28 妖精王の最後
現在、妖精王のゴーレムの周りでディーガル、獣神王、妖精王本体が激しい戦闘が繰り広げられている。
特に妖精王本体は、地脈からの無尽蔵の魔力供給を武器に相対する二人を追い詰めていく。
「まったく、力技じゃのおっ!」
無数に迫り来る木の根を回避する獣神王は、その先にいる妖精王目掛けて、タタッと木の根の上を走り、
「いい加減にしておけ! このうつけ者がっ!」
ゴーレムから上半身だけの妖精王の顔面を蹴り飛ばす。
身体が在らぬ方向へ捻れると、追い討ちをかける拳を打ち込もうとするが、
「ぬ?」
力強い覇気を後方から感じた。
ディーガルは槍を片手に力強く握り、腕に力が入っているのがわかる。
渾身の一撃を打ち込むつもりなのだと、良くも悪くも語る投槍の構え。
「――むん!」
ギュンと凄い勢いで飛んで来る。
飛んでいく先から空気は裂かれ、真っ直ぐに並んだ獣神王と妖精王に向かう。
「いかんな」
獣神王は軽く横跳びして躱すが、ゴーレムと同化している妖精王は躱せない。
「――キャアアアアアアッ!!」
妖精王の左目から頭を貫通するように長槍が突き刺さる。
甲高い悲鳴をあげ、もがき苦しむ妖精王を見て、致命傷にならないことに舌打ちする。
「いい加減にくたばれ! 化け物共がっ!」
「口を開けばそればかり。もう少し気の利いたことは吐けぬか!?」
「化け物にかける言葉を持ち合わせては……いない!」
獣神王はディーガルとの戦闘を続ける中、つくづく人間というのはと感心する。
このディーガルも本来であれば原初の魔人を二人を相手取ることは難しいだろう。
自身は理性を持ち合わせており、的確な箇所へ攻撃できるし、妖精王は暴走しているとはいえ、場の支配権にあるのは事実。
一端の騎士隊長であってもたかが知れている。
それがたとえアミダエルに侵食され、強化された身体であっても。
だがそれでもついてこれるのは、己の心にある信念に基づいた行動理念があるからである。
亜人種に対する執念深い復讐は、ディーガルの強さに直結する。
魔人である獣神王も心がないわけではないし、理解がないこともない。
だけど心の持ち方によって真価を発揮する人間には、やはりその点、及ばないのだろう。
バザガジールの時は一途な殺人欲という恐怖心の方が強かったが、ディーガルに関しては哀れに思うせいか、不思議とバザガジールの時のような感覚はない。
むしろそこまでして復讐を遂げたいのかと感心を覚えるほどだった。
現に今も、六本の腕と二本の槍を器用に使い、攻め立ててくる。
魔人である獣神王にとって魔物の血が騒ぐのか、次の攻撃の一手一手にワクワクしている。
この黒くどっしりと染まった復讐心がどう対抗してくるのか。
さながら子供でも見るかのような感覚である。
だからこそ興味本位で訊いてみた。
「主はこの先の未来をどう見る?」
「……」
答える気はないようで、激しい攻撃が続く。
「そう、シワの寄った表情をするでない。ワシは訊きたいだけじゃ。主が亜人共を抹殺した後、どう世界を創る?」
「語ることなど――ないと言ったっ!」
妖精王が刺さった槍を引き抜き適当に放ると、ディーガル達に無数の木の根が行く。
それを軽く躱すと、ディーガルの考えを考察する。
「なんじゃ? ワシら魔人や魔物、亜人を皆殺しにすれば平和の世が来るとでも思おておるのか? 短絡的じゃのぉ。ワシでもそのような――」
「争いなどなくならん」
「む?」
「貴様のような奴に言われずとも、争いが無くならんことくらいわかっている。だが少なくとも私のような人間をつくることは無くなる。お前達は人間と違い、理性より本能で動く存在。害悪でしかないのだ!」
そう言われると否定する要素がない。
現在進行形で本能のままに暴れている妖精王がいるわけだし、自分も久しぶりに戦い、やはり魔物の本質はあるものだと気付いた。
だがもう一つ知ったこともある。
「まあ言わんとすることはわかるが、人間も大概じゃぞ。此度の事件も結局は人間が起こしたこと……」
「戯言を……」
「さての」
信じないのはわかっていたし、説得にも応じないこともわかる。
だからこそ獣神王は、
「ワシはあのレイチェルに賭けるぞ。彼奴は主以上の世界を創れるとみた。じゃからこうして協力しとるわけじゃしのぉ。そういうわけじゃ――」
