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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
7章 グリンフィール平原 〜原初の魔人と星降る天空の城〜
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15 出発! 勇者御一行

 

 ――まだ日が差さぬ、月明かりが照らす闇夜に、賑わうギルドの酒場を横目にアルビオ達は集う。


「じゃあ行くんだね」


「うー……私もホントはついて行きたいです!」


 ブスッとした表情で見送るルイスだが、今回ばかりはしっかりと(わきま)えているようで。


「それはリュッカもだよね?」


「えっ!? ま、まあ……」


 正直、リュッカとアルビオに関して、色々あり過ぎたのと状況が邪魔して、中々進展のない二人。


 どちらかと言えばルイスの方が現在、軍配が上がっているのではないか?


「でも獣人の里やエルフの里に不用意に人間が行くわけにはいかないし……」


「そうですわね。アルビオさんも勇者の肩書きがなければ向かうことがなかったでしょう」


 逆にその肩書きがあるから、向かうわけで。


 勇者の日記によれば、亜人種との交流はあったようだから、説得できるかもしれない。


 すると馬の鳴き声と共に馬車が到着。


「お任せしました。向かいましょうか?」


「頼みます、ジード殿」


 ジードはお任せをとお辞儀をすると、フェルサ達に乗るよう指示した。


 今回、南大陸へ向かうためのルートを確保するのは、ジードパーティー。


 フェルサも久々の冒険者仲間との旅路に嬉しそう。尻尾をフリフリしている。


「ま、俺達に任せとけよ」


「そうよ。私達が無事に送り届けてあげるわ」


「期待してるよ、バーク、サニラ」


 そんな話の傍らでリュッカがアルビオに近付く。


「アルビオさん」


「なに? リュッカさん」


「これを……」


 それは小さなお守り袋。


 アルビオは不思議そうに紐を摘みながら、見覚えのないお守り袋をジッと見る。


「これは?」


「お守り袋だって。リリアちゃんが教えてくれたの」


 進展もないし、想いを伝えるための物が必要だろうと、異世界知識を利用し教えたことだ。


 こっちにもお守り自体はあるが、ほとんどアクセサリーのようだ。


「お守り……」


「ちゃんとお守りの石も入ってるけど、もう一つ。……私にはこれしか用意できなかったから……」


 袋の中身を確認して欲しいと、少し恥じらいながら言われた。


 そっとお守りを開くと、袋には大量の粉が詰められており、お守り石が軽く頭を覗かせる。


 この粉が何かわからないアルビオは、再び不思議そうにリュッカを見る。


「それは魔物避けに使われる匂い袋の粉より、強力なものでね。匂いはないんだけど、魔物に投げ掛ければ効力が発揮されるはずだから……」


 アルビオ達を脅かすのはクルシアだけではない。


 魔物のことも忘れずに、怪我なく帰ってきて欲しいとの願いの元、貴重な粉末を用意した。


 出発を聞いてから、お守りは渡そうと考えていたリュッカに俺が助言。


 願掛けもいいが、実用性もあれば尚良いのではないかと、お守り袋を提案。


 リュッカはその魔物避けの粉を調合したのだ。


「ありがとうございます。きっと無事に帰ってきますので……」


「は、はい!?」


 リュッカの返事と共に、ニュッと出てきたルイスは、お守り石を手渡した。


「……考えることは一緒ですね。アルビオさん、これを私だと思って、頑張って下さい! 貴方の側には私がいますよ!」


「あ、ああ……うん」


 ルイスのは苦笑いしながら受け取った。


 ルイスには悪いが、気持ちが傾いているわけではないらしい。


「でもリュッカさん、そちらも気をつけて。なんでも、彼らを幽閉していた人物であり、クルシアの仲間と直接会うのでしょう?」


「そのあたりはどうなのか……詳しくは訊いてないけど、一応それが目的みたいだから……」


「そっちこそ、本当に気をつけて……」


「は、はい」


 二人の雰囲気に膨れっ面のルイスは、ぶつぶつと文句を呟き続ける。


「まあルイス。他人の恋路を邪魔すると馬に蹴られるよ」


「どういう意味です?」


「そう語った偉人がいたんだよ。詳しくは知らないけど、言った通りの意味じゃない?」


「――だったら! リュッカさんだって蹴られるじゃないですか!?」


 ごもっともな意見だが、確かにそのへんはどうなんだろ?


