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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
9章 王都ハーメルト 〜明かされた異世界人の歩みと道化師達の歩み〜
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12 情報収集の旅

 

 ――数日後、クルシアへの対策を固めるためにも、元仲間であるテテュラの様子を見に行く一団が結成された。


 とはいえハーメルトの騎士団や魔術師団ではなく、アイシア、ナタル、フェルサに加えてジードの冒険者パーティに同行を願った。


 あまり多勢で向かうことでもないし、アイシアが使役しているドラゴンにも限りがある。


 ヴァート達を早急に迎えに行くとなると、陸路よりは空路の方が断然早いのは明白。


 そんなドラゴン達を前にして、ジード達は感心するわけだが、


「「「おお〜〜!!」」」


 バークとそして、南大陸で仲間になったオウラとエミリが純心な眼差しで並ぶドラゴン達を見る。


「「すげえっ! すげえっ! すっげえっ!!」」


「ド、ドラゴンさんがこんなにいっぱい……」


 エミリとオウラはともかく、一緒にはしゃいでいるバークに呆れたため息。


「騒いでんじゃないわよ。まったく……」


「あら? 中々壮観じゃない。バークがこれだけ騒ぐ理由も頷けるわ」


「おおっ! 俺だって結構テンション上がってるぞ!」


 珍しい光景に胸馳せるのは当然だと、アネリスとグラビイスがクールぶっているサニラに語る。


「なあなあ! 姉ちゃんがこのドラゴンの主人なのか?」


「主人じゃないよ。お友達だよ」


「すごーい……」


「ほら、これからお世話になる私のお友達に挨拶しよっか?」


 これだけのドラゴンとお友達宣言するアイシアに尊敬の念を抱いた純粋な二人は、しっかりとご挨拶。


「オ、オレ、オウラって言います! よ、よろしく!」


「わ、私はエミリ……です。よろしくお願いします」


 とはいえドラゴンに挨拶は緊張する二人。


 するとそのうちの風龍(ウィンド・ドラゴン)エメラルドが擬人化して挨拶。


「こちらこそよろしく。私はアイシア様にお仕えする、エメラルドと申します」


「「おおーっ!!」」


 ドラゴンの擬人化まで目の前にして感動が止まない。


 南大陸でも接触はあったが、あの時は事情が事情だっただけに完全に頭から抜けていたようだ。


 二人にアイシアとエメラルドが先導して、並び立つドラゴン達の案内を進める中、


「ねえ、あの二人って確か……」


「ええ。南大陸で私達が助けた獣人の子とエルフの子よ」


「やっぱり……」


 ジード達は南大陸での戦乱後、亜人種達の里へ様子を見に行った際に、オウラとエミリが同行を願ってきたのだ。


 最初こそサニラが止めに入ったが、オウラとエミリの熱意にバークが後押し、ジードが折れた。


 彼らは同族の里にて、自分達が世間知らずだったことを口々に語っていた。


 それは元奴隷である二人もそうだった。


 両親を亡くし、奴隷としてヴァルハイツの地下での生活が主流だった二人の世界はあまりにも狭かった。


 だがバークやサニラ達と出逢ったことを同族の人達に語ると、それはもう嬉しそうに聞いてくれた。


 そしてかの事件から人間とも良好な関係を築きたい両種族の族長達は、どうしたいかを尋ねられたそうだ。


 エミリはともかく、オウラは色んなところへ行きたいと話していたことから尋ねたのだ。


 族長達としてもこれからは世界を見てほしいというのが本音だが、本人の意志を尊重したいと思った。


 そしてその当人達の意志は、やはりバークとサニラの姿に心打たれたことが大きく、冒険者を恐れていたはずのエミリも、色んな人達がいるのだと解釈するきっかけとなった。


 ジードが折れたのはそこだ。


 この子供達に広い世界を教えてあげて欲しいと頼まれては、嫌だとは答えづらい。


 冒険者ほど手頃に世界を見て回れる職業がないと思う反面、冒険者業の長いジードはそれだけではないと語るも、オウラは――、


『ゲーデルと約束したんだ! オレは悪い奴らをぶっ飛ばす! そしてあいつはこの世界を良くするために勉強するんだって。だったらオレだって勉強しなくちゃだろ? 色んな悪い奴のこと、色んな戦い方のこと、学ぶことはたくさんある!』


