表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
9章 王都ハーメルト 〜明かされた異世界人の歩みと道化師達の歩み〜
444/487

16 最悪の報せは突然に

 

「つ、疲れた……」


「ご、ご苦労様です。殿下」


「殿下はそういうの慣れてるものかと……」


「あのな、オルヴェール。慣れているからと疲れないわけではないのだぞ」


 ハイドラスが戻ってきたのは出発してから、二日経ってからのこと。


 やはりファミアに捕まり、根掘り葉掘り聞かされた挙句、ご両親というより国王と王妃への挨拶や社交会など貴族らしい日々を送らされたらしい。


 というのもハーディスが事前に伺うと報告していたことが要因とのこと。


 両婚約者が円満であることを周辺諸国に証明するにはとても都合が良く、様々な思惑があるのだろうが、正直、詳しくは知りたくない。


 というよりは面倒くさい。


 そしてハイドラスがそんな場へ追いやられている間に、ハーディスはデコボコパーティであるアソル達と接触し、話を聞いてきた。


 だが予想通り、あまり期待できる情報はなかった。


 ザーディアスが本気で戦うのは勿論、基本的にあしらうように仕事を進めていたそうで、能力を使う場面もほとんどなかったそうだ。


 逆に言えば大量の魔物をあしらえるほどの実力があるという情報を得たが、それはザーディアスの冒険者ランクがモノを言っているため、望ましい情報ではない。


 だがザーディアスが彼らの前から姿を消すことはほとんどなかったらしく、正直、今いないことが違和感があるそうだ。


 それだけアソル達もザーディアスに対し、熱い信頼を寄せているのだろう。


 正直、彼らの隙を見て抜け出しては、クルシアの補助をしていたのだろうと予測を立てるも、ハーディスは彼らに深いところまで関わらせないよう、黙っていることとした。


 実際、ザーディアスは以前の酒場でのハイドラスとの接触の話も詳しくは聞いていないようで、ザーディアス自身も関わらせる気がないようだ。


 あの三人が関わったところで何が変わるというわけではないのだが。


 だがザーディアスの話を聞いているうちに――、


「――ザーディアス殿の印象は非常に好感を持てるものでした。非常に面倒見が良く、三人の様子から考えても、とてもあのクルシアと関わりを持つとは思えませんでした……」


 その意見にはアイシアとリュッカも頷く。


「ザーディアスさん、凄く良い人だよ」


「はい。私達もお世話になりました。ね? リリアちゃん」


「まあ……胡散臭いところもあるけどね」


「うう……リリィ?」


 ザーディアスを悪者呼ばわりするのが気に食わないようで、むくれられる。


「良い人だとは思うけど、クルシアの味方をしてる以上は油断できないって言ってるの」


 すると印象が良いと言ったハーディスがそれに対し、補足を入れる。


「以前より調べた情報ともやはり印象が重なりませんね」


「というと?」


「接触があった際に彼のことを調べたのですが、やはり空間系の魔法を使いこなすところから、暗殺なども手掛けていたようで……」


 本人も色々あったんだと言っていたしね。


 けれどもその内容は濁されていたが、ハーディスの物言いだと、かなり印象が違うようだ。


「その暗殺の詳しい内容から、今のおっさんと噛み合わないと?」


「そうですね。調べられた数に限りがありますし、一概にザーディアス殿の仕業とは、はっきり言えませんが、とある事件では一家皆殺しの暗殺がなされていました」


「!?」


 それは当時、ザーディアスがとある雇い主(クライアント)についていた時、その雇い主(クライアント)と敵対していた政治家がいたそうだ。


 ザーディアスがついて、数週間後にその敵対政治家は一家揃って皆殺しにされたらしい。


 その雇い主(クライアント)についていた、ボディガード役のザーディアスも疑われたが、証拠は何も出なかったそう。


 他にもちらほらと似たような証拠の無い殺人には、ザーディアスを雇った人物が有利に働くこととなっていたようだ。


