24 辛いことだけじゃない
「本当に感謝致します」
その言葉を何度聞いたことか。
七箇所ほど獣人族の里を訪れたが、どこも逼迫した状況にあった。
生物兵器が周りを囲み、食料の尽きたところや正に襲われている最中の里にも遭遇した。
中でも最悪なのは、何者かによって食い荒らされた後の光景が広がっているところもあった。
更には倒した生物兵器からは亜人種と思われる死体まで現れる始末。
ヴァルハイツの悪辣さを、アミダエルという人間の外道っぷりが垣間見える光景であった。
「……すまない。待たせたね」
「いえ……」
ディーヴァとエフィは涙目になりながら戻ってきた。
「よかったの? 連れていかなくて」
「心遣い感謝する、フェルサ殿。だが、早く休ませてやりたくてな」
生物兵器から出てきたのは、薬漬けにされたであろうエルフの姿が多かった。
獣人の強固な身体もいいが、特性の強い魔物を生み出すなら、魔力の流れもいいエルフの方が重宝されるのだろう。
倒していくたび、埋葬するたびに彼女達にとって、苦しい旅路となっている。
アルビオも内心、人間への不信感が強くなるのではないかと考えるほどである。
というより、自分なら人間を酷く嫌悪するだろう。
だがそう思わないのは、あくまでアミダエルという人間は自分達とは違う存在だと、同族だからそう考えられるのだ。
ずるいとは考えるが、そうでも思わないと理性の持ちようがない。
それほどまでにこの環境はひどい。
「フェルサさんも大丈夫なの?」
「心配ない。私はここらの里の人達みたいに同族に対する協調性がないから。同情心が湧かない」
言われてみると、寮で同室だという獣人とも仲良くしてないようだったし、一度裏切られたこともあってか、獣人の里の現状にそこまで心を痛めている様子は窺えない。
だが何も感じていないわけでもないようで、戦う際には率先して行動しているように思える。
せめてもの慈悲に、楽に殺してやろうといったあたりか。
「本里はさすがに大丈夫だろうけど……そろそろなんでしょ?」
エフィの問いにこくりと無言で頷いた。
フェルサにとっては一度追放されたところだと聞く。そこに足を踏み入れるのは、並々ならぬ思いがあることだろう。
だがどんな思いがあったのか、何があったのか、その片鱗も語られてはいない。
追放され、グラビイス達に拾われたということしか知らない。
森を抜けると岩壁に家だろうか、複数の入り口が存在する町へ到着した。
そこの門兵に止められる。
「止まれ! ここをどこかわかっての立ち入りか?」
「はい。こちらは獣人族の本里ですよね?」
エルフであるディーヴァにそう尋ねられると、快く答えようとするが、後ろに見えたアルビオを見て、血相を変える。
「何故、人間がいるのだ!?」
槍を向けて警戒心を剥き出しにすると、フェルサがバッと庇うようにアルビオを守る。
「貴様……! 同族だろ!? 何故、人間を庇う!?」
その問いに対し、フェルサは無言で睨みつける。
その睨み方は敵意を剥き出しにするような威嚇の意味が込められている様子。
思わず怯む門兵達の騒ぎに気付いた鷲顔の神獣人が話しかけてきた。
「どうした? 何事かね?」
「ムジャナ様。じ、実は……」
ムジャナは岩の門の前で、アルビオを庇っているフェルサを見ると、驚いた様子を見せる。
「お、お前は……フェルサか?」
「だったらなに?」
イラッとした言い方で返事をするあたり、この人は追放を言い渡した一人なのだろうかと思ったアルビオ。
ディーヴァとエフィは彼らの因縁を知らないせいか、その不機嫌な様子に首を傾げる。
だがムジャナは気まずそうに、先ずはエルフ達に訪れた用件を尋ねる。
「……何用で来られたかな? エルフ殿。」
「我々はあくまで彼らの同行者として引率している者です」
そう言われ、あっさりとフェルサ達と話すこととなったが、ムジャナにはアルビオの容姿に見覚えがあるようで、
「貴方は勇者様ですか?」
「えっと、その子孫にあたります」
「なるほど。ちょっと待っていなさい」
ムジャナは足早に門飾りがしてある岩壁の穴へと入っていった。
アルビオはフェルサを追放した割には、あまりに予想とかけ離れた態度に驚いていた。
「あのフェルサさん?」
「ん?」
「本当に追放されたんですか? それにしては、先程のムジャナという方、様子がおかしくありませんでしたか?」
フェルサに対する視線に申し訳なさを伝えるような感覚があった。
