意してあったのだ。


「バザガジールが出てきた場合、先ず戦闘では勝てない」


 随分と弱気な発言だと口にしたいところだが、三人ともバザガジールを見ていると、異質な雰囲気に重圧(プレッシャー)を感じる。


 こんな山の(ふもと)の村で着崩した紳士服姿にも違和感を感じるが、一見、匂いを確認する隙だらけのように見えるが、少しでも殺意や敵意を向けると、首が飛ぶような幻覚が見える。


「だから俺の魔術師団にはこの村を囲うように大型の転移魔法陣を用意してもらう」


「転移?」


「そうだ。アルミリア山脈の迷宮(ダンジョン)に放り込む」


 騎士達や魔術師団に何も警備だけを指示していたわけではなかったのだ。


 ここの土地感や地脈の流れ、迷宮(ダンジョン)の入り口の再確認など、どのメンバーが現れても手段が取れるよう、用意を進めていたのだ。


 そしてバザガジール対策としては、大型の転移魔法で、できることなら深い迷宮(ダンジョン)の最奥部に放り込み、入り口を塞ぐという作戦。


 この作戦を遂行するには、地脈の流れの的確な把握が必要とされる。


 迷宮(ダンジョン)は地脈の乱れとダンジョンマスターと後に呼ばれる魔物の存在で成り立つ。


 その地脈の流れに転移魔法を用意することが不可欠ということなのだ。


「今からか? 時間あんのか?」


「この辺りの地脈はこの数日で把握させてる。後は魔法を用意してもらうだけだ」


 時間を稼げばいいとわかったリンナが歩み寄る。


「ま、待て! あんたが捕――」


「シッ」


 ガイツが慌てて止めようとするのを、リンナがバザガジールに気付かれないように黙れと止めた。


「それで? 何か用か?」


 リンナは自分が狙われているにも関わらず、堂々たる態度でバザガジールに話しかける。


 そんなバザガジールはメモを見ながら尋ねた。


「ええ。実は黒炎の魔術師の母……えっと、確か……リンナ・オルヴェールという女性を探しているのですが、貴女……ですよね?」


「いいえ、違います。私の名前はルカナ・トゥーヘイナと申します」


「「「!?」」」


 さらっと否定したことに、後ろにいた三人もびっくり。


「お、おい。まさか……」


「しらばっくれるつもりか……?」


 三人がボソっと会話をしながらリンナの狙いに気付く中、さすがにそれはバザガジール自身もおかしいと疑問点を確認していく。


「それはおかしなことを言う。貴女がリンナ・オルヴェールではないのなら、自分の家の玄関を破壊してまで、私を拒絶しますか?」


「それならさっきも言っただろ? あんたからは嫌な気配がプンプンする。魔物を警戒すんのと同じだ」


「……私はどうしてこう、人間扱いされないんですかねぇ?」


 そう言いながらもその理屈には納得するバザガジールは次の質問へ。


「ならば貴女のご自宅に何故、ハーメルトの魔術師団の方がいるんです?」


 人を覚えるのが苦手なバザガジールでも、服装くらいはわかると、ガイツのことを指摘する。


 すると、


「はあ!? ハーメルトの魔術師団っ? コイツが? どこをどう見たらそう見えるんだ?」


 思いっきり馬鹿にするように否定した。


「なにぃ?」


 癇に障ったのは勿論、ガイツの方。


「ハーメルトの魔術師団って言ったら、エリート魔術師集団だろ? 私が嫌いなタイプのガリ勉野郎共の集団だ、コイツがそれに見えるってか? こんな頭の悪そうな人相をよく見てみろ。魔法使いのローブがまったく似合ってねえじゃねえか。明らかに単純思考の馬鹿野郎にしか見えないだろ?」


 その発言の数々に怒りを覚えるガイツ。


 確かにガイツは魔術師団のリーダー格の中では一番落ち着きがなく、攻撃的な側面を持ち合わせている。


 多少の自覚はあるものの、そこまで言われたくはないと感情が吐き出そうになるが、バザガジールがいる現状とリンナの作戦を害さないように耐える。


 それを聞いたバザガジールは少し考え込む仕草を取ると、


「……なるほど。確かに」


(た、確かにじゃねええええっ!!)


