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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
7章 グリンフィール平原 〜原初の魔人と星降る天空の城〜
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28 最悪のシナリオ

 

 アルビオ、アルビット、妖精王の激しい激戦が繰り広げられている。


 アルビオとアルビットは互いに相対しているが、妖精王は暴走しているせいか、無造作に暴れ回る。


 その顔は狂気に満ちており、呑み込まれるような漆黒の瞳に、オオオオオオと叫んでいることから、その口の形のまま、背中から生えた十本の腕が辺りを破壊し尽くす。


 その変わり果てた妖精王の姿に嘆き悲しむ族長は、(すが)り、祈りを捧げるように懇願する。


「よ、妖精王様ぁ!! どうか、どうか悪しき人間の呪縛に囚われないで下さい。あなた様は――」


「馬鹿! 危な――」


「――ばはぁあっ!?」


 アルビオが呼び止めた時には遅く、妖精王はその不気味な細腕で族長を貫いた。


「あ……ばはあっ! ようぜび……おお、ざばあ……」


 族長の信仰心も虚しく、妖精王はその貫いた腕を振り、無理やり族長を引き剥がす。


 まるで球を投げつけるように、族長は地面へと叩きつけられ、無惨に転がった。


 即死であることは誰の目から見ても一目瞭然だった。


「族長ぉ!?」


「ハハハハッ! お間抜けさも極まると本当に面白いな! アレをまだ神だの拝んでやがんのかぁ? あの花畑ジジイ……」


「くっ! 死者を愚弄するなぁ!!」


「悪かったよ!」


 族長のやられたその一瞬を狙われ、殴られるが、アルビオは少し地面を引きずる。


「あの人、強い」


「ああ、しかも最悪だぜ」


「どうしたの? フィン」


「アイツから妖精王の魔力の気配がする」


「なっ!?」


 それを聞いていたアルビットは高笑い。


「ケッハハハハハッ!! そうよ! 俺様はなあ、あの雇い主(クライアント)のおかげでこんなヤベェ力を手に入れたのさ。……まさか、俺様の力がここまで凄えとは思ってなかったぜ」


 どういうことだと考えるアルビオに、水の精霊であるメルリアが説明する。


「あの男は血を操る魔法を得意とします。おそらくですが、妖精王の血を馴染ませたのではないでしょうか?」


「混血したってことか……」


「その通ーり」


 そのせいなのか、血を操る速度、密度、量、形状の構築、術速度まで強化されている。


 それに対するアルビオも負けてはいない。


「だから何だ!! いくよ! ルイン! ヴォルガード!」


「なっ!?」


 いつもならフィンを装備するところを今回は光と火の剣で対応する。


「おい! アル! どういう――」


「フィン! 君にはこの天空城の落下地点にある町の人達を避難させてくれ!」


「そ、それは確かに重要なことだが……」


「頼む、フィン!! 絶対に一人でも死人を出しちゃダメなんだ!! 町への被害は最悪あってもいい。だけど……死人を出したら、もう戻れない!!」


 鬼気迫るアルビオの威圧にフィンは動じながらも、そこまで言い切る根拠があると信じる。


「お、おおっ!! 任せろ! だけど死ぬなよ!」


 フィンは顕現(けんげん)すると、再び町へと飛んで行った。


「おいおい、情報だと精霊は二体が限度って聞いてたが?」


「舐めるな! 今は三人まで顕現(けんげん)可能だ!」


 北大陸での成果が今試される時だと、強い意志を瞳に宿らせる。


「ケッハッ! 気に入らねえなっ! その(ツラ)!」


「クルシアの望む結末を与えない!!」


 二体の精霊を従え、その力を振るうアルビオと妖精王の血と混血となり、精度の上がったアルビットの高度な戦闘に、エルフの剣士であるディーヴァとエフィは入れる余地などなく、援護すら必要を感じず、シェイゾとナディも見ている他なかった。


