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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
7章 グリンフィール平原 〜原初の魔人と星降る天空の城〜
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27 導火線

 

「――いい加減にしろっ!!!!」


 二人の嘲笑(ちょうしょう)を引き裂くように、怒号の声が響き渡る。


 その声の主に疑問を投げかける。


「あれぇ? どうして君が怒るのかな、勇者君? 君……もっと温厚だよね?」


 アルビオも怒りの感情を剥き出しにして、荒い息をあげると、フィンとルインも顕現(けんげん)する。


「貴方以外の前なら温厚ですよ! 僕は!」


「相変わらず性格の悪さは段違いだなっ!! このクソガキっ!!」


「実に不愉快です。どうやったらここまで不愉快な性格になるのか、教えて頂きたいものです……」


 普段、落ち着きのあるルインまでもが皮肉混じりに文句を口にする。


「教えてあげてもいいけど、それじゃあ闇の精霊になっちゃうぞ」


「否定。我誤解。悪質否定」


「君はどちらかと言えば、根暗だもんね」


 ザドゥとは別系統だと微笑むクルシアは、アルビオに同情を求める。


「でもさ、君だって内心はそう思ったろ? ヴィルヘイムの里のエルフ共が同族と妖精王に固執し過ぎてることくらいさ。それがどんな破滅を生むのかとかさ。ちょっと考えればわかるよね?」


「……」


 それに対しては憎い相手ではあるが、同意せざるを得なかった。


 ハイドラスが交渉の席を用意しようとしたのは、ヴァルハイツのみではない。


 亜人種も変わらずに受け入れるという名目から、冒険者のエルフ達に書状を渡したりもしていたと聞いたことがあった。


 だが返事が返ってくることはなく、そのうちその冒険者達も立ち入りを禁止されるほどだった。


 その無言の肯定にはディーヴァ達も絶望感に浸り、アルビオを見る。


「アハハハ。そんな顔して勇者君を見なくてもいいじゃない! 可哀想にねえ?」


「勇者様も苦労が絶えねえなぁ。こんな無能共の尻拭いなんざさ! ケッハハハ」


「……もう弱い者いじめは済んだか? お前の目的を訊こうか?」


 強く睨みつけるアルビオを宥めるような仕草をとると、先ずは自分の計画とは外れていたことから説明する。


「あの人工魔石のメッセージを聞いたなら知ってると思うけど、ボクには元々計画していたことがあった……」


 それは龍神王の側で落ちていた記憶石による、アルビオ達に対する宣戦布告のことだろう。


「獣神王か妖精王のどちらかを暴走させるつもりだったんだ。だから彼女達も動かしてたわけでね」


 この時、アルビオが頭に(よぎ)ったのは、操られた獣人達。


「あのバーバルという女とジルバとかいう女を雇ったのは、お前か!?」


「ああ、遭遇したんだったね。そうだよー」


 あっさりと肯定。


「それでね、チョロチョロと安定しない獣神王より、ある一定の場所を指し続ける妖精王の方が都合が良かったわけ! だけどさ……だけどさぁ」


 我慢できないと再び嘲笑う。


「――アハハハハハハハハっ!! 妖精王がさ! まさかこんな高いところにいるなんて、想定外だったよ! おかげさまでさぁ、厳かにねちっこくやっていくつもりだったのに、ド派手にパーティーを開けるってもんさぁ!」


 この男からのパーティー発言は、嫌な予感しか漂わない。


「普通さ、妖精王って言ったらそこの風の精霊さんくらいの小人を連想しない? だってフェアリーはそんな感じの魔物だろ? それなのにさぁ、ぷははっ! こんな巨人族みたいな大きさで? 馬鹿みたいに神様気取っちゃってさぁ。初めての対面の時、なんて言ったと思う?」


 するとクルシアは感情を無くしたような表情をわざとらしく見せて、演出する。


「よく来た、小さき者よ。我が恩恵を賜りし者よ……だあって!! アッハハハハっ!! 笑いが止まんないよねぇ。ボクのこと、エルフだって思ってたんだから……。それでね、あまりにも馬鹿過ぎるし、こんな馬鹿に頭を下げるのもさすがにと思ってね。言葉巧みに人工魔石を口の中にねじ込んでやったら、このざまよ」


