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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
8章 ヴァルハイツ王国 〜仕組まれたパーティーと禁じられた手札〜
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21 変わる未来のために

 

 アミダエルの解き放った出来損ない達は、城下町を彷徨(さまよ)う。


 人型でありながら、ヘドロのような身体や別の肉片をくっつけたものまで、バリエーションに飛んだ生物兵器(クリーチャー)が徘徊する。


 その光景とその化け物のリーダー的存在であるアミダエルが口にした言葉は、国民達の不安を大いに(あお)るものであった。


 国王の側近であるディーガルが亜人種のみならず、人間すら化け物に仕立てあげている人物であると。


 種族に関係なく、いくら敵とはいえ、亜人種にもあの惨たらしい魔物に変える必要はないと国民達は考える。


 あの魔物を見て感じたことは――狂気だろう。


 あの魔物に対してではなく、これらを容認していたディーガルの精神に狂気を感じるのだ。


 だがそんな不安よりも目の前に迫る脅威の方が圧倒的に危機感を感じるわけだが、騎士達や冒険者達が奮起する。


 そんな住民達の避難場所は教会や治療院、後は穏健派の貴族家の屋敷内などに分かれて避難している。


 お城は門前払い、今の国王の政策に賛成派の貴族達は、自分と身内の身ばかりとその役目を果たさない。


 そんな中――、


「さあ、早くこちらへ!」


 ヨーデルが使用人達と共に怪我を負った平民達の介護を行なっている。


「兄様! オレに何かできることある?」


「そうだね、怪我人を寝かせられる綺麗な布を追加で持ってきてくれ」


「うん!」


 ゲーデルは近くにいたメイドと一緒に取りに行く。


 そのテキパキと動くバラダン家の御子息を見て、誇らしく思う。


 ヨーデルとゲーデルはミシェルの家族を保護したと同時に、両親の了解も得ずに避難場所として提供したのだ。


 基本的にはヨーデルが近くにいた騎士や冒険者に声をかけ、怪我人、子供、高齢者を中心に連れて来て欲しいと告げたのだ。


 勿論、我が身と貴族という肩書きにしがみつく両親は、反対する。


「何をやっているんだ、ヨーデル! 私の屋敷を汚すつもりか!?」


「そうよ、ヨーデル」


 執事長がお言葉ですがと一礼。


「旦那様。ヨーデル様にゲーデル様は、貴族として役目を全うして御座います故――」


「なんだと!? 貴様は私が貴族に相応しくないと言っているのか!?」


「そのようなことは。旦那様もお家を守るため、ご家族のために働かれていることは重々……」


 貴族にとって、先代達が積み上げてきた功績とお家を守ることも貴族としての仕事だろう。


 だがヨーデル達がやっていることもまた、貴族としてやらねばならぬこと。


「父上。我々がこのような屋敷に住めることは、勿論、父上の努力の上で成り立っていることは存じてます」


「だったら……」


「ですが、ここに居られる平民の方々、下々の者達が支えてくれているから、我々があることを忘れてはいけません。このような時こそ、弱き下々のために尽くすのは貴族の役割です」


「ヨ、ヨーデル……」


 今までは物事をはっきりとは口にせず、しっかりと言うことを聞くヨーデル。


 だからこそ両親はこんな真剣に説得をしに来ることに驚いた。


「何を言ってるんだ! コイツらは我々のために生きているのだ。無償で場を提供するなどあり得ん!」


 周りの避難してきた人達が騒つく中、手いっぱいに白い丈夫な布を持ったゲーデルが叫ぶ。


「――ふざけんなぁ!!」


「?」


 布が前にあったせいか、声がこもって上手く聞き取ってもらえなかったので、布を下ろすとズンズンと父の前に近付くと大きく息を吸った。


「――ふざけるなぁああああーっ!!!!」


 エントランスにゲーデルの叫び声が響く。


 くわんくわんとちょっと怯んでいる内に、ゲーデルは思いの丈をぶつける。


「兄様やじいやは言ったんだ! 貴族でも平民でも命は同じなんだって! 勇者様もそれをわかってたから、エルフや獣人だってみんな助けようとしたんだ。父様がエルフに乱暴してるのだって許せないんだぞ! ならせめて人間くらい守ったらどうだ! この……」


