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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
7章 グリンフィール平原 〜原初の魔人と星降る天空の城〜
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02 反省文書かされました

 

「さて……言い訳があるなら訊こうか? オルヴェール」


 私達は無事、西大陸から帰ってきた。


 クルシアとの激戦を終え、五星教の考えも正し、帝都ナジルスタとの和平の新書も受け取り、大使まで連れてきての順風満帆の帰還を迎えたはずだった。


「いえ! ハーメルト殿下様! 言い訳など……」


 俺は綺麗な土下座をして、ハイドラス(ひざまず)く。


 めちゃくちゃ機嫌の悪いハイドラスを目の前に、下手な言い訳など通用しないと判断しての土下座。


「まあまあ、ハイド。彼女も無事戻ってきたわけだし――」


「何を言っているのですか!? 父上!! この国の長たる父上が怒鳴らないから、私がこうして怒鳴っているのですよ!!」


 陛下は俺のとばっちりを受ける。申し訳ない。


「オルヴェール!!」


「は、はい!!」


「今回は無事に帰って来られたが、本来であれば貴様の首はその胴から離れていたのだぞ! わかっているのか! 大体、旅の話を軽く訊いたが、運が良かっただけではないか! たまたま真実の羽根(トゥルー・フェザー)の構成員が検問に忍びこんでいたから、無事に行動できていただけで、それが無ければ速攻でバレていてあの世行きだぞ! しかも我々にも戦争の火種が飛んでくる可能性も大いにあったのだぞ! 大体、貴様は――」


