04 ドラゴン達の凱旋
「――きゃああああっ!!」
とある西大陸の町は火の海へと染まっている。
住民は騎士や衛士達の指示に従い、悲鳴を上げながらも避難している。
「てめぇら! さっさと避難しやがれ!」
「あのリンス様? 命令口調で避難指示しないで下さいっス」
「うるせぇ! んなこと言ってる場合か!?」
複数匹の龍種が町を襲撃。リンス達が部隊を率いて討伐に当たっているのだ。
襲っているのはワイバーン。
龍種の中では弱い部類に属するが、群れで行動する分、単体のドラゴンより厄介な魔物。
しかも普通の龍種とは違い、理性的ではなく本能的な部分が濃いことから、気性も荒い。
「なろぉっ!」
数匹掛かりでかかって来るので、こちらも複数人で相手しているのだが、リンスは大剣での一凪で一斉に斬り裂く。
「はっ! 雑魚が!」
「た、隊長〜!」
チェシーが部下と一緒に追いかけられてる姿をやれやれと呆れながらも対処した――。
「――ありがとうございます! 助かりました」
「おう。だが、なんつーか……」
被害者は出なかったが、襲撃を受けた町は半壊していた。
そんな申し訳なさそうな顔をしていると住民達は、
「いえ。命を救って頂いただけでも感謝です。しかし、結界石が役に立たないとは……」
「だよな……」
リンスにお礼を言いつつも、結界石の役割りを果たしていないと嘆く。
実際、リンス達が調べているのもそうだ。
ここ最近になってから、ドラゴンや龍種といった魔物達の町の襲撃事件や魔物の生息域での暴走。
しかも魔脈の魔力の循環が悪くなっているのか、魔物達の気性も荒くなってきており、闇属性に縛られ続けたこの国の政策に着手しようとした矢先にこれだった。
リンスを含めた五星教のリーダー達は西大陸を飛び回っている。
だがこの原因が何なのかの検討はついている。
「リンス様ぁ? やっぱりこの事件って……」
「あのザーディアスっておっさんが言ってたヤツだろ? あのクソガキぃ……」
原初の魔人。
それの喪失が影響を受けると、あの大柄の男は言った。
今、正にその変化を目撃しているのだろう。
そんな嫌な予感を目の当たりにしつつも、襲撃を受ける各所を調べることしかできない一同なのであった。
***
「じゃあ行くんだね」
「お世話になりましたっ! 陛下も太っ腹で、しばらくは食いっぱぐれることもありません!」
「だね!」
あの報告から一週間。
俺達は意外にも、前の学園生活を送れている。
そして今日はヘレンとキャンティア、テテュラとサドラを見送る日となっている。
ちなみにテテュラの方には前回と引き続き、ヴァートとアライスが同行することとなった。
ヴァートはまた殿下達に抗議したらしいが却下。アライスは娘との単身赴任に絶望していた。
中々騎士の仕事も過酷である。
「もっと居てくれてもいいのに……」
「これ以上居たら、居心地良くて出発できないよ」
「堪能してたもんね……」
アイシアが中々ヘレンの手を離さずに、子供のように甘えた仕草で引き止める。
実際、寮内での生活は中々賑やかだった。
学校が終われば、町に繰り出して買い物や食事を堪能。
久しぶりの女子力満開の現場に、久しぶりにオロオロしたわ。
飲食店ではお互いにシェアし合っての感想会。被服屋ではファッションショーを繰り広げ、俺のトラウマの下着店にも入店し、ヘレンと瓜二つなせいか、双子コーデとか言い始め、新たな黒歴史を俺の中に刻まれた。
「根性の別れじゃないんだからさ。また会おう」
「今度こそお別れだね」
「そうだね。また影武者が必要になったら言ってよ。今度は最後までバレないように振る舞うからさ」
「はは。今度頼む時は、あの店で恥ずかしい下着のモデルになる時くらいかな?」
「うーん、それは無理だな」
「なんで!?」
「私よりリリアの方が似合うからだよぉ。私、自信無くなっちゃったなぁ」
「嘘つけ! ノリノリだったろ!?」
女になって思ったことがある――本当に買い物と話が長い。
こうして見送るにも関わらず、中々話のオチが定まらない。
そういう意味では、俺も女になったなぁと思うわけで。
「忘れ物はありませんね」
「あっ、テルサさんもありがとうございます。いつも美味しいご飯ありがとう」