 ガイツの怒りのボルテージが上がり続ける。


「ならば何故、彼はそんな似合わない格好を?」


「趣味だ」


「――ぶふっ!」


 思わずギルヴァが吹き出し、馬鹿にされているガイツはギロっと睨む。


 ペコペコと後ろで謝りながらも、ガイツを逆撫でする会話は続く。


「趣味……ですか。確かに多様な趣味に寛容な私ではありますが、こうも似合わない服を着て見せびらかすのはどうも……」


 殺人鬼であり、過度なスリルジャンキーである自分は、多少の変な趣味も許容できると断言。


 でなければクルシアに付き合うということもないだろう。


 だがバザガジールであっても、多少の動揺くらいはする。


「だよな? 私達も散々似合わないって言ってんだけど、聞かなくてさ。なっ?」


 バザガジールに警戒しつつも、三人の方に振り向き、同意を求めると、一人を除いて困惑している。


「あ、ああ……」


「そ、そうですね……」


 ギルヴァとアリアの視線の先には、いつ爆発してもおかしくないガイツの姿があった。


「わ、悪かったなぁ。に、似合わない格好でよお」


 明らかな作り笑顔で何とか会話を合わせるガイツだが、正直狙いが見えてきた。


 バザガジールは本来、強い人間にしか興味がなく、他人と会話をするような人間ではなかった。


 だが事前に聞いていたハイドラスからの話だと、クルシアやアルビオとの出逢いから、心境の変化があったのだと考察していた。


 主だってはクルシアの影響。


 弱者にも利用価値があるのだと、バザガジール本人も感じていたのだろう。


 ハイドラスはバザガジールが来る確率は低いと想定していた。


 クルシア達の影響があったとしてもバザガジールは興味のない人間との会話を好んでするとは考えられなかったためである。


 だがそれでもバザガジールの行動を考察せねばならない。


 読めない人間だからこそと、アルビオとの考察の元、ガイツはバザガジールは勿論、道化の王冠(クラウン・クラウン)の面々の人物像を聞かされている。


 それを考慮してバザガジールが会話できていることを推察すると、バザガジールにとって会話をする価値があると判断されている。


 それはルカナと名乗るリンナのことをリンナだと疑っていること。


 そしてリンナ・オルヴェールはこの男にとって価値のある人物であることをこの会話が成り立っていることで証明されている。


 リンナは詳しくバザガジールのことを知らないが、時間稼ぎが必要だとボソッと告げた会話に合わせてくれていると判断。


 つまりリンナがとっている今の行動はしらばっくれることではなく、こちらの作戦の準備の時間稼ぎではないかと判断できる。


 勿論、あわよくばもあるのだろうが、それは楽観的だろう。


 だが実際、質問しなければならないほど、人に興味を持てないバザガジールには良い作戦だろう。


「ではそちらのお二人はご友人ですかな?」


「ああ。というか別人だってわかったら、他を当たってくれ」


「おや? 私の質問はまだ終わっていませんよ」


 やはりしらばっくれるのは難しいようだ。


 バザガジールはまだ疑ってかかる。


「こちらを見ていただけますか?」


 バザガジールは見ていたメモを見せてきた。


