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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
6.5章 地底都市アンバーガーデン 〜ヘレンと愉快な仲間達と極寒の地と地底の神秘
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16 再会、再び

 

「ん。んん……」


 もそっと布団から起き上がると、何かに抱きつかれている感覚があった。


 ふとその場に目をやると、スヤスヤと眠っているルイスの姿があった。


 そして寝ぼけて(かす)んだ目で辺りを見ると、見覚えのある部屋。


「あ、そっか。帰って来てたんだっけ?」


 とりあえずルイスを起こさないように、そろっとベッドから降りて、軽く着替えを済ませると、部屋を後にする。


「おはよう」


「あ、おはよう、ヘレン」


「ヘレン、おはよう」


 ヴェイクは椅子に腰掛けくつろぎながら、ミレンは朝食の準備を進めながらお出迎え。


「おはようございます。ヘレンさん」


「お、おはよう、ヘレンさん」


 アルビオとシドニエも起きていた。


「おはよう、二人とも。早いね」


「いやぁ……ちょっと落ち着かなくてね」


「う、うん。女の子の家に外泊はちょっと……」


 二人はもじもじと照れ臭そうに話す。


「これからしばらくはいるんだから、慣れてってね」


「ヘレン、一週間はいるのか?」


「うん。その予定だよね?」


「は、はい。もう少し詳しく訊いてくる必要はあるでしょうが……」


 テテュラの件にある程度、調べ終われる期限ではなかろうか。


「そっか……」


 ヴェイクは何やら落ち着かない様子でソワソワしている。


 私はそんな見たことのない父を見て、疑問に思っていると、ふとあることに気付く。


「あれ? お父さん、そろそろお仕事行かなくていいの?」


 ヴェイクはギシッと身体が固まると、ミレンはクスッと可笑しくなり、笑った。


「ミ、ミレン!」


「ごめんなさい。でも、可愛くてつい……」


「可愛い?」


「ああー、ヘレン。ほら、他の子達も起こして来なさい。朝食が冷めても良くないからな」


「お父さん? 何か隠してない?」


 私がお父さんに詰め寄るように尋ねると、お母さんが楽しそうに話す。


「貴女がいて、嬉しいから落ち着かないのよ。少しでも一緒にいたいからって――」


「ミ、ミレン!」


 すっかりお母さんのおもちゃにされているお父さんを見て、私は嬉しくなった。


「そっか。お父さんにもそんな可愛いところがあったんだね」


「ヘ、ヘレンまで。父さんを揶揄(からか)うんじゃない」


「そうよ。本当はお父さん、貴女のことが可愛くて可愛くて……」


「ミレン! ミレンが彼女達を起こして来てくれ!」


「はいはい」


 パタパタとお母さんは、二階へと上がっていった。


 そんな間も私はニコニコとお父さんを見る。


「ヘレン、あのな――」


 必死に余裕のない自分の言い訳をする父を見て、嬉しかった。


 私が旅立つ前までのお父さんは優しく穏やかで、落ち着いた振る舞いをする尊敬できる父。


 治癒魔法術師としても優秀で、部下にも慕われ、それを鼻にかけない余裕のある父。


 でもこうして私が帰ってきたことを喜んでくれていると、お父さんには申し訳ないけど、イジられているのに嬉しくなってしまった。


「――わ、わかったか? ヘレン」


「うん、わかったよ。お父さん、寂しかったんだね」


「ち、違っ……聞いていたのか? ヘレン?」


「フフフ……」


 そんな光景をアルビオは、少し寂しそうな表情で見ていた。


「タナカさん?」


「えっ? なに?」


「どうしました?」


「あ……いえ。僕のところはこんな和やかな雰囲気ではなかったので……」


 アルビオは勇者の家系。


 しかも今まで、その才覚を見出された者がおらず、期待していなかったところにアルビオが開花したのだ。


 普通の家庭では居られなかった。


「ああ……えっと……」


 人の家庭事情に首を突っ込むべきではないと思う反面、落ち込んだ様子に何か声をかけるべきか、あわあわしていると、


「あっ! ご、ごめんね。変なこと言って……」


「そ、そんなことありません。お話を訊くくらいしかできませんが、リリアさんならきっと……」


「……ありがとうございます」


 ドタバタと二階から降りてくる音が聴こえてきた。


「皆さん! おはよーございます!」


「あんたは寝起きからうるさいなぁ。はわあ……」


「珍しいね。シド君が早起きなんて……」


「えっ!? あ、いや……」


 ――みんなが起きてきたところで、朝食を取りながら、今日からの行動スケジュールを発表する。


「とりあえずもう一度、魔法学棟へ向かって進捗状況を確認してから、色んなところに顔を出してみよう」


「出してみようって、大丈夫なの? 部外者の立ち入り禁止区域とかあるんじゃない?」


 するとヴェイクが割って入る。


「第七区は確かに部外者の行ってはいけない場所もあるが、基本的には学びたいものは拒まずだ。知りたいことや学びたいことがあるなら、積極的に顔を出してみるといい。ただし、迷惑をかけないようにな」


