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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
7章 グリンフィール平原 〜原初の魔人と星降る天空の城〜
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14 シドニエ対カルディナ

 

「――貴方とこうして剣を交えるのは、パラディオン・デュオでの予選以来ですか……」


「そ、そうなりますね」


 ただその予選も俺との勝負だったわけで、こうしてぶつかる機会はまあない。


 今の発言を聞くに、同じ騎士科でも模擬戦が重なることもなかったようだ。


 戦う舞台は王城内にある騎士の訓練場。


 向かい合う二人からはピリピリとした空気が張り詰める。


 カルディナは元より貴族らしいキリッとした態度柄、真剣味が増すと怖いくらいの迫力が出るのはわかっているし、西大陸での悔しいと口にするのは、本人的に許せないものがあるのにも性格上、理解できる。


 だがシドニエのここまでの真剣な表情を見たことがあっただろうか。


 いつもはどこか自信が無さそうな、目がたるんでいるシドニエ。


 最近は色々あったせいもあって顔付きは良くなったなぁとは思っていたが、今は男らしい顔付きへと変わっている。


 カルディナの迫力に負けてたまるかと言わんばかりの気迫。


 正直、シドニエが頑張る理由の原因になっているのが、自分だということは理解している。


 中々ハラハラする面持ちで見守る。


 止めたい気持ちはあるのに、殿下が許可を出し、シドニエがやる気である以上、無粋とも捉えられるこの板挟みな状況。


 シドニエはまだクルシアと深い関わりはない。あの時会って、軽くあしらわれた程度の関係。


 クルシアの口ぶりやこれまでの行動を考え、南大陸の情勢を軽く訊くに、最悪、命に関わる問題になる可能性は高い。


 でもそれはシドニエだってわかってるはず。


 ああっ!! どうしてこんなヒロインみたいな考えを巡らせにゃああかんのだあーっ!


 いっそ告ってくれれば、話も変わってくるだろうに。こんな状況じゃ、シドニエは気を遣ってなのか、勇気が出ないのか知らんが、それどころでもないだろうし。


 ルイスの積極性が如何に凄いか、わかるな。


 そんな風に悶々としているうちに、二人の準備が整った。


「それでは両者、準備はいいな?」


「構いません」


「は、はい!」


「それでは……始め!」


 スタートの掛け声と共にカルディナは視界から消える。


 カルディナは風属性の肉体型だ。翔歩による移動だということは明白だった。


「――くうっ!」


 シドニエは魔力を宿した木刀で応戦。カルディナの翔歩を見切ったかたちである。


 その攻撃を薙ぎ払うと、シドニエも果敢に攻めに転じ、カルディナも応戦する。


 だがそのシドニエの様子に俺は驚く。


「ねえ、リアクション・アンサーを使ってないんじゃない?」


「……言われてみれば……」


 俺達、西大陸組がシドニエの戦闘を最後に見たのはパラディオン・デュオの本戦。


 あの時、あれだけの応戦できたのは、リアクション・アンサーありきだったはず。


 未使用のマジックロールも渡したままだ。


 だが使用することなく、目にも止まらぬ速さで動き回るカルディナの猛追をしっかりと対処している。


「シドニエさんは強くなりましたよ。伊達に北大陸で特訓してきてませんよ」


「北で何してきたの?」


「僕に関しては、精霊術をメインに特訓してきましたが、シドニエさんの場合は近接戦における剣の振り方から詠唱速度の上昇に、無詠唱魔法の特訓など、短い期間ながらも目覚ましい成長をしましたよ」


