03 尽くす意味
「チッ! あの豚共め……」
マルチエスは気分が乗らないながらも、舌打ちしながら騎士達を率いる。
急ぎ帰ったハイネの情報を聞いたマルチエスや大臣達が急遽対応にあたる。
その間、無能な王と王子はディーガルの危機に酷く狼狽え、自分勝手な怒号を浴びせたという。
ディーガルがいなくなれば、国の管理ができない、美味い物を食えない、仕事を押し付ける都合の良い奴がいない、可愛い亜人種を抱けないなど、私欲まみれの事柄がつらつらと。
それを何故自分がと眉間にしわが寄りっぱなしなのだ。
「では行ってくる。……不快だが仕方ない」
とはいえマルチエスもこの国を潰すわけにもいかない。
闘争指揮能力に長けた自分が向かうことには適材適所と自覚している。
それをオールドとハイネが見送るが、
「やはり私も……」
「おい、ハイネ。これ以上、私を不快にさせるな! これだけの人員を割くのだ、貴様もヴァルハイツの騎士を名乗るならここの守りをしろ!」
ハイネはディーガル達を置いてきた手間、意見を言えるはずもなく、黙り込んだ。
「それに貴様を下手に動かすのも危険だ。何故だかわかるな? 何故、ハーメルトにいるはずの勇者がここにいるのだ!?」
マルチエスもハイドラスがこの国を訪れていることは知っているが、勇者の容姿と合致する者はいなかった。
だがハイネが運んできた少年は紛れもなく、情報通りの勇者だ。
そしてハイネはレイチェルの側近騎士。
今その彼女と接触しているのがハイドラスだ。下手な行動はディーガルサイドの不利益になると考えたのだ。
「貴様が知らずともあの人形姫の入れ知恵が入っている可能性は否定できん。大人しく国を守ってろ。いいな?」
「……わかった」
「オールド。コイツと客人の姫の見張りは任せるぞ」
するとオールドはやれやれと呆れた様子。
「人使いが荒いな」
「では化け物と対峙する方がいいか? チビ人形め」
「いや、適材適所。私は国の守りに属すことがあっている。わかるだろ?」
「チッ……行ってくる」
マルチエスを先頭に騎士団が天空城落下地点を目指す。
「さてハイネ。勇者様について、大臣達に言い訳といこうか」
「!」
まるでこちらの意図がわかっているかのような言い方をした。
「オールド、貴女……」
「何か都合があるのだろう? レイチェル様の。この国を憂いているのは私も同じくするところ、帳尻合わせくらいはする」
深くは尋ねないがと配慮まで加えられた。
「すまない、感謝する」
そしてその大臣達を説得の数時間後、ハイドラス達がヴァルハイツへと帰還した――。
――俺達は急ぎ、アルビオの運ばれた部屋へと向かった。
「――アルビオ!」
そこにはベッドで眠るアルビオの姿があり、その側ではハイネとオールド、治癒魔法術師がいた。
「アルビオさんの容体は?」
詰め寄るリュッカに落ち着くよう促すと、治癒魔法術師は説明を始める。
「傷の治療は完了しています。ただ大量に血を流し過ぎたのと、魔力がほぼ枯渇しかけていました。これほどの衰弱状態なら本来助かりませんが、さすがは勇者様ですね。命に別状ありません」
魔力が枯渇に体力に血まで足りなくなるなら、確かに危険な状態だろうが、アルビオには霊脈があると聞く。
その影響があって無事なのだろう。
精霊様々だ。
「ただしばらくは目を覚まさないでしょう。それでは……」
治癒魔法術師はぺこりとお辞儀すると部屋を後にした。
「アルビオさん……」
リュッカは眠るアルビオの手をそっと握った。
その横では後悔で表情を曇らせるハイドラスがいる。
「ハーメルト殿下。これはどういうことか説明願えますか?」
オールドに真意を説かれる。
「わかるだろ、オールド。私は亜人種達とも分け隔てない世界を体現しようと考えている。彼にはそのために動いてもらっていた」
「なるほど。つまり自身を囮とし、勇者様に根回ししてもらおうというのが魂胆ですか……」
「ああ……」
そこにさらなる真意があるのだが、そこまではさすがに言えない。
するとオールドはクスッと笑った。
「別に隠さなくても結構です。本当の狙いはさらに別にある……そうですよね?」
「なっ!?」
俺達はその発言に驚いた。
このオールドというジャッジメントとは初対面だが、今の話からどこをどう結びつければ、さらに別の狙いがあるのか知りたい。
そう思っていた一同の前に、ある一人の女性が現れる。
「どう? 勇者様の容体は?」
「ファ、ファミア王女殿下!?」
「あら? そんなに驚くことないじゃない。わたくし、残ると言ったでしょう?」
するとオールドがおかしな行動に出た。
「えっ……」
ファミアを前に跪いたのだ。
「は? えっ? は?」
「あらあら。黒炎の魔術師ともあろう方が狼狽え過ぎよ」
するとファミアは一つの地図を手渡す。
「はい、地下の見取り図よ。赤い丸で囲ったところの先がおそらくアミダエルとかいう奴の研究施設だわ」
「えっ!? はあ!? ちょっ……」
「まだ何かあるのかしら?」
ハイドラス以外の俺達は驚くばかりである。
だってこの人、殿下と対立してたじゃないか!? これを手渡すってことはヴァルハイツへの裏切りになる。
王女殿下はヴァルハイツに共感していると言っていたし、そんな不利益になることはしないはず。
それにオールドという明らかにヴァルハイツ側の騎士が跪ずいているのもおかしい。
こ、この人、何したんだぁ!?