「その殺され方がまた残忍で、身体の一部が切断されていることがほとんどだったと……」


 大鎌で裂いたとなれば、ザーディアスの仕業という可能性を俺達ならば予想も立てられるが、証拠がなければ意味もないし、今更である。


「おっさん、闇属性持ちであること、若干隠してる節はあるしね」


 出会った頃のあの指摘を考えると、自身の闇属性も伏せていたように考えるが、女の子にはペラっと喋っていそうな辺りは、おっさんらしい。


 俺のこともあっただろうが、あっさりと俺達にはバラしたしな。


 本来、暗殺なんてして生計を立てるつもりなら、少しでも勘繰られないようにするために、秘匿しておくものだろう。


「そうだな。空間系の魔法は闇属性にしか扱えない。バレれば証拠も出てくるだろう」


「でも私達にも殿下にもバラしてたよね?」


「……隠す必要性がなかったからかもしれませんね。クルシアについている時点で……」


 要領の良いあのおっさんなら、バラしても問題ない人間の見極めも可能といったところなんだろうな。


「テテュラから話は聞いてきたのだろう? どうなのだ?」


「はい」


 アイシア達はテテュラの話を聞いて、割と早く戻ってきた。


 そんな一行は、テテュラの話を語る――。


「――そんな場所が……」


 古代兵器ゴーレムの話を聞かされ、嫌な考えが過る。


 おそらく俺の話がなければ、いずれかはそのゴーレムを起動させるつもりだったのだろうと、誰もが考えた。


 本当にあの男は物知りで困る。


「それと戦力差ね。バザガジールはもはやこの勇者さんに頑張ってもらう他ないわよ?」


「そうだけど、それじゃあ暗殺も何もないよ。向こうで頂上決戦になる」


 サニラの言う通り、バザガジールの相手をできるのはアルビオだが、二人が暴れられていると隠密どころの騒ぎではない。


「だからこそザーディアス殿だ。あの中で一番味方になってくれそうな人物は……」


「殿下。それはあまりに危険な賭けでは?」


「……お前の言わんとしていることはわかっている」


 ザーディアスは中立と語ってはいたが、同時にクルシア寄りだとも話していた。


 それに今回ばかりは向こうにつくとも話している。


 下手に信用してすることは良くないと警告する。


「だがあの組織に亀裂を入れるキーマンになるのは、明らかにザーディアス殿だ。だからこそ、彼についてはもっと把握しておきたい」


「ま、確かにおっさんの考えは把握しておきたいかも。暗殺を実行するしないはともかく、敵か味方かの分別はつけておかないと、後々足元を掬われる」


「でも彼はクルシア側。敵と断定で良いのでは?」


「ナっちゃんはあんまり知らないだろうけど、本当に良い人なの! 敵じゃないよ」


「その考えが貴女を殺すことになるかもしれないと……」


 どうあっても味方でいて欲しいと考えるアイシアの気持ちもわからないではないが、その甘い考えがクルシアに対する隙とも捉えられる。


「どちらとも断定はできない」


「殿下っ!」

「殿下っ!?」


「ザーディアス殿は『味方にはなれない』と言っただけで、『敵対する』とは言ってない」


「それは言葉の綾ってやつじゃ……」


「そうかもしれないが、そうじゃないかもしれない」


「つまりおっさんは私達のすることをクルシアの指示がない限りは見逃してくれる可能性があるって言いたいの?」


「そうだ。それによって、我々の行動も多少変わるだろう」


 はっきりと敵とわかれば対抗手段を取ればいいだけの話だが、ザーディアスのようにのらりくらりとした態度や行動をとられては判断にも困る。


「ったく、あのおっさんは……!」


 俺は銀髪をわしわしとかき乱すと、サニラが提案する。


「疑心暗鬼になる方がよっぽど危険だわ。ならいっそザーディアスを捕獲すればいい」


「「「「「!」」」」」


「味方だろうがなかろうが、空間系の次元魔法使いは厄介よ。なら魔封石の手枷だろうがなんだろうがをつけて見張ればいい。要はクルシア側の移動手段になってることが問題なのよ」


