04 分かり合えない想い
程よくピシッと張り詰めた空気が解けて、意見が交わしやすくなったので、これからのことを話し合う。
「元々、アミダエルに関しては勇者を使う気はなかったのよね?」
「ああ。アルビオにはあくまで亜人種達の説得とヴァルハイツからの脅威を防いでもらうつもりだった」
俺達の作戦としては、ジード達にヴァルハイツの情報を調べてもらい、アミダエルの居場所を確定、何とか取り押さえた後、ディーガルの説得に使い、クルシアをあぶり出すという流れだった。
さすがに国民達も生物兵器が亜人種でできているとなると、恐ろしい非常識な実験を行うヴァルハイツの王家を信用できなくなるだろう。
それを説得材料に使うつもりだった。
さらにそこにアルビオが保護した亜人種の言葉もあれば、尚良しとするところだったのだが、
「アルビオさんがこんな状態では……」
「いえ、彼の意思を考えれば、敢えて行動に移すべきかもしれないわね」
「いや! 今人質に取られるかもって……」
するとキッと鋭い目付きに変わったファミアは、アルビオの意図を推理する。
「よく考えなさい、黒炎の魔術師。あの天空城の落下がクルシアによる意図的なものであると確信できる我々だからこそ、勇者の意思を汲み取るものよ」
「……天空城を落下させた理由か」
「そうよ、ハイド。こんなものが落ちるというインパクトは強大だわ。それをあの男が利用しないとは考えにくい。貴方達なら尚更わかるわよね?」
今まで関わってきた事件のほとんどのバックにクルシアは存在しており、派手に演出することを好むことから、その推測は難しくない。
「町へ落下させたことが意図的だとすると、エルフに弁解するチャンスすら叩き潰すつもりだったのだろうな」
「ええ。精霊を目撃したということから、勇者もそのあたりの推測はしていたようね。その起点のおかげで最悪は回避された」
「だとするならアルビオは……本当によくやってくれたのだな」
ファミアとハイドラスだけで淡々と話が進められていく。
正直、俺としては天空城が落ちて、妖精王がいることからエルフに対し、拠り所がなくなったということ、普通に落下したことが大変だと思うくらい。
「あの……私達にもわかるように説明願えますか?」
前に話さなかったかと尋ねられたが、そのあたりは有耶無耶になっていたと返す。
「前に町があるかどうか尋ねたろ? それはあのエルフの建造物である天空城が人間の死人が出ることに問題があるのだ」
「それはヴァルハイツ、特にディーガルにとっては諸手をあげて喜ぶ話よ。エルフを皆殺しにする口実になると同時に、不穏分子の一部処分までできるのだから……」
「「「「「!?」」」」」
そこまでの話になるとは、さすがに想像もつかなかったが、クルシアのいう催し物と考えると納得のいく話でもあった。
「死人が出てしまえば、その行為は完全に悪意に映る。しかも天空城を頭の上から落下させるなんてこと……最悪の虐殺事件と捉えない方がどうかしてるわ」
「おそらくクルシアは戦争を引き起こすことを目的とし、行為に及んだ。しかもエルフが誰の助け舟を寄越せない状況を作り上げてな」
「死人が出れば、誰も手が出せなくなる……」
「それをアルビオは読み解き、精霊……おそらくは風の精霊様だろう。彼に避難誘導させた。クルシアは幻覚を使えることから、町に天空城を気付かせないようにすることを思いついての指示だったんだ」
聞いただけでも身の毛のよだつ話である。
「とはいえ、我々人間は天空城が落ちた時点で救いの手は差し伸べられないけどね」
「は!? どうしてです!?」
「我々にも背負っている国がある。あの天空城はインパクトが強過ぎた。エルフサイドに肩入れすることは同じく人間の敵と認定される」
「今は南大陸だけで済むでしょうけど、時が過ぎれば他の大陸でも影響が出てくるでしょう」
「そ、そんな……」
つまりはハーメルトは元々亜人種等も受け入れる自由国家だ。
そんなところがエルフがやったと認識されている、あの虐殺種族に庇い立てすることは、自国の破滅に繋がる。