 だがそんな呆然としているディーヴァ達に怒鳴る。


「貴方達は何をしてるんですかっ!! 早くこの場から去り、今後の対策を練って下さい!!」


 アルビオはアルビットとの戦闘中にも関わらず、族長とウィントの死体を暴れる妖精王をかい潜り、側へと投げつけながらそう言った。


「ま、待ってくれ! 対策と言っても何の話なんだ? た、確かに危機的な状況なのは見て取れるが……」


「わからないんですかっ!?」


 カリカリした様子のアルビオに少し怯えてしまったディーヴァは、その怒鳴り声にもビクッと驚く。


「す、すまない……」


「そう怒ってやるなよ、勇者様よぉ! 頭の中、お花畑なんだろ? そこのイカれた狂信ジジイみたいにさぁ! 馬鹿にもわかるようにしっかり説明してやれよ! 答えは俺が知ってる……合ってるか見てやるよ!」


 刃を交えながらそう語ると、アルビオもアルビットと妖精王を相手取りながら、先ずは結論を話す。


「いいですか? 単刀直入に結論を先に話します。このまま天空城が落ちれば――エルフ族は絶滅します」


「「「!?」」」


「ま、待てっ!! ど、どうしてそんな結論になる?」


 それをこれから説明しますと、少し苛立ちながらも丁寧に説明する。


「クルシアは元々戦争を起こさせることが目的だった。ヴァルハイツを中心にこの大陸では種族間の小競り合いがありましたからね。おそらくは原初の魔人を使い、獣神王なら獣人族を。妖精王ならエルフ族を戦争のやられ役に用意するつもりだったんでしょう」


 それならばジルバという(さら)い屋を使う理由もわかるし、エルフはクルシアが散々馬鹿にした通り、頭が硬すぎて逆に利用しやすいと踏んでのことだろう。


「そしてその片方の原初の魔人だけを暴走させて、クルシアはその亜人種をあの化け物の子とでも言えば、ヴァルハイツ側は嫌でもその亜人種を殺すだろう」


「そ、そんな……」


「だがそれでも最悪の結末は遅くなるはずだった。クルシアの本来の作戦通りなら、暴走させるにしてもそこまで派手な演出ができなかったんだよ」


 クルシアは妖精王の姿の想像をフィンのような小人と言っていた。


 獣神王ならともかく、妖精王と狙いを定めていたなら、そこまで甚大な被害が出ない暴走になるはずだったと予想できる。


「だけど……クルシアにとって嬉しい誤算があった。それがここ! 天空城だっ!」


「嬉しい……誤算だと!?」


「今、落下してるのはわかってるよね? これが落ちれば嫌でも南大陸全土にこの事件が明るみになる。わかるよね!?」


「う、うん」


「つまりクルシアの描いた最悪のシナリオはこうだ。妖精王を暴走させて、天空城を人間の町へと落下させ、被害を出し、エルフ達を皆殺しにする口実を確実にヴァルハイツに与えるってことだ!!」


「「「「!!!!」」」」


 その衝撃の真実に一同は絶望する。


「そ、そんな……」


「な、何故そうなる!? これはあのクルシアとかいうガキの――」


「まだわからないんですか!? ちょっとは考えて下さいよ!! 誰がやったなんて問題じゃないんですよ! 天空城(これ)が誰の物かってのが問題なんですよ!」


「な、に……?」


「この天空城は妖精王の持ち物であり、今まで発見例がなかった。でもこれが人間の領土であるグリーンフィール平原へと落ちれば、ヴァルハイツは調べるでしょう。ここに知るされているエルフの古代言語から、この天空城を作ったのは大昔のエルフだってね!」


 さすがにそこまで言われるとわかってきたようで、エルフ達の表情は更に酷くなっていく。


「そんな物が人間の町を踏み潰してみて下さい! どう考えたってエルフからの宣戦布告としか捉えられないだろう!」


「「「「!!」」」」


「だからクルシアはあんなにテンションが高かったんです。これだけ派手にやった挙句、今までにないほどの被害が出ますからね!」


 ここに来て、アルビオがイラついている理由にも説明がついた。


 それを止められずにいた自分と、それを気付きもしない自分達(エルフ)に苛立っていたのだ。


「しかもそれを拍車づけるために、妖精王が暴走した。しかも最悪なことに巨人の姿と来た。天空城が落下した程度じゃ、原初の魔人の身体はびくともしない。地上に降り立ち、暴れさせるという本来の目的も過激な演出となり、エルフ達に対する激しい不信感へと変わる」


