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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
8章 ヴァルハイツ王国 〜仕組まれたパーティーと禁じられた手札〜
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20 理不尽への終止符

 

「これは酷いな……」


 ポチから眺める城下町は酷い有り様だった。


 町中で魔物が暴れ回り、町は破壊され、力の差があるのか、騎士達の死体が転がっている。


「私の分身体で指示を送っている箇所はなんとか大丈夫ですが、他のところは……」


「貴女の分身体はとりあえず住民達の避難誘導と保護を。城の中へ……」


 するとオールドが険しい表情へと変わる。


「それは無理です」


「何故!?」


「あの国王が魔物を入れるなと、門を開けないよう指示したそうです。私も説得を試みましたが、一向に聞く耳を持たれません」


「――くそっ!」


 ポチの背中を殴って八つ当たり。


 ポチにダメージはないものの感触はあったので、ちらっと背中にのるハイネを見た。


「す、すまない、ポチ。……申し訳ないが城まで行ってくれるか?」


 あの堕落王を説得することは難しいだろうが、国民を避難される場所にこれほど適した場所もないため、一応の説得をすることに。


 城に降り立つ際に、騎士達の一部は動揺して武器を構えたが、オールドの分身体が説得、迎えに上がった。


 ポチを中庭に置いてその場の騎士に任せると、アポロス国王とロピス王子が一緒に大臣達といるとのことで、その場へと向かった。


「――失礼致します」


「おおっ! オールド! 戻ったか。それに……ハイネか!?」


「ご無沙汰しております、陛下」


 ハイネは鉄兜を取ることなく跪くと、隣にいたロピスが指差して怒鳴る。


「パパの前だぞ! その兜を外さないか!」


「申し訳ありません。この兜は外すことができません」


「な、なんだとぉ……!」


「それより緊急事態でございます。ロピス殿下、ご指摘はまた後で……」


 オールドが制止すると早速、国民達の避難を城にもと進言しようとするが、


「そうだ! 緊急事態だ! ほれ、さっさと魔物達を退治せよ!」


「し、しかし陛下。この魔物達は我らが生物兵器のようでして、召喚魔も上手く従えられず、強さも並外れており、苦戦を強いております。つきましては……」


「ええい! それを何とかするのが、お前達の役目だろうが!」


 大臣が情報の提示をしているのにこれだ。


 人には役目だと言っておきながら、自分は国王としての役目など一切行なっておらず、その権力を貪り続けてきた。


 隣でガタガタと震えているロピスも同じことだ。


「オールド! ディーガルはどうした!?」


「ディーガル様は今現在も妖精王の討伐に向かわれたきりかと……」


「――よ、呼び戻せ! 私の命の危機なのだぞ!? そんな化け物の相手より私を守らせろ!」


「パ、パパ。僕ちんも僕ちんも……」


 すり寄ってくるロピスを強く払い退けると、


「――煩い! お前も一国の王子なら国のために働いてみせろ! ハーメルトのガキのようにな。そんなぶくぶくぶくぶく太りおって……」


 正に理不尽を極めたかのようなセリフを投げかけた。


 鏡を見てもきっと同じことが言えるのだろうなと、怒りは勿論だが、呆れるまで通り越して感心すらするレベルである。


「パ、パパだって、王様みたいなことなんて一度だってしてないだろうが! いつもそのエルフちゃん達に面倒を見てもらわないと動くことすらできないくせに!」


「な、なんだと! 私は国王としてディーガルに命令しているではないか! それでこの国が良くなっているだろう! お前が可愛い亜人達を抱けるのは、私のおかげなのだぞ!」


