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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
7章 グリンフィール平原 〜原初の魔人と星降る天空の城〜
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13 犯行予告

 

「あー……かったるい」


 そうぼやく俺に対し、さすがに苦笑いを隠せないシドニエ。


「ま、まあ頑張りましょうよ。ね?」


「と言いますか、淑女が喋る言葉遣いではないですね」


 ハーディスがみっともないと呆れ果てるが、俺にそんな淑女の嗜みみたいな振る舞いは、期待しないでいただきたい。


「はいはい。私は淑女でもなんでもありませんよー。今は司書にでもなった気分だよ」


「司書でもそんな言葉遣いはしませんよ」


 口々にいちゃもんをつけるハーディスに、ぶう垂れながらも勇者の日記を読み漁る。


 俺は殿下に頼まれた通り、アイシアもリュッカもいない学校を終えて、その足でアルビオの家で今日も引きこもり、日記を漁る。


 フェルサも本だらけで退屈で頭が痛くなると、サニラ達のところへ行くわ、委員長(ナタル)やカルディナは旅の反省から特訓しているわけで。


 そんな中、紅一点としてこの地下書庫にいるわけだが、


「この日記はここでしたっけ?」


「ええ」


 ハーディスは側近であり、俺の監視役だからいる理由もわかるが、シドニエがいることがおかしいと思う人もいるのではなかろうか。


 歴史的書物として残されているものとして、勇者の日記のことは機密情報。


 だからユニファーニやミルアもいないわけだが、シドニエがいる理由としては、


「皆さん、お疲れ様です。少し休憩しませんか?」


 アルビオが誘ったことが要因にある。


 なんでも北大陸で特訓して以来、更に仲良くなったとのこと。シドニエは勇者に対して憧れも強いことから、勇者の日記を見てみるかということで、ここにいる。


 いいのかねぇ〜。


 アルビオが持ってきたお茶菓子を摘みながら、休憩がてら談笑する。


「それにしても勇者の日記。こうしてお目にかけられるとは……」


「シド。それ、ここに来るたびに訊いてるよ」


「はは……。だってなんか嬉しくって……」


 憧れの人の日記を読める機会ってのは、中々ないだろうからね。


 まあ日記って本来、見られることが前提にはないはずなんだが、こうしてひらがなで出来事が書かれていると、読んでもらうことが前提と捉えられる。


 日記ってよりは報告書に近いか?


「それで? 数日間、解読してもらっているわけですが、どうです?」


「全然。原初の魔人の「げ」の字も出てこないよ」


 まあ「げ」の字は出てますよ。文章的にはね。


「そうですか。まあ勇者様がご活躍されていた二百年前は、原初の魔人が現れたという記録は一切ありませんでしたからね」


 勇者の日記に書かれていることは、本当にこの世界の基礎となることが基本で、後は自分の英雄譚を簡単に書き殴ってあるくらい。


 本当に異世界(げんだい)からの転移、転生者向けに書かれた日記だ。


「それにしても不思議な文字ですよね。やはり勇者様は異国の人間だったんですよね?」


「まあ僕と同じ黒髪を持って生まれたそうですから、当然かも知れませんが……」


「しかし、どこの大陸にも黒髪の人間がいるという発見例も、記実もないんですよね。……本当に勇者様はどこから来られたのか……」


 そんな三人の会話をひやひやしながら訊いている俺の冷や汗は止まらない。


 勇者の出生を知っているとすれば、同じ異世界転移者である俺のみだ。


 この話題を長々としていると、そのうち矛先が向きそうだ。


「そ、それより原初の魔人だよ! 原初の魔人! クルシア達にこれ以上、何もさせないためにも、その辺の情報は欲しいよ」


 するとハーディスが原初の魔人については何ともと答えるが、アミダエルがいるヴァルハイツについて話してくれた。


 俺がヴァルハイツに呼ばれた理由としては、魔人マンドラゴラを倒したことに影響している。


 ヴァルハイツは人間絶対主義国――つまりは人間以外の種を害悪として認識している国。


 勿論、国民が全員そうかと言われるとそうでもないのが現状。


 俗に言う、過激派と穏健派に分かれている。


 穏健派を支持する国民からすれば、戦争を度々繰り返すこの国の在り方に疑問を抱き、過激派を支持する者達は、他種族との因縁から奴隷や滅ぼすことも考えたりするそうだ。


 この世界は何かと差別が多い気がする。


 そりゃ同じ人間として、自分の理解が難しい存在を怖がったり、嫌悪する理由もわからないではない。


 だが限度はやはり、西大陸同様、超えていると考えるわけで。


 それで話は戻るが、俺に会いたいと言ってきたのは、その過激派の方。


 魔人という人の姿でありながら、魔物という害悪を払ってくれた英雄に一度会ってみたいと言うのだ。


 本来なら、俺一人で来て欲しいとのことだそうだが、陛下達がそんなことを認めるわけもなく、ハーメルト側からは、ハイドラスや従者を含めた面々が同行してという話を通したそうだ。


