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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
6.5章 地底都市アンバーガーデン 〜ヘレンと愉快な仲間達と極寒の地と地底の神秘
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19 努力の価値

 

「これが勇者か……」


「う、うん。これでもまだ一部だよね?」


 バルドバの実力を知る二人も驚きを隠さないでいた。


 バルドバは精神型でありながら、その力強い地面系の魔法にて相手を寄せ付けず、有利な距離を取りながら戦っていくスタイル。


 そうしているうちに前衛型ならば体力が、後衛型ならばあっという間にやられるなんてことはザラにある話。


 それだけバルドバの魔法速度は速い。


 バルドバは多少、冷静さを欠落していたとはいえ、アルビオはあの猛追を風魔法で払い除けるばかりか、同じ属性の魔法で抑えていたのだ、驚きもする。


「いや凄いですね」


「あぁ!? 嫌味か!」


「まあ確かに。勝った僕が言うのも変ですけど、あれだけの速度での無詠唱は凄いですよ」


 初期や初級魔法ならともかく、中級魔法を初級魔法並みに連続使用できることは凄い。


「まあアルビオも練習次第じゃできるさ!」


「習得可能」


 アルヴィとザドゥは武器の姿のまま、余計な一言。


「チッ! 嫌味な野郎だぜ……」


「ああっ! いや、そのですね……二人は余計なこと言わないでっ!」


 するとシドニエが二人の元へズンズンと近付いてくる。


「シドニエさん……?」


「な、なんだよ?」


 二人に尋ねられたシドニエはピタリと止まり、その場で顔を上げた。


「いや! 素晴らしかったです! バルドバさん!」


「「は?」」


 キラキラした尊敬の眼差しでバルドバを褒め称えた。


「僕にはなかった発想でした。僕の場合は如何に付与魔法で前衛での戦いを再現できるか、対応できるかが焦点にありましたが、魔法をしっかりと起用して戦っていく真っ直ぐなスタイルに感銘を受けました。しかも、それだけの魔道具をコントロールしながらの戦闘は中々大変なはず! それを――」


