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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
6.5章 地底都市アンバーガーデン 〜ヘレンと愉快な仲間達と極寒の地と地底の神秘
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17 精霊の歴史

 

「――し、失礼しま……した」


 資料と睨めっこをし続けて、身体の鈍っていたライラには、フィンとの追いかけっこはキツかったようで、息を切らしている。


「す、すみません。フィンでなくても他の精霊で良ければ協力しますよ」


「本当ですか!?」


「おい、アル。俺達を売る気か?」


「そんなんじゃないよ。この人もきっとルブルスさんと同じさ。研究対象に対して、ちゃんと敬意を持って接している」


 ライラの熱意と真剣見を持った瞳を信じることにした。


 勿論、あのフィンに詰め寄る姿は怖かったが、それだけ真剣に取り組んでいる様子を見せられれば、信用したくもなる。


「だからさ、少しくらいならいいでしょ?」


「……少しだけな」


 ライラは、パァと明るい表情を見せると、大きくお辞儀をした。


「ありがとうございますっ! 感激ですぅ〜!」


「ただ精霊の歴史についてお教えして欲しいのですが……」


「勿論! 構いませんよ」


 するとリーナはふと疑問に感じた。


「あら、勇者様? それなら直接彼らに訊けば良いのでは?」


「へ!」


 その意見には、不機嫌そうな態度を取るフィン。


「……彼らは話さないよ。自分達にとっては話したくない過去だろうからね」


「そうでしょうね。勇者様はどこまで?」


「軽く外面くらいのことしか……」


 アルビオもハイドラスと共に歴史についても勉学に励んでいたが、知っているのは人精(じんせい)戦争があったこと。


 それによって、疎遠になってしまったことくらい。


 人間側にもさほど情報がないのが実情で、ルブルスに言われたことが中々痛い。


 自分はこんなにも精霊に対して密接なのに、知らないことの方が多い。


 一般人ならそれでもいいだろうが、アルビオの場合は一生の付き合いだ、失礼だと言う言い分にも納得する。


「わかりました、それではお話しましょう。先ずは当時の時代背景の説明をする必要がありそうですね。その辺りはご存知ですか?」


 みんな小難しい顔をする。


「確か、六千年前の話ですよね?」


 そんな中、私はスッと手を上げて答えた。


「そうですよ。人精(じんせい)戦争があったのは、そのくらいだったと伝えられています」


「ほえー。よくご存知ですね、ヘレンさん」


「まあ歴史を題材にする演劇とかするのに、ちょっとかじった程度に知ってるだけだよ。……当時は今よりも魔物が凶暴で、今の人種関係が真逆だった時代だって……」


「そうね。獣人、エルフ、ドワーフ、今は滅びたホビットや竜人、魚人もいた時代かしら。もしかしたら、もっといたのかも……」


「真逆って?」


「今の時代は人間が大陸を支配していましたが、かの昔はその種達が大陸を納めていたのです」


「つまりは人間がひっそりと生活していた時代だったと?」


「はい」


 そんな歴史があったなどと、驚きを隠せない一同。


「その時代の人間は他の種よりも寿命も力もなく、強力な魔物に襲われたり、他種族の支配下に身を置いていた時代背景だったの……」


「でも人間はエルフ達からある技術を盗みあげることに成功するんだよ」


「技術……?」


「魔法だよ」


「!」


「ええ。そこからの人間は目覚ましい進化を遂げていくのです……」


 人間は貪欲で、残酷で、浅ましく、繁殖力があった影響もあって、エルフ達すら思い付かなかった魔法の数々を確立し、一国を為し得る頃には、他の種達もその当時の人間の侵攻を脅威に感じていたという。


 今まで、たった八十年から百年程度の命で、弱く、脆い生き物と考えていたこともあって、当時は対策も遅れたという。


 当時の人間側も舐められ続けた鬱憤(うっぷん)があったのだろう。


 その侵攻する姿は正に獣の如く、鬼気迫る迫力と怒涛の勢いがあったのだと伝え聞く。


 ライラはその当時の手記からもそう読み取ったと話す。


「――そして人間は手を出してはいけない存在をも敵に回してしまった……」


「それが精霊……」


「……」


 フィンは空中で胡座をかきながら、ゆっくりと回り、黙って聞いている。


「はい。それが人精(じんせい)戦争。人と精霊との戦争です。始まりは、やはり人間の欲が始まりでした。精霊の力が欲しい……その当時の独裁者は渇望しているように力を求めていたのでしょう」