 友との約束を守るために努力すると、ハッキリ口にした。


 オウラにとってさきの戦争の悪い奴はヴァルハイツだと大まかに知っているだけで、もっと色々あったはずだと語る。


 そんなことはもう少し大人になってからでも良いと考えたが、彼らのいきさつを知り、幼くとも冒険者の道を進む人間は少なくない。


 ならばフェルサ同様、大人として目標を掲げた子供に手を差し伸べることこそ務めと考えるわけで、先ずは広い世界を知ってもらい、見聞を広めてもらおうと考えた。


 帰国後、グラビイスとアネリスに事情を話すと、あっさりオッケー。現在に至るという。


「ま、あの馬鹿は弟分が出来て嬉しそうだけどね」


「あら? そういう貴女だって妹分が出来て嬉しそうじゃない」


「――ばっ!? ア、アネリスさん!」


 互いに一人っ子でこのパーティでも一番末っ子だっただけにバークはともかく、サニラは文句を言いつつも嬉しそうだったりするようだ。


 さすがツンデレ。


 挙句、二人はバークとサニラに対し、かなり尊敬対象になっており、人懐っこくされているようでバークはともかく、サニラは文句を言いつつも嬉しそうだったりするようだ。


 さすがツンデレ。大切なことなので二回言いました。


「――貴女達もニヤニヤしない!!」


 サニラの全力ツンデレに、俺達もほっこり。


 なんだかとても安心する。


「ほ、ほら。さっさと行くわよ。どれに乗ればいいのよ?」


 体裁が悪くなったサニラは、アイシア達の元へと逃げていった。


「じゃあ頼むよ。委員長、フェルサ」


「ええ。だけどテテュラさんから得られる情報もまた、少なそうですがね……」


 テテュラからは以前事件を起こした際に、ほとんどの情報を教えてくれている。


 今更望ましい情報を得られるかは微妙だが、


「いや、それでも彼女はアジトの構造くらいは知っているはずだ。それだけでも十分な情報になる」


「あれ……使うんですか?」


 道化の王冠(クラウン・クラウン)のアジト行きの転移石は、危険と言いつつもやはり考えてはいるようだ。


「クルシアの行動が制限されているからな。選択肢としては入れておくつもりだ。まあだが、危険過ぎるが故に使う気もないがな」


「まあでもテテュラには会った方がいいし、事情も話しておいた方がいい。悔しいけどテテュラは強い」


「それに改善傾向にあるのなら、貴女のデーモンも戻せますでしょうしね」


 フェルサもあの事件でやり合っただけあって、実力は認めている。


 魔石化の影響が少しでも改善されているのであれば、インフェルを戻すことも可能。


 つまりは戦力増強に繋がるわけだが、テテュラの身体を優先したいところ。


「テテュラには無理をさせたくないから、インフェルは置いておいてもいいよ」


「わかっていますわ」


「……リュッカは本当に来ないの?」


「うん。私はリリアちゃんの側にいるよ」


 アイシアか自分が居た方がいいと気を遣ってくれている。


 なんだか申し訳ない。


「別に行ってきてもいいのに……」


「ううん。今はリリアちゃんの方が大変だと思うから、側に居させて……」


「……ありがと」


「ま、リリアだけでなく、アルビオのこともよろしく。最近、めっぽう力をつけたせいか、無茶も結構するし……」


「だな。私達も見張っておくよ。それに兄達のことも気にしているようだしな」


 今はシドニエにお願いされて、この早朝から特訓しているアルビオ。


 兄のこともそうだが、バザガジールに対応できるのは自分くらいだろうと気負っている節もある。


 正直、狙われている俺達の心境の方が心配されている始末。


「そのお兄さん達の行方は?」


「どうやら西大陸での目撃情報があったようだ。今、詳しい場所の把握を急いでいるところだ」


「そうですか。見つかるといいですね」


 するとアイシアがこちらへと向かってくる。


「さあ、そろそろ行こうか? どの子がいい?」


 フェルサとナタルにドンっとドラゴン達をご紹介するアイシアだが、


「どの子でも構いませんわ。私達は龍操士(ドラゴンライダー)ではありませんもの……」


「うんうん」


 龍の里出身のドラゴン達を信用するのでと答え、適当なドラゴンを選んだ。


「じゃあみんな、行ってくるね!」


「うん。テテュラによろしく伝えといて」


「了解! リリィも気をつけてね」


「うん」


