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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
9章 王都ハーメルト 〜明かされた異世界人の歩みと道化師達の歩み〜
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02 苦悩したんですよ

 

「へ?」


 この空気の中、尋ねられる内容とは考えていなかったせいか、声が裏返る。


「な、何言ってるの。私は正真正銘の女の子――」


「私達はオニヅカさんの本来の姿を知りませんもの。リリアさんの状態でそう言い張られれば、信じてしまいますが、ここはハッキリさせませんと……」


 生真面目な委員長(ナタル)のそのスキルの発動はいらんよ!


 その詮索はよして欲しかった。


 俺が変な汗をかく中、ウィルクも様子がおかしくなってきた。


「えっ? もしかして中身が男の可能性もあるのか?」


 ゆらりと真剣に品定めでもするかのような視線を送られる。


 シドニエも不安そうに見守る中、追求をやめない二人。


「どっちなんだ? リリアちゃん!」


「や、やだなぁ。ちゃんと女の子だよ。ホントだよ!」


 さすがにそこまで話さなくてもいいだろと、得意のゴリ押しを行うが、


「私、ちょっと尋ねたいことがあるのですが?」


「な、なんでしょう?」


 ニッコリと笑っているが、声のトーンが顔にあっていない。


 俺もナタルに合わせてニッコリと微笑むが、内心は心臓バックバクである。


「以前、男言葉になられる際に確か、母親譲りだと仰ってましたよね?母親の下で育ったからだと……」


「そ、そうだ――ねっ!?」


 俺はあることに気付くと、ナタルから物凄い圧力を感じる。


「あらぁ? 何かお気付きに?」


「は、はは……何のことやら……」


 何のことかわからないとアイシア達は首を傾げるが、ハイドラス達は気付いたようで、目も当てられないと片手で顔を覆う。


「リンナさんは確かに言葉使いがちょっと乱暴だったよ」


「う、うん。私達は会ってるから間違いないよ」


「アイシアぁ〜、リュッカぁ〜、トドメを刺さないでぇ〜」


「「へ?」」


 何もわかっていないのだなと、ハイドラスから説明が入る。


「あー……今、リリアの中身が別人だという話だっただろう?」


「はい……」

「!」


 リュッカ閃く。


「だったらその言い訳はおかしい。オニヅカがリリア・オルヴェールになったのは、一年ほど前。だとすればリリア母を見て育ったというのはおかしいだろ」


「ああっ!?」


 そう。男勝りな理由が母親で無くなったら、他に理由があることになる。


 遺伝の問題ではなく、中身が別人なのならば行き着く理由は一つになる。


「私、質問の仕方を変えますね」


「え、えっと……」


「リリアさん。貴女、元男性ですよね?」


 猫にジリジリと追い詰められた鼠のような気分だ。


 某猫と鼠の追いかけっこならば、ここで俺が起点を利かせて逃げられるだろうが、俺はあんな優秀な鼠ではない。


「あ、えっと……」


「んん〜?」


「は、はい。元男です」


 堪らず白状してしまった。


 これだけは隠し切るつもりだったのにぃ!!