ヒュッと姿を消す。
「主の先の未来をここで潰させてもらうぞ! 小童!」
ディーガルの大振りの隙をかいくぐり、鳩尾に渾身の拳が打ち込まれる。
「――ぶふぅっ!?」
ディーガルはそのまま地面へ向かって吹き飛ばされるが、何本かの腕でガシッと根っこを掴む。
ぶらんとぶら下がったディーガルの長槍はそのまま落ちていき、大きなダメージを負ったせいか動けずにいる。
「さて――おっと!?」
「オアアアアアアアアッ!!!!」
妖精王の猛攻が目の前にいる獣神王へと向く。
「そろそろくたばっておれ! この恥晒しがっ!」
そんな獣神王に連絡が入る。
「何じゃ!? 今取り込み中じゃが?」
『見えてるからわかってる。獣神王さん、そっちから誘導できない?』
連絡を寄越したのはアイシア。
「誘導じゃと? どういうことじゃ?」
『この妖精王ゴーレム、地面についてる限り魔力を吸い続けるんだって。空中に浮かせるポイントまで誘導してほしいの。私達は頭の方で誘導するから、本体の気を……』
アイシアは獣神王が見えるように、大きく腕を伸ばして指を差す。
「あっちに逸らしてほしいの!」
確認した獣神王がわかったと返答すると同時に、レイチェルが割り込んできた。
『連絡届きますか? 皆さん』
「おおっ! 娘」
そこから話された内容は、フェルシェンにて魔導兵器の準備が進められている。
この魔導砲であれば、ゴーレムの動きを止めることが可能だろうと計算されたそうだ。
なのでその射線上から避難すること、その魔導砲の衝撃に備えること。とりあえず身の安全をしてくれと連絡が、妖精王側の人間に通達された。
「殿下、発射までの時間は?」
『今、そちらの方向へ修正し、エルフの方々が合流後、発射準備となります。数十分もあればすぐにでも……』
「発射タイミングはこっちで指示しちゃダメかな?」
『どういうことです?』
俺達は現在、浮遊石の落下地点についたところ。
アルビオとシドニエが砕けた浮遊石を地面に円形上に並べているところ。
「それを撃っただけじゃ完全には止まらない。ゴーレムの魔力を減らし、魔力の供給元になってる地面から引き剥がす必要性がある」
『……なるほど。どうすれば……』
「その準備は進めてるから、後はそのポイントに誘ってやればいい手筈にする」
俺は浮遊石で浮かせる作戦を説明すると納得してくれたが、
『魔力はどうします?』
「禁術を使う」
『生贄ですか……』
アルビオみたいな剣幕で怒られるかと思ったが意外な反応。
まるでわかっていたかのような言い草。
「否定しないんだね?」
『ええ。こちらの魔導砲にも同じ術式が組み込まれていました。だから驚くことはありません』
「!?」
その言葉にアルビオは残念そうに落ち込む。
この国の人間、正確にはお偉いさんには勇者の生き様はあまり伝わっていないようだ。
エルフ達もそうだったが、どうにも南大陸の人間はそのような人種であるようだ。
『ですが、この忌まわしき魔法が今この時だけは、人の未来のために!』
「……そうだね。なら勝負は一度きりだね。座標確認とか大丈夫?」
『ええ』
なんでもこちらに召喚魔を送っているとのことで、それで座標の確認はとれている。
これでエルフ達を運ぶのにアイシアのドラゴン達が必要な理由がわかった。
だとすると生贄を使うのは一度きり。
二回目以降となると、発動すれば辺りの生き物が死滅する。
浮遊石で浮かせること、魔力壁を解くために魔力を吸収すること、体毛のように全身に絡まりついている木の根を焼き尽くすこと。
どれも失敗できない。
「今アイシア達が誘導してこっちに向かってくるから浮遊石で浮かせた後、こちらは魔力を吸って木の根の外皮を焼くから、その間に狙いを定めてね」
『わかりました。連絡、お待ちしております』
レイチェルとの通信は終了。
「どう? 上手く並べられた?」
「はい。ザッとこんな感じですかね」
浮遊石がサークルのように並べられている。
「できればこれを踏まずに中心まで来て欲しいですけど……」
「そこは賭けだね」
グリーンフィール平原の一部を浮遊石の構築材料にすると、効能が薄れる可能性がある。
できれば踏まないでほしいものだが、
