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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
8章 ヴァルハイツ王国 〜仕組まれたパーティーと禁じられた手札〜
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02 侵食

 

「これは酷いな〜」


 ノートが自分の義眼の力を使用し、天空城落下地点を観察している。


「どうなんだぞ?」


「とりあえず合流しよう。向こうにディーガルさんがいる――」


 ノートとキリア、ハイネとその騎士隊は、指揮を取っているディーガルの元へと合流した。


「ディーガルさん!」


「ノートか。来てくれて助かるぞ」


「僕の力が必要かなぁって……」


「わかっているじゃないか」


 ディーガルは優しく微笑みながら撫でる。


 三人は不思議と今までより穏やかな感じがすると、違和感を持つ。


「ディーガル様! やはり町が下敷きになっております。そこから避難してきた者達の話によると、精霊が避難指示を出したとのことですが……」


 ディーガルがここへ向かう途中で、保護した町の者達が避難した経緯を話してくれた。


「精霊……?」


 精霊と言えば心当たりがあるのは、勇者のみ。


 そしてこの現代でそれを操っているのは、アルビオのみだが、ハイドラスとは同行していないことは確認している。


「わかった。避難した者達にもう少し詳しい話を訊いておいてくれ」


「は!」


「ノート。この城を調べたいが、危険がないか確認してくれるか?」


「そのつもりで来たんだから、任せてよ」


 ノートの義眼が強く光り、天空城落下地点付近を見渡すように状況確認ができる。


 すっかり倒壊した城、天空城に植えられていただろう木々も折れており、何より不気味な巨人の魔物には、うえっと吐き気をもよおす仕草をとった。


「なんか変なのがいますよ」


「それはわかっている。異様な魔力量だ。どんな姿をしている」


 ノートはあまり見ていたくないと文句を言いつつも、わかる特徴を一つずつ言っていく。


「えっと大きさは巨人かな? 見た目は女神像みたいな感じだけど……背中が異様なくらい気持ち悪い! 妖精の羽みたいなのとか人間の腕とか、気味が悪いほど生えてる。後は木の根かな? そいつにまとわりつくように絡まってる」


「妖精の羽……」


 その特徴だけでは、エルフが神と呼ぶ妖精王とは結び付けにくいが、アミダエル曰く宣戦布告と聞いていることから、どうしてもそこへ結びつけたい。


「ノート、城の方には何か特徴はあるか?」


「うーん、変な文字とか模様とか? わっかんないけど……」


「文字らしきものは書かれているのだな?」


「あー……はい」


 この曖昧な返事にこれ以上は、自分達で調査した方が良いだろうと判断した。


「その巨人に警戒しつつ、調査を開始する。キリア、小隊を連れて先行しろ」


「了解ですぞ」


「お前もここに来たのだ、頼んでもいいかな?」


 警戒心を持ってハイネに尋ねる。


 ハイネは自分に賛同していない人物だが、国の危機として来てくれたならと呼びかけると、ハイネは軽く頭を下げた。


「無論、そのつもりで参りました。私も――」


 すると慌てた様子で駆け寄る騎士が報告。


「ディーガル様! 勇者と思しき特徴を持った人物を保護致しました!」


「なに!?」


「避難民達も天空城から投げ出された容姿にそっくりだと……」


 天空城の様子を踏み潰された町の住民が避難しながら、確認していた。


 その後、天空城の落下の衝撃による風圧で発生した、土煙と風で行方がわからなくなっていると事情を聞いた騎士達が、ここより数キロ離れた地点にて確認、保護したことを報告。