「何かしでかすとは思ったが、やはりな」
「あら、人聞きの悪い。貴方のためにやったんじゃない。あの冒険者達と合流はできたの?」
「ああ……助かるよ」
まるで以心伝心のような会話にさらに驚愕する一同。
「せ、説明頂いても? 殿下……」
ナタルの問いに答えたのは、不思議そうに首を傾げたファミア。
「あら? わたくしがハイドを裏切ったと考えたの?」
「そ、そりゃあそうでしょ!? あんな剣幕で喧嘩してればね!」
俺はあの喧嘩をがっつり見てたし、あの場にはディーガルもいた。
それに頭の回るファミア王女殿下のことだから、殿下を正すというあの意見も簡単に飲み込めた。
「ああ、あれは演技だよ」
「え、演技……」
「ええ。わたくしに合わせてくれて感謝しますわ」
「……お前のアドリブに合わせる身にもなってみろ。結構大変だったんだぞ」
「――えぇええええっ!!?」
喧嘩を目の前で見ていた俺が一番驚いたのは言うまでなく、静かにとちょっと怒られた。
アルビオが寝てもいるので。
「こいつのことだ、何かしらの考えがあって行動するとは思っていた」
「フフ。さすがね」
意図が読めない俺達に説明してくれた。
ファミアはドラゴンが飛来した時にアミダエルの話を聞いていたことから、この国に探りを入れようと考えた。
そこで一番簡単な方法。このヴァルハイツに取り入ればいいだけの話。
王様は無能で、国の管理を担うディーガルは忙しい身。隙は簡単にできると考え、あの場で喧嘩してみせたという。
王族、ハイドラスの婚約者という肩書きを利用したことから言葉にも説得力があり、案の定、俺達のようにディーガルも完全に信用したわけではないが、気は緩んだという。
地下の地図を作る役目を担うはずのジード達は、子供達の保護を優先した結果、地下に立ち入ることが困難になったのを引き受けた。
だから地図を持っているというわけ。
そしてその地図を作ることに貢献したのが、ここにいるオールドだという。
「貴女はディーガル側の人間じゃないの?」
「ええ、そうでしたよ。ですが――」
***
――それはファミアの監視を命じられ際の世間話から始まる。
「随分と可愛いらしい護衛兼監視さんね」
くるみ割り人形のようなちょこんとした姿には、その意見が多いと話すと、さらに同じ容姿をしたのが窓の外から見えた。
「貴女……双子か何か?」
ふるふると首を振ると言えないと話す。
自分の得意とする魔法や能力を隠すのは常識だろうと、特に問題はしなかったが、彼女がこの国の警備を担っていることに関しては納得がいった。
「さてわたくし達は絶賛退屈なのですわ。申し訳ありませんが、話相手を務めてくださいます?」
チラッとユーキルを見たオールドはぺこりとお辞儀をする。
「私で良ければ……」
――少しばかり世間話をすると、ある質問をぶつけられた。
「貴女はあの国王をどう思います?」
「……」
返答にはめちゃくちゃ困った様子を見せるオールド。
少しばかりの世間話だけでも、このファミアからは王族と女性としての品位と考え。そして国を背負う者としての狡猾さも兼ね備えていることに気付いている。
国を支えたり、繁栄させたりするのは一筋縄ではいかない。
ディーガルもあの立場になってからは休んでいるところを見かけることはない。
だからこそあの国王に対し思うことは軽蔑。堕落を貪り尽くす家畜の豚。
誰もがそう思っているが、
「あれはあれで王の資質がある方だと考えております」
建前は必要だろうとのこの返答。
後でファミアが口を滑らせても困るからの意見だったのだが、
「そうですわね。確かにアレも王たる資質はありますわね」
「……!」
「あら? 何その顔。意外だったかしら?」
目を見開き驚く表情を指摘された。
「言っておきますが、貴女のように建前で言っているわけではありませんの」
(み、見透かされてる……)
ギッと睨み、警戒するオールドにクスクスと笑う。
「貴女、嘘がつけないタイプですわね。表情や態度に出過ぎよ。そのあたりはコントロールできるのだから、しっかりなさい。でないと……情報なんて簡単に漏れますわよ」
ディーガルが警戒して監視をつけろと言った意味がひしひしと伝わってくるようだった。
