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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
9章 王都ハーメルト 〜明かされた異世界人の歩みと道化師達の歩み〜
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09 リュエル対デューク

 

「ふう……」


 オーク討伐の任務を無事に終え、後処理も滞りなく済んだミナールは、遅めの休息を取っていた。


 外に視線をやればすっかり闇夜に暮れている。


 今頃、部下達は英気を養っている頃合いだろう。


 だがミナールはあまりお酒の席(あのような)ところは苦手なので、パルマナニタの支部で与えられた個室でゆっくりする方がいい。


 おかげさまで引っ込み思案な性格もプラスして男性との縁はあまりないのがネック。


 すると、通信用の人工魔石に通信が入る。


「どちら様ですか?」


 手に取り、魔力を介して応答すると、


「オーク討伐、どう?」


「あっ、ヒューイ。大丈夫よ。もう終わったわ」


「そ」


 相変わらず素っ気ない態度だが、こうして心配して連絡をくれるところを見ると嬉しくなる。


 今から休むところだと、普段のローブを脱いでラフな恰好へとなっていく。


「次の任務は?」


「とりあえず私は一度、ナジルスタへ戻ります。この辺りの地脈の調査報告が遅れてしまってますから……」


 ミナールは魔力の枯渇が進む西大陸を改善するため、魔力源となる地脈についても調査を進めている。


 地属性の魔術師なので。


 だが地方を転々とすると問題に直面することも度々あるようで、今回のオーク討伐も予定にはなかったのだ。


「……魔力、か」


「そうですね。あの一件以来、やはり従来の魔力供給は望めませんね」


 龍神王がいなくなった事件はやはり大きかった。


 その後にドラゴン達の暴動があり、魔力の乱れが生じた。


 アイシアの活躍のおかげで沈静化したものの、今度は魔物達が更なる凶暴化へと発展と、非常に危険な環境となっている。


 魔力を循環させる魔物達が大量発生することは、ある意味では有難いが限度がある。


 是非、程々であってほしいと願うばかりである。


「各地で起きている魔物の暴走、大量発生なども魔力に関係するところはあるでしょう。そちらの調査も進めねばなりませんね」


「ん。そのあたりの難しいのはミナールみたいな頭のいい奴に任せる」


「はは……」


 ヒューイは前戦に出ていた方がしっくりくると、リンスと同様に基本、現場回りをしている。


「まあですが、思ったより地脈の方は安定的なので、魔力が完全な枯渇をすることはないでしょう」


「でも結界石の常時発動は……」


「さすがに無理ですね。防衛の件についても話し合わねばなりません」


 西大陸の各町に配置されている結界石は魔力の減衰からもう使い物にならない。


 今までのような町にいれば安全という常識は消え失せた。


 そのため騎士団の急募、各町では衛兵の招集など防衛活動が盛んである。


 彼女達が休まる時間はほとんどない。


 まさにブラック企業である。


 それもこれも全てはクルシアが原初の魔人である龍神王を殺してしまったことが始まり。


「……そういえばギルヴァから連絡は?」


「定期報告なら。彼らの情報は得られていないようです」


「でも南で戦争あったよね?」


「はい。ですがヴェルマークさんには詳しく教えられなかったようです……」


 いくら友好関係を結ぼうとはいえ、不用意にそんな情報が伝わるわけもなかった。


 とはいえ戦争ほどの大きな出来事が各地でも報道がなかったわけでもなく、その終息からヴァルハイツの王位継承が行われたことには、あまりの早さに驚いた。


「天空城の落下。あれ、エンターテイナー気取りのあのガキならやりそうだよね?」


「……そうですね」


 まるでマジックショーでも見せられたように、仲間であり友人でもあるリアンを殺されたのだ、想像は容易だった。


「今度会ったら殺す」


「……それは私達が最優先でやるべきことではないよ、ヒューイ」


「でも……」


 殺意に表情を曇らせるヒューイを否定する。


「確かに私も然るべき罰を与えるべきだと、それを私達の手でできることが望ましいですけど、何より私達が優先してすべきことは、この大陸を守り、人々を守ることです」


 魔力の問題から色んな問題が発展している西大陸。


 色んな人間が解決に動く中で、自分達もそのひとつであることを公言する。


「今、私達が私欲で動く時ではないのですよ」


「……わかってるけど、悔しい」


「そうですね。とりあえず今はヴェルマークさんにお任せしましょう。それに……」


「それに?」


「彼らから接触があれば合法ですよ」


 向こうから問題を起こしに来ることを期待しようと、軽く微笑んだ。


「フ……そうだね」


 ドンドンドンっ!