「あー待て待て待て。お前、性格変わってないか?」


 アルビオは興奮気味のシドニエの様子を見て、微笑する。


「きっと同じ立場の人間を見て、感激したんですよ。シドニエさんも精神型ではありますが、勇者のような魔法剣士になることが目標らしいので……」


「あーなるほどな」


 その気持ちは意外な人間に伝わったようで、


「わかるよ、君!」


「!」


「俺もそうなんだ。俺の場合は肉体型だから、魔法が中々難しくてね。こういう時、魔力回路の種類ってのが課題になってしまってね……」


「わ、わかります!」


 ライセルが同情し、変なところで友情が出来上がった。


「おーい。置き去りにすんじゃねえよ」


「はは……」


「す、すまない」

「ご、ごめんなさい……」


 苦笑いしていたアルビオだったが、正直、その苦労は理解することは難しいと考える。


 今でこそバザガジールという課題に激突したため、速さを重視した戦い方がメインになっているが、今まで模擬戦で戦ってきた人達には、色々と試しているのも実情。


 その色んなことを()()()ということが、どれだけ有り難いことなのかを痛感する。


 この世界では属性や魔力回路の種類によって、ある程度左様されることがある。


 わかっていたことではあるが、自分の努力に比べて、彼らの努力は比べものにならないのではないかと感じる。


 実際、バルドバの戦い方も精神型という肉体型との戦闘も考えた戦い方であるし、シドニエも精神型でありながら、試行錯誤しながらも力強く木刀を振るう姿は印象的だった。


 改めて、自分ら恵まれた才能を持っていることを感じてしまっている。


 そう――罪悪感のようなものがまとわりつく。


「そんな顔してどうしたの? 私とのデートはそんなに嫌かな?」


 そんなアルビオの肩を叩いたのはヘレンだった。


「あっ! いえ、そんなことは……じゃなくて!」


「あっ! そうだ、デートっ!」


「いや、僕は辞退しますので……」


「あぁ!? ヘレンに魅力がねえって言いたいのかぁ!?」


「――どう答えるのが正解なんですか!?」


「まあまあバルドバ君を焚き付けるための発案だったんだから、落ち着きなよ」


「……おめぇ、男心を(もてあそ)びやがって……」


 ヘレンの思惑に()められたと悔しがるバルドバを茶化し、アルビオの表情が和らいだところで、


「そんなに気にすることないんじゃないかな?」


 私はアルビオ君を諭した。


「! ……何のことです?」


「んー……アルビオ君、真面目だからきっとさ、精神型でも肉体型でもない、六属性持ちの自分はずるいんじゃないかなぁとか、考えてるんじゃないかなって……」


「……人の心でも見えるんですか?」


「会話と表情を見ての推測だよ。観察は探偵の基礎だぞ」


 ちょっとカッコつけてドヤってみると、ポカンとされた。


「……私はさ、思うままに行動すればいいと思ってる。人間一人のやれることは才能によって疎らだし、体力とか考え方だって違う。だからこそ、無理しないで、自分と向き合う姿勢が必要なんじゃない? それをわかったから、精霊達とも強い絆で結ばれてるんでしょ?」


「!」


 アルビオは初めてバザガジールと戦闘を行い、フィンと誓ったことを思い出す。


 彼らと強くなると決めた。そこに嘘も偽りも後ろめたさもない。


 いつも側で支えてくれる精霊達(かれら)と共に歩み、生きていくことを改めて思い出した。


「ありがとうございます。ヘレンさん」


「いいえ。リリアもそうでしょ? 自分のやりたいことはする。だから私がここにいるわけだし。散々迷惑かけてるけど……」


「そうですね」


「それに精霊の力を使いこなすには、霊脈ってのを使いこなさなきゃいけないんでしょ? それこそ私達には知らない努力だよ。努力や研鑽(けんさん)を他人と比べることも間違ってる。それは人が当たり前にすることで、しなかった人はどんどん置いていかれるだけなんだから……」