 再び大きく息を吸い込む。


「――バカとうさまぁああああーっ!!!!」


 そう説得するゲーデルを執事長は黄昏て見る。


「ミシェル様と出逢ってから、少しずつお変わりになられたと思っていましたが、ここまでとは……」


「そうですね。僕とは大違い……」


「いえ、ヨーデル様もお変わりになられましたよ」


 そんな様子を見ていた周りの避難民達は、ヨーデル達の両親を侮蔑の視線を向ける。


 息子達に指摘されて恥ずかしくないのかと口にされない分、視線が訴えかける方がキツい。


 さすがの両親も分が悪くなったことくらいはわかったようで、


「す、好きにしろ!」


 顔を背けて、逃げるようにこの場を後にした。


「皆さま、お騒がせしました。ご安心下さい、皆さんの追い出すような真似は僕と――」


 ポンと弟ゲーデルの頭に軽く手を置く。


「弟ゲーデルがさせません。だろ?」


「――! はい! 兄様!」


 ゲーデルは微笑ましくこちらを見てくれる人達を見て、認められたんだと達成感のような高揚感が湧き立つ。


「さ、まだまだやることがたくさんある。頑張るよ」


「はい!」


「わ、私もお手伝いします!」


 ミシェルが手伝うと名乗りを上げると、動ける人達も治療を手伝い始める。


 ゲーデルはオウラとの約束の一環として、この活動を受け止めた。


 勇者のように羨望を浴びる振る舞いをし、支持を(あお)ぎ、希望となることが全てではないことを知る景色が広がる。


 子供ならばどうしても勇者の武勇伝から憧れ、それが全てを動かしてると考えるものだが、ヨーデルの言いつけやミシェル、オウラ、エミリとの出逢い、そして冒険者であるバーク達の出逢いも大きく彼を変えるきっかけとなった。


