32 異世界人
「オルヴェールが……勇者?」
「リリアちゃん……」
一同は驚愕する中、クルシアは心底楽しそうに笑う。
まるで昔無くしたジグソーパズルのピースを見つけ、作品が完成に近付くことに高揚するような。
「正確には勇者じゃないよ。というか、勇者ってこっちがつけた呼称でしょ?」
「ま、まあ……」
「ケースケ・タナカはこの世界に、転生か転移かはっきりはわからないけど、この世界に降り立ち、各地にて多大な功績を残したことで、勇者と呼ばれるようになった。だから私が勇者ってのはお門違いだけどね。でも同郷っていうのは本当だよ」
「その根拠は?」
ハーディスが信じ難いと難しい表情で尋ねると、上機嫌なクルシアが答えた。
「わからないのかい? 勇者が伝えた技術……そうだね、あの汽車ってものは元々あったんだ。彼の世界に。その原理さえ理解していれば、こっちの技術者の力でも再現は可能となる」
ましてや北大陸にはあらゆる方面の技術者が集まっており、現実世界と違い、魔法も存在する。
作業効率は圧倒的にこちらの方が早いだろう。
「元々ある技術を提供したんだ、成功確率は高い。現にあの汽車やその整備、環境など一年未満で完成させている。これは異常だ」
魔法があるとはいえ確かに異常な速さである。
ある程度は汽車に詳しくないと、そこまで上手くはいかないだろう。
ケースケ・タナカはレトロな汽車に精通、もしくは鉄道全体が好きな人間なのだろうかと予想ができる。
「そしてこの技術はこの世界には存在しない。なのに知っている……可能性としてはこうだ。魔界のように別世界があると考えた方が都合が良い」
「べ、別世界……」
「そう! 別世界! ボクらの世界とは異なる人間が生きている世界が存在する。そこの技術としてあったと考える方が自然だ」
突拍子もない言葉が飛び交うことで、困惑する一同。
思わず冷や汗までかく始末。
そろりと俺の方を見るクルシアは、答え合わせをご所望のようだ。
「ああ。私達は異世界から来た、所謂異世界人だ」
「異世界……!」
「異世界人……」
「ただ、私の場合は中身だけだけどね……」
俺はそっと胸に手を当てて、ここだけだと示す。
「リリィ……」
心配そうにするアイシアはそっと手を伸ばすが、
「でも勘違いしないで。さっきも言ったけど、アイシア達が出会っている段階で、既に『私』だから……」
そっとその手を下ろした。
その落ち込んだ表情の真意を、俺は正直知りたくはない。
中身は本物のリリア・オルヴェールではなく、鬼塚勝平なのだから。
彼女達からすれば俺がリリア・オルヴェールなのだと思いたいだろうが、別人が入ったと聞けば、不快感を持つかも知れない。
アイシア達がそんなことを考えるとは思わないし、信じているけど、それでも考えてしまう。
異邦者だから。
正直、心底こんな考えが過る自分が嫌になる。
アイシア達のことを完全に信じきれていない自分のこういうところが、大っ嫌いだ。
「なるほど。だからか……」
「殿下?」
「いや、オルヴェールのお前の家での反応も、異世界人だったか? それを考えればあの突発的な反応にも頷ける」
何のことだと首を傾げるアルビオには同意だ。
俺は何かアルビオの家で粗相をしただろうか?