 すると抱きついていたアイシアが、スススと離れていく。


「アイシアっ!? ち、違うから! いや、違わないけど、違うからぁ!?」


「わかってるよ。リリィはリリィだもんね」


「顔は笑ってるけど、態度が出てるよ!? 私達の友情はどこにいった!?」


 異世界人であることよりもバレたくなかった真実が激白されてしまった。


「なぁにぃーーっ!? 元男だとぉ!! オニヅカぁ!!」


 そしてウィルク暴走。


「なんって羨ましいんだ! こんな美少女に身体を移しただなんて最こ――おほっ!?」


 暴走するウィルクの横っ腹を蹴るハーディス。


「黙りなさい」


「いや、おまっ!」


「まあ気持ちはわかるが、落ち着け」


「いやだって殿下ぁ〜」


「というか羨ましがらないで下さい! 彼女……いえ、彼は無断で……」


「まあミューラントの気持ちもわかるが一旦落ち着け」


 そう宥めるとハイドラスはフォローをしてくれるようで、


「確かにウィルクの言い分はわからないでもない。男にとって女の子になってみたいという欲望が湧かないとなれば、まあ嘘になるだろう」


「でしょお? オニヅカはそれを堪能して……」


「楽しく買い物をしたり、お茶をしたり、出掛けたりなどまあ男性と違い、華があるからなぁ……」


 まあ男同士より、かなり華やかな場には居ましたし、堪能もしてましたよ、はい。


「だがウィルク、一つ訊こう」


「何です?」


「お前、子供を産めるのか?」


「――っ!?」


 ピシャァンっとウィルクの脳裏に稲妻が落ちる。


 更に追い討ちをかけるように、ハーディスが眼鏡を上げてトドメを刺す。


「貴方、仮に女性になったとして、男性とそのような行為に勤しめますか?」


「――ながっ!?」


 再び稲妻が落ちる。


「まあ元が女性なら結婚願望や母性感からそういう感情にも至るだろうし、そもそももう勉強もしているだろ……」


「えっと確か……」


「――シアは余計なこと言わなくていい!!」


 女性のみが教わることを口にしそうになったので、全力で止めるリュッカに、ホッとすると話を続ける。


「自分が望んで女性になったのなら、その覚悟もあるだろうが、オルヴェール……いや、敢えてオニヅカと呼ぼうか? 彼の場合は違うだろ?」


 俺が話した経緯をウィルクとナタルは思い返す。


「彼がオルヴェールになったのは、ただの偶然であり、彼の望むところではなかったはずだろ? でなければ友人や家族との別れもできたはずだ」


「う……」


 ナタルは追い詰め過ぎたと猛省を始める。


「私から言わせてもらえば、知らない人間になり、知らない世界に飛ばされて、挙句、性別の常識まで違うのだ。転移したばかりの彼は酷く困惑したことだろう。正直、想像もしたくない……」


 ありがとう! 殿下! ここまでのフォローをしてくれるなんて!


 というか言われてみると、よく俺、頑張ってこれたなぁ。


「更に元の世界に帰れないとなると女性として生きることを強要されているも同じ。元男としては男に抱かれるのは、どんな気分だ?」


「……そ、想像したくありましぇん」


 気分を害するウィルク。


 うん、わかるよ。その気持ち。俺も以前はあったな。


「それが僕だったらどうです?」


「――気持ち悪いこと言うんじゃねえ!! 馬鹿キノコ!!」


「つまりそういうことですよ。僕ならオニヅカさんの状況、中々絶望しますよ」


 すると女性陣から、


「もう少し言い方ってもんがあるじゃないです?」


 むむっと少し機嫌が悪そう。


 側面だけ聞けば、女性侵害みたいな発言に聞こえなくはない。


「すまない。そういうわけではないのだ。あくまで男性視点の話だ。君らだって男性に急になればと想像すれば、わかりやすいかもしれないが……」


 そう言われてもピンとくるわけではないが、


「……確かにおち――」


「ストップ! シア、ストップ!!」


 とんでもない爆弾が投下されるところだった。


「確かに股間が盛り上がるのはちょっと……」


「――フェルサさん!!」

「――フェルサちゃん!!」


 ところがどっこい。別方向から投下された。


 名称を言わないあたりは一応、気を遣ったようだ。


 なら言うなし。


「というか二人は何で抵抗ないの?」


「私、弟いるし。パパのも見たことあるし……」


「獣人の場合はたまに自慢したりもする」


 前者はまだわかるが、後者はもはやセクハラだろ。


 獣人にとって力強いことは誇りかもしれないが、男性器(そこ)も立派であると公言するのか。


 まあ大きいに越したこともないだろうが。


 そのように誘導してしまう言い方に、失言だったと咳き込む。


「まあどちらの性別にせよ、良し悪しがあり、オニヅカの場合は、その性別の常識を強要される結果となったからどうだという話だ。本人に非が無いのに攻めるのはな」


 この時、俺には殿下が神様のように見えた。


「殿下ぁ〜!」


「おおっ!?」


「殿下とハーディスだけだよっ! 私のことをちゃんとわかってくれるのはぁ〜!」


 おろろんと泣きつきながら抱きつく。


「まあ話を聞くかぎりは苦労しているのだろうしな」


「そうなんです。最初こそ転移したばかりの頃はそんな邪な感情がなかったとしたら嘘ですけど、だんだん罪悪感の方が酷かったんですよ。みんなが普通に女の子として接してくるから……」