 その苦しみ続ける妖精王についに異変が発生する。


「お? オオおオおオオっ!?」


 背中に生えた虹色の綺麗な羽がバキバキと曲がるはずのない方向へと曲がり、背中がボコボコと暴れている。


「貴様! 妖精王様に何を……?」


「あれあれ〜? もう一度言わなきゃダメ〜? 人工魔石をあの馬鹿に植え付けたって言ったの。わかった? コメディアンのトップさん?」


「ぐっ……」


 人工魔石と聞いてアルビオが想像できるのは、一つしかなかった。


 テテュラを魔物化した例の魔石。


「ドクターの魔石か!?」


「せいかーい! 清らかな魔力の中に、ドロッドロの魔力を混ぜ混ぜしたらどうなるかなんて、言わなくてもわかるよね?」


 その状態を想像することは難しくなく、妖精王は元々魔物だが、今までに入り込んだことのない穢れに侵され、暴走することは必至だった。


「本当にお馬鹿だよねぇ。……こんな言葉を聞いたことがあるだろ? 煙と馬鹿は高いところが好きだってね! アッハハハハっ!! さすが優秀なコメディアンの始祖だね! お馬鹿さ加減は妖精王譲りってわけだ! 良かったね。君達が神と崇めていた妖精王は本物の神だよ……間抜けなコメディアンのね! ――アッハハハハハハハハっ!!!!」


 龍神王や獣神王と比べ、妖精王の逸話はほとんど存在しない。


 龍神王は龍の神子との接点。龍神王は人間との戦争をより経験しつつも、龍の神子アリシアとのことから、人間に対する柔軟な考えがまだマシなくらいにはあった。


 獣神王は勇者ケースケ・タナカとの接点。あの性格を考えれば、もっと社交的に人間とも関わりがあったかも知れない。


 だが妖精王はどうだろうか。


 族長が言うには、ただただ存在しているだけと聞く。天空城という人には確認もできぬ場所。


 今までの発見例もないことから、妖精王は魔法を有し、この天空城をひたすら隠し通していたに違いない。


 世間知らずのまま、自分と唯一の接点にあるエルフとしか関係を持たなかったことは、クルシアからすれば――利用して下さい。一切の抵抗もできませんのでと言っているようなものだ。