「はい。ありがとうございます」


「お父さんのところにも顔を出すと思うけど、よろしくね」


「! そ、そうか……」


 ヴェイクは、急に背筋を伸ばし、(えり)を整えた。


「フフ、そんな張りきらなくても大丈夫だよ」


「べ、別にそんなことはない。そろそろ行こうと思っていたところだ。……行ってくる」


「いってらっしゃい」


 少々足速にこの場を後にしたヴェイクを、微笑して見送った。


「ヘレンさんのお父さんって確か治癒魔法術師?」


「そうだよ。術式の開発とかが専門だから、テテュラさんの力になれるかは別だけど。でも、ルイスちゃんやユニファーニちゃんなら、必要な知識でしょ?」


「「あーあ」」


 二人は治癒魔法を習得できる属性持ち。


 しかもルイスに至っては、最上位の治癒魔法の習得も可能。


 学べることは沢山あるだろう。


「じゃあ私やシド君は地属性の魔法の勉強会を探しつつ、精神型でも戦えるような技術者を探す」


「そうだね。そのあたりはアルビオ君も一緒でいいんじゃないかな?」


「そうですね」


「――ええーーっ!? 私もアルビオさんと一緒がいいですぅ!」


 またわがままを言うルイスは、駄々をこねる。


「とりあえず第七区までは一緒だし、どうなるかわからないんだから、後で駄々こねな」


 ユニファーニの訳のわからない提案にピタリと駄々っ子を止めた。


「わかりました。そうします」


「そうしないで……」


「じゃあヘレン? 夜まで帰ってこないのかしら?」


「うん、多分」


「相変わらず落ち着きのない子ね」


「そう?」


「ふふ……そうよ」


 困っているようなことを口にしながらも、嬉しそうに微笑む。


 元気な我が子を見て安心した様子を見せている。


「それでは食事も終えましたし、早速参りましょうか!」


「あんたが仕切るな!」


「あっ、ヘレンさんのお母さん、美味しかったです」


「ふふ、ありがとう。ホント、賑やかね」


 朝食を終え、軽く身支度を済ませると話しながら外へと出る。


 すると、そこにはニナと金髪ツインテールの娘、茶髪の活発的な表情の男性がいた。


「おはよう、ヘレン!」


「おはよう! リーナにラチェット! 久しぶり!」


 私は久しぶりの友人の再会に思わず、足が弾んだ。


「久しぶりじゃないわよ! 大見得きって出て行った割には、すぐ帰ってきたじゃない!」


「ごめんごめん。本当はこんな早く帰ってくるつもりじゃなかったの」


「あー……ヘレン、気にしなくていいよ。こんなこと言ってるけどヘレンの舞台、観に行ったらしいよ。確か……黒炎の魔術師がどうこうって――」


「バッ、バカニナッ!! 余計なこと言わなくていいのよ!?」


 リーナは相変わらず素直じゃないみたい。


「もうー。言ってくれれば、舞台裏で話くらいできたのに……」


「う……煩い!!」


「ラチェットも久しぶり。元気してた?」


「よ、よう! 帰って来てるってニナに聞いてさ。顔見とこうと思ってよ」


 気恥ずかしそうに目を泳がせながら、頬をかいて再会の挨拶。


 私はその後ろに隠れている彼にも声をかける。


「ジェーンも久しぶり。元気してた?」


「……あ、ああ」


 観念するように、木の影から姿を見せた。


 相変わらず口数が少なく、クール気取りの彼ですが、そこが中々可愛いです。


「あんたも素直じゃないわね。さっさと出てくればいいものの……」


「フン。いちいちはしゃぐことじゃない。里帰りなんて珍しい話でもないだろう」


「とか言いながらジェーン。お前だってちゃっかり付いてきてるじゃないか」


「フン。顔くらい見てやろうと思っただけだ」


 そんな懐かしむ会話を続けていると、アルビオ達も近寄る。


「この方々はヘレンさんのお友達ですか?」


「あっ、うん。紹介するよ」


 一人ずつ、紹介する手仕草を取る。


「この()はリーナで、こっちはラチェット」


「おう!」


「……で、彼がジェーン。みんなスクールの時の同級生」


 リーナは紹介に預かり、少し小首を傾げて金髪のツインテールを揺らし、ラチェットは元気よく返事を。


