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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
8章 ヴァルハイツ王国 〜仕組まれたパーティーと禁じられた手札〜
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10 地下での激戦再び

 

 地下通路をひたすら走る。


 ナタルが箒に乗り、全員に風の付与を与えると移動速度もアップ。


 装甲オオムカデとは少し距離はとれており、チュンチュンと弾が跳んでいる音が遠い中、


「こいつ……!」


 アミダエルの命令により興奮しているのか、以前は正体がバレないよう立ち振る舞っていたカマキリは容赦なく攻撃を仕掛けてくる。


 とはいえ逃げ足が速いのも事実なようで、ヒットアンドウェイで攻撃してくる。


「リュッカさん! この魔物達をどう見ます?」


 魔物の知識に精通しているリュッカに意見を(あお)ぐ。


 いくら改造された魔物であっても、媒体となっている魔物の性質自体は変わらないはずだと、参考にしたいところ。


「先ずあのムカデと武装魔蟲ですけど、この地下道では非常に厄介です」


 それは追われている全員が理解しているところ。


 壁伝いにカサカサと走り回りながら、ガトリング砲でこちらの動きを制限しつつ、通路も狭いせいか、当たる確率は非常に高い。


「でしょうね。弾数も恐らくリリアさん同様、魔力を弾にしているはず。だとすると……」


「はい。攻撃が止む瞬間があるのですが、その弾の補充要員があの武装魔蟲です。武装魔蟲自体、寄生するとその生物を強化させる作用があります。そのため、魔力の増強や魔力切れを起こした際のきつけ役など、正直、装甲オオムカデを相手にしているというより、武装魔蟲を相手にしているものです」


「寄生型の魔物って何でも厄介ですけど、これも一段と厄介ですね……」


 リュッカの話を聞いて青ざめるシドニエ。


 要するには大量に装甲オオムカデにくっついてる武装魔蟲を何とかしないと、永遠に追ってきてどこでも移動可能な重戦車だ。


「後はあのカマキリぃ!」


 アイシアがやけくそ混じりに叫ぶのも無理はない。


 さっきからストーカーみたいに追いかけてくる。しかも気配がない。


「あれは多分、シャドー・マンティスの変異種と考えていいと思います」


「希少種の変異種ってもうそれだけで嫌ですわね」


 仮名としてウォール・マンティスと命名。


「さっきから背後(かべ)を突かれているところから、壁を自在に移動するみたいですね。しかも装甲オオムカデと違って壁の中のようですし、感知魔法にも引っかからず、しかも音までしない」


「ただ完全に気配が消えてないのが幸いですね。出てくる際に、微かに出てくる感覚とあとは……殺気」


 刃物を持つ魔物のせいか攻撃してくる際に、一瞬だが強い殺気を感じる。


 人間の暗殺者と違い、完全に殺気を殺せないのは幸いと捉えるべきだろう。


 だがそれでも脅威的だということは、亜人達の斬殺死体を見れば一目瞭然でもあった。


「とはいえ、そんな風に神経を使い続けていると、こちらが参ってしまいますわ」


「それにさっきからのそのそと動いているのもいるよ」


 アイシアは感知魔法で確認すると、確かにまるで亀くらいの移動速度でゆっくりと近付いてくる気配がある。


「アミダエルの気配は?」


「まだ無いようですが、あれだけ挑発したのです。必ず来ますよ」


 申し訳なさそうな表情で走るシドニエにバンっと背中を叩く。


「大丈夫だよ! 誰も怒ってないし、むしろスッキリしたって言ったでしょ?」


「は、はい」


「ですからアミダエルが来る前に……」


 通路の直線上に装甲オオムカデが現れると、ガトリング砲をこちらへ向ける。


「あの化け物達を何とかしなくてはっ!」


 タッと駆け出すリュッカ。


 迫り来る弾丸の雨の中、リュッカは通路いっぱいにジグザグと移動していく。


「おおっ!?」


 ナタルはその動きを見て、対策をしっかり考えての動きだと推察する。


 あのガトリング攻撃は発射の際に反動があるせいか、動きながらと言っても鈍くなる。


 あと狙いを定める影響か、弾数が多くても一点集中で攻撃してくるため、リュッカのようにジグザグに動けば、下手な被弾を受けることはない。


 しかもちょこまかと動くことで弾幕をバラけさせ、攻撃力を落としている。


「んっ!」


 風の付与も活かして大きく跳んで、天井から攻撃してくる装甲オオムカデに向かう。


「やあっ!」


「――キシャアアッ!?」


 装甲オオムカデの鱗と鱗の関節部分に剣を突き立てると、そのままリュッカごと落下する。


 リュッカは地面へ落下する前に装甲オオムカデを蹴り、地面へ転がるように着地。


 その体重に耐えられず、一部の武装魔蟲はそのまま下敷きになる。


「上手いよ! リュッカぁ!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねているアイシアの横をシドニエが走り抜く。