「お前の家に上がる際に、アイシアが土足で入ろうとした時があっただろう?」
「あー……はい」
この世界では玄関先で靴を脱ぐ習慣はない。基本的にはベッドに入る時や湯浴み、着替えの時くらいだろう。
「あの時、お前と同時に……どころか、オルヴェールの方が先に制止したろう?」
「あ、はい」
「あっ……」
良く観察してんなぁー……。
「本来、あの風習は勇者様の故郷の話だと言っていただろう? この国どころか世界的にも一般宅で土足厳禁は聞いたことがない。だがオルヴェールはそれを知っていた。どこでって話になる」
「なるほど! 殿下が仰りたいのはリリアさんが勇者様と同郷であれば、その風習は知っている。だからアイシアさんのあの突発的な行動に思わず反応したことから、同郷の証明になると?」
ハーディスの考察に、こくりと頷くハイドラス。
「……よく覚えてたね、そんなこと」
「それだけじゃない。勇者の日記に関しても、インスピレーションと言われれば納得もしたが、異世界の共通言語だと考えれば、オルヴェールの書庫での行動や勇者の家を初めて見たあの反応にも説明がつく」
「私、そんなに挙動不審だった?」
まあ日記の残材な扱いには反省点があるが。
「お前が勇者の家を観察していた視線がマルキス達のような、初めて目にする好機的な視線ではなかったように思う」
言われてみればそうかも。
「今思えば、再現度に驚くといった表情だったように捉えられる」
「あれだけ異文化を放つ建物ですからね。同郷の人間なら驚くでしょう」
「はは……」
何かぐうの音も出ない。今思わなくても、結構隙だらけだったな。
見る人が見れば簡単にバレてるな。
……まあ、バレたんだけど。
俺はリリア母を思い浮かべながら、頬をポリポリ。
「とはいえ異世界人はさすがに想像できない。全ては結果論だしな……」
異世界人だと想定されなかったのは、この世界は異世界説がなかったからだろう。
俗に言う――世界の危機に勇者召喚みたいな風習がなかったことが要因だろう。
「リリィ……」
「リリアちゃん……」
眉を顰めてこちらを見る二人に、俺は情けないと見えないように微笑む。
こんなチキン野郎でもできることがあると。
それは――、
「お前にとっては最高の存在だろ? 私という異世界人はっ!」
クルシアを止めること!
「ハハッ!! 本っ当に最高だよっ!! なるほどね。それなら――」
手に持っていた人工魔石をバラバラと地面に落とし、踏みつける。
「こんな石ころも! アミダエルのゲテモノ研究も! 足下にも及ばないわけだっ!! ハッハハハハハハーっ!!」
「待て待てクー坊」
「ん?」
「本当に異世界なんて本当に存在するのか?」
ここまでの流れを見ても、未だに不信感を募らせるザーディアス。
それはこちら側も同じなようで、
「え、ええ。とてもじゃありませんが、信じられませんわ」
「私はよくわかんない」
フェルサはともかくナタルは異世界説を信じられないでいる様子。
だがクルシアは軽く笑った。
「その証明はとっくにされてるじゃないか」
「なに?」
「これだよ。こーれ」
クルシアの下に展開している契約魔法陣を指差すと、質問する。
「これはさ、何を基準にしているものだっけ?」
「それはこの世界水準における価値観を基準と……!」
ザーディアスは何か閃いたようで、言葉が途切れた。
それをにんまりと笑うクルシアは、
「そぉう! あくまでこの世界を基準としているんだ、いくら外見がこの世界の住民でも、中身が異世界人ならこの世界を基準としている根底は崩れる。何せ、異世界人である彼女の中身の方は本来、この世界には存在するはずのない存在。この世界の価値観とは当てはまらない」
楽しそうに解説するが、それに意を唱える。
「だとすればよ、要求が通らないってこともあるんじゃないか?」
「いやぁ、それはないよ。何せ、前例がある」
それを聞いて閃いたアルビオは、その人物の名を口にする。
「勇者ケースケ・タナカ……!」
「そう! この世界の理を崩しかねないほどの技術があると前者が証明済みだ。だから契約魔法陣もこの取引が正当なものだと評価した。それは同時に彼女が異世界人だと証明することにもなる」
「な、なるほど……」
この世界の文明は現実世界から見れば、中世時代くらいのもの。しかも魔法があるせいか、道具よりも魔法を進化させる文化が根付いている。
アミダエルやドクターを考えれば、そう見える。
そんなところに科学技術の知識なんてばら撒けば、文明開花……いや、魔法文明の崩壊もあり得る。
それは世界水準的な価値観としても計り知れないところとなる。
「だから銀髪嬢ちゃんの命だけで、こっちに抑止力を与えられるわけだ……」
「そういうことさ……」
「……」
俺が契約魔法を使ったのは、異世界人である証明とクルシアの抑止を同時に行うことができる唯一の方法。
クルシアは俺が未知の存在だと知れば、こんな取引を要求しても通ると考えたのだ。
だがここでふとした疑問がナタルから呟かれる。
「なら、どうしてクルシアの命を要求しなかったのかしら?」
「それは……」
「それは一番簡単なことだよ。ボクは迷わず自分の命を選ぶからだ」
クルシアは今までにも自分の身を顧みないことを喜んでやっている。
人工魔石を埋め込んでいるのは良い例だろう。
だけど目の前に異世界という未知の存在を前にした時、果たして俺を生かす選択を取るだろうか?
