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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
7章 グリンフィール平原 〜原初の魔人と星降る天空の城〜
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19 ヴァルハイツ王国

 

「うう〜……」


「だ、大丈夫?」


 別の馬車に乗ってきていたアイシア達が、あの修羅場を知っているわけもなく、気分を悪くした俺は壁に手をつき、唸りながら呼吸を整える。


 その二人は機嫌が悪いオーラ全開である。


「何があったか尋ねても?」


「あ、後にして……」


 そんな不穏な空気感の中、俺達は城内へと案内される。


 ハーメルトやナジルスタも立派なものだったが、ヴァルハイツも中々豪華かつ洗練された王城である。


 だが気になったのは、その着飾り方。


 若かりし国王だろうか、デカデカと肖像画があり、息子と娘の肖像画まである。


 だが不思議とこういうのって美化されて描かれてることがあるよね。


「この肖像画は国王様ですか?」


「ええ。正面には我らが国王アポロス・ヴァルハイツ。こちらから右にロピス・ヴァルハイツ王子殿下。左にレイチェル・ヴァルハイツ王女殿下であります」


 当然の如く、王族の肖像画だったわけだが、ここに来たことが何度かあるハイドラス達は、呆れた表情を浮かべる。


「へー……ご立派そうな方だね」


 この肖像画通りの精悍(せいかん)な見た目なら、素直にそう言えるが、ハイドラス達の表情を見るに、絶対違う気がする。


 そんなことを口にしたアイシアに、つんつんと突っつく。


「アイシアさん。今のうちに言っておきますが、あの肖像画、王女殿下以外は嘘ですからね。本人にあった時、失礼のないように……」


「えっ? 違うの?」


「ほらっ! そういうとこ! しぃー!」


 ハイドラス側近の二人は、ぽろっと口を零してしまいそうなアイシアを含めた女性陣に注意喚起する。


「ここの国王と王子は、俗に言う好き者なのです。下手に手を挙げられたくなければ、黙っていて下さい! いいですね?」


「まあ、もし俺の女神達に手を出そうもんなら、亀甲縛りにして、火炙りにしてやる」


 それ、久しぶりに聞いた。


「やめろよ、ウィルク。さすがに国際問題に発展する。やるならバレないようにな」


「はい!」


「はい、じゃありませんよ……」


「あらあら愉快ねぇ」


「……全て聞こえていますが?」


 先導しているディーガルが、まあそう言われてもやむないといった複雑な顔をしてこちらを見ている。


「あっ!? え、えっと……」


「み、みみみ、皆さん!? し、失礼ですよ!?」


 シドニエとリュッカがあわあわしているが、ハイドラス達は気にも留めていない。


 だが実際そうなのだろう。


 ディーガルも最初こそ困った表情をしていたが、特に指摘はしなかった。


 そんなテンプレ展開が待ち受けていることが予想できる謁見の間前の扉に到着すると、


「ディーガル・アルマウト。只今、帰還いたしました」


 扉が開かれ、豪華なレッドカーペットが引かれ、騎士達が均一に整列されている。


 そしてディーガルの後をついて国王の前へ。


「国王陛下。只今戻りました」


「うむ。ご苦労であったな」


 俺達は一応ディーガルが跪くので合わせるが、玉座に座って……いや、めり込んでいるのは国王なのか?


 仮にあの肖像画が国王なら、玉座から尻肉がはみ出るなんてことはありえないだろう。


 というか玉座から尻肉ってはみ出るのか!?