 アイシア達の任務はテテュラの様子を確認、情報を得ることと、北大陸へ出張しているヴァート達を含めた騎士団、魔術師団の帰還を支援すること。


 アイシアはポチに跨り、オウラとエミリを抱えるように前に乗せて出発する。


 さすがに子供二人はドラゴンに素人、または同乗者無しでは乗せられない。


「苦しくない? 大丈夫?」


「オ、オレは平気……」


「あ、あの……私は苦しい……」


 後ろからアイシア、エミリ、オウラの順で並んでいるのだが、この中で一番背が低いエミリが潰されている。


「えっとアイシア? 小さいもん順に並んだら?」


「そっか!」


 エミリとオウラが入れ替わるが、今度は別の問題が生じる。


「これで良し!」


「……オウラ?」


「……」


 オウラは耳まで真っ赤にしてアイシアとエミリの間に挟まれる。


 獣人であり、男の子であるオウラ。


 女の子の板挟み、嗅覚の鋭さからくる女の子の匂い、挙句、頭の上に乗っかるお姉さんのお胸とくれば、思春期の男の子には刺激が強過ぎる。


「……えっと、ジード殿。オウラ君だったかな? 誰か別の人間に抱えてあげられないだろうか……?」


 見兼ねたハイドラスがそう提案するも、


「それはダメですよ、殿下。私以外は素人で、ドラゴン達にも無理させるんです。この子達は私が責任を持って抱えます!」


 確かにドラゴンの騎乗は本来、訓練されている龍操士(ドラゴンライダー)でなければ乗れない。


 しかし、龍の里の厳しい環境で育ったアイシアと契約したドラゴン達ならば、素人であろうとも乗せることは可能。


 だがそれでも人にあまり慣れていないドラゴン達が乗せて飛ぶ挙句、一頭につき、二人乗りをさせている。


 これはあまりドラゴンをたくさん飛ばし過ぎて、驚かれないようにするための配慮。


 北大陸まで飛んでいくわけではなく、その手間の港町まで飛んでいくのだ、一人一頭というわけにもいかない。


 なので乗り慣れているアイシアが子供二人を抱えて飛ぶという発言は、まあ正論である。


 正論ではあるのだが、


「くそっ。あのマセガキ……代わってほしいぜ」


「おい、ウィルク」


 むっつりすけべさんの本音がポロリ。


 子供なんだからその辺は許そうぜ。


「では改めて……行ってきます!」


 そう言うとポチを先頭にナタル、フェルサ、グラビイスのパーティーを乗せたドラゴン達が飛び立つ。


「――やっほぉう!」


「は、はしゃぐんじゃないわよ!!」


『私の背中で騒ぐなっ!』


 一番アイシア以外乗せたくないと駄々をこねていたホワイトの背中にはバークとサニラが騒いでいる。


「……なんとも賑やかな旅立ちだね」


「そ、そうだね」


 見送った俺達も心配なので、姿が見えなくなるまで確認した。


「さて……では王城に戻ると――」


「ファミア様のところに向かうのでは?」


「行かん!」


 そうハッキリと強い意思を示して断るハイドラスに、思わず苦笑い。


「えっと確か、アソル達がファミア王女殿下のお国近くに向かったんでしたっけ?」


「まあな。ハーディスの奴がいそいそと準備を進めてたぜ……」


「あの馬鹿野郎……。こんな大事な時に私までオルヴェールやアルビオの側を離れられるか」


「陛下も居られますし、オリヴァーンさんも居ます。俺達より頼りになる人間がいるんですから、ファミア様にお会いになりましょうね。ついでに情報収集も……」


「――情報収集がメインだ! あいつに会いに行くのがメインにしてたまるか」


 婚約者に会いに行く発言とはとても思えない。


「苦手意識、強過ぎません?」


「あのな、オルヴェール。小さい頃の心の傷(トラウマ)というものは、どれだけ成長しても残り続けるものなのだ。わかるか?」


 まあわからんでもないが、


「王族たる者、女性をそこまで嫌がるのも問題なのでは?」


「わ、わかってはいるが……」


「観念しましょうか?」


「――どわあっ!?」


 ひょっこりとハーディスが現れた。


「彼らはやはりラージフェルシアに滞在しているようです。ファミア様にお会いになってる間に、お話は聞いてきますので――」


「ならば命令する! ハーディス、お前が――」


「で〜ん〜か〜?」


 お目付役のハーディスには、中々頭が上がらないハイドラスは、嫌そうに頭を抱えて(うずくま)った。


「そんなに嫌?」