「……俺達、精霊側は勿論断った」


「!」


 訊いちゃいられないと、フィンが話に割って入ってきた。


「フィン……」


「ふん! こんな胸糞悪い話、とっとと済ませるぞ」


 ――フィンも大精霊や精霊王から伝えられた話だと前置きを置いて話す。


 当時の人間側の独裁者は、他種族の殲滅を試みようと考える非情主義者だった。


 今まで下げざまれて生きてきたのだ。多少は目を(つぶ)るにせよ、やり過ぎではあった。


 だから精霊はそんな醜い人間の姿を見て、断ったのだが、


『何故だ……何故、我々には恩恵を賜らないっ! そんなにあの醜い人種共が愛おしいか!? 精霊共っ!』


 その独裁者も、耳が長かったり、筋力が異常にある他種族を化け物と呼び捨てていた。


 自分の常識に無い存在を恐れるのは当然のこと。


 精霊達もその人間の弱さは理解していたが、横暴に過ぎると、やはり断った……というより、そもそも当時は人間にも精霊の恩恵はあったのだ。


 ただ人間がそれを使いこなすための技術と知識がなかっただけで、等にこの世に生まれた時点であったのだ。


 だが、それを知らず人間種は暴挙に出る。


『そうか……ならば話は早い。他の醜き人種共のように搾取するまでぇっ!!』


 その当時の大精霊の一角はその独裁者により存在を奪われ、人間達の宣戦布告となった。


 その後は精霊達と人間の断末魔が世界を支配したと伝えられている。


 他種族達はここまでの暴挙に出る人間達を恐れ、身を守ることに徹し、人間達は精霊の住処を片っ端から奪い尽くした。


 精霊達の逆鱗に触れた人間達の被害もまた甚大なものだったが、人間の悪辣性が精霊達を追い詰める形となる。


 精霊達を人質に取ったり、住処を破壊したり、特に精霊達の逆鱗に触れたのは――生贄(サクリファイス)