 一同は――まあ見た目は完全に美少女だからねぇと考えた。


「いけないことをしているとわかっていながらも、異世界人だなんて、誰が信じるんです!? 当初っ!」


「あー……わかったわかった」


「一応聞きますが、今は男性寄りなんですか? 女性寄りなんですか?」


 ナタルのその質問に俺は絶望を思い出す。


「……女性寄りかなぁ? 確かに男として十六年過ごしてきたけど……」


「えっ? 私達より年上?」


 一個だけねと返答すると話を戻す。


「今はこの身体(リリア)でしょ? 魂が肉体の影響を受けるというか……」


「まあ、な」


 ハイドラスはリリアの容姿を見て納得する。


 銀髪ロングの蒼眼美少女。挙句、女性としての身体のラインもばっちり出来上がっている。


 これで一年も過ごせば、精神は女性にも寄っていくだろう。


「だからまあ男の見方も変わりつつあるよ、うん」


 ポツリと呟く俺に、まだ言いたいことがあるようだなと内心思う一同の予感は的中する。


「さっきの話になるけど……私、男としての初体験もまだのまま、こっちに来たんだっ……」


 男性陣は、あー……っと同情心に湧き、ナタルは責め立てて申し訳ないと思いつつも、そこに関してはくだらなさそうだという表情。


 リュッカは苦笑いを浮かべ、フェルサとアイシアはポカンとしている。


 フェルサは意味がわかってそう。


「それなのに元の世界に帰れなかったら、襲われる方が初体験とか悲し過ぎるっ!」


 男性陣は聞いちゃいられないと、更に同情心を募らせる。


「今はさ、男としてのことを思い出したから文句も出るけどさ、最近はまんざらでもないかなぁとか、思うようになっちゃったんだよねぇ……」


「も、もういい。わかった、わかったから。これ以上責めるな。な?」


「まあ確かに。ロピス元殿下にあんな失言をしたほどだしな」


「――ウィルク!!」


 俺はドーンと膝を折って凹む。


 抱かれるならシドニエがいいと叫んだことである。


 それはそのあたりの許容が出来てしまったことへの発言であったと思う。


 しかも感情から出た発言であったためか、本能的であったとも捉えられる。


 つまりは俺も女性としての本能が出てきているという証明でもあった。


 今は男性であったことを思い出し、絶望にふけているが、ケロッと忘れてしまうんだろうな。


「ご、ごめんなさい。とにかくオニヅカさんが苦労と苦悩に苛まれていたことは納得しましたわ。これ以上は責めません」


「そうだね。リリィ! 一緒に女の子、頑張ろ!」


「うう……さっきは離れたくせにぃ……」


「ご、ごめんなさい」


「それとややこしいから、今まで通りでお願いね」


 リリアと今まで呼ばれてたのに、オニヅカと呼ばれても困る。


 それに元々名前のあだ名呼びがほとんどだった手前、オニヅカ呼びは勘弁してほしい。


「ちなみに聞くがオルヴェールの正体についてご両親は?」


「えっと母親は気付いてます……」


「えっ!? リリィ、いつの間に!?」


「あー……うん。里帰りした時に追求されて、まあ……うん」


 俺ってホントに押しに弱い気がする。


 アイシアとリュッカはあの時既に知っていたのだと驚愕するが、


「あれ? でもお父さんの様子からは……」