「……来たか」
ゴーレムはゆっくりとこちらへと近付いてきた。
あれだけのものをしっかり誘導できたことに感謝しかない。
「よし! 手筈通りにいこう!」
そう言うと俺達は距離を取り、アルビオとシドニエは浮遊石の構築準備にかかる。
「シドニエさん。魔法の発動と浮遊石があのゴーレムを囲むイメージで。細かいところはアルヴィがやります」
「は、はい!」
それを遠方から見ていた獣神王は、
「あのサークル内に入れれば良いのじゃなぁ!?」
アイシア達に確認のため叫ぶ。
「うん! あのサークルに入ったら、私達は全力で撤退だって! 巻き込まれるよ!」
「了解じゃ。まあギリギリまで――此奴の相手をしようかのぉ!」
確実にサークルの方を歩くが、その歩幅を見ると、浮遊石の一石を踏み潰してしまいそうだ。
「アルビオ! このままじゃ……」
「やむを得ません、このままいきます。アルヴィ、いける?」
「まあやってみるさ!」
するとそれを獣神王も気付いたようで、
「おい! 龍の娘! ワシを乗せろ!」
アイシアはその呼びかけに応え、獣神王の元へと急加速。
ポチの飛行をもちろん妖精王は邪魔しにくるが、
「私とポチのコンビネーションを舐めるなぁ!」
木の根が次々と襲い来る隙間を掻い潜っていく。
「獣神王ちゃん!」
ガシッと手を掴むとそのままギュンと足まで飛行する。
「ぬ、主、凄い飛行術じゃのぉ」
「二人とも、しっかり掴まっててよ!」
どこもかしこも妖精王の木の根だらけだが、アイシアの本領を発揮。
ドラゴンゾンビに追いかけられた時とは段違いの飛行技術を披露。
そして――、
「ここだよね!?」
「そうじゃ!」
たどり着いたのは、浮遊石を踏みつけそうになっている右足。
「突進するんじゃ!」
「了解!」
「ええっ!?」
同席しているリュッカはさすがに大混乱の様子。
ポチはそのまま右足の太もも辺りまで突っ込むと、獣神王がポチの頭の上に乗り、
「もうちょっと――前に出るんじゃあ!!」
渾身の一撃を打ち込むと、ゴーレムは大きく股を開き、浮遊石を踏まずにサークルの中へ。
そのままアイシア達は妖精王ゴーレムから離れていく。
「――今だよ!」
詠唱を終えていたアルビオとシドニエが叫ぶ。
「「――クリエイト・ロック!!」」
浮遊石が妖精王ゴーレムの周りを飛び、足りない分はアルヴィが補っていく。
ゴーレムを囲むように浮遊石のリングが完成すると、ズズーンと静かに地面を離れる地鳴りが鳴った。
微かに浮いたゴーレムの地面には妖精王の木の根がガッシリとこびりついている。
「くそっ! 往生際の悪い!」
すると、
「むん!」
その木の根をディーガルが裂いたのだ。
「ディーガル……」
獣神王に殴られた鳩尾を押さえながらも、地面に着地していたところを、こちらの作戦を悟ってのフォロー。
ぶちぶちと木の根が千切れていき、完全に宙に浮いた。
「――リリアさん!」
「――黒き王よ、我が呼びかけに応えよ。生命の源は我の手中に集めたまえ。その命の限りを尽くし、我が糧となることを許す。――捧げよ! ――生贄!」
シドニエに教えてもらった文字詠唱と共に、イメージしうる独裁的な詠唱で発動。
ブワッと俺の周りの魔法陣から、黒い無数の手がゴーレムにぺたぺたとタッチしていく。
そしてそのタッチされた箇所が黒ずんでいく。
「これが……生贄」
まるでご飯を強請る赤ちゃんの手のように、たしたしとゴーレムにまとわりつく。
その悪食はアルビオ達のところにも。
「う、うわあっ!?」
「くっ!?」
術者である俺は、意識をゴーレムへと集中する。
範囲系の魔法ならセーブが効かないとも思ったが、これなら意識を集中させれば……。
するとアルビオ達の方へ向かった黒い手はゴーレムへと伸び、
「!」
大量の魔力が流れ込んでくるのがわかる。
「ぐっ!?」
「リリアさん!?」
膝を折る俺にシドニエが駆け寄ろうとするが、アルビオに止められる。
「近付いちゃダメだ。魔力を急激に吸われすぎると、悪影響が出る」
アルビオも駆け寄りたいが、精霊達がいる以上は近寄れない。
俺は流れ込んで来る膨大な魔力に身体が熱くなる。
「な、何が……起きて……」
呼吸を荒くして胸を押さえる。
吸う側にもデメリットがあるのは聞いてない!