 ジェーンは壁に背をついて、視線を合わせないように気取ってみせた。


「で? コイツらは誰?」


「今紹介するから待ってよ」


 こちらも手仕草を取り、紹介に預かる。


「ルイスちゃん、ミルアちゃん、ユニファーニちゃん……」


「ユファでいいって……」


「シドニエ君にアルビオ君だよ」


 紹介に預かった皆はぺこりとお辞儀した。


 するとキリッとつり上がった視線をヘレンに送ると、リーナは尋ねる。


「この人達、劇団の見習い? 観に行ったけど、この人達は観てないわ」


「あ、そうそう! 私のお芝居どうだった?」


「……あのね。私の質問に答えなさいよ」


「良かったってさ! いつもの素直じゃないリーナの言い回しでね」


「あーあ……」


 リーナは変な意地を張る恥ずかしがり屋な性格だからと私は納得すると、恥ずかしそうに頬を赤らめる。


「――なっ、納得してんじゃないわよ! ていうか、ニナ! あんたは余計なこと言うな!」


「あー……はいはい」


「可愛い可愛い」


 私とニナはリーナを挟んでハグし、頭をなでなで。


 恥ずかしそうに赤面する彼女は、うがぁーっと突き放す。


「――あんた達は相変わらず変わってないわね!! 人を茶化すのも大概にしなさい!!」


「ええ〜っ! だってねぇ?」


「リーナがそんな可愛い反応するのが、いけないんだと思うけど?」


「――なんで私が悪いみたいになってんのよ! ていうか、あんたの方がモテるじゃない!」


「まあね!」


「――その思いっきりのいい性格、時々ムカつくのよ、アンタ!!」


 まあ私はリリアと違って、ちゃんと自覚はあるし。


「あ、あの……」


 リーナの質問に答えようと、アルビオがそろっと声を忍ばせる。


「僕達の用事での案内のため、今劇団とは離れて行動してもらってます」


「用事ってなんだよ?」


「あっ、それはちょっと……」


「他人事に首を突っ込むな」


 ジェーンがラチェットの袖をぐいっと引っ張って止めたが、ラチェットは物申す。


「いや、ヘレンが関わってんだぜ? 友達である俺達だって知ったって問題ないだろ? な?」


「どんな理屈だ……」


 友人関係であろうと線引きは必要だと構えるジェーンに対し、中々馴れ馴れしく話に入ろうとするラチェット。


 それをわかっている私は、


「彼は勇者の子孫でね。精霊研究を行なっている場所を案内してあげようとしたの。他の人達は観光についてきたの。ね?」


「あ、うん! そうそう」


 アルビオ君をフォローした。


 事情をどうしても知る状況になってしまったニナはともかく、リーナ達には隠し通す必要はあるだろう。


 バザガジールとアルビオの戦闘を見た時点で、簡単に関係者を増やしていいわけはない。


 そう紹介された三人はポカンとした表情を並べると、リーナが指差して尋ねる。


「この冴えない顔のこの人が?」


「冴えないとはなんですか!?」


「いや、事実だからいいよ……」


「バカが。よく見ろリーナ」


「は?」


 ジェーンはくいっと首を動かしてアルビオを指す。


 意図が理解できず、大きく首を傾げていると、ため息をつかれた。


「……そいつの容姿をよく見ろ」


「ちゃんと言わなきゃわっかんないわよ!」


「顔立ちや身体付きを見れば人間だってわかるだろ?」


「まあ……」


 ドワーフのようにずんぐりしておらず、エルフのように細っそりと耳長でもない。かといって獣人のような耳や尻尾もなければ、毛むくじゃらじゃないのは一目瞭然だ。


「だからなんだってのよ」


「はあー……、奴の瞳と髪色が黒だ」


「?」


「あっ!」


 ラチェットの方が先に気付いた。


「獣人で黒髪は珍しくないが、人間は確か勇者だけ!」


「そうだ」


「! え、ええっ! そうね! 気付いてたわよ!」


 先にラチェットに気付かれたのが恥ずかしいのか、気付いていた発言をするが、私とニナはニヤニヤとしている。


「何よ!? あんた達!! 言いたいことがあるなら聞くわよ!」


「「可愛いなぁ〜って!」」