自分の保身は基本考えない人間ではあるが、目の前の未知を取り逃がす性格でもない。
命あっての物種とはこのことだろう。
「……そうだろうな。貴様ならばオルヴェールの命を奪い、その身体を調べるという選択を平気でしそうだ」
「ついでにアルビオもね」
「ぼ、僕……」
アルビオも事態の収集に追いついていないようだ。
「そっか。アルビオさんも異世界人の血が……」
アルビオも異世界人の血を継いでいるということ。その実感というのは中々湧きづらい。
「なるほどな。だから銀髪嬢ちゃんの要求にクルシアの命はなかったわけだ」
「しかもこれは初見殺し。次は無いからね」
「なに?」
予防線を張られた。
まあ頭の回転の早いコイツなら気付くと思ったが、割とあっさりだな。
「よく考えてごらんよ。リリアちゃんは異世界人であるという事実がこの契約魔法でなら、相手はなんでも言うことを聞いてしまうことになるだろ?」
「まあ、内容にもよるが……」
本来の使い方である商人同士の取引とかなら、全く効果はないが、リリアという個人に意味を見出す相手との取引では最強である。
現にクルシアを抑止できているのがその証拠。
俺を失いたくないとする相手ならば、命を賭けることや知識の取引などから、こちらは相手からどんな対価でも受け取れることになる。
「リリアちゃんが取引材料にできる相手なら、どれだけでも踏んだくれるんだ、これほど強力な切り札はない」
ザーディアスはクルシアを見て、なるほど納得。
「だから次からは絶対に乗らない。逆に言えば、好奇心旺盛なお前のことだ、一回は要求を呑ませられる。私の異世界人って切り札は、使い捨てのジョーカーってところだよ」
「フ……フフフ――アッハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
目の前の未知を前に高揚感を隠せず高笑い。
俺の話を聞いていた人工魔石の向こう側のドクターやバザガジールもまた興奮を抑え切れない。
『異世界……この世とは異なる世界……』
『是非! 是非お伺いしたいっ! 黒炎の魔術師、勇者ケースケ・タナカのような強者がいる世界なのですか!?』
「最っ高だよっ! リリアちゃん! ボクの好奇心をここまで駆り立てるだなんて! 最初こそ、エルフ共が手のひらの上で無様に踊り狂う姿を眺めるつもりだったのが、ここまでの戦争までに発展して、そのフィナーレが異世界かい!? ハッハハハハハハッ!! もうボク……ご機嫌になっちゃうじゃないかっ!!」
更にどこか嬉しそうにこちらを見て、
「しかもボクの好奇心の対象となって、人質になるなんてさぁ! 狂った発想だよ!」
俺を絶賛する。
「狂った愉快犯には、常識から外れた手札が必要なだけだよ。それを私は持っていた。それだけの話だ」
クルシアはジッとしてられないようで、魔法陣の上をジタバタ、チョロチョロ。
「ああっ! 異世界っ! なんて甘美な響きなんだ……」
俺からすれば、アニメのワードの一つの単語。とてもじゃないが、甘美なんて言葉は出てこない。
そんな夢を持つクルシアに、更に情報を開示する。
「お前が取引に応じられるように、少しだけど情報をあげるよ」
「――っ!? ホ、ホントっ!?」
キラキラと期待の眼差しを向けるその表情は、十代前半の容姿に見合う無邪気な様子を見せる。
だがその仮面の裏には、口元が大きく緩んで微笑むピエロの仮面が隠れていることを俺は知っている。
「私の世界にはそもそも魔法が存在しない」
「「「「「!?」」」」」
「そ、そんな馬鹿なっ! それなら何故、勇者様は魔法が使える?」