 とてもじゃないが、国のトップがするべき喧嘩ではない。


 そこら辺の三流貴族がするような喧嘩に、オールドはファミアに尽くすと決めて、改めて良かったと認識をする。


「陛下、殿下。こちらの守りはわたくしが固めましょう」


「オ、オールド……」


「至急、マジックポーションの確保を。わたくしが全力を持ってお二人をお守りしましょう。……勿論、陛下方が可愛がられておられる奴隷達も含めて……」


 何のつもりだとハイネは兜の中からじろっとオールドを見下ろすと、ニッと口元が緩んでいる。


「お前達、お二人の御身に傷一つつけるな!」


「「はっ!」」


 国王側近の媚び売り騎士達にそう指示をすると、オールドはハイネと少しその場を離れる。


「どういうつもりか。このままでは国民が……それに同胞達も……」


「あれの説得が無理なのは貴女が一番ご理解できるのでは?」


 オールドは確信をついた一言を話す。


 それはこのヴァルハイツに使えており、先程の振る舞いを見れば理解できないことではない。


「そう、だな……」


 ハイネは怒りに身を震わせながらそう答える。


「……先程、外に出ていた分身体が勇者様が出ていかれるのを目撃しました」


「な、なに!?」


「この状況の中、勇者が動かれる。レイチェル様にお使えしている貴女なら、今何をすべきかわかるでしょう?」


 アミダエルの暴走により、国がピンチの状況。


 国民達は異形の化け物を前に恐怖し絶望する中で、それがディーガル、つまりはヴァルハイツの王家で何かがあるという疑心に繋がるだろう。


 そしてリリア達もそれが狙いだと話していた。


「……なるほど、わかりました。私は引き続き、国民達を助けます。勇者様と共に。()()()()()の御身、必ずお守り下さい」


「はい。お任せを……」


 するとハイネとオールドは戻り、跪く。


「陛下。わたくしは再び城下町へと戻り、陛下の敵を斬り捨ててごらんに入れましょう」


「そ、そうか、頼んだぞ」


 ハイネが去ろうとした時、


「ま、待て……」


「何でしょう、陛下?」


「レ、レイチェルは無事か?」


 娘の安否を今更尋ねる。


 ハイネはレイチェルがアポロス達から非難されながらも推して、側近騎士にした。


 本来であればハイネがここにいる時点で娘が心配なら、会った瞬間にでも尋ねるのが普通ではないだろうか。


 息子(ロピス)対しても、自分に都合の良い小間使いだと考えているのだ、逆に安心した。


「レイチェル様ならご無事です。今頃はゴンドゥバで元気にやっておいでですよ」


「そ、そうか。こ、こんなこともあろうかと、賢いレイチェルを辺境にやっておいて正解だったな。お、お前もそう思うだろ……?」


 その質問に思わず嬉しくなってしまう。


「ええ。本当に正解だと思います。さすがは陛下であらせられます」


 反旗を企てる準備を、この(アポロス)を蹴落とす準備がされていると知らず、安直な発言をする(アポロス)に、少しばかり声が弾んだ。


 それではとお辞儀をすると、ハイネは再び戦場と化した城下町へ向かう。


「ポチ、頼む。勇者様のもとへ」


 ***


「小賢しいねえ! 小娘ぇ!」


「そりゃこっちのセリフだよ!」


 俺の影の槍とアミダエルの尻尾が衝突し合う。


 そのサポートの中、リュッカとシドニエは常に死角を狙おうとするも、


「させないよ!」


 ブシューっと蜘蛛の糸が辺りに張り巡らされ、動きに制限がかかる。