「気付いてるのは母親だけで、父親は気付いてないよ」


「あれぇ!?」


 リュッカの反応にも納得である。


 娘を溺愛しているなら、気付いてもおかしくはないはずなのだが、溺愛し過ぎて気付いてないんだろうか。


 都合良く解釈されているようにしか思えない。


「母親の目は誤魔化せないというわけですわね」


「うん。母親の鏡だと思うよ」


 本人はそんなことを思ってはおらず、後悔してたが。


「一応、リンナさんにも魔法陣のメモを渡してあります。冒険者の伝手を使って探すとか……」


「そうか……」


 ハイドラスはそれを聞いて少し悩む仕草をとった。


「ん?」


 会話が途切れたので、さっきから黙り込んでいるアルビオとシドニエの方を見るが、二人ともソワソワしている。


「ど、どうかした?」


「えっ? い、いえ。何でも……」


 シドニエはおどっと後ずさる。


 無理もない。建国祭の時にデートした相手が元男というのは、いかがなものか。こればかりは本当に申し訳ない。


 そんな何とも言えない空気の中、アルビオは意を決したように真剣な表情で尋ねる。


「リリアさん。色々あるでしょうが、その……僕、そろそろ知りたいのですが……」


 俺の話を聞いて、自分のことを尋ねるのが申し訳ないのだともじもじしているが、


「……わかってるよ。ちゃんと話すから」


「は、はい。すみません……」


 勇者ケースケ・タナカについて知りたいことだらけだろう。


 横で胡座を書いてるフィンもまだかと、イライラした様子。


「えっと私の話はいいかな? そろそろケースケ・タナカについて、私の世界について少し話そう。気にしてるでしょ?」


「そ、それは是非!」


 ハイドラス達も気になっていたようで、目を輝かせている。


「改めて確認ですが、勇者は貴女と同じ異世界人なんですよね?」


「うん。クルシアに話したことが証拠だよ。勇者の日記の文字、汽車の技術だって私は知ってる。更に言えばアルビオの家もあれは現代日本の建築技術が使われてたしね」


「だから玄関で靴を脱ぐのも知っていたわけだしな」


「それもそうだけど、私からすれば勇者には文句があるわけなんだけど……」


「えっ? 何で?」


「殿下も言ってたよね? 景観を考えて欲しいって……」


 そんなことも言ったなと思い出したが、そこに文句が出るのがわからない。


 異世界人であるリリアは、その家を見て懐かしむものではないかと考えたのだ。


「言った気はするが、それが?」


「それだよ! あの世界観をぶち壊す家を建てた勇者に私はあの時、どれだけ激怒したことか!」


「も、もしかしてあの時、様子がおかしかったのは……」


「そうだよ。あれを建てた勇者に腹を立ててたの! せっかくのファンタジー世界の外観を汚しやがって……」


「ふぁ、ふぁんたじー?」


「……素が出てますわよ」


 俺は思わずハッと口を塞ぐ。


「それが何かはわからないが、オルヴェールの世界でもそのような街並み……いや、無いから怒っていたのだよな? ん?」


 言ってることに矛盾が生じると首を傾げる。


「私の世界ではテレビゲームっていうものがあってね。魔法がある世界を作って遊ぶってことができたんだよ。私はその中でも、この世界みたいな中世の街並みの魔法世界を冒険するのが、好きだったの」


