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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
8章 ヴァルハイツ王国 〜仕組まれたパーティーと禁じられた手札〜
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25 ディーガル・アルマウト

 

 私の今までは何だったのだ。


 レイチェルの問いの答えを探すかのように、思い出が脳裏に甦る。


 ――物心がついた頃には親はおらず、孤児としての暮らしを強いられた。


 だからなのか、一人でも生きていけるようにと我流で槍術を学んだ。


 騎士達の構えを真似てみたり、働きながら冒険者に尋ねたりと努力を重ねた結果、孤児院の管理を任されている者に、ヴァルハイツの騎士にならないかと推薦された。


 そこからはあまり良い思い出はなかった。


 先ずは騎士になるための学校へと行かされたわけだが、孤児院出身の人間を煙たがらないわけもなく、陰口を叩かれ、虐められながら過ごしていく。


 そんな人間関係が辛いからと、孤児院の管理者を困らせるわけにもいかず、ひたむきに努力を重ねた。


 首席とまではいかなかったが、教育課程を無事に終えると、騎士への道を進めたわけだが、学校の延長戦は続く。


 どこへ行っても変わらない人間関係に辟易(へきえき)し、酒を飲める歳になったその月に、早速溺れていた。


「まあったく……どいつもこいつもぉ……」


「おいおい、いきなり飲み過ぎだなぁ」


「うるせえ! 俺の気持ちなんてお前に……わかるか!」


 酷く酔ってんなぁと、当時は同じ新米であったハボルドが酒の席につく。


「まあわかるよ。言われのない陰口やら嫌味は堪えるよな? だがそれは俺達お貴族様も一緒だ。常に家の看板背負ってんだ。憂さ晴らしや、ひけらかしたりなんかしてみたいもんなんだよ」


「される身にもなれぇ!! ……くそぉ」


 ストレスをぶつけるなとばかりに、ディーガルは酒をかき込み、我が身にぶつける。


「店員さん! 酒ぇ! 酒が足りねえぞ!」


 いつも真面目な奴が酒に溺れるとこうなるんだと、ハボルドが関心していると、


「飲み過ぎですよ。こちらをどーぞ」


 そんな言葉を片手にすっとテーブルに置かれたのは水だった。


「んだとお!?」


 ガタンとテーブルを揺らして威嚇するも、その給仕(きゅうじ)の娘は手慣れた様子で、酒癖が悪くなっているディーガルにも怯むことはなく、落ち着いた物腰で説得する。


「仕事の片手間に聞いていましたが、世の中そんなものですよ。意地の張り合いが始まったのは、昨日今日あったことではないんですよ」


「そんなこたあ、わかってる。でも……それでも許せらいんだ。生まれや育ちだけで……俺の周りを否定されるのは……」


 その言葉にハボルドも給仕の娘もハッとなると、娘はにこりと笑った。


 この人は他人を傷つけられることに、しっかりと痛みを感じられる人なのだと。


「……お優しいのですね」


「そうだ。孤児院のみんらも先生も優しい人だかりらったんだ……。それをあのグズ共はぁ……!」


 ディーガルのことを言ったはずなのだが、酔いがいい具合に回っているようで、抱える不満を次々と垂れ流していくと、その給仕はこれまた手慣れた様子で「はい、はい」と相槌を打ちながら、他のテーブルを相手取る。