「ほら、渡す物渡したら行くわよ」


「ああっ!? 待ってサニラ」


 俺はフェルサにお守り石を渡した。


「ありがと……」


「うん。それは私を含めたみんなからね」


 出発前に大量にペンダント渡して、足枷ならぬ首枷になって、肩凝りを引き起こさせるわけにもいかないからね。


「もしさ獣人の里へ帰った時、辛かったら……ルイスのセリフじゃないけど、私達だと思ってよ」


「!」


「ちゃんと居場所はあるんだってさ、思い出して欲しい……」


 フェルサからそのあたりの話を訊いてはいないが、サニラ達曰く、一人で生きていこうと決意したほどだ。


 余程のことがあったのは間違いない。


 お守り……気休めではあるだろうが、無いよりはずっといい。


 そのお守りを両手で優しく握り、微笑んだ。


「ありがと」


 するとそれを見ていたグラビイスは、


「よ、よがっだなあ!! ほんどぉに! ほんとぉおによがっだああああ!!」


 感極まり、大泣きすると、ジード達にまで伝染する。


「……涙脆くなっていけない……」


「そうね……」


 そんな中で特に普段と変わらないのが二人。


「ほら、早く向かうわよ」


「そんな大人げなく泣かないで下さいよ」


「二人はサッパリしてるね」


「そりゃあそうよ。あんた達を信用してたんだから……」


 だから感動することもない、自然なことだと思っているのだろう。


 言葉や態度にする必要がない……か。


「これも愛されてるって証明かな?」


「バッ!? バカなこと言ってんじゃないわよ!! 」


 まあ茶化してやるとこんな感じである。照れ隠しも混じってたのね。


「二人も気をつけてね」


「はい。お世話になりました。アイシアさんのご家族には特に……」


「フン! 騒がしかっただけだがな」


「もう! 兄さん!」


 シェイゾ達もこんな形で帰郷したくはなかったろうが、やむを得まい。


「パパ達、みんなには言っておくよ」


「はい。本当はちゃんと挨拶しておきたかったのですが……」


「また来ればいいだろ?」


「え? 兄さん?」


「ほ、ほら行くぞ」


 シェイゾはボソッと呟くと、長い耳の先まで真っ赤にして馬車内へと急いだ。


「なんだかんだ言っても楽しかったんじゃない」


「だね〜」


「――う、煩い!! ナディ、何してる! 早く来い! やっとエルフの里に帰れるんだ! せいせいするね!」


「もう」


 素直じゃないんだからと、馬車の中へ。


 旅の無事を祈った馬車は、こうして旅立った。


「殿下。私達も近々向かうんですよね?」


「あ、ああ……()()()が到着次第、向かうつもりだ……」


「あー……」


 その現場に居合わせていない者達は誰のことだろうと、首を傾げる。


 ***


「しかし、原初の魔人ねぇ」


「実在してたとはな」


「俺達も力になれれば良かったんだが、下手に亜人種を刺激するのもなぁ」


「お気持ちだけで嬉しいですよ。それに彼らを南大陸に向かわせられる手段があることを知っているのが、ジードさん達で良かった」


「まあ私達だけではないけどね……」


 ギルド内部では一部の人間が知っていることらしい。


「まあけど、最近は学業も疎かになってきたんじゃないの?」


「えっ!? ええ……まあ」


 確かにここ数ヶ月ほどまともに学校に行ってない気がする。


 学力には問題のないアルビオだが、フェルサに関しては話に触れられないように、向こうを向いている。


