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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
8章 ヴァルハイツ王国 〜仕組まれたパーティーと禁じられた手札〜
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26 魔導砲

 

「それにしたってどうなってんのよ、この国は……」


「申し訳ありません……」


 魔導兵器が地下に眠ると聞き出し、向かう途中でサニラが文句を言いながら歩を進める。


「レイチェル様が謝ることではありません。我々が見落としていたことに問題が……」


「そういうのはいいから急ごうぜ。その妖精王のゴーレム、近付いてきてんだろ?」


 その巨人ゴーレムが近付いてくるという報告に、サニラとバークはデジャヴを感じる。


 あの時の首謀者も最終的にはクルシアであったわけで、奴らしい流れだと感じた。


 そして縛り上げた過激派の大臣達の案内の下、たどり着いたのは地下牢。


 ありきたりねと鼻で笑うサニラを他所に案内されたのは、地下牢の一番隅の牢屋。


 簡素な板木のベッド、泥だらけに汚れた敷き布、仕切りのない小汚い便器とこれまたありきたりな牢屋。


 すると大臣の一人が、その便器の中に人工魔石が内蔵されていると説明。


 オールドが代表し、魔力を注ぎ入れると――、


「お、おお……」


 便器の中の水が全て飲み込まれ、(から)になったかと思うと、便器横から静かに岩が横滑りする音が聞こえる。


 そこには地下へと続く石階段が現れた。


「おおっ! かっこいい!」


「馬鹿ね。こんなのもありきたりでしょうが……」


 バークとサニラのツッコミを苦笑いしながらも、地下への道が狭いためか一部の部下達を残し、案内役の大臣を一人連れて向かう。


「オールド、見て参りますので、よろしくお願いします」


「殿下もお気をつけて……」


 カツカツと地下へ響く足音を立てながら、階段を降っていく。


「それにしてもあの国王はともかく、貴女がこんなものを作られていたことを把握してなかったことには驚きだわ」


「この地下施設は昔まだ戦が酷かった頃に、王族の避難道として用意されたものではないでしょうか」


「なるほど。忘れられた地下道ってわけね」


 敵から王族がまさか地下牢へと行くわけもないと、ましてや便器に魔力を注ぐなど考えられないと思わせ、避難を容易にするためのものだったとわかる。


「それで? そこの一部を魔導兵器の開発室にしたってわけ?」


「は、はい」


 怯えながらそう語る大臣。


 正直、コイツの仕業とは考えにくい。


「指示はディーガルかマルチエスですかね?」


「おそらくは……」


 だが元々は過激派ではなく、歪みながらも国のためにと動いていたディーガルが指示していたことは考えにくい。


 するとマルチエスの仕業ではないかと考えられるが、そこの答え合わせは正直重要ではない。


 すると底へたどり着くと、分かれ道となっている。


「これはどっち?」


「は、はわわ……」


「ちょっと! 動じてないで説明――」


 スッとハイネがサニラの口を人差し指で塞ぐ。


 ハッとしたサニラは、片方の道から何か聞こえてくると、視線を向ける。


 どうやら大臣が怯えていたのはサニラではなく、この先にいる者らしい。


「……レイチェル様。お下がりを」


「え、ええ……」


「ったく、勘弁してくれよ」


 各々武器を構えると、その道の奥からゆらゆらと揺れた人影が見える。


「パ、パ……」


「ドコ? アナタ……」


 現れたのは金髪の親子が二人と、城下町で暴れていた出来損ない達がわらわらと出てきた。


「ひ、ひいいーっ!!」


「くっ!」