「そうですね、殿下。ザーディアス殿は冒険者だ。我々からも情報を得られないかどうか探してみます。それとザーディアス殿と行動を共にしていた冒険者というのは……」


「ほら、薬草狩りってグラビイスさんが茶化してた連中だよ」


 俺がそういうとグラビイスはそんなことをしたかと首を傾げるが、ジードは思い出したようで、申し訳なさそうな表情をした。


「もしかしたら彼らの元へ帰ってくるかもしれない」


「そしたら私達が捕獲するわ。その後なら、アイシアが説得なりなんなりすればいいわ」


 こういう時は客観的な立ち位置で判断してくれるグラビイス達がいてくれて助かった。


 俺達だけだとどうしても感情的に成りかねない。


「とりあえずはそれで納得してくれる?」


「わかった。ありがとう、サニラちゃん」


「ではグラビイス殿とその一行の方々。ザーディアス殿の捕縛を依頼する。期限としては……」


 ちらっと俺を見た。


「?」


「オルヴェールの手の甲についている契約魔法が無くなるまでだ」


 契約魔法が無くなることは、クルシアの復活を意味する。


 確かにクルシアが復活すれば、ザーディアスはほぼ敵とみなしても良いと判断できるだろう。


「いつ消えるかわかりますか?」


「向こうに契約魔法を無理やり解除できる者を仮にあのドクターだとして、おそらくは一、二ヶ月くらいか……」


「ということよ。アイシア、それまでに捕まらなかったら、敵と割り切りなさい」


「う、うん……」


「勿論、早まる可能性もある。くれぐれも気をつけて……」


 グラビイス達は早速行動に移すようで、応接室を後にした。


「さて、我々にできることはやはり防衛を整えることか……。調査はどうなっている?」


「以前としてアルビオのお兄さんらの情報はありませんね」


 ウィルクの報告に、中々複雑な心境のアルビオ。


 便りがないのは元気な証拠とはよく言うが、今の状況に関しては一概にそれに当てはまるとは思えない。


「まああまり考え詰めるな、アルビオ。お前は自分のことも考えねばならない」


「わかっています、殿下……」


 俺だけを狙わせるつもりだったが、こう飛び火しては俺自身も申し訳が立たない。


 そんなもどかしい状況が変わる報告が上がってくる。


「し、失礼します!」


 ドアの外から慌ただしい声が聞こえた。


「どうした?」


「そ、それが……西大陸から使者の方が来られました」


 全員がその報告に反応すると、ハイドラスは入って詳しく説明せよと語る。


「それがミナール様がお越しになられまして、その側近の方と後……護衛の方でしょうか? 何人かの冒険者の方々とご一緒なのですが……デュークという名を聞けばわかると……」