「うるさぁい!!」


 このどこか抜けてるところがまた可愛いところ。茶化しがいがあります。


「で、でもそれだけじゃ、勇者だなんて……」


「これなら信用できるか?」


 ヒューっという風と共に姿を見せたフィンは、ラチェットの鼻先でハンと笑う。


「フィン。わざわざ出てこなくても……」


「いいじゃねえか。精霊は何よりの証明だろ?」


「……小さな小人が喋ってる!?」


「おう!」


「ヘレンもニナも人が悪いわね。ちゃんと紹介しなさいよ!」


 そう言うと、手のひらを返したように、


「さっきは失礼しました。勇者の子孫様とはつゆ知らず……よく見たら優しくて器量の深そうな方だわ!」


 媚びを売るような態度へと変わった。


 さっき冴えないとか言ってたのに。


 勿論、この態度に納得のいかないルイスは、身を寄せたリーナを振り払い、自分にたぐり寄せる。


「都合が良くなったら手のひら返しですか? 向こうの学園の小汚い貴族嬢と同じですね」


「何よ、あんた」


「先程、紹介されたでしょ? ルイスと言います。アルビオさんの将来の伴侶です!」


「ええっ!? マジッ!?」


 ラチェットのみがすごく驚き、尋ねるように振り向くが、揃って首を横に振った。


 するとその反応を見たリーナがクスッと笑みを(こぼ)す。


不憫(ふびん)だわ」


不憫(ふびん)!? 今そう言いましたか!?」


「言ったわよ! 勇者様の伴侶があんたみたいなガキなわけないでしょ?」


「ま、まだまだこれからですよ」


「周りを良く見てからもう一度言ってみたら?」


 ルイスの周りの女の子達は、女性らしい身体付きになってきているが、


「女は身体じゃありません。心ですよ」


「張り合ってるところを見るに、器も小さそうだけど……」


「その理屈を言えば、初対面に対し、ムキになって反論する貴女も器量の小さな女の子になりますがねぇ」


「なんですってぇ……」


 間に挟まれてたじろぐアルビオは、止めようもなく狼狽(うろた)えている。


 なので助け舟を出そう。


「えい」


「――ひゃあいっ!? な、何すんのよ!? このバカヘレン!?」


 両脇腹を突いて、意識をこちらに向ける。


「まあまあ仲良くしよ? アルビオ君だって選ぶ権利はあるよ。それにルイスちゃんが眼中にないのは、みんなわかってることだから……」


「ガーン! 酷すぎませんか?」


「ルイスちゃん。諦めることも勇気だよ!」


「そんな勇気はいりません!」


 ルイスちゃんに対するアルビオ君の態度を見れば、脈がないのは明白。


 じゃなきゃ子供を諭すように、呼び捨てで呼んだりしない。


 アルビオ君自身も昔は人間不信で、周りは大人だらけで、同じ歳の人達との接し方にズレがあるようだから、そうなったんだろうけど……。


「まあ当人だって、気になる()くらいいるよ。男の子だし♩」


「――ヘレンさん!?」


「私は向こうでの演劇の際に調査してたこと、忘れてないよね?」


「うっ!?」


 ハーメルトでの演劇をするに当たって、キャンティアと共にリリアちゃんとアルビオ君のことは調べていたのだ。


 多少の人間関係なら、他人よりも知っている。


 勿論、気になっている女の子も。


「ぼ、僕の話はいいです! そ、それより……」


 恥ずかしくなったのか、話題を逸らすようにブンブンと手を振った。


 そんな煮え切らない態度を取っていることも問題でしょうに。


「こ、これから第七区へ向かうんですよね?」


「まあそうだねー」


 助け舟を出した手前、突き落とすわけにもいかなかったヘレンは、アルビオの話に乗っかる。


「第七区? せっかく帰ってきたのに、そんなつまんないところに行くの?」


「そうだぜ、ヘレン。お前の好きそうな店とかできたんだぜ」


「おい、ラチェット。見つけたのは、俺だ」


 今度はこっちが揉めあいになったので、相変わらずだなとニコッと笑顔で、


「二人ともにありがとうだよ。どっちがとか気にしないから……」


「そ、そうだよな。悪い」


「…………」


