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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
7章 グリンフィール平原 〜原初の魔人と星降る天空の城〜
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12 アイシアの成長と変わらぬ人情

 

「――シア!」


「ふおっ?」


 強い光に一瞬包まれたアイシアを心配そうに呼びかけると、間の抜けた声が漏れた。


「大丈夫か!?」


「神子様!?」


「えっ? な、なに? そんなに心配して……」


 みんなが心配する中、当人は他人事のようにキョトンとしていた。


 アイシアは特に倒れているわけでもなく、体勢が変わっていないことから、あの龍神王との会話の時間は一瞬だったことに気付くが、一応確認。


「私、気でも失ってた?」


「そんなことはないけど、強い光に包まれたから。でもその様子なら大丈夫そうだね」


「とにかく無事で何よりです。まあ龍神王様の龍の涙が神子様に悪影響など与えないとは思っていましたが……」


 そんな都合の良い発言をするホワイトに一言。


「……お前が一番取り乱してたろうが……」


「――煩いぞ! 人間!」


 レオンがポツリと呟いた。


 そんなぎゃいぎゃい喧嘩する中、


「龍神王に……ティアムトに大丈夫って言っておいたよ」


「!」


 そのアイシアの発言にシンと静まり返ると、エメラルドが涙を流しながら尋ねる。


「龍神王様とお話を……?」


「うん。ティアムトが心配してたよ。みんなのことは大丈夫だろうかって……」


 アイシアは優しく龍神王の死体を撫でながら語る中で、先程から気になっていることを尋ねる。


「そのティアムトっていうのは……」


「龍神王の本当の名前だって。アリシアさんに付けてもらった大切な名前なんだって……」


「あの光の間にそんなことが……」


 だから気を失っていたのかを尋ねたのかと気付く。


 そして龍神王の真名を知ることができたアイシアを改めて神子として認識したドラゴン達。


「神子様! 不躾なお願いですが、ノワール共々、契約して下さったドラゴンの召喚をお願いします!」


 急に固くなったホワイトの物言いに、ちょっと不機嫌そうな顔をするが、その真剣味に当てられ召喚に応じた。


 ポチ以外のドラゴンが並ぶと、全員アイシアに対し、深々と頭を下げた。


「神子様。この度は龍神王ティアムト様の魂を送って下さったこと、感謝致します。これで暴走していた龍種達も落ち着きを取り戻すことでしょう。つきましては、我々一同、この命の限りを尽くし、神子様のお力となるべく、お使い下さい」


 龍神王の魂を還し、神子としての存在を示したアイシアに、これでもかというほど丁寧に言葉を尽くし、従うと語る。


 すると、


「やだ」


「…………えっ?」


「むっすぅー!」


 アイシアは物凄く不機嫌そうに、頬を膨らませ拒否した。


 これには一同、唖然。


 リュッカだけは、シアらしいと苦笑いを浮かべていた。


「な、何故ですか!? 神子様!?」


「そうです、神子様! 我々は本当に感謝しております!」


「我々からの忠誠の意志を――」


「それがやだって言ったの!」


「「「!」」」


「私はティアムトに大丈夫って言ったの。それは龍神王だろうと神子であろうと、そんなものがなくたって、みんなが思うように生きていけるよって意味で答えたの。それなのに……神子様、神子様って……」


