01 この世界の時計事情は古い
向こうの世界とは何も変わらない晴天が空を支配する中、俺は軽やかな蹄の音を聞きながら荷馬車に揺られている。
てっきり、馬車とは結構揺れるものと覚悟していたのだが、案外そうでもないらしい。むしろ心地良さすら感じるほどだ。
冷んやりとした空気にも関わらず、暖かく照らす日差しに、程良い揺れを感じる馬車にテンポの良い蹄と車輪の音。否応にでも眠気が誘われる。
「ふわぁ〜」
思わずあくびまで出てしまった。その声を聞いてか軽く笑ってバトソンさんは話しかけてきた。
「少し疲れたかい? 寝ててもいいよ」
「あっ、いえ。大丈夫です……」
ぱっとバトソンさんへ向き直す。乗せてもらっているのに申し訳ない。
「別に遠慮する事ないさ。むしろリリアちゃんがそんなに無防備なところなんて初めて見たしね」
「あ、あはは……」
おそらくだが、リリアは警戒心丸出しの小動物みたいな感じだったのではないかと推測できる。何分あれだけ被害妄想の激しい娘だ、あまり周りを信頼していなかったのだろう。
まさか、前のリリアについて訊く訳にもいくまい、別の話を切り出す。
「そういえば他の子達はどこの学校へ通うんですか?」
というのも見送りの際、遠巻きに同年代くらいの子が数人、建物脇にいるのを確認している。山合いの村には珍しいのではないかと思った。まあリリアの両親も結構若かったが。
「ああ……うちの娘達はこの先の町の学校へ通うのさ。リリアちゃんみたいに優秀さんならもっといいところへ行かせてあげるんだけどね」
「この先の町ですか?」
「ああ。この先にあるクルーディアって町にある学校さ。この辺りの小さな村の子達は大体この学校さ」
「へえ〜……」
どうやらクルーディアという町へ向かうらしい。おそらく今日はそこまでかな?
「今日はそのクルーディアって町まで行くんですか?」
「ああ。そうだよ。夜になる前には着くと思うよ」
「そうですか……」
現在は日が一番高いところにある。先程お昼を食べたばかり、もう少しかかりそうだな。
しかし、腕時計がないのは不便だ。村には大きな時計はあったが、携帯用はどうやら普及してないらしい。腕時計を開発した人お願いです。こちらの世界へ転生、転移をお願いします。
でも、運び屋のバトソンさんなら腕時計知ってるかも知らない。
運び屋とはいわゆる運送業の事を指す。運び屋と言われると麻薬をイメージしがち。
「バトソンさんは簡易的な時計とか知らないですか?」
「どうしたんだい? 急に?」
「いや、時間が分からないと不便じゃないかなっと思って……」
「そんな事ないさ。太陽の高さで分かるだろ? 雨が降ったら厳しいけどねぇ」
どうやらこの世界の人達は、太陽の高さで時間を判断するらしい。実に原始的だ。
文明開花というのがどれだけ偉大なことかを学んだ。