「今、獣人の里が色々と襲われているから、咎める余裕がないんじゃない?」
どうもそれだけとは考えにくいと思っていると、ムジャナの入っていったところから、ライオンの頭をした白い聖職者の風貌をした神獣人が一緒に出てきた。
「勇者の末裔殿か。噂は聞いていたが、まさかこのような辺鄙なところまで……。ご足労感謝する」
しっかりと客人として迎え入れるライオンの神獣人に、門兵の二人はその下手にでる彼を見て、怒りを表す。
「何故ですか!? ヴォルスン様がそのような態度を取らずとも……」
「我々には、かの勇者に救われた。恩には恩を持って返す。これは我らの流儀に反する」
威圧するように放つ発言に、門兵達は萎縮すると、それ以上は何も喋らなかった。
「我らが同族が失礼した。我はここ、リューデンの里長を務めるヴォルスンという者だ。ここまでの旅路でのご活躍は聞き及んでおります。先ずは同族達をお救いして頂き感謝する」
どうやらここまでの道中での活躍を把握していたようで、深々と礼を言われる。
「いえ、当然のことをしたまでです」
アルビオの感覚では、この里もエルフ達のような扱いを受ける覚悟はしていたのだが、思った以上に温和な雰囲気で安心する反面、
「……」
ヴォルスンが姿を見せてからのフェルサの不機嫌オーラが全開である。
それを感じとれないわけもなく、ヴォルスンは落ち着いた眼差しで、フェルサに近付く。
「ウウウウ……」
ここに来るまでは気にしてないとか、態度に表すことはなかったが、やはり目の前にすると感情が前に出てしまうようだ。
唸り声をあげて威嚇する振る舞いに、ヴォルスンは申し訳なさそうな表情を浮かべると、
「……すまなかった」
「!」
「……本当にすまなかった。謝って済むものではないと理解している。だが、今はこの通りだ」
ヴォルスンとムジャナはペコっと頭を下げて謝罪した。
すると事態を理解していないエフィは、
「あ、あの〜ここ、何かあったんですか?」
水に油を注ぐが如くの質問を投げかける。
少しの沈黙が長ーく感じてしまう空気に、アルビオは内心、冷や冷やしながらもヴォルスンは、
「……そちらの用件は立ち話で済むお話でもないでしょう。こちらへ……」
とりあえず場を濁すかたちで案内に預かるが、フェルサがその門の前で立っている。
「フェルサ。お前も来なさい」
「!」
追放し、立ち入りを禁止したくせにと表情からでもわかった。
だが今はクルシアが原初の魔人を狙っているという緊急時。場をあまり乱すことはと、従うことに。
先程ムジャナが入っていった場所に案内されると、そこの九本の尻尾を持った狐とあらゆる獣人種が跪く姿が描かれた壁画があった。
ここが里長の部屋などだと簡単に理解できた。
藁で編まれた床じきに各自座る。
「先ずはフェルサの件ですが、つまらない話です……」
「つまらないだと……!!」
その意見で一気に表情が一変し、怒りの形相へと変わると、フェルサが捉えている意味ではないと否定した後で説明する。
「精神型だの肉体型だの、我々の固執した概念がフェルサに対し、辛い目に合わせてしまった。本当に申し訳ないと思っている」
「今更……」
フェルサがどうしてこの里を訪れたかは、当時は幼かったことを考えれば、追放、入国拒否は絶望的だっただろう。
そんな重苦しい空気の中、一番仲裁を行える立場にあると、エフィが余計なことを言うまいと、
「獣人族にも色々あるのよ、エフィ。不躾な質問をお許しください」
「いや、エルフの剣士殿が謝られることではありません。むしろ話すきっかけをお与え下さり、感謝しています」
だがフェルサはまだ許しているような雰囲気は出さない。中々に意固地な性格だと考える。
「フェルサさん。今は呑み込んでもらえますか? 落ち着いてから腰を据えてお話しましょう」
「……」
「勇者殿。我々が浅はかだったのです。精神型を受け入れられないなど……ヴァルハイツと同じではないかと……」
なるほど納得だった。
今までは獣人族の能力だけでも成り立っていたからこそ、肉体型こそ獣人たるものだという固定概念が、昔からのしきたりであったようだ。
だがいざヴァルハイツとのことを鏡のように捉えられたのだろう。
ヴァルハイツほどではないにしても、人種差別には違いない。
エルフ達は多少の種族さはあっても、歪み合うことはほぼない。
その反省点を踏まえて話し合いがされたのではないだろうかと考える。