まるで手のひらの上に乗せられて、軽く頭を撫でられている気分だ。
いつでもその撫でた手で潰せるのだと、背筋が凍る圧力をかけながら。
すると話を戻しましょうと話題が戻る。
「王たる資質は何だとお考えです? 嘘がつけない真っ直ぐな騎士様のご意見を参考にしたいものですわ」
嘘をつくとバレるという脅し。
どちらにしても見透かされるならと、正直に答えた。
「王たる資質とは人を導ける先導力と考えます。数十万という民を率いるのですから、当然のこと……」
「なるほどなるほど。ではわたくしはその資質が無さそうということですわね」
「そ、そのようなことは……」
「あら? 貴女のその言い方だとまるで勇者様や今のディーガルみたいな人のことを言っているように聞こえるわ」
「そ、それは……」
王族であるファミアのプライドを傷付けたのではないかと焦るが、本人は楽しそうに微笑む。
「フフ。それは貴女の欲望よ」
「よ、欲……?」
オールドには理解し難い答えが返ってきた。
「ええ、そうよ。貴女がそういう人間に尽くしたいという欲望ですわ。まあわからなくはないですが……」
「そ、そんな……ことは……」
下手に返答するのは畏れ多いと考えたオールドは意見を煽ぐ。
「で、では王の資質とは何です?」
「まあ頭のお堅い貴女にはわからないでしょうね。……いいわ。教えてあげる。王に必要なことは理想よ」
「理想?」
「そう理想を掲げ、それを口にし、実行できる人間こそが王たる者よ」
オールドでもわかる。
それこそ理想論であり、人をまとめあげることに向いていないように考えられる。
「それこそ違います! 理想を語る虚言者に人を束ねる資格など……」
「じゃあ訊きますが、貴女の言う指導者は王様かしら?」
「!」
「ディーガル、マルチエス、勇者も貴女の頭の中にはあるかしら? この人達は誰か王様だったかしら?」
「そ、それは……」
「人の長というのは自分の考えを誰かに指示し、行動させることがメインでしょう? 貴女のいう先導力、指導力もあってはいるでしょうが、それは副次結果に過ぎない……」
その発言によってもたらされた結果だと話す。
「一番必要なのは発言力でしょう? その発言をするためには理想というものが必要となる。自分の思い描く思想が。だからこの国の国王もそれに該当するわ。家畜のように欲望を貪り尽くすためには、下々に働きかけ、傀儡の王となる……これも一つの在り方であり理想を現実にしたものですわ」
ディーガルも周りの人達も、そして自分自身もどこかで見限っていたあの国王も、確かにそういう見方をすればあれも王であると認識できてしまう。
あのように怠惰を貪ることで、ディーガル達が行動しやすくなる。
そう言えばディーガルがこの国を統治しているように聞こえるが、堕落することで周りの能力を向上させていると考えれば、それも王たる資質だ。
あの国王は常日頃から私利私欲を口にしているが、その醜さも必要なものだと感じる。
その納得した表情に対し、不敵な笑みを浮かべる。
「理解できた顔ね。理想を口にし、体現することは貴女が虚言というほど難しいものよ。だけどそういう思想者の言葉に力を感じるものなのよ。言うなら、あの傀儡の王は人に利用されることを武器にできるのよ」
あのデカく醜い姿の圧倒的な存在感とその環境がそうだと語る。
勿論、他人任せな王様ではあるから、自滅や破滅も容易だと付け加えられた。
「自分が発した言葉が実現し、それを力と認めてもらえるものを王と呼ぶの。それでも種類はあるでしょうけどね……」
ハーメルトの陛下のように勇者の想いに感銘を受け、体現して国民の信頼を得る者。
ヴァルハイツの国王のように利用者で固められて、国民には一切信用されずに担ぎ上げられる者。
「わたくしはそんな王族として生まれ、女として生まれた手前、政略結婚の道具として教育を受けてきたわ。でもね、ハイドのお飾りの王女になってやる気はないわ」
少し嬉しそうに微笑みながらこう語った。
「ハイドを自分が尽くすに相応しい男に仕立て上げるの。女として生まれたんですもの、せいぜい尻に敷いてあげるわ」
そのファミアの強い姿勢に同じ女性でも、こんなに違うのかと衝撃を受けた。