 もうやめてくれと膝を折るエルフ達だが、負の連鎖は止まらない。


「更にはエルフの信仰心すら人間達の不安を(あお)る。妖精王を神と崇めているって話は一部の人間だが知っている。だが妖精王がアレだとわかれば、それは簡単に広まる。人間達はこう思うだろう――あんな化け物を神と呼んでいるのかとね……」


「そ、そんなぁ! そんな……」


「違うと抗議しても、取り返しがつかないようにするために、クルシアはわざと人間の町に落とすことにした。しかもその町の人間達はあなた達、亜人種と友好的にしようと考えた集団の町だ」


「なっ……!?」


 グリーンフィール平原にある村や町は、ヴァルハイツの穏健派が創立したと言われている。


 今尚、交渉を考えたり、ヴァルハイツの行き過ぎた支配を抑止するために動いている人達だ。


 そんなところを踏み潰し、最悪死人などが出れば、


「し、信用を完全に失う……」


「つまりこの天空城が落ちれば、エルフは化け物と化した妖精王を神と崇める狂信者。しかもエルフは魔物の子とも噂されている。その信憑性も決定的なものとなり、死人まで出れば誰も手を差し伸べなくなる。人型のふりをする凶悪な魔物として世間に知らしめることになる」


 信用を失うどころか、地の底まで叩き落とされる現実が、残り十分足らずまで迫っているのだ。


「そ、そんな……そんなぁあっ!!」


 ナディは思わず泣き崩れる。


 やっと自由を手にし、アイシアの家族にも優しく迎え入れてくれて、やっと平穏が戻ってくると思った矢先、すぐ横には絶望と死が待ち構えていた。


「だ、だけどアルビオさんなら、この事実をハーメルト殿下に――」


「僕もそう思いましたよ!!」


 アルビオなら勇者という肩書きがあるし、ハイドラス達の知恵があれば、救いの道はあったかも知れない。


 エルフである彼女達も、ヴァルハイツとの交渉を行っていることくらいの情報は入っていた。


「けど……僕は貴方達を助けられない」


「ど、どうして……?」


「クルシアが言っていました。僕は勇者にしかなれないと……」


 今尚、この落ちゆく天空城を何とかしたいと、足止めしているアルビットと妖精王と交戦しているのがその証拠。


「そ、それが何か?」


「僕がこの天空城の元で死体、或いは生きていたとして、この大陸にいた理由をヴァルハイツの人達がどう見ますか? ほとんどの方がこう思うでしょう――この化け物から自分達のために戦ってくれたと!!」


 天空城がアルビオと妖精王と一緒に落ちれば、否応にでもその近くに転がるだろう。


 それを見つけたヴァルハイツの騎士は、この黒髪の人間という特徴から勇者の武勇伝として語り、エルフ達を絶滅するための勢いをつけることになるだろう。


「そうなればハーメルトはエルフの味方なんて出来なくなる。そんなレッテルを大量に貼られたエルフを助けようものなら、ハーメルトが世界の敵になる」


「……!」


「クルシアはわかってた。僕が……僕達が、国を見捨てられるわけないってっ!! 天秤にかけたんだよ!! ハーメルトとエルフ達の絶滅を!!」


 もしこれが名も浸透していない戦士であれば、多少なりとも融通も効くだろう。


 だがアルビオやリリアといった英雄視された存在が、天空城を落とした大量虐殺種族の味方になどつけるわけもない。


 そこにつけばその国も世界の敵となる。


「だからクルシアはコメディアンって言ったんだよ。明日には絶滅するかもしれないのに、貴方達が考えていたのは、人間に多少の被害が出る程度としか考えていなかったことをね」


