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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
9章 王都ハーメルト 〜明かされた異世界人の歩みと道化師達の歩み〜
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14 復活のテテュラ

 

 出迎えてくれたのは、寝たきりだと思っていたテテュラだった。


「――テテュラちゃぁーん!!」


 早速親愛のハグを決めようとするアイシアだったが、


「それはやめて」


「へ?」


 あっさりと断られてしまった。


 再開を喜びたいと思っていたのにとスンっと落ち込んでいると、テテュラが相変わらずねと微笑む。


「別に嫌なわけじゃないの。むしろ嬉しいわ。だけどね、見てわかると思うけど、普通の身体じゃないの」


 そう語るテテュラの身体は確かに常人の姿ではない。


 布一枚だけ羽織ったその身体は以前のように亀裂の入った魔石の身体でありながら、魔力を放つ魔石のように白く輝いている。


 側から見れば神秘的な姿ではあるのだが、


「その格好はやめたら? 目の毒よ」


 男性陣もいるのだとサニラは指摘する。


「ごめんなさい。別に今更見られてもと思ってね」


 テテュラの周りの男性は、女性としての身体ではなく、魔石として見るのがほとんど。


 異性の目など久しぶりだと苦笑した。


「会いたかったわ、アイシア」


 スッとテテュラはハグの態勢を取った。


 さっきは拒否されたので顔色を窺うアイシアだが、


「優しく抱きしめられるでしょ? お願い……」


「……!」


 加減してくれるなら大丈夫だとわかると、アイシアはテテュラをそっと抱きしめた。


 壊れないように、そっと。


「会いたかったよ、テテュラちゃん」


「私もよ。ありがとう、アイシア」


「へへ……」


 再会の余韻が残りつつも、目的を切り出す。


「テテュラさん、早速で悪いのですが、お話があります。サルドリアさんでしたか? その方に連絡がいってると思いますが……」


「ええ。殿下から書状が来てたと言われたわ。別の人間から……」


「あれ?」


「ああ、気にしなくていいわ。サルドリア(あの人)はそのあたりの管理をしてないだけだから……」


 研究に没頭することしか脳のない人なのだからと、楽しげに笑うテテュラ。


 上手く表情も作れるようになったんだねと喜びアイシアだが、ナタルはサルドリアに対し不安を覚えた。


「それで、そのサルドリアって人はここにいるのよね?」


 サニラがひょこっと研究室を覗き見すると、部屋の中は資料や研究の道具などでいっぱいで、とても人がいるとは思えない。


「ええ、中にいるわ。だけど話はできないわよ」


「へ?」


 そう言われて他の人達も覗き見ると、床にうつ伏せで転がっている人影があった。


「!?」


「ちょっ!? ちょっと! 誰か倒れてるわよ!?」


 心配になってテテュラを押し退け、駆け込む一同。


 しっかりとその倒れた人を起き上がらせると、


「ヴァ、ヴァートさん!?」


 それは見覚えのある人物だったが、様子が尋常ではなかった。


 目の下には酷いくまが出来ており、顔もやつれ、半目開きの状態で気を失っていたのだ。


「テテュラさん、これはどういう……!?」


 更に周りを見渡すと所々にまるで事件現場の死体のように、白衣姿の研究者であろう人物達が次々と倒れているのを確認した。


「「「「「!?」」」」」


 この尋常な状況に、一同は戦慄する。


 ここで一体、何が起きたのかと。


 すると、


「何か深刻な顔をして盛り上がってるところ悪いのだけれど、寝ているだけよ」


「は? ね、寝て?」


 よく見てみると小さく寝息を立てていた。


「――紛らわしいのよ! 起きなさい!」


 床に倒れ込んでいたり、壁にうつかかっていたり、ある女性に関してはソファからだらんと布団でも干されたかのようなポージングの人までいた。


 思わずサニラはツッコミがてら介抱していたはずのヴァートを地面に叩きつけるが、まったく反応がない。


「あ、あれ?」


「お、起きませんわね……」


「ヴァートさーん! 起きて下さーい!」


 アイシアが揺さぶり起こそうとするが、一向に起きる気配がない。


 どういうことなのかと事情を知っているであろうテテュラに一同の視線が向く。


