06 エルフ達の危機
転移を行い、ヴィルヘルムの里へとたどり着いたディーヴァ達は、赤、青、白、黒の隊を広場に集め、天空城でのあらましを全て語った。
「そ、そんなことが……」
「全てそのクルシアとかいう者の差し金ではないかっ!!」
「「……」」
緑の戦士隊であるウィントと族長、リヴェルドを失うという悲報に加え、エルフの種族の滅亡のシナリオを打ち出されては怒りと不安を覚える。
話しているディーヴァ達ですら、これからの行動をどうすれば良いのかわからない。
「更には我らが神である妖精王様もそのクルシアという人間の手に堕ちた……それで合っていますか?」
白の隊長メリクリスは眉を顰めて尋ねると、こくりと無言で頷いた。
するとメリクリスは苦悶の表情を浮かべ、その美しい真っ白な肌と瞳に影を落とす。
「ならばやはり真っ向から戦わなければ! これ以上の人間の暴挙は許されない!」
赤の隊長アルビスはここまでされては、最早正面からぶつかるしかないと舵を取ろうと率先した意見を述べるが、
「待ってくれ、アルビス。人間がどれだけ狡猾かわかっているだろう。僕らがここまで追い詰められる状況になっているのもそのせいだ。もっと慎重な対応を……」
「何か手があるのか、レギンス」
「それは……」
青の隊長レギンスはその美形な顔を曇らせると、黒の隊長アーキはフンと鼻を鳴らす。
「そもそも人間と手を取り合おうなどということが愚かだったのだ。人間がどれだけ穢らわしい生き物かはっきりしたではないか。我がダークエルフの誇りに賭けてヴァルハイツを討ち滅ぼし、この里を平和へと導こう」
そのあまりにも単調な考えにディーヴァ達は悔しそうに歯を食いしばる。
アルビスがその意見に同意する中、そんな考えで相手できるほど生易しくはない。
それどころか、遥かにエルフの方が劣っている。
自分達が長命種であることをここまで呪ったことがあっただろうか。
考えが凝り固まり頭が良いせいか、自分よりも寿命のなく、横暴な行動が目立つ人間をどうしても見下してしまう。
それが破滅を呼んでいることなど知らずに。
クルシアのコメディアンと言うセリフが痛いほど突き刺さる。
「――いい加減にしてくれ!」
「「「「!」」」」
「人間がどうとか言っている場合ではないんだ! このままだと本当にエルフは滅びるぞ! わかってんのか!?」
「に、兄さん……」
シェイゾが声を荒げてそう語るが、エルフが強いと誤認している二人は自信を持って話す。
「不安になるのもわかる。だが我らが人間に劣っていることなどない」
「そうさ! 欲深い考えしか持てない人間に俺達が劣ることはない。それにエルヴィントの森の加護もある。先祖様は見守ってくれているよ」
「それが怠慢だと言ってるんです! 現実を見て下さい!」
まだ納得しないのかと、アーキは目付きを鋭くする。
「エルフに奴隷にされた者達が何人いるか知っていますか? どれだけの者達が魔物に変えられ、殺されたか知っていますか? 貴方達にはウィント隊長、族長、リヴェルド様の死体が見えなかったんですか!? いい加減、精神論だけで語るのはやめて下さい!!」
「精神論だと……? 俺達は人間より優れた種族だ! 知能も魔力も魔法の技術だって――」
「さっき話したクルシアという少年は、あまりにも劣りすぎて笑い者だよと簡単に意趣返しをされましたよ!!」
「な、なに?」
思わずディーヴァを掴み上げた手を話すと、バチンと手を振り払うと、本当は言いたくなかったがと、クルシアのセリフを話す。
「クルシアは我々は古臭いコメディアンだと嘲笑ったのだ。ただの耳が長いだけの笑い者だと……」
「なんだと!?」
先程、天空城での事情を話す際に会話の内容は言っていないことから、そのような会話をしていたことにはらわたが煮えくりかえる。
「だが! その通りだと思ってしまったのだ! あの人間の狡猾さ、強さ、技術力……我々がこの森の加護をかまけて引きこもっている間に、人間はどんどん進化している。私達はどうだ!? 戦わないことを美徳とし、自然の恵に感謝し、維持すること……決して悪いことではないし、むしろいい事だ。だが、それを守るための技術があまりにも怠慢だ! それを嫌というほど思い知らされた!」