「あ、あんなガキが……そこまで……」


「クルシアはそういう奴だっ!! だから言ったのに……!!」


 もっと強くいえば変わっただろうか。力づくで妖精王と接触すれば変わっただろうか。


 そもそもリヴェルドと遭遇した時点で、もっと警戒しておくべきだっただろうか。


 自責の念も尽きない。


 ここまで喋りながらの戦闘ご苦労さんといい、アルビットが答えを教える。


「正解だぜ、勇者様よぉ。あの雇い主(クライアント)の頭のキレ方もクレイジーだが、それをほとんど当てられる勇者様も中々クレイジーだなぁ。断片的な情報しかなかったろうによ」


「クルシアの性格まで推理すればわかることですよ」


「はっ! そうかい。で? どうだい? 雇い主(クライアント)の真の狙いのご感想は? 控えめに言って絶望的だろ?」


「やめてよ……やめてよぉ!! こんなことして……何になるのよお!!」


 エフィも大粒の涙を流して訴えるが、情に流されるわけもなく、


「はあ? 面白えからに決まってんだろ?」


「は……?」


「だってよぉ、一種族が滅びる様なんか、人生で見られるかどうかわかんねえんだぜ! それが目の前で、しかも計画的に火種をつけただけでドカンだぜ! 見てて爽快だ。あの雇い主(クライアント)はマジで最高だぁ。金にしか興味がなかった俺様ですらこの虜だぜ!!」


 元々この男も腐ってはいたんだろうが、クルシアによって拍車がかけられた。


 バザガジールからも似たような雰囲気を感じる。


「くっ……」


 クルシアの厄介性を改めて認識することとなった。


雇い主(クライアント)は言ってたぜ。人間以外の他種族は必ず滅びる。何故かわかるかぁ? 俺達より寿命があり、生まれ持つ能力が高いからだとさ。他の他種族はそこしか見ない。だから滅びる。知らないのさ、人間様の奥深さってヤツをさあ!!」


 確かにこの世界にも色んな種族がいたが、ほとんどが滅び、人間が統一する国がほとんどとなってしまった。


 だがその人種の中でも尤も脆弱で寿命がないのが、人間のみである。


 ディーヴァ達はその言葉に強い説得力を覚えた。


 クルシアの計画を聞き、それを実行して見せ、現実として迫ってくる瞬間。


 嫌でも思い知る。人間の恐ろしさを。


「だからてめぇらは滅びるために生まれてきたんだ。せいぜい派手に滅びれるだけ感謝しなって。雇い主(クライアント)が褒めててくれたろ? 無能なてめぇらの使い道をよお!! ケッハハハハハッ!!」


 その侮辱の言葉に先程までの(いきどお)りはない。


 言われて当然だと思った。


 絶望に伏したディーヴァ達には、一筋の光すら差さないと心が折れかけた、


「――何を諦めてんですかあっ!!」


「「「「!!」」」」


 ふざけるなとアルビオはディーヴァ達を再び叱咤する。


「確かに貴方達の状況は絶望的です! 明日にでも滅びるというのも嘘じゃありません! だからこそ、みっともなくても足掻かないと! そのために行けって言ってるんですよ! 僕は……ここまでしか協力できないから、この二人の足止めをしてんでしょうがあ!!」


「――ジャミング・フィールドぉ!!」


「!? しまっ……」


 アルビットは薄紫の結界をこの天空城全体に張る。


「ケッハハハハハッ! これで転移石は使えねえなぁ」


「走って! 早くこの天空城から外へ出て! このことを他のエルフさん達と話し合って対策を!! フィンに町の避難を任せてるのだって、少しでもエルフ達の立場を悪くしないためのものなんですから!」