 そこにはリンナの似顔絵が描かれている。


「これは私の友人が描いたリンナ・オルヴェールの人相です。……どこからどう見ても貴女に見えるのですが……」


 三人はさすがにそれは言い逃れができないと、動揺の顔色が浮かび上がろうとしていたのだが、


「ほー……私、そっくりだなぁ」


 あまりのすっとぼけ発言にその緊迫感が解け、その場でこけた。


「何してんだ?」


 リンナが馬鹿らしいとこちらに振り向くが、


「お、お前なあ!!」


 さすがに嘘が下手くそ過ぎるとツッコもうとするが、


「事実を言ってるだけだろ? この世界にゃあな――」


 パチパチとバザガジールに気付かれぬよう、瞬きする。


「自分とそっくりの人間が三人はいるって話だぜ? この似顔絵が私だって証明がどこにある」


 その仕草は話を合わせろ、時間稼ぎは必要かと訴えているよう。


「……私からしても下手な言い訳に聞こえるのですが……」


 バザガジールも勿論、その言い分には不信に思う他ない。


 バザガジールは興味のないことに関心がなく、ある程度の常識が欠落しているだけで馬鹿ではない。


「そうか? もっと良く見てみろ」


 だがリンナはお構いなしである。


 まるでリンナ本人だったら、こんな無防備に近付くわけもないだろうと主張するように平然と近付き、綺麗に描かれた似顔絵が自分とは異なると主張する。


「ほら、このあたりの目の吊り上がり方とか違うだろ? あとは――」


 そんな無謀とも言える行動を平然と取るリンナに三人は圧倒される。


「さ、さすがですね」


「ああ。まさか本当に別人だと言い張るつもりか?」


「それはあわよくばだろ。本当の狙いはこれだ」


 ガイツはバザガジールに細心の注意を払いながら、手元に展開する魔法陣を気にかける。


「転移魔法か……」


「連絡待ちだ。……リンナが時間稼ぎをしているうちに何とか……」


 互いの主張が交錯する中で、家の中で構える三人は生きた心地のしない心境である。


 全く殺意を剥き出されていないにも関わらず、バザガジールの存在自体が脅威だとわかっているこの状況。


『ガイツ様、避難誘導完了しました』


「!」


 部下からの念話が飛んできた。


 ガイツの顔色が少し変わったとギルヴァ達は見抜く。


『転移魔法はどうだ?』


『もう少しだけお待ちください』


『なるべく早くしろ! いいな?』


『はっ!』


「……連絡がついたのか?」


「ああ、もう少しだそうだ」


 ここから見る分には、バザガジールはこちらの作戦に気付いている様子はない。


 リンナのことをリンナではないかとの確認に意識が集中しているように思う。


 だから敢えてリンナはバザガジールに近付いたんだ。


 目の前で会話をされれば、さすがに意識はリンナに向く。


 如何に熟練の殺人鬼であっても、最悪何かしているのを察知されても、内容までは気付かないだろう。


「――な? 良く見れば別人だろ?」


「その理屈で言えば、この似顔絵はこの人相をした人物、全員が当てはまらないということになりませんか? それにあくまで彼の記憶にあるリンナ・オルヴェールの似顔絵。多少は違っても、ここまで似ているのなら、貴女だと疑うべきでしょう」


