05 演説
――ざわざわと人々がヴァルハイツの大広場にて集まる。そこには壇上が用意されている。
ヴァルハイツの住民はできる限り集まるよう、連絡があった。
国民達が考えていることは一つ。天空城の件である。
何せ天空城にて潰された町はヴァルハイツ出身の者がほとんど。
否応にでも噂は広まる。
「アレはエルフの仕業なのだろう?」
「あんな恐ろしいことを……」
「勇者様が助けてくれたとか……」
「ディーガル様ならきっと……」
色んな意見や不安が交錯する中で、ジャッジメントと騎士達がその壇上下に整列する。
ノート、オールド、マルチエスが顔を揃えている。
だがそれだけしかいないことに国民は更なる不安を抱える。
ジャッジメントは六人存在している。その内の一人はフェルシェンにてエルフ達の動向を見張り、騎士達の陣頭指揮をとっている者が欠席。
キリアは妖精王に殺され、ルミィナはレイチェルの元で保護を受けている。
だがその不穏な雰囲気を消し飛ばすかのように、威風堂々と壇上に姿を見せるディーガルの表情は険しいものだった。
その威圧的な表情に集まった国民達はシンと静まり返る。
「皆、急な呼びかけに対し、これだけの者達が集まってくれたこと、誠に感謝する」
表情とは裏腹に先ずは落ち着いた物腰で話を始めた。
「さて、皆を集めた理由は他でもない。グリーンフィール平原に落ちた天空城の話をするつもりだ。だからこの話をするにあたって皆、落ち着いて聞いて欲しい」
本来なら国民にすべき話ではないだろう。
恐怖心を煽り、不安を駆り立てるだけになるはずなのだから。
だがあれだけの事件だ、情報を隠蔽することが難しいと判断したのだ。
すると先ずは謝罪のためか頭を下げた。
「先ずはあの町を守れなかったこと、申し訳なかった。住民に被害が少なかったとはいえ、住み慣れた故郷を失うことは悲痛であっただろう」
深々と誠意の伝わる謝罪態度に、特に野次が飛ぶことはなく話は続く。
「だが我々としても予期せぬ事態であった。避難民達も勇者様のお側に居られる精霊様の避難勧告がなければ気付かなかったという。おそらくは町全体に幻覚の結界が張ってあったものと思われる」
勇者、精霊と少しずつ情報が開示されていくせいか、会場は再びどよめき始める。
「そしてその肝心な天空城であるが、アレを落としたのはエルフである!」
はっきりと断言した言葉に不安を隠せない国民達は、不安と疑心を口にするが、ディーガルは気にせず情報を開示する。
「潰された町の住民達は、私達の考えに賛同できず、亜人種と交流を行なっていた者達の集落であった。確かに私の政策は過激、苛烈であり、人徳に害するところはあるだろう。ここに集まる国民達もまた、全員が私の考えに賛同しているわけではあるまい。――だがっ!」
壇上を強く叩き、怒りを露わにする。
「我がヴァルハイツに逆らってまで差し伸べた手を、エルフ共は死を与えることで応えるという、考えられない行動に出た! まるで見せしめでも行うかのように! 彼らは嗤ったのだ! 手を差し伸べる人間を道化と嗤い、死を与えようとしたのだ! 更には自分達が神と崇める妖精王はそのエルフ達の望みを叶えるかのように、我らの領土を奪いながら死を撒き散らしている。……現に我らが誇り高き騎士達の多くが死に絶え、本来なら並び立つであろうキリアの命も絶たれた」
そのエルフ達の残忍性を突きつけられた国民達は言葉を失う。
エルフとはそこまで非情になれる生き物であるのかと……。
そんな感情に揺さぶられた国民達にとどめを刺す。
「エルフ達は虎視眈々と我らの命を奪う準備が整っていることだろう。あの忌々しい迷い森の奥でひっそりと。そこで皆も疑問に思っているだろう、何故エルフがここまでの残忍性を持っているのか……」
国民達の中にはエルフを同じ人種として見ている者もいれば、人種の奴隷として都合がいいとも考えている者もいる。
「簡単である。魔物を神と崇めている者達が死を信仰化することは当然である。妖精王は原初の魔人、元は魔物である。その教えを説き、神聖化してきたエルフ達が残酷で残忍で非情なことは魔物の教えがあったからである!!」
さすがに魔物の子であるという宣言は控えた。
ここまでの情報でさえ、国民達は酷く動揺しているのに、これ以上の情報開示は無意味である。