その婚約者であるファミアの国も同じことだ。
しかも名前の売れている俺やアルビオも同じ理由から手出しができない。
「だからアルビオさんは、せめて最悪の事態だけでも回避するために……」
「ああ……」
「それで話が戻るのだけれど、勇者が何とか阻止した状況で、ディーガルは妖精王にやられたのよね?」
「正確な情報はまだですが、おそらくは……」
状況を横目に見ていたハイネは、妖精王が暴れていたことを確認していた。
「だったら彼が不在の間に、この国の闇であるアミダエルをあぶり出す好機ではなくて?」
「……それもそうだな」
今はヴァルハイツはゴタゴタしており、ディーガルもおらず、厄介な視覚を持つノートもいない。
さらにはジャッジメントの一人オールドもこちらの手の内となり、融通も効くようになった。
アミダエルという後ろ暗さを公にできれば、ディーガル達を追い詰め、レイチェルが実権を握ることも可能となる。
さすがに非人道的実験を表沙汰にされるのは、向こうも気が気ではないだろう。
今、ユーキルやハーディスが警戒しているアミダエルの蜘蛛もいないようで、決行するには絶好の機会。
「よし! ならアルビオの頑張りを無駄にしないためにも――」
「!」
俺が音頭を取ろうとするとオールドが深刻な表情へと変わる。
「ファミア様。ディーガル様がいます」
「! どういうこと!?」
ナタルの方を見て確認を取るも、
「た、確かにエアロバードの視覚から確認はできていませんが、戦闘を行っていたところは確認しています! 酷い怪我を負っていたことも……」
ブンブンと慌てて答えながら、エアロバードの視覚も確認する。
だがナタルの目に映っているものは、木々がもりもりと生え出てくるだけの光景だった。
「こちらへ来ます」
その宣言通り、扉からノック音が聴こえ、失礼しますと入ってきた。
「ディーガル様、勇者様はこちらでお休みに……」
「うむ」
「ディーガル。何故ここに……?」
本当にディーガルなのかとの質問に対し、
「それはこちらのセリフです、ハーメルト殿下。ノートから大人しくしているよう言われていたはずでは?」
質問で返すと、そのノートもひょこっと現れた。
「そうだぞ、殿下。どうしてここに?」
「……あのような事態があれば、国へ帰ることも視野に入れねばと思ってね」
「なるほど。事態の把握はされていると……」
「ああ……」
ベッドに眠るアルビオを不安そうに見て語った。
「ハーメルト殿下、勇者様が何故ここにいるかは今は問うまい。この方がいなければ尊い民達が残酷な死を迎えていたかもしれん」
ディーガルは眠るアルビオの前に跪いた。
「勇者様。国王に代わり、不詳わたくしディーガルがお礼申し上げる。あの町の民を救って下さり、感謝しております」
その誠実な振る舞いに、ディーガルのイメージとはそぐわないと感じる。
亜人種を徹底して許さず、アミダエルという裏での暗躍をしており、地下では魔物を解き放つような異常主義者には見えなかった。
「貴方様のこの素晴らしき行いは、我が国の民達にも感銘と勇気を頂きました。必ずやあの化け物共の殲滅をもって、平和の礎と致しましょう」
「「「「「!?」」」」」
「その際には是非、お元気な姿で我々を勇気付けて頂きたく存じます」
すると素早く立ち上がる。
「よいか? 我が国の治癒魔法術師の総力を上げて、治療にあたれ。よいな!」
「は! お任せ下さい!」
案内をしていた治癒魔法術師にそう語ると、早々に部屋を出て行った。
「ま、待て! ディーガル!」
「何ですかな? ハーメルト殿下」
「今、殲滅と言ったな? それはあの巨大な化け物のことだろうな?」
「勿論そうですが、アレを解き放つ要因を作ったエルフという魔物共にも死の鉄槌を下さねばなるまい」
そう口にしたディーガルの視線はあまりにも冷たく、冷気を感じるほど熱がこもっていなかった。
前言撤回だ。ディーガルは異常主義者だ。
「待てっ! 早まるな! お前はアレの正体について、何も知らないのだろう!? もう少し入念な捜査の下……」