「つまり、人間の英雄として祭り上げたいと?」


「まあそんなところです。彼女なら、ハーメルト王家の考えに属せず、丸めこめるだろうとの考えなのでしょう……」


 なるほど。王都ハーメルトは勇者ケースケ・タナカというどんな人種にも分け隔てなく、救いを与える英雄として掲げられた。


 ヴァルハイツにも象徴的な人物が欲しいわけだ。


 それも人間だけの英雄に……。


「でも私はそんな気は……」


「無いのはわかってます。ですが、あるフリはしておけと言われるはずです」


「は? 何で?」


「普通に外交するだけなら、愛想笑いで済む話ですが、我々の真の目的はアミダエルを引きずり出すこと。アミダエルは過激な研究をしていると予想できますから、おそらくは過激派についている」


「つまり話を合わせて、隙を(うかが)えと?」


「まあそんなあたりです」


 簡単に言ってくれるなぁと思う反面、それくらいしかできないだろうとも考える。


 アミダエルのヤバさは、以前のザーディアスから訊いての通り。


 過激派の懐にいるであろう存在に近付くには、その手段が一番いい。


「そのアミダエルって人から原初の魔人の情報を訊き出せますかね?」


「どうだろう。生物研究をしていて、あの魔人マンドラゴラの主人となると、知っている可能性はありそうだけど……」


「どちらにしても、アミダエルって婆ちゃんを引きずり出せば、こっちからもクルシアに一発かませることができるってわけでしょ?」


 なんだか女の子なのに乱暴だなぁと言わんばかりの視線が集まる。


「……リリアさん。アイシアさん達といないと、ちょっと男の子っぽいですよね?」


「僕達も何故か、話すのに違和感ないですし……」


「もしかして、前世は男性でしたか?」


 一発かませるは確かに乱暴に過ぎるか。


 ハーディスの言っていることも、まあちょっと方向がずれてる気がするけど、当たってるし。


「ぜ、前世なんて知らなーい。さ、休憩はここまでにして、お仕事お仕事〜」


 俺は一応可愛らしく振る舞ってみたが、そちらにも違和感があると言いたげな表情であった。


 ***


「んー、まだ帰って来ないのかしら?」


「多分ねー」


 俺とナタル、フェルサという、この数日間ほどこの三人での食事を囲む機会が多い。


 今日もまたアイシア達は帰って来ない。


「まあ心配要らないよ。リュッカがついてるし、いざとなったらギルヴァ達もついていってるしね」


「そうだね」


「まあそうでしょうが、その里まで向かうまで、かなり険しい道だとあのドラゴン達が、口酸っぱく言っていたではありませんか」


「そこの心配はしてないよ。アイシアを神聖視してるんだし、それこそないよ」


 あのドラゴン達が神聖視し過ぎて、帰れなくなるという心配はありそうだが。


「それよりもフェルサもそろそろだよね」


「うん」


 アルビオ達の南大陸行きの準備は着々と進んでいた。


 行き先は俺達とは違うため、準備ができ次第、出発とのことだが、いつも無口なフェルサが更に口数が少ないように感じる。


「やっぱり行きたくありませんの?」


「別に。昔のことだし……」


 気にしてないとは言うが、どうも心配になる雰囲気を出す。


 するとフェルサの背後から、いつも元気いっぱいのユーカ先輩がのしかかる。


「相変わらずの仏頂面だにゃあ。こちょこちょ――おほっ!?」


「食事中」


 ユーカの腹に向かって肘打ち。今の感じだとクリーンヒット。中々痛そうである。


「にしても獣人の里というのは、精神型を認めないというのにも、どうかしてると思いますわ」


「まあね……」


「それは仕方ないのですよ」


 俺達の話に、テルサがお茶を運んで入ってくる。


「どうも。……それで?」