 出来損ない達はうめき声をあげながら、攻撃を仕掛けてきたので、交戦状態に発展する。


「あの奥に魔導兵器があるの!?」


「ち、違う! 反対側の通路の先が魔導兵器がある場所だ。こ、この化け物どもが出てきた先はアミダエルとかいう奴の研究施設だ。は、話したから助けて……」


「ちっ……」


 出来損ない達の動きはとろくさいので、簡単に倒せるが、金髪の親子が中々粘ってくる。


 人型を保っていたのは最初だけで、首と両手が異様に伸び、顎が大きく開き、威嚇しながら襲ってくる。


「パパっ!! ババノカエッテ、クルバショ!!」


「アイスル! アナタノタメ! シネシネシネェーッ!!」


 バークとハイネが前衛でしっかりと対応しながらも、その不気味な光景にサニラが文句を垂れる。


「何なのよ! この気味の悪い化け物は!」


「知らねえよ!」


 するとその姿と言葉に、嫌な予感しか走らなかったハイネは、


「レイチェル様。この者達は……」


「……おそらく、そうでしょうね」


 思っていたことは一緒だったようで、レイチェルはその哀れな生物兵器から目を背ける。


 ディーガルの言っていた家族ではないかと(よぎ)ったのだ。


 レイチェルもディーガルの妻と娘に会ったことはなかったが、アミダエルの研究所へ繋がっていること、地下道からの捜索隊からの報告がないこと、ディーガルの話から研究所にいることを踏まえれば、この化け物が言っていた妻と娘だろうと予想がつく。


 もう全ては手遅れだったのだと思い知らされる。


「ハイネ。せめて我々が手を下しましょう」


「は!」


 ハイネはバッと娘の懐に入ると、簡単に胴体を真っ二つにした。


「ア、アア?」


 裂かれた娘はそのまま倒れ込み、大量の出血を床に零す。


 正直、懐に入ることは容易かった。


 何せ手と首だけが長い化け物。リーチは長くとも、近距離での素早い反応はできないものと考えた。


 だからか、


「こっちも終わったぞ」


「驚いたけど、楽勝だったわね」


 妻と思しき化け物もハイネのやり方同様に裂かれていた。


「人の蘇生など……叶わぬ願いだということですね」


「……なに? 知り合いだったの?」


「いえ。先程のはおそらくですが、ディーガルの亡くなった妻と娘かと……」


 するとサニラは呆れたようにため息を吐く。


「それを模した化け物でしょうが、こんなの」


「お前って、ホントデリカシーないな」


「――アンタが言うなっ!!」


「いでえっ!?」


 サニラの言う通りなのだと言うことは、これを見ればはっきりとわかることだ。


 ディーガルのことを思うセリフを吐かせるだけの人形。


 だとしてもディーガルにとってはそれは救いだったのかもしれない。ディーガルの信用を得るには、アミダエルの技術は十分なものだったろう。


 だから信じてしまった。(すが)りたくなってしまった。


 その結果があの変質したディーガルである。


 彼の人生もおそらくは、そう長くないものだと、これを見れば薄々理解できること。


 せめて()()を殺してしまったことはバレずにいたいものだと、ディーガルを憐れむのであった。


 ――そんなひと騒動あったが、魔導兵器が格納されている地下室にたどり着いた。


 その一同を迎えたのは、巨大な鉄製の大砲。


 ここにいた構成員も抑え、これについて尋ねた。


「――こ、これは魔導砲と言いまして、空気中に舞う魔力は勿論、周りの生物や自然物からも魔力を吸い寄せ、魔力による砲撃を行なう代物となってございます」


 軽く説明されただけでも胸糞が悪いと、顔を(しか)める。


「ほえー。魔力を吸うねえ……」


「悪趣味ね。要するにはアレでしょ? この魔導砲をエルフ達の見張りをやらせてるフェルシェンまで持っていき、森の魔力を吸い上げつつ、殲滅する兵器ってところかしら? 余った魔力はそのまま獣人の里まで向ければ、無駄撃ちもないってところ?」