「大したもんだな、あんた。名前は?」


 そのあまりにも敏腕な働きぶりに、ポカンと感心しながら尋ねるハボルド。


「サリアって言います。酔っ払いの相手なんてお手の物です。……彼にお伝え下さい。また愚痴を零しに来て下さいと」


 この酔い方だと記憶は飛んでいるでしょうと、軽く微笑んで営業宣伝をした。


 ――この後、ハボルドが運び出し、翌日には真面目なディーガルがペコペコとサリアへと頭を下げに行ったのだった。


「――き、昨日は申し訳なかった。なんとお詫びをすれば……」


「そんな風に謝りに来られたのは貴方が初めてですよ。酔いの回ったお客さんを相手するのは、酒場の娘の仕事です。お気になさらず……」


 場数は踏んでいるのだと、特に気にも留めなかったと返答。


「それにあんなのはまだ軽い方ですよ。あれより酷い人なんていくらでも相手にしてきましまから……」


「そ、そうですか。は、はは……」


 酒に酔って記憶が曖昧だったディーガルとしては、これが初めての出逢いであった。


 その後、ディーガルは謝罪の意味も込めて、通える日は毎日のように通り、二人の関係は始まった。


 騎士になりたての自分の給金にとっては安い価格帯。程よく胃袋をそそる料理の数々。小さな酒場ということもあり、堅苦しい雰囲気など全く無い酒場の空気。


 酔うには十分な空間の中、こんな自分が本音をぶつけた給仕サリアがいるお店。


 ディーガルはいつしか足繁く通い詰め、彼女に話を聞いてもらうことが楽しくなっていた。


 そしてそんな彼女の話を聞くことも。


 サリアはこの小さな酒場の娘。


 小さい頃から厨房に立つ父の背中を見て育ち、亡き母の代わりにと小さい頃から店に立つ看板娘。


 孤児である自分からすれば、その家族というかたちは理解が難しいところではあったが、並々ならぬ苦労があったことは(うかが)い知れる。


 そんな彼女に支えられながらも、コツコツと実績を積み、とある大取りをきっかけに、貴族の地位を与えられたのだった。


 その報告を最後に今度は仕事が忙しくなり、酒場へと顔を出さずにいた。


 自分が文句を言っていた貴族の苦労を噛み締める。


 立場からなる仕事の責任や振る舞い。そんな中でも鍛錬は疎かにするわけにもいかず、訓練に励み、身を固めるべきだと縁談の話まで沸いてきた。


 自分を貶してきた貴族達は、その誇りと矜持を持っていなかったように思うが、ハボルドの言い分には理解ができた。


 あいつは口々に、貴族には貴族の苦労があると話していたし、サリアもそう語っていた。


『自分が知らない世界なんていくつもあるものよ。知らないのに否定することは、とてもつまらないわ』


 そう言ってサリアはこの酒場で、色んな話を色んな人間から聞いた。


 そんな彼女から与えられるものはあまりに刺激的で、かつその器量には惹かれるものがあり、縁談を持ちかける貴族嬢など元々目も暮れなかった。


 自分が知らない世界を教えてくれた通り、自分にも教えられることがあるのではないか。


 彼女とならば先の見えない未来も明るく照らしてくれるのではないかと考えた。


 自分が知らない、遠くから見ているだけだった家族(けしき)


