29 旅立ちの刃
「ディーガル……」
その容姿は先程のような真っ黒な身体ではなく、元の人間の姿になっていた。
複数の腕は健在だが亀裂が入っており、少しでも動けば壊れてしまいそうだ。
それはディーガル自身も同じようで、
「ディーガルさん、その身体……」
「案ずるな、勇者殿。これは報いなのだろうな。本当はレイチェル様の理想こそが正しいとわかっていたはずなのに……」
ディーガルはフェルサが見せている映像を見て、軽く微笑んだ。
「……私は馬鹿だったのだ。それを見せられてやっと思い出すとは……」
「思い出す?」
「私のまだ若い頃の話だ。この国、大陸の在り方がおかしいと、よくハボルドと話したものだ……」
孤児として差別や偏見というものには敏感だった。
だから若い頃は亜人種への差別をする人間に少なからず嫌悪感を持っていた。
自分が孤児だというだけで、侮蔑していた人間がいたように。
自分と重なる部分があったが故に、まるで自分も差別されている感覚でもあったのだ。
「先程までの剣幕がないのぉ。別人にでもなったかのようじゃ」
「ぬかせ、化け物。確かにマルチエスの仕業であって、亜人種のせいではないとわかったところで、貴様は化け物だろ。それは変わらん」
まあ原初の魔人は元を辿れば魔物ですからね。
「だが……あるべき未来は違ったのだな」
「そうだね。貴方が描いた未来は否定されてるよ」
それはフェルサが映している映像からもわかることだ。
獣人達が懸命に魔力が枯渇したエルフや人間達を介抱する姿は、ディーガルの見た未来の景色ではなかった。
「そうか……」
ディーガルの身体に亀裂が入る。
「ディーガル!?」
「こ、これって……」
「ううん、多分テテュラちゃんとはまた違うと思う」
アミダエルから魔物の身体を取り込まれているはずだ。同じ現象が起きても不思議ではない。
何せ魔物には魔石を宿しているのだ、テテュラのように魔石からではないにしても、身体の変質はあったはずだ。
というより目の当たりにしてるわけだから、わかることではあった。
「私は死ぬのだろうな。もう……身体に感覚がない」
『ディーガル……』
するとフェルサの方から弱った声が聞こえた。
無理するなとフェルサが諭す相手はレイチェルだった。
『貴方の家族を模した化け物は倒しましたよ』
言わないと思っていたが、死を悟った今の彼に必要な言葉だと考えた。
するとディーガルは小さく微笑むと、
「そうですか。ありがとう……」
静かに目を瞑り、崩壊していく身体を受け入れていった。
「……!」
ザラザラと破片のように崩れていく死に様は、とても人としての死に方ではなかった。
それでも……、
「救われたのかな?」
「さあ。でもまあ、スッキリした顔はしてたよ」
ディーガルにどんな心境が起きたのかは定かではない。
物心がついた時には孤児としての生活を送り、思うことがあったろう。
サリアとの出逢いから、家庭と家族を持つことの喜びを感じ、思うことがあったろう。
そしてそれらを失うことで、激しい絶望と怒りの中で思うことがあったろう。
最終的にはアミダエルの魔物によって暴走していた節もあった。
だが最後はしっかりと心を取り戻したかのように見えた。
復讐に身を焦がすだけでは得られないものがあると、思い出した様子だった。
「家族と……再開できるといいですね」
「……そうだね」
――こうして一連の事件は幕を閉じることとなった。
首謀者であるディーガルは死に、利用された妖精王もゴーレムの残骸を捜索したが、見つかることはなく、状況として亡くなったこととなった。
だが、本当の火付け役であるクルシアに関しては、結局現れることはなく、アミダエルの確保もできない結果となった。
***
このような戦時の後の方が大変なようで、ヴァルハイツは事後処理に追われていた。
先ずは黒幕について。
クルシアと接触歴のある俺達と雇われのジルバとバーバルは洗いざらい吐いた。
クルシア自身隠していないとテテュラやザーディアスから聞いている。
これほどのことを暗躍した手前、話さないわけにもいかない。