 所謂(いわゆる)、魔力ではなく、生命自体をエネルギーに変える儀式魔法。


 そこで行われたのは、数千という小精霊と精霊を供物とした魔法での攻撃だった。


 だがそんな長きに渡る戦争を繰り返せども、人間が諦めることはなかった。


 精霊王は恐れたという。


 人間は儚くも脆く、その短き命を懸命に生きる気高き生き物と言えば聞こえはいい。


 だが逆に言えば、貪欲に醜く、どれだけの者達を踏み(にじ)ろうとも、目的を遂げようとするその生き様に、精霊王は恐れた。


 命の価値観に違いがあり過ぎたのだ。


 永遠の時を生きる精霊にとって、あまりにも短く限りある命を持つ人間の底知れぬ強さには、理解が難しく、精霊にとっては狂気に感じるところであった。


 どれだけの命が(こぼ)れようとも、その意志を継ぎ、向かってくる人間には、もう関わりたくないと考えた精霊王は――。


「人間との縁を完全に遮断したんだ……」


「……」


「本来であれば、我々人間にも霊脈が宿っていたのです」


「霊脈?」


「俺達の力を使える魔力回路のことだ。人間でそれを持ってるのは、今は亡き勇者ケースケ・タナカとアルだけだ」


「!」


 それを訊いたライラは、ワキワキとやらしい手つきでアルビオににじり寄る。


「れ、霊脈を持つ人間……貴重な……」


「ダメダメダメッ! ダメですよっ!」


 ルイスが庇うように盾となると、フィンが呆れた物言いで説得する。


「霊脈の調査がしたいなら、他種族から調べればいいだろ?」


「それはそうですが、この勇者様の霊脈は使われているのでしょう? 本当に貴重な存在なんですぅ〜!」


「その霊脈って、エルフとか他の種族は持ってるんだ……」


「持ってるだけ、だけどな」


「どういうこと?」


 そう私が尋ねると、やはり渋った表情で語る。


「人間との関わりを徹底的に切るために、霊脈を残している他種族からも退いたんだ」


「そのエルフ達から繋がらないように?」


「そう……」


 多分、他の他種族をも捕虜としていた当時の人間種が、その人達を使って接触できないようにしたのだろう。


 そこまで徹底するなんて……。


「そのせいで、本来、滅びる筈のなかった人種が環境を失い滅んだり、人間に絶滅させられたりと、当時の人間共は相当、狂気じみてたみたいだぜ」


 勿論、全ての人間がそうではなかっただろうけど、戦場で戦う戦士達は死に物狂いだったんだろうな。


「じゃあその人精(じんせい)戦争は精霊達が退いたことで終戦したってこと?」


「……まあな」


 フィン達はバザガジールにやられた後、精霊王の元へと行き、真実を訊いてきた内容がこんな感じだったと話す。


「精霊王は人間から霊脈を奪い、他種族との干渉から退き、本来精霊がやるべき魔力の循環の一部を魔物達が自然にできるようにしたんだ」


「そうだったの!?」


「俺達、精霊はこの世界を維持し守ることが務め。世界の存続のためには、先ず自分達を守ることを選択したんだ」


 情けない話だがと、落ち込んだ口調で話す。


「つまりは魔物達は強い人間達の負の感情や歪みから魔物を生み、その魔物に干渉することで世界の維持に繋げた」


「そして魔物なら人間は殺すから、精霊の干渉もわからない……」


「そう言うこった。世界維持のため、精霊も無闇に人間を殺せなくなったし、滅ぼすわけにもいかなかった」


 人間には魔物を生み出す元でもあったので、滅ぼすわけにもいかず、だからと言って干渉も一切しなくなった。


「だけど勇者様の存在で精霊様の考えも変わったのでは?」


「ああ。らしいな」


 人間とは絶縁したはずの精霊達。


 今の話を訊いていると、勇者ケースケ・タナカに干渉する傾向はないように思うが、


「その勇者のパートナーをしていた大精霊様方は、たまに訊くと楽しそうに昔話をしていたよ」


「精霊は人間を毛嫌いしていたのに、どうして?」


 当然の質問が返ってくる。


 するとフィン自身も不思議そうに小首を傾げながら話す。


「なんでも大精霊様や精霊王様からすれば、()()()()()()()()()()()何かを秘めているって言ってたな……」


「……? この世界に存在しない?」


「それだけの強さがあったって意味じゃないです? 実際、六属性全てを保有する人は、勇者と僕以外にいませんから……」


「俺もそう思うぜ。多属性を持つ傾向にある魔物ですら六属性持つ奴なんていないしな」


「じゃあ精霊王達はその可能性を見出して、人間にも関わらず協力したってことかな?」


「そうじゃないのか?」


 そんな話を不気味なくらい静かに訊いているライラの様子がおかしい。


「……」


「ライラさん?」


「精霊が認めた人間……霊脈……六属性……」


 どうやら研究者モードのスイッチがオンになったようで、ぶつぶつと先程の単語を口にし続けている。


「精霊様ぁ……」


「ダメだぞっ! おめぇみてぇな危ねぇ奴に、大精霊様に会わせられるかっ!」


 ライラの言いたいことを察しての返しであるが、


「じゃあ精霊王様で――」


「尚ダメに決まってんだろうがぁ!!」


 中々諦めの悪いと怒鳴りつける。


 だがここで探究心をくすぐられたのは、ライラだけではない。