クルシアに散々馬鹿にされ、暴れる妖精王を止められず、アルビットからは追い討ちを食らいそうになる始末。
今までの森の中での頑張りを意図も簡単にへし折られたのだ。
パキッと小枝でも折るように。
「そして今回も理不尽に今度は……守り続けてきたものを奪われるだけでなく、歴史からも姿を消されそうになっている! もうわかりますよね!?」
「……っ」
アーキは反論しようと口をパクパクとするが、言葉が出てこなかった。
ダークエルフはエルフでも最強種。
だが前例にダークエルフの集団が人間にあっさりと殺された事件を知っている。
いくら見下していようと、ディーヴァの全てが当てはまっていることをはっきり口にされると言い淀んでしまった。
「このまま貴方やアルビスさんの考えの下、森の加護を盾に戦いを挑めば、本当に耳が長いだけの笑い者です。それどころかあんな風に天空城を落としたという濡れ衣は一生拭えない。歴史に最悪の種族として名を残すことになります」
「!?」
「ま、まさか……そのクルシアという少年は……」
「そこまで考える人間だと勇者は言っていました。考えを変えない限り、私達は先祖に顔向けができないまま絶滅します」
軍事力のあるヴァルハイツのことだ、今までやろうとしなかっただけで、その気になればエルヴィントの森など伐採するなり、焼き払うなりしてくるはずだ。
ましてやこちらから宣戦布告した形になっている。向こうはもう容赦してこない。
やっとことの重大さがわかってきたのか、アーキはドサっと力無く尻込みをつく。
集まったエルフ達もシンと静まる。
「だから我々はもっと考えねばならないんです! 今までのプライドを捨ててでも生き残る方法を! どれだけ泥臭くても、それが意にそぐわないことでも、笑って生きていくためには、もう古い考えを捨てなければならないんです!」
「それでもいい」
「は?」
その言葉はとてもディーヴァの意見に賛成した物言いではなかった。
「我らがエルフの誇りを捨て、生きることなどそれは死んでいることも同じ! 確かにお前の言う通り、人間は強大になってしまったようだが、それでも……心まで人間に負けたつもりはない!」
アーキはダークエルフとして誇りを捨てられないと、やはり精神論を語る。
「貴方という人は……!」
するとその意見が真っ二つに分かれたのか、集まったエルフ達、ダークエルフと一部エルフ達はアーキについて行くと叫ぶ。
「ディーヴァ。エルフの誇りを捨てたければ好きにすればいい。俺達が人間に屈することはない。我々はエルヴィントの森と我が里の先祖達と共にある! 俺と共に戦ってくれる者はついて来てくれ。人間達を迎え打つ作戦を立てる」
「アーキ!?」
そうして賛同したエルフを引き連れる中、アルビスもアーキ側についた。
「悪いな。俺もエルフとして戦うぞ」
半数以上のエルフ達がディーヴァ達の前から姿を消した。
「くっ……どうしてぇ! どうしてなの……」
人間の恐ろしさを知る自分達の言葉なら留まってくれるだろうと考えたのに、残ったのはディーヴァ、エフィ、ナディ、シェイゾ、レギンス、メリクリスと少人数のエルフだけ。
「……私達だけでも何とか生き残る方法を考えましょう」
「安心していい。僕らは君達の意見には賛同だ」
レギンスとメリクリスだけでもわかってくれて嬉しかったのか、涙が出てくる。
「泣いている暇などないぞ。アレを止めることも考えなくてはいけなくなった」
「い、今からでも止めにいく? 兄さん……」
「無駄じゃないかしら?」
聞き覚えのない声が森の茂みから聞こえると、一同武器を構える。
すると現れたのは茶髪ウェーブの人間の女の子が顔を出した。
警戒心を強める中、更にごそっとエルフの子供が現れると、後ろから同行者がぞろぞろと出てくる。
「お前ら! それにフェルサも……無事だったか!?」
「うん」
「久しぶりね。分かれて以来かしら?」
「お知り合いですか?」
「あ、ああ。俺達がこの南大陸に帰ってくるのを手助けしてくれた冒険者だ」
ジード達はぺこっとお辞儀をすると、さっきまでの騒動を途中からだが見ていた。
「随分と揉めてたようね。エルフは結束力のある種族だと思ってたけど?」