「くっ!」


「――焼き尽くせ! ――スパイラル・フレア!」


 だがその糸もさすがに熱と炎には弱いようで、アイシアがしっかりと火属性魔法でサポート。


「ありがとう、シア! ――はっ!」


 焼け焦げた道から素早く、アミダエルの脚を斬り捨て、バランスを崩す。


「早々倒れてやらんよ!」


 広場の石柱のモニュメントに糸を飛ばすと、器用にバランスをとって飛び移ると、手を緩めずに尻尾が飛んでくる。


「厄介だなぁ、あの再生力」


「ですね。それに私の剣も、これじゃあ……」


 リュッカの剣は硬い鱗の尻尾を受け続けた影響か、いくら魔力を宿していても、刃こぼれがしている。


 魔人マンドラゴラの時でさえ、長期戦になったんだ。その上位種ともとれるアミダエルとの戦いもそれなりの覚悟はあった。


 だが強敵だからこそ、ジリ貧は避けたいところではあったのだが、あの再生力と蜘蛛の魔物の特性とヘル・スコーピオンの尻尾が障害となっている。


「どうだい? これがアタシの成果さ!」


「何が成果だ。適当に魔物をぶっ込んだだけだろ。おっさんが臭かっただのなんだの言ってたのが、納得だよ」


「フン! それはアタシを殺してから言いな!」


 激しい攻撃の中、俺達は作戦を話しながら応戦する。


「リリアちゃん、どうしよう! このままじゃ……」


「わかってる。コイツの再生力にも限度があるはず。できればデカイ魔法をぶつけたいんだけど……」


 そんな隙を勿論与えてくれるはずもなく、アミダエルは前衛を退けながら、尻尾や蜘蛛糸でしっかりとこちらの詠唱を阻害してくる。


 無詠唱や短い詠唱くらいなら間に合うのだが、成功させてくれたのは、シャドー・ストーカーくらいで、自分の弱点や多人戦での戦い方をしっかり理解した動きに、こちらも攻めあぐねている。


 それでもアミダエルとやり合えているのは、俺達自身の実力が上がっていることは勿論だが、一番はやはり冷静をかいていることが要因である。


 アミダエルが少しでも冷静であれば、すぐにでも町の人間を人質にでもとり、圧倒的優位に立とうと考えるはずだ。


 そうなれば、こちらは太刀打ちができなくなる。


 でもそうしない理由としては、アミダエル自身のプライドがあるからだ。


 俺達があれだけ挑発したのだ、今更人質を取るような真似はしない。


 だから魔物を町に放つなんてことをするのだ。


 明らかに自分の実力を見せつけようという現れだ。


 アミダエルが自身のプライドを貶されたと思っている限り、攻撃の手は常にこちらへと向く。


 作戦としてはそれでいいのだが、俺達自身がアミダエルを甘く見ていた傾向にある。


 研究者はプライドの塊みたいな奴が多い。だから激情させれば、多少なりとも扱いやすくはなると踏んでいた。


 だが冷静さをかいていても、その能力に圧倒されている。


「――きゃあ!?」

「――くうっ!?」


「アイシア!?」


「ヒェヒェ……」


 こちらの体力が落ちてきているところを狙われている。


 尻尾がリュッカ目掛けて飛んでいくと、受け流した拍子に剣が折れ、受け流した先にはアイシアがいた。


「大丈夫!?」


「な、何とか……」


 リュッカが逸らしてくれたおかげで、横切っただけという結果で済んだが、リュッカの剣が折れたのは致命的だ。


「じゃあ眼鏡の小娘から殺してやるかねぇ!!」


「ちぃっ!」


 しっかり弱いところを突いてきやがる!