それどころかそれを知っていたのにと非難される可能性の方が高い。
信仰心ということならば、こちらは対処が難しいと考えてくれるだろう提示。
「エルフ達が今まで小競り合いで済ませてきたことも、この天空城での宣戦布告を行い、我々に恐怖と悲しみ、絶望を与え、蹂躙することをずっと先まで考えていたのだ! あの長い寿命を持つエルフであれば、たかだか数十年、数百年は軽い時間であろう」
ディーガルのその意見に説得力しかないと、国民達は息を呑み聞き入る。
「だが! その陰謀はかの勇者、ケースケ・タナカ様の末裔であるアルビオ・タナカ様がその事態を予知し、お救い下さったのだ!」
その勇者という言葉に、おおっ、と少し歓声が上がるが、
「だがその勇者様も天空城の落下に巻き込まれ、瀕死状態へと追い込まれてしまった。今は優秀な治癒魔法術師達が懸命な治療を続けている」
その歓声のトーンは落ちる。
「だがこれではっきりしたはずだ! エルフ達はかの勇者ケースケ・タナカ様とも親交があったはずだ。その時は勇者様はエルフの味方をして守ったと聞く。だが! それすらも踏み躙った! 勇者様の素晴らしい志も、あの耳が長いだけの愚か者達には響くことなどなかったのだ! それどころかその子孫にあたるアルビオ・タナカ様のお命すら奪おうとした! 由々しき事態である!」
会場の空気はどんどんディーガルの意見に賛同する形に変わっていき、エルフ達に対する怒りで支配されていく。
「私が今までやってきた亜人種達への仕打ちは私自身、その本質に気付いていたからである。私は家族をエルフに奪われた。あれから私は亜人種に対し、私情もあったであろうが、厳しくあたった。私はその行いが正しかったのだと考えている。皆はどうだろうか!? 私は間違っていただろうか!?」
その問いに国民達は、賛同の意見が次々と飛んでいく。
「魔物を崇め、それを正義と信じ、我らに死を与えんとするエルフ共は正しいのか!?」
ディーガルの問いに国民達は感情を激化していく。
「我々人間の慈悲が届かぬエルフ達に、我々は本当に手を差し伸べる必要があるのだろうか!?」
「そんな必要はない!」
「心無いエルフ達なんて死んでしまえばいい」
「あんな奴を側に置いていたなんて、なんと不気味な……」
ディーガルの言葉に踊らされるように、エルフ達に対する不快感を口にする国民。
だがここまで煽っておきながらもディーガルは落ち着くよう促す。
「皆の怒り、不快、不信、我々にしっかりと届きましたぞ。だからこそ落ち着いて欲しい。我々はエルフではない。心を持ち、慈悲に溢れた種であることを忘れないで欲しい。寛大な心を待ってエルフ達と向き合わねばならない」
するとここである政策を宣言する。
「国王様はこの時を持って、亜人種に対する奴隷制度の破棄を宣言され、亜人種達を魔物と認定。これより慈悲を持ってエルフ共の抹殺を行う」
その宣言にはさすがに俺達も予想はしておらず、城の中にいた俺は身を乗り出す。
「おい!!」
「これはマズイわね」
俺達が焦り、行動を急ぐ中でも演説は続く。
「この国の亜人種達は全て地下道にて閉じ込めているはずだ。今、地上にて使いを出している者は至急、地下へと戻してほしい。準備が整い次第、地下を封鎖し、魔物同士での殺し合いを行わせる」
元々生物兵器を地下道へと徘徊させているのだ、その魔物達と亜人種達を殺し合わせる腹だと、非情とも取られるこの方法も、エルフが魔物と信仰があると言われた後だと国民達の感覚も麻痺しているようで、同意の歓声が響く。
「地下が封鎖されたら、私達侵入できないよ!?」
「それなら問題ありません。ディーガル様に地下への出入り口の警護を任されています」
今、演説の席にいるはずのオールドがそう答えた。
「……なるほど。だから地下道の地図もできたわけだ」
俺達はオールドの得意とする魔法を目の当たりにし、納得の言葉を口にする。
目の前にいるのもオールドそっくりの姿をしている。
彼女は地属性の精神型、得意とするのは岩や木々という地属性が最も得意とするジャンルではなく、砂や土といった細かな形状の物を操ることを得意とする。
その中で、自分の意思疎通が可能な泥人形を生成する魔法を編み出し、ジャッジメントに採用されたという。