 クルシアはリリアの家族構成を調べる際に、リンナの顔立ちを知っている。


 そしてクルシアの画力が抜群であることが、リンナの別人説を論破するかたちとなっている。


「そうだな……だとするとこの話ひ平行線だな。どう言われようとも、私はその……リンナ・オルヴェールだっけ? そいつとは別人だ。お前さんの話を肯定することはねえ」


 あくまで別人と言い張るリンナだが、ここで賭けに出る。


「なあ? あんたが探してる奴、髪色は何色だ? 肌の色は? 目の色は何色だ?」


「「「!!」」」


 三人は明らかに正体がバレそうな会話を投げかけたことに驚く。


「な、何考えてんだ……!」


 だがバザガジールはこちらが予想していなかった発言をする。


「……た、確かに。何色なのか確認していませんでした」


 まさかの天然をかます殺人鬼。


 それには三人だけならず、通ればいいなという賭けくらいに考えていたリンナも拍子抜けする。


「確かに彼からはこの似顔絵がリンナ・オルヴェールだということしか聞いておらず、他の特徴を聞いてませんでした!」


 バザガジール自身も自分は似顔絵さえあれば、判断は可能と思っていたが、確認を怠っていたことを嘆く。


 確かに似顔絵は白黒で描かれており、髪色、肌色、目の色などの特徴については記載されていない。


 しかもリンナのいう同じ顔の人間説を説明された後では、クルシアほどの応用力のないバザガジールとしてはこれを真に受けた。


 だがこれはにはリンナは、リリアの髪色は母親譲りだとは聞いてなかったのかと、ちょっと間抜けだなと考えるが、この好機を逃す手はない。


「だ、だろ? 私の髪色は珍しいが、いないわけでもねえ。もしかしたら肌色は褐色かもしれねえし、私より色白かもしれねえ。目の色なんかは色々いるからなぁ……」


 そう説得されると、バザガジールは考え込む。


 基本、興味のない人間の話を聞かないと聞かされていたガイツは、その光景に違和感を覚えるが、この殺人鬼にも心境の変化があったのだという情報を確認できた。


 それは人としての感性に湧いたということだが、正直喜ばしいことではない。


 それは戦闘での駆け引きごとを磨くことに繋がるからである。


 元々戦闘においての駆け引きも極まっていると考えていいこの男が、更に強化されるとなると、その厄介さはクルシアに匹敵する。


「とりあえず一度確認に戻ってみたらどうだ?」


「そうですねぇ……」


 リンナの提案には乗ってくれると有り難い。


 正直、勝ち目のない相手を引き止める必要はほぼないし、説得できるならばそれに越したことはない。


 だが戻ってきた後のしっぺ返しが恐ろしいと感じるが、状況としては戻ってくれる方がマシだろう。


「でしたら、この村が出身ということはわかっているのです。リンナ・オルヴェールの居場所はご存知ですよね?」


「……」


 それを言われると最早言い逃れは難しく、さすがに場所までは中々変えられない。


 一応、主人について行っているや、実家に帰ってるなんて言い訳は思いつくが、その場凌ぎ過ぎる。


「お前さんみたいに危険そうな奴に居場所を教えるとでも?」


「あー……そうなります?」


 話は振り出しに戻った。


 実際は目の前にいるのだが、居場所を教えないという意味では完全に平行線である。


「申し訳ないのですが、こちらもお預けを食らい続けるわけにもいきません」


 バザガジールがとうとう牙を剥き始めた。


 指をポキポキと鳴らし、戦闘準備に入る。


「力ずくで……聞き出しましょうか?」


「くっ……!」


『――ガイツさん! 準備、整いました!』


「――ナイスタイミングだ! やれ!」


 ガイツの指示が飛び、バザガジールを中心に魔法陣が発動される。


「これは……!」


 かなり大型の魔法陣が展開。


 地面を枝のような線が魔法陣に魔力を注いでいるような演出まである。


「これが、地脈を利用した魔法陣!?」


「ああ。いくらてめぇが最悪の殺人鬼と呼ばれていようが、魔法を力ずくで破壊できる野郎だろうが、転移魔法まで無効にできねえだろ!」


 バザガジールは攻撃魔法であれば、神速の拳で封殺できるし、魔法陣も破壊され、術式に乱れが生じれば無効にもされる。


 だがこれは普通の魔法陣ではなく、地脈を利用した魔法陣。


 仮に破壊されたとしても、魔力を流れる地脈がある限り、その魔法陣の魔法を発動しようとした魔力の流れと術式は解除できない。


 つまりは確実な転移を可能とするのだ。


迷宮(ダンジョン)の底で眠りな!」


 魔法陣がヴンと光放ち、転移魔法が発動した。


 だが――、


「な、なに……?」


 バザガジールは転移せず、その場に留まっている。