 このまま呆然としていても、事態を変えられない。


「す、すまない! この恩は必ず!」


 ディーヴァ達は族長とウィントの遺体を抱え、出口へと走り出すが、アルビットは腹を立てて舌打ちする。


「てめぇらどこまで頭ん中がお天気野郎なんだぁ!?」


 辺りにある血が空中を舞うと、数千の血の針へと変わる。


「誰がてめぇらを逃すって言ったよ! てめぇらの足止めも雇い主(クライアント)の依頼に入ってんだよ! 雑魚虫共があ!!」


 いつでも仕留められたとばかりに狙いを定めると、


「くたばれ! ――ブラッディ・サウザンドニードル!!」


 アルビオを含め、全員に血の針の雨が降り注ぐ。


 走り出し、背中を向けた無防備なところを狙われるディーヴァ達。


「――ルイン!」


「はい!」


 アルビオはルインとの疎通を合わせ、霊脈の巡りを確認する。魔力とは違う、より自然な魔力の流れを感じ取る。


「――白き抱擁(ほうよう)の加護よ。――ホワイト・ヴェール!」


 ディーヴァ達の身体が白い光が(まと)う。


「こ、これは……?」


「立ち止まらないで! 走って!」


 一瞬止まってしまい、血の針の雨を浴びたが、まるで鎧にぶつかったようなカンカンとした音で防御する。


「チッ! さっきからチョロチョロと無詠唱で魔法を唱えやがって……」


「それ、そっくり返しますよ」


 先程までの説明しながらの戦闘中でも、アルビオはまだ練習中だが、霊脈を介することで一部の魔法ならば無詠唱を可能としている。


 このディーヴァ達を守った付与魔法も本来なら上級魔法であるため、無詠唱は不可能なのだが、精霊との相性が抜群のアルビオならば可能であった。


 そしてアルビットもまた、元々血を操る系統の魔法は無詠唱可能だったが、妖精王の血を混血したことで、魔法の詠唱は必要なくなった。


「行って下さい! 決して立ち止まらずに!」


 ディーヴァ達はこの白い付与魔法に感謝しつつ、今度こそ出口へと駆け出す。


「誰が逃すかって――」


「させません!」


 アルビットを全力で抑え、ディーヴァ達を見送ったことに成功。


「てめぇ……」


「僕の足止めが貴方の役目なら、その逆も然りですよ。……貴方も頭の中身はお花畑ですか?」


 そのあまりにも明らかな挑発と小馬鹿にしたような表情を見せると、


「めんどくせぇがっ! ブッ殺すっ!!」


 さっきまでそう言って馬鹿にしていたエルフと同格だという言い草に、頭に血が上らないはずもなく、アルビットは挑発に乗った――。


 ――ディーヴァ達はレンを担ぎ上げ、出口まで一心不乱に走る。


「はあ、はあ、おい! 族長達は置いていかないか? 連れて行きたいのは……山々だが、このままでは……」


「もうヘタレたのか!? しっかりしろ!」


 ディーヴァ達の中で唯一男のシェイゾが息を切らしながら、そう提案するが、


「それは絶対ダメだ。アルビオ殿は言っていただろう? ここがエルフの所有物であることが問題なのだと……」


「だ、だから何?」


「ここにエルフの遺体なんてあってみろ。我々が本当に宣戦布告したと証明したことになる。合っているだろう? 私の推理」


 ディーヴァの推理に納得がいく一同。


 クルシアの狡猾な作戦の全貌をアルビオが解説してくれたことで、わかりやすかった。


「見えました! 出口です!」


 ディーヴァ達は今尚、美しいままの庭園に出るが、その景色を眺める余裕など一ミリたりともない。


 自分達が来た転移の魔法陣に到着するも、


「だ、ダメだ。発動しない!」


「そ、そんな……」


「くそっ! あの結界の仕業か……」


 シェイゾは上を見ながらそう語る。


 アルビットが転移魔法の阻害を行なった魔法だ。元々クルシアが脱走した後に使用する魔法だったのだろう。


「ど、どうしよう!? 兄さん!」


「この結界を解く方法はある?」


「ま、待ってくれ。今考えるから……」


 急かすナディとエフィに困惑するシェイゾを置き去りに、ディーヴァは正面の空を見る。


「……時間がない」


 するとディーヴァはローブを脱ぎ、ウィントを背負うと、そのローブを縄のように縛り、固定した。