「アレの正体については知っている。エルフが神と崇める妖精王だ」
おそらくはアミダエルからの情報だろうと、歯を食いしばる。
「そうだとしても天空城が落下させた者の特定が先だろう? エルフ達がやったという証拠はない! そうだろ?」
落ちた時点で味方はできないと言っていたが、その理不尽な対応には抗議を求める。
確かに誰が落としたのか、その証拠がない。
するとノートがディーガルの背中からひょっこりと顔を出し、クスッと笑った。
「証拠ならあるよ。グリーンフィール平原の途中に見かけない砕かれた巨石がいくつかあってね。浮遊石だと判明したよ。そこに書かれていた術式の字がエルフ達の言語だったよ」
マルチエスの調査隊から無事だったことを連絡した際に得た情報だという。
確かに浮遊石にエルフ言語が書かれていたら、あの天空城を浮かせるためだと考えてしまう。
本来、浮遊石は迷宮内で見つかるもの。
地上に、しかも何もない平原地帯である場所に、急に浮遊石が落ちていれば、工作したと考えるのが妥当だろう。
「それはあの建造物がエルフのものであるというだけで、落とした犯人ではないだろう!? もっと調査を……」
中々食い下がらないハイドラスに呆れたため息を吐くと、
「では逆に訊きますが、ハーメルトというお国にあの城が落ちてきても、同じように庇い立てできますか? 国民達に納得のいく説明ができますか? 天空城で大量虐殺事件を引き起こした連中を!!」
そう言われてしまうとできると答えられるはずもなく、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「あのさ、何でなの?」
「……!」
「そこまで亜人種を魔物として扱い、執着する理由は何?」
剣と魔法世界だ、理由はなんとなく察しはつく。
だがやはり言葉で聞きたいと思ってしまう。
「他愛ない理由です、黒炎の魔術師。若かりし頃に家族を失った……それだけです」
大切な人を失ったという理由。
有りがちな答えではあるが、やはりつらい。
「有りがちな理由ではありましょう?」
「!」
「ですが、その有りがちはあってはいけないことです」
まったく反論の余地がない。
命が簡単に奪われる世界ではあるが、それでも大切な人の命が奪われることが良いことなどあるわけがない。
「でも! そんなの悲し過ぎるよ! 亜人の人達だって家族はいるよ!」
「娘。魔物に家族は存在しない。あれは群れているだけだ」
「違う! シェイゾ君達は魔物なんかじゃない! だって……パパやママとみんなと仲良くしてたもん!」
アイシアの言葉もこの男には届かず、呆れたため息を吐き、ハイドラスに失望めいた視線を送る。
「ハーメルト殿下。貴方もいい加減、目を覚まされては如何かな? 貴女の民もこうした勘違いに陥るのです」
「勘違いなんかじゃ――」
「娘。ではアレが君の故郷を踏み潰し、家族が下敷きになったら同じことが言えるか? エルフが魔物ではないと……」
アイシアは絶望感に浸る表情へと変わる。
「やめて下さい!! シアはただ……」
するとディーガルは言い過ぎたと、頭を下げて謝罪するが、考えは曲げない。
「今尚、あの化け物は自分の聖域を作り、エルフ共は虎視眈々と戦争の準備をしている頃だろう。さすがに知恵の回る魔物だけはある。小賢しい!」
「ディーガル、頼む! 我々の話を訊いてくれ!」
「そうだよ! 話し合えばわかる!」
「それは言葉が通じるから、話し合えと?」
俺の言葉に反応してくれたようで、うんと頷くが、
「ならば何故、魔人マンドラゴラを殺した?」
「!?」
斜め上の返答が飛んできた。
「アレも貴女達のいう言葉を発し、心を持つ者。何故殺した?」
「あ、あれは魔物だからで……」
「ならば同じことだ。エルフは魔物の子である。殺す理由は貴女達と同じである」
「エルフは魔物の子じゃない!」
「その証明は貴女達が探しているアミダエル殿が証明した」
激しくなっていく討論の中、馬車内での話が出てきた。