 ラチェットとジェーンの態度を見て、センサーが働いたユニファーニは、呆れた表情をしているリーナと懐かしむような表情のニナに尋ねる。


「あの二人さ、ヘレンちゃんに気があるよね?」


「見てわかるでしょ? もっと居れば尚浮き出てくるわよ」


「というか、ヘレンはスクールでは彼女にしたい女の子、ぶっちぎりだったからね」


「あー……」


 それはなんとなくわかる一同。


 行動的で明るい性格に、演劇をやっているせいもあってか、所作などもとても綺麗だ。


 加えて夢を追いかけて頑張っている姿やこうしてリリアのお願いを訊いて、背中を押してあげている姿勢など、魅力的なところを上げればキリがない。


「あの性格に容姿だもん。そりゃモテるよ」


「うちにも似たのがいるなぁ」


「もしかしなくても、リリアさんのことですか?」


「まあね」


 何故かシドニエは恥ずかしくなっていた。


 ヘレンに気付かなかったのは姿だけではなく、性格まで似たような感じだったからと気付く。


 勿論、違いはあるものの、根本が同じだったことに気付かなかった。


「でも勇者様? 何故、第七区に?」


「先程のヘレンさんの話を訊いていなかったのですか? 我々は精霊研究を行なっている場所へ向かうと言ったのです!」


「チビ助は付き添いでしょうが……」


「チビ助ですってぇ……」


 これはキリがなさそうだと、ニナが仲裁する。


「とにかく精霊を研究してる研究棟に行くんでしょ? ほら、向かうよ」


「ニナも一緒に?」


「うん。とりあえずはヘレンが帰るまでね。私の仕事は急ぐもんじゃないし……」


 こうして団体で研究棟へ向かうのだった。


 ***


「ここが精霊を研究してるところか……」


 私達はアライスさんと合流し、当分かかると説明を受けた後、助手さんに歴史学棟の精霊研究をしている部屋へと到着したところ。


「それにしたって研究者ってのは難儀な生き物だねぇ。私達が来たのに、見向きもしなかったよ」


 部屋に入ったのは、関係者である私達だけだったが、空気は相変わらずの研究者モードとでも名付けようか。


 難しい言葉が宙を舞い続け、それを右から左へと訊いている護衛のアライスを含めた騎士達は、頭から煙が出ているような様子。


 騎士達は休憩を交代でとっているとは言っていたが、中々辛そうだった。


 だが一番大変そうだったのは、その中心を陣取るテテュラさん。


 本来、疲れなどないはずの彼女ですら、げんなりと精魂抜かれた表情をしていた。


「あの騎士様って勇者様の護衛なの?」


「えっと、勇者じゃなくて、子孫とか末裔がつくからね」


「そうだよ。あっちはしばらくかかるみたいだから、こっちの要件を済ませよ」


 というわけで、精霊の歴史研究を行なっている部屋の扉をノックする。


「すみませーん。どなたか居ませんか?」


「はいはーい。いますよぉ〜」


 おっとりとした気の抜けた声と共に、扉が開いた。


「初めまして。こちらで精霊について調べている研究室でしょうか?」


「わあっ! 嬉しいわぁ〜! 精霊について興味を持ってくれるなんて、ライラ感激。ささっ、こちらへどうぞぉ〜」


「へ? あ、はい……」


 両手を握って嬉しそうに振り回され、流されるままに入室してしまった。


 その部屋の中は、完全に私物化状態の部屋になっていた。


 辺りは資料まみれで、ライラと言った彼女の衣服まで散乱していた。


 サルドリアの研究室も大概だったが、ここもとてもじゃないが学び場として人を迎える場所には見えなかった。


「ああ、その辺気をつけてね。貴重な資料なの」


「だったら少しは整理しなよ」


「まったくだわ!」


 ユニファーニとリーナは文句を垂れ流しながら、資料を避けていく。


 招かれた一同がなんとか落ち着いた定位置を確立すると、いつも腰掛けている椅子に座ると、自己紹介してきた。


「名乗ってなかったわね。初めまして。ライラ・シスベルと言います。ここで精霊についての研究をしている者ですぅ〜」


「ど、どうも……」


 私達も自己紹介を済ませると、早速本題へ――。


「ここでは精霊の詳しいことをお伺いできると聞いたのですが……」