とはいえ、手掛かりなど掴めるはずもなく、ただただ情報提供というかたちになった。
アミダエルの研究施設にも調査団に同行したが、居場所へのヒントはなく、凶々しい実験場を覗くかたちとなった。
次に亜人種との関係性。
先ず、実験場には獣人の里長ヴォルスンとエルフの仮族長としてアーキと一部の亜人種も同行した。
痩せ細ったり、歪なかたちをした同種を見て、その現状に苦しむ中でも、これ以上のことが起こらぬよう、関係を修繕していくことを誓った。
現状としては西大陸と同様の溝が存在するが、闇属性持ちとは違い、判別がつきやすいことから、関係の修繕はあちらよりマシである。
とはいえ、長い間歪みあっていたことや受け入れ難いのも事実。
こちらも少しずつの改善となるだろう。
ついてはレイチェルが王位を即位する際に何かしらの発言があるだろう。
そして――此度の事件のケジメがつけられる。
ヴァルハイツにある闘技場にて二つの断頭台が用意されていた。
そして罪人が運ばれる。
「た、助けてくれっ! わ、私は何も悪くない!」
「わーんっ!! 死にたくない! 死にたくないよぉ!!」
アポロスとロピスが浮遊術にて処刑台の断頭台前まで運ばれる。
あの巨肉では移動もままならない。勿論、その贅肉のせいで逃げることもままならないわけだが。
台座まで運ばれた二人は騎士に頭を掴まれると、二本の柱の間に無理やり首を捩じ込まれる。
この肉の塊で首を落とせるか、騎士達は若干の疑問を持ちながらも、文句を言いながら抵抗する二人の首をなんとか入れた。
「やらぁ〜っ!! 死にたくないよぉ〜!!」
ロピスは涙と鼻水で顔はぐしゃぐしゃ。
元々豚顔だったせいもあって、とてもじゃないが人の顔には見えない。
そんな二人を見下ろすように上座からレイチェルが現れ、一礼する。
「国民の皆様、このような場にお集まり頂き、感謝致します。これよりアポロス・ヴァルハイツとロピス・ヴァルハイツの処刑を執り行います」
「「「「「――おおおおーーっ!!!!」」」」」
歓声は物凄いもので、どれだけ国王の信頼性がなかったかが窺える。
「ま、待て! レイチェル! わ、私の可愛い娘。何が不満だったのだ? 遠方にやったのも……」
歓声の中から聞こえる命乞いの声にも耳を貸さず、処刑の経緯を説明する。
「この度、我が父と兄が処刑される経緯をご説明致します。此度の事件、天空城の落下から次ぐエルフからの宣戦布告、アミダエル・ガルシェイルという悪魔を生み出せし存在の暴挙。その全ての画策を行なったのがアポロス・ヴァルハイツなのです!」
「は?」
国民達の怒りのボルテージが上がる中、罪を押し付けられた国王は、身に覚えがないとポカンとする。
歓声で話ができないと静粛を唱える。
「此度の事件の背景には亜人種殲滅を目論む過激派によるところも大きく、その主犯格であったマルチエスは天空城にいた妖精王に殺害。その妖精王もまた、過激派の手により暴走し、手をかけてしまう結果となりました。エルフの方々にとっては象徴とも呼べる存在を手にかけてしまったこと、国を代表し謝罪致します」
マルチエスの名を出すことで、アポロスが暗躍しているようにも聞こえる。
現にある程度は噂されていた話を耳にしている国民達は騒つく。
「そしてその過激派の先導をしていると思われていたディーガル将軍は、強い洗脳術にかかっていたことも確認が取れました。ディーガル将軍の妻子を亡くされたその心の隙を突かれたようです。ですが最後はその洗脳を振り解き、戦死致しました」
ディーガルへの配慮。
ディーガルはマルチエスの策略により家族を失い、あのような暴挙に至った。
許せないことをしてきたとはいえ、利用され続けたのも事実。
最後にわかってくれたことと亡くなっていったことを考慮し、洗脳という強い言葉を使い、国民の中に罪としては刻むまいとした。
そしてその矛先を向くのに丁度良かったのがこの二人である。
「そしてこの大罪人の二人はそれらを指示していたものと判明しています!」
「バ、バカなことを言うなっ!! レイチェル!! ぼ、僕ちんは何もしていないぞ!!」