「いえいえ、またいつでも来て下さいね。そちらも忘れ物はありませんか?」
「こちらも大丈夫です。元々荷物なんてほとんどありませんでしたし……」
そう言っていると、ヴァート達が迎えに来た。
「じゃあ俺達はこれで。テテュラさんのことは任せて下さい」
「はい。よろしくお願いします」
俺達はテテュラを乗せた馬車を覗き、一時の別れの挨拶をする。
「テテュラ。しばらくまたお別れだけど、行けたら行くから……」
「楽しみにしててね」
「ええ、私も楽しみにしてるわ。あっ、リリア。貴女のデーモンだけど……」
「今しばらくテテュラを守ってあげてって頼んどいたから大丈夫だよ。心配しないで……」
インフェルと話したが、俺の命令に忠実な様子だった。
だがまあ相変わらず不満そうな部分もあったようだが。
「使い魔を借り続けるのは、さすがに気が引けるけど……」
「まあそれもこっちが何とかするよ」
「ありがとうございます。とにかくテテュラは自分のことを考えよう」
「……ありがとう。また会いましょう」
「うん!」
こうしてテテュラと再び別れることとなった。
しかも今回は時間を設けていないため、どれだけの時間がかかるかもわからない。
サドラがここにいた時に詳しく聞いた話によれば、余程のことがない限りは数十年はかかるとのこと。
俺達と共に学園生活を行なうことはおそらく不可能だろう。
だけど今の状態なら尚のこと無理だ。
今は我慢の時。頑張り時だとテテュラを見送った。
そして――、
「じゃあ私達も行くね」
「またお会いしましょう!」
ヘレンとキャンティアもすっぱりと別れを切り出し、俺達の元を去っていった。
そんな学園寮の前は、すっかり淋しさが残っていった。
「賑やかだったせいか、ちょっと寂しいね」
「うん。だけどさ、みんなにはみんなの道があるんだよね」
「そうだね」
そんな寂しげにしている俺達を後ろから襲いかかってくるユーカ。
「ほーら! そんなしょげてないの! ほら、学校行くよ」
「「「はーい!」」」
俺達は元気を出していこうと微笑み、日常へと戻っていった。
――休学期間を取り戻すように学園生活は進む。
みんなも当たり障りなく接してくれている。
ただマーディ先生は相変わらず厳しく教えて下さっている。
「もうー。マーディ先生、ホント厳しいよ。帰って来て早々、この補習はキツイって……」
「私なんてくらんくらんする……」
「頑張ってシア、フェルサちゃん」
フェルサはもう無言でとぼとぼと歩きながらこう呟く。
「旅してた方が楽……」
仮にも奴隷にされてた娘の言うセリフではない。
そんな放課後を過ごしていると、校内が騒がしいのに気が付いた。
ある人集りに尋ねると、
「どうしたの?」
「あっ、オルヴェールさん。実はこっちにドラゴンの集団が向かってきてるって通達があったの」
「えっ!?」
ドラゴンの集団とはまた物騒なとも考えたが、何時ぞやドュムトゥスから来たヤキンのドラゴンライダーの集団の可能性もある。
「しかも西のドラゴンだって話で……」
どうやらその考えは甘かったよう。
なんでも西から大量のドラゴンがこちらへ飛んでくるので、学園の方が安全だろうと一部の生徒が留まっているのだ。
これほどの騒ぎなら、ハイドラスが対処に出ているだろうと、私達は王城広場辺りに向かった。
その道中だった。
学園区の闘技場に飛来するドラゴン達の姿があったが、その様子は少しおかしかった。
こちらの不安を煽るように、ハーメルトの空を飛んでいるが、攻撃する意思はない様子。
闘技場に飛来したドラゴン達もオロオロと戸惑っている様子すら窺える。
だから冒険者や騎士達も下手な刺激を与えられずに、様子を見ている。
「リリア!」
「あっ! サニラ! それにみんなも……」
「久しぶりだな。フェルサとは何回か会ってるけどよ……」
「バーク! そんな話はいいわよ。それより、あんた達、西大陸に行ってきたんでしょ? こっちに来る原因とか知らない?」
俺達に心当たりがあるとするならば、
「……私?」
俺達はアイシアを見る。
「アイシアに何かあるの?」
「ほら、龍神王かもって人から、宝石を貰ったって話したでしょ?」