「マルキスさん! 今の内に火属性魔法で残った武装魔蟲を焼き尽くして下さい。僕らは腕の武器を破壊します!」


「そ、そうだね!」


 リュッカはそのままガトリング砲が付いている腕を斬り落とし、シドニエは木刀に魔力を込めて渾身の一撃を打ち込む。


「――はああっ!!」


 片腕ずつを二人に破壊されて、装甲オオムカデは奇声を上げながら前進し、アイシア達のところへ突っ込んでいく。


 だが、アイシアは不敵に笑う。


「二人共! 横に(かわ)して! ――貫けぇ! スパイラル・ブレイズ!」


 この狭い通路での直線上の業火は、興奮状態の装甲オオムカデでは回避が難しく、顔から炎の渦を浴びることとなる。


「――ギャアアアアッ!?」


 装甲オオムカデが盾となる形でリュッカとシドニエには炎が届かず、更に大口を開けていたせいか、内部にも炎で焼かれるかたちとなった。


 肝心の武装魔蟲は張り付いたままだが、一部は熱に耐えられずに剥がれていく。


 それをリュッカとシドニエは斬り裂き、潰していく。


 装甲オオムカデはのたうち回りながら、火を消すため水路へと逃げ込む。


「よし! この調子――」


「マルキスさん!!」


 虫系統の魔物は基本、火に弱い。


 だからかウォール・マンティスがアイシアを狙うことを予想しての動き。


 シドニエは魔力を込めて硬くなった木刀で鎌を受け止めるが、すぐに壁の中へと逃げていく。


「逃げられ――」


 後ろから気配を感じたシドニエは頭を下げて(かわ)し、そのまま背中から地面に倒れ込むような体勢へ変えながら木刀を力を込めて振った。


 するとウォール・マンティスの鎌が大きく弾かれ、壁からにゅるっと姿を見せ、空中に投げ出される。


「――クイック・オーラ!」


 このチャンスは逃せないと素早さを上げる付与魔法を施し、元々の風の付与魔法で倒れた身体を一気に起き上がらせ、そのまま空中に投げ出されたウォール・マンティスを攻撃する。


「この一撃で仕留めます!」


 ウォール・マンティスは能力を考えるとかなりチートな魔物だ。


 地面や壁などに触れてさえいれば、水の中に潜るような感覚で逃げることができ、挙句そこからタイムラグ無しで斬りつけることができるのだから。


 だが逆に言えば、地面や壁に触れなければ逃げ道を失うと考え、その予想は当たったようだ。


 投げ出されたウォール・マンティスの細い腹の部分を思いっきり木刀で叩く。


 この時ばかりは剣の方が良かったと後悔するが、物は考えようだと、宿す魔力に変化を与える。


(木刀に流れる魔力を……刃のように!)