 サニラの推理に納得のレイチェルだが、バークは、


「相変わらずおっかねえな、お前」


 若干引き気味。


「しかし、これを移動させるというのは……」


 ハイネは辺りを見渡すが、これだけの魔導砲を運び出すことは困難だと判断する。


 するとサニラがトントンと地面をこずく。


 地面を見ると、何やら魔法陣が見える。


「転移魔法ですか」


「だね。ゴンドゥバに置かなかったのは、殿下がいたからでしょうね」


「しかしこれだけの魔導兵器……どれほどの魔力が必要なのか」


「それについても訊きましょうか? 推測はできるけど、あくまで私達は専門外だし……」


 そう言うと先程説明してくれた構成員に説明を求めるが、渋るように唇を噛んでいる。


「……話なさい。わたくし達には時間がないのです」


 ディーガルとは別のアプローチで亜人種の絶滅を目論んだこの象徴の存在は許せないが、状況が状況だけに許容する他ない。


「……生贄(サクリファイス)です」


「なっ!?」


「それって……」


「この魔鉱石には生贄(サクリファイス)の術式が組み込んであります。一度起動させれば、辺りの魔力を吸い、力へと変えるものとなっています。つきましては――」


「ふざけないで下さい!! 貴方、何をしようとしていたのか、理解できているのですか!?」


 この構成員が渋った理由がよくわかった。


 レイチェルは堪らず言葉を荒げた。


 生贄(サクリファイス)――それはかつて人精(じんせい)戦争によって使われた禁術であり、精霊達との繋がりを断ち切る要因となった魔法。


 ドレイン系の魔法は色々あれど、この生贄(サクリファイス)は並のドレイン魔法ではない。


 それこそ命を奪いかねないほどの魔力を生物から奪う魔法。


 特に魔力の思念体である精霊にとっては天敵とも呼べる魔法。


 吸われたが最後、絶命させられる挙句、同胞を殺す魔力エネルギーとして人間に利用されるかたちとなった狂気の魔法。


 しかも当時の人間は自分の部下の魔力をもこの魔法で吸っていたことから、禁術とされていた。


 つまりはこの過激派達は、亜人種の魔力と森などの自然物の魔力を吸い上げつつ、焼き払おうという魂胆だったと受け止められる。


「そのような悍しいことを、よく考えましたね!! 貴方達は亜人種を穢れた生き物であると侮蔑しているようですが、こんな非道なことをしようと考える貴方達の方が余程醜いですよ!」


「しかし、レイチェル様。今は……」


「ええ! わかっています。……わかっています」


 今は暴走した妖精王を止めるためにも、この非道兵器を使わねばならないことに、悔しそうに歯を食いしばる。


「それで? これは完成してるの?」


「い、一応。動作確認など行なっていないが撃つことは可能です」


 動作確認ができていないのには、この地下という空間と、巨大な魔導兵器であることが問題なんだと悟る。


「ならば急ぎフェルシェンへ! これを使用します」


 それを聞いた構成員達は、怯えすくむ。


「ま、待って下さい、レイチェル殿下。こ、これを使われれば、我々もただでは済みません」


「――作った貴方達が何を言っているのです! ……貴方達が本来味合わせる予定だった苦しみを、わたくし達と味わって下さいな」


「ひ、ひいっ!?」


「ハイネ。貴女はすぐにこのことをオールドに伝えてきなさい」


「は!」


 そう言うとハイネは一人、来た道を戻っていく。


「さてじゃあ彼女が戻って来るまで――」


「いえ。時間がありません。すぐに向かいます」


「は? いいの? 貴女の側近護衛なんでしょ?」


「だからです。彼女にまで危険な目に遭わせるわけにはいきません」


 そのセリフには疑問を抱いた。


 ハイネはヴァルハイツの騎士であり、レイチェルのような立派な王族を守ることは本望であるだろうと考える。


「私達はいいんだ」


生贄(サクリファイス)は確かに強力な魔法ではありますが、熟練された冒険者である貴女方なら耐えられるでしょう。それにフェルシェンの人達まで巻き込むわけにはいきません」


