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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
7章 グリンフィール平原 〜原初の魔人と星降る天空の城〜
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07 ドゥムトゥス

 

 ――ドゥムトゥス。


 東大陸に(そび)え立つアルミリア山脈に燐している国。


 そこで生息しているドラゴン達と共に生活を寄せるという、西大陸の帝都ナジルスタのような習慣のある国。


 この二つの国の違いは、なんといってもドラゴンの質。


 西大陸は元々山脈地帯には魔力が色濃いが、地表に近ければ近いほど魔力が薄れている。それが魔物が強くなる理由である。


 だが東大陸は魔脈の伸びが地表にも広がっている影響か、西ほどの魔力の濃さがないことから、強さの伸びしろは低い。


 だが珍しいドラゴンと共存する国として栄えている。


「おおっ! ドゥムトゥスに到着だぁ!」


「だね〜」


 本来であれば登山するか、アルミリア山脈に作られた坑道を進んでこなければ行けない国なのだが、ドラゴンに乗ればひとっ飛びである。


 いくら同じ東大陸でハーメルトとも交流のある国とはいえ、呆れ果てるほどすんなりと到着したことに、中々拍子抜けである。


 町並みとしてはナジルスタとは違い、国を囲う壁がない影響か物々しさはない。


 むしろ華やかな町並みに少し驚いている。


「ドラゴンと共存という割には……」


「綺麗だよね! ここは花の町としても有名なの」


「そうなんだ……」


 アルミリア山脈と言っても、ハーメルト側とドゥムトゥス側では気候も特色も違う。


 ハーメルト側は険しいルートで、迷宮(ダンジョン)が多いことから、魔脈も荒々しいことから寒さが際立つ地帯となっているのに対し、ドゥムトゥス側は魔力の流れが温和なせいか、山間では雨が多い。


 そのアルミリアから流れ、溶け出す水を含んだ土は非常に優秀な肥料として用いられるし、その水自体も栄養価が高い。


 そのことから植物に関しても精通している国なのだ。


 ハーメルトとドゥムトゥスの開拓違いが生んだ特色である。


 これを町の人間に訊いたのだが、昔はハーメルトも結構やんちゃしてたんだと印象付く。


「――さて色々探索したのだが、ここはどこだ?」


 色とりどりの花道を歩くのは、元男の俺でも中々楽しかったのだが、目的も忘れ、探索したツケがこれだ。


「さあ?」


「さあって……」


 アイシアもテンション高く、駆け出すものだから、完全に迷子である。


「ヤキンさんは騎乗訓練指導者だって言うし、学校にでも行けば……」


「その学校はどこ?」


「……そ、それならギルドに……」


「ギルドはどこ?」


「……」


 ギルドも学校も似たような建物なのだろうか。どれも同じように見えてきた。


「ああっん、もう! 完全に迷子だよ!」


「だね〜」


「だねじゃない!」


 やはりリュッカは連れてくるべきでした。


 アイシアの暴走を止められるのは、やはり一番付き合いの長いリュッカにしてもらうべきだった。


「……まあ、悩んでてもしょうがない。その辺の商店の人にでも訊こう」


「あそこのパン屋さんとかいいんじゃない? 可愛い外観!」


「――言っとくけど、道訊くだけだからね!」


「ええー……」


 何だかんだ、俺とアイシアのデートは続くようで、目についたパン屋へと入っていく。


「いらっしゃいませ」


 チリリンと小気味の良い鈴の音がなり、ふわっとパン特有の鼻をくすぐる匂いが吹き抜ける。


 この世界に来て、パンを食す機会はあったが、焼き立てを食べる機会はなかったかもしれない。


 まあこの世界は日本ほど、食文化が整ってるわけでもなければ、多人種が行き交う世界だ。


 食文化の向上は、まあ難しいのが現実。


「おおー……」


 焼き立てパンが木の枠の中に入れられており、種類も豊富で、中々目移りする光景が広がる。


「どれにしよっかなぁ……」


「アイシア、目的を忘れないでね」


「……」


「なに?」


「そう言いながらちゃっかり取る気満々じゃない?」


 俺はトングとおぼんを自然と手に持っていた。


「う、うぐっ!?」


 この匂いと懐かしい習慣に誘われてつい手に取ってしまった。


 いや、パン屋に来たら自然と軽食のつもりで手に取らない? ねえ?