 シドニエはこれまで師と呼べる存在から学んではいない。


 あくまで先生やアルビオから学ぶ程度。立場的からも基礎を教えることしかできない。


 だがライセルやバルドバからのより実戦に近いかたちの特訓を受けたことで、より成長へと近付いたのだ。


 元々、基礎を叩き込まれ、そこから少ない実戦経験を補ったシドニエが頭角を表すのも必然というもの。


 更に言えば……、


「リアクション・アンサーを使用し、身体の対応速度、動体視力、思考速度も身体に馴染ませる特訓に使用したそうで。……確か、もうマジックロールが尽きていましたよ」


「えっ!?」


 精神型でそこまでの努力をするなんて、本気なんだと伝わってくる。


 同じ立場にあるウィルクは、昔の自分を見ているかのように見守る。


 すると勝負の行方も動く。


「――そこっ!」


「――なっ!?」


 なんとそのシドニエがカルディナを弾いたのだ。


 木刀をレイピアになぞるように滑らせ、鍔の部分に一瞬、コツンとぶつかったところを横に大きく振り、薙ぎ払ったのだ。


 武器を手放すことは敗北を認めるも同じ。


 レイピアを手放すことはなかったが、訓練場を転がり、受け身をとった。


「くっ! やりますわね」


「僕だって、やる時はやるんです」


 そのシドニエの成長には目を見張るものがあった。


「凄いね! シドニエ君!」


「うん。彼は元々、顔色を(うかが)うクセみたいなものがあったからね」


「それ、アルビオが言う?」


 そのツッコミには、ぐうの音も出ないと頭をかいた。


 ハイドラスの金魚の糞みたいになっていた過去がある、人間のセリフではない。


「で、でもそのおかげかカルディナさんの戦い方をしっかりと見極めていますね」


「そうだな。ワヤリーはレイピアによる突貫攻撃も挟んで仕掛けるが、その時に僅かな隙がある。その攻撃もタイミングを読まれてはカウンターの餌食だな」


 先程の薙ぎ払いのことだろう。


 確かにカルディナが得意とし、好んで使っていると思われる突貫攻撃。


 風属性を持つが故に、武器とも相性の良い攻撃手段。


 直線上に突進してくる際に、翔歩の移動法に加え、風属性の魔力を(まと)い速度を上げ、その加速により、まるで弾丸のように飛んでいく突進術の出来上がりである。


 この攻撃のメリットは、やはり速さと威力。


 濃縮された風を身体ごと撃ち込む威力は凄まじい。速さに関しては、もはや説明不要だろう。


 しかし、デメリットも存在する。


 突進型の攻撃というだけあって、どれだけ速度があろうと撃ち出すタイミングを掴まれては、先程のようなカウンターを受けること。


 この攻撃は勢いよく直線上に攻撃することに意味があるわけで、それをどう読み切られないかが彼女の課題となる。


 だがシドニエの方も少しでもタイミングを逃せば、必殺の攻撃を受けることになる。


 カウンターができたとはいえ、一瞬たりとも気を抜けない状況。


 その神経を使う状況が続くと、気力と体力との消耗も激しいだろう。


「――グローリー・オーラ」


 以前は詠唱しなければ発動できなかった付与魔法も、無詠唱で発動できている。


 気力の消耗を少しでも抑え、集中力を切らさない作戦。


「正直、驚きましたわ。ここまでやれるなんて……」


「僕も色々頑張ってきました。今の僕はその集大成です!」


 今度はシドニエから攻める。


「――いきます! ――グラビティ!」


 カルディナに、ズンっと身体に目に見えぬものがのしかかり、重量感に襲われる。


 そこの隙を突くという単純な作戦だが、シンプルな作戦ほど強いものはない。


 木刀を振り攻撃するも、レイピアで重力に逆らいながら、防ぐもカタカタと震えており、上手く力が入らない。


 歯をくいしばりながら必死で攻撃を防ぐが、シドニエはダメ押しに木刀に重力をかけ、加速をかける。


「――はあっ!」


 カルディナは力負けし、後ろに強く突き飛ばされ、そこを畳み掛ける。


「――ストーン・ポール!」


 石柱で更にカルディナの動きを封殺しつつ、ストーン・ポールでの多重攻撃。


 シドニエからすれば、速攻で決めたいところ。


 いくら強くなったと自覚があっても、二人の間で埋まらないものがある。


 それは経験である。