「「!」」


 急に激しくミナールの部屋の扉が叩かれる。


「ミナール様! ミナール様は居られますか?」


 脱いだローブを羽織ると、


「いますよ。何事ですか?」


 そう返答すると、部下の一人が息を切らして扉を開けた。


 お休みのところ申し訳ありませんと謝罪した後、その急いで駆け込んだ用件を話す。


「先程、酒場にてファニピオンにいた黒コートの男が目撃されました」


「「!?」」


 噂をすればなんとやらである。


 一部の部下達の中にはファニピオンの違法オークション会場に乗り込んだ者達がいる。


 その者達にはクルシア、ザーディアス、リュエルを目撃した際には、接触歴のある五星教に連絡せよと命じている。


「監視は?」


「申し訳ありません。駆けつけた時には姿がなく……ただ、同席していたであろう女性から話を聞くことができました。なんでも仲間の方が黒コートの男から急に逃げ出したとか……」


 状況がイマイチ読み取れない。


 何故同席していた女性は酒場にいたままで、仲間はその彼女らを置き去りに逃げ出したのか。


 ミナール達が考えて、ザーディアスを知る人物で逃げ出す人間に心当たりがあるはずもない。


「わかりました。とりあえずその酒場へ向かってみましょう。その彼女達は足止めしていますよね?」


「勿論ですが、もう一つ。こちらの方が本命なのですが……」


 ザーディアスの目撃情報だけでも、こちらとしては有力なものだがと首を傾げる。


「桃色髪の兎の獣人が目撃されております」


「何っ!?」

「!?」


 二人はリュエルのことだと瞬間的に脳裏に浮かんだ。


 真っピンクの長髪、バニースーツという目立った服装、その背丈に合わない巨大な石斧、クルシアのことをダーリンと呼ぶイカれた獣人。


「どこです!?」


「噴水広場で何者かと交戦中。今、警戒態勢を敷いています」


 リュエルと何者かの戦闘は乱入できないほどの高度な戦闘状況だという。


 しかもこちらの戦力はオーク討伐で消耗していることもあり、手出しができない状況。


 せめて住民が近付かないように配慮するしか取れないと説明。


「わかりました、案内なさい」


「は!」


「ヒューイ。そういうことですから……」


「待って」


「!」


 ヒューイの制止した表情は鋭く、


「私も行く」


 どこに居ようとも飛んで向かうとばかりの険しさがあった。


 ***


「さあっ! ダーリンのために捕まりなさい!」


 そう言いながら激しく石斧を振り回すリュエルに配慮が見られない。


 生捕りにするつもりなら、殺す勢いで斧を振り回すものではない。


「ぐうっ……!」


 その石斧を二刀で防ぎ、受け流すデューク。


 小回りの効くはずの二刀流がこの獣人には通用しないようで、


「どうしましたっ!?」


 回り込んでも簡単に気配が読まれる挙句、自分の身体よりも明らかに巨大な石斧ごと振り向き際に攻撃される。


「くそっ!」


「先程からチョロチョロと。まるで鼠さんですね!」


「黙れ! 兎!」


 その攻防をハラハラした面持ちで見守るシモン。


 デュークにはザーディアスを監視していてほしいと言われたが、ここまで防戦一方だと加勢した方がと頭に(よぎ)る。


 すると見かねたザーディアスが話がギリギリできる距離まで近付いてきた。


「参戦しなくていいのかい? 正直な話、あの嬢ちゃんは強いよ」


「み、見てわかります。ですが……」


 ちらっと視線を向けると、わかってるよとばかりに笑われた。


「安心しろって。リュエルの嬢ちゃんの仕事を取ると、おじさんの方が危ないからな。恋する乙女は怖えのよ」


「そう、ですか……」


 その発言を完全に信用していい理由にはならず、シモンは作戦通り、ザーディアスの監視を続ける。


 動く気配のないシモンに、この戦闘を見守りながら話に付き合ってくれと語り始める。


「ま、お前さんらを連れて行っても悪いようにはしないつもりだ。お前さんらは貴重な存在だからな」