 アイシアは魔物の本能など無視しての発言だった。


 本来であればホワイト達は魔物であり、強き存在の元で役立つことこそが生きがい、本能だろう。


 だけどこうして悲しむことができるドラゴン達を見て、自分で行動を起こして欲しいと、アイシアは願ったのだ。


 それをわかっていても、ホワイト達をフォローする。


「シア、彼らは貴女に尽くすことこそ、(ほまれ)だと思ってるよ」


「……それもわかってるけど、それじゃあ私がいなくなったらどうするの? 私が子供を産んだ時、その人に頼るの?」


「そ、それは勿論!」


「じゃあ私がずっと独り身で子孫を作らなかったら?」


「そ、それは……」


 反論が途切れると、龍の神子らしい言葉を告げる。


「せっかく他の魔物と違って心があるんだから、自分が思った通りにすればいいんだよ。その上で尽くしたいならわかるけど、みんなのはそんなんじゃないでしょ?」


「そ、そんなことは……」


「神子様ぁ〜って言ってる時点でだと思うなぁ〜」


「ううっ」


「私はみんながやりたいことを応援したいの。ティアムトの意志も大切だけど、自分の気持ちも大切にしなくちゃ。だからね……」


 跪くホワイト達に笑顔で手を差し伸べた。


「忠誠じゃなくて、私と一緒に歩いて生きていきたいっていうなら、一緒にいてあげる」


「み、神子様……」


「今は辛いことが多いかもしれないし、不安なこともある。けど……きっとみんなで笑顔で過ごせる時が来る。そのためにも一緒に頑張りたいって望むなら……」


 このドラゴン達は理不尽にも拠り所であった龍神王の命を奪われ、彷徨(さまよ)い、アイシアという居場所を見出された。


 けどその居場所(アイシア)は厳しくも優しく彼らを受け止める。


 それは神子と呼ばれ、慕ってくれるからこそ、かけた言葉。


 自分なりに出した彼らとの関係の答えであった。


「わ、わかりました、神子様。我々は貴女様と共に……」


「尊敬語のままなんだけどぉ〜!」


 わかってないだろうと、むくれるアイシアだが、早々に変えることは難しいだろうと、困惑しているドラゴンたちを見かねて提案する。


「と、とりあえず神子様って呼び方を変えよう。そこからでいいよね?」


 リュッカの言うことに一理あると、悩むアイシアは、


「じゃあアイシアって呼んで」


 名前呼びを提案。


「そ、そんな神子様をお名前で呼ぶなんて……」


 勿論、恩人であり、自分達の盟主となられる方をそんな馴れ馴れしい呼び方などできるわけがないと否定すると、


「つーん」


 こちらも勿論、この反応である。


 この反応に困り果てたホワイトは遂に、


「ア、アイシア様! せ、せめて様付けはさせて下さい」


 妥協案と共に名前呼びに成功。


「ホントは様付けも嫌だけど……まあ許そう!」


 一番畏まっていたホワイトを陥落させたのだと、機嫌を戻した。


「ではアイシア様、これからもどうかよろしくお願いします」


 エメラルド達も堅い言い方は抜けないが、いい関係が築いていけそうだと、リュッカは実体験からそう見守れた。


「まあそう堅くならなくていいよ。シアが本当に言いたいことはもっと単純なことだよ。お友達になりたいだけなんだよ」


「と、友達……ですか?」


「うん。シアは昔からそうやって色んな人達と仲良くなってきたから……」


「あ……それはなんとなくわかるかも……」


 昔からの幼馴染でなくとも、少し付き合えばわかる素直な性格を考えれば、その考えが念頭にあるという考えが外れることはない。


「だからもっと肩の力を抜いてもいいよ」


「に、人間……」


「それだよ!」


「えっ?」


 リュッカ達の会話に、指を差して割り込む。


