表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
8章 ヴァルハイツ王国 〜仕組まれたパーティーと禁じられた手札〜
419/487

24 語られる真実


――グリーンフィール平原。


名の通り美しい爽やかな緑の平原が広がり、殺風景でありながらも空の青さを全身で感じることができる心地良い平原。


南大陸の気候と魔力の影響で出来たとされるこの平原地帯は、ある者の暴走により激変する。


天空城が落下した地点を中心に、森が形成されていたのだが、自然を司る妖精王の影響はそれだけに留まらない。


その樹海が侵食した影響により、環境バランスも崩れ、地形環境が変化。


挙句、クルシアの人工魔石による過度な細胞変化の影響を受けた妖精王の性質も悪質なものとなり、その負の念から凶暴な魔物も出現するなど、迎撃に向かったディーガル達は苦戦を強いる形となった。


そんな妖精王が作り出した樹海を、マルチエスは複数人の部下を引き連れ、不機嫌オーラ全開で散策する。


「不快だ、不快だ。嗚呼、不快だ……」


こんな予定ではなかったとぶつぶつと文句を垂れ流しながら、はぐれたディーガルを捜索する。


「マ、マルチエス様……」


「ああ?」


「そ、そろそろ夜が明けますね。向こうも捜索――」


「お前らは黙って探せ。これ以上耳障りなことを口にするな」


部下達はこの状況を酷く呪う。


マルチエスは元々この妖精王の森から距離を置いたところで指揮をとり、人工魔石でディーガルとの連携を図り、対応するつもりだったのだが、思いの外、森の進行は早く、即席の作戦本部はあっさりと飲み込まれた。


その後、ディーガルとの連絡は取れずにいた。


原因は破損、もしくは暴走した妖精王による魔力の汚染からくる阻害の可能性が高い。


そのため渋々捜索する羽目になったわけだが、上手く事が運ばないと激怒する彼に部下達はハラハラ。


ずっと不機嫌で自分達の後ろから視線とそのオーラが刺さるのは、結構(こた)える。


部下達からすれば、せめて何かしらの会話があれば、この空気の中でもマシにはなるはずだが、取り付く島もない。


「チッ! くそっ、くそっ! こんなはずじゃなかったのに……」


指の爪を噛みながら苛立ちを露わにする。


妖精王との戦闘はディーガルが戦闘した情報から長期戦は無理だと判断。予定では短期決戦での作戦概要だったのだが、妖精王の樹海が想像以上だった。


用意していた対妖精王用の魔法術式を詠唱させていた魔法使いの部隊も分断されてしまい、マルチエスの指示が届かない状況。


たとえ撃てたとしてもこの樹海の木々に威力を呑まれてしまうことだろう。


その部隊はおそらくディーガルと一緒にいるはずだが、どうにもならない。


しかも短期戦を想定していたせいか、食糧物資などは少量である。


連れてきた騎士達の消耗も激しく、この樹海の中を警戒しながら仲間を探すのは過度なストレスとなる。


とはいえ、先に痺れを切らしたのがマルチエスということだが、それは性格上である。


部下達は反面教師的な感覚で冷静でいられることから、色んな意味では優秀な指揮官である。


すると奥の方から戦闘音が響いてきた。


「マルチエス様っ! 向こうで交戦している模様です」


「ディーガル――んんっ! ディーガル様か?」


「わかりません。確認して参ります」


一人の騎士が慎重にその現場へと向かった時――、


「あびゃ!?」


その騎士が何かに引かれ、ぐしゃっという生々しい音と共に姿が消えた。


すると、


「マルチエスか!? 下がれ! 妖精王が暴れている!」


数百メートル先で叫ぶディーガルにハッとなり、ガサガサと動き回るものを目で追いかけた。


「――オ、オオ? オオオオオオッ!!」


そこには上半身だけで這いずり回り、先程の騎士を口に含んでしゃぶる妖精王の姿があった。


ディーガルの側には対妖精王用の魔法部隊の死体が血を大量に流して倒れているのが確認できる。


おそらく下半身だけ破壊に成功したのだろうが、妖精王が怯むことはなかったようだ。


その千切れたお腹からは触手が、内臓の腸のようにズルズルと引きずられ、器用に両腕だけで走り回る異様な光景に、ホラー要素しか考えれないマルチエス達は、その勢いのまま突っ込んでくる妖精王から逃げる。