 そんな一丸となっている空気の中、冒険者が雪崩れ込んでくる。


「た、助けてくれっ!」


 五、六人の冒険者が助けを求めて駆け込んできた。


 その内二人は重傷のようで、冒険者の背に頭から血を流した人が力無く背負われている。


「直ぐにこちらへ――っ!?」


 案内をしようとすると、冒険者が来た門から出来損ないが、大量についてくる。


「ヨ、ヨーデル様……」


「マ、マズイですね。皆さん! 奥の方へ!」


 避難民達は言われた通り、できる限り奥へと避難すると、駆け込んだ冒険者の一部が、


「魔法で応戦します」


 そう言うと二人の魔法使いが少しでも足止めにと攻撃魔法を撃つが、怯みもしなければ、魔法を当てられても近付いてくる。


「来ないでよっ!」


 焦りから集中できてないのか、逃げるまでに魔力をほとんど消費したか、初級魔法でしか対応できない冒険者。


「足を! 足を狙って下さい!」


 ヨーデルの指示を受けて足を狙うが、腕だけの匍匐(ほふく)前身で近寄ってくる。


「くっ……」


 それでも先程よりはマシだと応戦を続けるが、このままではジリ貧だと考える。


 このゾンビのような生物兵器に、これ以上脅かされるわけにはいかない。


 すると――、


「――ゲイル・ガイスト!」


 横に引き裂く風が出来損ない達を吹き飛ばして引き裂く。


 助けが来たと、その声の方向へ向くと、避難民達は驚愕する。


 そこにいたのは亜人種達だった。


「み、皆さん……」


 亜人種達は深刻な表情で憎むべき人間達を睨むが、


「ア、アアア……」


 簡単にやられてくれない出来損ないを相手にしなければならないため、歯を食いしばり語る。


「今は協力するぞ、人間! 手を貸せ!」


 この奇妙な光景に一同は動揺するが、緊急事態のため、ヨーデルを筆頭に応戦する。


「わ、わかりました」


 ――亜人種達の活躍により、何とか屋敷内への侵入を防ぎ、話をすることに。


「貴方達は地下道に閉じ込められた方々では?」


「ああ、そうだ。お前達に見捨てられた存在だ」


 その言葉に後ろめたさを感じる者達が多かった。


 穏健派の意見の者達は天空城の事件のこともあり、下手に擁護(ようご)できなかった。


 あれだけディーガルの政策は間違っていると、色々交渉した者達もいた。


 だが一部の民衆達は、やはりこのような意見を持った。


「だが天空城を使って、あんな大量殺人を目論んだのはお前達だろう!」


 ディーガルのその言い分だけは正しいのだと主張するものもいた。


 たとえアミダエルという不安要素があっても、あの大きな事実がある以上は、中々誤解を解くことは厳しい。


 しかもここにいる亜人種、エルフ達はヴィルヘイムについては昔のことならと、今の情報は欠落しているし、演説を聞いた時には同じように驚愕もした。


 だから言い澱むしかなく、誤解が広がっていく。


「待って! あれにはきっと訳があるんだ!」


 そう揉める大人の怒鳴り声が飛び交うにも関わらず、ゲーデルは話の間に割って入る。


 その言葉は亜人種側を擁護(ようご)するものだったせいか、亜人種達は黙り、人間サイドもまた先程の両親へのやり取りから、話を聞くことにした。


「オレ達、地下道には一回言ったんだ。そこでバークっていう冒険者達にあった。兄ちゃん達は悪い奴を追ってきて、地下道の地図を作りたいって言ってた」


「そういえばそんなことを……」


 ヨーデルもその話は自宅の物置小屋にて聞いている。


「あれはエルフを陥れるための作戦じゃないのか? 今、町で暴れてる化け物はディーガルっておじさんについてるんだよね? 兄様」


「そうだね……口実を作りたいと考えればそこまでするか……?」


「あれら全てが自作自演だったと……?」


 さすがに都合良く解釈され過ぎているのではないかと、思っていたところに、背中にはドラゴンの翼、尻尾と角を生やした人型が姿を見せた。


「あらかた周りの魔物共は蹴散らしたぞ。……ん?」


 ポカンとこちらを見上げるヨーデル達をホワイト達も不思議そうに眺める。


「か、感謝します。それよりあなた達の主人は……」


「大方の場所は把握していますが、我々の任務はお前達を守ることだ」


 とはいえホワイトは気が気ではないようで、アイシアの気配を感じる箇所をチラチラと落ち着かない様子を見せる。


「ああ〜、やはりお助けに行った方が……。いやいやしかし、命令に背くことなどぉ……」


「あの君達の主人というのは、あの冒険者の方々の誰かですか?」


 ヨーデルは人間とは違う異質な雰囲気を出すホワイト達に尋ねる。


 ここにいる冒険者も萎縮するほどの魔力量だ、味方でなければ困る。


 できればバーク達(顔見知り)の名前が出てくれば御の字だと息を飲む。


「冒険者? 何の話だ。我々は龍の神子様のしもべ。冒険者などという小物などに誰が尽くすか」