「まあ殿下は向こうでは歓迎されますし、ファミア様からはおもちゃにされていますしね」


 本人の思惑とは裏腹に、向こうは大歓迎だそうだ。


 周りは優秀かつ人の良いハイドラスの評判は良く、期待を裏切れず、それをいいことにファミアがハイドラスを虐め続けていたとなると、行きたくはないようだ。


 ちなみにお忍びで向かうことになりますが、向こうのお国の民からもハイドラスの評判は上々のようです。


「ほら、観念して行きますよ。陛下にはアルビオさんやそのご両親、リリアさんのことも心配するなと言うことです。たまには婚約者との時間も作ってこいだそうですよ」


「ち、父上ぇーっ!!」


「じゃ、リリアちゃん、リュッカちゃん。すぐに帰ってくるとは思うが、気をつけてな」


「は、はい……」


 ハーディスにズルズルと引きづられながら、ハイドラス達もまた旅立つ。


「……アルビオ達の様子でも見に行く?」


「う、うん」


 ***


 カンカンと模造刀がぶつかり合う激しい模擬戦が繰り広げられていた。


 そこには汗を流して特訓をする二人の男の姿があった。


 それを楽しそうに見守るルイスとユニファーニ、心配そうにするミルア、観察するように見るマリエール兄妹の姿があった。


「おおっ、やってるね」


「ああ、オルヴェール嬢。マルキス嬢達の見送りは済んだので?」


「うん。騒がしく旅立ったよ」


「今回も長くなるの?」


 ユニファーニはのけぞって後ろにいる俺の方に顔を向けるが、俺は首を横に振った。


「アイシア達はドラゴンに乗ってだから、北大陸(むこう)次第だと思うよ。殿下の方は転移魔法陣があるらしいから、下手したら今日中には帰ってくるんじゃない?」


「うーん、殿下の方はファミア様に捕まるんじゃないかな?」


「はは。そう言われれば……そうだね」


 ヴァルハイツでの事柄の報告は勿論、向こうの歓迎次第ではすぐに戻ってはこれないかも。


「それにしてもシドニエ氏の動きもだいぶ良くなられましたね」


「魔力の扱いも上手になったものね」


「これならば木刀でなくとも戦うことが可能になりそうですね」


「シドもそう言ったの?」


「いえ。シドニエ氏は木刀のままで良いと。改良を求められました」


 エルクは表情には出さなかったものの、発言からして木刀以外の物を推薦したかったようだ。


「でもですよ。木刀じゃあ限界、ありますよね?」


「そうですね。本物と比べれば性能は歴然でしょうが、手入れなどを考えると木刀の方が良いかと……」


「それに木刀の場合は、私達のような鋼の剣と違って、斬ることができない代わりに打撃力があるのと、刃こぼれがないのがメリットですかね」


「刃こぼれはないだろうけど、折れはするでしょ?」


「それに関しては所有者次第です。我々が作った木刀は魔法樹でできたものを、更に魔石を粉末化し、魔力の循環率を上げ、強度を高めました。下手な使い方をしない限りは、滅多なことで折れたりなどしません」


 自慢の一品だと反論した通り、シドニエは上手くエルク達の木刀を使いこなしている。


「ま、それでもアルビオさんの精霊の剣には劣りますがね」


「そうですね。僕達としてもそれを超えられる物を作れるよう、努力するだけです。ねえ? 姉様?」


「そうね。弟よ」


 ひっさしぶりに聞いたはそのセリフ。


「それにしても私もついて行けば良かったです。アルビオさんのピンチに駆けつけられず、残念です」


「あのね。こっちは大変だったんだよ。それに王命だったんだから、ついて来てたらタダじゃ済んでないよ」


「わかってますよ……」


 ルイスは不機嫌そうに頬を膨らませる。


「それで? 二人は何の特訓中?」


「剣術の特訓みたいですよ。アルビオ氏は騎士団から剣術を学びましたが、シドニエ氏は我流とのことですので……」


 夏休みでの特訓の際にも木刀での打ち合いがあったそうだ。


 俺が実家に帰っていた時に特訓してたメニューだそうだ。


 アルビオからしても基礎をおろそかにしないためのものであり、シドニエからすれば剣術指導にもなると互いにメリットのある特訓。


 俺達が来たことに気付いたのか、二人は一旦中断する。


「皆さん、行かれたんですね」


「うん、まあね。お疲れ様」


「あ、ありがとうございます……」


 そう労うと照れ臭そうに俯かれた。


 やはり気にしているのだろうか?