「獣人の里は、獣の顔をした人型の姿こそが誇り高き姿であると評されているのです」


「えっ? 獣人ってみんなフェルサみたいな感じじゃないの?」


 すると呆れたと零し、ため息も吐いたナタルが説明。


「獣人と言っても二種類存在していて、フェルサさんのような方を獣人、頭が獣の姿をしているのが神獣人と呼ばれ、獣神の子孫とも呼ばれているのよ」


「へえ……」


「まあフェルサさんのような方がほとんどですがね。知らなくても当然です」


 二人の話からすると、神獣人は南大陸の里にしかおらず、姿はライオンや鷲などといった狩猟型の獣の顔をしていて、肉体も筋肉バキバキの肉体型しかいないそうだ。


「そんな中で人型のくせに、精神型ということが許せないっていう古い風習があるのですよ」


「それで追い出されたんだっけ?」


 フェルサは興味無さそうに、こくりと頷いた。


 俺は背もたれにもたれながら、この世界のことを嘆く。


「西大陸の闇属性といい、南大陸の種族間といい、獣人達の差別的しきたりだったり、この世界は差別が多すぎない?」


「そうですね。みんながみんな違うはずなのに、括りわけされるのは、中々悲しい現実ですよね……」


 テルサの言う通りだ。


 個人個人、性格が違うのに、種族間や見た目、寿命とか違うってだけなのに、どうしてこうわかり合おうとしないのか。


 まあわからないではないが、認めたくはないな。


「ただ怖いだけ……」


「え?」


「自分とは違う存在に怖いとか嫉妬とか嫌悪とかしてるだけ。みんな子供」


「おっ、言うね、フェルサちゃん。でもその通りだと思うよ」


 復活したユーカは、小生意気なと楽しそうに笑うと同意する。


「ああいうのはさ、互いに認め合う謙虚な心とか、ゆとりってのがないからだよねー。どちらも許せない因縁があっても、どちらかが歩み寄らないとさ、潰し合うだけになっちゃうだけなのにね〜」


「先輩にしてはまともなこと言いますね」


「何だと。この先輩様がそんなことを言うのが、そんなに珍しいかぁ!」


「――ひぃやあっ!?」


 そう言いながら、俺の胸を鷲掴み揉みしだいていく。


「そんな生意気な後輩ちゃんにはこうだっ!!」


「ちょっ!? や、やめ……」


 艶っぽい声が思わず出てしまう中、テルサは止めるようとあたわた。


 だが、先に堪らず止めたのはナタル。


「いい加減になさぁい!!」


 食事中ですよと、俺ごと突き飛ばされた。


「どわぁあっ!!」

「きゃああっ!?」


 二人して尻もちをつき痛みを宥めるよう、さすっていると、キイッと静かに食堂の扉が開いた。


「あっ、ただいま」


「――!? アイシア!」


 アイシア達が帰って来た。


 俺達はみんなで駆け寄り、みんなでおかえりなさいと旅の帰りを労う。


「無事に帰って来たようで、何よりですわ。それにしてもやはり時間がかかりましたわね」


「龍の里までは問題なかったのですが解体と、あと密猟者の討伐の手伝いを少し……」


「密猟者?」


 なんでもリュッカの話によれば、今回の龍の暴走の事件のことを利用し、龍種を捕獲し、高額での取引を行う奴隷商達が出てきたとのこと。


 龍と共に生きるナジルスタとしては元々、龍の違法契約は罪として処される。


 更には龍神王の件も知るようになってからは、尚のこと保護の対象になると、五星教面々と騎士達が活動しているらしいが、魔物の凶暴化などにより多忙な身。


 アイシア達は少しばかり力になってきたとのこと。


「そっか。少しでも抑止力になるといいね」


「う、うん……」


 アイシアのいつもの元気がないように思う。


 前回、西大陸から帰った時は、盛大にテルサやユーカ先輩達に抱きついていたはずのアイシア。


 短かったからか?