「あのさ。アルビオ君と一緒にいることがほとんどなのに、精霊王とかとお話できるものなの?」


「さっきも説明したと思うが、精霊の住処ってのは世界中に転々としてんだよ。そこから意志の疎通が……」


 フィンは熱い視線をヒシヒシと浴びている。


 それを向けている人間に検討が付くが、念のためにちらっと細目でその方へ向くと、メモ片手にキラキラした視線を送るライラの姿が、やはりあった。


「これ以上はダメだ」


「ガン!? もっとお話してもいいんですよ? 精霊様?」


「まあフィン。居場所とかは問題かも知れないけど、教えても問題ないことくらいならさ」


「……」


 ライラはこの濁りない綺麗な瞳を見てと、訴えかける視線を送ると、アルビオの説得もあり、


「教えられることは少ないぞ。何が訊きたい」


「――やったあーっ!! あのですね……」


 ライラはガサガサと資料をまさぐるように探し回る。


「えっと精霊術については……」


「却下!」


「霊脈と魔脈の違いは……」


「却下!」


「ええっ!? それくらいなら……」


「あのな。そもそも霊脈の性質を人間に教える時点でダメなの! 人間が狡猾なのは理解してんだから……」


「そ、そんなぁ〜……」


 霊脈の原理がわかれば、精霊との繋がりを無理やり繋ぎ止められる可能性があると、警戒してのことだろう。


 霊脈を奪ったというなら、精霊の性質的な部分を基本的には人間は感知できない。


 そういう意味では、フィン達が顕現(けんげん)したり、魔法を使う分には問題ないわけだ。


 ちなみにフィン達は普段は人間と同じ魔力を起用している。


「さっきの戦争の話を考えれば、話せないことの方が多いのはわかるけど……」


「そういえば精霊ってどんだけ種類がいるのよ」


 そのリーナの質問に対し、それは知っているからとライラから説明される。


「小精霊、精霊、大精霊、精霊王と位が上がっていくの。小精霊はこの大気中に無数に存在すると言われているの」


「へえー……」


 それを訊いて一同はキョロキョロするが、フィンが鼻で笑う。


「霊脈が無いお前らに、小精霊は感知できねぇよ」


「じゃあ今、お前を見れるのは……」


「指差すな! 俺が見ることを許可してるからだ」


 ラチェットの指を払い除けて、そう語った。


「じゃあアルビオさんは小精霊を見られるんですか?」


「集中した時だけかな? 正直、意識して見たことなかったから。もしかして回りに飛んでた光が小精霊だったり?」


「ああ、そうだ。アルは霊脈があるからな」


 ずっと魔力の光だと思っていたものが、実は小精霊だったことに驚いている。


「というか精霊さん! 何故アルビオさんに霊脈があることを教えなかったんです?」


 今までの会話を初めて聞くような態度から、悟ったルイスはちょっと怒ってフィンに尋ねる。


「……霊脈の原理を教えることは、例えアルでも教えられない。あの賢い殿下がいるし、アルの記憶を探られることだってあるだろ?」


「信用してないんですか!?」


「ルイスやめて」


「アルビオさん……」


 ルイスの肩を押さえ、ふるふると首を横に振った。


「フィンの言う通りだよ。それだけ過酷な戦争だったって、さっき話したところでしょ?」


「そ、そうですが……」


「もう一つ理由を語るなら、ケースケ・タナカは感覚で霊脈を感じ、大精霊様と共に戦った。俺達はアルにもその潜在能力があることを信じたい」


「!」


 勇者の強さもそうだが、フィン達が自分のことを高く評価していることを認識する。


「お前は勇者の才能を受け継いだ。俺達もまた、お前から感じるものがあるから、こうして一緒にいる」


「具体的には?」


「それはわからねぇ」


「ええー……」


 ルイスは呆れたようにフィンに文句を言うが、アルビオは具体的なことなんて、わからないんだと悟った。


 大精霊達だって勇者から感じ取ったのは、あくまで直感的なものだろう。


 自分自身も六属性や精神型でも肉体型でもない体質だったりするものではないと考える。


 そう考えると、


「あれ? だったら大精霊達が勇者に感じたものは違うのかな? フィンも別に僕が多属性持ちだからってわけじゃないでしょ?」


「……まあな。なんだろうな〜、こう、居心地が良いって感じなのかな?」


 フィンは頭を悩ませながら、ふわぁっとしたイメージだけ伝えてきた。


「何ですかそれ!? はっきりしませんね」


「仕方ねえだろ!? 俺達だってわっかんねぇんだから……」


「まあまあ……」


 ルイスとフィンを止めるアルビオ。


 私は、これもふわぁとしたイメージだが、そのニュアンスを代弁する。


「もしかしたらさ、勇者みたいに大きな運命を動かす立場になるっていう直感じゃない?」


「……」


 それには確信ではないが、バザガジールやテテュラさんの件を考えれば、出てくる話ではあった。


 アルビオ君も特に否定することはなかった。


 自分自身でも思うところはあるのだろう。


 実際、アルビオはそういった理由から暗殺者に狙われたこともあったし、クルシア達、道化の王冠(クラウン・クラウン)と衝突し、大きな問題とも関わってきた。


 精霊達はアルビオと協力し合い、大きなことを成し得るためのものを感じたのではないだろうか。