「私が勉強、見てあげようか?」


「私も独学だけど、あんたよりはいいわよ」


 アネリスとサニラが悪戯っ子な笑みを浮かべながらにじり寄ってきた。


「別にいい。そのために学校に通わせたわけでもないでしょ?」


「はは。まあそうなんだけど、それも必要なことさ。今まで獣人としての能力だけでなんとかなったかい?」


 そう言われると、無言になって不機嫌そうにそっぽを向いた。


 西大陸で足手まといになってしまったことを後悔しているのは、カルディナだけではない。


 自分も慣れていたはずの環境でやられてしまったことに、自分の力だけではどうにもならないこともあるのだと、改めて思い知ったかたちだった。


「……私達ともそうだが、リリアさん達と居てもわかるだろ? 力だけじゃない。それは君が一番わかっているはずだ」


 フェルサが追い出された理由もそこだ。


 獣人の里の人達のしきたりや自分達の肉体を誇り、それを誇示し続けるという考えが、フェルサを追い出させた。


 その愚かさをフェルサは身を持って体感したはずなのに……。


「そうだね……」


「でもやっぱ勉強は好かねぇな。俺はフェルサに同意だ」


「バーク! あんたはもう少し勉強なさい!」


「――あだっ!?」


 この小競り合いはなんだとシェイゾは指差すが、放っておこうとアルビオは苦笑い。


 すると学科の同じのアルビオに尋ねる。


「アルビオさん。フェルサの様子はどうかな? リリアさん達を見ていたら友人関係は良さそうだが、どうにもね」


 親心的に気になるジード。


 フェルサはギルドにちょこちょこ遊びに来るが、大体の相談相手は歳の近いサニラかバークもしくは同性のアネリスだ。


「まあ僕が知るフェルサさんで良ければ……」


 そうしてアルビオが感じるフェルサのことを話しながら、夜の馬車が森の中へと入って行った。


 その独特の静けさが不気味さを宿すそんな森の中に、ひっそりと小屋が佇んでいた。灯りも付いておらず、無人の小屋のようだ。


 そこに馬車を止めると、荷物をまとめて降りるよう言われる。


「あの……港に向かうのでは?」


「まあその方法もあるけど、もっと簡単に行けるほうがいいだろ? じゃあグラビイス、アネリス。また後で……」


「おう」


「みんなが無事に帰ってくるのを祈ってるわ」


 何故だか二人とはお別れらしい発言に、思わずポカンとし、まともにお礼も言えずに分かれた。


 そして無人の小屋へと入っていく。


 農具などが乱雑に置かれており、まるで物置きのような小屋だ。


 だが不自然な点がある。


「……埃っぽくないな、ここ」


「は、はい……」


 別に埃がないわけではないのだが、こんな閑散とした小屋の割には、あまり汚れている印象がないということ。


 するとジードは床に手をつき、魔法を発動する。


「はっ!」


「ええっ!?」


 解呪の魔法だったのか、床が開き、地下への入り口が顔を出した。


「さあ、行こうか」


 結構深いのか、カツンカツンと地下に足音が響く。


「あの、ここは?」


「ギルドの転移魔法陣が設置してある施設だよ」


「えっ!?」


 ここはその施設へと向かう地下階段。


 ジード達のような実績と信頼に足る冒険者のみに公表される転移魔法陣の施設で、その魔法陣からギルドの施設まで直行できるのだ。


 ただし、情報漏洩を避けるため、こちらは入り口のみとなっていて、ギルドの方には出口しか存在していない。


