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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
7章 グリンフィール平原 〜原初の魔人と星降る天空の城〜
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18 腹の探り合い

 

「とうちゃーくっ!!」


 子供みたいにはしゃいじゃってまあ。西大陸に行く時も船だったじゃない。


 俺達は南大陸の港町に到着。


 今回はハイドラスの外交を名目に来てはいるが、ヴァルハイツの目的としては俺に会いたいとのこと。


 はっきり言うと、願ってもないチャンス。


 アミダエルがいるということは、クルシアの中核を潰せる可能性もある。


 歓迎するよと言われているため、早々油断はできないが、チャンスを無下にするというわけにもいかない。


 にしても……、


「……こんな船で来るかねぇ?」


 王族専用なのだろう、装飾が施された豪華な船で凱旋。


 いくらクルシアサイドに行くのがバレバレとはいえ、ここまで堂々と乗り込むぞと語らずとも良い気がするのだが。


「こういうのは見た目も必要なのです」


「まあ、わからないでもないけどさ」


「そうですわ。黒炎の魔術師。わたくし達もいわばハイドの宝石なのだからね」


「あー……はい」


 そこにはユーキルに日傘をさされて、扇子でパタパタと涼もうとあおぐファミアの姿があった。


 ふうと艶っぽいため息を吐き、鎖骨のラインを辿るように汗が滴る。同性でもドッキとする仕草はやめてほしい。


 俺、中身は男だけど。


「暑そうですね? 大丈夫です?」


「わたくしは貴女と違い、火属性ではありませんの。暑さに耐性があるわけではないですわ」


 確かに俺やアイシアは平気だけど、他の人達はまあ慣れない暑さに、少し当てられているようだ。


 とはいえ、熱帯ってほど暑くもないようだが。


「……というかやはり来たのだな」


「あら? 貴方の仕事ぶりを見ようとわざわざ来たのよ。それに興味もあるじゃない?」


「ああ……はいはい」


 もうどうにでもなれとばかりに投げやりの言い方。


 殿下どの、もう少し愛想くらい振る舞おう。


 ファミアがどうして同行しているかと言えば、簡単に言うと話を聞かれたことにある。


 ファミアもテテュラの事件の時、巻き込まれ、クルシアとの接触もあり、彼女は彼女で調べていたようだ。


 それでクルシアの仲間であるアミダエルがいるという情報を得れば、まあついて来るというわけだ。


「さて、皆さん。特にリリアさんやアイシアさんに言っておきますよ」


「しつこいな。わかってるよ」


「ヴァルハイツ王国に行っても、感情的な行動はしない、でしょ?」


「その通りです」


 ハーディスが念を押して注意するのは、ヴァルハイツは人間絶対主義国。


 獣人やエルフといった亜人種が不当に扱われている光景を見かける機会もあることから、感情的に走りそうな俺達に注意したのだ。


 リュッカやシドニエ、ナタルはそんな心配をしていないがと言われてしまった。


「人間絶対主義国と言われるほどのことがあったの?」


「いや、まあ……歴史を辿れば色々とあるが、きっかけ自体はそんな大したことはないようだ。昔から引きずっている因縁が(こじ)れた結果さ」


 なんでも最初こそ、種族間での価値観の違いや小さな小競り合いから、広まった種族間の争い。