 アルビオも苦しんでいる妖精王の手前、口にはしないが、あまりに滑稽だと思った。


「……それで? お前は妖精王を暴走させてどうするつもりなんだ?」


 これ以上は惨め過ぎると話を戻す。


「……ねえ? ここどーこだ?」


「なに?」


 質問には答えず、意図の読めない質問返しをする。


「質問しているのはこっちだ! クルシア」


「まあまあ、質問に答えればわかるからさ。ここどこかなぁ〜、ハイ! そこのコメディアン一号君!」


「わ、私か!?」


 シェイゾに指差し、回答権を与える。


「誰がコメディアンだ!」


「時間がないぞ。ここはどこぉ〜?」


 こうなると聞かないと、アルビオは答えるよう促す。


「こ、ここは天空城だ」


「ピンポンピンポンピンポーン! 大正解! ハイ! 次の質問、コメディアン二号ちゃん!」


「わ、私……」


「ここはどこのお空の上かにゃあ?」


「み、南大陸のどこかだとは思うんですけど……」


 ナディはわからないと悩んでいると、時間が惜しいのかクルシアはすぐに答えを話す。


「答えはグリーンフィール平原でした!」


「――オオオオオオっ!?」


 その答えと同時に妖精王の背中から痩せ細った人の腕が無数に生え出てきた。


「よ、妖精王様ぁ!? き、貴様っ! そのような問答などどうでも良い! さっさと妖精王様を元に戻せ! このような行いも特例として見逃してやる」


「ああ? なんだあのジジイ。何様のつもりだぁ?」


「あれがコメディアンのトップの実力さ。耄碌(もうろく)お爺ちゃんのことなんか無視すればいいよ」


「なんじゃと!?」


「だあってさぁ……」


 クルシアは上機嫌で悪辣な笑みを心底浮かべる。


「自分達がどれだけ追い詰められているのか、まったくわかってないんだからさぁ」


「な、なにぃ……?」


「貴方はもう黙ってて下さい。さっさと質問に答えろ! クルシア!」


 ついにアルビオも族長の頑固さに呆れ果て、突っぱねた。


「大丈夫大丈夫。ボクの質問に答えていけば、賢い君ならわかるはずだからさ。そこのコメディアン共と違ってね」


 三本の指を立てる。


「ハイ! 第三問、天空城はどうやって浮いてるでしょうか? そこのコメディアン三号ちゃん! 答えてごらん?」


 ディーヴァは馬鹿にするなとばかりに睨みつけながらも、質問に律儀に答える。


「このような建物となると、妖精王様の魔法で浮かせていると考えるのが自然だ。おそらくは魔力の循環を利用した術式を組んで浮遊術の持続をさせたに違いない」


「だとしたら、今浮かんでるのは不自然だよね? その管理してるはずの張本人がアレじゃねぇ」


 くいっと親指で差す先には、奇声を上げながら無数の腕が地面につき、とても知性と理性を持った魔人とは思えぬ狂気に満ちた表情をしている。


「くっ……さっさと答えろ!」


 妖精王の変わり果てていく姿に、焦燥(しょうそう)感に襲われる。


 それをクルシアが楽しげにしないわけもなく、


「他にも浮かぶ理由があるんだけど……わかる人!」


 相変わらずのマイペースを維持するクルシア。


「浮遊石じゃないか? クルシア」


「おっ! さすが勇者君。博識だねぇ」


「これほどの天空城を浮かせることをこの妖精王が自分の術式の管理だけで行うとは思えない。浮遊石も用意したはずだ」


 クルシアの話から妖精王はエルフ以外と関係を持たない神経質な性格に捉えられる。


 そのため万が一のことを考え、二重の準備をするものだと考えた。


「その通りだよ。この天空城の周りにはリング状に加工した浮遊石が設置されててね。それで一定の高度を保って、飛んでいられるんだよ」


 そして――四本の指を出す。


「ハイハーイ! それでは第四問! これは勇者君とコメディアン三号ちゃんと四号ちゃんにだよ。グリーンフィール平原に何か変わったことがなかった?」


「平原に変わったところ……?」


「変わった――」


 アルビオはグリーンフィール平原にあった変わった模様の入った岩を思い出す。


「ところ!!」


 バッとクルシアの方を向くと、ニヤッと笑う。


「……ボクがやろうとしてること、気付いた?」


「クルシアっ! お前……天空城の浮遊石を破壊したな!?」


「せいかーい! さあて、ここまで言えばある程度、想定できるんじゃない? この状況がどれだけマズイかくらいさ……」


「――フィン!」


 その思惑に気付いたアルビオは、危機迫るこの状況を少しでも把握するために指示する。


「この天空城が飛んでいる地上に町か村があるはずだ! 状況を確認してきてくれ!」


 その町か村と聞いてフィンは、嘲笑(ちょうしょう)を続けるクルシアに悔しそうに舌打ちすると、


「わかったよ! くそがぁあっ!!」


 フィンは大急ぎで外へ向かった。


 するとナディはおかしな点に気付く。


「あ、あの。だったらこの天空城が今浮かんでる理由は何です?」


「そんなの決まってますよ……」


 目の前で歪んだ笑みが絶えないこの男が何かしらしていないと説明がつかない。


 スッとクルシアは指を鳴らすよう構える。


「――やめろ! クルシ――」


 パチンっ!!