「ロ、ロピス!? わ、私だって……」
醜い争いを見せる二人にため息しか出ないレイチェルは、呆れた様子でその罪を説明する。
「貴方達は確かにこの国のためになることは、一切しておりません。堕落の限りを貪り、亜人種を奴隷とし辱め、ディーガルやマルチエスの政策に目を通すことなく、ハンコを押すだけ。それはこの国のためになることですか?」
「あ、当たり前だろ!? ぼ、僕ちん達は王族だぞ!? 下々を使ってやるのが僕ちん達の仕事だ。堕落を貪ってなどいない!」
王族としての在り方を履き違えていると、苛立ちを隠せないレイチェル。
「……兄上。いえ、そう呼ぶのも穢らわしいですね。罪人。貴方達がその政策に疑問を抱けば止められたことであったと自覚なさい! 物事を考える知能のない方に国を収めることなど、言語道断です!」
「な、なにぃ!?」
「王とは民あってのもの。民のいない王など、ただの人間です。そう、人間なのです! 立場があるだけで等しく人間なのです! ならばその立場に見合う働きをすることこそが、在り方ということです! それがわかっていないことなど、その醜い身体を見れば子供でも理解できます……」
窮屈そうに挟まるアポロスとロピスはお腹のお肉で、足が微かにしかついていない。
「この際ですからハッキリ申し上げます。――この国に貴方達を王族として誇らしいと思っている人間など、一人もいないでしょう」
「なっ!?」
意外って表情をするが、それすらわかっていないのは、正に道化、傀儡の王の鏡であろう。
「その証拠に、貴方達の面倒を見ていたエルフ達ですが……」
闘技場の入り口付近からギッと睨む奴隷エルフ達がいた。
「見えましたか?」
「おいっ! お前達、生意気だぞ! 僕ちん達がどれだけ可愛がってやったと思ってる!? ご主人様のピンチだぞ! 助けろ!」
その命乞いに対し、エルフ達はいい気味だと侮蔑を含んだ目で睨んだ。
反省の意思がまったく見えないロピスが、エルフ達の態度に腹を立てている中、アポロスは絶望感に浸り、黙り込んでいる。
「貴方達の罪がわかりましたか? ディーガル達の計画や政策に許可をしたことは、同罪ということです。この国の王としてあるまじき行為。兄上も止めることができる場所におりました……」
「なっ!? てめぇ、自分だけ違うって言いたいのか!?」
「いえ。わたくしも同じ罪人。ですがわたくしは王族として、この国のために人生の全てを捧げ、この命は……」
レイチェルはバッと処刑場にいるハイネを指す。
「ハイネに奪わせると決めております」
「なっ!?」
「何!?」
さすがに会場も騒つく中、レイチェルは演説を続ける。
「国民の皆様、わたくし――レイチェル・ヴァルハイツはこの国のために改めて、この人生の全てを捧ぐことを誓いましょう。勇者様が理想とした争いのないあらゆる人種が豊かに暮らせる世界を。そしてこの罪人達もまた王族。彼らにもその責を全うしてもらいましょう」
「わ、私達が……?」
「ええ、父上。最初にして最後の王族としての務めで御座います。その命を持って、王族としての責任を果たして頂きましょう」
「ひ、ひいぃ!? わ、私が悪かった!! これからはちゃんと政治もする!」
「ぼ、僕ちんも! レ、レイチェルだけじゃ不安だしな、な?」
レイチェルはその命乞いに対し、冷たい侮蔑の視線を向けた。
ハイネが断頭台の刃を止めている縄の前に立つと、ゆっくりと剣を引き抜く。
その光景を見たアポロス達の命乞いはデットヒート。
「わ、わかった!! レイチェル!! 本当に私達が悪かった!! 反省してる、この通りだ!! だから、だから命だけはぁ!!」
「ぼ、僕ちんも反省してる!! そ、それに責任だったらこのデブだけで十分だろ? だから……」
「な、何を言い出すか!? デブはお前もだろ!?」
「う、うるさい、キモデブがっ! マインちゃんにバブらせてたのは知ってんだぞ!?」
「なっ!? お、お前だって――」
お互いの変態性癖の暴露会に、ヴァルハイツきっての恥晒しだと、怒りを通り越して呆れ果ててくる。