「それも私のことを神子様って呼ぶ原因の一つだよ。他の人にも名前で呼べばそうならなかったんじゃない?」


 まあ区切りをつけていたわけだから、一理あると納得できる。


「ではリュッカ様と……」


 エメラルドはすんなりと従う反面、


「馬鹿を言うな! 呼び捨てで十分だろ、エメラルド」


「その方がダメでしょ」


 ホワイトはアイシア以外、敬われるかと否定するも、アイシアに常識を諭される。


「私ならいいけど、そういう区別を付けてたなら、リュッカのことこそ様付けにしないと失礼でしょ!?」


「し、しかし神子様〜」


「み〜こ〜さ〜まぁ〜???」


「うっ!? ア、アイシア様……」


 アイシアの友人にも関わらず、ホワイトはリュッカの認識を人間として他人と括っていたのだ。


 名前呼びにするなら、様付けが基本になってしまう。アイシアの面子を守るということが、前提に入ってしまうから。


 すると気まずくなったのか、もじもじと態度を改める。


「で、ではリュッカ様で……」


「わ、私は別にいいのに……」


 そんな小さな揉め事を眺めるレオンは、ポツリと呟く。


「変に拘ってんなぁ」


 まあ拘りは人それぞれである。


「さて、ここからは私達の仕事だね」


「あ、ああ……」


 リュッカとレオンが龍神王の死体を前にする。


 レオンは些か緊張している様子。生唾を呑んでしまった。


「ティアムトさんだっけ? 一応訊くけど、バラしていいの?」


 するとアイシアは、明るく自信満々に語る。


「大丈夫だと思うよ! 安らかに眠っていったから、龍神王の死体(それ)には誰もいないから!」


「そ、そう……」


 そんな明るく言われて認められてもと、ちょっと困るがと苦笑(くしょう)するが、


「でも一つだけ……」


 アイシアの声の質がちょっと真剣なトーンに変わる。


「ティアムトって呼ぶのはやめよう」


「何でだ?」


「龍神王の真名だよ? もしかしたら悪用されることもあるかもしれない」


 魔法、特に闇魔法となると、人の名前を呪詛に取り込むことが可能だったりする。


 龍神王の真名をクルシア達に利用されては目も当てられないと提案したのだ。


「私はホワイト達(みんな)に知って欲しくて、敢えて口にしたけど、これ以上はやめておこう……」


「リリアちゃん達にも……?」


「うん」


 そこまで考えてくれてとホワイトは感動。


「み、神子様ぁ〜!!」


「さて、じゃあ私も手伝うよ。そのためにリリィの魔法だって受けたんだから……」


 むんっとやる気を出すアイシアに、待ったをかける。


「神子様、お待ちを……」


「リュッカはどこから手をつけるつもりなの?」


「え、えっとぉ……」


「み、神子様っ! お話を……」


 ホワイトが言いたいことがあるのに、無視するアイシアに戸惑っている。


 リュッカは呼んでるんだけどと、アイシアに視線を送るが無視。


「ア、アイシア様ぁ!!」


「なに? 呼んだ?」


 やっと名前で呼んだかと、ジト目でくるりと振り返る。


「うう〜〜、意地悪をなさらないで下さい、神子様ぁ」


「リュッカ、私は――」


「ああっ!? ごめんなさい! アイシア様!?」


「だからなに?」


 アイシアと呼ばれないと反応してやるもんかとの頑固な対応にレオンは、リュッカに耳打ちして尋ねる。


「意外と頑固なところもあるんだな」


「そうですか? 意外でもないですよ」


「へえ……」


 テテュラの時だって、頑なに側を離れようとしなかったり、人の言うことを訊かず、友達のために飛び込んでしまうところとか、結構頑固なところは多い。


 だがそんな面をあまり見たことがないレオンは、


(……可愛いな)