「そ、それは……」
「ああっ! いい! いい! 大体の事情は察してるから。そのために来たんだしね」
するとサニラは記憶石を見せてくれた。
そこにはディーガルの演説の様子が映っていた。
「こ、これは……」
「向こうさんはもうやる気みたいだぜ。手紙にもそう書いてあった」
エアロバードを使い、情報を受け取っていたジード達は、もうヴィルヘイムもエルヴィントの森も危険でしかないことを通達するものであった。
「二、三日も有れば準備が終わり、近々戦争になるわよ。しかも悪いお知らせ。ヴァルハイツにいるエルフを含めた亜人種も地下に囚われ、抹殺命令が出たわ」
「な、なんという……」
ディーヴァ達はやはり自分達が思っている以上に話が進むのが早いと、不甲斐なさに落ち込むが、
「でもその地下の心配はしなくていいわ。アイシア達が何とかするそうよ」
「えっ?」
「元々俺達はヴァルハイツを内面から切り崩そうと考えてたんだ。本当なら俺達もアミダエルって奴と戦うつもりだったが……」
ぽむんとオウラとエミリの頭を撫でる。
「コイツらを保護しちまったからな」
「ごめんな、バークの兄ちゃん……」
「ごめんなさい……」
「ばぁか! ガキが変な気使うんじゃねえよ。兄ちゃん達が勝手に助けたいって思って助けたんだ。悔いなんかねえよ」
生意気なと髪をわしわし。
その様子を見たディーヴァ達以外のエルフ達は、呆然とその様子を見ていた。
実際、人間を見るのが初めてな者達も多く、正直印象としている人間像とは違い、困惑する。
しかもエルフの少女がバークやサニラに懐いているところを見るに、悪い印象は薄れていく。
するとメリクリスは子供達の目線に合わせるよう屈んで尋ねる。
「この人間さんは貴方達にとってどんな方ですか?」
その質問にくるっとお互いに見合わすと、ニコッと笑った。
「あのな! バークの兄ちゃんはカッコイイんだぜ! 俺達が魔物に襲われてた時、助けてくれて、一緒に戦ってもくれたんだ!」
「う、うん。バークお兄さんもサニラお姉さんもジードおじさんも良い人。あの町の人とは全然違う」
おじさんと言われたジードは、うぐっとちょっとショックを受けたが、好印象で何よりと涙を飲んだ。
何せエミリは冒険者を怖がっていた節があった。
ここまでの旅路の間に少しでも信用してくれたのは有り難い。
するとメリクリスは、
「そうですか……」
優しく撫でると、すくっと立ち上がって頭を下げた。
「我が同胞をお救い頂けたようで、感謝致します」
白の隊はどよっとなったが、その謝礼の意味はわかっている。
「そんな固くならなくてもいいです。我々が勝手にやったことです」
「それでも感謝を……」
子供の笑顔と言葉ほど信用できるものはあるだろうかと、レギンスも軽くお辞儀をすると、要件を尋ねる。
「ここに来られた理由は、この戦争のことが関係しているのですね?」
「はい」
するとムジャナがペコっと挨拶をする。
「皆様には獣人の里への移住をお願いしたい」
「!? よ、よろしいのですか? 私達の事情はわかっているでしょう!?」
「そんなこと、こちらの神獣人さんもご存知よ。だけど獣人族もクルシアの陰謀だってことも理解してる。だから表沙汰にはならない程度に保護はするってわけよ」
エルフ達の民の中には、そのサニラのセリフに意を唱える。
「わ、我々を助けてくれるのか?」
「……やれることの限界はある。事情を、なんてセリフが出てきたってことは、どんな危ない橋を渡らされているか理解しているのでしょう?」
その答えは落ち込んでシーンとする静寂が答えてくれた。
「ならいいわ。私達が立てた計画はこうよ」
サニラの口からエルフ達の救出作戦の概要が話される。
レイチェルもハイドラスの発言を聞いて、エルフ達が逼迫した状況に陥ると考え、エルフの里を抜け出し、獣人の里への移住を提案した。
幸い、エルヴィントの森は広く、ヴァルハイツが監視下においている区域からエルフの里を観察することは難しい。
そのエルヴィントの森を通って獣人の里まで移住すれば良いというだけの話だが、誰もいないでは勘付かれる可能性もあるのと、戦力を削ぐためにこの里での迎撃する役としてジード達とムジャナがエルフの戦士達と共に戦うという形にしようと話をつけた。