実際、オールドのような魔術師を兵隊として並べ立てることができるのは、かなりの兵力であり、防御を得意とする地属性ならば国の警護はお手の物である。
地下道の散策もジャッジメント権限での見回りから行なったものであり、正に職権乱用である。
そしてそれを見極め、手駒にしてしまおうと考える狡猾なファミア王女殿下はさすがの一言である。
正直、敵に回したくないし、俺が殿下の立場なら裸足で逃げてしまいたい。
「とはいえ侵入は夜になりますね。魔物達を暴れさせる気なら、地下の者達の避難誘導も……」
「それは難しいぞ、ナチュタル。あの演説をされているのだ、外に出れば真っ先に通報され殺される」
そのための演説集会とも捉えられる。
なんとも周到なことだ。
「でもこの騒動はチャンスでもあるよ」
「チャンス!? 何を言ってますの!?」
「良く考えてもみて。この地下道にはアミダエルの研究施設に繋がってる。散々亜人種で生物兵器を作ってきた奴がみすみす亜人種達を殺すこのことを許すと思う?」
「確かに……」
「つまりはさ、本人が出て来る可能性があるってことだよ」
アミダエルについては極秘事項のはず。
地下道への道を全て塞ぎ、国民にアミダエルの確認をさせずに亜人種達を実験材料にできるという計画。
アミダエルの研究施設がどんなものかは知らないが、動作確認を行う現場として、地下道の使用が可能となれば喜んで使用できるだろう。
作った生物兵器の特性を理解するための過酷な環境として、薄暗く、音が反響し、広大だが狭い地下道という場所は重宝でき、しかも亜人種達も別に魔法を封じられているわけではないため、魔物の守護本能も確認できる。
過酷な環境であればあるほどその生物は能力を、生き残るために真価を発揮するもの。
ただ殺し合わせるだけと考えないなら、そこまでやって監督役としてアミダエルが直接出てくる可能性は十分高い。
だがそう考えると地下道はめちゃくちゃ危険な場所へと早変わりするわけだが、どんな意図が組まれているかもわからないまま――ディーガルはついに宣言する。
「――我々ヴァルハイツ王国はエルフという邪種族に対し、これ以上の侵攻を許さず、その命の全てを抹殺することをここに宣言する! 全てはか弱くも気高き人間という種のためにっ!!」
「「「「「おおおおおおーっ!!!!」」」」」
広場は歓声で湧き立ち、この町を大きく揺らすほどであった。
まだこの事実を知らない地下の亜人種達からすれば、どう聞こえていることだろうか。
この演説を聞いた後すぐに、亜人種の奴隷を地下へ追いやっていない者達は行動に移す。
魔物を信仰とするエルフは特に危険性が高く、このディーガルに対処を任せようと行動を手早く行なっていくことだろう。
「わかっていたこととはいえ、これは思った以上に早そうですわね」
「この町も心配だけど、エルフの里の方はどうなってるんだろ……」
ディーガルの演説を聞き、改めて問いたいと事情を知っていそうなハイドラスに尋ねる。
「ねえ、ディーガルはエルフに家族を殺されたというけど、実際どういう人だったの?」
どういう人格者なのか、はっきりわかれば考えも行動も予想できるのではないかと思われる。
するとやはり知っていたのか、ハイドラスは準備を進めながらも語ってくれた――。
ディーガルは元々ヴァルハイツの騎士として所属し、根は真面目な性格で、融通が利きづらい硬派な性格だったという。
だが当時はしっかりと思いやりにも溢れ、亜人種への差別があったこの国のことに関して憂いていたという。
どちらかと言えば穏健派の考えを持っていたディーガルだったが、そんな彼にとって人生の考えを変える出来事が訪れる。
それが家族の死である。
ディーガルは元々は孤児であり、槍の才覚を評価され、王城へと迎え入れられた。
その場での先々の不安など想像することなど難しくはない。
そんな彼の心の拠り所となったのが、将来の伴侶となるサリアである。
サリアは町の酒場の娘であったことから、ディーガルの不安や愚痴を聞くには打って付けの人物だったという。
ハイドラスが聞いたことがあるのは、ここまでだそうだが、ディーガルにとって慣れない環境を支えてくれるサリアへの絶対的な信頼があったことは、手に取るようにわかる。