 その中でヴァルハイツは略奪の限りを尽くし、大国として君臨している。


 人間の欲深さが結果として現れた国か。


「だが今の将軍閣下が、まあかなりのやり手な挙句、亜人種達に対する嫌悪感が酷くてな。私も何度か外交を行なったが、頑固な男でな」


「そ、その……」


 するとシドニエが、小さく指を差す。


「向こうから来られる方がそうでしょうか?」


 港町の住民達はハイドラスの船にも驚いたが、こちらに向かってくるヴァルハイツ軍だろう軍勢にも驚く。


 その中心には、チリチリの赤茶色の長髪でがっしりとした体格が強固な鎧にピッタリの四十代くらいのおじさまがいる。


 一人だけ遠巻きから見てもかなり厳つい雰囲気を出す。


「これは遅れてしまい、申し訳ありません」


 そのおじさまはお詫びの言葉を述べて、俺達の前に立った。


「ご健勝そうで何よりで御座います、ハイドラス・ハーメルト殿下様」


「それはお互い様だろう? ディーガル将軍閣下殿?」


 二人とも口元を少し緩め、友好的に握手を交わすが、二人の間を行き交う空気に重圧(プレッシャー)しか感じない。


 とんでも社交辞令を、この空気感に慣れてない人の目の前でするのはやめて頂きたい。


 そこら辺に敏感なシドニエなんて、俺を守るつもりで来たはずなのに、後ろに隠れてるし。


「フフ、お二人とも。その辺になさっては? 慣れてない方々がいましてよ?」


「……そちらのお嬢さんは?」


 そう尋ねられるとファミアは、ちらっとハイドラスを見る。


「私の婚約者でな。ラージフェルシア王国第一王女、ファミア・ラージフェルシアだ」


「お会いできて光栄ですわ。お噂は色々と伺ってますわ」


「ほう。これはハーメルト殿下様も隅に置けませんな。このような方がおられるとは……」


 まあ婚約者の紹介なら、男性からの方がいいか? 


 この場合は。そのための目配せだったのね。


「ええ。せっかくですもの、将来の伴侶の仕事ぶりをと思いまして。お邪魔は致しませんわ」


「滅相もない。心づくしの歓迎をさせて頂きますよ」


 この堅苦しい社交辞令はいつまで続くのだろうと思っていると、


「さて、ハーメルト殿下。そちらの方のご招待にも預かりたいものですな」


 どうやら俺のことを言われているようだ。


 こちらを微笑みながら尋ねられた。


「焦らずとも紹介するさ。私の学友であり、我が国の英雄が一人、黒炎の魔術師リリア・オルヴェールだ」


 随分と大層なご招待に預かり、思わず萎縮するが、ディーガルは俺に視線を合わせるように膝をつき、挨拶する。


「お会いできて光栄ですぞ、リリア・オルヴェール殿。私の名はディーガル・アルマウト。ヴァルハイツで陛下方の側近を務める者で御座います」


 将来閣下と呼ばれるほどだ、その説明はあってるが、そんな畏まられると反応に困る。


 よく自然に挨拶できたもんだよ! ファミア王女殿下はさ!


「よ、よろしくお願いします……」


「さあ、立ち話も皆様に失礼というもの。向こうで馬車を待たせております。どうぞ……」


 そう案内され、一同は用意された馬車でヴァルハイツまで、護衛騎士が同伴の元、移動する。


 その馬車内で俺はアイシア達と離ればなれとなり、先程の厳ついおじさまとハーメルト殿下様とファミア王女殿下と同じ馬車に乗っている。


 うん、帰りたい。


 まだアイシア達と楽しく学園生活をしていたあの頃に帰りたい。


 何が悲しくて、こんな胃がキリキリする席にいなぎゃならないんだ!