「それこそあの騎士さんを待った方がいいんじゃ……」


 納得のいかないバークとサニラを無視し、レイチェルは転移魔法を起動させる。


「冒険者様達には申し訳ありませんが、このまま行きます! 皆、ついて来てくれますね?」


「「「「は!」」」」


 ハイネと同伴していた複数人の騎士は、レイチェルの命令だからと力強く返事をし、魔導砲ごと転移した――。


 ――フェルシェンではハボルド達が情報を集めていた。


「あの子達は大丈夫だろうか。情報がないようだ……」


「は、はは……なにぶん二人とも若いですから。色々やんちゃな年頃なんですよ」


 嘘とかは苦手なジード。どんどん言い訳もぎこちなくなっていく中、一報が入る。


「ハボルド様、報告します! グリーンフィール平原にて巨大ゴーレムが出現! ヴァルハイツに向けて進行中とのこと」


「な、なに!?」


 その緊急事態にはある程度、周りの動きを聞いているジードも驚きを隠せない。


 グリーンフィール平原というとディーガルが向かっていた場所だと考える。


「ディーガルと連絡は?」


「い、いえ。同伴していたマルチエス様とも連絡が取れません」


 どう動けばいいか唸っていると、更に一報が入る。


「ハ、ハボルド様!」


「今度はなんだ?」


「そ、それがフェルシェンの高台に大砲が突如出現したかと思うと、レイチェル王女殿下がおられまして……」


「な、なにぃ!?」


 その一報を聞いて、焦り駆け出す。


 フェルシェンもゴンドゥバ同様に監視塔が用意されているのだが、その高台が異様に大きく作られていたことに、今更ながら納得がいった。


「なるほど。これを配置するための造りでしたか……」


 そんな感心をしていると、こちらへ急ぎ向かってくる騎士達が見えた。


 その中のハボルドが尋ねる。


「で、殿下。これは一体……?」


「説明はあとにします! 先ずは住民の避難を! この魔導砲の射程とは別方向の平原地帯へと誘導なさい! 急いで!」


「は、は!」


 ハボルドと騎士隊と入れ替わりでジードが合流する。


「ジードさん!」


「バーク、サニラ! 無事だったんだね。あのエルフの()は無事?」


「うん。獣人の里に送ったよ。フェルサとも合流済み。避難は完了だよ。だからあとは……」


 サニラはグリーンフィール平原に視線を向けた。


「妖精王とディーガルだけ」


「そうだ! 巨大なゴーレムが出現したって……」


「それが妖精王らしいんです。今、リリア達が足止めしてます」


 ジードに事態を説明していると、


「――何ですって!? 魔力が足りない?」


「そ、そりゃあそうですよ。これほどの巨大兵器から撃ち出すんです。ここにいる我々の魔力だけでは吸い尽くされるだけで、事が終わってしまいます」


 緊急事態に陥っていたことがわかる。


 どうしたのかと駆け寄ると、頭を悩ませるレイチェルの姿があった。


「どうしたのよ、殿下」


「……この兵器による砲撃を行いたくとも、その一発にかかる魔力量が尋常ではなく、今いる妖精王の下までの距離を考えると、とてもじゃないですが止められません」


 魔道具で妖精王の情報を常に見ていたのだが、やはりフェルシェンから妖精王までは距離があり、ある程度の威力がないと届かないのだそうだ。


 たとえ届いたとしても破壊できるほどの威力を出さなければ話にならない。


 加えて、その一発を出す魔力ですら、かなりの魔力を使用するとのこと。


 最悪、吸われるだけで終わると聞かされた。


「つまりは魔力不足?」


「ええ……」


「なら増やせばいいじゃない」


「簡単に言わないで下さい。ここの住民達を巻き込むわけにはいきません。生贄(サクリファイス)の影響がどの程度、我々が受けるかもはっきり把握しているわけでもないのですよ」


「わかってるわよ。だから()()()に提供してもらうのよ」


 あっさりと解決策を提示するサニラは、レイチェルの通信用の人工魔石を奪う。


「アイシア! 聞こえる? 今、どんな状況?」


『い、今? えっと……大変な状況です!』


「そ、それはわかってるわよ……」


 天然な返しに呆れていると、一緒に乗っているリュッカが割って入る。


『何か用件ですか?』


 フェルシェンにいることを軽く説明すると、


「アイシアの召喚魔のドラゴン、何体かこちらに寄越せない?」


『……大丈夫だと思いますが、何をする気で?』


「安心して。ただの運搬要員として欲しいだけだから……」


 それ以上の詳しい話はしなかったが、リュッカはサニラ達が魔導兵器の準備を進めていることは把握している。


「わかりました。風龍(ウィンド・ドラゴン)を中心に向かわせます。フェルシェンでしたね?」


「うん。お願い」


 サニラは手早くリュッカと話を終えると、レイチェルに向かって人工魔石を投げ渡した。


「な、何を……?」


 そんな疑問を他所に、次はポケットから人工魔石を取り出す。


「聞こえる、フェルサ?」


『聞こえるよ。無事合流できた?』


 今度は獣人の里にて待機中のフェルサに話しかける。


「緊急事態なの。そこに獣人の長と避難したエルフ達がいるでしょ? 全員呼んで」


 フェルサはサニラの言ったことだからと素直に手早く呼んでくる――。


 集まったのを確認すると、避難している亜人種達に今の事態を説明した。


 獣人の里では動揺が広がる中、サニラが提案する。


「その妖精王のゴーレムを止めるには、魔導砲を起動させる必要があるの。だけど私達の魔力だけじゃ足りない。今からそっちにドラゴンを寄越すから、フェルシェンまで来て欲しいの」