「ちょっとやそっとじゃ起きないわよ。彼らは寝ているように死んで……じゃなかった。死んだように寝ているから……」


「ちょっと。今、とんでもない間違いを発言しかけたわね」


 テテュラもここに倒れて寝ている研究者達を客観的に見ているようで、思わずと苦笑。


「まあ無理もないわよ。私がこんな身体になったのだから……」


「そう、それですわ。私が殿下から伺った話だとテテュラさん、貴女は数十年は寝たきりになる可能性があると伺っていたのですが……」


 サルドリアを始めとする研究者達の総意見からも、そうまとめられていた。


 人体の魔石化など前代未聞の出来事。


 それを人体に戻すことはほぼ不可能。だから身体としての機能の復活も難しいとされていた。


 だがテテュラは浮遊しているとはいえ、移動は可能。軽くだが身体も動いているようだし、何より身体がヒビ入っていた顔から表情も作れている。


 ここ数ヶ月で何があったのかを尋ねると、遠いところを見ながら呆れ果てる。


「まあ色々あったのよ……」


「その色々を訊いてるの!」


「……」


 研究員達が倒れている中、テテュラは渋々語り始めた――。


 ヘレン達が帰国後、フィンには大反対されたが、精霊石案を通すという話でサルドリアは無理やりまとめあげ、テテュラの現状のデータを取りつつ、精霊石への変質を目指した。


 そのため精霊学者であるライラ、魔法学者などより徹底した者達にも協力を煽いだ。


 この者達もテテュラの貴重は存在価値に見出され、協力するかたちとなった。


 勿論、口外は禁止ということを約束の上である。


 先ずはテテュラの身体の徹底分析。


 極端に割合を言ってしまえば、人間としての機能が一割ほどで、残りが魔石という存在。


 インフェルの魔力コントロールにより、テテュラの人間細胞の侵食、魔力の循環による硬質化を防ぐことで、命を長らえている。


 研究者達が出した結論として、テテュラの生命維持というよりは意志疎通には依代が必要と考えた。


 だが魔石を依代とするには不可能である。


 魔石は勿論、魔力はあくまでエネルギーであり、生命体ではない。


 よって魂の定着は望めないという結論に至った。


 そこで精霊石案である。


 精霊石も魔石である以上、魔石同様、生命体ではない。


 だが精霊石の出来る過程として、精霊石は精霊の死骸であるとされている。


 つまりは死んだ死体に魂を定着させようという腹である。


 魔石のように元から魔力(エネルギー)が固まってできたものではなく、精霊という生命体が元となっている物質なら、テテュラはたとえ人間の細胞が侵食されようとも、生命維持が可能と考えたのだ。


 結論としてテテュラの魔石化を精霊石化する計画へと進められたのだ。


 この話を計画したサルドリア達が興奮しないはずもなく、南大陸での戦乱が起きる中、こちらの研究室では日夜ほぼ休むことなく研究が進められていたという。


 魔石を精霊石にするためには、魔力を循環する回路そのものを変換させる必要性があった。


 それこそがアルビオや勇者ケースケ・タナカ、精霊達が保有している霊脈である。


 霊脈は精霊王が関係を断ち切った後、ほぼ分析が不可能とされていたことだが、ライラがアルビオの特訓時のデータをとっていたことから進めていた。


 とはいえ、霊脈(オリジナル)をすぐに模写できるほどの技術は存在せず、魔石をサンプルとし、できる限り近い状態へと持っていくことに専念した。


 そしてある程度、霊脈に近付けた段階を踏んで、テテュラの魔石化部分を精霊石へと変換していったのだ。


 勿論、幾度かの失敗があり、テテュラは身体の一部損失もしたが、魔石であるテテュラは魔力を吸収することで再生を可能とし、幾度も挑戦を続けた。


 そしてこちらもインフェルの体内からのサポートによる魔力回路の変換、魔力コントロールもあり、ついにテテュラは精霊石化を成し遂げた。


 これらの研究に関わった者達は歓喜し、これまでにない達成感を味わったという。


 テテュラもその一人である。


 自分のためにここまで人力してくれたこと。


 実際、飲まず食わずの睡眠もロクに取らず、好奇心のままに没頭し続けたことに、若干の狂気を感じつつも、心より感謝した。


 だがテテュラが呆れ果てたのはここからであった。


 サルドリアはこれだけでは満足することなく、


『魔石化からの精霊石化への変化! テテュラぁ! お前は本当に素晴らしい存在だっ! ありがとう! 出逢ってくれて感謝している! だが、まだだ。これはまだ第一段階に過ぎない!』