 人は頑張り続けることが難しい生き物。


 自堕落になったり、他のことに囚われたり、欲望に負けたり、結果が見えなかったり――人の心は脆く、弱い。


 だからこそ、それをふり切って前に進める人だけがたどり着ける世界がある。


 厳しくも輝かしき世界が。


 そこに強さが宿ると信じて。


「努力している人を見てそう思えるのは、頑張ってる証拠だよ。シドニエ君達だって、貴方のことを思って一緒にいてくれるのは、認め合ってるからじゃないの?」


「……本当に凄い人ですね。貴女は……」


 彼女の言っていることに救われていくアルビオ。


 昔まではハイドラスや付き人である二人以外は、自分の立場や力に寄ってくるものとばかり思っていた。


 実際、そうだった。両親だってその口だったのだから。


 だけど最近は……特にリュッカを助けてからは、自分の力と向き合うと同時に、人にも向けていこうと自分なりの努力を重ねてきた。


 昔だったら、人からこう思われたくないだったが、今ではこう思われたいに変わってきている。


 ヘレンの言葉で、それに気付いた。


「そんなことないよ。私だって、みんなが頑張ってるから頑張れるの。支え合いだよ! だからさ……」


 私は意気投合するバルドバ君達を見るよう促した。


「なるほどな。この木刀で魔力の循環率を上げたのか……」


「しかもこれを振って戦っていれば、自然と集中力も上がっていくため、精神型であっても肉体型にも負けない近接戦が可能に……」


「は、はい。ただ、スロースターターになってしまって……」


「そのための付与魔法ってか。はー……」


 そこにはシドニエの木刀を見て、意見を交わし合う三人の姿があった。


「人は支え合って生きていかなきゃ。バザガジールって人みたいに一人で戦える人も凄いけど、それじゃあ限界があるって私は思う……」


「だからバザガジールにあんな説得を?」


「うん。あのバザガジールって人は、クルシアっていうテテュラさんをあんな姿にした人の仲間だよね?」


「そうだね……」


「あの人の強さを求めるひたむきな研鑽(けんさん)は、テテュラさんをあんな姿に変える人といるべきじゃない。きっとやり直せるはずなんだよ」


 訊いた話だと、沢山の人を殺した人だっては訊いてる。


 それ自体をきっと世の中は許さない。


 だけど、心くらいはそんな人に囚われず、救われて欲しいと願ってもいいはずだ。


 話を訊いただけでもバザガジールって人は、傷付けることを楽しんでいるわけではない。


 ただ強くなることしか見えていないだけ。


「救いはあってもいいはずだよ……」


「あの人に、救い……ですか。そうですね。僕がその救いになれるよう努力します。貴女の言う、支え合い、共に努力する道を……」


「頑張れ! 私も頑張る!」


 私とアルビオ君は、話に夢中になっている三人に駆け寄る。


「どう? シドニエ君は参考になったかな?」


「は、はい。とても……」


「参考ってなぁ、どういうことだ?」


「シドニエ君のことは、今聞いてわかったんじゃないの?」


「まあな……あ!」


 ようやく私の意図を掴んだようで、また悔しそうに顔を歪める。


「てめぇって女は本当に……」


「ごめんごめん。この通りだからさ」


 私はパンっと手を合わせて謝罪。


 するとシドニエ君は、改まって背筋を伸ばす。


「あ、あの……バルドバさん」


「あぁ?」


「厚手がましいことかもしれませんが、どうか一週間お時間をくれませんか? 貴方の戦い方を学びたいんです!」


「はあっ!? 出来るわけねぇだろ!」


「できるかできないかじゃなく、やらなきゃいけないんです!」


 バルドバの威圧にも負けず、シドニエは申し出を続ける。


「僕はまだまだ弱いです。本来ならこの旅もついて行けないはずだったんです」


 事情を知らないライセル達は首を傾げる。


 当然の反応だろう。北大陸は東にも劣らず平穏な大陸だ。観光に来るものも多い。


 勿論、上の雪原は論外だが。


「僕が弱いばかりに話も来なかったんです。それが悔しくて……」


 アルビオはそんなことはないと、少し寂しげに主張を聞いている。


「タナカさんやリリアさん達の抱えている問題が、どんどん大きくなっていっているのが、改めてわかってきました。だからこそ、強くなりたいんです! ぼ、僕は……」


 プルプルと震えながら、勇気を振り絞るよう。


「――タナカさん達は、僕の友達だかりゃあ!!」


 肝心なところで噛んでしまい、思わず赤面して口を塞ぐが、誰一人、それを笑うことはなかった。


「……ったく。締まらねえ奴だな、お前」


 バルドバはシドニエの前に立つと、


「わかったよ。事情は詳しく訊かねえが、この勇者様が抱える問題なんて、肩書き通り大きいんだろ? 俺で良かったら力になってやる」


「……ありがとうございます!!」


 快く了承した。


「バルドバも変わったね。昔だったら――何懐いてんだ、コラッ! とか言って蹴り飛ばしそうだったのに……」


「はっ! ガキじゃねえんだよ。それにだ……」


 バルドバはシドニエの肩に手を回し、ドカッとおぶさる。