同じ尽くすでもオールドはこの国の平和のために、ディーガル達の指示の下に従ってきた。
しかしファミアは自分の力量を他人に委ねることなく、自分の裁量を尽くし、自分を超える存在を作り上げることで、自分の誇りと自信を身につけていこうと考える、強い女性なのだと圧巻する。
「貴女も女だもの。自分が尽くす男、上司はいい男の方が自慢になるでしょ?」
「そ、そのような不謹慎な……」
「不謹慎? 優秀な人間に人が集まるのは、その人間に魅力があるからよ。その全てが綺麗事で並べられるものではないはず……」
戦闘力、財力、権力、人徳、血縁、容姿、種族など様々な要因から人間関係が設立される。
これを不謹慎の呼ぶのは確かにおかしい。
「だから貴女もしっかりと評価してくれる人間か自分が尽くしたいと思える、心が強く、言葉に力がある人間に尽くすのがベストかしら?」
オールドは確かに今の国王に尽くすことには不満がある。
でもあんな国王でも国の維持ができる状態を作っている要因の一つなら、権力的にも差のある国王にそんな話はできなかった。
だがファミアからこの話をされると、本当にこのまま欲を貪る国王に仕えることが正しいことなのか、疑問に思う。
嫌に説得力のある発言に、さすがは王族の方だと感心していると、
「さて、それでどう? 言葉の力の凄さは理解できたかしら?」
ニコニコと笑うファミアのこの発言にさらに衝撃が走った。
「……!!?」
自分は上手くファミアの言葉巧みに心をかき乱されたのだと、確信を持って感じれた。
ヒシヒシと伝わってくる――これこそが王たるあるべき姿なのだと。
その時にオールドは恐怖すると同時に、敗北感と尊敬の念に湧いた。
自分にはない卓越した話術、そしてその言葉に説得力を飾る堂々たる振る舞いに態度。
正に貫禄があると言わざるを得なかった。
「……貴女、今がチャンスだと自覚があるかしら?」
「チャンス……?」
「そう遠くない未来にあの豚国王は玉座から引きづり下されるわ。そうとなれば、困るのは貴女でしょ? だから仕えるべき人間を変えてみないかと話しているの」
ファミアが変なことを口にしたと、先程から驚愕し続けている。
「レイチェルは勿論ですが、ハイドやわたくしもおります。どうです? 貴女の仕えてみたい理想の人間はいるかしら?」
「私に寝返ろと?」
「フフ、そうね。でもあの理想を口にするってことは不満もあるのでしょう?」
「不満があるのとこの国を守ることは別問題です! し、私情なんて……必要ありません!」
ファミアの口車に乗らないように、強気な言い方をするが、
「あら? 個人の能力と意志を塗り潰す、視野の狭い国に従うより、もっと広い場での活躍を望むものじゃないかしら? その忠誠心を自分の欲望に傾けてみるのはどうかしら?」
むしろ崩しやすく好都合だと考える。
「わ、私は……」
「それに私は別にこの国をどうこうとは考えてないわ。ハイドの考えを尊重してるもの。亜人種の生活領域が近く、関係を築き上げることに適したこの国には、歪んだ思想を解きほぐして欲しいだけよ。あまりに不安定なのは見て取れるでしょ? ジャッジメントなんて大役を担っていれば見えるでしょ?」
「そ、それはそう……ですが……」
「ほら、貴女もそう考えてるじゃない。やり方が正しいと思うならわたくしの意見に対し、肯定する返事が出てくるのがその証拠よ」
しっかり揺らいでいるとほくそ笑む。
「貴女はその壊れた関係を修復していくために必要な人材よ。見てみたくはない? この国の変革を……。それとも他の連中のように亜人種を見下しているのかしら?」
「……そんなことはありませんが……」
「なら大丈夫ね。変革への土台、パイプを貴女が作りなさい。わたくしが貴女を使ってあげる、どうかしら?」
考える時間は与えず、しかし心地良く聞こえ、逃げ道を塞ぎ、圧倒的に否定できない空気を作り上げる。
ユーキルはそのフードの中身から、相変わらずの手腕だと改めて尊敬する。
するとファミアの読み通り、飲み込まれたオールドは、本音を口にする。
「あ、貴女のような方に仕えられることは、確かに自分の誇りとできることでしょう。私も……貴女のような……」