「な、なんなんだよ! 一体何が……」

「ひ、ひいい!? 助け――」


マルチエスについてきていた騎士も妖精王に引かれ、マルチエスは何とか(かわ)したが、酷く息を切らす。


「くそっ! 化け物めえっ!! こんなはずじゃなかったんだ!」


こちらへ向かう妖精王に文句を吐き捨てても答えはしない。


そう吐き捨てたせいか、これまでの行いが走馬灯のように流れてきたマルチエスは身を守るために防御姿勢を取る。


するとドカンっと衝突音が聞こえた。


「だ、大丈夫か? マルチエス……」


「ディーガル様……ひ、ひいい」


ディーガルが妖精王を押さえて庇いに入ったのだ。


マルチエスは腰を軽く抜かしたのか、腰を低くして逃げ出す。


「この化け物が! 魔物の子の親玉というだけはある! もう二度と……二度と奪わせるものかあっ!」


力強く押して払い除けると妖精王はバランスを崩し、後ろにのけぞる。


その顔面に向かって――、


「むん!」


手に持っていた愛用の槍を投げつける。


「――オアアアアッ!!?」


妖精王は頭に刺さった長槍に痛み、苦しむと、そのまま倒れ込んだ。


消沈したのかを恐る恐る確認しながら、側に寄り、槍を引き抜いた。


「お、終わったのですか? ディーガル様」


「ああ。おそらくな。しかし、ほとんどの部下を殺されてしまった……」


辺りにいる部下達は全滅。それにこの樹海ではぐれた者達も無事でいるかは不明である。


「状況の確認がしたい。マルチエス、すぐに部下を招集しよう。とりあえず出口だ」


「……わかりました。時にディーガル様?」


「なんだ?」


「今回はエルフに粛清を与えましたが、次回は獣人共ですよね?」


「愚問だな。当然だろう」


そう発言するディーガルの瞳にはしっかりと憎しみが宿っていた。


マルチエスは思わず頬を緩ませると、上から何やら沢山の魔物の気配を感じた。


「な、なんだ!?」


そう見上げると、数匹の龍がディーガル達の目の前に現れると、その乗り手達が姿を見せる。


「……貴方達は……」


「どうも。ディーガル将軍閣下様」


「黒炎の魔術師……! それに勇者様」


俺やアルビオの姿に思わず驚くも、妖精王へと駆け寄る銀髪の獣人に目が入った。


「愚かよのぉ。このような姿に成り果ておって……」


妖精王の変わり果てた姿には、さすがに堪えた獣神王は涙を流す。


「色々と訊きたいことはありますが、勇者様。貴方様はやはり亜人共の味方をするのですね」


「ええ。僕はケースケ・タナカが見たかった未来を信じます」


その発言に不快感を覚えたのは、ディーガルだけではなく、側にいたマルチエスもそうだった。


「勇者様が描きたかった未来? ふざけないで頂きたい、勇者様。コイツらは魔物、魔物は殺す。これは世の真理ですよ」


「ふざけるなはこちらのセリフです。アミダエルを使い、人を魔物にする貴方達の方が余程魔物らしいですよ」


二人はハッとする。


「あれだけ関わるなと言ったのに……」


「ごめんなさいね。元々殿下とここへ赴いた理由は、そのアミダエルが目的だったの。言ったよね?」


確かに聞いてはいたがと、ここ最近の出来事に振り回されたことに酷く後悔する。


するとマルチエスはあることに気付いた。


「待て。あのアミダエルがタダでお前達を通すわけがない! アミダエルはどうした!?」


マルチエスはあの地下道を建設に関わった人物の一人だ。アミダエルのことについても知っていることからの発言。


「僕が殺しました」


「なっ!?」


「それともう一つご報告が。アミダエルが貴方の名を口にして城下町を暴れてくれたお陰で国民の疑心を(あお)ぎ、レイチェル王女殿下様がヴァルハイツの実権を握ろうと、たった今、アポロス国王陛下の身柄を確保致しましたよ。ディーガルさん」