 不覚にもときめいたという。


 ホワイトが呼び止めた理由は、この里で傷付いた龍達を癒やして欲しいとのこと。


「――でも私、治癒魔法なんて使えないよ」


「神子……じゃなかった、アイシア様は龍の魔力回路に介入できるお力があります。龍神王様の崩御によって減衰された魔力を補うことが難しく、治癒が遅れているのです」


「アイシア様が触れて、いえ、お側にいるだけでも龍達の癒しになるかと……」


 魔物であるドラゴンは、魔力を循環させることで再生能力を活性化させる。


 所謂(いわゆる)、人間がかさぶたを作ったりするあれだ。


 元々の魔力循環力が低下したため、治癒が遅れているところをアイシアに代行して欲しいとの提案だった。


 だがアイシアはその理屈を理解してるか否か、これまた自信満々にふんぞりとする。


「要するに私が側に居てあげればいいんでしょ? わかった! 任せて!」


「じゃあ私達二人で解体するけど……」


「オッケー! 任せるね」


 するとアイシアはポチと三体の擬人化龍以外を帰すと、側にはポチを入り口にはノワールを置いていくと告げる。


「何かあったら、ポチに飛び乗ってね。ポチ〜、任せるよぉ」


「ガウ!」


「ノワール君も異変があったら、先ずはすぐリュッカ達を助けに行ってね」


「承知しました、アイシア様」


「リュッカ。解体にはどれだけかかりそう?」


 ざっと龍神王の死体を眺めるリュッカ。


 死後から数日たった死体でこれほどの巨体で、作業員は二人となると、本来なら数週間はかかりそうだが、リリアのトレース・アンサーを考えると、


「早くても五、六時間は欲しい」


「そんなに早く終わるの!?」


 アイシアもリュッカの仕事場にはしばしば足を運んでいたのだ。解体がどれだけ大変なのか、どれだけかかるのか、話も訊いていたし、ある程度は理解できている。


「リリアちゃんの魔法があるから多分、それだけでいけると思う」


 本来ならレオンのためにトレースさせた解体技術だが、その技術向上のため、他の解体屋の技術もトレースしていたのだ。


 元々技術のあるリュッカがそれを帯びることで、より柔軟な解体を行うことが可能。


 しかもあくまでトレースのため、この魔法が消えても身体が覚えられると一石二鳥。


 このトレース・アンサーの利点である。


 例えばリュッカの場合、この魔法を使い、龍の騎乗を行なっていたが、魔法自体が解けると、やはり上手くはできない。


 だがやったという身体の感覚が憶えているので、素人ではなくなる程度。


 だが元々技術のある解体業から、自分よりも高い技術を持つものをトレースすれば、能力の向上は格段に上がることはわかるだろう。


 要するには完コピでき、完璧な対応ができるのは魔法がかかっている間だけだが、魔法が解けてもある程度は身体が記憶しているという、俗にいうがくしゅうそうちみたいな魔法だ。