 ドカーンと凄い勢いで説教をするハイドラスに、しゅーんと凹んでしまう。


 だがハイドラスの言う通りではある。


 本当に運の良かった旅路だった。


 どこかで歯車が狂っていたら、俺はこの世にはいないだろう。


「――わかったか?」


「は、はい。二度としません」


「当たり前だ」


「と、ところで殿下様?」


「何だ?」


「わ、私が跪いて反省するのはわかるのですが……」


 俺はちらりと横を見ると、


「「「「……」」」」


「あの、なんでシド達も正座してるのかなぁ、なんて。差し支えなければお教え頂いても?」


 顔色を(うかが)いながら尋ねると、鼻を鳴らす。


「お前と同じ理由だ。オルヴェール」


「え?」


「は、はい。そうなんです……」


「いいじゃないですか、殿下。私は――」


「そんな勝手なことが許されるか! これは秘密裏にやっていたことだぞ。わざわざ関わらないようにしたというのに……」


「それが仇となっ――」


「あんたはそれ以上、口を開くな!」


 ハイドラスの逆鱗しか触れない言葉しか発しないルイスの口を、ユニファーニとミルアが必死に押さえる。


「も、申し訳ありませんでした」


「大人しそうなお前まで……まったく」


「でもどうして着いてったの?」


「そ、それは……」


 シドニエは恥ずかしそうに視線を逸らすと、デートもした仲だ。ある程度は察した。


「あー……もしかしなくても私のため?」


 そう言うと、ボッと赤くなり俯く。


「そっか、ごめんね。行き違いになったみたいで……」


「い、いえ……」


「おい。お前達、説教中だということを理解しているのか?」


「「も、勿論です。ごめんなさい」」


 俺とシドニエはペコペコと謝る。


「今日のリリィはペコペコしてるね」


「……ペコペコしてるね」


 そんな他人事のように話しているリュッカ達をジロっと見ると、


「というか、お前らもグルじゃないだろうな」


 アイシアとリュッカはギクリと反応するが、カルディナ達はケロッと否定する。


「あら殿下。わたくし達は本当に知らなかったのですよ。ねえ? ナタルさん?」


「そうですわ。よく見て下さいな」


 ナタルはそう言うとヘレンを手招きし、俺を立つように指示すると並べられた。


「今、私達はどちらがヘレンさんでリリアさんか、この場にいたからわかりますが、これが片方しかいないとなるとどうです?」


 瓜二つの二人を並べられると、さすがに眉を曲げて納得する。


「まあ確かに、これが片方だけならばどちらを名乗られても……」


「……む、難しいですね」


「しかもこれで属性の判断を鈍らす魔石にカラコンまでつけられたらなぁ。ま、俺なら絶対間違えないけどな!」


 ウィルクは女の子を間違えるわけがないと、自信満々に言い張る。


 俺達は揃って苦笑いを浮かべる。


「ヘレンもヘレンだ。オルヴェールの提案に乗らないで欲しかった」


「ごめんなさい。でも、彼女の友達を想う気持ちを考えるとね」


「わからんでもないが……」


 まだまだ言い足りない様子のハイドラスを父は(なだ)める。


「まあもうよいではないか。話が進まん」


「そうですよ、殿下。陛下がお忙しいことは一番ご理解されていると思いますが……」


「……そうですね。わかりました、陛下」


 あっ。父上から陛下に戻った。


 陛下とハーディスの説得により、ここまでとしようと話すハイドラスから衝撃の一言を頂くことに。


「後はマーディ先生にお任せすることにしよう」


「「「「!?」」」」


「えっ!? な、なんでマーディ先生の名前が出てくるんですか!?」


「そこの四人が曖昧な理由で休学したからだ。めちゃくちゃ怒っていたぞ」


「曖昧な理由ではありません! ちゃんとアルビオさんの助手として行くと――」


「あんた! そんなこと書いたの!?」


 シドニエとミルアも呆れた顔をするあたり、休学届けは別の理由で合わせる計画だったらしい。


「? 書きましたが……」


「あんたって奴は……!」


 ルイスの融通の効かない性格に、ほとほと呆れる。


「こりゃ、学校に行ったらカミナリが落ちるな」


「ま、そういうことだ。ついでにオルヴェールにも説教しておくよう、頼んでおく」


「――とばっちりじゃないですか!?」


 俺は一応、学校側からも許可を得て向かったはずなのに……。