 要するには一方通行なのだ。行きは良い良い、帰りは地獄ということだ。


 尚、実績のある冒険者に教える理由としては、そこも関係している。


 転移で移動した先から帰ってこれるのは、実力のある冒険者ということだ。だから並の冒険者には知らされない。


「――つまりここから冒険者ギルドに行けると……」


「そうだよ。西以外の支部や本部までどこでもだ」


 西は五星教によって壊滅状態だったから繋がっていないと補足が入った。


「じゃあグラビイスさん達が帰ったのは?」


「ここを知っているのは、ギルドマスターや私達のような実績のある人物のみだ。下手に悪用する人間に知られるといけないからね」


「まあそうですよね……」


 あの見窄らしい小屋であることはカモフラージュ。グラビイス達が帰ったのも、場所を知られないために長居をせず、夜遅くに来たのもバレないため。


「人間というのは、こういうのも作ってしまうのだな」


「君達、エルフだってそうだろ? 迷いの森があるじゃないか」


「……」


 南大陸にある迷いの森、別名、妖精が笑う森と言われており、エルフの案内がなければ永遠に迷うと言われている森。


 イレギュラーの侵入を防ぎたいと考えることに、人種の差はない。


 こうしてしばらく階段を降りていくと、松明の灯りが見えてきた。


「……そこの者達はダメだ」


 その灯りの側には扉と腰の曲がった老婆がいた。


 アルビオ達の立ち入りを許可できないと言う老婆に、ジードはある物を手渡す。


 それはハイドラスにもらった仕事の依頼書だった。


 一通り目を通すと、老婆は初めてここを通る者を見定めるように、一人ひとりの周りを回り始める。


「あ、あの……」


「通ってよろしい」


 老婆はアルビオのお尻を軽く叩き、許可を出した。


 続いてはシェイゾ、ナディと続き、許可を得ることができた。


 危険物を所持していないかの確認だったよう。


「ほら行こうか」


 ジード達の案内の元、扉をくぐると、複数の魔法陣がある部屋だった。


「なるほど、このまま魔法陣に乗ればいけるわけだ」


「ね? これなら種族関係ないでしょ? でも、念には念を……」


 するとサニラはエルフ二人に桃色の薬が入ったビンを手渡す。


「これは……何だ?」


 その質問の答えをフェルサが示してくれた。


「こうなる」


「「!?」」


 エルフ二人はフェルサの姿に驚いた。


 縦にピンと立っていた耳が無くなり、お尻に生えていた尻尾も消えた。


 髪の毛が長くて隠れているが、丸っこい人間特有の耳がそっと顔を覗く。


「これはまさか……!」


「そ。人間になれる薬。見た目だけだけどね」


 この薬は幻覚薬の一種。


 飲んだ者から特有のフェロモンを生成、排出させることのできる身体にする。


 そのフェロモンというのが、幻覚症状を起こさせるもので、視覚に対し、影響を与えるものを分泌。人間に見えるようになったというわけ。


「今から転移するのはどこもギルドだ。つまりは人間の町になる。向こうの冒険者が皆、亜人種を認めているわけではないからね」


 如何に自由がモットーの冒険者達とはいえ、その根付いた考えのものもいるだろうとの配慮。


「し、しかし……」


 人間をある程度は認めたとはいえ、人間になるのにはやはり抵抗がある様子。


「兄さん。見た目だけですから……」


 そう呼びかけるナディはあっさりと飲み干し、人間の姿になっていた?