 ホワイトは相変わらずアイシア以外の人間を若干見下す傾向にあると、その龍の神子という言葉に聞き覚えのある冒険者が叫ぶ。


「ま、待て。龍の神子だと……? た、確か、西大陸の龍の暴走を止まったって噂の奴か?」


 どういうことだと辺りが騒つく。


 そう話す冒険者は西大陸の魔物の凶暴化をきっかけに、拠点を移したばかりだという。


 その移動する前に、冒険者の情報通の連中から聞いた話だと語る。


「そうか……彼女は龍の神子であったか」


 それに聞き覚えがあったのは冒険者だけではなく、年老いたエルフもあったようだ。


「どういうことでしょう?」


「我々が地下道に幽閉されていた時、やたらに一生懸命な娘さんがいてなぁ。他の者とは違う魔力の流れを感じていたが……そうか、あの娘が……」


「とにかく我々の味方であるのですかな?」


 執事長からそう尋ねられると、老エルフはチラッとホワイト達を見る。


「我々は地下道に幽閉された亜人種を守ることが任務だ。ここの人間を守れとは言われていない」


「!」


「だがアイシア様はお優しいお方だ、お前達も守れと仰るだろう。こちらから手を出すことはない。そちらが敵対心を見せぬ限りな」


 そう言うとホワイト達の視線は屋敷の二階へと意識を向けた。


 そこには人影こそなかったが、怯えた気配を感じると鼻で笑った。


「では僕らにこの亜人種の方々を保護しろということですか?」


「いや、とりあえず広い場所がなければこの者達の居場所がなかったからな。地下道に長居は禁物だったし……」


 アミダエルの放った魔物の毒ガスを爆発させたとはいえ、身体に害を及ぼさないという保証もなかった。


 だからやむなく地下道の亜人種達を連れて外へ出たのだと話す。


「その神子様は亜人種達の味方なのか?」


 避難してきた者達がそう尋ねる。


 国民達からすればもう信じられる者がわからなくなってきている。


 目の前には自分達が(さげす)み、反逆をしてきたであろう亜人達。


 だが信じてきたディーガルもここに転がる異端の魔物を作り、この国を支配してきた。それはあまりに恐ろしいことだ。


 加えて、異国から来た龍の神子と来た。


 国民達も情報が欲しい。(すが)るための情報が。


「いいえ。それは違います」


 空から声が聞こえた。


 そこには龍の影が彼らの上空を飛び、誰かがヨーデル達の目の前に現れる。


「彼女は……僕らは皆さんの味方です」


 黒髪と黒い瞳の少年と前身甲冑姿の騎士が現れた。


「――勇者の末裔!?」

「――ハイネ様!?」


「「えっ……?」」


 冒険者はアルビオを、ヨーデル達はハイネは知っていた。


 そして勇者の末裔という言葉に、南大陸の住民達は驚愕する。


「ゆ、勇者の末裔……?」


「ああー……その呼ばれ方は久しぶりですねー」


 最近は『の末裔』を抜かれることが多く、ちょっと気恥ずかしい。


「亜人の皆さん、そして人間の皆さんも、僕らは皆さんの味方です。詳しい事情は話せませんが、これらの事件を裏で暗躍している黒幕がいます。本当ならそれを止められればよかったのですが……ん?」


 ゲーデルとミシェルがキラキラとした純粋な眼差しを向けると、大はしゃぎで尋ねる。


「勇者様なのか!? ねえ! 勇者様なの!?」


 ミシェルは興奮のあまりゲーデルの意見にこくこくと嬉しそうに頷き続ける。


「え、えっと……」


「……まったく。最近、これ多くないか?」


 アルビオが困っていると、また証明に出てかればいいんだろと、フィンが姿を見せた。


 その姿を見てヨーデル達は驚くだけだったが、エルフ達はその気配に対し、歓喜に震える。


「お、おお……この気配は風の精霊様ぁ……!」


 するとエルフ達は跪いた。


「まさか……現世にお姿を見せて下さるとは……」


 この状況にまんざらでもない様子のフィンはふんぞりと大きな態度をとる。


「まあな。アルは信用できるぞ。俺が保証する」


「で、では本当に勇者の末裔……いえ、勇者様なのですか?」


 また少し困った表情を見せるが、アルビオは安心させるためにもと、


「そうですね。これから勇者になります」


「「「「「!?」」」」」


「今、状況がご覧の通りです。僕はこれから、この事態の収束へと導きます。ですがそのためには誤解を解き、人間側もまた謝らなければならない」


 この国の住民達は亜人種達を(さげす)んできた。


 この危機に立ち向かう前に、互いの溝を埋める必要がある。


 勿論、簡単に埋まるものではないが、話し合える未来を作るためには必要な工程だろう。


「そこの方も聞いて下さいね」


 アルビオは窓の方から様子を(うかが)うヨーデルの両親にも声をかけた。


「亜人種、今回はエルフですね。彼らに戦闘の意思は存在しない。天空城の一件もそこにいた妖精王の暴走も全ては暗躍した手のものが行なったこと。僕はそれを阻止するために天空城へ向かい、対峙しましたが、止められなかった。本当に申し訳ない」