その後、メキメキと実力を発揮していったディーガルは貴族地位を取得と共に周りの令嬢を差し置き、サリアと結婚。子宝にも恵まれ、幸せな生活を送っていた。
だが十年前、サリアも貴族となったディーガルの伴侶としての役割を果たすため、フェルシェンで行われる社交会への参加を娘であるエリアとした帰りだった。
帰りの馬車を襲撃されたという。
サリアを含めた貴族婦人が斬殺されており、唯一生き残った新米騎士がこう語ったという――ダークエルフがやったと……。
当時はダークエルフの集団が一矢報いようという動きがあったことから、人間主義国のヴァルハイツは新米騎士の言葉を信じ、その集団を抹殺した。
その作戦の中には勿論、ディーガルもいたという。
その時の心境は想像できる。
きっと深い憎しみを持って、その磨き抜かれた槍術を振るったであろう。
こんな復讐のために、振るうものではなかったはずだろう。それはどれだけ悲しいものに映っただろうか、想像しただけでも悲痛に感じる。
ディーガル自身の気持ちもダークエルフ達を殺している時には怒りや悔しさ、悲しさをぶつけていただろうが、その亡き骸を見て思ったことはなんだろうか。
その後に二人の墓の前で思ったことは、家へ帰った時に思ったことはなんだっただろうか。
酷い喪失感があったのではないだろうか。
その家族の死から硬派ながらも人徳に溢れた彼の雰囲気は激変。近寄り難く厳しい性格に変わり、亜人種でも特にエルフに対しては酷い嫌悪感を持つこととなり、今のように王族をも利用する人格者へと変わった。
まるで喪失感を埋めるように、日常から厳しく張り詰めるような生活へと変わったのだろう。
「――元々真面目な性格だった者が、その支えを失ったことで、悪い方向へとその誠実さが向かってしまった……」
その着実で優秀な仕事に向く性格が悪い方向で走り抜いてしまったようだ。
それは交渉を続けてきたハイドラスが特に感じ取っていたことだという。
だが部下を気遣う気持ちもあることから、人間に対しては良心の呵責もあるようだ。
「だからと言ってエルフ達の虐殺を許すわけにはいかない」
「ああ。わかっている」
――そんな演説が終わると、町中は元々亜人種達が地下にいたせいか、酷い暴動などはなく、穏健派だったヴァルハイツにいる者達もディーガルの演説には納得するところであったため、声を上げることはなかった。
本当に事実上、エルフに手を差し伸べられる者が存在しない現状が出来上がってしまった。
その翌日、俺達は宣言通りハーメルトへと帰国することとなりノートの護衛の下、港まで送られてきた。
「悪かったね、殿下。こんな事態だからさ」
「わかっている。俺も自国での対応もせねばならん」
そんな世間話をしているハイドラス達より一足先に俺は、少し落ち込んだ表情で船へと向かった。
ヴァルハイツに置いてきたアイシア達のことがやっぱり心配だ。
どうしてこうタイミングが悪いんだ、俺は!?
「あれ? リリア?」
そう声をかけられ、ハッとして顔を上げる。
そこには鏡でも見ているかのように、そっくりな人間が目の前にいた。
「はあっ!? わ、私!?」
「違う違う。ヘレンだよ」
「は? へ、ヘレン!?」
やっほーっと手をふりふり振ってのご挨拶に思わずポカンとする。
それもそうだ。ヘレンは確かキャンティアと一緒に劇団員を探すため、旅に出たはず。
その驚愕が理解できているヘレンは、少し照れ臭そうに頭をかく。
「いや〜、あんな別れ方しておいて難だけど、やっぱり心配になってね。様子だけでも見に行こうって話になって……」
するとキャンティアが急いでこちらへ向かってきた。
「ヘレンーっ! ってあれ!? 二人に分身した!?」
「「違う!?」」
「ああ、ごめん。リリアちゃんだよね? また会えて嬉しいよっ!!」
出会った当初のテンションに戻ってくれたようで何より。
オークション会場では随分と心配もかけたからな。
「あっ!? それより聞いたよ! エルフと全面戦争するんだって? 何がどうなってるのか詳しく取材したいんだけど……」
ジャーナリストみたいな新鮮な情報に目がないと興奮状態で迫るが、ヘレンはその強烈な単語に驚く。
「せ、戦争!? な、何がどうなったらそうなるの? そりゃ仲が悪いってことは聞いてたけどさ」