「ナ、ナディ!? お前……」


「兄さん。無事に里に帰るためにも……」


 妹が飲み干しているのだ、兄である自分もと、背に腹はかえられないと、グッと飲み干すと、シェイゾのとんがっているお耳は丸くなった。


「こ、これでいいだろ!」


「はは……そうだ、ね!?」


 準備万端かと思ってアルビオがふと振り向くと、いつの間にかフェルサの髪色が銀髪になっていた。


「えっと……フェルサさんですよね?」


「ん」


「ほら、人間で黒髪って貴方しかいないでしょ? だから染めたの」


「あっ! ああ〜……」


 言われてみればと納得する。


 そして――、


「よし。みんな乗ったね」


 南のギルド行きの魔法陣の上に乗ったアルビオ達はそのまま転移した――。


 ――ヴンというノイズ音と共に到着したのは、薄暗い裏路地。


「着いたの?」


「うん。そこを出てごらん」


 そう言われてアルビオ達は路地から出ると、外は酒飲み達で賑わっていた。


「ここは……」


「ここはフェルシェンって国だよ。ヴァルハイツの同盟国の一つで、エルフの里があると言われている迷いの森の監視をしている国だ」


 すると町に見覚えのある二人は戻ってきたと、歓喜に震える。


「戻って……これた! 兄さん!」


「あ、ああ……。人間の国なのに、感動を覚えてしまうな」


 迷いの森付近の町ということで、見たことがあったのだろうか、ナディに関しては涙すら浮かべていた。


「良かったわね。……で? 貴女はどうして不機嫌そうなの?」


 サニラの吊り目がチラッとフェルサの顔を(うかが)うその表情は、ぶすっとしている。


「獣人の里に先に行くつもりだったんだけど……」


「あっ……すまない。そちらの事情を訊いていなかったね」


「い、いえ。仕方ないことですから……」


 この転移魔法陣はギルドの一部の人間しか知らなかったこと。


 そもそもアルビオ達は船で移動するものとばかり考えていたから、正直予想外の展開である。


 フェルサの機嫌の悪くなる理由にも納得がいく。


 本人的にはある程度、覚悟していた心構えを挫かれたわけだから。


「こ、ここまで来たんだ! エルフの里へ戻ろう。な?」


「とにかく! 今は休みましょ? 話はそれから」


 興奮するシェイゾを宥めると、ギルド内へと入り、受付へ。


「ご用件はなんですか?」


「えっと、宿を取りつけたいのですが……」


「かしこまりました。それでは――」


 ジードがとりあえずの宿にギルド内の部屋を確認していると、


「おおっ!?」


 シェイゾが変な声をあげた。


 誰かに引っ張られたようで、その方向へ向くと、ぶかぶかのフードを深く被る人が袖を引っ張っていたようだ。


「だ、誰だ!?」


「わ、私だよ! シェイゾ君」


「! そ、その声……」


「リヴェルドさんですか!?」


 そのエルフ兄妹の異変に気付いたサニラ達も振り向く。


「どうしたの?」


「ここに来て正解だったようだ。改めて感謝するぞ」


「どうしたってんだ?」


「私達と一緒に脱走した方と会ったんです」


 そう紹介されたフードの人物はぺこりとお辞儀をして名乗った。


「初めまして皆さん。私はリヴェルドといい……」


 そっと口元に手を当てて、こそっと。


「エルフの里で、族長様のそば付きをしていた者です」


「そば付き!?」


 受付を終えたジードも合流すると、その異変を尋ねた。


「どうかした?」


「ああっ、ジードさん。実は――」


 一度、場所を移し、人に訊かれぬ場所で話の続きを始める。


「改めまして。私はリヴェルド、エルフの里にて族長の側近を務めておりました」


「そんな人がどうしてこんなところにいるのよ」


 怪しいわねと疑いの眼差しを向けるサニラに対し、シェイゾは早速の同族との再会に水を刺すなとばかりに噛み付く。


「なにかしらの事情があったのだろうが! リヴェルド様に失礼だろ!」


「知らないわよ!」


「ま、まあまあ……とりあえず訊こうよ、ね?」


 ジードの仲裁が入り、リヴェルドは事情を話す。


「じ、実は皆さまが散りじりに逃げた際、私もここまでは来れたのですが、迷いの森を抜けられなくなってしまって……」


 首をさすりながらそう語るリヴェルド。


 奴隷の刻印でもあるかのような仕草と発言に、バークが尋ねる。