 リュッカの手持ちの装備は折れた剣と盾だけ。マジックボックス内にはポーションの類のみ。


 確実に殺してやるとばかりに、糸玉と尻尾でしっかりと逃げ場を奪う攻撃が迫る。


「――リュッカぁ!!」


「――やらせるかあ!!」


 リアクション・アンサーを宿したシドニエが割って入る。


 魔力をその木刀に込めて、渾身の一振り。その衝撃波が尻尾の軌道を逸らし、糸玉はバラけて霧散する。


「リュッカさん、引いて! ここは僕がっ!」


 こくんと頷くと俺達の側まで後退する。


 それをシドニエはキッと鋭い目線で確認を取ると、アミダエルの方へ向き、提案する。


「リリアさん! この人にあの黒炎を当てられれば何とかなりませんか?」


「それは難しい。さっきの解呪されたのを見たでしょ? タネは割れてる……」


 シドニエの考えはわかっているし、俺も当初はそのつもりだった。


 魔人マンドラゴラ然り、丈夫な身体を持つ敵相手には、カースド・フレイムのようなジワジワと削り落とす魔法は効果的だ。


 どんな屈強で強靭な生き物が毒で簡単に殺せるように、ダメージを蓄積させることや強化させようのない場所への攻めは非常に有効である。


 俺の黒炎だって全身を焼き続けることができ、その熱と痛みは苦痛となり、強いストレスを与えることができる。


 更に並の実力者なら、いくら解呪の魔法を使えたとしても解かせないようにする自信はある。


 だがアミダエルはさすがにそうはいかなかった。


 タネはおそらくクルシアから聞いていることだろう。そして解呪したことから、闇属性か光属性を持っていることだろう。


 魔物からその特性を得ることにも成功していることを考えると想像することは難しくない。


「それでもやるしかありません。僕があの尻尾を何とかします。だからこの人を宣言通り、焼いて下さい!」


「えっ!? ちょっと!?」


 前衛を自分にしか任せられないとハイになったのか?