「勇者ってのは、やっぱりいけ好かねえ。勇者目指してんだろ? この野郎を超えるくらいの奴を作ってやりてぇだろ?」


「ええーーっ!?」


「んだぁ? 文句あんのか?」


「ああっ!? いえ……」


 そのライバルと申告されたアルビオは、シドニエに握手を求めた。


「そうだね。お互い頑張ろう」


「は、はい!」


「あっ! 後さ、タナカではなく、アルビオって呼んでほしいな。堅苦しくって……」


「は、はい!? タナカしゃん!? じゃなかったアルビオしゃん!!」


「……先ずお前はよぉ。そのそそっかしいところとその噛み癖から直すかぁ?」


 こうしてアルビオとシドニエの一週間の特訓相手はできたのだった――。


 ***


「来たよ! お父さん!」


「へ、ヘレン!?」


 私達はアルビオ君とシドニエ君、そして魔法使いとして磨きを上げたいと意思表明したミルアを置いて、お父さんの職場へと移動した。


「まだ仕事中だから、もう少し待ってくれ」


 お父さんのお仕事は基本的には病院でのお仕事。


 と言ってもお父さんはここの治癒魔法術師達の重役。


 よっぽどの酷い怪我や大量の患者が来ない限りは、書類仕事がほとんどのようだ。


 そんな書類に目を通している父に無理を承知でお願いする。


「ねえ、お父さん。そのままでいいから聞いて」


「な、なんだい?」


「私の時みたいにこの二人を特訓してあげてくれないかな?」


「!」

「おおっ! 私達も特訓ですね!」


 そう宣言されたユニファーニとルイスは驚く。


 するとヴェイクは、一度仕事の手を止めて、話を訊く姿勢を取った。


「彼女達にかい?」


「うん。ユニファーニちゃんは私と同じ水属性。ルイスちゃんに至っては光属性持ちなの」


「! そうか。なるほどな……」


 治癒魔法術師として、属性というものはかなり重要なことだ。


 全ての属性で治癒魔法、再生魔法は存在するが、特化しているのは、やはり水と光。


 特に光属性の場合は、水属性の比ではない。


 光属性に関しては特に精神型を求められるのは、このことからもされている。


 ルイスはやる気満々だが、ユニファーニの方は乗り気ではない。


「やらなきゃダメ?」


 シドニエとミルアがいないことをいいことに、する必要はないだろと発言する。


「ダメに決まってるじゃないですか!? ヘレンさんのお父様は治癒魔法術師として優秀であるですよ。その教えを頂けるのは有り難いことなのですよ」


「うーん。別にどっちでもいいんじゃない?」


「ヘレンさん!?」


「家から出る前にも言ったけど、そこは自由だよ。勧めておいてアレだけど……」


 だがユニファーニは、後ろめたさもあるようで、


「……シド達も一週間、観光する感じでもないし、まあ程々になら……」


 少し前向きに検討した。


「そうだね。無理をする必要はないし、強要されるものでもない。ましてや治癒魔法に関してはその限りではない」


「と言いますと?」


「治癒魔法や再生魔法は人を助ける技術であると同時に、命と向き合うものである。入り口の動機が不純であっても、やる気は必要だ」


 ちなみに私は幼かったこともあって、普通にお父さんに頼んだら教えてくれた。


 お母さんはあんなデレデレしたお父さんを見たことないと言ってたけど、さすがにどんな顔して教えてたのかまでは覚えてない。


「確かに野心的な考えで才能を開花させる方もいますからね」


 治癒魔法術師になりたいと思う人達は、人を助ける仕事をしたいか、職に困ることがなく、高収入を得られると考えるのがほとんど。


「まあその教育の過程で矯正すればいいだけだしね」


 みんながみんな、良くなるわけではないだろうけど……。


「ユニファーニちゃんはどうしてそんな後ろ向きなの?」


「いや、私が普通だよ。無難に生きたいっていうのは普通でしょ? それでいて、そこに刺激があればいいって思うのが普通じゃない?」


 どうやら彼女は、効率的な生き方を模索しているようだ。


 その中で、友人達の頑張る姿を応援したり、見ていたいという若干の距離をとりたい人のようだ。


 そう言われてみると、私達は少数派(マイノリティ)な人間なのだろう。


 するとヴェイクが少し微笑んで語る。


「そうだね。君の言う通りだ。誰もが平穏を求めるし、そんな人生を生きる中でちょっとした刺激も欲しくなる。それが普通だろうね」


 私もユニファーニちゃんの言わんとしていることはわかる。


 お父さんも始めは、私が役者になることを止めた。


 それは行く先の未来が見えなくなることから、確かな未来に――目に見える普通の幸せを掴んで欲しいからと願うからであると。


「未来が不安になる、自分を守らなければ、嫌なことは避けたい、どれも普通のことだろう。だけどね、努力を重ね、嫌な思いや辛い思いをすることは、自分の心を豊かにするために行うことなんだよ」


 勿論、他人からの理不尽に辛いことや嫌なことは除くと前置きを置いて話す。


「知ろうとすることを怖がるのもわかる。人は理解出来ないものに恐怖するようにできている。だが、その辛く、嫌な思いを知っておかないと、心は強くなれない。人に優しくなれない」