「殿下も行かれるそうですよ」


「えっ? 行く予定は立ててなかったはずだけど……」


「ハーディスに引きづられていったよ」


「そ、そうですか……」


 アルビオは頑なに行かないと聞かされていたので、その光景が目に浮かぶようだと苦笑い。


「でも二人とも性が出ますね。南大陸(むこう)では色々あったでしょうし、思うことがあるようですね」


 男前が上がったとルイスは、特にアルビオに向かってそう話した。


 実際、詳しい詳細はこちらにはまだ一般的にら知らされていないが、戦争があったことは伝わっている。


「アルビオの場合、それだけじゃないだろうけど……」


「と、言いますと?」


「リリアちゃん……」


「あ、ごめん……」


 俺が余計な詮索が入る発言をしたことに、アルビオは気にしなくてもいいと語った。


「兄さん達のことでしょ? そんなに気を遣ってもらわなくても大丈夫ですよ、リュッカさん」


「えっ!? アルビオさんって一人っ子ではなかったのですか!?」


「マジっ!?」


 それに食いつくのは勿論、ルイスとユニファーニ。


 各々興味関心の理由は別だが、馬の合う二人である。


「ええ。絶縁関係となった兄が二人……」


「ぜ、絶縁……」


「そこはほら、アルビオが勇者の力の所有者だから……」


 本人は気にしなくていいと言っていたが、絶縁の話を気にするなという方が問題である。


 察しろと言い澱むが、


「どんなお兄様なんです? 是非ご挨拶したいです!」


 ルイスは絶縁というセリフが聞こえていなかったのだろうか。


 外堀を埋めるチャンスとばかりに食いつく。


 だがアルビオは懐かしくなったのか、少し話してくれた。


「一番上のシモン兄さんは、性格は少し僕に似てるかな? でも僕とは違ってしっかりしてる人だよ。デューク兄さんは気難しい性格でね。でも凄く真面目で自分にも他人にも厳しい人だよ」


「そっか……」


「二人とも、僕なんかよりよっぽど優秀な人だから、要らない心配かもしれないけど……それでも……」


 アルビオは幼いながらも二人の兄のことは鮮明に覚えている様子。


 心配するのもおこがましいと考えているが、


「家族を心配するなんて当たり前のことだよ。要らない心配なんてないよ」


「そうですよ。アルビオさんのお兄さん達もきっとアルビオさんのこと、気にかけていると思いますよ」


「……そうだといいですけど……」


 リュッカの言葉でも心配は拭い切れないようだ。


 それほどまでに亀裂の入った関係なのだろうかと、本気で心配になる。


「ア、アルビオさん! リリアさんやナチュタルさんの言ってる通りです。こんな強いアルビオさんのお兄さん達なら上手く切り抜けてますよ」


 シドニエも励ますと汗を拭き終えたのか、再び闘技場の方へと歩き出す。


「ぼ、僕らは強くなるしかありません。お兄さん達と再会した時、心配されないようになりましょう」


「……そうですね。僕、頑張ります」


 休憩もそこそこに特訓を再会した。


「ねえ、確か……この特訓をお願いしたのって……」


「シドニエさんらしいですよ。私もアルビオさんの応援に来ないかと誘われました」


「我々は木刀の調子を見るのと、戦い方から装備を新調してほしいと……」


「私達はシドニエからのお誘い。ね?」


「う、うん」


 アイシア達やハイドラスが出払う中、少しでも不安を拭うために、シドニエが気を遣わせたようだと気付く。


 ギャラリーを呼んだのもそのためだろう。


 身体を真剣に動かしていた方が余計なことを考えずに済むし、事情を詳しく知らない人間がいれば、そのことを考えることは少なくなるだろうからね。


 これもシドニエの成長だと受け止め、なんだか嬉しくなっていた。

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