『……つまり、魔力要員?』


「そういうこと。獣人種はともかく、エルフは大量の魔力を保有してるでしょ? 魔導砲の起動には膨大な魔力が必要なの――」


 この魔導砲がどのような経緯で作られたのかを話すと、さすがに亜人達も怒りを口にする。


『つまり俺達に燃料にするために作られた殺人兵器を、その通りに使われろってことか!?』


「言いたいことはわかるけど、そこをなんとかしないと……」


『くっ、少しは信用できるかと思ったのに……』


 アーキが悔しそうにそう発言するが、それのフォローに入ったのは、


『それは違う。これは私達のすべきことだ』


『なに?』


『妖精王が暴走してしまった原因は、さっき話した通り、クルシアというあの男だ。だが、あの男の言うことも尤もなのよ。我々が人間と歩み寄れば、こんな未来は避けられたはず。そんな兵器だって未然に防げたはずよ。それをさせなかったのも……私達だわ』


 ディーヴァはそう悲しそうに語った。


 その言葉にレイチェルがこちらの責任だと語るも、お互いがお互いを庇い合う状況が続いた。


 そして――、


『――レイチェル殿下。妖精王は我々が神と崇めた存在であり、今は負の遺産へと変わりつつある存在。今までの我々と決別する意味でも、協力させて下さい』


 二人の言い合いを聞いているうちに、亜人種側にも覚悟ができた。


 これから人間と深く関わり、変わりゆく未来に置いていかれないためにも、携わらなければと強い信念のこもった瞳で見てくる。


「……わかりました。我々で妖精王を止めましょう!」


『はい!』


 するとエルフ達の間に割って入るヴォルスン。


『ならば我々獣人族の魔力も是非、肥やしにして下さいませ』


「そ、それは……」


『確かに人間やエルフに比べれば微々たる魔力でありましょうが、少しでも力添えしたい』


『そうだぞ! オレ達だって力になるぞ!』


 ピョンピョンとオウラが自分にもできるとアピールする。


「オウラ……」


『バークの兄ちゃん達が頑張るなら、オレだって……』


「いけません。生贄(サクリファイス)の魔法は人間ですら、命の危険に関わるもの。獣人族の魔力では貴方達を死滅させることになります」


『……』


「ですから魔導砲を撃ち終えた後、我々は疲労困憊となるはず。その時の介抱をお任せしたいのです。お願いできますか?」


 生贄(サクリファイス)で極限まで魔力を吸われた人間やエルフ達はしばらく動けなくなるだろう。


 そのための介抱要員をお願いする。


『わかりました。では我々は皆様方の治療の準備を進めます』


 話の区切りがついた頃合いに、ドラゴンの群れが到着した。


 そこにはエメラルドがいて、


「こちらの指示に従えとアイシア様が……」


「助かります。今すぐに獣人の里へ向かい、エルフの方々をこちらまで運んで下さい。至急お願いします」


 案内役にとサニラがエメラルドの背に乗ると、馬とは全然違うのか、お尻をもじもじ。


「な、慣れないわね」


「しっかり捕まってて下さい!」


 ブォンと一気に飛び立つと、案内そっちのけで飛んでいく。


「――ひゃああああーっ!!」


 本来、龍種に乗るのは困難であるが、アイシアのドラゴン達は龍の里の知性あるドラゴンというだけあって、素人を乗せても問題はない。


「あ、あれ……大丈夫か?」


「は、はは……」


 なんとか捕まっているサニラを苦笑いで見守る同僚。


 ドラゴン達が問題なく振り落とさなくとも、乗り手が無事かは別問題であった。

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