「リリアさん! 一度、黒炎を!」
「わ、わかった!」
まあ単純な話だよねと、魔導銃を構える。
「――焔の王よ、黒き王よ。我が呼びかけに応えよ! 聖なる炎を纏まといし、不死鳥は眠れ。黒き灰より邪悪なる呪詛を孕みて蘇生せよ! 不死鳥より蘇りし黒き業火は生を与えず、死を与え続け、永劫に消えぬ、焔を抱いて罪改めよ! ――死の象徴が飛ぶ! ――ブラック・フェニックス!!」
するとアミダエルに放ったものよりも大きな黒鳥が空を舞う。
そしてゴーレムの顔面を黒炎が襲いかかる。
「よし、さっきより楽になった……」
要するには器に収まり切らないほどの魔力が閉じ込められてしまって、身体に影響が出てしまったということだろう。
だが生贄の影響か、あれだけのブラック・フェニックスを使っても、魔力の消費を感じない。
「この調子で焼き尽くす!」
「ザドゥ、ヴォルガード。リリアさんのサポートを……」
「任された」
「了解」
すると二人の精霊は俺に向かって飛んできた。
「えっ!? ちょっ――」
まるで朝の列車に飛び込むサラリーマンの如く、逃げ込むように身体へ入っていった。
「ア、アルビオ!?」
「生贄が発動している中で、外での顕現はできないからね。中からサポートしてくれるよ」
するとお腹辺りに熱だまりができていたところが、スッと和らいでいく。
「おっ? おおっ?」
それどころか膨大な魔力を体内からしっかりと感じる。
これならと、黒炎の火力を上げてゴーレムの身体にまとわりつく木の根を焼き払う。
「――バーストっ!」
ボオオンッ!!
「おおっ!?」
ゴーレムの顔面が激しく爆発し、振り払おうとする手に燃え移っていく。
前に火力を上げた時も多少の爆発はあったが、どこぞの爆弾犯がビル爆発でも起こしたかのような大爆発。
俺、爆発系の魔法は使ってませんが!?
『安心せよ、我らのサポートの影響だ』
「おおっ!?」
今度は頭に声が響いてきた。おそらく俺の中に入り込んだヴォルガードだろう。
『お主は生贄の発動と並行して、黒炎の火力上げに尽力せよ。魔力の操作はこちらで行う』
『役割分担』
おおっ!? ザドゥの声も聞こえた。
「それはいいけど、私の中にいて生贄の影響は受けないの?」
『問題ない。お主と同化しているからな。術者には影響はない』
魔力を吸い過ぎて気分は悪くなったけど……。
『その魔力を我らでコントロールするのだ。存分に奪うといい』
「心の声、聞かれた!?」
『同化していると言ったろ……』
だがヴォルガードとザドゥは違和感を感じていた。
基本、精霊が憑依するということはないが、アルビオにもこのように同化したことがある。
物は試しと色々やったことの一つ。
だがアルビオ以上に相性の良いことに違和感しか感じなかった。
同じ属性持ちという理由だけでは説明がつかない。
何せリリアにはアルビオにはある霊脈を持っていないにも関わらず魔力の流れをしっかりと掴めているのだ。
ブラック・フェニックスの火力上げもそうだが、順応率が高い。
『……』
「あのさ、心の声を聞かれるのは流石に恥ずかしいから程々にね」
『あ、ああ……』
プライバシーは守ってほしいからね。
すると俺は目処がつきそうなので、レイチェルに連絡する。
「レイチェル殿下! 聞こえる?」
『はい。こちらからも視認致しました』
レイチェルは召喚魔を通してしっかり確認したと報告。
「今、魔力壁と周りの木の根を焼き尽くしてるとこ。特に魔力壁。これが消耗できれば……」
『はい。こちらの出番ですね。撃つ時に連絡します。その際は至急撤退を』
「了解」
ごそっと魔石をポケットにしまう。
「さて派手に吸ってぶち撒けますか! サポートお願いね、二人とも!」
『あ、ああ……』
『……』
な、なんか歯切れが悪いなぁ。勝負所だから気合入れて欲しかったんだけど。
まあ慣れてないことだから、精霊様でも不安があるのかな?