 俺達の目の前に転がってきた光景は、まるまると太った贅肉の塊が玉座にはまっているようにしか見えない。


 顔も身体に合うように、豚面だ。


 とっても身体とのバランスが良くお似合いですこと。


 するとアイシアが案の定というべきか、ポカンと尋ねる。


「あの……どちら――」


「お、お久しぶりで御座います、アポロス陛下」


「あ、相変わらずお元気そうで……」


 ハーディスが素早くアイシアの口を塞ぎ、挨拶をした。


 さっき注意を受けたばっかりだろうに、不敬罪に当てられるか、アイシアの場合、好き者だとも言ってたんだ。もっと凄惨な結果だってあり得るんだ。


「いいからアイシアは黙ってな」


 俺はそう耳打ちすると、こくこくとハーディスに口を塞がれたまま頷く。


「相変わらずお変わりないようで……」


「おおっ! ハーメルトの王子か。よくまぁ、懲りずに来られるものだ」


「貴方がしっかり政治をして頂ければ、こうもしつこく訪問もしませんよ」


「悪いな。私はこう見えてもとても忙しいのだ。それにそこの関連の仕事は全部ディーガルに任せている。話を通したくばディーガルを通せ」


 ハーメルトの陛下とは貫禄が違い過ぎる。


 このアポロスとかいう国王は、耳穴をほじりながら面倒くさそうに話す。


 とてもじゃないが忙しそうには見えない。


「それよりも魔人マンドラゴラを殺した、銀髪の生娘がいると聞いているぞ。そやつか!?」


「えっ!? あ……はい」


 先程のハイドラス達に対する興味のない目の色からガラリと変わり、ギラギラした生理的に受け付けられない視線を感じる。


 よく見れば可愛い女子(おなご)が揃っているではないかと、ハイドラスを褒める。


「そなたにしては珍しく女子(おなご)をたくさん連れて来たではないか。褒めてやるぞ」


「申し訳ないが、貴方を喜ばせるために連れて来たのではありません。あくまで外交の名目に――」


「それならばディーガルと話せばよかろう。ほれ、ディーガル……」


「は! それではハーメルト殿下。お部屋へご案内致します。……黒炎の魔術師殿や女性方は是非、陛下の話相手をしてくださいな」


「なっ!? そ、そんな馬鹿な話が……」


「ほれ。お前達、もっと近くに来ないか」


 俺達はまるで売女みたいじゃないか。俺達はこの豚のご機嫌取りに来たわけじゃない。


 それにこの豚。忙しいとか言いながら可愛い女の子をはべらかす余裕があるとかふざけてる。


「あの――」


 俺が反論しようとした時、ファミアが扇子で俺の口を塞ぐ。


「むっ!?」


 すると、ふっと微笑むとスカートを広げ、淑女の所作を見せる。


「ご挨拶が遅れました。わたくし、ラージフェルシアの第一王女ファミア・ラージフェルシアと申します。あちらのハイドラス・ハーメルトの婚約者です」


「ほう、ハーメルトの。お前も隅に置かないじゃないか」


「はは……それはどうも」


「中々の娘を貰うのではないか……」


 そう言いながらファミアを舐め回すように品定めする視線を浴びせるが、怯みもしない。


 俺はマルファロイのあの視線ですら、悪寒が走ったのに、この国王のはそれの数十倍はやばい。


 するとファミアはニッコリと満面の笑みを浮かべる。


「申し訳ありませんが、我々も貴方様と同じく忙しい身。お茶はまたの機会にでも設けませんこと?」


「そんなことを言わずに、少しで良い……」


 やんわりとお断りを入れているファミアに、往生際の悪い態度を取るみっともない国王の元に、どすんどすんという、何かが弾んでいる音が近付いてくる。


「パパ〜! 黒炎の魔術師は来たのぉ?」


 ゲッ!?