「もう黙りなさい」
本当に呆れたようにため息混じりに呟いたが、聞こえていたようで、ピタリと止まる。
「貴方達が大好きな王族の権力を持って処刑されるのです。本望でしょう?」
「そ、そんなわけないだろう!!」
「た、頼む。頼むからぁ……」
「もう十分、贅沢の限りを尽くし、貪り、辱めてきたでしょう。いい加減、責務を全うしてくださいませ」
レイチェルはスッと手を上げて、振り下ろす構えを取ると、ハイネも身構える。
「ひ、ひい!? ハ、ハイネ。どうだ? た、助けてくれたら金をやろう。いくらでも良い! 頼む!」
子犬のような目で全身甲冑姿のハイネに媚びるが、
「私が貴方の命乞いを聞くことはない。覚えていませんか?」
「は?」
ハイネは一度、構えていた剣を下ろすと、アポロスの眼前に、顔を見合わせる。
そして兜の前当てを上げて顔を覗かせて見せる。
「ひいっ!?」
アポロスが覗いたハイネの兜の中は、ギョロっとした白い目がくっきりと浮かんでおり、よく見ると火傷を負った顔だった。
「覚えていませんか? 貴方の性奴隷の中で、誤って歯が当たっただけで、焼き捨てたエルフのことを……」
アポロスが抱えていた側付き兼性奴隷は数十人いた。
その中で気に入らないと捨てた性奴隷達も何人もいたが、その中で自分が目の前で罰を与えたのは数人ほど。
「……!?」
「思い出されましたか? 貴方にとっては無数にいる女の身体かも知れませんが、私達も個人だということをお忘れなくっ!」
すくっと立ち上がると、持ち場に戻りながら近況を話す。
「私は貴方の逸物に歯を立てたというだけで、その身を焼かれました。かろうじて生き残った私でしたが、貴方のおかげで陽の光を浴びれぬ身体となりました」
ハイネは全身火傷を負い、苦しんでいたところをレイチェルに拾われたのだ。
ハイネを焼いた火の魔法は、エルフに効果のある術式を組み込んだ拷問式のもの。
治癒魔法を受け付けず、最初こそはミイラ姿であったが、レイチェルの側近となるべく、騎士甲冑に身を包むこととなった。
「あ、あの時のエルフかぁ!? わ、私が悪かった。そうだよな? 私のが大きかったから当たっただけだよな? す、すまなかった! だから! だから命だけはあ!?」
さらっと逸物の自慢をされたが、そんな馬鹿みたいな命乞いに反応することはなく、
「仮に親子の情でレイチェル様がお許しになったとしても――私が貴方を許すことなどない」
冷たく吐き捨てるその言葉を表しているかのように、視線も冷酷なものだった。
アポロスは顔中から涙に鼻水、涎、更には小便まで漏らして恐怖する。
「――頼む!! 悪かったっ!! もう誰でも良いから助けてくれえ!!」
「――ヤダヤダヤダっ!! 助けてぇ!! ママぁーっ!!」
これ以上は意味がないことだと、レイチェルは再び手を上げる。
「ハイネ。準備はいいですか?」
「は! いつでも」
そう身構えるハイネは、ふとレイチェルとの思い出を振り返る――。
「わたくしがこの国の王になった暁には、貴女にこの命をあげましょう」
「……」
それは逆だろと心の中でひっそりとツッコんだ。
ハイネは拾われた命。その恩人のために命を捧げるならまだしも、その恩人の命をもらうというのはお門違いだ。
「ご冗談を……」
「いえ、冗談ではありませんよ。これはケジメです」
もちろん国を変えてからですがと補足を立てた。
「お言葉ですが、私をこのような身体にしたのは現国王です。失礼を承知で――」
「いいですよ。貴女が父上を恨んでいることはわかっています。ここでは隠す必要はありません」
見張りもいないゴンドゥバにて、その話を聞いた。
レイチェルの側近騎士として、無理やりねじ込まれてから数日後の話。
自分を雇うに至って、調べたのだろう。
「わたくしは必ずこの国の王位を手に入れます。父上や兄上では、ただのお飾りにしかなれません」
この当時から既にぶくぶく太っていたアポロス達。
レイチェルの信用はもちろん、臣下達もついてくるわけがない。
「もっと世界は優しくてもいいはずです。貴女のような被害者が出ない世界を……」