 次の段階の話を始めたのだ。


 実際、テテュラは精霊石化を果たしただけで、不安要素は多量にあった。


『お前を完璧な生命体……いや、我々魔石研究者の悲願、魔石の更なる可能性の追究の象徴として、まだまだやらねばならないことが山ほどあるぞおっ!! こんなに……こんなに探究心をくすぐられることはない……ヒ、ヒヒヒ……』


 人間としての生活過程をほぼ無視していたサルドリアのテンションは完全に上り詰めており、その疲労を好奇心と探究心で補っている様子に、精霊石であるテテュラは悪寒を感じ、周りに止めるよう促そうとするが、


『そうですねぇ! サルドリアさん! こんな……こんな奇跡が目の前にあるのに、一研究者としてこれほど冥利に尽きることはありません!!』


『さあっ! どこから手をつけましょう? やはりテテュラさんの身体の安定ですか? それとも他の魔石も同じ理論で精霊石化するところから試しますか? ああああっ!! 時間が惜しい!!』


 あの臆病なヴァートでさえ、働き過ぎの疲弊で人格崩壊まで起こしていた。


 その光景を見たテテュラが思ったことは、


(研究者ってのは、悪魔に魂を捧ぐとはよく言うけど、これを見たら納得だわ……)


 研究対象から発生する好奇心と探究心に取り憑かれ、自身の生命を顧みない光景。


 さすがにマズイと感じた次の瞬間――、


『『『『『……』』』』』


『?』


 研究者達がピタリと動きを止めると、ほぼ同時にバタバタと倒れていった。


『えっ?』


 研究者達の身体は等に限界を超えており、まるでセーフティーでもかけられたように、機能を停止し、倒れたようだ。


 それを見たテテュラは再び思った。


『……この人達こそ、人間なのかしら?』


 サルドリア達の人間性を疑ったという――。


「――ということがあったの」


 ある程度省いて説明するも、聞いたグラビイス達はドン引き。


 本来難しい話であり、理解に乏しそうなはずのアイシアや子供達ですら引いている。


「……た、確かワヤリーさんのお父上もご一緒だったはずでは?」


「あの人達なら、途中から来るのをやめたわ。怖いからって……」


「「「「「……」」」」」


 職務放棄はいかがなものかと思う反面、テテュラの話を聞くと納得してしまうところもある。


 この研究者達の残骸とテテュラが早期に動けるようになった経緯を理解したところで軽く咳き込む。


「えっとつまり、貴女は精霊石化して活動が可能になったであってる?」


「正確には精霊石化もどきですね。正しい霊脈を獲得はしていないので、不安定なんです」


 実際、テテュラは魔石化していた時と身体の変質は、身体が発光しているくらいで、身体の至るところに魔石化した際に起きていたヒビは残ったままである。


「ただ、もう人では無くなったわ。この身体になる際、依代となるであろう残っていた人間の細胞もこの身体にしてしまったから……」


 下手に魂が定着できる物質を残しておくことは、テテュラの精神の崩壊を招くと考え、もうほぼ人間でないのならと、切り捨てたのだ。


「そ、そっか……」


「そんな顔をしないでアイシア。確かに、食事はできないし、眠くもならない、五感もほぼないけれど、こうして浮遊して移動は可能だし、ゆくゆくは魔法も使え、将来的にはアルビオの精霊のようになる可能性が高いわ」