 気付けば彼女に求婚していた。それはサリアと築けていけないだろうかと、もう心が勝手に決めていた行動そのものだった――。


 そして――自分が望む家族(けしき)を見ることができた。


 物心がついた頃には、隣にいたのは小汚い同胞と優しい孤児院の管理人。


 でも今では最愛の妻と娘を隣に、未来を見据えることができる。


 暖かく見守ってくれることがこんなにも嬉しいことなんだと、守ってやりたいと思うことがこんなにも自分に力を与えるものなのかと、毎日が楽しくてしょうがなかった。


 こんな幸せがずっと続くものだと考えていた。


 世界が残酷なものだということが、孤児であった自分ならわかっていたことだろうに……。


 自分の新な転機の時――。


「あ、ああっ……!!」


 周りの貴婦人も亡くなり、死体が収容された教会で彼もまた一人、嘆きの声を張り上げた。


「――ぁあぁああああーっ!!!!」


 最愛の妻と娘の死は、彼の心の傷をえぐり、大きく裂けていくのは、周りから見ても一目瞭然であった。


 ハボルドもまたかける言葉が見つからず、その悲しみに少しでも目を背けるように仕事に打ち込む姿は痛々しかった。


 貴族となった時にもらった屋敷内はあまりにも閑散としており、まるでモノクロ調の景色が広がっている。


 使用人の声も通り過ぎるだけで、その後の沈黙の方が耳障りだと感じるほどだった。


 サリアとエリアから与えられた日常という背景がどれだけ華やかであったかと、この与えられた屋敷は物語る。


 満ちていたからこその絶望の黒は、簡単にディーガルを染めていった。


 そして――出逢った。


『あんた、妻と娘にもう一度会いたくはないかい?』


 黒ずんだ心の中に歪んだ希望が芽生えた。


 その種は簡単に成長し、ディーガルの心に根深く生えてはからみつく。


 アミダエルに唆されたのだ。妻と娘の蘇生、亜人達への復讐。


 それだけを生き甲斐とするしかなく、アポロスを利用し、この国を変えていった。


 復讐という憎悪に燃え、死者の蘇生などという微かな希望を信じて。


 ***


 そして――現実はこうであったと語られた。


 目の前には開き直るように、事を吐き捨てるマルチエスに、自分を同情するかのように見る王女殿下が投影されている。


「私の人生は……何だったのだ」


「ディーガル……」


 そんな絶望の中で、ハッと思い出すことがある。


「レイチェル様! つ、妻は!? 娘は!? アミダエル殿に蘇生していただいた、私の家族は!?」


「蘇生……? それはどういうことです?」


 思い当たる節はないが、アミダエルの蘇生と聞いて、嫌な予感しか(よぎ)らなかった。


「今、騎士隊がアミダエルの研究施設へと乗り込んでいます。おそらくそこで発見されるでしょうが、それは本当に貴方のご家族なのですか?」


「そ、そうだ。あれは私の……」


 自分が見た最後の妻と娘は、片言の会話と感情が宿っていない薄っぺらな表情。


 そしてアレはアミダエルが完成途中であると語っていたことが、脳裏を走る。


「あ、ああ……」


 アミダエルは殺されたと聞き、今騎士隊が潜入していると聞いた。


「ああああ……」


 まだ魂の安定はされてないと聞いた。それを騎士隊が見つければどのような処理が行われるかは、絶望の淵に立たされているディーガルが悪い方へ考えが浮かぶことは誰もが予想がついた。