「とばっちりでもなんでもない。そもそも行った場所が違っているのだ。しっかり説教されて反省してこい」


「うう……マーディ先生の説教に後は多分、反省文も……」


「あるだろうな」


「あの、さっきの殿下様の説教で……」


 何とかそれだけはとゴマするが、


「反省しているなら、反省文の数十枚くらい書けるだろ?」


「はい。喜んで書かせて頂きます」


 まだ説教が欲しいようだなと圧をかけられた俺は、頭を下げる他なかった。


「今日はペコペコリリィだね。ブラックじゃないよ」


「……そのペコペコ、気に入ったの?」


「いやそこ! 気に入らないで!」


 そんなこんなとハイドラスの説教に目処がつくと、本題へと入る。


「先ずは皆、無事に帰って来てくれたこと、嬉しく思うぞ」


 私達は上手いタイミングで一日違いくらいで帰ってきた。


 そのことからこの会談が決まったわけで、今回も極秘任務ということから、城の客間の一室に集まっている。


「ハイドは軽く聞いたのだな?」


「はい。そちらの二人についても聞いています」


 ギルヴァとアリアは、よそよそしく頭を下げる。


「ふむ。まあ両方の報告を訊こう。先ずは西から……」


 俺達に西大陸組から事の次第の全てを話し、新書も手渡した――。


「――そうか。その娘に魔人の魔石が……」


「はい。ギル達を守るためとはいえ、軽率な行動、申し訳ありません」


「いや、君を責めるつもりはない。全てはクルシアというあの男が原因……」


「そして原初の魔人か……」


「はい。西と南にいるところまで、把握していると……」


 クルシアはまだまだ暴れ足りないのだと、自覚できる内容であった。


「その西大陸の方なんだけど、龍神王かも知れないって……」


「だろうな。西大陸は特に龍神王の言い伝えがあるからな」


 陛下もハイドラスもそのあたりの伝承を勉強しているよう。


 まあ王族なら、ありとあらゆることを知っておくべきことだろう。


 その証拠にとアイシアのペンダントを見せる。


「これは?」


「龍神王かもって人に貰った? ペンダントって言えばいいのかな?」


「何だ? その曖昧な……」


「いつの間にかシアの首にかかってまして。威風な雰囲気のある男性が側にいたもので……」


 すると陛下はこの宝石に見覚えがあるのか驚愕する。


「これは……龍の涙か!? 昔、知人に見せてもらったことがあるが、こんなに綺麗ではなかったな」


 ハイドラスも名前だけは聞いたことがあるようで、遅れて驚く。


「つまりそのものが龍神王だと?」


「おそらく。龍の里の人からすると、アイシアは龍の神子って呼ばれた人の子孫じゃないかって……」


「またとんでもない話が飛んで来たな」


 とはいえ、当の本人は他人事のようにポカンとしている。


 まあ実感が湧かないこともわかる。


 このペンダントがあるからとかは勿論、あの里での龍達との(たわむ)れも、アイシアからすれば今まで通りのもの。


 ドドニアの爺さんは神子様と崇めたが、急にそんなことを言われても困るだろう。


「じゃあ龍神王ってのが見つかるのも時間の問題です?」


「ルイスちゃん!? アンタは黙ってなさい!」


 ルイスの口を塞いでいる間、俺達は思わず無言になる。


 龍神王が人里に現れたのには、何か理由があるはず。でなければ、正体を暴かれる可能性があるリスクまで負うことはないだろう。


 だが考えても結論が出るわけでもない。


「僕らも龍神王の居所がわかれば、対処の仕様もあるのですが……」


「そうだね。だけど、こちらの研究機関でも原初の魔人の居場所までは……」


 サドラはしれっと会話に入っては、専門外ですしと話した。


「貴方は……?」


「これは失礼致しました、陛下、殿下。わたくしはサドラ・クウィンティと申します。北大陸では魔石学を専門に研究している者です」


「ああ……ヴァートの知り合いという……」


「ええ。何やら研究者の心をくすぐる会話ばかりなされるので、つい……」


 原初の魔人に半魔物化少女、魔物化を促す魔石だ。


 研究者からすれば未知のことだらけ。好奇心をくすぐられるのも納得だ。


「いや、構わないよ。ここは公共の場ではないのだ。是非、君の意見も話してくれ」


「ありがとうございます。それでは一つ、宜しいでしょうか?」


 ――勿論と陛下は意見を述べるよう促すと、サドラは北大陸での話をした後に、このような提案を口にした。