 地面へと一緒に落ちて行く中で、木刀に宿る魔力に変化を持たせる。


 地面に落ちれば、本能的にそのまま壁の中へと逃げるだろう。


 シドニエは空中に浮かんでいるこの短いに、そう判断した。


「――斬り裂けっ!!」


 ズバッと斬り裂き、ウォール・マンティスの身体は二つに裂かれ、悲痛を叫ぶ。


「おおっ! 仕留めたね」


 ボトボトっと身体は地面に落ち、バタバタと暴れている。


「き、気持ち悪い……」


「やりましたね。シドニエさん」


「は、はい」


 すると水路へ逃げ込んだ装甲オオムカデは、火を消し終え、そのまま銃口を向ける。


「シア! 火の魔法をお願い!」


 リュッカはそう指示を出すとシドニエと共に駆け出す。


「わかった! いくよぉ〜」


「お待ちなさい! 何か変ですわ!」


 ナタルが止める理由は、何やら紫色の煙が発生しているからである。


 リュッカとシドニエは、ガトリング砲の猛攻の中、止まるわけにもいかず応戦を続けるも、アイシア達はこの霧の正体を探るため、感知魔法を発動。


 すると、のたのたと動いていた魔力の塊が近くまで来ていることを確認する。


「この魔物達以外の奴だね」


「そうですわね。警戒を……」


 ナタルはふとウォール・マンティスのところを見ると、


「!? 皆さん! あのカマキリが……」


 そこには姿がなかった。


 この世界の魔物は基本消えることはないが、アミダエルお手製のこの魔物達はやられた時、人に戻る習性がある。


 だが忽然と姿を消したのだ。


 すると壁を走るカマキリの影がシドニエに迫る。


「キキキキ……」


 壁から出てくると、さっきよりも明らかにわかりやすい殺気が剥き出しとなる。威嚇音を立てながら鎌を振り下ろす。


「くっ!」


 シドニエはほんの少しだけ跳ぶと、回転しながら弾丸を回避しつつ、気配剥き出しのウォール・マンティスの顔面に木刀でなぎ払う。


「吹っ飛べっ!」


 先程のように研ぎ澄ますのではなく、力の限り魔力を込めて薙ぎ払った。


 その木刀がウォール・マンティスの顔がめり込んでいくと、ぐちゃっと弾け飛んだ。


 渾身の木刀の一撃にひょろい顔面が耐え切れるわけもなく、頭の吹き飛んだウォール・マンティスはピクピクとその場で痙攣(けいれん)している。


 シドニエはすぐ様、ガトリングの弾を回避するが、無防備なウォール・マンティスの身体はズタズタになっていく。


「後は……」


「このムカデだけです!」


 そう言って果敢に攻めるリュッカとシドニエだが、アイシア達は別の魔物を確認した。


「あれだね。ノロノロ君は……」


「ノロノロ君ねぇ……」


 足が鈍い理由にも納得がいく姿をしていた。


 軟体性の身体に触覚が二本、ひょこっと生え出ており、背中には大きな殻を背負っている――カタツムリだ。


 だがその殻には所々に噴射口があり、そこからモクモクと紫色の煙を発生させている。


「明らかに毒ですわね。――ウィンド・エンチャント!」


 毒ガスを吸わないようにするためにと、全員に風の付与を重複する。


「よし! こんな遅いカタツムリさんなら楽勝だね! ――舞い踊る火の精霊……」


「――ま、待ちなさい!! こんな毒ガスが溜まった場所で火の魔法なんて撃ったら、大爆発します!」


「へ?」


 アイシアはピタッと詠唱をやめた。


 このガスが可燃性のガスである可能性は極めて高い。


 リリアは火と闇属性持ち、アイシアも火属性持ち、ドラゴン達は属性は違えど火を吹くことは可能。


 つまりこいつの役目は火の攻撃封じ要員だと推測できた。


「じゃあこのノロノロ君、どうやって倒すの?」


「倒す必要はありません。ただこの毒ガスを何とかする手段を取らなければ、いずれ私達も待機部屋の亜人達も毒ガスに呑まれます」


 風魔法を使い続ければ、しばらく吸うことはないだろうが、ここは密閉された地下空間。


 このカタツムリが毒ガスを背中から吐き出している限りは、ガスが溜まり続ける。


 そうなればふとした拍子に吸ってしまう可能性も否めない。


 そしてこの魔物達やアミダエルは毒ガス対策は講じているだろう。


 するとそのカタツムリは、ぐばあっと口を開けると触手のようなものを飛ばしてきた。


「「!?」」


 咄嗟のことで反応できず、二人の足に絡みつく。


「きゃあっ!? ヌルヌルするぅ!?」


「き、気持ち悪い……」


「シア! ナタルさん!」


 その異変に気付いた二人は助けに行こうとするも、装甲オオムカデは行かせないつもりか、弾丸の猛追が続く。


「くっ! これじゃあ近付けません」