「どうしたの、アイシア。元気無い?」


「えっ? そ、そんなことないよ。ただ……」


「ただ?」


 するとリュッカからある物を見せられる。


 それは魔石だった。


「これは……?」


 ――翌日、関係者を集めて、その魔石のことをリュッカ達から説明を受けた。


「記憶石……」


「はい。勝手とは思いましたが、中身も確認しました」


 その内容を見て、アイシア達は落ち込んだ表情をしていたそうだ。


 これから俺達もその内容を見ることになる。


 人工魔石が龍の里にあるということは、明らかなクルシアの挑発とみた。


 そして――それは的中する。


『――あー……映ってますかぁ? やっほー』


 記憶石が再生される。


 そこにはいつもの余裕たっぷりのクルシアが映っていた。


 ある程度、映っているかの確認を取ると、本題の話を語り始める。


『――記憶石(これ)を取っている人がぁ、ハーメルトの王子様やぁ、黒炎の魔術師さんだと嬉しいなぁ。是非、違ってたら今の人達に送ってね♩ こぉれ♩』


 いつも通りのふざけた野郎だと、俺達の表情は険しくなっていく。


『さてさて、では本題。じゃじゃあーん!!』


 クルシアは目から血を流している龍の首を見せた。


『この子は龍神王の首だぴょん! それでそれで……こっちがそのま・せ・き!』


 右手には龍神王の首を。左手には吸い込まれそうなほどに洗礼された真っ白な魔石が手にされていた。


『どうどう? 原初の魔人、居たでしょお? ははっ! 中々凄い殺し合いだったよ。まさかバザガジールの腕を一本持っていくことになるとはね』


「彼の……腕を……!?」


 アルビオは信じられないと驚くが、それはどっちの驚愕だろうか。


『ま、幸い、綺麗に千切れたみたいだから、すぐにでも治療は可能だから、実際……この子、無駄死にだったんだけどさ! あっははははっ!!』


 龍神王の首を適当に鷲掴みながら、貶すように嗤う姿は、相変わらずの憤りを覚える。


 アイシアの苦しそうな表情を見るあたり、龍神王のことを想ってのことだろう。


『さて、これでボク達は原初の魔人を探知できるようになったわけだ。この首を使えば、場所の把握も難しくない。それに極上の魔石もあることだぁ……これからが楽しみだよ……』


 龍神王の首と魔石を散々使い潰すつもりのようだ。


 首については不明だが、魔石については想像は難しくない。


 魔人マンドラゴラの魔石など比べるまでもない。とんでもない兵器エネルギー、アリア以上の半魔物化、コイツらだったら、もっと悪用的な使い方をするかもしれない。


『フフ……これを見ているなら、悔しがってる頃合いだろう? そんな君達にパーティーのご招待だ! 南大陸へおいでよ。……ザーちゃんからアミダエルのことは訊いてるんだろ?』


「くっ……お見通しか!?」


 ザーディアスが情報を流してるってわかっているからの挑発だろうが、やはり言われると警戒心も強くなる。


 ノーガードで殴り合っているようなものだ。


 それでもこっちの方が不利なのは事実なわけで。


『ヴァルハイツの悪行の数々は見過ごせない。多種族とも交流を深めたいハーメルトとしては、乗り越えたいところだろ? だから――』


 クルシアはニタリと不敵な笑みを浮かべる。


『障害になってあげるよ。その方が燃えるだろ?』


 更にクルシアのテンションはヒートアップ。


『君達を歓迎するために、色んな催しを考えておいたよ。原初の魔人を利用し、最高のシナリオをさあっ! 人間も多種族共の感情が入り混じるこの南大陸で、君達がどんな配役を(こな)すか、楽しみにさせてもらうよ』