「……す、凄いわね」


「それに……」


 テテュラは心配そうにこちらを見つめるアイシアに微笑む。


「貴女からの温もりは感じたつもりよ。人の心を失ったわけではないもの。安心して」


「……! うん!」


「まあ、その代償としてこの人達が心を失ったのかしら?」


 サニラが嫌味混じりに研究者達に向かって、そう言い放つと、


「そうね。こんなことになるとは……」


 テテュラは悪ノリして肯定する。


「ええっ!? ヴァートさん達、人間じゃなくなったの!?」


「冗談よ! 冗談!」


「でもよ、案外そうでもあるんじゃないか?」


「「「「「……」」」」」


 グラビイスの意見に誰も否定はしなかった。


「と、とにかくまともそうなワヤリーさんのお父上のところへ向かいましょうか?」


 これ以上は会話を広げない方が良いと判断し、話題を切り替える。


「そうね。場所は感知できるから向かいましょうか。貴女達が訪ねに来た理由を聞かなきゃね」


「う、うん」


 サルドリアの研究室を後にし、ワヤリー達、騎士隊が待機している同じ研究棟にある部屋へと向かった。


「おおっ! 久しいですな、ミューラント殿」


「こちらこそお久しぶりです、ワヤリー様」


 貴族同士、面識のあった二人の挨拶を交わす。


「しかし、テテュラ殿。その……なんです? こちらに来ても大丈夫なのですかな?」


 あの狂気に満ちた研究室から抜け出しても大丈夫なのかと、ちらちらと辺りを確認しながら尋ねる。


 ちなみにアライスもテテュラが自立できることは把握している。


「ええ、皆さん死んでますので……」


「えっ!? し、死んで!?」


「ちょっとやめてくださいな! ちゃんと息していたか確認してきましたわ!」


 色んな意味でこんなブラックジョークが飛ぶようになったのは、心に余裕ができた証拠。


 良い傾向ではあるだろうが、心臓には悪い。


 アイシア達が来た理由はハイドラスからの書状で確認していると語ると、その詳しい経緯を尋ねてくる。


「さて、私やヴァート殿に帰還命令とあるが何事ですかな?」


 アライスとヴァートとそれに同行した部下達は王命の元、テテュラのことを任された。


 勿論、陛下やハイドラスが戻って来いと言われれば従うが、テテュラの事も最重要任務だということは理解している。


 それを一度保留にして戻って来いというのは、相当な理由だと真剣に尋ねる。


 それはテテュラも気になっていたところ。


「実は、アルビオさんとリリアさんがクルシア達に全面的に狙われるかたちとなり、その防衛の強化のために、お二人ならびにインフェルノ・デーモンも可能なら戻って欲しいと……」


 ナタルはちらりとテテュラに視線を向ける。


「後、今一度、貴女から情報を得たいと思いまして……」


「……それはいいけど、狙われる理由は何? 正直、貴女達よりクルシアのことを知ってる分、意味もなくクルシアは狙ったりしないことはわかるわ。何かクルシアを惹きつける決定的な理由があるはず……」


 更に詳しい理由を求めると、グラビイス達も同意見だとテテュラの疑問に乗る。


「私達も気になっていたことだ。確かに彼は今までの傾向を考えると何かしらの目的がないと動いていないように思う。あの時だって……私達自身を魔人マンドラゴラのところへ向かわせるためにわざと姿を見せたようだし……」


 ナタルの実家に顔を見せた時のみ、グラビイス達は接触歴がある。


 その後のクルシアの悪行は、全てリリア達から教えてもらったこと。


 その話だけでもテテュラと同意見になる。


「随分と頭もキレるようだから、適当にってタイプでもなさそうだしね。だけど、頑なに喋らないわよね?」


 グラビイス達は道中、何度かアイシア達にその理由を尋ねているが濁している。


「え、えっとぉ……」


「殿下から止められていますの。……それに私達だってまだ半信半疑なところがあるのですから……」


 王族(ハイドラス)を出されてしまうと、聞くわけにもいかなくなる。


 だがやはり半信半疑というのが気にかかるが、


「わかりましたぞ。とりあえず我々はヴァート殿を起こし、帰国の準備を進めます」


 アライスとその騎士隊はそう言って部屋を後にした。


 それを見送るとサニラが食ってかかる。


「殿下から口止めされてるところ悪いけど、説明してもらうわ」


「お、おい、サニラ……」


「話によればクルシアは南大陸での戦争の元凶。あれを止める人力した私達にも知る権利はあるわ。協力者になるにせよ、身の安全の保証をもらうためにもね」


 クルシアがグラビイス達も人質に取らないとも限らないと語る。


「そ、そうかもだけど……」


「それにフェルサには話したのよね?」


「うん。聞いた」


「なら私達だって聞いていいはずよ。何せフェルサは元とはいえ、私達のパーティーメンバーだったわけだからさ」


 とにかく話す口実を作っていくサニラに、ナタルとアイシアはしどろもどろ。


 事情を話したがらない二人をフォローするように、ジードが忠告する。


「サニラ、気持ちはわかるが、王命で口止めされてることを聞き出すつもりなら、ある程度の覚悟はしなきゃいけない。厳罰や或いは……」


「わかってますよ。だけど殿下だって、こちらには協力を幾度も要求してきてるくせに、肝心なところは秘匿するなんて、都合よく使い過ぎよ。こっちはフェルサの身だって心配なのに……」