「エルフ共の遺伝子というものから、魔物の因子が確認されたと言いましたよね? 何よりの証拠だ」
「そんなデタラメ、信じられるとでも?」
「……では妖精王はどう説明します?」
「!」
「あの天空城はエルフ共が作った産物であり、妖精王は神として崇めている。あの狂気に狂うあの魔物を……」
それを持ち出されると思わず言葉が詰まる。
クルシアの狙いが嫌というほど急所を突いてくる。
こちらの言葉があまりにも空虚で幼稚なものにしか聞こえてこなくなる。
これが人間が手を出せなくなる理由か。
するとアイシアは堪らず、言わなくていいことまで口にする。
「あれはクルシアのせいだよ! 多分、テテュラちゃんやアリアちゃんの時みたいに人工魔石を使ったんだよ! きっと!」
「クルシア……?」
「マルキス! 落ち着け!」
「だって……!」
クルシアの手札を知っている俺達ならば、妖精王の暴走理由は簡単に思い付くが、それをアミダエルという手札を持つディーガルに話すのはマズイ。
俺達の本当の狙いに、この国が傾くからである。
俺達の目的はアミダエルを引きずり出し、捕らえること。だからそのアミダエルを失うことは戦力を大きく阻害されることになる。
ディーガルからすれば絶対に回避したいところ。
「そのクルシアという奴が天空城を落としたと?」
「そう! そうだよ! 彼はエルフじゃない! 人間だよ。極悪人なの!」
「マルキス!」
「で、殿下……」
何とかエルフ達を救いたいと焦る気持ちが走ったアイシアを揺さぶって止める。
だがさすがに手遅れだと、ハイドラスは正直に話す。
「……ディーガル。私達の真の目的はそのクルシアだ。奴は原初の魔人を殺すと言っていてな。妖精王もそのような形で利用されたに過ぎないと考えている。だからあれはエルフの仕業ではない。我々はあの男の悪辣さを知っている。信じてくれ……」
ディーガルもハイドラスがどういう人間なのか大方の理解はできている。
ましてやダメ王子がいるのだ、それと比較すれば見えてくるものはあまりにも多い。
だからこそこの言葉に偽りがないこともわかる。
だが……、
「やったという証拠がありませんな」
「!? そ、それはそうだが……」
「証拠が無ければ虚言でしかありません。聡明な貴方なら理解できるはず……」
「ぐっ……」
ディーガルの言う通りである。
クルシアがやったという証拠はない。
その証拠を知るアルビオは眠り、おそらくはこの場でディーガルに対し、叫びまくっているであろう精霊達である。
精霊も契約者であるアルビオが目覚めない限りは顕現もできない。
「ですがどちらにしても民に対し、示さねばなりません。あの脅威が迫っているのだから……」
説明責任を取らねばならないと、この場から離れようとした時、ふと思ったことがあったようで。
「……黒炎の魔術師」
「なに?」
「アミダエル殿を探しているのだったな」
「……まあ」
「正直、やめて頂きたい。彼女は我々の戦力であり、これからも必要な人材なのだ。何のつもりかまでは知らないがやめて頂こう。それと……彼女自身、貴女に恨みがあるようだ。貴女は人間の英雄として立てる器の持ち主。死なれても困る」
それはアミダエルから俺を殺したいと聞いたからだろう。
「ハーメルト殿下。貴方は婚約者と黒炎の魔術師を含めた皆さんと共に帰国願いたい。今までの生温い戦争にならないとわかっておいででしょう?」
「ここにアルビオがいる。せめて目を覚ますまでは離れる気はない」
「勇者様の件ならご心配なく。そのお方の御身は必ず傷一つなく、帰国させます。御安心を……」
アミダエルやクルシア、バザガジールがいる環境で置いていくという選択肢はない。
「だが――」
「ハイド。いい加減になさい」
「ファミア……」
「今から彼らは魔物共との戦争、これ以上のわがままは時間の無駄だと何故わからないの」
「き、貴様ぁ……」
おおっ!? ディーガルの前だからか、敵対心があるという演技は健在である。
というか演技派だな! この王族達!