「ま、まあ腹ごしらえも大切だよ」


 もう昼過ぎなのでと誤魔化すが、そんな俺の照れ隠しなど気にせず、パンを選び始める。


「ねえねえ、あのパン取って」


「……はいはい」


 一人言い訳をしていたのが恥ずかしくなったが、気にしていないのならまあいい。


「しかし、どうしてだ? 王都にもないではないけど、ここまでは……」


「それは麦が沢山取れるからですよ、可愛いお嬢さん方」


「「!」」


 歯の浮いた発言が背後から聴こえたので振り返ると、ウインクを決めるチャラ男がいた。


「「……誰?」」


 俺達は揃って首を傾げると、コテンとチャラ男もこけた。


「バーツだよ! バーツ! ほら、建国祭の前にあっただろ?」


「覚えて――」


「ああっ! 思い出した! レオン君のお友達!」


 アイシアは本当に忘れていたようだ。


「リリアちゃんは覚えててくれたんだね?」


「いや、私も今思い出した」


 バーツの都合の良い風にならないためにも、ここはと思ったが、


「覚えてるって言いかけたでしょ? 嬉しいなぁ」


 やっぱりこの手の男は苦手だ。


 だがここでコイツに会えたのは、不本意だが都合が良い。


「でも丁度いいところであったよ。訊きたいことがあるんだけど……」


「いいよいいよ、何でも訊いて。何が訊きたい?」


「ヤキンさんに会いたいんだけど、どこに行けばいいの?」


「オッケー! オッケー! 案内するよ」


「いや、場所だけ教えて」


 案内するとか言いながら、ホイホイっとお茶に連れて行かれたりしたら堪らない。


 こちとら土地勘がないのだ。ペースを握らせるわけにはいかない。


「えー! 俺、ヤキン先生の生徒だぜ。案内くらいするよ」


「そうだよ、リリィ。人の好意を無駄にしちゃダメだよ」


「親切心という好意だけならね」


「やだなぁ。親切心しかないよぉ〜。あっ! それとも期待してくれてる?」


「ほら」


 こんなヘラッとした言い分で、そんな質問が飛んで来るあたり、下心が見え見えだ。


 女になって男のわかりやすさってのを本当に理解したと思う。


 そういう好意の視線って結構わかりやすい。


「冗談だって、冗談。ちゃんと案内するよ。ささっ……」


 とりあえずパンを購入して外へ出ると、下心ありありの男にある書状を見せる。


「これは……?」


「ハーメルト殿下からの協力要請の書状かな?」


 中身は見てないが、渡せば協力してくれるだろうと言って手渡された物。


「私達は殿下の(めい)でここに来てる。余所見せず、案内してくれるんだよね?」


「も、勿論さ! は、ははは……」


 やっぱりどっかに連れ込む気だったな。


 一応の警戒はしつつ、バーツの案内を受けた。


「しかしリリアちゃん達、そんな重要な物まで渡されてここまで来たのかい?」


「まあ用件は国同士の話し合いとかではないからね。そんな話だったら、普通に外交官とかが来るでしょ?」


「まあ……確かに」


 ならば余計にわからないと首を傾げるが、バーツがアイシアに同行することは避けたいので、余計なことは喋らない。


 それにあんまり龍神王の死をペラペラ喋る訳にもいかないし。


 バーツの口説き文句が炸裂しながらの道中、俺はスルーを決め込みながらも、アイシアとは盛り上がりを見せる中、障害物が多々ある大きな広場と教育学校らしき建物へとたどり着く。