 すると先程の社交辞令が嘘のように、冷静な口調で話を持ちかける。


「さてハーメルト殿下。今回の外交目的もいつものくだらぬ法案のお話ですかな?」


「ああ……」


 王都ハーメルトは東大陸を中心に、世界平和協定を制定している。


 北大陸の一部の国も賛同しつつあるようだ。


 正直、政治についてはからっきしなので、話伝いにしか聞かないが、クルシアの件もあったことから、本腰を上げて活動しているとのこと。


 だが元々、差別主義のあるヴァルハイツとは、他種族の人権問題については色々と口出ししているようだが、中々上手くはいかないようだ。


 まあハーメルトとは大陸も違い、同盟国というわけでもないのだ。あまり踏み込み過ぎることもできず、もどかしい思いをしているのが現状。


「……往生際が悪いですな。陛下はどうあってもお認めには……」


「お前が折れてくれれば、何も問題がないのだがな」


「はは……ご冗談がお上手ですな。相変わらず……」


 ピリピリした空気に酔いそうな気分だ。


 そんな中、さらに空気を不穏にする発言が飛ぶ。


「ディーガル様? 訊いても良いかしら?」


「……どうぞ」


「あの獣臭い獣人や田舎臭いエルフ達には辟易(へきえき)していたのです。貴方がたのお国は上手く統率されているようで、参考までにお伺いしても?」


 この質問には馬車内にいる全員が驚く。


「――っ!? 何のつもりだ!? ファミア!」


「あら? わたくしがどうしてついてきたのか、わかっていないの? ハイド」


「私の仕事ぶりを見に来たのだろ?」


「違うわ。貴方の考えを改めさせるために来たのよ」


 味方であるはずのこの二人からも不穏で凶々しい空気が漂い始める。


「ハイド、はっきり言うわ。今まで黙っていたけれど、正直汚らわしいかったのよ。人の言葉を喋る獣や耳が長いだけの能無し……他の他種族もそう。目障りなのよ」


「ファミア……貴様っ」


 冷たい視線でそう語るファミアには、亜人種に対する嫌悪感がヒシヒシと伝わってくる。


 美人ってこういう時、めちゃくちゃ怖いよなとか、呑気なことを考えてる場合じゃない!


「ちょっ……」


 俺は恐る恐る喧嘩の仲裁に入ろうとすると、


「――はっはっはっはっ!!」


 ディーガルがこれは驚いたと大笑い。


「これはハーメルト殿下様。してやられましたな。正直、私も彼女はそちらの味方かと思いましたが……」


「あら? 貴方までご冗談を? やめて下さいな」


 ひらひらと扇子を振った。


「貴女もそうでしょ? 黒炎の魔術師?」


「えっ!? へえっ!?」


 急に振られたと、思わず変なところから声が出た。


 というかこの空気で俺に振らないでえーっ!!


 一応、ハイドラスからはヴァルハイツの政策に肯定するように、出発前に言われている。


 何せ、懐に入らなければアミダエルとの接触は困難。


 今回、ヴァルハイツ側が話を受けたのも、俺が魔人を焼き殺した黒炎の魔術師だからだ。


 彼らからすれば、他種族の中に魔物も含まれる。


 俺がヴァルハイツの肯定派という雰囲気を出すだけでも、信用を勝ち得る近道が出来るというわけだ。


 それはわかっているのだが――この空気でそれをやれは無茶苦茶だあっ! しかもファミアがそんな意見を言うのも想定外だ。


 というかさっきの迫力のある言い方から、本音にも聞こえた。


 だがファミアは狡猾な王女様だ、これが演技だと思えるが、ハイドラスのこの怒りを露わにする表情を見るに、演技や冗談とも捉えづらい。


 そんな味方のはずの二人から凄い勢いのある視線を浴び続ける。


 チキン野郎にそんなプレッシャーかけないで欲しい!


「え、えっとぉ……」


 無言で二人が睨み、ディーガルからも不思議と圧がかかっているように感じる。


「あ、あの……」


「あら? そんなに難しい質問をしていませんわ。肯定か否定か、尋ねているだけですわよ」


 それが困ってるんですぅ! (あお)らないで!


 そんな中、出た答えが、


「……こ、肯定です」


 ハイドラスの視線がより一層恐ろしいものに変わった気配を感じる。


 い、一応、作戦通りですよ!? 殿下様ぁ!


「そうでなくては! ねえ?」


「良かった。貴女様はハーメルト殿下に洗脳されていないようで……」


「せ、洗脳なんて……は、はは……」


 そんな重苦しい雰囲気の馬車は、その重さを知らずに軽快に走り続け、ヴァルハイツへと到着した。


 ――ヴァルハイツ王国。


 南大陸の中心国であり、先程の港町よりすぐなためか、物資の輸出入にも多く携わっており、南大陸の他国にも強い権力を持つ。


 更に生物研究も非常に進んでおり、特に医学分野においては秀でており、治癒魔法、再生魔法などの技術は、下手すれば北大陸の研究者を超える技能を持つという。


 そんな大国を敵に回せる国など、ハーメルトやナジルスタのような他大陸の中心国くらいだろうが、ナジルスタは龍神王の崩御により、バランスを崩している。


 しかも人間絶対主義を冠しているだけあってか、交渉も得意とする挙句、西大陸でのファニピオンとも繋がりがあったと噂されている。


 おそらくは奴隷関連の話ではないだろうか。


 そんな国の町並みは綺麗に整備されており、中々綺麗な城下町だ。


 石レンガの町並みは中々、風情を感じる。


「中々綺麗ですね」


「お褒めに預かり光栄ですよ、オルヴェール殿」


「フン……」


 ハイドラスが王子の貫禄を感じないほど、機嫌が悪い。


「ハイド。いくら自分の思い通りにならないからと、その態度は頂けないわね」


 火に油を注がないでぇーっ!