 カルディナはアライスという父を持ち、幼い頃から内容の濃い訓練を積んできた。


 それに対し、リリアと出逢うまでは木剣を素振りするばかりだったシドニエ。


 人生なんて個々バラバラなのは言わずもがなだが、こうして対峙することを考えるとそのあたりがものを言う。


 シドニエの魔法を砕き、再び攻めるカルディナは、小刻みに斬りつけながらも、突進攻撃をするが、


「……っ」


「!?」


 読み切られていると踏んだカルディナは、ワンテンポ遅くタメに入った。


 すると避けようとしていた初動が隙となり、


「――はああっ!!」


 シドニエはその突進攻撃を全身で浴びる。


 だがタメをしていた影響か、風属性の魔力の方が放たれたせいか、レイピアの剣撃というより、その衝撃波で吹き飛ぶ。


 お互いに譲らない攻防が繰り広げられる。


 カルディナは実戦経験と自分の才を活かしての戦い。シドニエは自分が学び取った技術を活かした戦い。


 努力の差はない。


 どちらが勝ってもおかしくない状況に、息を呑む。


「本当に強くなったね、シド……」


「わかっていたつもりでしたが、ここまでとは……」


 アルビオも一番近くで見ていたはずだが、想定以上だったようだ。


「……なんだかいつぞやの貴方を思い出しますね」


「お、おお?」


 ハーディスはポツリとウィルクをジトっと見て、呟いた。


「まあ精神型が魔法以外で認めてもらうってのは、本当に大変なことさ。最初こそやめとけって言ったはずだがなぁ」


 確かに相談に行った際に断られたように思う。


 その努力によってデメリットが生まれることがあるからだと。実際、ウィルクは治癒魔法以外に使えなくなった。


 だがシドニエはその魔法を駆使して戦う戦術に方向性を向けられたことが大きかったのだろう。


 剣を振ることが前提として鍛え上げたウィルク、魔法を駆使することが前提のシドニエ。


 これもまた精神型が前衛として戦える技術の一種となるのだろう。


「……やるじゃねえか」


「おっ? 珍しく褒めたね」


「明日には槍でも降り注ぎますかね。外出は控えましょうか」


「おい! そこまで言うか!?」


 ウィルクが男を褒めることは珍しいと茶化して笑うが、同じ立場なだけに同情心が湧いたのだろう、納得の一言でもあった。


 ――そして少年漫画的な攻防を繰り広げて数分、互いに力を出し合って、荒い息を放ち、お互いに睨み合い、ボロボロの状態までトコトンやり合った。


「フ……参ったわ。ここまでよ」


 カルディナが降参の一言を呟いた。


 それには対戦相手であるシドニエは納得がいかないのか、問い詰める。


「な、何故ですか!? まだできるでしょう?」


「そうね。まだやれるけれど、わたくしの攻撃は読まれやすい。対人戦となるとまだまだですわね」


「そ、そんなことを言ったら、僕だって……」


「貴方はその魔法を使って臨機応変に戦えるはずよ。それにパラディオン・デュオの時からの成長速度を考えれば、十分過ぎるわ」


 自分よりも相応しいのはシドニエだと絶賛する。


 それには言葉を尽くされても、納得のいく様子を見せないが、


「なら貴方が納得できる実力になるために、着いて行きなさい。わたくしにはわたくしの役目がある……」


「カルディナさん……」


 するとカルディナはハイドラスに跪く。


「殿下。わたくしは父に代わり、殿下が留守の間、この国を守る剣として支えましょう」


 アライスは確かに北大陸にいるし、クルシアの事情を知る人間が残るのには賛同する。


「……わかった。私が留守の間、頼むぞ」


「は!」


 俺はこの振る舞いを見て、ふと思ったことを口にする。


「……もしかしてシドニエを試したの?」


 その質問に対し、不敵に笑う。


「まあそれもありますが、ちゃんと自分のためもありましたわよ。不甲斐ないままではいられませんもの……」


「そっか」


「では、こちらも準備ができ次第、ヴァルハイツへ向かう。頼むぞ!」


 こうして俺達は南大陸へと赴くこととなった。


 ***


 西大陸のとある村。


 そこは既に暴走したドラゴンにより壊滅させられた町が広がっていた。


 草木は荒れ、建物は倒壊し、所々に物が散乱している。


 その片隅に小さな少年達が息を殺して潜んでいた。