 治癒魔法術師として、色んな人を診てきたヴェイクだからこそわかる。


 怪我や病気で運ばれてくる人達。


 魔法で簡単に治癒できるものもあるが、その過程が恐怖になる人もいる。


 そんな嫌な思いを、辛い思いをしてきた人達と寄り添ったからこそ出てきた言葉であった。


「本当に優しくなるには、乗り越えなければいけない。どんな小さなことでもね」


「……」


 ユニファーニは正直、綺麗事とも思った。


 けど、その辛い思いをしていた人間を知っている。


 いくら才能が無くても、周りから無理だと言われても、諦めずにいた男を知っている。


 不格好で臆病で、よく緊張しては噛む男。


「……そうね。治癒魔法は、まあ職に困ることはなさそうだし、人より少しくらいできるようになってもいいかな?」


 少し恥ずかしそうにそう呟いたユニファーニに、堪らずヘレンは抱きついた。


「可愛いなぁ!! もう!」


「はあ!? いや、リーナさんじゃないんだから!?」


 あちらに置いてきたリーナにすべきことだろうと、赤面しながら抵抗する彼女の横で、


「さっすがお父さん。カッコイイ!」


「! んんっ! そんなことはないさ……」


 平静を装うヴェイクだが、内心は――、


(ああっ!? ヘレンがカッコイイって! 娘に尊敬されているぅ!!!!)


 娘大好きのヴェイクは、天にも昇る気持ちである。


「お母さんがさ、私に治癒魔法を教えてた時のお父さんは、デレデレのだらしない顔してたんだよって言ってたけど……」


「!!?」


「そんなこと想像もつかないよ」


「と、当然だろ。わ、私はそんな顔をしたりしないさ。は、ははは……」


(ミレンーーっ!!!!)


 背中に大量の冷や汗をかきながら、あくせく書類仕事を済ませていく。


「とりあえずお父さん。時間ができたら付き合ってあげて。勿論、私も協力するからさ」


「ヘレンさんはどれだけ治癒魔法ができるんです?」


「最上級までいけるよ!」


「「はあ!?」」


「治癒だけじゃないよ。再生魔法だって、私できるんだから!」


 二人はポカンとして、ヴェイクを訴えるように見る。


「……だから止めたんだよ、一度は。ヘレンは本当に優秀な魔法使いになれる素質があったからね」


「――ヘレンさんは今からでも戻るべきです!!」

「――ヘレンちゃんは今からでも戻るべきだって!!」


「え? やだ。私は役者として色んな役を演じて、表現して、楽しんでもらえる役者になるの! それは譲れない!」


 三人して残念そうな顔をしているが、私自身はそのあたりの才能はないと考えている。


 優秀な治癒魔法が使えるからと言って、それが正しく使いこなせるとは限らない。


 いざって時にその能力が遺憾なく発揮されるとは考えていない。


 テテュラさんの時に思った。


 可哀想だと哀れむことや同情すること、なんとか力になりたいとは考えるが、いざ治療する立場になり、寄り添うとなると、気持ちの持ち方が違うように感じる。


 私はそんな患者の側で支える勇気を持っていないと理解している。


 お父さんのように冷静な判断はできないだろうし、ルイスちゃんのように基本的に何事にも物怖じしない性格ではない。


 私は人を応援する立場の人間であると理解し、その努力を続けた。


 私がこの将来を進もうと決めた、あの舞台を観たあの時から――。


「才能がさ、必ずしも幸せになる道じゃないんだよ。私はさ、積み上げた努力で生きていきたい。だからさ、お父さん……」


 真剣な眼差しで語るヘレン。


「凄く心配かけてるよね? でも私、やっぱりこの道を歩いていたいから……」


 私は改めてお父さんにこの道を進みたいと、意思表明をすると、仕方ないなと笑みを零した。


「わかっているよ。頑張りなさい」


「う、うん!!」


 才能の見極めや努力の方向性、どれも把握し実行できる人なんて、先ずいない。


 だから私は自分が楽しみつつ、他人をも楽しませられる人間になりたい。


 そう胸に秘めながらも、今は彼女達の背中を押してあげようと考えたのだった。

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