兜の上から顔をそっと手でなぞる。
あの反面教師の影響か、教養をしっかり身につけた大人びた貫禄を見せる。
「では何故、レイチェル様のお命というお話に?」
するとレイチェルはくすっと笑った。
「復讐する相手がいないと寂しいではないですか?」
この先の未来など誰にもわからないのだ。
あの堕落王が暗殺などされることは容易く行われることを考えると、その血筋である自分がいた方が良いだろうとのことだった。
自分の命を救ってくれただけでなく、雇い入れただけでもなく、復讐の機会にまでなってくれると言ったレイチェルに、
「……畏まりました。感謝致します」
この命尽きるまで、レイチェルの想いに応えようと誓った。
レイチェルより長生きする身として、彼女が亡くなっても、その平和を願う心を守り抜く誓いを――。
――この処刑はその始まり。
「それでは罪人アポロス・ヴァルハイツならびに、ロピス・ヴァルハイツの処刑を行います」
「――やぁだあ!! やだやだあっ!!!!」
「たしゅけてくれえっ!! 誰でも、誰でもいいからあっ!!」
ハイネは二人に見せつけるように、剣の刃を象徴するように構え、その切っ先には断頭台の刃を抑える縄。
泣きじゃくり、もはや可哀想なくらいに恐怖する二人に対し、レイチェルは誓う。
「――願わくば、これが最後に流す血でありますように……」
フッと手を振り下ろすと、それに合わせてハイネも刃を振り下ろす。
断頭台の刃は分厚い肉をしっかりと骨ごと切り落とし、処刑は滞りなく遂行された。
***
処刑が行われた数日後、ある程度の事後処理を終えると、レイチェルは王位を継いだことを公表。
我が国が先の戦争にて弱っていると、つけいられないように盛大にヴァルハイツではお祝いをされた。
国民達は新たな国王の誕生に歓喜に湧いた。
まだ過激派の一派や亜人種を受け入れることに、疑問を抱く者達もいるが、アポロス陛下よりは明らかに豊かな国になるだろうとの期待で持ち上がっている。
即位式の際の演説でもレイチェルは見事なスピーチを披露。
まだ十代の女王陛下とは思えない貫禄を見せつけ、お呼ばれした俺達も感心を覚えた。
その王城テラスでのスピーチ後、城に招かれていた俺達はお疲れ様と声をかける。
「これから大変そうですね」
「ええ。貴方達との外交も楽しみにさせて頂きますよ」
「勿論だとも。レイチェル女王陛下」
戦争が落ち着いた頃に、ハイドラス達は再びレイチェルの元へ。
正確には俺達を迎えに来たというのが口実。
あの戦争から二週間。レイチェルは目まぐるしい思いだったろう。
ちなみにファミアは自国に帰り、キャンティアもヘレンと合流後、また会おうと旅立った。
「貴女達にも本当に感謝しております。勇者アルビオ・タナカ殿。黒炎の魔術師リリア・オルヴェール殿。皆様も……」
「いえ。僕らは当然のことをしたまでです」
「そうそう。それにこれからがもっと大変じゃないですか。それに比べれば私達のしたことなんて……」
俺達の謙遜にふるふると首を横に振った。
「このように国が変わったのは、皆様の想いあってのことだと考えております。貴方の先祖であるケースケ・タナカ様の意思も……」
「その通りだ。我々もこれから変わっていくさ」
「……しがらみを解くことは難しいだろうが、まあやるだけやるさ」
神獣族の二人とアーキ達、エルフのみんなも俺達の頑張りに応えると語ってくれた。
「改めて感謝を。貴方達のことを生涯忘れることはありません。今度訪れる際には人種など関係なく、互いを認め合う国にしてみせます。ハーメルトのように……」
「はい! 頑張って下さ――っ!?」
爽やかに挨拶が終わろうとした時、背筋がゾッとする気配を感じた。
「――へえ。ならボクにも感謝して欲しいな。なんたって天空城を落とした功労者なんだから……」
国民の歓声が外から聞こえる中、黒幕が姿を見せた。
憎ったらしいこのクソガキが。
「はぁい! 神出鬼没のクルシアちゃん、只今参上!!」
相変わらずの無邪気な仕草で目元ピースを決めたクルシアが現れた。
「キラッ!」




