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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
7章 グリンフィール平原 〜原初の魔人と星降る天空の城〜
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05 龍の神子の証

 

 俺達は聖龍(ホーリー・ドラゴン)達から更に詳しい話を尋ねた。


 今、西大陸で起きている一連のドラゴンの襲撃事件や魔物の凶暴化は龍神王がいなくなったことに要因がある。


 龍神王から中和される膨大な魔力によってバランスが保たれていたのだが、それが無くなり、本来供給されるはずの魔力量が足りなかったことなどにより、魔物達は獲物を求めるように凶暴化。


 暴走するドラゴンに関しては、それに加えて龍神王という絶対的な存在がいなくなったことへの不安や恐怖から来る行動が多いようだ。


「――なるほど。一連の事件はやはり龍神王が影響していたか……」


「そうしてその元凶が奴ら……」


「ねえ。龍神王を私に供養して欲しいってことだけど、死体はそのままなの?」


「勿論、人目には付きにくい場所まで移動はしていますが……そもそも死体の処理など……」


 魔物は基本、不老だ。


 このドラゴン達のように暮らしていれば、同族の死体を扱う機会はないだろう。


 しかも魔物の種類にもよるが、大体は死体が残ってしまう。そういう意味ではこのドラゴン達が困惑してしまうことにも更に納得がいく。


 今まで生きて、自分達の誇りとして前に立ち続けた人が、力無く倒れている姿には衝撃を受けたことだろう。


「その死体がちゃんと処理されて、アイシアのことを認める形を取れれば、今回の事態も落ち着くのかな?」


「おそらくな。ここに龍神王の側近と(おぼ)しきドラゴンが三体もいるのだ。示しはつくだろう」


「うーん、わかった! 西大陸のみんなのためにも、この子達のためにも、何よりクルシア達の思い通りにはさせない!」


 そう強く意気込んでくれることにドラゴン達は尊敬の眼差しを向けるが、当人以外は複雑な表情をする。


「とはいえ、アイシア一人で行かせるわけには……」


「うん。それに龍神王の死体の処理となると、リュッカ以上の技術がいるよね?」


「なんかこう……ゴオオーって燃やす感じじゃないの?」


 火葬のことを言ってるのかな?