 リュッカは技術を向上させながら、解体ができると踏んだのだ。


「わかった。じゃあ任せるね」


「うん。アイシアも気をつけて。後、被害状況もそうだけど、クルシアのことだから、何かあるかもしれない。用心してね」


「うん。わかった」


 そう言ってアイシアはこの洞窟を後にした。


 少し後ろ姿を見送ると、ぐっと腕まくりをする。


「さ、始めましょう」


「あ、ああ……指示を頼む」


 レオンはマジックロールに書かれているトレース・アンサーをかけると、リュッカの指示の元、解体を始めていく。


 先ずは処理がしやすいように、身体のパーツごとにバラしていく。


 関節の繋ぎ目あたりに体重をかけて、腕と脚を切断。さらには尻尾と首あたりを胴体と切り離す。


 切り落とすごとに血しぶきが上がり、辺りに飛び散るが、側にいるポチは身体を丸くして寝転んでいる。


 中々の堂々とした図太い性格に、ちょっとアイシアらしさがあると思うレオンであった。


 ここまででも一時間はかかった。


「――ふう。結構な力仕事だな」


「そうですけど、加える場所を見極められれば、すんなりといくものですよ」


 腕を一本切り離しているうちに、リュッカは既に脚に取り掛かっていた。


「やはり慣れだな」


「はい。慣れですね」


 何事も慣れなんだと思う反面、


「でも凄いな、お前達……」


「えっ?」


「リリア・オルヴェールは勿論、アイシアだって龍の神子だのって凄いし、お前だってこんな技術があるんだ。尊敬するよ」


 自分には無い能力に尊敬の念を抱いた。


「そんなことないですよ。私だって貴方の飛行技術、凄いって思いますよ」


「……俺のは龍に乗れるだけだ。お前達みたいに役に立てるわけじゃない」


「レオンさん……」


 改めて自分の無力さに苛立つ。


 龍操士(ドラゴンライダー)を目指したのは、大好きなドラゴン達のためにやれることがある。そのためには、共に飛ぶことから始めようと考えたのがきっかけ。


 だから自分は他の龍操士(ドラゴンライダー)を目指す奴らとは違い、誇りを持って取り組んでいるんだと考えていた。


 だが、実際は虚勢を張っていたように思う。カッコつけていただけだったように思う。


 リュッカ達を見ていると、自分が惨めに思えてならない。


 実際、龍操士(ドラゴンライダー)になった後の具体的になりたい将来像はなかったように考える。


「今回の件で嫌ってほど思い知った。どれだけ自分が(おご)っていたのかを……」


「そんなことはないです。その騎乗技術があったから、こうしていられるんですよ」


「結果だけ見ればな。だがそういう慰めをもらってる時点でダメなんだ。……正直、そう考えてても具体的にはまだ何も思いつかないが……」


 少し照れ臭そうに頭をかく。


「強くなる。俺は龍操士(ドラゴンライダー)を目指したことを誇りにできる生き方をする」


 アイシアの慈愛を与え、慕われる姿を見て、それに対し(おご)ることなく、自分らしくいられるアイシアを見て、変わらなければと決意する。


 すると、リュッカはニコッと笑い、


「はい、頑張って下さい。私達も頑張ります」


 優しく励ました。


 すると我に帰ったのか、今までの発言を恥ずかしがり、慌てふためきながら作業に戻る。


「わ、悪かったな。変な話して……」


 レオン自身、不思議と相談できる雰囲気を出していたリュッカに思わず口にしてしまったと困惑するも、


「いいえ。アイシアのことが好きなら、それくらいの意気込みはしてくれないと……」


「……!!?」


 さらに追い討ちをかける。


「なっ!? な、何を言って……」


「違うんですか?」


「…………」


 顔から火でも出したように真っ赤になりながら無言で黙り込む。


 見てわかる通りだと、クスッと笑う。


「気付いてないのは、当人くらいですよ。でもね……」


 先程の優しさのこもった言い方とは一転。圧のこもった言い方に変わる。


「シアは私にとってかけがえのない存在なの。生半可な男の子が相手なんて、私……絶対許さないから」


 顔は笑顔だが、今の自分では全然相応しくないという圧を感じる。


「あ、ああ……わかった」


 この後は重苦しくなった空気の中、黙々と解体作業が進んでいったことは言うまでもなく、バラバラになっていく肉塊を見ながら、先程の怖いリュッカが頭に巡っていたレオンが胃を痛めたことは、正に予想通りだったという。


 ***


 そんな洞窟内が重苦しくなっている一方で、アイシアは里の巡回を行なっていた。


 ここはさすがに龍達が住んでいたこともあり、移動は簡単に進む。


 それにホワイト達もいるのだ。万が一、崖から落ちそうになっても問題はない。


「もう大丈夫だよー」


 そう励ましながら、一人ひとりに寄り添っていく。


 ドラゴン達の表情も落ち着いていくのが目に見えて、アイシアも嬉しそうに笑う。


「それにしても……」


 歩けば歩くほど、とんでもない戦いを繰り広げていたことを思い知る。


 ラバでの半壊も目にしているアイシアからすれば、この惨状にも納得がいくのだが、やはり悲しい気持ちにはなる。


「何とかならないのかなぁ……」


 そんな落ち込んでいると、側にいたドラゴンがクリッとした目で見つめながら、スリスリと慰めてくる。


「あはは! 大丈夫だよ。ごめんね」


 そんな風にじゃれあっていると、一匹の龍が恐る恐る近付いてきた。


「……? どうしたの?」


 特に怪我を負った様子はないが、酷く怯えた様子にゆっくりと尋ねた。


 すると見かねたホワイトがその龍に近付き、事情を尋ねると、グルグルと喉を鳴らしてホワイトと会話する。


 そして――、


「アイシア様、これを……」


「?」


 暗く影を落とすような表情を浮かべて渡されたのは、魔石だった。


「これは……まさか!? 誰か死んじゃったの!?」


 龍神王以外の龍が亡くなったのかと、慌てふためくも首を横に振り否定すると、より最悪の答えが返ってくる。


「それは人工魔石……記憶石だそうです」


「!!」


 人工魔石と呼ばれるはずの記憶石がこんなところにあるわけがない。


 だとすれば答えは一つしかなかった。


「この子は、細目の男に……渡せと言われたそうです」

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