 アルビオが天空城の落下阻止をしようとしていたのは、ディーガルの演説でも聞いていたこと。


 真剣に、切実に謝るアルビオに偽りはないと、誰もが判断できた。


「ですが今、そのエルフの絶滅の作戦を阻止すると同時に、この国で暗躍していた黒幕の一人がやっと姿を見せた」


「それがあの化け物……」


「はい。アミダエル・ガルシェイルという、昔に名を馳せた生物学者です」


 その名に聞き覚えがあるのか、ヨーデルや執事長は驚く。


「そ、そんな……馬鹿な」


「事実です。そして彼らの主、龍の神子は黒炎の魔術師と一緒に、アミダエルの捕獲に取り組んでいます。罪を明るみにするために……」


「で、では……」


「はい。彼らもまた僕らの味方です」


 ホワイト達が味方とわかるとホッとする一同。


「ですから皆さん、事の解決は僕らが担います! ですがその先の未来を作っていくのは皆様です! 亜人種だからと、人間だからと差別を行なった結果がこれです。……僕の言いたいことがわかりますよね?」


 皆、思うことは似ていた。


 もし、手を取り合うことができていたならば、このような事態にはならなかったのではないかと。


 人間側は自分達の日常をあらゆる情報が飛び交うせいで、脅かされて疑心暗鬼になり、中にはそれを利用されるかたちで死人も出た。


 その原因を思い込みと目の前にある情報だけで、エルフだと判断した。


 アルビオが話すように、裏で暗躍している者達がいたのに。


 エルフ達も人間は下等であると見下しながらも、囚われることで知った悍ましさや汚れた思想。


 そればかりしか見ず、そうと決めつけていたことを利用され、最終的に絶滅の危機にまで追い詰められている。


 アイシア達の必死さを見て、人間だってみんなが一緒ではないはずなのにと。


「勇者様、これからやり直していけるでしょうか?」


 その問いに、ニコッと笑顔で答えた。


「その気持ちがあればきっと……」


 すると立場を理解したゲーデルは、アルビオに宣言する。


「わかったよ、勇者様。オレ達がこの亜人さん達を守るよ! 勇者様は勇者様の役割りを果たして……」


 思わずポカンとするが、この中で一番しっかりしてそうだと、屈んで頭を撫でる。


「ありがとう。そう口にしてくれる人がいると安心だ。僕も頑張るよ。だからここは頼んでいいかな?」


 決して子供を諭すような物言いではなく、一人の男として尋ねる言い方をすると、


「う、うん! 任せて!」


 さすがにまだ子供。嬉しさの方が全面に出たが、頼もしい返事だとアルビオは立つ。


「では皆さんをお願いします。貴方達も……」


「わかっている。アイシア様のところへ向かうなら、よろしく伝えてくれ」


 こくりと頷くと、アルビオは手を空へと伸ばす。


「――ルイン! ザドゥ!」


 その呼びかけに参上する二体の精霊。


 ルインは光り輝く姿でのご登場。ゆらりと透き通る羽衣に整った顔立ちは正に女神。


 ザドゥは影の中から球体での登場。鉛筆でぐしゃぐしゃと落書きでもしたかのような乱雑な黒い塊。


 その精霊達を前に辺りにいる一同は驚愕する。


「おっ? 久しぶりに姿を見せたなザドゥ」


「光、眩い。我潜む」


 姿を見せたかと思うと、ルインが眩し過ぎると再び影の中へと潜っていった。


 ルインはオロオロ、アルビオは申し訳ないと頭をかくが、


「ルインは上空から、ザドゥは下から魔物達を討伐してほしい。魔力はほどほどに取っていって……」


「了解しました」


「了解」


 ルインは空へと溶け、ザドゥはザザっと地面を素早く動いて去っていった。


「では向かいましょうか、ハイネさん」