 二人の焦りを他所にカタツムリはゆっくりと二人を引っ張っていく。


「ど、どうすればいいの!? 私は魔法封じられてるし……」


「――風よ、引き裂け! ――ウィンド・エッジ!」


 これだけ細い触手ならと、初級魔法であるウィンド・エッジで攻撃してみるが、粘液が跳ねただけで切り裂かれていない。


「くっ!? アイシアさん、何とか踏ん張って下さい。私の風魔法で切り裂きます」


「お、お願い!!」


 アイシアは何とか地面の隙間に指をかけて堪える。


「――風の精霊よ、私の声を聞きなさい。幽幻に舞う亡霊の如く、姿なき刃よ! 引き裂け! ――ゲイルガイスト!」


 横に薙ぎ払うように風の刃が斬り付ける。


 さすがに中級魔法となると、ちゃんと千切れてくれた。


「ああっ!」

「ぬ、抜けたぁ!」


 カタツムリは、ピィーっという高いキーで叫ぶと、新しい触手が伸び出てきた。


 アイシア達は慌てて立ち上がり、触手を(かわ)す。


「二度目のヌルヌルは勘弁!」


「いやっ! ヌルヌルでなくて、呑み込まれそうになるのはです」


「ねえ? やっぱりぶっ飛ばさない?」


「――ダメです!!」


 そんなやり取りを聞いていたシドニエは、


「リュッカさん、あのカタツムリを何とかしてきます!」


「で、できるんですか?」


 そう言うと弾丸に追われながらもカタツムリに向かって走る。


 毒ガスもウィンド・エンチャントの影響か、かき分けるように通り抜けていく。


「シドニエさん!?」


 てっきり木刀での渾身の一撃かと思ったが、あっさり素通りし、アイシア達の前へ。


「ミューラントさん! あのムカデをお願いできますか? 直ぐに行くつもりではありますが……」


「わ、わかりましたわよ」


 とはいえ、リュッカを付け狙う装甲オオムカデの側に行くわけにもいかず、ここからの支援攻撃になるナタル。


「シド君。どうするつもり?」


「マルキスさんってエクスプロードは使えますか?」


「うん。使えるけど、毒ガスで大爆発しちゃうんだよ!? 知らないの!?」


 さっきまで自分も知らなかったことを、あたかも知っていたかのように話すアイシアに苦笑い。


「まあそれを利用するんです! ――ストーン・ポール!」


 詠唱する時間が欲しいと、先程から触手を伸ばして攻撃してくるカタツムリを、ひっくり返すように石柱が襲う。


「どういうこと?」


「エクスプロードは空間内で爆発を起こす魔法です。僕があのカタツムリを閉じ込めるように地属性の魔法で閉じ込めますので、その空間内を意識してエクスプロードを!」


「なるほど! わかった!」


 ナタルもシドニエの思惑に気付いた。


 この毒ガスを吐くカタツムリをドーム状の岩壁で包み、空間爆発を起こせるエクスプロードでその内部で爆発するよう促す。


 これならばその閉じ込められたカタツムリはその密閉された毒ガスとの相乗効果で更なる爆発を生み、さすがにただでは済まないだろう。


 だが心配なこともある。


「それ大丈夫ですの?」


 その問いに察しがついていたのか、シドニエは即答する。


「二重にするので問題ありません」


「……わかりましたわ!」


 カルディナの言っていたことは間違いではなかったと、確信を得る瞬間であった。


 シドニエは引っ込み思案であまり意見の主張のできない人物ではあるが、そのせいか考える癖がある。


 それに加え、北大陸へ忍び込んだことやリリアと過ごす経験から、それをしっかりと学び活かせていることが手に取るようにわかる。


 特にあの挑発は、シドニエが変わったことを物語るには十分な出来事であった。


「――地の精霊よ、僕の呼びかけに応えよ。巨人の盾よ、魔を宿せし者の叫びをもかき消す無情の檻となれ。創造せよ! ――ストーン・フォートレス!」


 毒ガスカタツムリが起き上がれない隙に、その周りから岩が盛り上がり、ドーム状で囲い、閉じ込めた。


 するとシドニエは更に詠唱を続ける。


「――重ねよ、再び呼びかける。――ヴァリアブル・フォートレス!」


 そう唱えると、一枚目のドームを更に囲むようにドームが形成されていく。


「マルキスさん!」


「わかってるよ!」


 アイシアはヒュンヒュンと杖を振り回すと、カツンと地面を突く。


「―― 舞い踊る火の精霊よ、我が声に耳を傾けよ。万物を破壊し、焼き尽くす焔の豪炎よ。我が力を示すものとし顕現せよ! 灰塵とかせ! ――エクスプロード!!」


 毒ガスカタツムリが閉じ込められた岩壁の中から、爆発音が聞こえる。


 誰にも届かぬ悲鳴を上げながら、カタツムリは身を滅ぼしていることだろう。