「いや、多分無理だと思うよ、シア。ドラゴンの鱗は熱には強いし、燃えにくい。ドラゴンはシアが思っているより丈夫で扱いが難しいの」


 何でもリュッカの父でも苦戦するという。


 というのもドラゴン自体、出回ることがほとんどなく、解体を行なえる技術を知っていたところで、その経験が少ないのが実情。


 ハイドラスやサニラ達の方も知っている解体屋は、その技術を知っているだけで、解体となると数えられるほどがほとんどどという。


 それなのにドラゴンの最高峰である龍神王の死体の解体処理など、酷いプレッシャーとなる。


 この慕うドラゴン達に見守られながら、雑に首と魔石を取り出された死体を綺麗に処理する……考えただけでも冷や汗が止まらない。


 俺に関しては内臓の生々しさから無理なのに、そんなプレッシャーまで与えられた日には、頭痛を(わずら)い、寝込みそうだ。


「え? でも私達が出会った龍神王は、人の姿をしていたけど……」


「あのさ、アイシア……」


 俺はこの擬人化したドラゴン達に視線を送ると、


「あっ……」


 気付いてくれたようで何より。


 あくまで俺達に見せていたあの姿は擬人化したもの。


 バザガジールとの死闘を考えると人型ではなく、本来の姿の方が戦いやすいだろう。


「その解体に関しては、アイシアは見守るという形でいいだろう。職人の手配は西大陸のものか或いはドゥムトゥスのものに依頼するかだな」


「神子らしく祈りを捧げるみたいな?」


「うーん……わかった」


 ドラゴンの解体ならハイドラスの言う通り、ドラゴンの生息地となっている西大陸の人間の方が熟練されているだろう。


 後はこちら東大陸の中で、唯一龍操士(ドラゴンライダー)の教育を行なっているところなら、ドラゴンの生態にも詳しいだろう。


「問題は同行者だな」


「えっ? 勿論、私達――」


「オルヴェール。貴様、まだ反省しとらんのか!?」


「ひっ!?」


「いいか? 確かに五星教やナジルスタ内部の人間に闇属性持ちの緩和は出来たかもしれないが、西大陸全体ではまだまだなんだぞ。運が良かっただけだと言わなかったか?」


 物凄い圧力のかかった説教モードにたじろぐ。


「と言っても貴様のことだ、どうせ黙っていく可能性がある。だから、ハーディス……」


「は!」


「お前はこの女を見張れ。いいな?」


「わかりました」


「ちょっと殿下!? どうして俺じゃないんです?」


「……貴方の胸に聞いてみては?」


 確かにウィルクなら、あざとく色目を使っても協力してくれそうだが、ハーディスは殿下一筋だからなぁ。


「おい。出し抜く気満々の顔してないか?」


「そ、そんなことありませんよ!? ちゃんと反省してますって……」


「……悪いがナチュタルもこの女から目を離さぬよう、お願いしたい」


「全然信用してないじゃないですかぁ!?」


「――信用してほしいなら、誠意をちゃんと示してからにしろ!」


 そう反論してる時点でと痛いところを突かれた。


 反省はしているし、迷惑をかけたくもないが、心配なものは心配である。


 何せ、天然なアイシアとこのドラゴン達だ。


 強いはずのドラゴン達もすっかりアイシアを信用しているようだし、クルシア達は勿論だが、下手な奴隷商なんかの口車に乗ったらと考えると、ゾッとしない。


 世間知らずが襲って下さいと名乗りを上げているようなものである。


「わ、私は着いていきたいんですけど……」


「まあお前はマルキスと幼馴染だろうし、解体屋を継ぐ者としては、是非と思うだろう。これほど心強い者もいないが、こっちの方が別の意味で心配でな」


 ギッと睨みつけられると、リュッカは苦笑いを浮かべ、それ以上は何も言わなかった。


「なら殿下。私達が同行しましょうか?」


 サニラがそう提案すると、聖龍からあることを告げられる。


「そもそも私達に乗れるのか? 龍神王様が眠る我らが故郷は、荒々しい風の中、険しい渓谷を抜けることになる。後ろに相席などできないぞ」


 アイシア以外には中々キツい口調を放つ。


 インフェルといい、主人以外には気難しい反応を見せるんだな。


「つまりはドラゴンに乗り慣れている者でなければ、同行は難しいと……?」


「そうだ、人間」


 ハイドラスですら説明してないとはいえ、人間という(くく)りで呼んでいる。


「となると殿下。解体ができる者も龍操士(ドラゴンライダー)でなければ……」


「うーむ……」


 そういう話となると人選はかなり限定される。


 確かにドラゴンが解体できるとなると、ドラゴンの扱いに長けていると捉えられもするが、解体屋と龍操士(ドラゴンライダー)はどう考えたってジャンルが違う。


「ジード殿。冒険者の中に適合する方を最低一人、探してみてもらえませんか? ハーディス、お前も当たってくれ」


 心当たりが思い付かないと思いながらも、殿下の頼みとあらばと了承した。


「殿下。解体ができて龍操士(ドラゴンライダー)ができる人選、ヤキンさん達なら知ってますかね?」


「……ドゥムトゥスか。そうだな。龍操士(ドラゴンライダー)の確保もそちらの方が良いか……」