「……!」

「な、何だと……!」


マルチエスは緊急事態とはいえ迂闊だったと顔を(しか)める。


「くそっ! オールドの奴……! あれほどハイネを見張れと……」


「ついでに言うとオールドはあんた達を裏切って、協力してくれたよ」


「なに!?」


「……全部踊らされていたんですよ。ある一人の男に……」


アルビオは悔しそうにそう呟いた。


この怒りをどこにぶつけようかと叫び狂うマルチエスに対し、ディーガルはそのクーデターを聞いても冷静である。


「私が間違っていると言いたげですな」


「言いたげじゃなくて、そう言ってるの」


「私は何も間違っていない。エルフ共を絶滅させることも、アミダエル殿を雇い入れたことも、全てはこの国のため……」


「それは人を魔物にすることも正しいって? 亜人種を魔物と(ののし)りながはも、それは正しいと押し通すの!? 言ってることめちゃくちゃだって自覚はある?」


「亜人種共は魔物の分際で使役できないが、魔物にした者達は使役できる。管理できるとできないでは違いがある。事実、何やら大量の召喚魔がいるようだが、人間が管理できれば良いのだ」


辺りの気配に気付いたようで、アイシアが召喚したドラゴン達でこの妖精王の樹海にて生まれた魔物達を撃退している。


「主、イカれておるのぉ。娘が頭を悩ませるわけじゃ」


「――喋るな、ケダモノぉ!! 蕁麻疹(じんましん)が出るだろう――がぁ!?」


イラッときたのか、そう発言するマルチエスの土手っ腹を殴る。


「おおー、おおー。いきりおるは小僧如きが。舐めるなよ」


「――ぶげえ!?」


サッカーボールのようにマルチエスを蹴り飛ばす。


「貴様……」


「そう睨むでない。確かに主の言う通り、獣人もエルフも我らの子孫ではある」


「「「!?」」」


アミダエルの研究から、そうではあると聞いてはいたが、獣神王本人からそう口にされると驚愕する。


その発言から、この娘が獣神王だと判断すると、自分が正しかったことを改めて口にする。


「やはり私は正しかったのではないか! 貴様がアミダエル殿の言っていた原初の魔人、獣神王――」


「何を言うか。獣人もエルフも半分は人間の血じゃ」


「!?」


「に、人間……?」


俺はこんな幼女から子供が産まれたのかと思うと、ゾッとしない。


顔を引き攣らせていたのを目撃すると、


「そのような顔をするな。元は魔物じゃ、多少の無理も効く」


「いや、そうでなくて……」


「む? まあこの容姿で孕むのはちょっとな。だが昔は人間の常識もしっかり歪んでおったのだ。気にすることではない」


原初の魔人が人格を持った時代も大昔の話だろう。


エルフも妖精王からとなると魔法がなかった、もしくは精霊達が奇跡を起こしていた時代と考えられる。


魔人と知らずに抱いたのか、人型の魔物から人が生まれるのか、はたまた龍神王のように人間との愛に目覚めたのか定かではないが、当時はなんでもやってみる時代ではあったのだろう。


現実世界(むこう)の歴史も、切腹、鞭打ち、水責め、拷問器具、処刑器具、魔女裁判など、今では考えられない人間の怖さがあるのだ。


異世界にはないという道理はない。


「まあともかくじゃ。ワシは獣人を産んで後悔はしておらん。その派生で生まれ、滅びた人種共には申し訳ないが、それも運命(さだめ)よ。人の血が入っておるのだ、主の筋は通らん」


「黙れ、化け物。魔物の血を持つ人間など認められるか」


「……あんたさ、めちゃくちゃ言ってることに気がついてる?」


人間を化け物にするのは正しくて、元から人間のハーフとして生まれた獣人やエルフは認めないってめちゃくちゃだ、コイツ。


「私は正しいことしか言っていない。そう……亜人種共は間違った存在なのだ! 奴らさえ存在していなければ……」


「……ご家族のことですか?」


シドニエがポツリと尋ねると、ディーガルはハッと見る。


まあそうだろうなと俺も(よぎ)ってはいたが、獣神王はくだらんと首を横に、呆れた様子で振る。


「頑なに認めぬと思えば、その程度のことか」


「何だと……!」


「主とて同じことをしているではないか。化け物に変えられ、命絶たれた者達にも家族はおったろう? 大切な者はおったろう? 主の家族も同じように奪われれば、悲しみに暮れよう。なれば……」