「てれびゲーム?」


「世界を……作る?」


「お前の世界ってもしかして神の世界なのか!?」


「は?」


 どこから神様なんて発想が出てきたのか驚く。


「いやだって貴女、世界を作って遊ぶと。冒険するのが好きだとか……」


 俺はハイドラス達の受け取り方を理解した。


 確かにそこだけ聞けば、俺達は完全に創造神だ。


「いやいやっ! 創造物だよ。ほらこの世界でも創作活動をする人がいるでしょ? 作家とか……」


「あ、ああ……」


「私の世界でも小説とか絵本とかあるけど、他にも鉄の箱や板切れの話はしたよね? そこから人工魔石の通信みたいに記録したものを投影できる技術が向こうにもあるんだよ」


「魔法が使えないのにか?」


「そうなるね。それでその板切れの中にその創作物を入れて、沢山の人にその世界観を楽しんでもらえるんだよ」


 正直、全く科学技術のわからない人間への説明には限界があるし、俺の語彙力にも問題がある。


 後は受け取り側の方で妥協してもらわないと話が進まない。


 するとアルビオがヴォルガードに尋ねる。


「どうなの?」


「うむ。おそらくそこのお嬢さん……?」


「うん。お嬢さんでいいよ」


 ヴォルガードは俺の記憶を覗いていたなら、俺がどんな容姿の男子だったのかも知っている。


「お嬢さんの記憶の中を見たが、確かに箱の中に人が入っていた。それをてれびだという。あれは投影されたものだったのか?」


「詳しく説明してもいいけど、わからないだろうから、とりあえずはそうだよと答えておくね」


「このお嬢さんはそのてれびとやらに何やら別の箱とを繋げて遊んでいる記憶があった。おそらくだがあの丸い薄型の円盤に異世界の記憶を閉じ込めていたのではないか?」


 おそらくテレビにゲーム機本体をくっつけていたことを言っているのだろうが、それも一昔前の記憶だろう。


 専らパソコンである。


 それとその言い方だと結局、神様扱いされそう。


「その円盤の中に創作物を入れて遊ぶの。記録されているものの再生? オッケー?」


 みんな理解しようと必死に頭を悩ませるが、もうちんぷんかんぷんである。


「つ、つまりは記憶石の再生能力に……」


「自分が疑似体験できる、感じですか?」


「そうだね、そういう解釈が近いかも。ゲームの世界をプレイしながら、その世界観を見て旅した気になる。世界観に入っていけるってことなら、そうなるかも」


「ということはリリアさん的には、この世界はゲームの世界だと捉えられなくもないと……」


「……そうなるかもね。私はこんな魔法が使えて、現代離れした風情のある世界に憧れてもいた。最初にファイア・ボールを撃った時なんて、飛び跳ねて喜んだほどだよ」


 俺達の世界と比べると、明らかな文明の違いが存在する。


 俺からすればあり得ない世界観であり、この世界に俺達の文明を築けば、似たような技術が広まるだろう。


 だけど、それは許されてはいけないこと。


「でも私はこの世界がゲームじゃないって知ってる。みんな一生懸命生きてること、ちゃんとわかってるよ」


「そっか」


「だから私はこの世界のルールに従って生きていくつもり。多少なら向こうの知識も使うかもしれないけど……」


 さすっと太ももに刺している魔導銃をさする。


「過剰に提供し過ぎると、勇者みたいな目立ち方もしちゃうからね」


「確かに。彼の場合は戦闘経歴もそうだが、北大陸での技術提供は大きかったな」


「それに私達の情報はこの世界にとっては毒だよ」


「毒?」


「うん。この世界の人々から考えて文明を築き上げる土台を壊すことになる。それは大袈裟にいうと人類の滅亡にも繋がる……」


 少量なら中和できるかもしれないが、こちらの技術はこの世界でも通用するものだ。


 下手な提供は争いや技術者の低迷を生む。


「滅亡って……」


「オルヴェールが言いたいことは、お互いの世界は本来、相入れない世界なんだ。未知の技術は戦争を生む。それに仮に我々が遠い将来、オルヴェールの世界の技術に辿り着けるとしても、歴史を積む必要がある。そう言いたいのだろう?」


「それもあるけど、この世界では魔法という技術の積み重ねもある。私達と全く同じ技術を持つことはほとんどない。それは先人達への侮辱にもなるし、進化への怠慢に繋がる可能性もある。……思考を止める人間に未来はないよ」


 思考が鈍ることは、万が一対処が必要なことが起きても解決への発想を失ってしまうことにも繋がる。


 それは滅亡に近付くという表現は間違っていないだろう。


「だからクルシアには異世界には行かせないし、向こうから来させもしない。私から話しておいて難だけど、絶対させない」


「そうだな。クルシアならば異世界の技術や人間を平気で道具のように使いそうだ」


「思えばクルシアの方がこの世界をゲームのように考えているのではないでしょうか」


 ハーディスの言うことに一同は納得の様子。


 ゲームというよりは舞台だが、それでもあの男からすればこの世界は作り物にしか見えないのだろう。


「ならば尚のこと、クルシアは止めなければならない。だな?」


「はい」


 するとフィンがだったらと痺れを切らす。


「お前達、異世界人と精霊の関係について説明しろよ! 奴らを何とかするつもりなら、その辺も考察しといた方がいいだろ?」


「それね……」


 正直、魔法がないと言った世界に、この精霊様は何をお求めになっているのだろうか。


 推測から外れない話をすることとなる。

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