「――テテュラさんの身柄は勿論ですが、そこの半魔物化されている……」


「アリアです……」


「そう、彼女。アリアさんを是非、我が研究機関へと連れ帰りたい」


 それを聞いたギルヴァは反対意見を投じる。


「ダメだ。アリアはまだ不安定な状態だ。それなのに、研究機関などに連れて行かれて、暴走しないとでも?」


「勿論、安全対策も講じますし、彼女達の人権も配慮します。それに彼女を元の身体に戻すこともまた、貴方の目的なのでしょう?」


 先程、大使として来たと言ったと同時に、アリアを元に戻す方法を探すことを目的としているってこと、話したからな。


 弱いところを突かれたと、苦しい表情を出す。


「サドラ殿。我々としても慎重に事を構えたい。テテュラ殿もアリア殿も我々が確認し得る中で、今までに無い状態の方々だ。だからこそ、彼女達の意思を尊重したい」


「勿論で御座います、陛下。しかし、テテュラさんを元に戻すための情報として、あの状態になる前の彼女の存在は貴重です。より正確な情報が手に入るでしょう」


 サドラの言うことにも理解はできる。


 テテュラを元に戻すことは容易でないことは、さっき説明を受けて、痛いほど理解できた。


「……すぐに出せる結論ではないな。特に我々はアリア殿の状態を詳しくない。それにテテュラ殿の意思は……」


「彼女に関しては了承を得ています」


「! そうか……」


 向こうでそう約束したのか、テテュラは元に戻ることを全力で取り組もうとしている。


 友人としては寂しい気持ちもあるが、応援はしてあげたい。


「それでも一度、テテュラと話はしたい。彼女はどこへ?」


「はっ。城内の一室にて厳重な監視の元にあります」


 アライスとヴァートは跪き、答えた。


「そうか。アリアと言ったな」


「は、はい! 殿下」


「この会議が終わり次第、彼女に会わせよう。万が一にも彼女のような状態にする気はないが、君の魔石を不意に取り除くことが如何に危険なことか、理解できるだろう」


「は、はい……」


 自分と似た境遇の人間がいることは道中に訊いていたが、いざ会うとなると緊張が走る。


 テテュラの話がひと段落つくと、クルシアの動向についての話へ戻る。


「龍神王についてですけど、五星教の人達も訊いてたので、警戒はしてるかと……」


「そうか。ならば他の魔人についてだが……」


 ハイドラスも陛下も難しい顔をする。


「エルフが詳しい話を知ってるって、ザーディアスさんが言ってましたよ」


「わかっている。それが問題なのだ」


「問題ですか?」


 不仲なのは知っているが、ハーメルトの活動法案を考えると受け入れてくれてもおかしくないと考えるが、どうも王家の方々とその側近の表情を見るに、中々厳しいようだ。


「はっきり言うぞ。エルフの国は我々、人間には協力はしないだろう」


「原初の魔人の影響で、南大陸にどんな影響を及ぼすかわからないのにですか?」


「そうだ」


 なんて身勝手なと思ったが、リュッカに袖を引っ張られる。


「リリアちゃん。あの二人の様子を見ると、それも納得だよ」


「あの二人……あっ!」


 シェイゾとナディのことを思い出した。


 今でこそアイシアのご家庭のおかげで、少しは丸くなったが、初対面の時は酷く怯えてたしな。


 シェイゾの方はかなり攻撃的だったが。


「あの二人とは……確か、マルキスのところで預かっているエルフだったか」


「はい。シェイゾ君とナディちゃんです」


「二人とも南の人間主義国から来たと言っていました」


 俺はリュッカ達にも確認を取ると頷いた。


「人間絶対主義国……確かバックにはクルシアと繋がりのある奴がいると言っていたな」


「殿下。確かアミダエルという者だったかと……」


 アミダエルは昔の偉人。


 経歴を考えると、クルシアと手を組むような人間だとは、未だに信じられないと疑念が言葉に乗っていた。


 だがザーディアスの話を聞けば、相当イカれているらしい。


「こちらも魔人を見つけるのは、時間の問題か……」


「なら話は早いんじゃないですか?」


「なに?」


「アイシアのところにいる二人に、協力してもらって、魔人の情報を集めるんです」


「まあ、そうなるか……」


 俺の提案に、仕方がないといった感じで返答。


「だがそれはその二人と話をしてからだな。エルフの事情を知るのは、南から逃げてきた彼らだけだ」


 するとギルヴァは不満を口にする。