 シドニエはアミダエルに向かって走り出す。


「はっ! 小僧一人ならくびり殺すくらい容易いよ!」


 案の定、シドニエに攻撃が集中する。


「仕方ない。援護するよ!」


「――リリアさん!」


 俺は真剣に叫ぶシドニエに思わず、ビクッと反応した。


 援護ではなく、信じて欲しいとの叫び声だった。


 そのシドニエの木刀には魔法を宿しているのか、いつものように魔力が発光しているだけでなく、木刀に光る文字が(まと)われていた。


「――はああああっ!」


 リアクション・アンサーを宿したシドニエの動きは、目を見張るものがあった。


 素早く尻尾で突いてくるものを次々と木刀で捌きながら、翻弄する。


「ぐっ! クソガキぃ……」


 その限界を超えたかのような竣敏な動き、力強く尻尾を薙ぎ払う姿はあまりにも頼もしく、思わずポカンと見入ってしまった。


「あっ! やば……」


 あれほどの鬼気迫る剣捌きを見せられては信じるしかない。


 中級魔法であるカースド・フレイムではなく、再びそれの上位として開発したブラック・フェニックスを再び詠唱する。


「――焔の王よ、黒き王よ。我が呼びかけに……」


「させるかい!」


 邪魔をしようとするアミダエルの尻尾を下から薙ぎ払うシドニエ。


「クソガキがあっ!! さっきから邪魔なんだよ!」


「そうですね。早く僕を殺した方がいいですよ。……気付かないんですか?」


 その意味深な発言に大方、木刀に施した魔法に秘策でもあるんだろうと鼻で笑うが、ふと違和感に気付く。


「な、なんだ……?」


 ヘル・スコーピオンの尾節の部分には、ポインターのようなものがついている。


 これを見たアミダエルは戦慄する。


 自分の全ての尻尾を見てみると、同じ箇所にポインターがついており、下半身の蜘蛛の身体にも所々。


「ガ、ガキぃ! まさか……」


「パワー・プレッシャー――地属性の攻撃型付与魔法。中級魔法でありながら、その蓄積度に合わせてその箇所に当たる攻撃力を上げる魔法です」


 その脅威に関して察したアミダエルは、悔しそうに歯軋りを立てると、距離を取る。


「逃しません!」


 シドニエの木刀とポインターのついた部分が衝突する。


「――!?」


 さっきまでと違う反応をするアミダエルに、俺はシドニエの狙いに気付いた。


 シドニエが施している魔法自体は知らないが、さっきからシドニエがそのポインターを攻撃する度に威力が増していることだけは、しっかりと確認できる。


 弾かれた尻尾は木刀に払われる度に、吹き飛ばされる勢いが増していた。


 シドニエはあの尻尾をさっきのリュッカのように切断ではなく、破壊するつもりなんだ。


 切断してもあっさりと再生した。勿論、破壊されても再生はするだろうが、斬られるよりも砕かれ、強く叩かれる方が痛みは強い。


 斬殺より撲殺の方が苦しいように、ダメージを与えることもその例を外れることはない。


 つまりシドニエは自分を囮にする材料に痛みを用意したのだ。


 しかも俺が用意したマジックロールでのリアクション・アンサーの影響、弛まぬ鍛錬の末か、あの毒槍を紙一重で(かわ)し続けている。


 アミダエルから見れば、尻尾を強く破壊されることは脅威であり、不老不死なんて望む奴だ。痛みに関しては臆病な部分があるだろう。


 だからシドニエがその囮となりつつ、尻尾での攻撃に躊躇(ちゅうちょ)が出ている内に、黒炎の魔法で更に攻めろということなのだろう。


 アミダエルもそれに気付いたようで、酷く動揺が見られる。


(こんなっ! こんなはずじゃあ……)