 逃げ遅れた少年達は、お互いだけに聞こえるように小さな声で励まし合う。


 助けは来る。頑張れ、頑張れと。


 その視線の先には、白目を向き、口から(よだれ)と炎を吐き散らす火龍(ファイア・ドラゴン)の姿があった。


 するとその火龍がこちらへとズンズンと勢いよく近付いてくる。


 荒々しい鳴き声を上げて、恐怖を(あお)りながら接近してくる。


「――あ、ああああっ!!!!」


 少年達は叫んだと共に、横へと跳んで避けた。


 だが、今の叫び声が(かん)に障ったのか、叫び声を上げた少年に向かって、今度はゆっくりと近寄る。


「こ、来ないでぇ……来ないでよぉ! た、助け――」


「はああああっ!!」


 助けを求めた少年を置き去りに、片方の少年は駆け出す。


 助けを求めた手はやり場を失い、希望も転げ落ちた。


 死を直感する。


 目の前には我を失った火龍が存在する。噛み砕かれようが、爪で引き裂かれようが、踏み潰されようが、尻尾で薙ぎ払われようが免れない。


 涙を溜めて、やられると瞳を(つぶ)った時、


「おっ? 火龍みっけ!」


 女の子の声が聞こえた。


 バッと表をあげると、火龍の首に(むち)が巻きついていた。


 その先に目をやると、全身真っ黒なフリフリレースのゴスロリ少女の姿があった。


「アッハハ! ほら! (わらわ)の物になりなさい!」


 その一人称とは一切掛け合わない少女が、その(むち)で拘束した火龍に魔法を唱える。


「――メンタル・パラサイト!」


 火龍の目の前に紫色の魔法陣が、まるで暗示でもかけるように妖しげに光放つ。


 すると火龍はそのまま大人しくなり、ずずんと気を失った。


「アッハハ! チョロいですわね。妾にかかればこんなものですわぁ!」


 少年は思う。


 自分よりは年上だろうが、その喋り方と容姿には非常に違和感しか湧かなかった。


 派手目な色濃い金髪ツインテールに、血のように紅い赤眼だが、肌は幼子のような軟そうな肌質なのか、艶めいている。


 身長も相まってか、そこには親近感が湧く少年だが、その一人称や傲慢そうな喋り方、更には火龍を一発で仕留めた彼女には、ドン引きする勢いだ。


 幸いなことに、誰かに自慢するように大声で自分の力をひけらかしているセリフを吐き続けているので、そろりと逃げ出そうとすると、


「いてっ!」


 少年は鞭の少女に気が向いていたせいか、前の何かにぶつかった。


 見上げると、気怠げそうにトロンとした赤眼が印象的な草原のような爽やかな黄緑色のミディアムロングの少女の髪が揺れる。


「あれぇ〜、ぼうやぁ。どこいくのぉ〜?」


 歳は十代半ば以上だろうか、たるーんとした喋り方でその少年を大型の人形のように、むぎゅうと抱き抱える。


「は、離してぇ!?」


「ええー……だぁめ。きみはぁ〜、これからぁ、私の物なんだからぁ……」


 その少女は弟ができたみたいだと、喜んでその豊満な胸を押し付ける。


 少年は恥ずかしがりながらも必死に抵抗するが、全く歯が立たない。


 その様子をクスッと笑うと、


「おーおー、がんばれぇ、がんばれぇ。おとっこのこぉー!」


 勝てるとは思っていない男の子のプライドをへし折る、茶化すような応援に、悔し涙が出てくる。


「くそぉ! くそぉ! 離せよぉお!?」


「んー? よく聞こえなぁい?」


 可愛い可愛いとむぎゅむぎゅ抱き続けていると、


「その辺にしとけよ、このショタコン」


 不良娘みたいな口調の褐色の肌に赤眼の銀髪ロングの、気怠げ娘と同じ歳くらいの少女が現れた。


 その褐色娘は肩に少年を担いでいた。


 その少年は見るも無惨にボコボコに殴られていた。


「おい、ガキ!」


「ひっ!? な、なに!?」


「このクズはお前を見捨てたんだろ? 見てたぜ。ほら、一発でも二発でも殴ってすっきりしな」


 先程の火龍とのやり取りを見ていたようで、恨みを晴らせというが、もう十分過ぎるほどの怪我を負っていた。


「だ、大丈夫で――」


「ああっ!? それでも男か? やったらやり返す……それが男ってもんだろぉが!? ガキィ!」


「ご、ごめんなさい!?」


 すると気怠げ娘がそのボコボコにされた少年も一緒に抱っこする。


「おー、よしよし。二人ともぉ、私の胸の中でぇ、仲直りしよーねぇ」