「あ、ああ……」


 ポチへ乗るとアルビオ達は、ヒシヒシと魔力の衝突を感じるアミダエルがいるであろう場所へと向かった。


「では皆さん、とりあえず屋敷へ……」


 亜人達を屋敷内へ案内し、更に詳しい話を訊こうとすると、


「――ふ、ふざけるな!」


 空気を読まず、アルビオの意図も無視するヨーデル達の両親が窓から叫ぶ。


「あ、亜人種のゴミ共を屋敷へあげるつもりか!?」


「先程の話を聞いていなかったのですか? 父上。そのようなことを言い続け、認めていかないからこのような事態になったのですよ。いい加減に目を覚まして下さい!」


 そうだ、そうだと避難してきた人間達も亜人達の味方をする。


 それを見た亜人達は、やはり全ての人間を憎むこと事態が間違いであったことに気付く。


 長い間、生きる中で仲良くしてくれた者もいたが、それでもどうしても信じられなかった。


 だがこうして一人の少年の言葉に、しっかりと応えようという人々がここに叫んでいる。


「ありがとう、ありがとう……」


 老エルフはしみじみとお礼を言うと、


「あいわかった。屋敷に入れずとも、せめてこの庭への滞在は認めてほしい。その屋敷内へ入ることを怖がる者もいるのでな」


 ヨーデルの両親を見て、酷く怯えるエルフ達がいた。


 この家で飼われていたエルフ達である。


 するとヨーデルとゲーデルが近付く。


「ごめんな。あんな父様と母様のせいで……」


「大丈夫だよ。これからはきっとこの国は変わる。だから今は頑張って欲しい」


 そう言うとヨーデルは説得を続ける。


「父上。勇者様のお力を見たでしょ? おそらく事態の解決した先の未来は亜人の方たちと手を取り合う未来になります。そんな中、そのような協調性のないことを発言していればどうなるか、わかりますよね?」


「で、でも相手はあの生物学者なのだろう? それにディーガル様も……」


「では父上はこんな姿になりたいと?」


 出来損ないの魔物達を指差して尋ねると、ビクッと嫌そうな顔をする。


「父上の未来はこれで良いと? ディーガル様を認めるということは将来、何も考えることができず、父上の大好きな娯楽を楽しむこともできず、ただの魔物に成り下がることが望む未来ですか?」


「そ、そんなわけないだろ!?」


「であれば今までの考えは捨てて下さい。変化を怖がることはわかりますが、もう今まで通りということはありません!」


 ここまで国中を巻き込んでの事態となっている以上、ここは歴史の分岐点の一つだと誰もが理解できる。


 昔の思考にしがみ続けている愚か者以外は。


「もうわかった! 好きにしてくれ! ただし、私達に近寄らせるなよ!」


「……わかりました。それでいいです」


 両親は奥へと引っ込み、ヨーデルは大きく息を吐き出した。


「ヨーデル様、ご立派でしたよ」


「な、慣れないことはするもんじゃないね。変に力が抜けたよ」


 執事長に少し寄りかかると、残念そうな表情もする。


「本当は父上達の考えも変わればと思ったんですけど……」


「人というのはそう変われるものではありません」


 チラッと執事長が見る先には、こちらを警戒して睨む亜人達もちらほらと見受けられる。


「全てを急に受け入れられるものではありませんよ。この事件もそのきっかけにしか過ぎません。きっとこれからですよ。焦らず参りましょう。この爺やもお手伝い致します」


「そうですね、ありがとう」


 それでも歩み寄るための気持ちは、しっかりと出来上がったのだとアルビオが飛んでいった空を見上げた。

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