「化け物に家族という繋がりはない!」


「それは主の価値観じゃ。人に押し付ける価値観を持つなら、こちらの価値観も押し付けられてもらわねば、道理が通らぬ。主の言っておることは、家族を持たぬワシでも間違うっておることがわかる」


魔物である獣神王ではあるが、伊達に長年生きてはいないようで、貫禄の説得を試みる。


「家族を失う気持ちは辛いとは思うよ」


俺は知ってる。生きているとわかっていても二度と会えないという事実を。


「だからってそれをわからせるために、自分と同じ苦しみを与えるためだけに生きてちゃ、死んでいった家族が気が気じゃないでしょ?」


「そうです。貴方は憎しみに囚われているだけだ。それはダークエルフに殺された貴方のご家族の望むところではない」


その話をお腹の痛みに苦しみながら立ち上がるマルチエスが反論する。


「ディーガル様はその悲劇をこれからも生まぬよう、この国を管理しているだけのこと。あんな穢れた人型の魔物に人権などない!」


コイツはコイツで酷い嫌悪感を示してるな。


すると獣神王が何かに気付いた。


「む?」


獣神王が首から下げている魔石が点滅している。


「お、おい。これはなんじゃ? 娘に渡されたのだが……」


獣神王が娘で渡されたとなるとレイチェルだろうか。


つか、名前で呼べよ。


おそらくはレイチェルの呼び出しだろうと、俺はその人工魔石を起動させると、レイチェルの姿が投影された。


「繋がりまし……ディーガル!」


「……お久しぶりです、レイチェル様。此度は随分なことをなされたようで……」


その言葉に敬意は込められておらず、明らかな敵意を剥き出すような物言い。


「ええ、それはもう。もう貴方の好きにはさせません。この通り、父上達も確保致しました」


その映像に映るアポロスとロピスは縄で縛られており、肉が食い込んでいる。


本物のボンレスハム親子を見た!


「ディ、ディーガル! 早く私を助けに来い!!」


「そうだぞ、無能! レイチェルにいいようされやがって……」


「お黙りなさい! 私を追放しているならば、お二人がこの国をしっかり統治しなくてどうします! それをディーガルの言うことだけを聞くお飾り人形に成り下がったのは貴方達でしょう!? 恥を知りなさい!」