この二人なら信用できるから話しても構わないが、正直そんな時間がない。
「詳しい事情は殿下にでも聞いて! それより……」
俺は少し物陰にヘレンを連れて行き、
「お願いがあるんだけど……」
「お、お願い?」
俺はなんて運がいいんだろうとほくそ笑む。
しばらくしてハイドラスへ出港準備が整ったと連絡が入った。
「――では殿下。これから大変になると思いますが、ディーガルさんはやはり正しかったということをこれから証明するよ」
「……そうか」
少し複雑な心境で船へと乗り込んだ。
「黒炎の魔術師もまたね」
「うん! またね!」
リリアはそう言って軽く手を振ると、ハイドラスの後ろをついて行き、船へと乗り込んだ。
「……」
ハイドラス達を乗せた船が出港し、見送る中でノートは少しぼんやりと船を見ると、
「どうされました? ノート様」
「ううん、別に……」
正直、呆気なかったと拍子抜けしている。
ディーガルからはその観察眼からハイドラス、ファミア、リリアとその側近達の動向をしっかり見ていて欲しいと頼まれていた。
ハイドラスに関しては、勇者ケースケ・タナカの意志からエルフ達の庇護を何としても行う可能性があると示唆されていた。
それに黒炎の魔術師リリア・オルヴェールもアミダエルの名を出したことから、警戒を怠らないで欲しいと頼まれていた。
ハイドラスとファミアに関してはアルビオや残していったアイシア達に関することを話ながら警戒は怠らなかった。
側近も同様なのだが、リリアに関しては数分目を離してしまった。
義眼が上手く機能しない中で、一生の不覚だと思っていたが、とぼとぼと落ち込んで歩く姿に余計な行動はしないだろうと考えていた。
リリアの反応に些かの違和感を覚えつつも、見た目も魔力の属性も同じだったことから、気のせいだと思ってこの場を去った。
そしてその船の中では、
「リリアちゃん、大丈夫だよ。アイシアちゃん達ならきっと何とかなるさ」
「そうですよ。あまり落ち込まないで下さい」
ウィルクとハーディスが置いてきた友人達のことを心配するなと励ます。
「うん、ありがと」
するとファミアが冷たい視線でリリアを見る。
「……貴女、誰?」
「へ?」
「おいおい、何を言ってるんだ。オルヴェールだろ?」
「悪いけど彼女じゃないわ。これは別人よ」
リリアに聞いてた通り、鋭い感性を持った人物だとあっさりと観念して、コンタクトを外す。
「聞いてた通りですね。自信無くすんですけど……」
「「「!?」」」
「黒炎の魔術師になりきる気があるのなら、もう少し落ち込むべきだったわね。彼女の友人を想う気持ちはその程度ではないのでは?」
「そうですね。急な話だったのと、戦争なんて聞いて動転してたのかも。精進精進ですね!」
すると男性陣はわなわなと震えながら尋ねる。
「お、お前まさか……」
「はい! ヘレンです!」
「「「ええええええっ!!?」」」
するとウィルクは直ぐに港の方が見えるところまで船のデッキへ向かい、ハイドラスはヘレンの両肩を掴み、激しく揺さぶりながら尋ねる。
「待て待て待て! いつ入れ替わった!? というか何故ここに!?」
「えっとぉ……」
ヘレンは俺からのお願いのことを話した――。
「えっ!? また入れ替わり?」
「そう! 私はヴァルハイツを止められる可能性のあるアミダエルを引きずり出したい。それ以上にみんなが心配なの!」
事情は焦りから説明することはなく、今の自分のしたい想いだけをぶつけた。
イマイチ状況が飲み込めない二人だが、俺の困りつつも真剣な想いに応えてくれる。
「わかった。あの時の道具は一式揃ってるからいけるよ」
「私は貴女をヘレンとして迎え入れればいいのかな?」
「うん。お願いしてもいい?」
勿論と喜ぶキャンティアだが、事情を訊いてもと尋ねると、俺は道中でねと応え、ヘレンには殿下に訊いてくれと頼んだ――。
「入れ替わったのは、殿下がお話してたあの子供にバレないように物陰で。事情は殿下から訊いてと言われました」
「それで? オルヴェールの奴はどこへ……」
「決まってるじゃない……」
ファミアはそう言って南大陸の方を見た。
「まあ……そりゃそうか」
ハイドラスもちょっと考えれば答えはあっさりと出てきた。
「頼むぞ、オルヴェール」