 そして一枚目の岩壁はエクスプロードの衝撃に耐えられず破壊されたが、一枚目がいいクッションになったおかげか、作戦通り二枚目が一枚目の破片と衝撃を受け止めている。


「倒したでしょうか?」


「さあ?」


 まるで具合を見るようにきょとんとする二人は、その岩壁を取り除くと、黒焦げの物体と破損した殻が飛び散っていた。


「倒したみたいですね」


「だねー」


「――だねー……ではありませんわ! こちらも手伝って下さいな!」


 呑気な会話をするアイシア達に強く呼びかける。


 リュッカとナタルは防戦一方になっている。


 その理由は装甲オオムカデを見て理解した。


「武器が増えてる!?」


 装甲オオムカデの関節部分からもガトリング砲が出ており、乱射する様は完全にバーサーカー状態。


 アイシア達の爆発音に驚いたせいもあってか、更に興奮状態となり、リュッカ達の周りを動き回りながらガトリング砲を撃ちまくる。


「とりあえず私の風魔法で弾道を逸らしていますが、限界があります。何とか動き止めませんと……」


「なら僕の魔法で動きを止めましょうか?」


「私の魔法で……」


「――アイシアさんは却下! シドニエさんの採用で!」


 しゅんとするアイシアだが、まだ毒ガスが散漫している状態で火の魔法は厳禁。


「――地の精霊よ、僕の呼びかけに応えよ。巨人の腕よ、剛腕を振え! 意思なき鉱物に魂の形を成す。突き立てよ! ――グレイブ・ラッシャー!」


 地下道の壁から長方形の石柱が次々と装甲オオムカデに殴りかかると、堪らずに逃げ惑う。


「よぉしっ! このまま潰しちゃえ!」


「は、はい!」


 アイシアの言う通り、下手に近接するよりは余程いいと、魔力を注いで追い討ちをかける。


 だが装甲オオムカデも必死というよりも、半ば暴走しているせいか多少押し潰されても、強引にこちらへ向かってくる。


 武装魔蟲のドーピングが酷く効いているようで、口から泡のようなよだれを吐きながら突っ込んでくる。


 シドニエは後ろにいる彼女達を守るために、魔力を込めて石柱で多方向から攻撃し続ける。


「止まれぇーっ!!」


「キシャアアッ!!」


 装甲オオムカデの顔面を挟み込むように、上下から思いっきり石柱で挟んでみせると、その石柱の後ろからバタバタともがく足音が聞こえるも、どんどん弱々しくなっていく。


 そして――、


「終わった……かな?」


 暴れる様子がなくなったのか、装甲オオムカデは生き絶えた。


「やったね」


「はい!」


 すると装甲オオムカデは人型の姿へと変わっていく。


「!」


 頭の潰れた死体の出来上がりである。この死体を見て他の者はと見渡すと、頭が吹っ飛んだ獣人の死体のみあった。


 毒ガスカタツムリは黒焦げでバラバラになったせいか、人の形に戻ることもなかったのだろう。


 改めてこの光景を見て、激しい憤りと悔しさが腹の奥から湧き立つ。


「許せない! こんなこと!」


「うん。そうですね」


「さて、他にも何か来てい――」


 ドスッという肉を貫く音が、耳に絡み付いてきた。


 その方向を見た時には、居たはずのナタルの姿がない。


 その時、ポタッと三人の額に鮮血が零れる。


「……あっ、あぁああっ!!?」


 サソリの尻尾のようなものに刺され、天井付近まで持ち上げられているナタルを目視した。


 敢えて急所は外したとばかりに右肩付近が貫かれている。


 ナタルは必死に抜け出そうと試みるが、上手く力が入るわけもない。


「ナっちゃん!?」


「――シアっ!!」


 ヒュンと暗闇の中から更にサソリの尻尾が襲ってくる。


 咄嗟にアイシアを突き飛ばし、リュッカも何とか回避した。


「ヒェヒェヒェ……会いたかったよぉ――クソガキどもぉお!!!!」


 そこには黒いローブで全身を包み、腰の大きく曲がった老婆の姿があった。


 そこから覗かせる表情(かお)は、怒りに支配されており、目が血走っている。


 この発言と声、憤怒の表情、サソリの尻尾が生えていることから、アミダエル本人だと理解した。


「アミダエル……」


「そうさね、クソガキ共ぉ! よくもアタシの可愛い虫共を()ってくれたねえっ!」


 ナタルから尻尾を無造作に抜き取り、ナタルはそのまま地面へと落ちていく。


「ナタルさん!」


 リュッカがキャッチするが、身体を貫通されたせいか、出血が酷く、息も荒い。


「気をしっかりっ!」


 するとアミダエルはシドニエを指差す。


「言ったろ? メスガキ共の悲鳴を聞きながら、絶望して死ねってさあっ!!」

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