「わ、わかりましたが、僕を受け入れて下さったのもそれで?」
「それもありますが、先程も申しました通り、勇者に救われた恩義と貴方様のこれまでの恩義に対するものであります。ですが、今はヴァルハイツの侵攻も著しく、門兵があのような態度を取ってしまったこと、今一度謝罪する」
「い、いえ! もう大丈夫ですから。大したこともありませんでしたし……」
フェルサや獣人族の事情の話がひと段落ついたところで本題へ。
「それで、この里に来られたのもヴァルハイツの侵攻の御助力でしょうか?」
どうやら昔訪れた勇者ケースケ・タナカの行動と重なっての質問だと受け取れる。
「ご期待に添えず申し訳ない。あくまで皆さんの里を訪れ、守ったのは偶然によるところがあります。本来の目的は別にあります」
「そうですか。それで、用件は?」
「はい」
アルビオの視線が向いたのは壁画。
こちらでも妖精王のように原初の魔人を崇める習慣があったのではないだろうかと、情報の期待値が上がる。
「ここに描かれているのは、獣神王ではありませんか?」
「ええ、そうですね。我々は獣神王様に教えを説かれたという歴史がありまして、豊穣神として祀られているのです」
この壁画を見る限り、この狐はドラゴンよりも希少な存在、九尾だと思われる。
世界に存在するか否かとまで言われている希少種の魔物。
九尾が豊穣神などと言われることに疑問を感じつつも、本題の話に入る。
「実はその獣神王を探しておりまして……」
「獣神王をですか?」
「はい。早く見つけないと大変なことになりまして、どこに居られるかわかりますか?」
ヴォルスンとムジャナはお互いを見合うが、どうやら知っている様子ではない。
「申し訳ない。我々が知るところではない」
エルフ達の里とは違い、獣神王のことを口にしても、気を悪くする様子はない。
一応、神として崇めている節があるだけに、ここにいも違和感があると感じたので、
「あの尋ねておいてアレですが、獣神王を探していることに思うことはなかったのですか?」
今までの獣人族の里は救ったという名目があったから、話が通ったように感じたが、昔の勇者の恩義だけでここまでの穏やかに話が進むものだろうか。
それとも同族を救ったことへの恩義だろうか。
「我々はエルフほどの信仰心を持っておりません。というより、言い伝えられた話から獣神王様はあまりそのような信仰をお求めではないとのこと。ですから、あまり固執していないのですよ」
その言い分に納得はするが、これ以上の情報がまさか本里でもないとはと、気を落とす。
「お力になれず申し訳ない」
「いえ、今獣人族の里は危険な状態にあるのに、お邪魔して申し訳ない」
するとヴォルスンは少し前のめりになる。
「そのことなのですが、不躾なお願いがあるのでさが……」
おそらくは獣人族を救って欲しいとの用件だろうかと、予想できる。
「どうかハーメルトへの移住を手伝って頂きたいのです」
「えっ!?」
予想外の斜め上の提案に驚いていると、当然の反応だろうと説明される。
「ハーメルト王国は我らも受け入れて下さるお国であることは把握しております。今の戦線はお世辞にも良いとは言えず、ここも侵攻を受けることは時間の問題。ですから若い者や女子供だけでも保護して頂きたいのです」
特にあの攫い屋が現れてからの侵攻速度が深刻化しており、このような苦渋の決断を迫られたのだという。
本里を手放すことなど、我らが誇りに反すると言った者達はそう出て行ったきり、戻って来ないと話す。
正直、アルビオとしては信頼を得られるチャンスではあるが、こんな案件、独断でできるはずもなく、こちらへ来ているであろう、ハイドラスと要相談する内容であると判断できる。
「僕の独断ではなんとも。ただ、こちらにハーメルト殿下様が来られているので、交渉は可能かと……」
「ほ、本当ですか? 感謝致します。ではこちらから使者として、ムジャナが同行致しま――」
「ちょっ、ちょっと待って下さい! 僕らの目的は獣神王の保護にあります。これまでの間、僕はこの里を守りたいと考えています」
「そ、それは有り難いことですが、そこまで心配せずとも、獣神王様はお強いのでは?」
会ったことはないが、原初の魔人は常識的知識から容易に倒せる存在ではないと話すが、
「……西大陸でのお話は存じてませんよね?」
「え、ええ……」