俺はリリアの身体だから関係ないだろうがと尋ねてきた。
「これはあくまで推測だけど、ケースケ・タナカはこちらへ転生する際、こちらの世界に合わせるよう、身体が調整されたんじゃないかな? 何せ別世界に移動するんだ、身体の変化があったって不思議じゃない」
「な、なるほど。本来ならいるはずのない人間を無理やりこの世界にねじ込むんだ。それくらいのことがあっても不思議じゃないか……」
「うん。だから精霊達もアルビオやケースケ・タナカに感じることがあったんじゃないの?」
「どうなの?」
アルビオは顕現していない精霊達に尋ねるが、全員難しい顔をする。
「俺達から言えるのは、アルビオから霊脈を感じるってことくらいだ」
「詳しく大精霊様達から聞けば、もう少し詳しくわかるかも知れませんが、私達も異世界というものはなんとも……」
するとその内のヴォルガードとザドゥの様子が気になっているアルヴィが知らせる。
「アルビオ! ヴォルとザドゥの様子がおかしいのさ。そこの黒炎の魔術師さんに取り憑いてから……」
「……! そういえば……」
アルビオはリリアに補助する形で憑依させていたことを思い出す。
「二人とも、何か見たんだね?」
ヴォルガードとザドゥは姿を見せると、その質問に答える。
「あの者が異世界人だということは本当だ。妖精王を止める時に憑依した時、少し潜り込んだ時、この世界とは全く別の景色の記憶があった」
「別世界」
「――そ、それをもっと詳しくっ!!」
精霊の報告に食いつくようにせがむ。
この二人があの後、俺によそよそしい態度だったのは、それが原因か。
クルシアが説明を求め精霊達を急かすも、精霊達も未知の世界過ぎて言葉に詰まる。
「私の世界には魔法が存在しない代わりに、科学技術が発展しているの。あの汽車だってその一つ。今ではこれくらいの板切れが世界の人間達と情報の共有ができる技術まである」
俺はジェスチャーで四角を表し、タブレット端末を表現すると、信じられないと一同が絶句。
「こっちの世界の移動は馬車か魔法、もしくはドラゴンだったりするだろうけど、向こうは汽車は勿論、自転車、車、電車、飛行機などの乗り物が開発されている」
「あの記憶の中に見た、人が入れる鉄の箱のことか?」
「……まあ精霊さんから見れば、そうかな?」
ヴォルガードは通訳してくれるだろうと、俺の記憶から見たものを説明する。
「我々が見た景色ではこのような薄い板切れに人が閉じ込められていたり……」
「あー……多分、テレビかパソコンモニター、もしくはタブレット端末かスマホかな?」
「そ、そうだ! そのような人が閉じ込められている板切れのようなものがたくさんあった。だがその中の人物は魔法を使っていたようだが……」
ゲームのことを言っているのだろう。
俺はファンタジー系が好きだったこともあって、その手のゲームはやり尽くしてる。
俺の記憶を覗き見たなら、その言葉にも納得がいく。
「向こうの世界じゃ、魔法は憧れみたいなもんだよ。現実じゃあり得ないことだからね。精霊さんが見たのは作り物の映像。ゲームって言って向こうの世界の娯楽なんだよ」
「つ、作り物? ま、魔法を作るのか?」
説明が難しいな。
「創作物だよ。憧れを創作するのは、こっちの世界にもあるでしょ?」
「ま、まあな」
「私達からすれば魔法は作り話であり、創作物。現に私、この世界に来てファイア・ボールを撃っただけでも飛び跳ねて喜んだくらいだよ? 正直、子供みたいにはしゃいじゃったんだから……」
「そ、そんなに……」
更に俺は決定的なインパクトを与えるために、天井を、正確には空を指差す。