「お、おい。何をやって……」


「エフィ、シェイゾ。私のように二人を身体にくくりつけろ」


 族長とレンを運んでいた二人にそう指示するが、意図が読めないと首を傾げる。


「先ずは説明を――」


「時間がない!! 急げ!!」


「「は、はいっ!」」


 二人がディーヴァと同じように準備をしている間にナディは尋ねる。


「あの、何を?」


「簡単だ。ここから飛び降りる」


「えっ……?」


「「へ?」」


「「「ええええええーっ!!!!」」」


 準備を丁度終えたシェイゾはツッコむ。


「お前は馬鹿か? こんなところから飛び降りたら、それこそ死ぬぞ!」


「ナディ。確か貴女は風属性持ちよね?」


「は、はい……」


「おいおい、まさか……」


 そのまさかだと無言で頷くと、シェイゾは全力で止める。


「――ふざけるなぁ! ナディの魔力が尽きれば、全員地面に叩きつけられるぞ! それにそんな責任重大なことをナディにさせるわけにはいかない。私がやる!」


「お前こそ馬鹿を言うな! 水属性持ちこそ、この場では意味がない!」


「……兄さん。私のこと、信用できないの?」


 シェイゾの先程の発言に、ショックな様子を見せるナディは、ギュッと手を重ねる。


「ち、違う! そういう意味ではない。私はお前を心配して……」


「それが信用してないってことだよ! 私だって守られるだけの私でいたくない!」


「ナディ……」


 ナディは覚悟を宿した真剣な瞳で訴えかける。


 自分も状況くらいは理解している。自分にできることがあるならやると、その眼差しが訴える。


 敢えて言葉にはしない。


「……わかった。具体的にはどうするんだ?」


「兄さん……!」


 根負けしたシェイゾがディーヴァの考えを尋ねる。


「簡単なことだ。至急されている転移石があるか、確認してくれ」


 そう言われて取り出したのは、この天空城に来る前に族長より至急された緊急用の転移石。


 転移先はヴィルヘルム。つまりはエルフ専用の転移石。


 全員持っていることを確認すると、作戦の概要を話す。


「先ずはこの天空城より飛び降り、あの結界の範囲外まで落下すること」


 ジャミング・フィールドは幸い、効果範囲が肉眼で確認でき、その効果範囲は天空城全体を丸く覆っているはず。


 妖精王の力を手に入れたアルビットならば可能だろう。


「なるほど! つまりディーヴァはその範囲を抜けたところで転移石を破壊して脱出ってわけだね」


「ええ。そのためには、風属性持ちの貴女の補助があると助かるの」


「わ、わかりました。頑張ります!」


 一同は天空城の端の崖の上に立つ。


 確かに地面が迫っている。飛び降りることを躊躇(ためら)っていると、転移石の発動ができなくなる。


「よし! 全員同時に飛び降りるぞ!」


 みんな手を繋ぎ、深呼吸をするとカウントを開始する。


「いくぞっ! 五、四、三……」


 まだ少し震えているナディの手を強く握るシェイゾ。


「兄さん……」


「大丈夫だ。自分を信じろ」


「二、一、ゼロッ!」


 バッとディーヴァ達は飛び降りる。


「「「「わああああーっ!!」」」」


 全員叫びながらも全員手を握り合い、円形ができた。


「ぐぐぐ……ナディ!!」


「はい! ――エア・ウィンド!!」


 ディーヴァ達は一気に高度を上げ、天空城より遥か上空に飛ぶことに成功。


「よし、作戦通り!」


 エア・ウィンドは、初期魔法のウィンドの上位版で初級魔法である。その効果は大きく風を起こす、それだけだ。


 だが天空城より明らかに軽い自分達に風を当ててやれば、天空城の落下と逆方向に飛べばジャミング・フィールドの結界内から抜け出せる。


 そして手を繋いだまま、ディーヴァは転移石を砕き、全員脱出する。


 だがこの時、落ちゆく天空城を見ながら、ディーヴァはこう思った――自分達の前に用意された道や扉は、漆黒の絶望に塗り固められた地獄の門なのだろうと。


 その門出はあまりにも望まぬことだった。

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