ヴァルハイツからすればヴィルヘイムの里を落とすことに戦力が注がれるであろうことから、足止め役を担いたい考えがある。
その戦力を削いでいる間に、ヴァルハイツではアミダエルを引っ張り出し、ディーガルの悪事を暴露し、エルフの誤解を解きやすくすることが目的となる。
正直、貧乏くじだとサニラは苦笑いを浮かべたが、レイチェルかハイドラスあたりからふんだくってやると息巻いている。
「――つまり貴方達の助かる方法は誤解を解くこと。あの天空城の件が自分達のものじゃないと証明することよ」
「それをアミダエルとかいう者のせいにすると?」
「そうです。あの天空城の件はディーガルを中心に行われた自作自演だったと民衆達に印象付けさせます」
穏健派の町を潰したということもあり、アミダエルの証言さえ取らせられれば可能だと話す。
「生物兵器なんて容認していたディーガルだったもの、妖精王の暴走もそうさせたんじゃないかって印象を与えることは難しくない。そうすれば民衆は疑問に思うわ。エルフは利用されただけなんじゃないかってね」
「そこでレイチェル様の登場だ。彼女はヴァルハイツの王女殿下だが、獣人種とエルフ達によって国王やディーガルの裏を暴き、民衆を味方につけたレイチェル様が政権を奪うといったシナリオです」
というのをナタルのエアロバードを伝書鳩代わりに渡した、通信用の魔石で連絡し、決めた計画である。
こういう時に鳥型の魔物は便利である。
「そのための避難か……」
「そうよ。人間と共に生きられるというエルフを示す必要があるわ。途中からだけど、少なくともここにいるエルフ達は人間に対する強い敵対心はないと見たのだけど、どうかしら?」
光明が見えてきたことから、敵対心はないのだと沈黙で返答。
「なら貴方達は獣人の里へ急ぎ、避難なさい。案内はこの子達とムジャナさんが先導するわ」
「任せられるな?」
「おう! 任せてくれ、バークの兄ちゃん」
「う、うん! 私、頑張る」
するとメリクリスは困った様子でサニラに尋ねる。
「あの他の者達にも今の話を。なんとか説得してみせます」
それは先程、プライドを捨てられないと言ったエルフ達のことだろうと、あっさり浮かんだ。
「それはいいわ。彼らには犠牲になってもらいましょう」
「「「「「!!」」」」」
サニラの衝撃的な言葉にエルフ達はどもめく。
「おいおい……」
「私達が助けるのは差し伸べた手を取れるエルフよ。それを拒んでいるエルフが仮にこの騒動を乗り越えたとしてもエルフ達に対し、あまりいい影響を与えるとは考えにくいわ。不穏分子はここで退いてもらいましょ」
「お前ってその辺、ほんっとドライだよな。可愛くねえ」
カチンときたのか、いつもの足踏み。
「――あだっ!?」
「悪かったわね! 可愛くなくてっ!」
「……全員を助けられないと?」
レギンスが悲しい表情で申し訳なさそうに視線を落とすと、キッとサニラの目付きが鋭くなる。
「甘えてんじゃないわよ。元々は貴方達が人間を理解しようとし、手を取って信用を築き上げていけば、こうはならなかったのよ。それなのに都合の良い時は人間に助けては甘えでしょ」
「そ、そんなつもりで言ったわけじゃないんだ。全員助けられないのはわかってる。これから戦争なんだ、犠牲者が出ないなんて甘えた考えはない。だけど、一人でも多くのエルフが救えるならと……」
「私達もできるなら助けたい。ですがあの様子を見るに、こちらの言葉には耳を傾けないでしょう。なら、彼らの思うようにやらせてあげましょう」
所謂囮りだ。
自分達が助かるための必要な犠牲。
「まあでも俺達だってそいつらと混じって戦うことになるんだ。助け合ってるうちに打ち解けてくさ」
「そんな男臭い展開がエルフにあるとは思えないけど……」
「そういう死地を乗り越えたら的なヤツだってあるんだよ! ね? ジードさん?」
「えっ!? あー……そうだね」
あるといいねと困った笑顔を見せるが、そんな余裕はないとフェルサが話す。