「そんな悠長に構えていていいのか? あいつは危険だ! 実力もあの狂った思考も!」


「わかっている」


「!」


「あの男の狡猾はよく知っている。だからこそ、慎重に事を運ばなければ、裏をかかれるだけだ」


 ギルヴァにとって、クルシアに傷付けられたものや失ったものは多い。


 悔しい気持ちが滲み出るように、黙って俯いた。


「我々の取れる行動は、ナジルスタと南の国々に対し、注意喚起をすることと、そのエルフ達から話を訊くくらいか」


「なんとも歯痒いけどね……」


 それでも課題は山積みだ。


 だからこそハイドラスの言う通り、一つずつ確実にこなしていくべきだろう。


「皆――」


 話し合いもひと段落ついて、陛下が口を開いた。


「大変な任務、ご苦労であった。今の話し合いから、課題も多く、予断を許さない状況は続くが、良い巡り合わせもあった」


 西大陸との和平やテテュラの身体の戻し方の目処、魔人の魔石の適合者の保護など、悪いことだらけではなかった。


「これからも協力してもらいたい。どうか頼む」


 陛下も考え方が変わったようで、信頼しているぞと声をかけてくれた。


「「「「「は、はい!」」」」」


 陛下は満足げに頷いているが、ハイドラスは呆れながら補足を入れる。


「オルヴェール達やアルビオはともかく、お前達は控えているんだぞ」


「えっ!? 何を言ってるんですか、殿下! アルビオさん居るところ、私ありです!」


 リュッカに向かって、ふんふんと鼻息荒く話す。


「……反省してないだろ、お前」


 するとヘレンが北大陸での様子を話す。


「まあ殿下、ちょっとは考えてあげて下さい。みんな向こうで思い思いに特訓もしてきたんです」


「特訓?」


「そう!」


 内容は言わずウインクして答えたが、ルイスは自慢げに話す。


「アルビオさんは精霊さんとの連携が際立ち、私は再生魔法を習得し、治癒魔法術師としての実力をつけましたよ!」


「あんたはホントに自分のことだけだな。突き落とされたこと、まだ忘れてないからね」


「女々しい方ですね……」


「――女の子だからね!」


 ルイスとユニファーニが随分と揉めている。


「あの二人、随分仲良くなったね!」


「そう見えるのはアイシアだけだよ」


「そう?」


 ここにももう一人いたよ、ヘレンが。


 ハイドラスが咳き込むと、喧嘩をしている二人はピタッと動きを止める。


「……もういい。積極的に頼むことはないが、どうしてもという時は頼りにさせてもらおう」


「ホントですか!?」


「ただし! 今回のような勝手な行動を慎むことが条件だ。いいな?」


 呆れ果てたハイドラスからの妥協案に、四人はわかったと了承。


「さて、ではヘレン殿、キャンティア殿。今回は無理な頼みを聞いてくれたこと、感謝している。是非、お礼をさせてくれ」


「やった!」


「……」


 ヘレンは部屋を軽く見るが、どこにもロイドの姿がない。


「ねえ、キャンティア。ロイドさん達は?」


「い、今更?」


「うん。もしかして留守番?」


 まあ陛下への報告の時は、クルシアと五星教のことについてしか話さなかったしね。


「あー……非常に言いづらいんだけど……」


「だけど?」


「実はロイドさん達、奴隷商だったみたいなの」


「へ? ええええーーっ!!!! ホントなの!? キャンティア!?」


 キャンティアの肩を持ち、ブンブンと揺らして尋ねる。


「ホ、ホントだよぉ〜。じ、実は――」


 カーチェル劇団がどのような奴隷商だったのか、いつからだったのかなどを説明すると、さすがのヘレンも凹んだ。


「そ、そっか……」


「今は五星教に捕まってるはずだよ。それと二度と女の子に手を出せなくしといたから……」


 そこまで言い張る俺に首を傾げるヘレンだが、一方であの光景を見ていたギルヴァはプルプルと股間を押さえる。


「ど、どうした? ヴェルマーク?」


「い、いや……」


 ハイドラスの質問にみなまで言うまいと、心の中に仕舞い込んだ。


「そういうわけだ。お礼としてはお金が良いのではないかと考えているが、どうだ?」


「それは助かります! ね? ヘレン?」


「う、うん……」


「安心しろ。君達が奴隷商でないことはキャンティアから事情を訊いている。ロイドの古株の人間達が主犯をしていたらしい。劇団に入って日が短い者が奴隷にされていた傾向があることから、二人を疑う理由も特にはない」