「あんた、奴隷だったのか?」


「お、お前……!」


「はい。彼らと共に脱走したエルフです」


 シェイゾを手で遮りながらに説明する。


「つまりリヴェルド様は、私達を逃した後、なんとかここまで来られましたが、奴隷の刻印が邪魔をして森を抜けられないと?」


「はい。幸い、迷いの森の中に閉じ込められるのではないのが、救いではあるのだろうか……」


 いっそのこと迷いの森で倒れていた方が同族(エルフ)に見つかって良かったのではないかと、ため息を吐いた。


「まあ人間の所有物として扱われていたら、迷いの森は許可しない……ですか?」


「かもね」


「そんな時に逃したはずのシェイゾ君達を見かけてね。嬉しかったよ」


 数ヶ月間、この町でヴァルハイツやフェルシェンの騎士達にいつ見つかるかも知れずに、怯えて待っていた甲斐があったと話す。


「申し訳ない。私達がもう少し行動を早めていられたら……」


「いえいえ。シェイゾ君達にも事情があったのでしょう? こうして故郷の近くで再開できたことを喜びましょう」


「は、はい!」


 エルフ達はすっかり上機嫌で再開を喜ぶが、サニラとフェルサは警戒を強める。


「お前、何をそんなに怖い顔してんだよ」


「馬鹿バークにはわかんないでしょうけど……」


「……ああいう胡散臭い笑顔をする奴は信用しない」


「そう……って、え?」


 サニラはフェルサの以外な答えに目を丸くした。


 まあ言われてみればと思うが、あの優男風の風貌の笑顔としては、あれが普通だと考えた。


「あの女狐を思い出す」


「あー……」


 アルビオは納得。


 カルディナは確かに含みのある胡散臭い笑顔を浮かべることはある。


「で、でも彼からはそんな感じはしないよ。少なくとも僕は。えっと、サニラさんが警戒する理由は?」


「都合が良いと思ったのよ。私達とすぐに合流できるなんて……」


「それはあれじゃね? ほら、人間の町でも情報が集まりやすいギルドを拠点に同族を探してたとか……」


「……」


「なんだよ!? その目!?」


 バークにしてはまともな意見で否定されたので、悔しさを滲ませた視線を送る。


「フェルサ。変な匂いもしないんだろ?」


「うん。エルフの匂いだよ」


「魔力も変な感じはねえな」


 フィンが顕現して、そう証明する。


 感知能力の高い獣人と精霊が言ったのでは、説得力があるとサニラは納得した。


「それで? どうするの?」


「うーん……そういえば皆さんは?」


「私達はヴァルハイツへ向かうつもり。そこでもう一つのお仕事をしなくちゃいけないの」


 ジード達の同行は南大陸への案内だけだと聞いていたアルビオ。


 だからもう一つのお仕事と言われて気付いた。


「アミダエルって人のことですか?」


「うん。殿下から先んじて情報を集めて欲しいって依頼されてね」


 人間であるジード達なら問題なく、ヴァルハイツへの入国は可能だからとのこと。


「だから獣人の里へ行くつもりなら、途中まで同行するよ。ただエルフの里に行くなら案内はここまでだ。どうする?」


「そうですね……」


 アルビオは眉間にシワを寄せながら、再開を喜ぶエルフ達を見る。


 するとフェルサが首を振った。


「よく考えて」


 同情心に駆られないでと、安易な考えを避けるよう促した。


 確かにエルフの里も目的地ではあるが、獣人以上にエルフは人間を毛嫌いしている。


 いくら勇者の末裔とはいえ、シェイゾ達が同行しているとはいえ、受け入れてくれるとは限らない。


 もし予想外の足止めをくらえば、クルシア達に原初の魔人のことを先越される可能性がある。


 だがそれは獣人の里でも言えることではあるが、事前に立てていた計画としては、小さな獣人の集落を訪れ、様子を(うかが)いながら、話を進めるとのことだった。


 エルフはそうはいかない。


「時間をくれませんか? 一晩、考えてみます。皆さんもそれでいいですか?」


「せっかく迷いの森が目の前なのにか?」


「は、はい」


 シェイゾは即決してくれると思っていた表情だったが、


「まあわかった。お前の考えに一任しよう。リヴェルド様にも(クルシア)の企ての件、相談しておいた方がいいしな」


 そう言って折れてくれた。

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