 その容姿は黒髪に、こちらでは見かけることのない顔立ち、精霊の目撃情報から勇者ではないかと推定できる。


「わかった。今――」


「待って! ディーガルさん!」


 ディーガルがその人物の確認をしようと思った時、ノートが叫ぶ。


「どうした?」


「あ、あの巨人……動いてる!?」


 バッとディーガルは向かわせた部隊を見ると、キリアはもう既に天空城への侵入を試みようとしているところだった。


「――キリア!! 一旦引け!!」


「へ?」


 その叫び声と共にキリアの視界は地上から離れたものとなっていた。


「「!?」」


 瓦礫(がれき)の中から腕が生えて、キリアを鷲掴みにしたのだ。


「オオオオオオッ!!」


 そして天空城の瓦礫(がれき)の中から、その妖精王が悲痛の叫びを上げながら出現する。


「がぁはあっ!?」


 キリア様と叫ぶ騎士達の声も虚しく、キリアはそのまま握り潰された。


 その血しぶきが空から大量に降り注ぐ。


 キリアだけでなく、侵入しようとした騎士達も握り潰していた。


 そして興奮したのか、そのポッカリと開いた目と口だけの間抜けな表情からは想像もできないほどの、狂気の叫びを上げる。


「――オアアアアアーッ!!!!」


 天空城の瓦礫(がれき)の中から勢いよく飛び出してくると、這いつくばるような姿でディーガル達に向かって突進してくる。


「――全員! 回避行動を取れ!」


 ディーガルは長槍の獲物を取ると、即座に回避し、ノートとハイネも迫り来る異形の怪物の腕を(かわ)すが、


「た、助け――べへぇ!?」

「い、いやだあっ!!」


 妖精王は過ぎ去るついでにその背中から生えた無数の腕で騎士達を次々と握り潰していく。


「ちょっと! なんだよ、あの化け物!?」


「ノート! お前は生き残っている者達の指揮を取れ! その義眼をもってして、この場を退避しろ!」


「ちょっと待ってよ! ディーガルさんは?」


「急げと言っている!」


 そう言うとディーガルは一人、妖精王へと向かっていく。


「ちょっ……」


 ガシッとノートを止める。


「ディーガルの指示に従い、保護されている勇者様を連れて、ヴァルハイツに救援を……」


「指図すんな! レイチェルの犬の分際で!」


「なっ!? 待て!」


 ノートは命令を聞かずにディーガルの後を追う。


 そのディーガルは既に妖精王との戦闘に入っていた。


 妖精王の拳の連打に加え、足元から次々に草木が生え出てくる。


 それを素早い槍捌きで一掃していく。


「舐めるでないわ!」


 そのディーガルの中には以前とは違う、守るべき存在がある。


 あの時亡くした家族が、今あの国にいる。


 またあの二人の笑顔が見られる世界を。あの二人が死に伏した姿を二度と見ないためにも……、


「この世界に……貴様らのような化け物が居てなるものかあ!!」


 鬼気迫る戦いぶりだが、妖精王は思い切り拳を振り下ろす。


「ディーガルさぁん!!」


「――むおっ!?」


 複数から攻撃を仕掛けてくる妖精王の動きを読んで、ノートがディーガルを突き飛ばす。


「ノート! お前には……」


「嫌だよ! 僕にはディーガルさんしかいないんだ!」


「オオオオオオッ!!」


 ディーガルとノートとその意思に賛同した騎士達が妖精王と対峙する中、ハイネはノートがやるべきだった避難誘導を行い、撤退する。


(すまないが、ここは利用させてもらう)


 ハイネはハイドラスのため、勇者の身柄確保、あわよくばディーガル達が殺されることに期待する。


 ここでディーガルが殺されてしまえば、ヴァルハイツは変えていけると踏んだのだ。


「ディーガル殿の指示に基づき撤退、救援を(あお)ぐ。ついて来い!」


 図らずしも来た好機は逃せないと、妖精王と戦う気のない騎士達を連れて、馬を走らせる。


 ――ディーガル達は暴走した妖精王に対し、奮起するもその物量に押されて、ディーガルとノート以外がほとんどやられた。


「く、くそぉ……」


「ノートぉ……」


 ノートがどうしてここまで自分に固執するのかは理解できる。


 ノートは親に捨てられた際、魔物によって片目を抉られた過去がある。


 そこを拾って助けたのだが、正直助けた目的としては、利用価値がある兵士になるか否かであった。


 自分と同じ、異なる種を憎む原動力を持つ者が欲しかっただけなのだが、ノートは心ばかりの感謝をしている。


 その幼い姿に、いつしかディーガル自身も娘と重ねる部分があった。


 だからこそ、この場で力無く倒れているノートを見ると、娘がちらつく。


 ――嫌なのだ! あの光景はもう見たくない!