「勇者の子孫にそれほどの価値がありますか? アルビオならまだしも……」


 アルビオほどの能力を持っているのであれば、襲われる理由にも説明がつくが、ほとんどその才能を継ぐことなく、ただ血が繋がっているだけでは価値がないと判断している。


 それはハーメルトから出て行く時に思い知らされた。


 今更価値があると言われてもピンと来ない。


「下手に事情を話せねえが、勇者ケースケ・タナカの血を継いでいることに意味があるんだ。才能や能力は関係ねえ……」


「……ま、まさか、ケースケ・タナカを蘇生させるつもりですか!?」


 死霊術を使うことを考えれば、その子孫である人間を媒介した方が降ろしやすいという説はある。


 だがその発想はなかったザーディアスは、腹を抱えて笑う。


「――アッハハ! 違う違う。言ったろ? 危害を加えるつもりはねえってよ」


「で、でもそれ以外に勇者の子孫が必要なことなんて……」


 首を傾げながら考えるも、まったく検討がつかない。


 ザーディアスも、まあ当然だろうとバレることはないと余裕の笑み。


 当然である。異世界なんて発想はさすがに出ないだろう。


「それよりも弟君は押されてるな」


「デューク!」


 リュエルの立ち振る舞いに悪戦苦闘する。


 デュークも別に獣人と戦ったことがないわけではないし、あのような大きな武器を振り回す敵と戦ったことがないわけでもない。


 獣人はタイプにもよるが、基本的には素早い動きで翻弄し、パワーで押し切る傾向がある。


 実際リュエルも巨大な石斧を振り回し、ゴリ押している。


 そして本来なら小回りの効きづらい大振りの武器は、隙が簡単にできるものでもある。


 だが獣人であるが故に、リュエルはそれらを克服している。


 獣人のパワーで隙を減らすだけでなく、武器未所持同様の激しい攻めを可能とし、更に大振りの武器のメリットである相手との距離感の作り方を熟知している。


 これはザーディアスも同様で、大鎌や大剣のような大型の武器は敵との距離感を操作することが可能である。


 近接での二刀流で素早く、手数の多い攻めが得意なデュークとの相性は非常に悪く、リュエルからの一方的な攻めが可能なのである。


 挙句、リュエルは獣人特有の風読みも習得している。


 どれだけ翻弄するような動きを取られても、手に取るようにわかられてしまう。


 デュークが攻めようと近付くと、


「くっ!?」


「キャハハっ!」


 簡単に捉えられては石斧が振り下ろされ、一定の不利な距離を押しつけられるのだ。


「くそっ!」


「その程度ですかぁ? 勇者の子孫って言っても、私達の邪魔をする子孫の方がやっぱり厄介ですね」


「なんだと……!」


「まあ、そのしぶとさのおかげでダーリンは楽しそうですが」


 大人気(おとなげ)ないとわかっていながらも、やはり引き合いに出されると頭にはくるようで、


「ムカつく兎だなっ!」


 突発的な怒りの感情に任せ、リュエルの懐に入ろうと駆ける。


「無駄なことを!」


 風読みでデュークの走ることで起きる風から動きを予測。


 自分が振り下ろす速度、デュークがその振り下ろされる位置まで到達する刹那、それを本能的に読み取り、


「――んっ!!」


 感情に任せて突っ込んできたのが、敗因だと言わんばかりに石斧が振り下ろされる。


「――デューク!」


 シモンの危険だという叫びを振り切るように、デュークは、


「――っ!?」


「どうした? 兎っ!」


 リュエルの懐にしっかりと飛び込んだデュークの姿があった。


 一瞬呆気に取られたリュエルは後方へ飛ぶが、


「――ぐあっ!?」


「逃すか! イカれ兎!」


 入りは浅かったがしっかりと斬りつけては畳み掛ける。


 距離を広げないようにデュークは、防御を捨てて一切の休みなく、二刀流の激しい剣撃を与える。


(このイカれ兎に攻撃の手など与えん!)