「サニラ、それは……」


「それもわかってる!」


 陛下やハイドラスが冒険者を都合良く使うことをとやかく言う資格はない。


 王族は国を守るために、常に情報の管理を怠ってはならない。


 だからこそ、金で事を成す冒険者はとても都合がいいし、冒険者達も立場を弁えている。


 正直、今回の件については更に聞いてはいけない事情なのも理解している。


 王族の部下であるアライスにまで秘匿することだ、安価な内容ではないはずだ。


「でも心配じゃない。……アルビオもリリアも狙われてるなんて……」


「サニラ……」


 元よりクルシアに首を突っ込んでいたから、いつかは狙われる可能性はあっただろう。


 邪魔という意味で狙われてるのなら、それはそれで気持ちの整理もつき、協力できる。


 でも別の理由があるとするなら、サニラは不安でしかなかったのだ。


 死よりも酷い目に遭うのではないかと。


「私は何も殿下達が不利益になることをしたいから、情報を聞きたいわけじゃない。クルシア(あれ)と関わり、その恐ろしさを知って、狙われてるっていうから助けてあげたいんじゃない! 友達として……」


「サニラちゃん……」


「だな。サニラの言う通りだ」


 バークは涙目になりつつあるサニラの肩を抱いた。


「ちょっ……」


「リリアちゃんには色々世話になってる。フェルサの件だって簡単に引き受けてくれたんだ。それに大事な友達は失いたくない」


 二人の真っ直ぐな気持ちにグラビイス達も頷く。


「そうだね。彼女達には色々と借りがある。私達の力は微力かもしれないが、できる限り力になりたい」


「そうね」


「まあ、もしその情報を知って追われることになれば、冒険者らしく土地を転々とするだけよ」


「殿下はそんな酷いことをするとは思えないけどね」


 グラビイス達の気持ちが一丸となり、リリアのためだとはっきりわかる。


「ねえ、ナッちゃん。私……」


「そうね、わかったわ。元々テテュラさんには話しておいて欲しいとは言われていたの」


 テテュラはクルシアの元仲間であり、その身柄はハーメルトにあること、リリアの友人であることから、語るつもりだった。


「貴方達にもご説明致します」


 ナタルは自分も罰される覚悟を持ってグラビイス達にもリリアが狙われる理由を打ち明けた――。


「――い、異世界ねぇ……」


 突拍子もない話に、無理やり聞き出しておいて難だけどと顔を引き()らせる。


「リリアさんは別人であり、異世界人……」


「ゆ、勇者が異世界人……」


 あまりの衝撃カミングアウトに、勇者に憧れているバークも頭を抱える。


「えっとぉ、勇者が異世界人で、リリアも異世界人で……で、でもリリアはこっちの人間で……アルビオは異世界人で……異世界人でない? あ、あれ?」


「馬鹿バーク。少し落ち着いて……」


「要するにクルシアは異世界に行くためか知るために、異世界人の魂を持つリリアと、異世界人の血を継ぐアルビオを狙おうというわけ……。なるほど、あの人が好きそうな情報だわ。楽しそうに笑うところが目に浮かぶようね」


「ええ、実際大喜びだったわよ」


 クルシアはヴァルハイツの王城で大笑いしていたと説明。


「その際に契約魔法で縛ったと。しかもそれが異世界人である証明……上手く考えたものね」


「……なるほど。この情報なら殿下が口外を禁止する理由も頷ける。異世界人の技術、力はあらゆる影響を与えるだろう……」


「だけどさ、それを信じる? ――私、異世界人なんです。こことは全く異なる世界から来ましたって言われても、はい、そうですかにはならないわ」


「少なくとも聞いた段階ではそうなるでしょうけど、その力の象徴はある。北大陸に存在する勇者が与えた未知の技術、六属性と体内魔力のイレギュラー。リリアはともかく、アルビオは叩けばそのあたりの埃は出るわ。世間的に知られれば、アルビオは世界中から狙われることになる」


 リリアは中身だけが異世界人であるから問題は薄いとするが、その血を継いだアルビオならば、好奇の目に晒され、下手なところに攫われれば飼い殺しにされることもあるだろう。


「ならそれを防ぐために殿下は……」


「おそらくね」


 テテュラのその意見を聞いて、グラビイス達は具合の悪そうな表情を浮かべる。


「き、聞くんじゃなかった……」


「これ、本気で殺されるんじゃない?」


「喋らなきゃ問題ないですよ! いい? 二人も絶対喋っちゃダメよ」


 サニラはオウラ達にそう言い聞かせると、こくこくと頷かれた。


「それを踏まえてクルシアの情報を改めてってことね……」


「ええ。これらの情報を知るクルシアがどんな行動を取るか、貴女の意見が聞きたい。それと……」


「?」


 もう一つあるのかとナタルの言葉を待つ。


「クルシアを暗殺する手段を……」

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