 まるで競馬場みたいだ。


「ここが……?」


「そう! 俺達の学び舎、龍操士教育学園だ」


「ほー……」


 確かに龍が飛び回るには、広々とした空間である。


 所々に大きく長い柱があり、操縦技術を身につけるための障害がちらほらと立てられている。


 そんな優遇された土地を見ながら、校舎へと向かった。


「今日は休みだが、何人か先生がいるはずだ。ヤキン先生、いるといいけど……」


 バーツは職員室だろうか、部屋を軽く覗いたまま、部屋内にいる人と会話しているようだ。


「――悪いな。ヤキン先生はいないが、学園長先生ならいるみたいだ。そっちの方がいいだろ?」


「そうだね。先生が案内してくれるの?」


「いや、俺が案内するって言った!」


 少しでも美少女二人といたいようだ。連れ回すことができないせめてもの抵抗だろう――。


「――これは良く来てくれたね。君の噂は訊いている」


「どうも……」


 バーツの案内の元、学園長とご対面。握手を交わして挨拶する。


 学園長という割には、見た目がかなり若い。


 ガッツリとした筋肉体型の硬派そうな顔立ちの男性。龍操士(ドラゴンライダー)の学園長と言われれば、まあ納得の体型。


「私はここ龍操士教育学園の学園長を務める、ダイア・ガイだ。よろしく頼む。黒炎の魔術師、リリア・オルヴェールとそのご友人」


「は、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


「私はアイシア・マルキスです。よろしくお願いします」


 ちょっとお堅い挨拶を済ませると、早々に用件を語るため、先ずは預かってきた書状を渡す。


「ふむ……」


「私達は優秀な龍操士(ドラゴンライダー)を探しにここまで来ました。殿下の書状にもそう書かれていませんか?」


「うむ、書かれているな。ヤキン当てになっているな」


 殿下自身も極力、龍神王が亡くなったことを知る人間は少ない方が良いと判断し、面識があり、優秀なヤキンに秘密裏にお願いするつもりだったのだろう。


 だがその上司である学園長ならば事情を知っておくことはやぶさかではないだろう。


「詳しい事情は君らに尋ねよと書かれているが、私に話せる内容か? ヤキンの方が良いなら、呼びつけるが……」


「いえ、殿下はおそらく事情を知る人間が少ない方がいいとの判断で、面識があるヤキンさん当てにされただけかと。学園長が無闇に口外されず、協力して頂ければ問題ありません」