 リュエルは悔しそうな形相で、バックステップを取る。


 獣人の脚力ではかなり後ろへ飛べるが、


「――なっ!?」


「一丁端なんだよ! 獣人!」


 リュエルの距離を取りたいという焦りは手に取るようにわかると、バックステップに合わせて斬りつける。


「わ、私がこんな奴に……」


「黙れ! 人間舐めるな!」


 攻防は逆転。


 シモンはよしっと喜びの表情を思いながらも、どうしてこんな状況に至ったのか疑問に思っていると、


「やるなぁ、弟君。ま、その手しかなかったわな」


 ザーディアスはタバコをふかして呟く。


「あ、あのどういう意味で?」


 天然混じりの質問に、何かを察したザーディアスは少し長いため息を吐いて語る。


「獣人、風属性の肉体型が厄介な能力を持ってるのは知ってるな?」


「はい。風読みですよね? それで実際デュークは追い詰められていたわけだし……」


「そう。だから弟君は加速することにした……」


「そうか! いくら獣人とはいえ、振り下ろした武器を止めることはできない。感情で突っ込んだように見せかけて、実際はセーブしてた……?」


「だな。駆け引きという点に関しちゃあ、人間の方が上手(うわて)だからな」


 デュークが取った手段は、感情的だと誤認させて、読みを逆手に取り、ギリギリのラインで急加速し飛び込んだのだ。


 後はリュエルの武器の苦手な距離、つまりは二刀流の得意とする超近接戦であれば、武器を振ることは難しくなるし、先程のように後方へ跳ぼうと考えると、嫌でも足に力が入る。