「そうね。ご期待に添えたいところだけど中々ね……」


 そう残念そうに首を横に振った。


「これだけ資料があるのに、わからないことがあるのですか?」


 アルビオのこの質問にため息を添えて答えた。


「これだけの資料があるからなのぉ〜」


「え?」


「実はね――」


 彼女が言うには、この研究に所属しているのがほとんど幽霊研究員だそうだ。


 元々は精霊についての研究は期待値も高かった。


 人精(じんせい)戦争のことから、精霊とは疎遠になってしまったことも影響して、精霊との仲違いを解消するため、更なる発展のために期待されていた。


 だが姿も痕跡もほとんど残さない精霊を調べ、成果を出すなど、極めて困難な道のり。


 しかも曖昧な情報のみが大量に提供される始末。


 最初こそ熱意を持って調べていた他の研究員達も、席だけを残して、他の研究に没頭し、成果を上げることにしたようだ。


 一人取り残された彼女だけは、精霊についての飽くなき探求心を持って調べているそうだ。


「――そんな時に貴女達が来てくれたのよぉ〜。例え、話を訊きに来てくれただけでも歓迎よ」


「ご苦労なされてるんですね」


「でもこの国でも勇者の伝承は……」


「この国での勇者の活躍はほとんど技術面に特化していたから、精霊についてはあんまりなのよ。だからと言って、ここをほっぽり出して、東大陸の勇者の子孫に会いに行くわけにもいかないし……」


 私とアルビオ君は思わず、顔を見合わせた。


「あ、あの……勇者様の特徴はご存知ですよね?」


「あらぁ? 当たり前でしょ? 人間では先ずない黒髪の黒い瞳、顔立ちはこの辺りの人達とは違うような……」


 ライラは何やらデジャヴを感じたのか、そう発言しながら、目の前で眉をへの字にしているアルビオを見る。


「えっとぉ……黒髪、黒い瞳、人間……へ?」


「えっと、はい」


「も、もしかして……勇者様?」


「えっと、末裔がつきますが……」


「――ええええーーっ!!!!」


 どこか抜けている彼女はようやく気付いたのか、酷く驚いてみせると、感激のあまりアルビオの手を握る。


「こんなところでお会いできるなんてぇ! お初にお目にかけますぅ! わたくしライラと申します!」


 興奮のあまり、さっきの口調から激変。


 物凄く敬意を表すように下手(したて)に出る。


「えっと、自己紹介は先程聞きましたが……」


「あっ!? そうでしたね、ごめんなさい」


 興奮した熱を冷ますように、手で扇いでいる。


「そ、それで勇者様のご用件とは?」


 末裔が付きますがのツッコミをしても直らなさそうな雰囲気だったので、このまま通すことに。


「精霊の歴史について学びたいのです。そうすることによって精霊達との繋がりや強くなれるヒントがありそうで……」


「や、やはり精霊様を……?」


 人の話を訊いていたのだろうか、精霊との繋がりと言ったところに酷く反応した。


「これでいいのか?」


「フィン!」


 話が進まないだろと、フィンが気を遣って姿を見せると、わなわなと震え上がるライラ。


 そして――、


「きゃあああっ!! 精霊よぉーっ!! きゃあっ!?」


「馬鹿だな。普通の人間が触れるわけねぇだろ?」


 興奮のあまり抱き着こうとしたら、フィンは触れられる瞬間、半透明になって(かわ)した。


 だが目の前に本物の精霊がいるのだ、簡単には引き下がれないライラは、さっきまでのおっとりした雰囲気は完全に消え失せていた。


「お願いですぅ〜、精霊様ぁ〜。じっくり……調べさせてぇーっ!!」


「ちょっ、怖えぞ、お前っ!」


 ライラは床の資料などお構いなく、フィンを追いかけ回す。


 一同は、足で蹴り上げて待っている資料を眺めながら、思った。


(研究者ってどこまで行っても、研究者なんだなぁ……)


 サルドリアもロクな挨拶もなく、没頭していたのだ。


 彼女(ライラ)の反応にも納得するところであった。

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