 息をせず眠るように自分の前に並べられた妻と娘。


 あの光景が焼き付いて離れるわけもなく、それをこの存在は再び実演するだろう。


 それほどの脅威が目の前に迫る。


「この化け物め……」


 ノートもそのいつもの冷静さを欠くディーガルの対応には、胸騒ぎがしている。


 ディーガルは将軍閣下という立場があることから、前線に出ることはほとんどなく、このような場に赴く際にも指示に徹する。


 決してディーガル自身が弱いわけではないのだが、今回はその冷静さが無いように思う。


 妖精王に対し、槍を振るう姿に、


「僕が……守らなきゃ」


 戦わなきゃと立ち上がろうとするが、動けない。


 そして――恐れていた事態が目の前で広がる。


「――むああっ!!」


 妖精王の拳が思い切りディーガルを吹き飛ばす。


「ディーガルさっ、あだっ!?」


 傷を負った足が痛むが、頭から血を流し倒れているディーガルの元へ這いずってでも向かうノートにも拳が飛ぶ。


「――ごおっ!?」


 ブォンと風を切りながら打ち出された拳は、幼い容姿のノートなど軽く吹き飛ばし、ディーガルの側まで飛ばされた。


「あ、ああ……」


 ディーガルの調査隊が全滅したと判断した妖精王は、天に捧げるような雄叫びを上げる。


「オオオオオオオオオオオオッ!!!!」


 すると、妖精王を中心にメキメキと木々が生え出てくる。


 グリーンフィール平原を少しずつ蝕むように、森林地帯へと少しずつ姿を変えていく。


 その中に飲み込まれていく騎士の死体とノートやディーガルだが、この二人の姿は消えていた。


 ***


 上空から天空城落下地点を確認するエアロバードが接触したのはハイネ。


『ハイネさん、聞こえますか?』


 エアロバードの首から下げた人工魔石から声が聞こえる。


「はい。こちらハイネです」


『状況は見させてもらった。ディーガルを見捨てたのか?』


 少し非情ではないかと、ハイドラスは語る。


 エアロバードの目を通して一部始終の状況は、馬車での移動をしながら確認している。


「見捨てるわけではありません。これから本国へ向かい、急ぎ増援を行い、交戦するつもりです」


『だが状況はかなり悪い。このままだとディーガルはやられるぞ』


「その方が都合がいいのでは?」


 やっぱりそう思ってはいるよね。


 ハイネはレイチェル、即ち穏健派の人間だ。この国を牛耳るディーガルの死は、不謹慎だが喜ばしい。


「いや、今死なれるのは困る。ディーガルがこの国を支えてきたのは事実だ。その要がいきなり居なくなるのは問題だろう。レイチェルにとっても面白い状況ではないな」


 引き継ぎ作業って大切だからね。確かに今の国力がかたがるのは、よろしくない。


 あの怠惰を貪る国王と王子に託すことは論外であり、レイチェル自身もある程度の準備も必要だろう。


「わかりました。急ぐとしましょう。後、勇者の件ですが……」


 チラッと後続の馬車を見る。


「後ろの馬車内にいます。応急処置は済んだとのことですが、状態はかなり危険です」


『『『『『……』』』』』


 俺達は一気に重苦しい雰囲気へと変わるが、


『わかった。私達もヴァルハイツへ向かうのだ。その時にまた詳しい話をしよう』


 冷静さをなんとか保ったハイドラスが答えた。


「では私は急ぎ向かいますので……」


 そう言うとハイネは手綱を叩き、馬達を走らせ、エアロバードはもう一度、天空城落下地点へ――。


 ――戻った頃には天空城を中心に森が形成されている状態だった。


「これは酷いね……」


「あっ! あれってキリアさんじゃ……」


 形成されていく森の木々の隙間から血を流した騎士達やキリアは見受けられるが、ディーガルとノートの姿は確認できない。


 この(おぞま)しい光景に背筋が凍りつく中、何やらその場に留まり、叫び声をあげ続ける妖精王の姿があった。


「あれ、何してるんだろ?」


「さあ? はっきりとはわからないが、この森を形成しているところからすると、自分のテリトリーでも作っているのだろうか?」