 当てが少ない西大陸より、交友関係にあるドゥムトゥスの方がいいだろう。


 話がある程度まとまったところで、アイシアはドラゴン達に呼びかける。


「みんな安心して。準備まで少しかかるけど、必ず龍神王を(とむら)ってあげるから、今日のところは帰ってくれるかな?」


 それを訊いたドラゴン達は狼狽(うろた)え始める。


「み、神子様? やはり我々は力不足ですか?」


「は? そ、そんなことないでしょ? ドラゴンだもん」


「あ、あの……我々とも契約を行なってはもらえないのですか?」


「! 契約って、召喚の?」


「はい!」


 聖龍達が言うには、召喚契約込みでの話だったようだ。


 確かに導いて欲しいと言っていたのだ。そういう解釈をするべきだったのであろう。


「待て待て。これだけのドラゴンと召喚契約を結ばせるつもりか? マルキスの体力も魔力も持たんぞ」


 召喚契約とひと口に言っても、そう簡単な話ではない。


 確かに召喚士(サモナー)に限らず、契約できる魔物には上限は存在しない。


 だが召喚し使役できる数やこれだけの魔物に連続で召喚契約を施すのには、負担がのしかかる。


 使役する魔物が多かったり、強かったりすると維持するための魔力消費は非常に多い。


 連続で契約魔法を施すのも同じ理由だ。


 アイシアは確かにメキメキと成長してはいるが、これだけの最強種のドラゴン達を契約するとなると、かなり危険な状態にもなりかねない。


「うーん、一日一匹ずつとか……?」


「時間がかかり過ぎじゃないかな?」


 ざっと見積もっても三十はいる。時間もかかるし、負担も大きい。


 すると聖龍が心配は要らないと理由を説明する。


「ご安心下さい。神子様は龍神王様と魂の契約をされているお方。我々との契約にデメリットはありません」


「そーなの?」


「はい!」


 ちょっと都合よくも思ったが、これが通ればアイシアが龍の神子の子孫かもはっきりする。


 アイシアはドラゴン達を信じ、召喚契約に使う魔法陣をドラゴン達に展開する。


 俺達が何の確証もないのに、危険過ぎると言うが、


「大丈夫だよ。この子達を信じてあげなくちゃ……」


 アイシアのその母性溢れる言葉に、感銘を受けたのか、神託でも受けるように跪く。


 本当にアイシアのことを神子だと認めているんだと、感心する光景であった。


 そのアイシアも期待に応えるように、ポチの爪や牙で作られた杖を地面に突き立て、魔力を流す。


 すると、アイシアの右手の甲にどんどんと赤い筋のような契約の証が模様を描くように追加されていく。


 その魔法陣も暖かく光を放ち続け、アイシアの魔力にも穏やかな流れを感じていた。


 そして契約が済んだのかアイシアは、緊張の糸が途切れたように一息吐いた。


「大丈夫、シア?」


「無理してない?」


「ありがと、二人とも。私は大丈夫だよ」


 そう笑顔で受け答えするアイシアだが、その様子に驚きを隠せないでいる目撃(ハイドラス)達。


 最強種であるドラゴンをこんな短時間で、契約してのけていることには、歴史上初である。


 アイシアの右手の甲を見ても、それは一目瞭然だった。


「それにしても本当に契約できるなんて……」


 そう言いながら右手の甲にある赤い契約の証を眺める。


 それは猛々しい炎のような紋章であった。


「マルキス。どうやらお前は本当に龍の神子の子孫のようだな」


「うーん、イマイチ実感がないなぁ」


 どれだけ凄いことをしたのか、ピンとはこないアイシア。


 らしいと言えばらしいが、せめて状況を理解して欲しい。


 すると擬人化しているドラゴン三体だけが残った。


「神子様。これから我らは神子様のお力になるべく、戦います。ですから名をお与え下さい」


 インフェルの時もそうだったが、やはり強い魔物となると、名がある方が浸透性がいいのだろう。


 それにこの三体は契約したドラゴン達を束ねる存在になるはずだ。


 ここでしっかりとした上下関係を築き上げることは、重要なことだろう。


 するとアイシアは腕を組んで悩みながら、とんでもない発言をする。


「うーん。ポチみたいな可愛い名前がいいなぁ」


「――絶対ダメ!!」


「えっ!? 何で!?」


「ポチはその時、子龍だったから良かったけど、この子らは明らかに違うでしょ!?」


 すると小首を傾げられた。


「大きくても可愛い名前じゃダメなの?」


 若い女の子はみんな可愛い名前を付けたがるものなのだろうか。


 明らかにこの三体は古株の魔物だ。


 いくら不老とはいえ、もう少し威厳のある名前か、無難な名前がいいだろうに。


「ちなみに訊くんだけど、貴方達って魔人に近い存在なの?」


 擬人化してはいるが、所々に龍種と思われる身体の部位がはみ出ている。


 龍神王はなかったことから、魔人ではないはずだが。


「そうだ。私達三人は魔人に近い存在である」


「や、やっぱり……」


「おおっ! 凄いね! リリィのインフェルとおんなじだ」


「お褒めに預かり恐縮です、神子様」


 その神子様が妙な名前をつけようとしてますよ!