「おわっ!?」

「なっ!?」

「「きゃあっ!?」」


 指を鳴らした瞬間、ズズンと天空城が上下に揺れた。


 その大元の原因はやはりこの男。


「クルシアっ!」


「ハハハハっ! そうだよ。君の想像通りさ」


 天空城はズズズズと空気抵抗時の風の音が鳴り響く。


「お、おい……まさか落ちてるのか!?」


「そうだよ! 真っ逆さまさ!」


「な、なんということを……!?」


 すると風と共にウィンティスが現れる。


「我が主人(マスター)。貴方様の風魔法が解かれましたので、ワタクシめ、戻って参りましたが……」


「それでいいよ、ウィンティス。精霊はちゃんと見逃したかい?」


「勿論! 我が主人(マスター)の策略通りに行うため、見逃しましたぞ!」


 ウィンティスは天空城の下でクルシアの風魔法を補助していた。


 クルシアはご苦労さんとウィンティスを帰した。


 それと同時にフィンが戻ってきた。


「おい、アル! お前の予測通りだ。この天空城の落下地点に町があるぞ!」


「……やはりか」


「さらに最悪の情報だ」


 フィンはさらに深刻な表情で、宣言通りの情報を提示する。


「その町の連中だが、この天空城が落ちてきてることに一切気付いてねえ!」


「――な、なに!?」


 普通であればこれほどの巨城が組み込まれた空中庭園が、上空にあれば太陽を隠し、影からでも気付くはず。


 というより、これだけのものが見えないはずがない。


「原因は簡単だ。あのクソガキ、町に結界を張ってやがる。幻術系のなぁ!! そうだろ、クソガキ!!」


「アッハハっ!! そうだよ。わざわざ座標を合わせたんだ。大いに盛り上げたいだろ?」


「野郎……!」


「さてその町は普通の町じゃない……これが何を意味してるかわかるかにゃん?」


 アルビオは今までの南大陸の情勢と状況を整理し、クルシアの言っていることの意味するところを考える。


 ヴァルハイツ、人種差別、原初の魔人、落ちる天空城、細々としたそれぞれの思惑。


「!?」


 アルビオは今までにない絶望感を味わう。


 噛み締めるように、ゆっくりと咀嚼(そしゃく)し、苦味と渋みとねっとりとした甘みが混じるような気持ち悪い感覚。


 後先がわからず、泥沼と化すかのような感覚がアルビオを襲った。


「……点と点が線で繋がったようだねぇ。酷い顔だ」


「ク、クルシア……クルシアぁあああっ!!!!」


 クルシアの思惑がわかったのは、アルビオだけなようでディーヴァ達は状況に追いついていない。


「アルビオ殿。な、何が……」


 ディーヴァが呼びかけたアルビオは、見たことがないほど怒りを宿した瞳だった。


 するとクルシアは追い討ちをかける宣言をする。


「さあ……君が勇者になる準備ができたよ」


「なんだとぉ……?」


「そうさ! この状況から君が脱兎の如く逃げるという選択肢をとらない限りは、君は勇者にしかなれない状況さ。わかるだろ?」


 アルビオは確かにと考える。


 自分が天空城の落下をそのまま放置はできない。下には今尚、危機的状況にある町の住人達がいるのだ、見捨てられない。


 だが勇者にしかなれないという言葉には、些かの違和感が湧いた。


「この高度から天空城の落下速度を考えると、およそ十分から十五分くらいかな? タイムリミットは。そしてその時間潰しに障害を用意しておいたよ」


「オオオオオオッ!!!!」


 すっかり姿が変わり果てた妖精王と、ゆらりと長い舌を出し、首を回して柔軟するアルビットの姿があった。


「どうだい? タイムリミットが迫る中での強敵が二人。中々ハードでスリリングだろぉ?」


 妖精王が完全な化け物へと姿が変わっていくのを見る限り、あの質問はその調整だったように思える。


 だがどうしても引っかかるのは、勇者にしかなれないという言葉。


 それを考える中でふと思い浮かんだのは、ハーメルトの人達。


「お、お前……」


 重大なことに気付いたアルビオは、恐る恐るクルシアを見た。


「そう、その通りだよ! 二者択一、君はどっちを選ぶ?」


「あ、ああっ!? あぁああああーっ!!!!」


 気付いたのだ。クルシアの意味する勇者にしかなれないという意味。