「あら? 嬉しいわ。貴女に認めてもらえるなんてね」
「で、でもやはりこの国を見捨てられない。家族もいる……」
「言ったでしょ? この国をどうこうする気はないって。それに家族が心配ならわたくしの国かハーメルトにでも移住すればいいわ。わたくしは懐が狭いように見える?」
「そんなことは……」
「それに見捨てるのは、あの国王。国ではないわ」
「!」
「この国の在り方を変えるには、あの国王を見捨てる他ないと言っているの。この国を想うなら……そうね、わたくしじゃなくても、ハイドが接触に行ったレイチェルでもいいわ。貴女が正しいと望む行動と答えを出しなさい。他人に考えを握られるのはダメなことよ」
自分は今まで他人の命令を聞いて動いてきた。
実際、意見が言えるほど積極的ではないし、気の利いた意見も思い付かない。
だから自分の力で、できる範囲でやれることをしてきた。
だけどファミアは必要としてくれている。ハイドラスの婚約者という立場上、話してはいけないところまで踏み込んで、必要なのだと訴えかけてきている。
それはとても心地良く、そして絶対的な自信にも聞こえていた。
この人なら変えられる。あの人達なら変えてくれる。
自分の心の中にあった蟠りを取り除いてくれそうだと、不覚ながら思った。
何より、この人には勝てないとも思った。
自分の全てを看破されるのではないかと。
「私も……」
「?」
「私も貴女のような強い女性になれるでしょうか?」
「フフ。わたくしは自分をそのように評価したことはありませんが、貴女がそう感じたのなら、側で学びなさい。そうすれば貴女の望む女性に、人になれますわ」
気付くとオールドは跪いていた。
「わかりました。私の忠誠は貴女に……」
***
「――まあ、色々ありまして……」
オールドは多くは語らず、それだけ口にした。
まあ表情を見るに、ファミア王女殿下のことだ。上手く口車に乗せて説得したんだろうな。
それをハイドラスもわかっていたようで、寒気が背中をなぞったような表情をする。
「相変わらずの化け狐っぷりだな、お前は……」
「あら? 私はこの世に生を受けてからずっと人間よ。あ・な・た♡」
「――や、やめろおっ!!」
その様子を見て思ったことをオールドは正直な感想を口にする。
「私がこう言うのは失礼ですが、よくファミア様と婚約を結ばれましたね。お似合いではありますが……」
ファミアの性格を考慮すれば疑問に思うが、やり取りを見る分には違和感がないようだ。
俺達もほぼ同意見だが……。
するとハイドラスはビシッと指を差す。
「誤解がないように言っておくぞ。私は決してこの女を好いたから婚約したのではない。例の如く、政略結婚として親に決められたからであり、私の好みはこんな化け狐ではない!」
「あら? わたくし、貴方が望むなら生まれたままの姿であられもなく、白いベッドの上で激しく乱れても良かったのに……。そんなことを言うのね」
「――お前こそ、何を言ってるんだ!! そんなところ想像もしたくない!!」
男として最低発言だが、ここにいる一同も同じことを思っただろう。
確かに! 想像できん。
つか、殿下の上に股がって不敵に笑い、優越感に浸るところなら想像がつく。
さて空気が緩んだでしょうと、アルビオを見る。
「しかし、彼がこの状態ではアミダエルを引っ張りだすのは考えた方がいいわね。人質にされる未来しか浮かばない」
そう言われ、リュッカはギュッと手を強く握ると、それを見ていたファミアはそっと手を添える。
「大丈夫よ。必ず彼は帰ってくるわ。目を覚ました時、彼に尽くしてあげれば、彼は貴方の虜よ」
「なっ!?」
耳元でそう呟かれると顔を真っ赤にし、クリっとした目でニコニコと笑うファミアを見た。
「そ、そんな不謹慎な……!」
「あら? 怪我をした彼を治療、お世話をすることの何がいけないのかしら? それで彼が貴女に依存するのは彼の気持ちのせいでしょ?」
固く、重く考えていたリュッカを励ますためだろうが、刺激が強いアドバイスに戸惑う。
それにその言い方だと明らかに依存するように仕向けているようにしろと聞こえる。
「貴女も女なんだから、男を手玉にとって尻に敷くくらいしなくちゃね」