 そこに現れたのは、国王をパパと呼ぶ豚が登場。


 肖像画とかけ離れているためか、一応尋ねる。


「あ、あのお名前は?」


「おおっ! 可愛い娘だな、お前! 美しい銀髪、可愛いらしい顔に……」


「――ひゃあ!?」


「なっ!?」


 その豚は俺の胸と尻をさわさわと、触り心地を確かめる。


「ちょっと!?」


「ぶふふ。お前、可愛いなぁ……」


 俺は抵抗して離れるが、この豚の下品な視線と手つきには、酷い寒気しか過らない。


「や、やめて下さい! か、彼女、嫌がってるじゃないですか!?」


「シ、シド……?」


「おまっ!? バカ……」


 俺を庇うように勇敢に前に出るシドニエの背中は、頼もしく見えると同時に、ふるふると震えていることから、かなりの勇気を振り絞ってくれたのだと、少し嬉しくなった。


 だが、そんな男らしい勇敢さも権力が襲いかかる。


「おい、お前! 僕ちんが誰かわかってて止めに入ったのか!? 僕ちんはこの国の王子だぞ! そこのハイドラスと同じ、王子だぞ! 生意気なんだよ!」


 同じ王族でも決定的に違い過ぎる。


 ハーメルトの王族は、国民のために働き、より良き国づくりと将来の発展のため、他国にも積極的に関係を結んでいるのに対し、ヴァルハイツの王族は権力を振りたい放題。


 このわがまま放題のスケベ放題の態度から、明らかに国民のために動いているとは思えない。


 この自分を王子と名乗る豚は、喋り方もガキ臭い。


 ハイドラスからしても、コレと同じとは言われたくないだろう。


「おい! この無礼を働く不届き者を殺せ」


「なっ!?」


 するとディーガルがその豚の前に立ち塞がる。


「お、おい、ディーガル。ほら、そいつを退かして僕ちんにその娘達を……」


 いつの間にか、俺以外の女の子(アイシアたち)も手を出そうと考えてるし。


「申し訳ありません、ロピス殿下。この者達はいつもの友好国の人間ではありません。下手な手を出されますと、最悪、戦争もありえます。彼女に関してはハーメルトの英雄ですぞ」


「う……」


「し、しかしだなぁ、ディーガル……」


「陛下も。お戯れもほどほどに……」


「そ、それならコイツの国と仲良くすれば、黒炎の魔術師を俺の側室にしてもいいんだよな!?」


 ああっ!? と俺は心の中でキレた。表に出すのはマズイので。


「そうなれば我が国は亜人種に人権を与えねばなりません。そうなれば困るのはお二方では?」


「「むむっ!」」


 豚親子はそれは困ると、汗を流しながら焦る。


「そんなことになれば美人のエルフに身体を洗ってもらえないではないか」


 は?