「西大陸には龍神王が存在しておりました。ですが先日、今獣神王を狙う輩の仲間が殺害したのです」
「「!!?」」
原初の魔人を殺すという異常事態に、驚愕する神獣人の二人。
「そ、それでは……」
「はい。これはエルフの里でも話したことですが、原初の魔人の死はこの大陸の環境を変えてしまうほどの天災なのです。今こうして力の弱っている亜人種の方々がそのような環境に陥った時、ヴァルハイツやその同盟国との戦線はどうなります? ……想像することは難しくないはずです」
それを訊いた神獣人の二人は、どんどん青ざめていく。
「わ、我々の生き残る術は……」
「ですから僕がここにいます」
落ち込み俯いた顔を上げると、真剣な眼差しで呼びかけたアルビオの姿があった。
「彼らの……いえ、彼の思い通りにはさせません! 必ずより良き道へと指し示していきましょう」
手を差し伸べるアルビオの手を縋るように取ると、
「ありがとう……! 勇者殿!」
彼らの想いに応えるためにも、これからの行動を説明する。
先ずは散り散りになっている他の里の獣人達を集め、男性の男獣人達は、この本里を守りつつ、獣神王の情報を探すこととする。
女子供達は岩壁の家の中に、当分は避難させるかたちとなった。
ヴァルハイツからの侵攻が早いと感じるのも、獣人達が散り散りとなり、連携が取れないことが要因だと考える。
そのため、ヴァルハイツの侵攻が治まるまでは、身を固めようとの作戦だ。
その伝達役には、アルビオとディーヴァとエフィを含めた本里の精鋭の獣人達が担うこととなった。
そして――、
「フェルサさんはムジャナさんと共に殿下に保護のことを連絡して下さい」
「フェルサ。これを……」
ヴォルスンからの新書を預かるが、その表情はまだ険しい。
「フェルサ、お前からすればこの里の者を救うこの大役は引き受けたくない気持ちもわかる。幼く、両親を失ったにも関わらず、受け入れなかった我々に対する怒りは尤もだ」
黒狼族は獣人種でも放浪族として、各地を回っていると聞く。
そこで仲間や家族を失い、やっとの思いで同族に会ったかと思うと、突き放されたのだ。
許せるはずもなかったが、
「別にいい。私はお前達のように要領の悪い獣人じゃない。今は心から仲間だと……友達だと思える人間達がいる。だから感謝している」
追放され、あの時の孤独があったからこそ、グラビイス、ジード、アネリス、サニラ、バークという冒険者に出逢えた。
彼らとの旅路は最初こそ困惑したものの、そのうち懐かしさと共に、心地良さすら感じていた。
同族達と共に過ごしたあの日々を思い出させてくれた。
今ではその彼らも新しい道を指し示すと、学校にも通っており、これはまた別のむず痒さ、心地良さを感じた。
今までの過酷な旅路ではなく、あの学園にいた時間はなんとも緩やかで穏やかであった。
お互いを刺激し合い、競い合っていくというまた違った環境にも翻弄された。
一人の女の子として過ごした自分も自分なのだと。
だからこそ、仲間を重んじる芯は揺るがない。
「私が守ってやる」
追放させたコイツらだって同じ獣人だからと、微笑んで見えた。
「じゃあ頼んで――」
ゴゴォンっ!!
激しい音と共に、軽く地面が揺れる。
すると獣人達は鼻をひくひくと鳴らすと、その方向へと睨みを効かす。
「向こうに何かいる!」
「向かいましょう!」
アルビオ達とヴォルスンと獣人の精鋭達を数人連れて、その気配のある方へ向かった――。
「あ、あれは……なんだ?」
森の中、大型の四足歩行の魔物が獣人を食べている光景があった。
だがその魔物の姿はあまりにも異質なものだった。
頭はライオン、身体は爬虫類のような鱗が敷き詰められており、背中にはドラゴンの羽が生えており、複数の蛇が尻尾となっていた。
「あれはキマイラか……!?」
「キ、キマイラ!?」
「は、はい。ハーメルト王城の書庫の資料で見かけたことがあります。確か深さのある迷宮の難易度の高い下層エリアで稀に目撃される魔物で、討伐数も一桁しかない魔物です」
先ず、常識的に考えて地上に出現することなど不可能な魔物。
とすれば自ずと答えは出てくる。
「あれはヴァルハイツの生物兵器ですね。おそらくですが、キマイラの情報を元に再現したのではないでしょうか」
「そ、そんなぁ……あんなもの、どうやって対応すれば良いか」
驚きはするが怯む様子がないヴォルスンは、中々冷静であった。