 なので無難案を提案する。


「ねえねえ、アイシア。わかりやすいように、色とかその印象での名前にしたら?」


「色か……」


 聖龍は白。黒龍は黒。風龍は翠の鱗で覆われている。


「ねえ、またリリィが決めてよ」


「……そんな責任重大なことを。それにこの子達はアイシアにつけて欲しいんじゃないの?」


「だってポチって名前も私良いって思ったんだもん。大丈夫!」


 何が大丈夫なんだか。最初からそんな気概で任されるなら、ポチにももっとマシな名前をつけたよ。


 アイシアが納得しつつ、コイツらの尊厳が穢されない程度の名前となると……、


「ホワイト、ノワール、エメラルドかな?」


 聖龍に関しては擬人化した姿が白髪の幼女だし、柔らかい印象を与えるホワイトが無難。


 黒龍に関しては、ブラックと付けるにはちょっとゴリマッチョに過ぎる。ノワールも確か黒って意味だった気がするし、強面のこの擬人化姿には合ってると思う。


 風龍に関しては、こちらは相対した細マッチョに少し気弱さのある擬人化姿だが、何より眼の色が印象的だ。


 それに龍の時の色合いが艶やかだった印象も強い。


 まるでエメラルドを敷き詰めたような鱗からそう命名。グリーンじゃなんか語呂が悪いし。


 迷った時は、見た目の印象から色の名前を付ける方法は中々便利である。


 さて、アイシアの反応は……?