「そうだぞぉ! それに夜のことだってあるんだ。抵抗できないようにするためには、奴隷でいてもらわねば困る」


 正直、ここまでのやり取りでクズだとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。


 このクソ王にクソ王子は、控えめに言ってゴミだ。


 この国は人間絶対主義国と言っていたから、せめて人間のためにくらいは政治してるのかと思えば、堕落を貪り、贅沢三昧の飾りの王族だ。


 獣人やエルフどころか、国民すら自分のおもちゃだと思ってやがる。


「ならやはり、お前が僕ちんの言うことを聞いてくれれば話が早い。ほら、僕ちんみたいな良い男に抱かれるんだ。そんな馬の骨みたいな男より僕ちんの方がいいぞ」


 気を遣っているのが馬鹿馬鹿しくなってきた。堪忍袋の尾が切れそうだ。


「僕ちんは女の扱いが上手い。ベッドの上でか弱く鳴かせてやるぞ」


「――ざけんなぁ!! あんたなんかより、シドの方がいいわよっ!!」


 堪忍袋の尾が切れてロピスを否定するも、意味の理解できる一同はポカンとする。


「な、なんだと!? 僕ちんよりその男の方がいいって言うのか!?」


「そう言ってんだろ!! 黙れ――」


「はいはい、黙るのは貴女よ」


「むぐぅ!?」


 血が上った俺をファミアが制止すると、そのまま扇子ごと俺の首を捻り、指摘した。


「貴女、自分が何言ったか覚えてる?」


「は? なんのこと?」


 その方向の先には、頭から湯気を吹き出し倒れているシドニエがいた。


「シ、シド!? ちょっとどうしたの!?」


「ど、どうしたって、貴女ねぇ……」


 ナタルは呆れて首を振り、リュッカもシドニエ同様、酷く赤面する。


 俺は眉を顰めながら首を傾げると、怒りを露わにするロピスが怒鳴る。


「許さん! 許さんぞ! 僕ちんを差し置いて、そんな男に抱かれるなんて、絶対に――」


「いい加減にしろ」


「!?」


「私の国の英雄はお前達の物ではない。彼女の人権は彼女にある。貴様らの囲っている奴隷ではないのだぞ」


「ハ、ハイドラス〜! お、お前ぇ〜!」


 ここぞというときに、しっかり止めに入ってくれるハイドラスはさすがだ。


 何だかんだカッコイイじゃないかと感心する。


「そこまでと致しましょう」


 パァンと謁見の間に手を叩く音が響く。


「これ以上はお話になりますまい。今日のところは客人方にお休みになって頂きましょう。よろしいですね?」


 ディーガルの質問に対し、


「わかった。好きにしろ……」


「ああっ! 胸糞悪い! 僕ちん、エルフちゃんにベロベロしてこようっと!」


 去り際まで気味の悪いクソ王子だ。


 こうしてとんでもない謁見は終えた――。


 俺達はとりあえず客間に通され、一息つくことになったが、出てきた第一声が――、


「何なんだ! あのクズ王族は!」


「一応、そのクズ王族がいるお城の中ですから、控えて下さいね」


 ハーディスが見張ってはいますが、声は抑えてと言うが、治りそうにない。


 それはみんなも同じなようで、ファミア以外の女性陣は文句を垂れる。


「まったくですわ。あれを殿下と同じと言われたことにも癪ですわ」


「は、はい! いくらなんでも酷いと思います」


「うん! リリィもお胸とか触られたし……」


 今でも感触が残ってるあたり、スケベさの執念でも宿っているかのよう。


「それに比べたら、シドニエ君も殿下もカッコよかったよ」


「私は当然のことをしたまでだ。アイツらの性格も知っていたしな」


 その褒められているシドニエは未だに、気を失っている。


「私が何を口走ったのか、興奮してて思い出せないんだけど……?」


「あら? 抱かれるならあの豚より彼がいいって言ったじゃない」


「!?」


 お、俺、そんなこと言ったの!?


 クスクスと楽しそうに笑うファミアは、どうやら冗談ではないようで、俺まで真っ赤になり、その場でちょんと固まる。


「……」


「でも抱き心地的には、あっちの方が――」


「シア。多分、貴女の思っていることは違うから……」


 余計なことを言わなくていいからと気を遣った。


 更には殿下もこの空気を壊してやろうと、話題を変える。


「だがこれでわかっただろう? この国が一筋縄ではいかないことが……」


「そうね。ハイド、貴方もよくここを交渉しようと考えたわね。わたくしのフォローが無ければ、今頃、女性陣全員、豚の餌よ」


「そうなる前に止めるさ、ちゃんとな。だが、ディーガルとの利害が一致している限り、この国を切り崩すことはできない――」


 この国のシステムとしては、ディーガルが大黒柱となり、国の情勢から管理までありとあらゆる分野を取りまとめており、あの豚国王が言われるがままに承認するかたち。


 特に多種族の管理に関しては、あの豚親子は酷く貢献している。


 あの肉の塊では生活するのもままならず、奴隷をそば使いにしているのだが、それの全員が美人のエルフや獣人となる。


 この奴隷達は言うことを聞かねばと脅しかけられれば、何もできず、傀儡(かいらい)となる。


 しかもあのわがまま放題の暴君の如く性格なせいで、奴隷側に課せられた重圧は重く、豚共に囚われるかたちとなるのだ。


「――つまりは抵抗できないエルフ達を見世物にすることで、恐怖心を(あお)りたてる役をあの豚共が担っていると?」


「そして、その余りになるであろうエルフや獣人はこの国のためだけに働く奴隷、もしくはアミダエルの実験台……」


 最悪の歯車が噛み合ってできた負の連鎖だ。人種差別にしても酷すぎる。


「ま、周りの国が何も言わないのは……」


「言えなくされているのだ。この国の生物兵器は南大陸では知られていること。下手に敵対もできなければ、国を守ることを考えれば、同盟をも視野に入れねばならない」


「じゃあ殿下がこうして来られる理由としては……」


「勇者の存在だ。彼らはその子孫であるアルビオの情報のほとんどを知らない。せいぜい髪の色くらいだ。勇者ケースケ・タナカは精霊にも選ばれた最強の戦士ということは知れ渡っている事実。その子孫がいる我が国に対しては慎重な構えを取っているのだ」


 それは俺に対しても言えることだろう。


 実際、ディーガルはあの豚共に下手な手出しはしないでくれと言っていた。


 ヴァルハイツ側からすれば、隙あらば俺達を出し抜きたい考えの元、ハイドラスとの関係を続けているものと捉えられる。


「では殿下はこれから交渉するのですか?」


「いや、あそこまで派手に喧嘩してくれたからな。明日にでも出て行くつもりだよ。勿論、お前達もな」


 どんな危険があるかもわからないし当然か。食事も断ったし。


「あら? わたくしはしばらくお世話になるつもりよ」


「……ファミア」


「わたくしはこの国の亜人種の奴隷管理に興味がありますの。そこをお伺いしなければ……」


「まだそんなことを言っているのか! ファミア!」


 馬車内での喧嘩をぶり返す二人。そのピリついた空気に触発されたアイシアがそっと尋ねる。


「何があったの?」


「じ、実は――」


 俺は馬車内での会話を噛み砕いて説明すると、その考えに驚く。


「そ、そんな。ファミア様は殿下のお考えに賛同していたのではなかったのですか?」


「それは違うわ。確かに少なからず彼に対し、尊敬の念は抱いていますが、彼の全てを肯定するものではありません。わたくしにはわたくしの考えがあり、将来を見据えればということですわ」