 デュークも冒険者を長く続けていることから、ある程度の予測と微妙な動きの変化の察知くらいなら可能。


 しかもこれほどの近距離での攻防であれば、本来武器を手放し、拳を振る方がリュエル的には楽になるはずだが、そんな隙をデュークが作らせるわけもない。


 その証拠にリュエルは石斧の柄の部分を巧みに操り、防御している。


 ザーディアスは見事な攻めだと感心する反面、懸念もあった。


 風読みや獣人の感性を誤認させるために、攻撃のリズムを変質させるということは、それだけ身体への負担も大きくなる。


 しかも二刀流の得意戦法である防御を捨てた連撃は、超短期戦向けの戦法。


 今尚、デュークは反撃を許さない連撃を続けるが、これが長く持つとはとても思えない。


 理由としてはここが魔力の減衰が激しい西大陸であるということ。


 精神型ほど魔力を必要とはしないが、それでもかなり消耗は激しいはず。体内魔力(自前)にも限度がある。


 もう一つの理由としては相手が体力自慢の獣人であること。


 魔力よりは身体能力を頼る獣人相手に短期決戦は本来は愚策。ましてや相手はクルシアが鍛え上げた獣人である。


 しかも兎の獣人は獣人の中では弱い方だが、自分が想う異性のためならば本領を発揮する種族。


 クルシアのためにと奔走するリュエル相手に長期戦は望めない。


 つまりデュークの取っている手段は中々に賭けが強い作戦でもある。


 リュエル相手に攻め切れるかという話。


 さてどうなるかと視線を向けると、状況はあまり変わっていない。


 連撃を続けるデュークに守り続けるリュエル。


 だがお互いの様相は変わっていた。


 デュークは苦しさが少しずつ表情に滲み出始める。自然と汗も飛び散るほどである。


 一方の防戦に入っているリュエルは、クルシアに与えられた任務を速やかに遂行できないもどかしさ、見下していたはずの人間に追い詰められている悔しさ。


 その憤りを孕んだ、今にも爆発しそうな形相。


「ムカつく! ムカつく! ダーリンのおもちゃのくせに生意気な!」


「お前がダーリンと呼ぶ奴の所有物ではない!」


 攻撃のペースを乱さないよう振る舞っているつもりでも、


「! ――ここです!」


「しまっ――」


 獣人の洞察力を侮っていた。


 ワンテンポのズレを感知し、剣速を調整されないうちにと攻撃を仕掛けられた。


 カウンターを決められたデュークは、その反動で後退する。


「ぐっ! うう……」


「まったく。大人しくしていればよかったものの!」


 またもや形勢逆転。


 リュエルは溜まった鬱憤(うっぷん)を吐き出すように、斧を先程より激しくぶつける。


「生意気なんだよっ! クソクソクソぉ!! ダーリンが待ってくれてるのにぃーっ!!」


「おーい、嬢ちゃん。そいつを殺すのはマズイから加減しろー」


「二人いるんですか、一人くらい殺したって構いませんよ! それにもう一人を殺しても、バザガジールのお気に入りもいるでしょうが!」


 デュークはその発言からアルビオも狙われていることを察する。


「何だと……!」


 石斧を二つの剣で受け止める。ギリギリと力比べのせめぎ合い。


「ダーリンに楯突く貴方が死んでも代用はいるってことです。そもそも貴方達は精霊の力を持つ弟さんの保険程度。最悪、死体でもいいんじゃないですか?」


「アルビオの……代わり!」


 いちいち癇に障るのは貴様も同じだと、強く睨み返しながら応戦する。


「おーい、嬢ちゃん。お前さんの勝手な見解で判断しちゃいかんぞ。クー坊はできる限り生かして捕らえろだろ?」


「――わかってますよ! でもこいつが抵抗するのがいけないんです。ダーリンの命令は絶対。ダーリンのやることは全て正しいの……」


「こ、こいつ……」


 不気味なまでの執着心に酷く寒気を覚えた。


 その瞳の奥はそれを象徴するように、黒く染まっているようだ。


 心からの心酔。


 こんなイカれた女を従える奴の気が知らないと、尚のこと抵抗するが、


「ぐっ! ぐうぅ……」


 今のでクルシアへの想いが強くなったのか、押し切られそうになる。


「私にとってダーリンは全てなの! ダーリンに従わない奴は殺す! たとえダーリンが必要な奴でも殺す! なんでわからないの? ダーリンが正しいってことがあっ!!」


「そんな会ったこともない人間のことなど知るかっ! お前の歪んだ価値観を押し付けるんじゃない!」


「それを人間であるお前が言うか! 人間はお前達の価値観を今まで誰に押し付けてきた!」


「な、なに……?」


 デッドヒートするリュエルを止めないのかとシモンは説得をザーディアスに要求するが、首を横に振って無理だと見せる。


「この世界は弱肉強食。強い者が生き残る世界。でもその世界という基盤をお前たち人間は作った。私達の世界を脅かし、自分達を強者にできる環境を作り上げた。そんな分際で――価値観を押し付けるなとはよく言えたねえ!!」


「う、恨んでいるのか? 人間を……」


「人の話を聞いていましたか? この世界は弱肉強食と言ったはず。そのような環境を作らせた時点で、それらを受け入れていますよ、私は。でも自分勝手な矛盾を押し付けられるのがムカつくだけです。だから人間は嫌いです。ダーリン以外の……」


 付き合いの長いザーディアスでも、リュエルの心の内を理解はしていない。


 リュエルは本当にクルシア以外の人間どころか、同族にすら興味がない。


 元奴隷でクルシアに拾われたというだけしか知り得ないザーディアスとしては、どうにもそれだけではないように感じる。


 嫌がりながらもクルシアは側に起き続けた理由。


 原初の魔人の件以外にも何かあるのだろうかと疑問に思うも、検討がつかない。


「さあ! いい加減ダーリンの物になりなさい。必要とされてる時点でムカつくのに、抵抗までして……生意気なんですよ!」


「じ、事情も知らないで捕まってやれるか!」


 石斧を押さえていた力を一瞬だけ緩めると、


「!?」


 ぐらっとリュエルは前へとふらつく。


 そのバランスの崩れたところを斬りつける。


「――はああっ!!」


 だが反応速度の早いリュエルは掠めながらも、後ろへ飛んで体勢を立て直す。


「まだ無駄な抵抗を!!」


 周りが見えないくらいの激情しているリュエルをもう説得は難しいとザーディアスは断念。


 木に寄りかかり、落ち着いた様子でタバコを吸うも、


「い、いいんですか、ザーディアスさん!? 俺達に死んでもらっては困るんじゃ……」


「ま、困りはするが、どうにかなるだろ」


 他人事のような素っ気ない態度を見せる。


 あの様相だとデュークは無事で済まないだろうとシモンが剣を抜き、参戦しようとした時――、


「抜刀」


 怒り狂ったリュエルの懐に瞬時に飛び込んだヒューイの姿があった。


「――っ!? がああっ!?」


 気がつけば一閃。リュエルに致命傷を与えた。

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