 ついでに言うと、キャンティア自身にアンサーの魔法も使用している。


 彼女は嘘をついていないと断言できる。


 だがヘレンが上の空みたいな返事をしたのは、そこの心配ではない様子。


「……? もっと別の礼がいいなら訊くぞ。なにぶん、こちらの者が大変迷惑をかけたしな」


 ギロっとこちらを睨んでくる。


「も、もう! 反省してますから、そろそろ許して!」


「ああ! いえ。お礼に関してはそれで大丈夫です。これからどうしようか考えてただけです」


「ならヘレンちゃん! しばらく私達と王都にいようよ! 学園寮の部屋はまだ余ってるはずだし。ね?」


「確かにそうだけど、私達の一存で決めることじゃ……」


 アイシアはこう提案し、俺達はわいわいと話し合うが、ヘレンはどうやらそこも考えにはないようで、


「ねえ、キャンティア。陛下から謝礼金が貰えるけど、元々どれくらいある?」


「え? まあそこそこは……」


 節約してたからしばらくは大丈夫だというと、ヘレンはキャンティアに提案する。


「ねえ? 二人で旅しようよ」


「!?」


「えっ!? ヘレン!?」


「三人とも、そう言ってくれてありがと。だけど、私は夢を追い続けていたいの。……ううん、夢を与え続ける存在でありたいの」


 ヘレンが子供の頃に観た、あの輝かしい舞台のように、誰かをまたあの夢の世界へ連れ出してくれる存在に、自分もなりたいという夢は終わらない。


 するとキャンティアも調子を取り戻すように、ヘレンに対抗する。


「そうだね! そうだよ! むしろこの旅劇団が奴隷商だったなんて、ネタに使えそうだしね。根気よく行こう!」


「おおー!」


 その若い二人の娘の夢を見た陛下は、心にくるものがあったようで、


「どちらか馬車を運転できるか?」


「あっ! はい。私が……」


「徒歩の旅では中々大変だろう。謝礼金に加えて馬と馬車もやろう」


「えっ!? いいですよ、陛下。そんなに頂くわけには……」


「よい。この町での君の評判は良かった。また機会があれば是非、演劇を披露しに戻ってきてくれ。そのための足ということだ」


 陛下の粋な計らいに、これ以上断るのは不粋だろうと、二人はペコッとお辞儀。


「「ありがとうございます!」」


「良かったね、二人とも。寂しくなるけど、なんて言うか……ヘレン達らしいよ」


「ありがと。まあ旅の準備にもう少しはここにいるけどね」


 俺はヘレンに握手を求めた。


 協力してくれたこと、俺の背中を押してくれたこと、俺の代わりにテテュラの解決への糸口を作る道標になってくれたこと。


 全てに感謝することを込めて。


 ヘレンは少し呆気に取られたが、すぐにガッと掴んでくれた。


「ありがと、ヘレン」


「ううん。お礼なんていいよ、リリア。二人とも無事だったから、針千本呑まなくて済みそうだね」


「そういえば、そんな約束したね」


 感謝の言葉を交わし終えると、ハーディスが二人を案内する。


「陛下、失礼します。みんな、またね!」


「またお会いしましょうー!!」


「うん! またね、ヘレンちゃん、キャンティアちゃん!」


「またね。今度は黒炎の魔術師じゃないので頼むよ」


「それはどうかな?」


「えっ!?」


 ヘレンは悪戯混じりにウインクすると、ヒュッとその場を後にした。


「ったく……」


「さて、そろそろ来る頃合いか……」


「えっ?」


 ハイドラスがそう呟いた時、カツンとヒールの音が鳴る。


「これは陛下。わたくしの生徒が粗相をされたそうで、申し訳ありません」


「いやいや、私は構わんと思うのだが……」


「ゲッ! マーディ先生!?」


 思わず出た不敬な発言をしたルイスを捕まえる。


「ゲッとは何ですか? エルギット!」


「だって! 私はアルビオさんのお力になるべく――」


「ちょっと光の魔法が使えるようになったからといい気になるんじゃありません!」


 ここでは人目につくと、シドニエ達にもついて来るよう指示すると、マーディは出て行こうとする。


「マーディ先生、ちょっとお待ちを……」


「何でしょう? 殿下」


「オルヴェールも一緒に説教してやってくれませんか」


「まあ構いませんが、何故?」


 俺から事情を知っているマーディは、疑問に思うもハイドラスの一言で激変する。


「実はこの女、西大陸に向かっていましてね。間違えれば死もあり得る状況のところに、許可なく行った挙句、散々周りに迷惑をかけたので、是非マーディ先生のご指導の元、叩き直して頂きたいと……」


 するとマーディは鬼でも宿したかのような形相へと変わる。


「あら〜? わたくしは確か、旅に出ることは聞きましたし、貴女(リリア)は北に行くと聞きましたがぁ?」


 確かに魔石化したテテュラを伏せて、そんな話をしたけれども!


 逃げようとする俺を力強く捕まえると、今度はニッコリと陛下達を見る。


「陛下、殿下。この者達が大変ご迷惑をお掛けしました。呼び出された時は何事かと思いましたが、これはこちらの不始末。きっちり反省させますので、どうかお許し下さい」


「う、うむ……」


「よろしくお願いします。マーディ先生」


 俺達は陛下の困った表情と相対しているハイドラスに、鬼、悪魔など子供みたいな悪態をつく。


「ほら二人とも、それ以上は不敬罪になりますよ。私の説教の方がずっとマシでしょう?」


「「ひ、ひい〜……」」


 捕まえられている俺とルイスは、お互いにしがみつきあった。


「じゃあ参りましょうか。貴方達もですよ」


「「「は、はい……」」」


「ぎゃああああーーっ! 助けてぇっ!」

「助けて下さい! アルビオさぁん!」


 ここにマーディが来る事を予想していなかった、アイシア達は気の毒だなぁと思いながら見送った。


「さて失礼したな、客人」


「い、いえ……」


「随分と教育熱心なんですね」


「ははは。お褒めに預かり光栄だよ、サドラ殿。それより、テテュラのところへ向かおうか」


 ――連れて行かれた俺達は、こっぴどく説教を受けた後、みっちりと缶詰め状態で反省文を書かされた。

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