 それに名前をつけるなら――勇者の資質だろうか。


「あの……」


 話の腰を折るようで悪いのですがと前置きを置き、


「小精霊から精霊に。精霊から大精霊になる条件とかあるんです?」


 勇者との関連も気になるたまころではあるが、先ずはそこを知りたいライラ。


「あぁ? 知らねえよ。気付いたら、精霊だったし……」


「そうなの?」


「おう。ただちゃんと小精霊だったなって感覚もちゃんとある。な?」


 フィンは顕現(けんげん)していない精霊達に同意を求めると、一同は頷いた。


「だけど大精霊になる条件くらいは……」


「まあそれこそ、魔力の循環の貢献や小精霊達の指揮とかまあ……色々だよ」


 大まかにしかわからないようで、中々わかりづらい。


「精霊って結構適当ですね」


 ズバッと鋭いツッコミを加えるルイス。


「お前達みたいに理屈的じゃねえんだよ。俺達だってこうしなくちゃならないみたいな使命感があるんだ……」


「使命感?」


「ああ。こう、たまにやるべきことが浮かぶつーか、なんつーか……」


「それはおそらく長命種にもある現象ですね」


「えっ?」


 フィンの曖昧な返答に覚えのあるライラは、こう推察する。


「長命種は長い寿命から、二百年以上の人種は世を悟るようになり、願望とか希望ってものが無くなるんだそうです。ですからどこからか、あなたはこうして生きなさいみたいな啓示(けいじ)みたいなものが頭の上から降ってくるそうです。精霊は神の使いみたいな立場ですし、もしかしたらそれは神託なのかも知れませんね」


「神託ねぇ……」


 長い寿命のない自分達には理解が難しい領域なのだと、素直に感じた。


 人間だから長い寿命があれば、あれをやりたいこれをやりたいになど願望まみれになるが、長命文化のある種族は、長い時間があるが故にいつでもやれると考えるのだろう。


 出産率が人間とは違い過ぎたり、信仰心が強かったりするのは、そのことが背景にあるのだろう。


「あの、お役に立てましたか?」


 訊いてばかりで申し訳ないと尋ねると、ライラはブンブンと手を振る。


「いやいやいやいや! お役になんてものじゃありません! 精霊とお話できたんです! 最高でしたぁ〜」


「追いかけっこまでしましたしね」


 それは言うなと、フィンは呆れた表情を浮かべる。


「勇者様。貴方が精霊達と共に生きていくのなら、きっとこれから過酷な運命に立ち向かうことになると考えます」


 フィンの感覚的かつ神託のようなものを信じるなら、そうなるだろうと、ここまでの話を訊いた誰もが思った。


「霊脈を感じ取り、精霊との調和性を作れればきっと、勇者ケースケ・タナカ様のような活躍もされることでしょう。私から言えることはここまでてすかねぇ〜」


「ありがとうございます。ライラさん」


「いえ、お礼なんて。たまに来て頂いて、精霊様とお話させて頂ければ……」


「――断る!」


 真面目な話もそうそうに、自分の研究を進める手伝いを頼むと、フィンに強く断られた。


 フィンはポンっと姿を消す。


「すみません。フィンは嫌がってましたけど、機会があればまた立ち寄りますので……」


「そう言って頂けると助かりますぅ〜」


 こうして私達はライラさんの研究室を後にした。


 その道中、私達が次はどこへ向かおうか、相談している傍らでジェーン達が会話を別にしていた。


「なあ、ラチェット。さっきの話、どう思った?」


「どうって、そりゃあ凄いなって……」


「俺も凄いって思った。外の世界には、まだまだこんな奴らがいるのかと思うと……」


 知識にあるのと、目の前にいるのとでは話が変わってくる。


 勇者の末裔、精霊の力……ジェーンもまた外に憧れを持つ。


「今ならヘレンの気持ちもわかるな」


「ヘレンの気持ちを? お前が? そんな馬鹿な……」


「そ、外に憧れる気持ちの方だ!」


 するとジェーンはアルビオに頼み事をする。


「勇者!」


「あの……その呼び方で止めないで」


 末裔か子孫をつけろと考えたが、もう早々に諦めた。


「俺と戦って欲しい……」


「!! どうしたの、ジェーン?」


「お前の気持ちが少しはわかったってことさ」


 私はよくわからないと首を傾げるが、話は進んでいく。


「精霊の力がどれだけのものなのか、通用するのか、試したい。そしてどれだけ通用するものなのか試したい」


 クールなジェーンの瞳からは、静かな熱意を感じとれる。


 それを読み取ったのは、アルビオだけではなかった。


「俺も混ぜてくれ」


「ラチェット!?」


「そっちは精霊を使うんだ、二対一でも構わないか?」


 ラチェットもやる気満々な様子で、両手で拳をぶつけ合っている。


「……わかりました。ですが、ここでやるわけにも……」


「ならスクールの闘技広場でどうだ? そこなら存分に戦える」


「いいんですか? アルビオさん?」


 ルイスがヒョイっと尋ねると、うん、と答えた。


 さっきの精霊のお話を参考にやりたいこともあるようで、私にとっては懐かしのスクールへと足を運んだ。

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