「あーあ。そういえば……」
サニラは祝賀会の時に聞いた話を思い出す。
「それを取り戻しに来たとか?」
「まさか! それだったら、そもそも首にかけたりしないでしょ?」
「ねえ、リリアちゃん。もしかしたら龍神王に何かあったから、この騒ぎなんじゃ……」
俺達に悪い予感が頭を過る。
ザーディアスの話だと、原初の魔人を殺すと言っていたし、それにより何かしらの影響があるとも話していた。
「わかった。僕らは殿下に連絡してくるから、君達はとりあえずここで大人しく……って!」
ジードの指示を無視して走ったのは、アイシアだった。
「ちょっとアイシア!?」
「ごめん! でも、何でだろ……行かなきゃいけない気がする!」
そんな予感があるとアイシアは闘技場へと走った。
「ああっ! もう!」
「シア! 待って!」
俺達もアイシアの後を追い、ジードは仕方がないとハイドラスを呼びに走り出した。
闘技場にたどり着いたアイシアが見た光景は、そのど真ん中で固まって身を寄せ合うドラゴン達の姿があった。
俺達はドラゴンの習性を上手く理解していないが、プライドが高いはずのドラゴンがあんな身を寄せ合う姿は想像が難しい。
何かに怯えている様子にも見えた。
すると複数のドラゴンの首がこちらを向く。
そのドラゴン達は見つけたとばかりに、表情が明るくなったように見え、こちらに縋るように近づいてくる。
「あ、あの……みんな落ち着いて……」
さすがのアイシアも複数のドラゴンが押し寄せて来る光景は、恐ろしく感じたようで萎縮する。
俺とサニラとバークは固まってしまったアイシアの前に立ち塞がり、何とか対応しようとした時、白い龍が叫び声を上げる。
その声を聞いてピタリと動きを止めたドラゴン達は、その場でアイシアに向かって頭を下げた。
「へ? へ?」
何が起きているのかさっぱりの俺達の前に、白い龍がふわりと舞い降りる。
その白い龍は通常のドラゴンとは違い、フィンくらいのかなり小型のドラゴン。
だが内包している魔力が溢れ出るほどの貫禄を見せる。
『お会いしたかったです、神子様』
その白い龍はテレパシーだろうか、頭に直接訴える。
「み、神子って……?」
「どうしたの、シア?」
だが聴こえているのはアイシアだけのようで、俺達にはわからないが、白い龍はアイシアに話しかけるような仕草をしているところを見る様子から窺い知れる。
自分にしか聴こえていないと分かると、
「あのドラゴンちゃん。みんなにもわかるようにできる?」
するとその白い龍は光に包まれると、人型の姿へと変わる。
「ふう。これでよろしいか? 神子様」
「!? ちょっとアンタ……!?」
「?」
サニラが焦る理由には納得できる。
人型となり、こちらにも意思疎通ができるようになったのは有り難いが、姿に問題があった。
完全に幼女の裸である。
所々、ドラゴンと思わせる角や羽、尻尾があるが見た目は完全に幼女。
その幼女は白い髪を垂らし、こてんと首を傾げ、そのパチクリと開いた紅い瞳で不思議そうに見てくる。
「アンタは見ない!」
「――いだだだだっ!! わかった! わかったから……」
爪を立ててバークの視界を塞ぐサニラに、危なっかしさを感じながら、俺は頬を紅潮させながら上着を羽織らせる。
「何なのだ、これは?」
「人は服を着るものなの! お願いだから隠すところは隠して」
そう指摘すると、何かを思い出したのか納得して上着を着てくれた。
「これは失礼した、神子様の従者殿。確かに人間は服を着ていたな」
「じゅ、従者って……。違うよ。私達はアイシアの友達だよ」
「違うよ!」
「へ?」
「親友だよ!」
「あ……そう」
気に入ってくれたようで何よりだが、とりあえずは友達で通そう。
親友だと思ってはいるが、普段口に出すのは気恥ずかしいからね。
そんな話をしていると、二体のドラゴンを筆頭にまた群れが降り立つ。
そして人型の姿になった同胞の姿を確認したその二体の龍、風龍と黒龍も人型へと姿を変える。
「聖龍。この娘が神子殿か?」
「間違いない。このお方こそ神子様だ」
「良かった。神子様がご無事で……」
そう平然と話す風龍と黒龍だが、立派な股間がぶらんぶらんしている。