「天井?」
「夜空に輝く月は知ってるよね?」
「そりゃ勿論」
「あそこに行ったことがある?」
「あるわけないだろう。あの星の世界には我々人類がたどり着けない境地とされている。魔力がないし、そもそも空気が薄れて向かうことすら叶わないのだぞ」
ハイドラスがそこまで言うってことは、実行した人物はいたようだ。
どの世界でも宇宙を目指そうと考える人間はいるらしい。
だがそれを予測してか、ナタルが驚いた様相で尋ねる。
「ま、まさか……」
「そのまさかだよ」
「「「「「!?」」」」」
「私の世界ではあの星の世界、宇宙へ行ったことがある人間が複数人存在する」
「なっ!?」
「ハハッ!!」
「みんなの言う、星の世界はナン万光年も離れたところから放たれている光であること、その暗闇は空気もない死の世界であること、そして――月には重力がないこともわかっている」
アイシアがリュッカの袖をグイグイっと引っ張ると、こそっと耳打ちして尋ねる。
「重力って何?」
「……この世界の中心部にあるとされる引力のことを重力と呼ぶの。そのおかげで私達は地に足をつけて立っていられるの」
呆れた様子で答えた。
「お、お前の世界では、あの星の世界にまで手を伸ばしているのか!?」
「凄いっ! 凄すぎるよ! 異世界っ!」
この世界の人間は魔力がないと基本的には、できることが制限されてしまう。
そのことから、あの見上げた星空に行きたいという発想を持ったとしても、実行するやり方の視野が狭まっていた結果なのだろう。
その宇宙の話は、技術屋であるドクターの胸にも響いたようで、人工魔石の向こうからぶつくさと呟く。
『馬鹿なっ!? 一体どのような方法を用いれば、あの月にたどり着けるというのだ。魔力も届かぬ世界では我々は無力となるはず……にも関わらず、たどり着いた? 黒炎の魔術師は魔法がない世界だと言った。魔法がなくとも辿り着ける方法があるというのか? そもそもカガクとはなんだ? それが異世界における魔法なのか? そのカガクとやらを突き詰めれば、もっと色んなことができるのではないか? いやしかし――』
「ハハ。ドクターがここまでテンションが高いところ、初めて見たよ。いや、凄いなぁ。もっと教えてよ」
異世界の情報は小出ししていった方が効果を発揮するだろうと、ここで止める。
「とりあえずはここまでだ。これ以上の情報を知りたいなら、取引に応じてもらおう」
イケズだなと残念そうにするが、ワクワクは止まらないようで、うずうずしている。
「で? 取引はどうする? 応じる? それとも切り捨てるかい?」
正直、百パーセント死なない方法ではない。
できる限り死なないように、クルシアの欲望を満たす対象になってやったが、敢えて命を奪う可能性もある。
面白そうだからという理由だけで行動するような男だ。突発的に俺の喉元のナイフを突き刺す可能性はある。
だからこの問いをするのには息を呑む。
クルシアはニヤニヤしながら俺を眺める中、二人が制止する。
『クルシア、早まるなよ。お前のことだ、敢えて奪ってみようかなんて考えてるんだろ!? 絶対やめろ!』
『ドクターの仰る通り。私も勇者と同等の実力者と戦える機会を奪われたくはありません』
どうやらこの二人も俺と同じことを考えていたようだ。
味方にまでそう思わされるとは相当だなと、呆れたように笑う。
「わかってるさ。ボクだってみすみすこんな機会を逃すことはしないさ」
ゆるりと近付いてくるクルシアは答えを口にするつもりなのだろう。
気取られぬよう、俺は全力でポーカーフェイスを貫く――真の狙いに気付かれないように。