 様相が変わっていく様に周りは落ち着くよう、促しにいくが、


「お、落ち着い――」


「ぁああああーっ!!!!」


 ディーガルの背中から黒い人型の腕が無数に突き破って出てくると、激しい形相で目を見開き、血走っている。


「ひ、ひいい!?」


「――下がって!」


 アルビオとシドニエは俺を庇うように前に出るが、


「フン。仕留めればよかろう!」


「駄目! 獣神王!?」


 俺の呼びかけにビタっと止まってくれた。


「な、なんじゃ!?」


 ――わけではなかった。


 獣神王の足をガシッと妖精王が掴む。


「ぬ、主……死んでおらんかったのか!?」


「オアアアアッ!!」


 頭を貫かれたはずの妖精王が狂ったかのように叫びながら、側にいた獣神王を捕まえる。


 よく見れば失った下半身の代わりの触手のような蔓が地面に根付いているところが見えた。


 しつこいと妖精王を引き剥がそうと抵抗するが、びくともしない。


「……私の全てをもう誰にも奪わせるものかあ!!」


 ディーガルは無数の腕に、自分の槍と死して倒れた部下達の槍を装備した。


 その異様な姿にマルチエスは完全に腰を抜かしている。


「ば、化け物!?」


「死ね、マルチエス!」


「――なっ!? やめ――」


 ドスンと妖精王の時のように槍を投げつけると、人間の頭は妖精王と違い、小さいため頭は、ぐちゃっと潰されて粉砕された。


「くそっ!」


 止めようとした俺達の声が届くはずもなく、マルチエスに対する復讐を終えるも、こちらをジロリと見てくる。


「お前達……アミダエル殿を殺したと言ったな。妻は……娘はあ! まだ完全ではなかったというのにぃ!!」


 ディーガルの身体は更に脈打つと、不安と怒りが表されていくように、身体を変質させていく。


 その姿は真っ黒な阿修羅。


 八本の腕には三本の槍を装備し、紅い瞳と化け物のように裂けた口で叫び狂う。


「これは……!」


「おそらくですけど、アミダエルの実験体にされていたのでは? ほら妖精王にやられたって聞いてたのに、すぐに目の前に現れたじゃないですか」


 眠っていたアルビオはわかっていない様子でシドニエと俺に確認の視線を送る。


「そうだね。あの時のかも……ってことは、ノートも!?」


 するとレイチェルと一緒にいるサニラ達が答えた。


「そのノートって奴、半分魔物みたいになって殺されたわ。クルシアの仲間っていう兎の獣人にね」


「兎の獣人ってことは……」


 リュエルか。おそらく亜人種を不利にさせるための要員としてぶち込んだ節があるな。


「そいつは――」


「リリアさん!!」


 話に夢中になっていた隙だらけの俺をシドニエは守ってくれた。


 ディーガルの槍を木刀で受け止めるという、本来ならあり得ない光景である。


 それだけシドニエと魔法樹の木刀の浸透率が高いのだろう。


「貴様らは殺す! もう英雄などいらぬ! 私に必要なのは――私の家族だけだっ!!」


 ヒュンヒュンと三本の槍を巧みに操り、激しい猛攻を繰り広げる。


 シドニエはいくら魔力で強化された木刀とはいえ、鋼の槍を受け続けるわけにもいかず、回避行動をとりつつ捌いていたが、


「ぐっうあっ!!」


「シドっ!!」


 三本の槍捌きはあまりの妙技過ぎて、シドニエは肩を掠め、出血する。


 突き、払い、押す、斬るが一本の木刀とは違い、三本の槍はシドニエの隙を的確に突いてきた。


「世界は残酷なばかりで変えようもない愚かな世界。変えられぬのなら、もう全てを殺し、妻と娘とで静かな世界へと()くだけよ!」


 肩を押さえるシドニエに槍が振りかざされる。


「させません!」


 アルビオはフィンの剣で跳ね除けると、シドニエから距離を取らせ、戦闘を繰り広げる。


「リリアさん!」


「わかってる! シド、大丈夫?」


「は、はい」


 俺がポーションを与えている間に、アルビオと映像のレイチェルは説得を試みる。


「ディーガルさん! 確かにこの世界は残酷かもしれない。貴方の大切な人を奪った愚かしい世界かもしれない。けど貴方のそんな姿を家族は望んでいなかったはずだ!」


「ディーガル! 貴方のやってきた行いを許すわけにはいきません。家族という大切なものを知りながら、亜人種の家族を奪ってきた罪を。しかし、貴方はアミダエルという方よりも誠実な方だということは私も知っています! どうかこれ以上の罪を重ねないで!」


「――黙れ!! そんなありふれた問答などお!!」


「――ぐあっ!!」


 魔力を増幅させてアルビオを吹き飛ばす。


「私をこんな姿に……運命へと導いたのは貴様らではないか!! 望んでいなかった? 罪を重ねるなだと! 私だってしたくてやっているわけではない! 私だって……あのまま幸せに暮らせていれば、このような姿も、サリア達を悲しませることも、罪を重ねることもなかった……」


 今は無き幸せに(すが)りつくように語る。


 ディーガルも立派な被害者であった。


 子供の頃からの努力が実り、貴族となり、最愛の妻を迎え、子宝にも恵まれた。


 孤児であったディーガルにとって、その家族の暖かさはかけがえのないものだった。


 将来、得られることのない未来だろうと、遠くから見ていた景色を手に入れることができたことに、これほどの喜びがあったであろうか。


 だからこそ失った衝撃は重く、心に錆びつくように剥がれない。


 その心にこびりついた錆は、もう一生離れることはない。


「もう既に! 全て手遅れなのだ! 私の幸せはもう……アミダエル殿が蘇生してくれた妻達しかいないのだ……。奪わせはしない! たとえ妻達が私のような化け物であったとしても!!」