「!?」

「に、兄さん!?」


 アルビオはその報告に来た騎士に詰め寄る。


「に、兄さんはどこに!?」


「お、お兄さん? え、えっと……今、陛下が対応されております。陛下の応接室の方で……」


 すると急ぎ、陛下のいる部屋へと向かう。


「アルビオ、待て!」


 俺達もアルビオの後を追うことにする――。


「――どの面下げて出てきやがった!!」


 城内を駆け、王宮の間近くの廊下に叫び声が響いた。


 久しぶりに聞いた怒鳴り声の主は、


「兄さん!」


「ああ?」


 そこには全身を丸めて怯えすくむ両親の姿と、その二人に怒りをぶつける兄デュークの姿。


 それを陛下や大臣、ミナールやネイ、ヴィは困惑している。


「久しぶりだな、金魚の糞」


「あ、相変わらずだね、デューク兄さんは……」


「ちょっと! デューク! あんたねぇ、両親に対してもそうだけど、弟君に対しても酷くない?」


 久しぶりの家族の再会にしては酷すぎると指摘するヴィだが、


「フン! 家族事情など人それぞれだろうが。口出しするな」


「あぁにぃっ!!」


 これ以上はややこしくなるとネイがヴィを抑える。


「そ、それで? なんでお父さんとお母さんが……」


「知るか! そこのポンコツ陛下が変な気を遣わせたようだ。オレがこのクズ両親と会って喜びでもすると考えたんだろ?」


「き、貴様! 陛下に対し、無礼――」


「黙れよ。オレはこの国が嫌いなんだ。勇者を担ぎ上げるこの国がな」


 大臣達の指摘も関係無しである。


 だが陛下は、デュークの気持ちも理解しているようで、


「私達に恨みがあるのはわかっている。お前達の家族関係を大きく乱したことには謝罪する。だからこそ、ご両親は許してやってほしい」


「だから呼んだのか? 余計なお世話だ。オレはコイツらと和解するために訪れたわけじゃない」


「アルビオ!」


 そこへ俺達も到着。


 そこにはミナールと俺達が初めて対面する一同が前にいた。


「貴方もいたのですか、殿下。随分とご立派になられて……」


「顔が褒めてないぞ」


 嫌味混じりな言い方をする性格の悪そうな奴を誰かと尋ねる。


「この性格悪そうなの、誰?」


 無愛想な人相に、礼儀知らずな態度。とても陛下が対応する人物とは思えない。


 ミナールと五星教と思われる人物のみで良かったと思うのだが、


「……アルビオの兄、デュークだ」


「え?」


「性格が悪そうで悪かったな、黒炎の魔術師」


 事実を知らない俺達は、


「「「「ええええーーーーっ!!!!」」」」


 思わず陛下の前だと言うのに、叫んでしまった。


「お前の噂も聞いているぞ、黒炎の魔術師」


「は、はあ……」


 銀髪の女だと聞いていたデュークは、俺しかいないと判断し、近寄る。


「魔人を拷問するごとく焼き尽くし、悪魔を従え、クルシアとかいう殺人鬼と()り合う双属性(ツヴァイ・エレメント)と聞いていたが……」


 デュークを含めた初対面の一同は、俺の容姿をじっくり見ると、


「おい、コイツは本当に黒炎の魔術師なのか?」


「こんなに可愛い()が黒い炎で拷問……?」


「いや! これが俗に言うギャップってヤツだよ!」


 疑うようにミナールに確認を取りつつも、言いたい放題。


 こんな可愛らしい容姿の奴が今言ったことが当てはまらないだろうと、指差し尋ねる。


「はい。間違いなく。皆様、お久しぶりです」


「ミナールさんも元気そうで……」


「その節はご迷惑をお掛けしました」


 ナタルがそう謝るのは、奴隷として捕まっており、役に立たなかったからだろう。


「いえ、そんなことは……」


「それでこちらへ来た理由はギルヴァのことですかな? 申し訳ないが彼は……」


「いや、ハイド。ミナール殿が来た理由は別件なのだ」


 そう陛下から案内を受けると、ミナールは一礼し、来国した理由を話そうとする。


「突然のご訪問、お許しください。実は……」


「おい、待て」


「はい?」


「コイツらに聞かせることはないだろう」


 デュークが指摘する先にはアルビオの両親。


「いや。貴殿らが狙われていることをご両親にも詳しく――」


「説明する必要はない。どうせコイツらが心配しているのはアルビオだけだ。しかも勇者の血を色濃く継いだという、その一点のみにしか興味がない」


 あまりに突き放した発言に、怯えて震えるアルビオの両親が可哀想に見えてきた。


「あ、あのさ。昔は色々あったんだろうけど、そんなに邪険にすること――」


「黙れ。コイツらがそもそも子供を値踏みするようなことがなければ、兄さんが攫われることはなかったはずだ」


「「「「「!!」」」」」


「に、兄さんが攫われたって……」


 すると来た理由はそのことだとミナールが語る。


「……はい。つい先日、パルマナニタにてクルシアの部下である兎の獣人とザーディアスが襲撃してきまして、勇者様のお兄様であるシモン様がザーディアスに攫われました」


「そ、そんな……」


 俺は愕然とした。


 あのクルシアとの駆け引きの際、もっと上手い条件を出していれば、会ったことはないがアルビオのもう一人の兄さんを攫われずに済んだかもしれない。


「オレはなあ! ムカつくんだよ! この国も、このクソ家族も……そして、自分自身にもなあ!! オレのわがままに付き合ってくれた兄さんが、どうして攫われなくちゃいけなかったんだ!」


 自分の悔しさのぶつけどころがわからないと叫び散らすと、キッと激しく両親を睨む。


「――そんなところに見たくもない(ツラ)が二つも並んでたら、イラつきもするだろ!! とっとと失せろ!!」


「ひ、ひいい!?」


 アルビオの両親はデュークの剣幕に完全に蹴落とされ、ペコペコと頭を何度も下げてこの場を去った。


 どんよりと重い空気の中、コホンと軽く咳き込むと、ミナールは改めて訪れた理由を語る。


「……今、話した通り、シモン様が攫われました。ですが我々はその理由を知りません。ギルヴァさんからも連絡はありませんし、兎の獣人を捕らえたことを報告とそのあたりのお話をお伺いできればと……」


「えっ!? リュエルを捕らえたんですか?」


「ええ。何とかですが……」


「氷漬けにしちゃってね。死んでる可能性が高いけど……」


「すまないが、そちらであったことをもう少し具体的に説明してもらえるか?」


 するとミナールは向こうでの出来事を話し、リュエルは現在も氷漬けのまま、ヒューイの管轄の元、監視していると話した。


「――そうか。やはり狙われてしまったか……」


「やはりだと? 説明してもらおうか? 殿下」


 喧嘩腰に尋ねるデュークに怯むことはなく語ろうとするが、


「わ、私が悪いんです!」


 俺は矛先をこちらに向けようと考えた。


 事実、俺が悪いのだからと。


「お前が? どういうことだ?」


「オルヴェール。私が話そう」


「で、でも……」


「オルヴェール」


「……!」


 俺の辛そうな表情の気遣いもあっただろうが、ハイドラスは頑なに俺に話させようとはしなかった。


 するとリュッカが優しく手を握ってくれた。


「落ち着いて、リリアちゃん」


「リュッカ……」


 俺の不安を抱える瞳をじっと見て、優しく微笑んでくれた。


 ハイドラスは落ち着いたことを確認すると、事情を語る。


「シモンを攫った組織のリーダーとは、私達と因縁があってな。特にお前の弟と黒炎の魔術師リリア・オルヴェールには奴らの計画を幾度と阻止してきた。そこを利用し、矛先が自分に向くようオルヴェールが挑発したのだが、思ったより周りに被害が出るかたちとなってしまったのだ」