さすがに俺以外の女性陣は赤面し、顔をうつ伏せる。
その焦ったアイシアの様子に、その二体の龍は心配になり駆け寄る。
「どうされた、神子殿!?」
「何かありましたか!?」
「ああっ! え、えっとね……」
「あ、あんた達が素っ裸だからでしょうがぁ!! ま、前を隠しなさい!!」
サニラは赤面しながらも、その一部分が離れないようで、恥ずかしがりながらもチラチラと覗き見てしまう。
だがドラゴン達に恥じらいはなく、むしろ不思議そうに尋ねてきた。
「肉体を見てもらうことは当然だろう」
「後は魔力濃度ですかね。我々のことを知ってもらうには、身体を見てもらうことが一番手っ取り早い」
「しかし二人とも。人間は衣服を着ることが普通なのだ。私も着せられた」
平然と二人の裸を見て答えるら白い龍の幼女に違和感を覚えるが、思えばドラゴンが服を着ているなんてことはないし、ドラゴンに限らず魔物はほとんど全裸だ。
人型の魔物が腰巻きをするくらいが、魔物として一般的なのだろう。
だが人型になれる以上は、こちらのルールに従ってもらいたい。
「あー……お二人さんでいいのかな? その下でぶら下ってるヤツ、隠そっか?」
黒龍の方は強面の黒髪イケメンのマッチョさん。風龍の方は優男系のイケメンさん。
どちらも高身長ということだけあって、ちょっと視線を下にやるだけで立派な逸物がこんにちはと視界に入る。
しかも元気がない状態でも結構な大きさ。女性陣の動揺も納得である。
俺は元男だから驚きはするが、そこまで動揺しないけどね。
「――失礼した、神子殿」
「人間の感性には疎く、動揺させてしまったこと。お詫び致します」
まあドラゴンや動物のように裸で過ごす習慣がないからだろうが、それを理由にされるのはちょっと困る。
後になり合流したハイドラス達から、布を借りて隠し、人型の姿になった三人のドラゴンを先頭にドラゴン達はアイシアに跪く。
「神子様、改めて。こうしてお会いできましたこと、嬉しく思います」
深々と頭を下げるドラゴン達を見て、ハイドラスは確認のため、耳打ちしてくる。
「オルヴェール。神子と言っているのは……」
「多分、龍の神子のことじゃないかな? ドドニアの里を管理していたお爺さんも似たこと言ってたし……」
だが当の本人に覚えがあるわけもなく、自分をまるで神のように崇めるドラゴン達に動揺する。
「あ、あの神子って言われても私困るよ」
「その辺の説明を貰えるかな? 見てわかると思うけど、その神子様って慕う人が困惑してるって……」
説明を求めると、聖龍と呼ばれている彼女から説明を受けるが、
「説明と言われましても。その龍の涙がその証明ですが……?」
「この宝石?」
「はい。龍の涙は、龍種の魔力回路と同等の流れを生み出す作用がありますが、それは人間には不可能とされています」
「それはつまり魔物と同じ魔力の流れを与えると?」
「正確には我々龍種の回路です」
魔物とひと口に言ってもという話だそうだ。
「そもそも龍の涙は、我々のような濁りのない魔力回路を持つ龍が生み出すもの。邪竜やワイバーンのような抵龍とは魔力回路が違うのです」
言ってることには些かトゲを感じるが、要するには原初の魔人のような清らかな魔力を持つ者でなければ作られない。
魔力回路とは魔力が流れる管のようなものだが、それが綺麗か汚れているかで魔法を使うことは勿論、体調や性格まで出てしまうもの。
魔物の回路が汚れているのは、空気中にある魔力を吸収し、綺麗にした魔力を吐き出したからである。
エアコンフィルターが汚れていく感覚だと思えばいい。
だがこの龍達は、汚れる原因である負の念や魔法の発動での残りなどをあまり吸わない環境で育つことから、穏やかで理性的な性格になるものが多いそうだ。
「でもその話とシアが身につけていることで証明になるものなのかな?」
「龍の神子様は龍神王様と契約を結ばれていました。その魂に……」
「もしかしてそれに干渉したと?」
「はい。龍神王様ほどの契約者となると子孫様にも影響は与えるものです。気付かれていますか? 神子様の魔力回路はとても優れたものとなっていますよ」
そう説明されると心当たりがあるようで、