「どうされました?」


「おい! どういうことだ!?」


 確認を取るリンナより、ガイツの方が驚いている。


「ば、馬鹿な。俺達が用意したのは最上級転移魔法だぞ!? それを……」


 ガイツが仕掛けた転移魔法は、大型の魔物や大量の魔力を保持し、転移魔法が効きづらい者すら転移を可能とする転移魔法。


 転移石や移動用に用意される簡素なものではない、最上級魔法の転移魔法。


 効かない者などほぼいないとされる魔法。


「ふふふ。ここまでするということは、やはり貴女がリンナ・オルヴェールで間違いないようですね」


 ここまですれば言い逃れをするのは、さすがにバザガジールの癇癪(かんしゃく)に触れるだろうと、


「チッ! そうだよ。私がリンナ・オルヴェールだ」


 舌打ちし、ギッと睨んで答えた。


「さて……始める前に、さすがに今の魔法が効かなかったことの説明を聞かせてくれるか? 気になって夜も眠れねえよ」


「ああ、先程の転移魔法ですか? 残念ですが、私には効きません」


「んだと!?」


「私は肉体型の闇属性持ち。そう言えば、理解に苦しむこともないのでは?」


「そ、そうか……耐性だ」


「耐性?」


「ああ。闇属性持ちはそもそも魔法効果が効きづらい。こいつの魔力量を考えれば、付与魔法や空間魔法を食らうことはない」


 同じ肉体型、闇属性のギルヴァはそう推理した。


「だとしたらこいつはここまで徒歩で来たってか? それはそれでおかしいだろ」


 その理屈で言えば、リンナの指摘は正しい。


 そもそも効かないのであれば、普段使いされる転移石も使用できないという理屈になる。


 そうしたらバザガジールはどうやってここに来たという話になる。


 リンナの言う通りならば、森で見張っていた騎士や魔術師達が気付くはずだ。


「私は転移石でこちらまで来ましたよ。彼がいつか必ずリリア・オルヴェールの故郷を訪れる機会が巡るだろうと……」


「なら矛盾――」


「もう少し頭を柔らかくしましょう? 魔力のコントロールをしただけです」


「なっ!?」


 魔力の強度をコントロールすれば、確かに容易である。


「とはいえ、これほどの転移魔法の影響を受けないようにするのは本来不可能なのですが……私、闇属性の特性は耐性系なんですよ」


「なっ!?」


「そういうことかよ」


 アリア以外の者達は気付く。


 闇属性持ちは、リリアが影系、クルシアが幻覚系、ギルヴァやザーディアスが次元系と得意とする能力が他属性に比べて、かなり枝分かれしている。


 その中で、あまり強力とは言われない闇属性持ちのハズレ枠が存在する。


 それが『耐性系』である。


 その名の通り、ほぼ付与魔法や空間魔法、状態異常の魔法などが無効となる系統。


 こうして聞けば強力だと判断もされるが、闇属性持ちと考えれば、あまり強くはない。


 元々闇属性持ちは耐性が強く、他属性の魔法の影響を受けづらいのだ。


 確かに耐性系は闇属性の付与系統の魔法も無効にはできるがその分、平凡な闇魔術師や戦士が誕生する。


 他系統が弱い闇属性持ちは、戦力としては他属性以上、闇属性未満という能力。


 戦力としてはイマイチにしかならない。


 それならば闇属性の他の系統に優れた方が圧倒的な強さを披露できる。


 クルシアが幻術で苦しめたり、ザーディアスのように空間移動など。


 だがバザガジールほどの強さを磨かれれば、話が百八十度変わってくる。


 国一つをほぼ無傷で破壊できる強さを誇るバザガジールに、真正面からの戦闘など避けるのが定石。


 幻術や状態異常の魔法などで侵食し、本来のコンディションを崩して戦いたいと望むだろう。


 本来、この転移魔法の作戦もそのはずだ。


 だが磨かれた肉体に、洗練された魔力とその量は、最強の武器であり、耐性系という最強の盾すら装備していることとなる。


 つまりバザガジールは、強力な耐性系であるが故に転移魔法を効かず、普段の移動には耐性自体を魔力でコントロールし、セーブしているということになる。


「じゃあ何か? このイカれた最強殺人鬼は真正面からぶっ飛ばすしかねえってことか?」


「そういうことになるな」


「アリア、お前は下がってろ」


 正面衝突は避けられないと、臨戦態勢に入る。


「目的は何となーくわかってるが、一応訊いていいか?」


「そうですね。貴女を我がアジトへお迎えすること、もしくは貴女が所持しているであろう、例の魔法陣のメモをお渡し願いたい」


「断ったら?」


 その質問にバザガジールは不敵な笑みを浮かべて答える。


「力ずくで事を成すまでです」

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