「悪かったな。……綺麗と言ったな? オルヴェール」


「は、はひ!?」


 シドニエでなくても、噛むよ。この状況。


「確かにみてくれはいいが、その裏を見ればそんな言葉は出てこない」


「どういうことですの?」


「ここには大きな地下が広がっていてな。他種族の者達はそこを行き来しているのだ」


「地下……」


 窓から外を覗くと、マンホールのような箇所が確かに目視できた。


「なるほど、この町の違和感はそれでしたの」


「い、違和感って……?」


「あら? 気付きませんでしたか?」


 くいっと再び窓の外を見ろとジェスチャーされた。


 再び外を見るが、違和感についてはわからないので、小首を傾げると、答えを教えてくれた。


「獣人やエルフといった連中の姿がありませんわ」


「!」


 言われてみればと三度(みたび)、外へ。


 確かに歩いているのは人間だけだ。


 いくら獣人達を認めないとはいえ、皆殺しにはしてないだろうし、奴隷にしていても、歩いてはいるものだろうと思い返す。


 西大陸では奴隷も普通に街中を歩いてたし。


「我が国では町の景観を守るため、汚れた人種を歩かせることすら許しません。ですが奴隷として働き口を与えるのも我らが務め……」


「だから地下なのだろう? ふざけている……」


 地下通路を通して、主人の用件を済ませているのだろう。


 酷いことだと、話伝いでも理解できる。


「でもそれなら脱出も容易なのでは? 不用心ではなくて?」


 実際、シェイゾ達が脱出できているのだ、もしかしなくてもその地下通路を使ったのではなかろうか。


「ええ。ラージフェルシア様の仰る通りで。実際、脱走されてしまいまして、一部は捕らえたのですが、未だに複数人が行方不明でして……」


 どうやらビンゴだったようで、地下通路を利用できないかと考えるが、


「その対策として、地下通路には魔物を放っております」


「――なっ!? ま、魔物だと!?」


 正気の沙汰とは思えない一言が返ってきた。


「魔物の管理は魔物が行なう……それだけのこと。何か変なことでも?」


「その魔物によって死人が出るかもしれないのにか!?」


「ご安心を。()()は陽の光を浴びれませんので、外に出てくることは――」


「その地下通路を通る者達の心配をしているのだ!!」


「それも大丈夫です。見回りの者達に()()()()ようになっていますから……」


 さっきから話が噛み合ってないというか、軸が違っている質問と回答。


 ハイドラスは亜人種の質問をしているようだが、ディーガルはあくまで人間の話しか答えていない。


 それに襲わないという言葉にも違和感を覚えた。


 召喚魔なのだろうか? それならば説明もつくが。


「……魔物って、獣人やエルフのことを魔物と思ってるんですか?」


 その質問に対し、ディーガルは軽く微笑みながら、


「オルヴェール殿、ご冗談を。それ以外のなんだと仰るんです?」


「!!」


 面白い冗談を口にすると笑った。


「まったく……ハーメルトなどに住まうから、我らが英雄はこのような考えに至るのです。これは勇者の末裔様にも悪影響が及びそうですね」


「貴様……我が国を侮辱するか」


「これは失言でした。しかし、国が違えば文化も違うもの。相容れないことはご理解されていると考えておりますが?」


「ディーガル様? その根拠はありますの? ただの妄言や虚言では、さすがにわたくしも幼稚な考えと改めることになりますわ」


 ただ姿かたちが違うだけでは、確かにわがままを通したいだけの子供だろう。


「それは勿論、承知しております。しかし、確たる証拠は御座います」


「証拠……?」


「ええ。ヴァルハイツが生物学に精通していることはご存知でありましょう。その研究の際に見つかったのですよ。とある一定の魔物の因子が獣人やエルフ達にあることを……」


「「「!?」」」


 アミダエルの存在を知る俺達からすれば、その成果とやらにも説得力があるものの、それでもその結果には信じられないと考える。


「そんな馬鹿なことが……! 証拠を見せてみろっ!」