 ハイドラスの説明は俺の正体を隠すかたちでの説明となっていた。


 そこでどうして俺に説明させなかったのかがわかった。


 俺が事情を話すとなると、おそらく正体のことをバラしてしまう。


 信じてもらえるかは勿論、ここまで気が立っている人間には火に油を注ぐようなもの。


 仮に信じられても、異世界人の意識があることをバラすことはリスクにしかならないだろう。


 だがそれを教えなかったことに、納得のいかない人物もいるようで、


「で、殿下……」


「アルビオ、どうした?」


「あ、いえ……」


 アルビオも今は敢えて隠したのだと悟った。


 アルビオが勇者ケースケ・タナカの血を継いでいるのなら、デュークも当然継いでいることになる。


 いつかは話さねばならない。


「なるほど……と言いたいところだが、それでは納得できんな」


「なに?」


「はあ? どこに納得いかないのよ。この二人を精神的にも追い詰めるために周りから攻めてんでしょ?」


「ヴィ。お前は知らんだろうが、あのおっさんは言ってたぞ。『勇者の血を継いでいる』ことが重要なのだと」


「!?」


 デュークはシモンとザーディアスが会話していた話を、横聞きしていたと話す。


「何故、勇者の血が必要になる? 因縁を晴らすためならば、そこは必要ないだろう」


 意外と冷静だっただけに語ることもやぶさかではないと考えたハイドラスは、自分の父にも話していなかった真実を語る。


「……わかった。ただし、他言無用でお願いしたい。父上にも報告を悩んでいたことなのだからな」


「なに? どういうことだ、ハイド」


「必要な人間にしか教えない方がいいということです。少なくともお前には話すつもりだったよ。デューク」


 こんなところで余計な詮索をいれなければ、知る人物も少なくなると、呆れ気味に語った。


「勿体つけずに語れ」


 そして真実を語ることとなった――。


「……い、異世界人だと……!?」


「はえー……」


 そんな突拍子もない話に、さすがの陛下も面食らい、大臣は尻もちすらついた。


「だから自分のせいだと言ったわけだ」


「……」


「そして異世界人の血を継ぐオレ達にも利用価値があると踏んだわけだ……」


 そして陛下もまた色々と納得した。


「なるほど。それならばあの日記がオルヴェール殿にしか読めない理由にも説明がつく。異世界の言語ならばどれだけこの世界の言語を調べても、出てこないわけだ。それにアルビオの髪の色や瞳の色、それに建物なども異文化のようなものを感じるのもそれか……」


「へ、陛下……!? こ、これは……」


 この情報をどうしようかと尋ねる大臣だが、


「ハイドの言う通り、他言無用とする。私にすら話せないということにも納得のいく内容だ。こんなことが知られれば世界は大きく変わるだろう」


 その陛下の意見にはネイやヴィは首を傾げる。


「あ、あの発言よろしいですか?」


「構わない」


「何故そうなるんです? 異世界の人だからって別に……」


「勇者ケースケ・タナカの功績は知っているだろう? あれほどの力は勿論のこと、北大陸では異世界の技術として汽車というものが提供されていたと聞く。オルヴェール殿がその知識の限りを、仮に我が国に振る舞えばどうなると思う?」


「え、えっと……」


 イマイチわからないと答えを言い淀んでいると、ハイドラスが答えを話す。


「我が国は巨万の富と軍事能力を身につけることとなるだろう。彼女の元いた世界では魔法がない代わりに、カガクという技術があるそうだ。あの汽車という移動する乗り物だけでも利便性を上げるかたちとなり、北大陸の大きな繁栄に繋がったのだ。オルヴェールの知りうる全ての技術が起用されれば、歴史は大きく変わる」