「説得するにしても時間が惜しい。フェルシェン付近のエルヴィントの森の出入り口はヴァルハイツの騎士達で封鎖されてる。おそらくこの調子でこの里を囲うようにエルヴィントの森の周囲が固まっていく」
「だから行きなさい! 貴方達の未来のためにも!」
「……わかりました」
するとディーヴァとエフィ、シェイゾは動かなかった。
「ちょっと。貴方達も行きなさい」
「悪いがそうはいかない」
「ああ。我々も残る」
「はあ!? 人の話聞いてた? アンタ達エルフは一人でも多く生き残らなきゃダメなの! それに向こうもどれだけの戦力を投入してくるかわからないの!」
相手はヴァルハイツの騎士隊。しかも生物兵器まで使用してくる可能性も考慮しなければならない。
「だったら尚更だよ! 私達も戦力になるよ」
「頼む。私達も戦わせてくれ」
するとメリクリスとレギンスもと声を上げるも、
「貴方達はこれからのエルフ族を導かねばなりません。この場で戦うことより大変なことを押し付けるのです。言って下さい」
ディーヴァは信じて欲しいと真剣は眼差しを送る。その瞳にはしっかりとした覚悟と生気を感じる。
先程の絶望していた表情はない。
「兄さん……」
「ナディ、お前も行け。兄さんは大丈夫だ」
「でもっ!」
「大丈夫だ」
いつもなら自分の側を離れたくないという兄が、はっきりと大丈夫だと口にした。
これ以上はきっと引き止められないと思った。
シェイゾのことをわかっているからこそ、ここは踏みとどまり、抱きしめた。
「わかった。信じてる……兄さん」
「ああ……」
シェイゾもナディをしっかりと確認するように抱きしめる。
「サニラ。これ以上は無粋だ。彼らにも戦ってもらおう。実際、私達だけでは不安だからね」
「まあ、そうですけど……」
「まあとりあえず――暴れてやろうぜ!」
「うん!」
ジード達もまた具体的な戦力確認とエルヴィントの森対策、ヴァルハイツ側の戦力の投入予想などあらゆる視点からの話し合いが始まり、一部のエルフ達はオウラとエミリ、ムジャナの案内の下、避難を開始する。
***
「いよいよか……」
不敵な笑みが零れに零れて堪らない様子のクルシア。
「しかしまあ、焚き付け方が上手いな、クー坊」
「でしょお? いやさ、アレが面白くってさあ……」
妖精王を指差しながら、また話そうとするが、聞き飽きたと突っぱねる。
「それよりヴァルハイツはどう動くかねえ? 自国の亜人種共はまあ、あの婆さんにやらせるにしても、ヴィルヘイムと妖精王のどちらにも戦力を裂いちゃあなあ……」
「ま、妖精王は動きが止まってるし、さっさとヴィルヘイムを落とす気なんじゃない? 第三勢力の思惑を見逃さないことが前提だけど……」
「第三勢力ねえ……」
するとクルシアは楽しそうに高揚した声を上げて笑う。
「アッハハハハハッ!! ま、事の元凶たるボクは高みの見物だけどね」
「それだが、アルビットの奴は良かったのか?」
「ん? んー……良くはないけど仕方ないよ。だってボク、ちゃんと忠告したしね」
クルシアにとってアルビットは結構貴重な魔法が使える部類だったが、割り切りも早かった。
だからこちらについても尋ねることにした。
「あの攫い屋の嬢ちゃん達はどうするつもりだ? 一応、ヴァルハイツ軍と同行させてるが……」
「決まってるじゃない! この戦争を盛り上げる引き立て役に是非なってもらおう」
まだちょっかいを出す気なんだと思う反面、自分も奴らと同じ雇われの身。
もしかしたらと悟るが、クルシアはニコッと笑う。
「大丈夫だよ、ザーちゃん。君とボクの仲じゃないか。彼はともかく彼女達のように使い捨てにするつもりはないよ」
「使い捨てか……」
この戦争であわよくばクルシアを楽しませる散り役として、投入する腹詰まりなのだと寒気が走った。
「それよりいいんですか? アミダエルのところ、彼女らが攻めるようですけど……」
バザガジールがヴァルハイツ本国について尋ねると、頭の上で手を組む。
「ああ、あの婆ちゃんなら大丈夫だよ。それに……」
口元が大きく緩む。
「その時はその時さ」
バッと立ち上がり、クルシアは天を煽ぐ。
「――さあっ! お膳立てはしたよ! 素敵な戦争と洒落込もうじゃないかぁ!」
このセリフを吐いた後、唇が少し渇いたのか、舌舐めずりをした。