「確かに貴方様にはその証拠を突きつけ、考えを改めさせたいところではありますが、さすがに容認し兼ねます」


 まあ企業秘密だろうな。その情報だけでも大混乱に陥るだろうに。


 それが真実でも偽りでも。


「あら? 肯定派のわたくし達にも?」


「ええ。申し訳ありませんが……」


 当然の答えが返ってくる。


 出会っていきなり、信用して秘密を見せては強引だろう。


 だがこれならば或いはと、俺は勝負に出る。


「……それを発見したのって、アミダエルって奴じゃない?」


「「!!」」


「――おい! オルヴェール!?」


 馬車内はハイドラスの呼びかけを最後に一時、シンと静まる。


「ふふ……」


 するとその静寂を破る、始めの一声はディーガル。


「ふはっはっはっ。確かに彼女は大昔に活躍された方ですが……」


「現在も生きているって聞いてるんだけど……」


「オルヴェール!!」


 踏み込み過ぎだと、ハイドラスは制止するが、


「なるほど。そこまでご存知か……」


 ディーガルは不敵な笑みを浮かべると、すんなりと肯定した。


「確かに彼女はアミダエル・ガルシェイル本人ですよ。我が国にてその知識を奮っておいでです」


「「「!?」」」


「……そのご様子だとお三人方とも知っておられるようで。我が国の秘密をどこで知ったのやら……」


 ん?


「我らが国の生物兵器や先程のお話なども全て彼女のおかげであります。彼女のおかげで我々はここまで飛躍したと言っても過言ではありません。できることなら彼女のことは黙って頂きたい」


 クルシア達のことは隠しているのだろうか?


 それにここまで情報を開示するのは、バレているからという開き直りだろうか。


 この綺麗な町並みも不気味な光景に見えてきた。


「勿論よ。アミダエル様のことは内緒にしておきますわ。とはいえ数百年前に亡くなった方のことを言いふらしても、信じて頂けないと思いますがね?」


「念のためですよ」


 ファミアはやんわりと脅してみせるが、ひらりと(かわ)されてしまった。


 なので、俺はストレートに聞いてみる。


「アミダエルに会うことは可能ですか?」


「……!」


 もう話が進み過ぎたこの状況に、制止するだけ無駄だろうと言葉も出ない。


 するとディーガルは再び微笑む。


「はは……なるほど。ハーメルト殿下様の外交がお飾りで本命はここですかな?」


「……」


 俺達は黙って肯定すると、


「それは難しいですね。容認し兼ねます」


 さすがに会わせられないと回答したが、情報交換という意味で問われる。


「貴女がたはどうしてアミダエル様のことを? どこで知られた?」


 ここは正直に答えて、クルシアと関わりがあるかを明確にするか。それともはぐらかすか。


 そんな風に考えていると、


「ヴァルハイツの生物兵器については、他国でも有名でしてよ。その生物理論に彼女の案が盛り込まれており、とてもじゃありませんが、模倣や派生させた技術には捉えられず、むしろ現代の技術を学んだかのようなものだったと、その筋の者から聞きまして……」


 ファミアが現実味を帯びた説明を扇子を広げ、口元を隠した妖艶な態度をとる。


 確かにその筋(ザーディアス)の情報であり、二人の国では知っている者もいるという意味では嘘は言ってない。


 技術関連の調査については、ほぼハッタリだろうが、こんな自信満々に言われては説得力が違う。


「……なるほど。王族様の情報網も侮れませんな」


「フフ。それはお互い様ですわ」


「フフフフフフ……」

「はっはっはっは……」


 やだ、怖い。この二人。


「まあ今は納得しておきましょう。ですが、お会いはさせてあげられません。どうかご容赦ください」


「仕方ありませんわね」


「ああ……」


 話はここまでだと切り上げられ、そんな馬車が到着したことを彼女も知ることとなる。


 城門にピタリと張り付く子蜘蛛。


 だがその腹部にはギョロっとした目がついていた。


「来たかい、小娘がぁ……」

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