 母性全開で少年達を可愛がるが、褐色娘は納得いかない。


「このショタコン! 男の躾け方が甘ぇんだよ!」


「バーバルこそぉ、ショタコンのくせにやり方が横暴過ぎるぞぉ」


「アタイはショタコンじゃねえ! 将来に備えて立派にガキ共を教育するだけだ」


「自分好みにでしょぉ〜?」


「それの何が悪い!?」


「――だあああっ!! そこのショタコン共! いい加減にしなさぁい!!」


 さっきから黙って聞いていればと、金髪ゴスロリ娘がツッコむ。


「そんなガキなんてどうでもいいの! 妾のこの功績を見なさいな」


 ふふんと自慢げに気を失った火龍を観るよう促すが、


「これぐらいの男の子はぁ、今が一番可愛いところなんだからさぁ、存分に甘やかさないとぉ……」


「ユンナ、馬鹿言うな! このぐらいのガキはな、教えたことの吸収が早えんだ! 素直に言うことを聞いて成長するガキなんて……最高だろ!」


 全くと言っていいほど聞く耳を持たなかった。


 それに腹を立てた金髪ゴスロリ娘は、


「少しはウチの言うことも聞けぇ!!」


 興奮したのか、一人称が変わると、相変わらずだと微笑しながら近付いてくる人物が話しかけてきた。


「相変わらずだなメスガキ共」


「「「!」」」


 その声には聞き覚えのある一同はその方へと振り向く。


「あ、あら〜、アルビットではありませんの?」


「その童顔のガキのくせして生意気な喋り方してんじゃねえよ、メスガキ」


「んな!?」


「だよなぁ。背伸びしてぇだけのマセガキだよなぁ」


 バーバルは女は可愛くねえと、呆れたため息を吐き捨てた。


「わ、妾に対して無礼だぞぉ!」


「それでぇ? アルビットさんはどうしてここにぃ? 貴方の縄張りは犯してませんよねぇ?」


「はっ! そんなんじゃねえよ。今日、てめぇらに会いに来たのは仕事だ」


 三人はアルビットの性格を知っている。


 この男が仕事と言って行動してる時は、大金が動く時だ。


 そして仕事として会いに来たというワードに、警戒する。


 それもそのはず。アルギットは賞金稼ぎだが、一応ポジションとしては奴隷商に分類される。


 ファニピオンの件で、大手の奴隷商や(さら)い屋がいなくなる中、自分達同様、根強く生き残ってきた。


 だがそんな男が仕事で会いに来たと言ったのだ。


「言っておきますが、簡単には――」


 火龍が意識を取り戻し、金髪ゴスロリ娘を守るように、アルギットに向かって大きく叫び威嚇する。


「捕まりませんわよ」


 戦闘の意欲を見せる三人だが、アルビットは落ち着けと促す。


「安心しな、メスガキ共! てめぇらみてえな残飯漁り野郎なんざ、金の足しにもなりゃしねぇ」


「あ、あらぁ? 金の亡者の分際で、ヒューイってガキにやられて尻尾を巻いたハイエナさんではありませんのぉ!」


 そんな挑発には乗らないアルビットは、早速本題に入る。


「おい、田舎娘」


「ああ!? ウチのこと、田舎娘って言ったぁ?」


「……てめぇ、奴隷術は得意だよな?」


「あら? 見てわかりませんの?」


 そこには鋭い眼光で睨む火龍を見た。


 まあアルビットもわかった上でスカウトしようと考えてるわけで。


「つーか知ってるよな? ジルバが奴隷術が得意なのはよぉ」


 実は彼女達は(さら)い屋である。


 とはいえ、魔物専門の(さら)い屋で、このドラゴンと魔物の暴走化を利用して、密猟しているのだ。


 その中でも彼女達は指折りの功績を残し、奴隷商からも重宝されている。


 とはいえこの騒ぎのせいで、更に警備が強化されたのは不幸だったのだが、全てのドラゴン達の価値も上がったことから、奴隷商に売り捌くように、ドラゴン狩りをしていたのだ。


 ちなみにジルバ以外の二人は生粋のショタコンである。


「それでだ。今の雇い主(クライアト)が、てめぇらみたいなガキが欲しいんだとよ」 


「なるほどね、それで貴方は紹介料を貰えると?」


「わかってんなら、大人しくついてきな!」


 すると黒い空間から一人のおじ様が出てくる。


「これはこれは。随分と可愛らしい娘っ子達だねぇ」


 ザーディアスがひょっこりと顔を見せた。

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