 投影されたクルシアは楽しそうに(わら)う。


 まるでもう手遅れだと教え込むように、この笑い声が嫌というほど現実を突きつける。


 これを見つける頃には、クルシア達はもう動いているわけだから。


『ボクからのお話はここまで! 次に会う時は南でかな? それじゃあねぇ〜』


 記憶石の再生が終了すると、部屋は静寂に包まれる。


 あの背景からおそらく龍の里で撮ったもの。バザガジールが討伐が終わり、ザーディアスの空間転移術でゲートを作り、わざわざ撮ったのだろう。


「くそおっ!!」


 ダァンっとテーブルを叩いたのはナタル。


 ハイドラス達がいる中でも、感情の昂ぶりを抑えることができなかったようだ。


 そんな中でもハーディスが空気を変えようと確認を取る。


「龍神王の首を使った探知……と言っていましたね。おそらくは……」


「ああ。龍神王の魔力に似た形跡のある魔人を探知するためだろう」


 ハイドラス達が言うには、原初の魔人、龍神王の首を触媒に探知魔法を形成。そこに宿るはずの魔力を手繰り寄せるように探知するのではないかと予想。


 属性が違えど、原初の魔人という括りがあるのだ。原初の魔人の通う魔力は性質的には一緒なのだから、探知して見つけ出すことは可能なのだろう。


「これは時間がありませんね。殿下!」


「そうだな。アルビオ、すまないが早急に準備を進めてくれ。フェルサ、それにシェイゾ殿にナディ殿。頼みます」


「……わかった」


「はい!」


 フェルサは頷くと、すぐさまその場を後にした。


「じゃあ私達も……」


「ああ。マルキス達も来るか?」


「いいのですか? 殿下」


「お前達は十分関係者だ。それに龍神王の首が利用されているとなると、お前の龍達も黙ってはいるまい」


 ハイドラスにしては珍しい妥協案。


 ついてくるなと言いそうだったのにと思ったが、


「はい! 殿下!」


 アイシア達は喜んでと返事をする。


 するとハイドラスはレオンに近付くと、労いの言葉をかける。


「君もすまなかったな。ここまで関わらせてしまって。だがこれ以上は関わらない方がいい。現場を見たならわかるだろう?」


「……っ」


 確かにレオンは龍神王が殺された現場を見た。


 生々しい戦闘痕が残る里を見て、ここまで狡猾に作戦を進めようと暗躍するクルシアを見て、正直(すく)んでしまった。


(悔しい……! が……)


「わかり……ました」


 ここで変にごねて、足手まといになることを避ける選択肢を選んだ。


 だがその表情は悔しさで滲んでいる。


 するとアイシアが駆け寄ろうとするも、


「――! リュッカ?」


 リュッカは肩を取り、目を(つむ)り無言で首を横に振った。


 ここでアイシアに励まされでもしたら、レオンがより惨めになると考えたのだろう。


 そのレオンの足取りはとぼとぼとしており、その場を去っていった。


 だがアイシアはリュッカを振り払い、去っていくレオンの背中に向かって、


「ありがとう、レオン君! ついて来てくれて! あとは任せて!」


「……」


 レオンは悔しくて振り向くことができなかった。


 アイシアがこれから向かうところは、あの子供の姿でありながら、明らかに悪辣な敵との衝突。


 自分が力になれないことにまた悔やむが、


「――俺はぁ! 俺は……強くなる! 待ってろ……」


 そう叫んで、振り向くことなく、去っていった。


「レオン君……」


 廊下から聞こえたその悔しそうな叫びを訊いたアルビオとシドニエは気を引き締める。


「あ、あの! 僕もついていってもいいですか!」


「シド……」


 正直、シドニエをついて行かせるつもりはないハイドラスだったが、クルシアとの接触機会があったのだと気付く。


 それにアルビオを呼んだ時に、一緒について来たところを見ると、強くなったと思いたい。


「確かにお前はクルシアとの接触歴もある。だが、実績的に私はお前を評価していない」


「そ、そうですけど! しょ、証明してみせます!」


「シド? あのさ……」


 シドニエの気持ちはなんとなくだが、察しがつく。


 リリア(おれ)を守るためについて行きたいのだろうと思って間違いないと考える。


 実際、北大陸でアルビオと実戦能力も身につけたようだが、それを俺達は見ていない。


 俺達が知るシドニエの実力はパラディオン・デュオ以来、止まったままだ。


 止めようとする俺に真剣に振り返って、


「僕も悔しいんです! あの人は僕やアルビオさんを嘲笑って倒しました。ここまで何もできないのかと思いました」


 思いの丈をぶつけるも、俺は説得を続ける。


「それは私も一緒だよ。私だって西大陸で奴とぶつかったけど、歯が立たなかった。だから――」


「だったら僕も力になります! 一緒なんでしょ?」


 しまった! 説得のつもりが助長させるかたちになってしまった。


 訊いていればやれやれと呆れた態度を取ったハイドラスに、カルディナが提案する。


「それではどうでしょう? わたくしと勝負して、勝てたら同行で良いのでは?」


「!!」


「わたくし如きに勝てぬようでは、足手まといも必至。……どうします?」


 確かにカルディナの実力は相当なものになっている。


 いつもよりも稽古を倍にし、アライスの部下達の時間をもらい、実戦的なトレーニングも積んでいるとのこと。


「でもカルディナさんがどうして……?」


 リュッカがそう尋ねる背景には、カルディナの方が実力があるのにということから。


 ついて行く行かないの話は、クルシア達の陰謀に対し、戦力になるかならないかの話。


「わたくしは今でも西大陸での不甲斐なさを嘆いているのです。わたくしもここで今一度、殿下方に同行できる実力を示す時……勝った者が同行を許可して頂く。どうでしょう? 殿下」


 カルディナは臨機応変に対応できるリュッカではなく、同じように戦闘で戦いたいと望むシドニエと天秤にかけたのだ。


 カルディナは自分のプライドのためにもと、キリッとした表情で進言する。


「……わかった。ファルニもそれでいいな?」


「は、はい!」


 これより二人の真剣勝負が幕を開ける。

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