 妖精王はフェアリーという森の妖精という魔物が魔人化したと伝えられている。


 森の妖精って聞くと可愛いイメージが湧くものだが、この世界では人を森の中へ引きずり込むという怖いイメージが定着しているとのこと。


 獣神王を除くと龍神王も妖精王も、元の魔物の生態や性質を考えると、なるべくしてなったという感じ。


 妖精王がこれだけ巨大になっても森を形成するのは、その元の魔物の防衛本能を働かせるためなのかもしれない。


 そのせいなのか、妖精王を隠せるほどの大きな森が着々と構築されていく。


「これをこのまま放っておくのは、危険過ぎるな。ヴァルハイツに戻り次第、対策を考えよう」


「殿下、一応他国ですので、ハーメルトへお戻りになることも視野に入れてくださいね」


「わかってはいるが、この事態を放置もできん」


 一応この馬車を走らせている理由は、御身に危険が晒されそうという名目で走っているため、ハーディスの言うことが正解。


「まあ何にしても、アルビオ次第なところはあるよね?」


 リュッカは落ち着かない様子で、ハイドラスも冷静さを保っているが、いつも通りとはいかない。


「そうですわね。帰るにせよ、残ってアミダエルを引きずり出すにせよ、アルビオさんの安否次第ですわね」


「それもあるけど、フェルサから聞いた情報だけじゃ、あの天空城のことも妖精王のこともわからない。なんとなくクルシアの仕業ってのはわかるけど……」


 妖精王のあの狂乱した様子を見れば、何かしら起きていたことは間違いない。


 今までに会って来た原初の魔人を考えれば、あそこまで衝動的な行動を起こすことはないだろう。


 もっと知的なイメージがある。


 その情報をより確実にできるのは、アルビオだが、


「アルビオの状況がはっきりしない以上、ジードさん達の方を当てにしたいね」


 フェルサとジード達はレイチェルと共に、クーデターの下準備のため、獣人の里とエルフの里の接触に入ろうと動いている。


 色んな状況が交錯する中、俺達は急ぎヴァルハイツへと走る。


 ***


「ひゃあ〜、怖かったね〜」


「ご苦労様、ユンナ」


 ユンナはノートをぬいぐるみのように抱き抱えながら、ディーガルは髪を掴み、引きずって連れて来た。


「まったく……雇い主(クライアント)のお仕事じゃなかったら〜、あんな危険な場所にいないし〜」


「にしてもあのガキ。あんなことを平気でやってのけるたぁなぁ」


「金払いもいいですし……何なんですの?」


 (さら)い屋の三人が雇い主(クライアント)であるクルシアに対する疑問を抱いていると、


「ふん! あのガキはただの悪戯小僧だよぉ」


 腰の大きく曲がった老婆は、不機嫌そうな物言いで話に割って入る。


「えっと、貴女はアミダエルでよろしいのでしたってけ?」


「ああ、そうさね。あのガキから話は聞いてるよ。引き取ろうか……」


 するとアミダエルのローブの中からサソリの尻尾のような物体が顔を見せる。


「「「!!?」」」


 その尻尾が出た瞬間、三人は鼻を押さえる。


「なに、この臭い!?」


「くっせえ!!」


「何なのよ!? ウチの服に臭いがつくやろ!?」


 各々文句を垂れ流すが、アミダエルは無視してディーガルをテーブルの上へと置いた。


「さぁて、ディーガル。起きな」


 異臭を放つサソリの尻尾をディーガルの鼻元へと近付けると、目が見開く。


「――ぶはあ!? な、何だ!? この異臭は!?」


 きつけになったようで、瀕死状態だったディーガルも堪らず目を覚ます。


「アタシだよぉ」


「アミダエル殿。ここは……ヴァルハイツか?」


「そうさね。この娘共が連れて来たのさ」


 紹介された彼女達だが、特段慣れ親しむ気はないようで、バーバルとユンナはツンとそっぽを向いている。


「それは感謝する」


「あら? 別にいいってことよ。雇い主(クライアント)からの依頼だったし。それに死にかけてる奴から礼をもらうのもね」


 ディーガルは応急処置は済まされていることを確認するが、嫌に息苦しいことに気付く。