「うん! いいよ! ホワイトちゃんにノワール君にエメラルドちゃん!」


「ちゃんって……彼は男の子だよ?」


「……何となく?」


 名前を呼び、ぴょんぴょんと飛び跳ねるあたり、まあ気に入ってくれたなら良しとしよう。


 ドラゴン達も主人がこの反応なので、俺が付けた名前ではあるが、納得した様子。


「わかりました。ではわたくしがホワイト」


「わたくしはノワール」


「わたくしめはエメラルドで御座いますね?」


「うん! みんなよろしく!」


 アイシアはいつものハグを求めると、ドラゴン達は恐れ多いと動揺する。


「アイシア。ポチも挨拶させないと……」


「あっ、そうだね。――召喚(サモン)!」


 三人を前にポチを召喚すると、感心してポチを見上げる。


「この子はポチ! 私の初めてのパートナーだよ」


「ガアウ!」


 和気あいあいと話が進むが、ハイドラスはとても深刻な表情をしたままであった。


「……龍神王が殺されたってことは、次もあるよね?」


「ああ、だろうな。西大陸の事態も終息させたいが、南だったか?」


 ザーディアスは確かに西と南と言っていたことから、こくりと頷く。


「獣神王と妖精王。エルフならば知っているか……オルヴェール」


「はい」


「ドゥムトゥスでアイシアと同行する龍操士(ドラゴンライダー)を探しに行くのだろう?」


「許可してくれるんですか?」


「それはな。道中、お前達の故郷も通るだろう。マルキスの家で保護しているエルフを連れて来れないか?」


 ドゥムトゥスはアルミリア山脈の向こう側にあるから、行きも帰りも通るだろう。


 妹のナディは大丈夫だろうが、兄のシェイゾはどうだろう。


「わかりました。出来れば早急に、が望ましいですよね?」


「ああ。奴らは行動が早いからな」


 そう言うとハイドラスはアイシア達の元へと歩き、俺とリュッカを引き連れて明日にでもドゥムトゥスへ向かえと命じられる。


 ドゥムトゥスまではドラゴンに乗っていけば、直ぐにでも着ける場所なので、ちょっとした日帰り旅行になりそうだ。


 ***


 ハーメルトに訪れる龍は終息したが、この根底の問題は片付いていない。


 ハイドラスの指揮の元、フェルサを含めた冒険者組とハーディス達は龍操士(ドラゴンライダー)兼解体屋を探す。


 カルディナとナタル、ギルヴァとアリアは再び西へ。とりあえず状況を見て来て欲しいとのこと。


 ギルヴァも西大陸での人脈を使えば、情報収集も容易いとのこと。


 俺達は、アイシアと同行する険しい渓谷を飛んでいけるベテランの龍操士(ドラゴンライダー)を探しにドゥムトゥスへ。


「ええ〜〜っ!! また旅行?」


「旅行じゃなくて任務。ドラゴンの群れが出たって知ってるでしょ?」


「むう〜」


 授業をサボって旅行だなんて羨ましいと、ブスっとした顔をするユーカとタールニアナ。


 今回はお願いではなく命令になってるから、下手なことはできない。


 徹底されてるなぁ。


「予定としては先ず、私達の村だよね?」


「うん。あの二人に事情を話してハーメルトに向かってもらうことと、リュッカのお父さんにも条件が合う解体屋がいないか訊いてみよう」


 シェイゾとナディには事情を話し、転移石を渡すつもりだ。これなら時間の短縮になる。


 リュッカの父も個人経営していることから、王家や冒険者も知らないような人が見つかるかもしれない。


「気をつけて行って来なさいな」


「ナタルもね。魔物が凶暴化してるって話だから……」


「ええ。十分に……」


「よし! だったらパッと行っちゃうよぉ。――召喚(サモン)!」


 召喚したのはエメラルドだった。とても嬉しそうなのが、眼の色からわかる。


「早速お呼び出しですか?」


「嫌だった?」


「滅相もない! ささっ、お乗り下さい」


 エメラルドはあっさりと背中を差し出す。


「エメラルドちゃん。三人乗りでも大丈夫?」


「勿論です。神子様のご友人とあらば、どうぞお乗り下さい」


 このドラゴン達はアイシアにちょっと心酔し過ぎじゃないか?


 ちょっと心配になりつつも俺達はエメラルドの背に乗った。


 ポチとはまた違う乗り心地。


 元々の種類が違うせいもあるだろうが、エメラルドの方が鱗が滑らかで、ちょっと落ちるのではないかと心配になる。


「そういえばさ、エメラルド君は人乗せるの初めてじゃないの?」


「はい。そうですが、何か?」


 俺とリュッカ、それを訊いたナタルも不安そうな顔をする。


「大丈夫だよ。二人は私にしっかり掴まってれば問題なし!」


「――その根拠の無い自信は余計に不安を(あお)ってるよ!!」


「よし! じゃあ行こうか、エメラルドちゃん!」


「はい! 神子様!」


「いや、人の――」


 エメラルドは強く羽ばたくと、ギュンと真っ直ぐに上空へと飛んだ。


 下では見送ってくれた寮のみんなが吹き飛ばされそうになっている。


「「「「きゃああーーっ!?」」」」


 かく言う私とリュッカも何が起きたのかわからずに、既に空の上である。


「――おおう!?」


「おおっ!! 凄いね!」


「お褒めに預かり光栄です」


「じゃあ私達の村は向こうだよ! レッツゴー!!」


「ア、アイシア。ちょっ――」


 止める間もなく、強く羽ばたき、前進するエメラルドは正に疾風の如く。


 風龍の名に相応しい飛びっぷりを披露する。


「やっほぉーっ!!」


 俺達は早すぎてしがみつくのが精一杯だった。


 そのあっという間に飛び去った姿を視認したナタルは、


「……あの二人、大丈夫かしら」


 本来、自分の方が危険度のある場所に向かうはずだが、あれだけの速度で飛ぶ風龍を見ると、そう呟かざるを得なかった。

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