「そんなことを他の人間、ましてや他国になど知られては、必ず戦争になる。それこそ彼女を奪い合う血みどろの戦争にな」


「「……」」


 よく他の漫画や小説では異世界の技術を簡単に投じるところを見かけるが、その辺りのリスクが考慮されていないように感じる。


 勿論、バレないようにされていたり、異世界人が当たり前にいる世界ならば、そんな心配もないだろうが、この世界では異世界人は毒、いや猛毒である。


「ですからこの話は皆、他言無用で頼む。特に冒険者であるデュークを除く君らとミナール殿」


 それだけ説得されればネイとヴィも青ざめて返事をする。


「は、はい! も、勿論です!!」


「だ、誰にも話さないと誓います!」


「……私も話さないと約束しましょう。戦争は勿論ですが、恩人の安否に関わることを軽はずみには発言致しません」


「オレには指摘しないんだな」


「話せば、お前はその国か組織に捕まり、永遠にモルモットにされる未来が待っている。お前やアルビオ、オルヴェールは話せばデメリットの方が大きいのだが?」


 そう言われると確かにと、デュークはそっぽを向いた。


「言ってみただけだ。誰にも喋らねえよ」


 その説明を受けてナタルはかなり気不味そうに青ざめる。


「ど、どうかした? 委員長?」


「へえっ!? あ、ああ、い、いえ。なんでもないの……」


 明らかに様子が変だと気付いたハイドラスは、事情を喋ってくれそうな同行者だったアイシアに尋ねる。


「アイシア、ミューラントは何を隠している?」


「で、殿下!? そ、それはずるい――」


 ニッコリと満面の笑みで尋ねるハイドラスに、アイシアは心当たりを話す。


 愛想良く、満面の笑みで。


「そういえばリリィのこと、サニラちゃん達にも話しちゃったんだよね。私達も関係者だろって」


「あっ!?」


「そうか」


 ギギギとハイドラスは笑顔のまま、ナタルに振り向くと、ナタルはギギギと顔を向けないように逸らす。


「――テテュラにはやむを得ないから話して構わんと言ったが、彼らに話していいとは言ってないぞ!!」


「も、ももも申し訳ありません、殿下ぁ!! ど、どのような罰でも受ける覚悟はございますから……」


 いざとなるとやはり言い出せなかったナタルは、土下座したが、矛先はアイシア達にも向いた。


「お前達もお前達だ。何故止めなかった?」


「私はむしろ勧めた!」


「――何故ドヤ顔なのだっ!」


 話しちゃダメだってあれだけ言ってたのにと、怒りを通り越して呆れていると、


「だってサニラちゃん達だってクルシアとは関わってるし、今だって協力してもらってるんだよ。それにフェルサちゃんが知ってるんだったら、その仲間であるサニラちゃん達も知っておくべきだよ」


「……」


 そう言われれてしまうと、ぐうの音も出ないハイドラス。


 冒険者と王族という関係であれば、権力で踏み倒すということも存外可能ではあるが、それは個人的にも嫌だし、ここまで協力してもらっている後ろめたさがどうしても残ってしまう。


 魔人マンドラゴラ、南大陸での潜入に戦争時の協力まで。


 グラビイス達が不満を抱えることは当然だろうし、下手に溝を作るのも面白くはない。


「……わかった。確かに彼らはかなりの深い協力者ではあるからな。多めにみよう」


「ホント!? やったね、ナっちゃん!」


「だが反省はしろ! さっき父上と言ったことは事実起こり得ることなんだ。肝に銘じてくれ。いいな?」


「「は、はい……」」


 フェルサも他人事のような顔をしているが、


「お前にも言ってるんだぞ?」


「ん? 私? はーい」


「フェ、フェルサ……」


「ハーディス、悪いが彼らを一度連れ戻してくれ。私と父上で釘を刺しておく」


「は!」


 グラビイス達を呼び戻そうとハーディスが部屋を出ようとした時、またバタバタと騎士が陛下の応接室をノックする。


「――失礼致します! 陛下、こちらに殿下も居られるとお伺いしたのですが……」


「そうだが、何用だ?」


 入れと言うと、騎士は失礼しますと扉を開け、一歩踏み出すと敬礼して報告。


「報告します! 先程ミリア村の魔術師団から連絡が来まして、ギルヴァ殿及びお連れのアリア様、そして護衛対象であるリンナ・オルヴェール様が酷く負傷されたとのこと」


「!!」


「な、何だと!?」


 俺はその後も詳しく説明を語る騎士の話が耳に入らず、


「リリアちゃん? ――リリアちゃん!?」

「リリィ!?」


 くらっと目眩に襲われ、倒れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