お陰で自分も冷静でいられると、心強く思う。
「……僕に任せてもらえませんか?」
「ゆ、勇者殿にか!?」
「無茶です、アルビオさん!? あの魔物は……」
「大丈夫ですよ、ディーヴァさん。というより、多分、相手にできるのは僕だけです」
「え?」
アルビオは、あれがキマイラだと仮定すると、ある程度の耐性を持つ自分の方が適切だと考える。
「いくよ! フィン! ルイン!」
「おうとも!」
「はい!」
アルビオは二人を剣にすると、木々の中を素早く通り抜け、先ずは一太刀。
「はあっ!」
キィンと鋼がぶつかる音が響く。かなり強固な身体と判断できる。
「硬えな! アル!」
「そうだね。だけど……!」
すると尻尾の蛇と本体の頭がこちらをぎょろりと視線を向けるが、
「それ、意味ありませんよ!」
完全な隙ができたとフィンを振り、かまいたちでキマイラの片目を潰す。
「ギャアアアアッ!!」
冷静さを失ったキマイラはその場で暴れて狂う。
それを見ていたディーヴァ達やヴォルスン達は、ひと息呑む。
「我々も勇者殿に続くぞ!」
「「「「「おおおおっ!!」」」」」
するとディーヴァ達も一斉に飛びかかる。
「畳み掛けます! アルビオさん!」
「み、皆さん!? ダメです!!」
するとその視線を浴びた獣人達が悲鳴を上げる。
「あっ!? ああああっ!?」
ピシピシと身体が石化していったのだ。
「石化だと!?」
「はい! 僕は全属性に精霊の加護がありますが、皆さんは耐性がないはず! 下がって!」
キマイラには石化の魔眼が使えるとのことが記されていた。
本当ならば深層にいるであろう魔物の脅威度は比べものにならない。
この硬さも攻撃力も能力も、地上の魔物の比ではない。
「――ディスペル・コード!」
石化した獣人達を元に戻すと、
「振り返らず、彼らの元へ!」
アルビオの指示でまた距離を取ったディーヴァ達のところへ迎えと指示を送ると、キマイラの前に立つ。
「さあ、やんちゃな猫さん! 飼い主には悪いですが、倒させてもらいます!」
そう、地上の魔物の比ではないはずなのだが、精霊達との信頼や頼ってくれている亜人種達。
守るべき者のために戦う。これほどやり甲斐のある戦いはないと、剣を握る手にも気合が入る。
恐怖よりも戦いたいという意思の方が表に出た。
「いきます!!」
細々と生え並ぶ木々の中を翻弄するように走り回るアルビオ。
キマイラは乱雑に前足でひっかき、木々をなぎ倒すも、アルビオには当たらない。
その光景にディーヴァ達も思わず感心させられる。
「こ、これが勇者殿の力か……」
ある程度、キマイラが翻弄されたところで、アルビオは尻尾を斬り落とす。
この森の中に響く叫び声を上げ、完全に我を忘れ、暴れ出そうとするところに、その大きな顔面にスタッと降りると、
「身体は硬くても――顔面なら貫くだろぉ!!」
潰れていない片目にルインの剣を突き刺す。
「――ギャアアアアッ!? ガアアアッ!?」
頭をぶんぶんと振って抵抗するが、アルビオは根気よくしがみつきながら、更に深く刺していく。
「ギャアア……」
限界が来たのか、ズズンとその巨体は倒れ込んだ。
ずぶっと抜くルインの剣は血まみれである。
「うう……血だらけです」
「ご、ごめんね、ルイン。だけどキマイラの属性を考えると、光属性のルインの方がね?」
キマイラ自体の属性は闇属性と記載されていたが、これは人工的に作られたキマイラ。
確実にダメージを与えられる光属性の方が良かったのだ。
そんなルインの剣を拭いていると、チリンチリンと鈴の音が鳴る。
「な、何だ?」
駆け寄ってきたディーヴァ達もその鈴の音が聴こえる方を探すと、ズンズンと重い足取りと共に聴こえる。
その方向には先程のキマイラと同じくらいの図体の魔物と白いローブの魔法使いだろうか、紐で吊りしてある鈴を片手に現れた。
「その黒髪……貴方が噂に名高い勇者ですか」
倒れ込むキマイラを見て、物腰の落ち着いた透明感のある声だが、その華奢そうな見た目とは裏腹に、後ろに立っているキマイラは凶々しく見える。
「貴女は何者ですか?」
「私はヴァルハイツ特殊部隊ジャッジメント――」
彼女が名乗ろうとした時、後ろのキマイラに流星の如く、何かが激突し吹き飛ぶ。
「きゃああっ!?」
「な、なんだ!?」
その倒れ込んだキマイラの顔にすたりと乗る銀髪の獣人は、けろっとした態度でこう語った。
「これまた奇怪な猫じゃのぉ」