アポロスは愛している娘に、ロピスは見下していた妹に説教をされてしゅんと落ち込む。


「ディーガル。貴方の好きにと言いましたが、正確には違うようです」


「……なに?」


「そうですよね? マルチエス」


レイチェルの鋭い目付きはマルチエスを捕らえた。


「ははっ! 何のことだか理解に苦しみますよ、王女殿下。私が何か?」


マルチエスは小馬鹿にするように誤魔化してみせるが、


「ディーガルのご家族を殺したのは、ダークエルフではなかったのですよ」


「!?」

「な、何だと!?」


衝撃の一言に俺達もマルチエスに視線を集めた。


若干狼狽えてはいるが、笑い話だと笑う。


「どんなご冗談を口にされるかと思えば、虚言を……」


「貴方が潔癖な性格であることも野心家であることも承知しております」


すると一人の男がレイチェルの隣に現れた。


その男を見て、マルチエスの表情が変わった。


「おや? この方のことをお解りですか?」


「な、何のことで……?」


「お忘れになられた? ならば思い出させてあげましょう」


その男の正体は、当時ダークエルフの仕業だと証言していた新米騎士だった。


レイチェルはディーガルの事件について語り始める。


社交会に赴いた襲撃者の犯人は、マルチエスを筆頭とする亜人種を毛嫌う貴族騎士達の仕業であった。


――当時のヴァルハイツは亜人種に対し、穏健派と過激派でのバランスが取れていた。


その過激派のマルチエスは、亜人種を認めようとする動きをなんとしても破壊したかった。


そこで目をつけたのが、目覚ましい活躍と人望に溢れたディーガルであった。


当時の彼は亜人種に対しての嫌悪感はなく、模範となる騎士そのものであり、結婚をし、子供もできたことから、順風満帆な人生をしていた。


マルチエスが浮かんだのは、ディーガルがコツコツと積み上げてきた幸せという積み木の城を壊すことだった。


幸せの絶頂から絶望の淵まで叩き落とせば、否応にでも亜人種に対する憎悪に染まってくれると。


そして実行の時。


ダークエルフに扮した貴族騎士達はその馬車達を襲撃し、根回ししておいた新米騎士をある程度痛めつけると、まるで自分達が駆けつけたかのように振る舞い、報告した。


新米騎士は貴族でも位の低い家系であったこともあり、素直にその指示に従った。


そしてマルチエスの望んだ通り、ディーガルは深い絶望と憎悪の闇に堕ち、更にそれに目をつけたアミダエルさえも手に入れた。


そしてそんなディーガルの心の隙をつくのなど容易いと過激派のマルチエスは、亜人種を不利に働く政策を提示。


すんなりと受け入れられた。


亜人種の奴隷化の強化、亜人種を庇い立てする者達への厳しい罰則、地下道の制作、亜人種の死罪という名のアミダエル実験室への案内。


マルチエスは二人に従いながらも、自分の望み通りの国へと変わっていくのが心地良かったのではないかと語る。


だがその後、次々とその貴族騎士がいなくなっていると聞くや、その新米騎士は他国へと逃げていたのだという。


おそらく口封じにアミダエルの実験体にされたのだろう。


適当な罪状でもつけて――。


「――そして彼をようやく見つけ出せました。ハイネや私の部下には苦労をかけました」


「元々調べてたの?」


「ええ。一時期の失踪記録に違和感を感じまして、こっそりと調べていたのです。何せ、過激派が行方不明になっているのです。下手な動きは身を滅ぼします」


悔しそうにレイチェルを睨むマルチエスに、ディーガルが激昂を飛ばす。


「――どうなのだ!! マルチエス!!」


「フ、フフフ……ハッハッハッ!!」


開き直ったかのように笑い出すと、酷く目付きを悪くして語る。


「そうだよ、間抜け! そうさ! 全ては私が仕組んだこと。お前、目障りだったんだよ!」


「貴様……!」


「そもそも不快だったのだ! あんな汚くて臭い生き物共が町中を歩いている時点で! だが活動を続けていても埒が明かなかったから、強行したまでよ! そしたらなんだ? アミダエルなんて化け物までついて来やがった!」


「だから口封じに使った」


「そうだよ。何せエルフの仕業にするよう、偽装の指示までしていたんだ。変に脅されても困るし、丁度良かった。でも、でもなあ!!」


ギッと当時新米騎士だった彼を睨む。


「この臆病者が逃げ出したと聞いて焦ったし、探し続けてたのによお!! どこで何してやがった!!」


おずおずとする彼の服装を見るに旅商人にでもなったのではないだろうか。


「……彼は冒険者専用の商人になっていたようですよ。その方が居場所の特定が難しく、身の安全も確保できますしね」


それに冒険者は常に情報を集めているだろうから、動向の把握も容易、信頼を得られれば裏切られることもない。


冒険者側からしても優遇してくれる商人は重宝できるわけだから、一蓮托生である。


「臆病なりの知恵ってやつだね。……この分だとレイチェル様を遠ざける指示を促したのもあんたなんだろ? 目の届く範囲に置いておくべきだったね」


「く、くそがあ!!」


悔しそうに激昂するマルチエスだが、ディーガルもまたその沸点はとっくに超えている。


「貴様のそのような……」


「黙れ! 馬鹿が! 穢れない美しい世界を作るためならば、他の者をどう利用しようが勝手だ! それに良い思いもしただろ? ご機嫌だなぁ!」


「――いい加減にしろっ!!」


俺は堪らず怒号を上げた。


「穢れない世界だあ? ふざけるのも大概にしろ! てめえのその薄汚れた根性で美しい世界なんて作れるか! ドロドロに汚れた雑巾で床拭いたって汚れるだけだろうが! お前はそのボロ雑巾だよ! この腐れメガネ!」


「何だと!!」


「そうです! リリアさんの言う通りです!」


俺の怒号に怯む一同だったが、シドニエはそんなところへ割り込む。


「僕は地下道で怯え震える亜人の方々を見ました。あんなことを押し付ける貴方に思いやりも感じなければ、優しさも感じられない。外見しか見られない貴方に美しさを語る権利すらありません!」


「こ、このガキぃ……」


誰がどう聞いても的を射抜いていると、ため息を吐くとレイチェルは問う。


「ディーガル、これが答えです。わかって頂けましたか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