 アミダエルは焦りながらも、シドニエの猛追をできる限り回避しようとするが、図体が大きいことが裏目に出るようで、どうしても突発的に尻尾で攻撃してしまう。


「――があっ!?」


 先程よりも尻尾から走る痛みが酷い。


 するとヒビが入っていることにも気付いた。マズイマズイと焦りが募る。


 距離を取らせないとシドニエは常に距離を詰め続け、離れた場所には、先程の黒い不死鳥の魔法を詠唱しているリリアを確認する。


 しかもリリアの守りをリュッカとアイシアがしている。


「――こぞぉおおおお!!」


 大量の糸玉を吐き出し、とにかくシドニエを巻こうと考えるが、全て(かわ)し切り、


「――スパイラル・フレア!!」


 その糸玉もアイシアの火属性魔法で相殺と同時に、アミダエル目掛けて飛んでいく。


 ヒュッと(かわ)したところに合わせて、シドニエは渾身の一振り。


「そこだあっ!!」


 下半身のポインター、蜘蛛の頭を木刀で殴打。


「――っ!? ――ぎゃああああっ!!」


 頭蓋は狙いどおり、トマトが潰れたかのようにぐちゃりと潰れ、アミダエルは酷く痛みにのたうち回る。


 この隙を逃すまいと、シドニエは尻尾のポインターにも殴りかかる。


「や、やめっ!? やめ――ぎゃああっ!?」


 尾節を次々と破壊していくが、当然のように再生する。


 だがアミダエルを苦しめ、追い詰めるには十分な材料であり、更に不幸は続く。


「これは……都合が良い!」


「ひ、ひい!?」


 アミダエルは再生した箇所にポインターがついていることに悲鳴を上げる。


 その身体の部分に施した付与魔法だからか、破壊されて再生してもポインターも復活するようだ。


 そして――、


「――ブラック・フェニックス!!」


 詠唱を終えた黒炎の不死鳥が飛ぶ。


「――ぎゃああああっ!!」


 その黒炎の不死鳥は再びアミダエルの全身を焼く。


 精神的にも追い詰められていたアミダエルに先程のような対処はできず、苦しみ続ける。


 そこを畳み掛けるようにシドニエは木刀を振るう。


「貴女に命乞いをする権利すらありませんよ! どれだけの人達に手をかけ、苦しめ続けてきたか――その身を持って知りなさい!」


「やめろぉおっ!! やめてくれえ!!」


 破壊しても破壊しても再生する身体に、自分の成果と言ったこの身体をここまで酷く後悔したことはない。


 尾節を破壊された痛みは鈍く痛み、再生する箇所は火傷しそうなほどの熱が(こも)る。


 その熱に追い討ちをかけるように、再生した生肉の部分に黒炎が刺激を与え、激痛を与え続ける。


「凄い! これならいけるよ!」


「ですね。だけどどうしてあの木刀は折れないんでしょう?」


「あれは特注の木刀だからね」


 マリエール兄妹がシドニエのために作った専用の木刀。


 魔法樹を使っている影響で魔力の浸透率が高く、魔法を付与するにも適しており、魔力が込められた木刀が傷つくことは少ない。


 精神型のシドニエにここまでの相性の良いところを見せられると、不思議と携わった自分も誇らしくなる。


 その木刀もシドニエ達の期待に応えるように、アミダエルに(まと)う黒炎が木刀に燃え移り、更に攻めろと駆り立てる。


 その痛みに限界を超えたのか、アミダエルは怒りに狂う叫び声を上げる。


「――ああああああああああっ!!!!」


 暴れるように尻尾を振るうと木刀で受け止めたが、シドニエは突き飛ばされる。


「ぐうっ!?」


 そして狙いはこの黒炎に包まれる要因となったリリアを睨む。


「メスガキにっ! クソガキ共があっ!!!!」


 身を焼かれながら、半ばヤケクソでこちらへと突進してくる。


「やられ――」


 真正面から向かってくるので、対応できると構えるが、足を何かに掴まれる。


「きゃあっ!?」


「こ、これは……!」


「離して!」


 俺達は地面を這いずりながら近付いてくる出来損ない達に掴まれ、驚いてしまった。


 シャドー・ストーカーで倒したはずだったのに!


「でがしたぁ! 出来損ないどもぉ!」


 火だるまになりながら迫るアミダエル。


 対抗しようとした初動を止められ、動きを封じられた俺達に逃げ場はない。


 俺達は互いを庇い合うように抱き締める。


「――させません!!」


 目の前に颯爽とシドニエが舞い戻った。


 向かう方向から、自分が吹き飛ばされた際の行動も予測し、動いていたようだ。


「シド……」


「リリアさん達は――僕が守ります!!」


 アミダエルの蜘蛛の頭のポインターに木刀を強く振り下ろす。


「――ぐぎゃああああっ!!」


 ぐちゃぐちゃと生々しい音を立てながら、アミダエルはよろよろと後退する。


「ひっ、ひぎゃあっ!? こ、こんな……こんなはずじゃあ……」


 そう口走るアミダエルの身体の再生速度が落ちていることを確認すると、


「――バーストっ!!」


 俺は黒炎の火力を上げて、魔人マンドラゴラのように追い詰める。


「ああああああっ!! メ、メスガキぃーっ!!」


「――アイシア! アイツに魔法障壁!」


「うん!」


 俺達は出来損ないを払うと、アミダエルを閉じ込めるように魔法障壁を展開する。


「……あんたも同じ運命を辿るんだな、アミダエル」


 この光景をシドニエ以外、見たことがある。


 魔人マンドラゴラも魔法障壁に囚われ、黒炎に焼き尽くされていた。


「お、おのれぇ……こんな、こんなところで……」


「もうっ、終わりだよ! アミダエル! あんたは死んでなくちゃいけない人間なんだ。あんたが生きてて良かった時代は等に過ぎてる」


 本来の人間の寿命なら、とっくに死んでいなければならないアミダエル。


 俺は元の理へと帰れと言うが、アミダエルは抵抗する。


「嫌だ、死にたくない。アタシは死にたくないよぉ!」


 魔人マンドラゴラもそうだったが、アミダエルは尚醜い命乞いをする。


「……僕、言いましたよね? 貴女は命乞いすらする権利がないと。そう言って貴女に命乞いをした人間が、貴女の数百年という人生の中に何人いましたか? 数人なんて数字じゃないでしょ!? ふざけるのもいい加減にして下さい!」


 珍しく声を荒げるシドニエ。


 あれだけ人の命は踏み台だと言っていたアミダエルの命乞いに、身勝手過ぎると温厚なシドニエですら、その理不尽に怒りしか湧き立たない。


「その黒炎の中で反省して下さい」


「――あ、ああああああああああっ!!」


 俺はアミダエルにこれ以上、暴れさせないためにもと、火力を上げ続けた。


 この痛みと熱と苦しみで、少しは反省をしてくれますようにと……。

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