「そういえば最近、調子が良い気がしてたんだよね。魔力の消費が少なかったり、魔法自体の能力が向上したり……」
俺達も授業中のアイシアの魔法を見て、確かに最近いいなと思っていたが、魔力回路が強化されているとするなら、その説明にも納得がいく。
とはいえ、わかりましたと返事が出るほどではない。
「……」
「納得して頂けませんか? ですが、神子様の血を継がれているのは間違いないのです」
ここまで真剣に訴えてくるのだ。期待には応えたいが、アイシア自身も確証というものを持ち合わせていない。
「龍神王様は仰っておりました。神子様がアリシア様の子孫であることは間違いないと。あの血を操る男に立ち塞がった姿に面影があったと……」
アルビットとの戦闘の時、確かに介入してきた。
あの時から龍神王なりの想いがあったのだろうか。
「我々もまだ幼かったが故、感覚でしか記憶にありませんが、貴女からは懐かしい雰囲気を感じます」
その龍達の必死の説得にアイシアは、応えなければならないと、全てを納得したわけではないが、自分が本当にその子孫なのかどうかを知る必要はあると考えた。
「……わかったよ。でも一回、その龍神王様に会わせて。話はそれからだよ」
そう言うと人型のドラゴン達は、酷く気を落とし、重苦しい雰囲気が漂ってくる。
「……龍神王様は……亡くなりました」
「「「「「!!?」」」」」
俺達はその発言に驚愕を覚えると同時に誰の仕業なのか、現段階でもすぐに閃いた。
「龍神王様は我々を守るために命を尽くし、戦ったのです。我々が至らぬばかりに……」
黒龍と風龍は悔しそうに顔を顰め、聖龍は顔を伏せる。
「神子様! 今日ここへ来たのは、龍神王様の供養を貴女様にやって頂くため。そして……その男の謀略を止めるため、我々を導いて頂きたいのです! 赤毛で細目の凶々しい魔力を放つ男だと聞いています」
「そ、その人って……」
「! ご、ご存知ですか!? あの男を……」
あの戦闘を見ていたであろう風龍と黒龍は、バッと立ち上がって尋ねる。
アイシアはこちらに確認を促すように、視線を向けると、ハイドラスが答えた。
「おそらくではあるが、私達が敵対している人間の一人だ。その男は魔法などは一切使わず、拳で戦うヤツではなかったか?」
「そ、そうだ! その人間の言う通りだ! 龍神王様がお相手にも関わらず、全てを拳でねじ伏せていた……」
原初の魔人をねじ伏せるなんて言葉が出てきて、赤髪の細目男とくれば、バザガジールしか思い付かない。
そんなのがゴロゴロ居られる方が迷惑だ。
「知っておられるなら話が早いです! 神子様、我々も微力ながらお力添えをさせて下さい。龍神王様は……最後までアリシア様の名を口にしておられました。その無念を晴らして差し上げたい」
「待って。つまりは龍神王が亡くなって、アイシアが自分達を導いて欲しいってこと?」
「はい!」
ドラゴン達の想いは様々だろうが、このリーダー格の三匹からは雪辱を晴らしたいという熱意を感じる。
最強種としてのプライド然り、龍神王という絶対的な指導者を失ったことによる先導の意志。
それの旗柱としてアイシアに立ってもらおうという腹のようだ。
「……正直に言うね。私は弱いよ」
「!」
「その人は多分、バザガジールって人だよ。私じゃ、どうしたって勝てないって思う。だけど貴女達を放ってもおけない!」
彼女はドラゴン達の様子や表情を読み取っているよう。
ほとんどのドラゴンが先導者を失い、動揺している。
この三匹だってそうだ。雪辱を晴らすべくと強がっているが、こうして頭を下げに来ているところを見るに、バザガジールとの戦いに恐怖があるようだ。
そしてアイシアは自分が神子の子孫ではないかと、薄々わかってきた。
こうして自分を頼りに来ているドラゴン達の姿を見ればわかる。
「神子様……」
「アイシア、本当に大丈夫なの? 安請け合いして……」
「……バザガジールはさすがにだけど、でもこの子達は放っておけないよ」
「殿下、どうでしょう……」
ハーディスの問いに対し、アイシアの肩を叩き、
「お前は彼らを受け入れるのだな?」
改めて真意を問うと、力強く頷いた。
「ありがとうございます!!」