「ディーガル。それでもさすがにハイドの意見も尊重して欲しい。そこで妥協点としてわたくしとハイドとその側近、黒炎の魔術師は帰りますわ。その代わり……」
ちらっとアイシア達を見た。
「この下々の者達は置いていかせて欲しいわ。勇者様もご友人が一人もいないでは、心細いでしょうし……」
「えっ!? あ、あの……」
焦るアイシア達だが、俺もさすがに意図が理解できた。
「……わかりました。彼らは私達がお守りしましょう」
「わかって頂けて嬉しいですわ。ここまでよ、ハイド」
「……ああ」
妥協できるのはここまでだろう。
ディーガルにとって厄介な存在、何かあってはいけない存在である俺達を帰国させることは願ってもないこと。
総指揮がとれるであろう俺達が離れれば、アイシア達では何もできないと考えたからこそ認めたのだ。
「では馬車の手配をしますが、念のためノートを同行させます。頼めるな?」
「勿論!」
この監視役がいたんじゃ、隙を見て戻ることもできないじゃないか。
帰り支度をして下さいとこの場を後にした時、ノートが義眼を押さえる。
「どうした?」
「あ、いえ。なんか調子が悪いのかな?」
「無理もない。ほぼ致命傷をくらっていたのだ、本調子ではないのだろう」
「でもどうやって完治したんだろ?」
「……それは知らない方がいい」
そんな会話をしながら去っていく二人の話は聞こえていた。
「ノートの奴、義眼が上手く使えないのか?」
「あら? 都合が良いわね」
コロっとこちらサイドに変わるファミアに、俺達は苦笑い。
この人の豹変っぷりは、役者レベルだわ。
ヘレンがいたら是非欲しい逸材だとでも言いそうだ。
「とりあえずお前達、聞いての通りだ。ディーガルはもうエルフとの戦争をする気だ。クルシアの目論見通りにな」
今頃、思い通りになってると大笑いしてるところだろうな。
「だがアミダエルを引っ張り出せれば、ヴァルハイツの民衆を味方にできる可能性がある。それをお前達に頼みたい」
「わ、私達が……」
アイシア達は驚愕するも、あの話の流れは理解できている。
「わかりました。頑張ります」
「殿下……」
「わかってはいるよ、お前も残りたいことは。だがディーガルに警戒されている以上、我々は下手な行動は取れない」
今度はヘレンもいないし、影武者作戦は使えない。
しかもアミダエルは明らかに強者だ。
生物兵器の数も数百年を生きる奴の実力も未知数だ。
確かにアイシアは龍の神子としての能力はあるし、リュッカも魔物に関する知識もある。
ナタルはしっかりしてるし、シドの成長も以前より格段に上がっている。
だがこの四人でアミダエルを制圧というのは、さすがに心許ない。
オールドやハイネはこの国の人間である以上、肩入れは難しいし、融通が効く冒険者のジード達はレイチェルの方を担当している。
そんな不安そうに顔を伏せる俺に肩が叩かれる。
「大丈夫だよ! みんなを助けるために、アミダエルって人を必ず引っ張り出すから!」
「うん! リリアちゃんはリリアちゃんの出来る事をお願い……」
俺の方が励まされてしまった。ここで背中を押すのは俺だろうに……。
「任せたぞ。幸い、ノートは能力が上手く使えないようだし、あの様子ならノートも戦争に参加するだろう」
広い視野を観れるノートはどんな場であっても活躍が見込めるからな。
「それに貴女達の侵入は……」
「お任せ下さい、ファミア様」
オールドとハイネはサポートは任せろと、軽くお辞儀をした。
この事態で俯いている方が心配になると、俺は顔を上げる。
「そうだよね。アイシア、リュッカ、委員長! 任せるよ!」
「うん!」
「はい!」
「勿論です!」
そして俺はシドニエにも、
「唯一の男の子だ。私の親友達を任せるよ」
「……! は、はい!!」
噛まずに返事をしてくれてありがとう。
「これを……」
ハイドラスは受け取っていた地下道の地図をリュッカに手渡した。
「侵入するならば夜が適しているだろうが、天空城の落下の影響か、慌ただしい。できる限り悟られぬ侵入を頼むぞ」
「はい!」
南大陸が大きく揺れ動く。
その前触れの時に、この地を去らなければならず、アイシア達を置いていくことになるとは、ここへ来た当初は思ってもなかったことだった。