 勿論、約束しようと答えたダイアに理由を説明した。


「――なんとも信じ難い話だ」


 そう口にするもわざわざ殿下の書状を持って、外交官でも騎士でもない、黒炎の魔術師なのだ。


 龍神王の死、そこから発生している事件の数々、龍の神子などと大それた話にも説得力がある。


 疑っている様子でないため、用件を話す。


「その出来事を踏まえて、今人材を集めていまして、優秀な龍操士(ドラゴンライダー)をアイシアに同行させたく……」


「なるほど、だからヤキンか……」


 ダイアはヤキンに出張させていたため、これでヤキンの名前があることに納得すると、


「わかった。そのような話なら事態は急を要するだろう。すぐに呼び集めよう」


「あ、ありがとうございます!」


 そう言うと、一時間も掛からないうちに数十人の龍操士(ドラゴンライダー)が集まった――。


「皆、聞いて欲しい。ハーメルトから秘密裏に要請があった。内容は受けてくれる者だけに話さねばならないほどのことだ。覚悟のある者だけ受けて欲しい」


 ダイアは書状があるとはいえ、初対面の俺達の話をしっかりと信じてくれつつ、配慮までしてくれている。


 伊達にこれだけの人を集められる器量の持ち主ではない。


 その意味深な発言に騒つく一同の中には、ヤキンとレオンもいて、


「久しぶりだね。元気にしてたかい?」


「はい! お久しぶりです、ヤキンさん」


「ハーメルトからってことは、お前達が関係しているのか?」


「まあね」


 やはりこの二人も選ばれたんだなと感心していると、ダイアが尋ねてくる。


「これだけ集めたが、条件の合う龍操士(ドラゴンライダー)はいないな」


「やっぱりそうですよね」


「あと、これだけ集めておいて難だが、人数は最低限の方がいいだろう。こちらで選別しても構わないが……」


 ホワイト達も人間が立ち入るはずのない場所を大勢に来られても、不快に思うだろう。


「アイシア。ホワイトを召喚できる?」


「いいけど、何で?」


「いや、ホワイト達からすれば、龍の神子であるアイシア以外には来て欲しくないところ、こうして同行者を探しに来たんだ。意見を聞かないと……」


「そうだね。――召喚(サモン)!」


 アイシアはホワイトだけで良かったものの、三体とも召喚した。


 するとヤキン達を含めた龍操士(ドラゴンライダー)達は驚愕する。


「お、お前……三体も同時に……」


「……」


 さらに三体は擬人化し、跪く。


「お呼びでしょうか? 神子様」


 目まぐるしいほど驚愕する状況に、さっきの騒つきが嘘のように静まり返る。


「うん。私と一緒に来てくれる龍操士(ドラゴンライダー)をこの中から選びたいんだけど……」


 目的をある程度知っていたホワイトは、流すように集まった龍操士(ドラゴンライダー)を見ると、ため息混じりに意見する。


「恐れながら神子様。ここにいる者達では同行は難しいかと……」


「えっ!?」


「ドラゴンと人間の魔力との相性を見る限りでは、我らが里に着く前に脱落するかと……」


 そのホワイトの意見に騒つく一同は、「舐めるな」「俺達の技量も知らないで」などと野次を投げる者が現れると、


(おご)るな人間、控えよ。神子様と同行する者を選ぶのに力不足だと言っている。これはお前達のためにも言っていることだ」


 高圧的に威圧するホワイトに、黙り込んだ一同。


 代表するようにダイアが謝罪する。


「すまなかった。だが、我々も努力していることだ。理解して欲しい」


 まあホワイトも侮辱にも聞こえた発言をするのが悪いのだが、神子様優先のこのドラゴン。


「結果が伴わなければ意味もないのだろう? 人間はそれを優先するのでは?」


 そう言われると、何とも言えない。


 人間は良くも悪くも結果主義なところがあるからな。痛いところを突いてくる。


 にしても龍神王のように清らかな魔力を持ち、研鑽(けんさん)してきたであろうはずのホワイトの性格だけ、ちょっとアイシアに固執している気がする。


 ノワールとエメラルドは大人しいのに。


 ノワールに至っては黒龍だと聞いているから、荒い性格だと思っていたが、聖龍の方が信仰心が強いのだろうか。


「だったら実際、飛んでもらったら? 結果で示してもらおうよ」


「おっ! それいいね。どう? ホワイト」


「……わたくしは神子様だけで良いと思うのですが……」


「龍神王を弔うためだよ。同行者は必要だよ」


「……わかりました」


 その話を訊いていたダイアが提案する。


「ならばここでレースをするのはどうだろう?」


 ダイアはこの広場を回り、技量を披露しようと考えたのだ。


 その意見には賛同する龍操士(ドラゴンライダー)達。


 さらにそこからホワイトからも提案する。


「ならばそのお相手は――」


「飛行技術を競い、定めるなら僕がいいね」


「へ?」


「神子様、わたくしの背に乗り、共に空を駆けて下さい」


「おおっ! 楽しそう! よろしくね、エメラルドちゃん!」


 ここまで挑発したのだから、ホワイトが来るものかと思ったが、エメラルドが良かれと思って名乗りを上げた。


 きゃいきゃいと盛り上がるアイシアを見て、ホワイトは愕然とする。


「そ、そんなぁ……」


 やり場のないように手を伸ばすホワイトに、俺は肩を叩く。


「ドンマイ」


「う、煩い!」


 俺の手を振り払うホワイトだが、ここでふと疑問が。


「あのさ。アイシアってやっぱり龍の騎乗は上手いの? それも龍神王の力ってやつ?」


 アイシアの力の根源が龍の涙による覚醒なのか、それともそれありきなのか尋ねたいところ。


 まあその片鱗はいくつか思い返せばあるのだが、言葉にして聞きたいものだ。


 こうして贔屓(ひいき)目とはいえ、アイシアの力を正しく理解できる奴がいるのだから。


「私も詳しくは知らないが、龍神王様のお話からすれば、才能だ。純粋に我々との相性が桁違いなのだ。何というかこう……神子様とお側にいることは暖かく感じるものなのだ……」


 それに加えて龍神王との契約とのこと。


 確かにエメラルドほどの風龍に乗っても、力場の安定感、操縦能力、エメラルドとの阿吽の呼吸、初めて騎乗するとは思えない技量を見せていた。


 このレース、選抜として行われるが、アイシアの力量を見る意味でも、純粋にドラゴンのレースが観られるという意味でも楽しみである。

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