「私がどのような未来を見ているのか、理解していると思ったのだがな……」


「あら? わたくしは貴方を支え、導く存在。貴方を矯正するのもわたくしのお仕事ですわ」


 今度は全員にわかるほどの火花が二人の間で散っている。


 というかハイドラスがここまで感情的になることにも以外だ。


「ふん! 勝手にしろ!」


「ええ。言われるまでもありません。行くわよ、ユーキル」


「はっ!」


 結局、いがみ合ったままという結果になってしまった。


「殿下らしくもない。僕が説得して参りましょうか?」


「やめろ、ハーディス。私とあいつが合わないことはわかっているだろう」


「そ、そんなことは……」


 俺からの印象としても、二人の間に上下関係はあっただろうが、とても仲が良い関係には見えた。


 夫婦喧嘩は犬も食わないとは言うが、これに関しては互いの価値観の問題である。


 そもそも夫婦ではないのだが。


 でも本当にファミアの中で亜人種の価値観というのが、そんな酷いものなのか疑問である。


 だがハーメルトの掲げる国づくりをわかっているが故に、嫁いだ際、国を牛耳れるほどの知略を見せれば、乗っ取ることもできるだろうか。


 あの王女ならそのあたりを画策してもおかしくない気もするが。


「それよりも明日のためにも休んでおけよ」


「と言っても、帰るだけでしょ?」


「馬鹿を言うな。アミダエルのことを何も解決していないではないか」


「そ、そうだけど、どこに行くって……」


「獣人の里を見張っている、ゴンドゥバという国へ向かう」


 そこに何かがあるのだろうか、はっきりと明言する。


「んん……」


「あっ……起きた」


 話を区切るようにシドニエが目を覚ました。


「ようやくお目覚めか? このむっつりスケベ」


 ウィルクが嫌味口にそう語ると、あたわたと慌てる。


「い、いやっ!? 僕は別に……」


「……蒸し返さないで欲しいんだけど……」


「リ、リリアしゃん!?」


 俺はジト目で嫌がりながらも、言い訳をする。


「あれはただの言葉の綾だから。それにあんな生理的に無理な奴よりってだけだから……」


「わ、わかってます……」


 お互いに非常に気まずい雰囲気になったためか、ハイドラスは呆れたため息を吐くと、


「今日はここまでだ。各自、警戒しつつ休んでくれ」


 あの豚親子は勿論だが、ディーガルやアミダエルがいるのだ。


 いくら招待に預かった客人とはいえ、油断できない。


 というか休めるのかな?


 そんな心配をしながらも、用意された部屋へと向かい、夜は更けていく。


 ***


「あっ! 来たわね」


「すみません。色々ありまして……」


 ハーディスはサニラ達の待ち合わせ場所につくと、キョロキョロと辺りを見渡す。


「あのお二人は?」


 依頼していたはずの二人の姿が見当たらないと尋ねられたサニラは、コッコッと靴を鳴らす。


「調べてるとこ」


「そうですか……」


「?」


 ハーディスの気を落とした表情に疑問を抱いた。地下があることは知っているだろうし、時間もかかることも知っているはず。


 落ち込まれても困ると、


「ちょっと! 今回の仕事は相当無理を頼まれてるって、わかってる?」


 何が気に食わないのか、不満げに尋ねる。


「え、ええ、わかっていますよ」


「なら何を落ち込んでるのよ?」


「じ、実は予定が変更になりまして、明日にはここを出ます」


「は!? 予定じゃあ、私達と合流後、徹底的に調べるって……」


「は、はい。そのつもりでしたが、どうにも……とりあえずこれを……」


 サニラは四角折りの紙を手渡された。カサっと紙を擦る音とともに開くと、


「ふーん……」


 少しむすっとした表情をしたかと思うと、ニコッと笑う。


「勿論、追加料金はあるのよね?」


「ええ。それはご期待下さい。では、私はこれで……」


 そう言うとハーディスは去って行き、サニラはひらひらと手を振って見送った。


 そのサニラは仕方ないとばかりに、フンっと鼻を鳴らすと、


「ま、頑張ってみますか」


 殿下の無茶なお願いに応えてやろうと考えるのだった。

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