 この状況と自分の立場を考え、両天秤に簡単に切り捨てられないものを置かれれば、苦悩もする。


 アルビオは温厚な性格だ。


 だがここまで心を乱され、激情するままに感情を剥き出しにすることはない。


 クルシアは『天災』だ。


 ここまでの状況を作り出してしまえる傍観者は。


 エルフや妖精王を嘲笑い続けられることの全てにも説明がついた。


 そしてクルシアは『天才』だ。


 人の心を踏み躙り、絶望を与え、ここまで不愉快な気持ちへと突き落とす天才だ。


「クルシアぁあっ!! お前はどこまでっ!!」


「いやいや、ボクだって妖精王がこんなとこにいなかったら、ここまで派手にはしなかったよ。……言ったろ? 想定外だったって?」


 どこまでも楽しげに話すクルシアに、(いきどお)りしか感じない。


 そのクルシアはひとしきり笑い終えると、ペコッと丁寧なお辞儀をする。


「それじゃあ引き立て役はここまでってことで。後は任せたよ、ビット君」


「金の分の仕事はするさ」


 ビット君呼ばわりは言っても聞かないとわかったのか、ツッコむのをやめた。


「クルシアっ! ここまでしておいて逃げるつもりか!?」


「逃げるだなんてとんでもない。ちゃんと傍観はするよ。そこの神を気取って醜態を晒してるお馬鹿さんよりもマシな傍観者としてね! アッハハハハハハっ!!」


「くっ! ルイン!」


「はい!」


 ここで逃がすわけにはいかないと、ルインの剣への変形するのを待たずに、クルシアへと突進する。


 ルインの光がアルビオを追いかけ、クルシアの元へたどり着く時には、光の剣が出来ていた。


「クルシアっ!!」


 キィンという鋼の音が鳴る。人を斬った感覚はない。むしろ受け止められた。


「おいおい、勇者様のお相手は俺様だろうが!!」


 凝固した血の剣でアルビオを弾き返すと、その着地点を狙うように、妖精王の拳が飛んでくる。


「オアアアアッ!!」


「――!?」


 細い腕から繰り出されたとはいえ、身体の大きさは巨人並み。


 そこからの渾身の一撃は、アルビオを簡単に吹き飛ばす。


「アルビオさん!?」


 ナディが叫ぶ中、石柱に衝突したアルビオはすぐに体制を立て直し、クルシアを睨む。


「ビット君、君も死なれちゃ困るから程々に切り上げてきてね。この馬鹿に任せてもいいからさ」


「わあってるよ。だが、()()()を勇者様に試せる機会だ。本来ならめんどくせえと思うところだが、アガってるぜ!!」


 楽しそうだなと微笑むと、


「ではコメディアン諸君、せいぜい君達の役割通り、無様に踊り狂って、ボクを楽しませてくれよ。それしか取り柄……ないんだからさ」


「待てぇ!!」


「それではまたお会いしましょう? 役者諸君」


 クルシアは転移石を砕き、フッと姿を消した。


「――くそぉっ!!」


 アルビオにしては珍しく感情的だと思う精霊達。


 正直、この状況の最悪の光景が見えているのは、クルシアサイドの人間とアルビオだけだった。


 エルフ達も同様に、このことの重さの真意を見つけられないでいる。


 だが温厚なアルビオを知っているディーヴァ達は、あそこまでの感情を剥き出しにしていることから、自分達では想像もできないほどの事態なまで侵食しているのだと予見できる。


 そしてその事態を理解しているアルビットもまた、嘲笑いながら語る。


「正直よぉ、めんどくせえことやってんなぁって思ってたんだぜ、あの雇い主(クライアント)。だが、(ふた)を開けてみりゃあ……どうよ!? ケッハハッ!! 面白えことになってんじゃねえか!? 金以外にもこんなに胸を熱くさせることがあるかぁ? ねえよなぁ?」


「胸なんて熱くなりませんよ! わかってるんですか!? これから起きようとしていることを!?」


「俺はまあ聞いてるから知ってるぜぇ。……最高だなぁ、おい」


 そう言うとアルビットは、手の平をナイフで突き刺し、血を流すと流体の魔物のように、うねうねと動き出す。


 そして妖精王もまた、この空間を彷徨(さまよ)う殺気に当てられて、獰猛(どうもう)な叫び声を上げて威嚇する。


「オオオオオオッ!!」


「さあっ! パーティーの前哨戦と行こうぜ!!」

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