俺はその不安を払拭するよう魔力を吸い、
「――バーストっ!!」
再び火力を上げて、妖精王ゴーレムの身体にどんどん黒炎を転移させていく。
凄い! 魔力がこれだけあってサポートまであると、ここまでやれるのか。
「――バースト! バースト! バァーストォ!!」
妖精王のゴーレムは至る所から爆発が連続し、さすがの妖精王も抵抗できないようだ。
ゴーレムは酷く狼狽えた様子で宙でジタバタしている。
浮遊石を再構築したアルビオとシドニエも撤退を始める。
「さあ、僕らも避難しましょう」
「でもリリアさんが……」
そう言ってアルビオは指笛を吹いた。
近場にいたドラゴンが飛んできて、それに飛び移る。
「大丈夫です。タイミングを図って迎えに行きますよ」
十分な距離を飛んだゴーレム。
魔力を吸われ、黒炎で身を焼かれ、抵抗する術もなく、宙を舞う。
「よし、お願い!」
その叫び声と共に生贄を解除。
「――リリアさん!!」
一頭のドラゴンが勢いよく向かってくる。
そこには必死に叫び手を出すシドニエの手があった。
「――シド!」
俺はガシッと掴むと、ぐいっと引っ張られ、シドニエに抱かれる。
「大丈夫ですか?」
「へ、平気……」
「離れます!」
俺達はアルビオの指示の元、その場を離れるとフェルシェンの方から白い光がチラついた。
「えっ?」
ゴオオーーッ!!!!
白くて太いエネルギー派が妖精王ゴーレムを腹部を貫通し、そこから身体が崩壊していく。
「「――うわああーっ!!」」
「――きゃああーっ!!」
俺達もそのエネルギー派が近かったせいか、爆発による風圧に巻き込まれ、大きく揺れる。
するとシドニエは俺を守るように、ギュッと抱きしめる。
「だ、大丈夫です! リリアさんは僕が……」
俺は思わずシドニエをジッと見て頬を紅潮させるが、ハッと我に帰ってそっぽを向く。
『……』
「ど、どうしたの? ヴォルガード、ザドゥ」
戻ってきた二人の精霊の様子がおかしいと尋ねるが、二人は何も話さなかった。
そのエネルギー派が小さくなっていき、妖精王のゴーレムもバラバラとなり、その瓦礫はグリーンフィール平原へと落ちていく。
「お、終わった?」
「おそらくな」
アイシア達が合流。
獣神王の表情はどこか寂しげで、でもどこか吹っ切れたような表情をした。
同じ時を生きた旧友を二人も失ったのだ。思うところはあるだろう。
「彼奴がおった場所にあんな光線を浴びたのじゃ。無事で済むまい」
確かにその箇所はエネルギー派で消滅した。
地面の地脈との流れも絶ったのだ、さすがの妖精王も再生できないだろう。
「あっ!」
俺はレイチェルへと至急連絡する。
あっちも生贄を使った影響があるはずだ。
「殿下、無事! 返事をして!」
何やら酷いノイズと薄らとした映像しか映らず、不安が煽ってくる。
通信用の魔石も魔力を使用していることから、生贄の対象になっているはず。
上手く繋がっているうちに無事を確認したいところ。
アイシア達も心配になって覗き込む中、ザザっと地面を引きずる音がする。
『こ、こちら、レイチェルです。ご無事ですか?』
俺達は無事だったことに心底ホッとすると、
「そっちこそ無事? 魔導兵器には生贄の術式が……」
『は、はい。今それを解除したところ……で――』
映像が一瞬乱れたかと思うと、フェルサの顔が映った。
『大丈夫。こちらは問題ない。これから治療にあたるから心配しないで』
「そ、そっか……」
俺達に気を遣ってか、救助している映像を映してくれた。
そこには獣人達がマジックポーションを片手に、人間達に寄り添う姿があった。
俺達にとっては当たり前の光景だが、この大陸ではあり得ないこと。
なんだかちゃんと変わっていける気がした。
「終わったか。さすがは勇者殿と黒炎の魔術師殿だ」
「!」
振り返るとそこには、満身創痍のディーガルの姿があった。