 更には口の中も血生臭く、血の味が口内を巡る。


「アミダエル殿、私は……死ぬのか?」


「それはアンタ次第さね。見な」


 アミダエルから生えるサソリの尻尾が指す方にはノートも横たわっている。


「ノート……」


「この小僧にはこれから、アタシの実験体になってもらうよ」


「なっ!?」

「えっ!?」


 ディーガルの反応はわからんではないが、ユンナが何故か嫌そうに反応する。


「このクソババア! こんな可愛い子に何するつもり〜!?」


「フン! 小娘共には関係ないだろ? さっさと消えな」


「この……」


 ユンナが攻撃しようと近寄った時、素早くサソリの尻尾がユンナの額ギリギリに突きつける。


「アンタの脳みそ……ぐちゃぐちゃにしてやろうかい?」


 その素早い反応速度に対応できないと、鼻をつまみながら身を引く。


「何にしたってこの子が目を覚ますことはないよ。それが可能なのは、アタシの施す治療を行うか、あのクソドクターの魔石を使うか、神頼みでもするんだね」


 ディーガルより重傷なノートは、下手をすれば一生目を覚さないという。


 この小さな身体に容赦のない攻撃を受けたのだ。ガタイの良いディーガルより、よっぽど酷いダメージだったことは言うまでもない。


「だからアタシはこの子を助けるために……」


 それで取り出したのは寄生生物。


 アミダエルの片手ほどの大きさのこの蟲は、無数の触手がうねうねと動きながら、口はキシャーっと警戒心剥き出しで鳴いている。


 それを見たジルバ達は、吐き気をもよおすように口に手を当て、気掛かりそうに様子を(うかが)う。


「それを……どうするつもりだ?」


「決まってるだろぉ……こうするのさぁ!!」


 そう言うとノートの口を大きく開け、その寄生生物が入りやすいようにし、がぼっと口の中へ突っ込んだ。


「――!? あ、あがあっ!! がああっ!! ギャアアアアッ!!」


 ノートがバタバタとその場で暴れ出した。


「ちょっと! ノートちゃん!」


 心配になるユンナが駆け寄ろうとするが、ジルバとバーバルが止まる。


「いやいやいや、待て待て待て!!」


「あんなん、ヤバイのわかってるやろ!!」


 その光景を満足そうに見ているのはアミダエルだけだった。


「ヒェヒェッ!! いいよ、いいぞぉ!」


「ノート! アミダエル殿! よ――ばはぁ!?」


 自分も重傷であることには変わりなく、呼び止めようとした時に吐血した。


 すると先程から悲鳴を上げながら、身体がボコボコと(うごめ)いていたノートに落ち着きが戻った。


 すると、


「あ、あれ?」


「「「「!?」」」」


 ケロッとした顔で、辺りを見渡すがここがどこなのかわからず、首を傾げる。


「アタシの研究成果だよ。この奇声生物は人間の脳みそに寄生することで、生存能力が上がるのさ」


 他にも作用があるが省くと言う。


 その理由がディーガル自身も致命的なダメージを負っているからである。


「で、どうする? これはまだいくつかあるがアンタ、死ねないんだろぉ?」


 アミダエルはチラッと、サリアとエリアと再会した部屋を見る。


 ディーガルは戦慄する。


 もし自分が死んでしまい、せっかく生き返った自分の家族を再び見殺しにしてしまうのではないかと。


「アンタにゃあ、やるべきことがある……そうだろぉ?」


 アミダエルが善意でこんなことをしていないことくらい理解できた。


 だがこうして瀕死状態であったノートをも一瞬で治療されたこの寄生生物の能力も認めるところはある。


 そしてアミダエルの言う通り、やるべきことがある。


 考える時間もない。


「……わかった。その寄生生物を寄越せ」


「ヒェヒェヒェ!」


 ディーガルはその寄生生物を受け取り呑み込むと、先程のノートのようにしばらく苦しんだ。


 その光景を三人の(さら)い屋娘達は、えらいものに関わってしまったと、アルビットの紹介に後悔していた。

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