「ディーガル……! 貴方という人は……」


「レイチェル様。もう何を言っても無駄みたいです」


「そんな……」


 この人を癒す言葉を俺達は持ち合わせていない。


 人生経験がまだまだな俺達に、この人を説得できる言葉は存在しない。


 悲しみと憎悪に身を堕とし、化け物になっても愛すると言ったこの男にしてやれることは一つ。


「なら貴方を殺して止めるまで! しっかりあんたのこと、この胸に刻んでやるからかかってこい!」


 俺の言葉に同意したのか、アルビオとシドニエも覚悟を決めたように無言で頷き、武器を構える。


「よかろう。かかって――」


 ズズンっと激しく地面が揺れ動く。


「な、なに!?」


 辺りを見渡すと、獣神王が妖精王の蔓と戦っている姿があった。


「ええいっ! そっちで勝手に盛り上がるでない。こっちも大変なのだぞ」


 そう愚痴を零す獣神王の先には、上半身だけの妖精王が天に昇るように触手がメキメキと成長し、朝日を(あお)ぐ。


「オ、オオ……」


 バキバキバキと木々がへし折れる音と、大地が崩壊していく音が鳴り響く。


「これ以上は危険です! 一旦離れましょう!」


 俺達は乗ってきたアイシアのドラゴン達に乗ると、その場を離れた。


「だ、大丈夫?」


「ああ、はい。そちらも大丈夫ですか?」


 ポチに乗ったアイシアとリュッカの後ろには、ドラゴン達の群れが。


 そこには無事だったディーガル達の部下もいたようで、


「魔物はあらかた片付いたけど、アレは何?」


 アイシアが指差すところには妖精王。


「あいつが妖精王だ。今はただの化け物だがな……」


 そしてグリーンフィール平原の大地がどんどん崩壊していくが、妖精王が形成した樹海の部分だけが盛り上がってくる。


「な、何を……!?」


「あ、あわわ……」


 シドニエが何かに気付いた様子で、慌て始める。


「どうしたの?」


「こ、この形……」


 恐る恐る指を差すシドニエに合わせて見てみると、


「これって!」


 その樹海は人型の姿に形成されていたのだ。


「妖精王が樹海を作ったのは、地脈を取り込むために根っこを伸ばしていたからなのか!?」


 妖精王は魔力の循環を良くするために、巨人化したと聞いていたアルビオは、更なる巨人となるためにこの平原を利用したのだと考えた。


 その予感は的中したようで――、


「オオオオオオオオオオオオッ!!!!」


 何時ぞやのルーンゴーレムなど比ではないほどの巨人が目の前に現れた。


 人型にめくり上がった大地もとんでもない大穴となり、樹海にて眠っていたマルチエス達の死体も起き上がった拍子に地面へと落ちていく。


「あ、あの馬鹿者。どこまで堕ちるつもりじゃ」


「幼馴染なんでしょ? せ、説得できない?」


「できるなら、しとるわ! たわけ!」


 まるで巨人の城である。あの落下した天空城ですら可愛く見えてくるレベルの大きさ。


 町など足踏み一つで消し飛ばしてしまいそうな巨人。


 その樹海の影からディーガルの姿があった。


「ディーガル!?」


「化け物は死ね!!」


 ディーガルが思いっきり飛び出ている妖精王目掛けて、槍を投げつけるも、木の根が阻む。


 すると先程の貫かれた恨みからか、激怒して叫ぶと次々とゴーレムの身体から木の根が生え出てきて、襲いかかる。


「ディーガル! くそぉ!」


 このままじゃ、ディーガルはやられてしまう。


 垂直となった地面から生えている木々に乗り移りながら(かわ)すディーガルを見ながら、このゴーレムを何とかする方法を考える。


「こんな結末は望んでない。フィン! 精霊達の力を結集すれば薙ぎ倒せる?」


「無茶言うな! 確かに俺達の全力込めりゃあ、何とかなるかもしれないが、お前の身が保たねえだろ?」


 とはいえ、あれほどの巨体が一度倒れるほどの衝撃を与えれば、起き上がることは難しいダメージを負う事も違いない。


 だからと言って、最上級魔法を使ったとしても倒せる気がまったくしない。


「ねえ! ホワイトちゃん達はどう?」


「期待に応えたいのは山々ですが、体格差があり過ぎます。息吹(ブレス)でもまったく歯が立たないかと……」


「だとすると方法は、妖精王本体を叩くことですが……」


 その本体とディーガルの戦いが繰り広げられているが、妖精王はゴーレムと一体となっているせいもあって、万全な体制。


 ディーガルが飛び移り続けている木々すらも操り、優位に事を進めている。


「魔人マンドラゴラの時みたいなお化け大樹みたいだね」


 あの時とは違い、魔石は妖精王本体。身体はあの大樹の比でもない。


 アルビオはあの時のような方法は難しいと食いしばる。


「でも何もしないよりは……」


「待つのじゃ! 娘が何やら提案があるようじゃぞ」


 そう言うと獣神王は人工魔石を差し出す。


「先程、大臣から聞き出しました。どうやら過激派の者達が作らせていた魔導兵器があるようです」


「魔導兵器!?」


 生物兵器といい、魔導兵器といい、この国は本当に物騒だ。


「ヴァルハイツの地下にあるそうなので、それでそのゴーレムを撃ち倒します。詳しい話はそれを見つけ次第、連絡致します」


「わかりました。僕らは少しでもこれを人里に近づけぬよう、誘導します!」


 プラントウッドでの教訓を生かし、俺達総員でかかる。


「行こう!」

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